2018/06/22 気候変動対策、グローバル機関投資家の高評価を受けた日本企業は?(会員限定)

欧州でも有数の規模を誇る英国の大手保険グループ Legal & General Groupの一員であるグローバル機関投資家Legal & General Investment Management(以下、LGIM)は今月(2018年6月)11日、日本郵政、スバルを含む8つの企業の取締役議長再任へ反対票を投じるとともに、LGIMのFuture World Fundsの投資対象から除外すると発表している。日本郵政は6月20日に定時株主総会を開催し、そこで決議された議案の賛成率などを本日(6月22日)臨時報告書で公表しているが、同社の取締役会規則で取締役会議長を務めることになっている執行役社長への賛成率は93.97%と、取締役候補15名の中で最も低くなっている(日本郵政の臨時報告書3ページ参照)。
※なお、スバルは本日(6月22日)定時株主総会を開始しているが、臨時報告書は本日現在公表されていない。

LGIMがこのような措置をとった原因となったのが、各社の「気候変動対策」だ。LGIMは、日本郵政については気候変動に関する情報開示が不十分とし、スバルについては気候変動への準備状況を見極める複数項目(戦略策定等)で低評価を下したことが今回の措置につながったとしている。ESGのうち“E”の典型項目である「気候変動」に対するグローバル機関投資家の関心が高まっていることは、2018年3月9日のニュース「グローバル機関投資家の新たな関心事」でもお伝えしたとおりだが、今回の措置の対象となった8社のうち2社を日本企業が占めたことのインパクトは決して小さくない。ちなみに残りの6社には、①米国の石油・ガス会社オクシデンタル・ペトロリウム、同じく米国の電力・エネルギー会社ドミニオン・エナジー、ロシアの国営石油会社ロスネフチと、気候変動との関係が深いエネルギー系の企業、②流通過程における輸送、調理や品質管理・保存のための過熱・冷却、小売店舗における照明や空調などで多くのエネルギーを消費する食品業界から、米国の食品卸売大手シスコ・コーポレーション、カナダの食品小売大手ロブロウ、③石炭採掘・石炭火力発電所に巨額の資金を提供しているにもかかわらず温室効果ガス排出量の公表を行なっていなかった中国建設銀行が名を連ねている。同業種の日本企業は要注意だろう。

ESG : ESGとは、Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

一方でLGIMは、気候変動への取り組みが優れている、あるいは改善した企業名も公表しているが、その1社に選ばれた唯一の日本企業がトヨタだ。トヨタは2025年を目処に全車種に電動車(ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池自動車)を投入する方針を打ち出したことが評価された。

LGIMは投資先企業との間で気候変動対策をテーマとする対話も強化しているが、こうした取り組みの背景には、地球温暖化の進展が投資先業績に与える悪影響への危機感のほか、欧州委員会が運用会社に対し、ESG投資を推進するため「環境リスクについて検討」や「気候変動により将来リターンが受ける影響の開示」を義務付ける方向で検討を進めているということがある。したがって、今回のような動きはLGIMに限った話ではなく、機関投資家全体に広がっていく可能性が高い。

欧州委員会 : ESGに優れた企業に投資すること。
ESG投資 : ESGに優れた企業に投資すること。

石油・石炭などの化石燃料を扱う企業をはじめ、業種によっては気候変動対策をとること自体が容易ではないが、オーストラリアの鉱業BHPビリトンは、気候変動シナリオ別に業績への影響を公表していることや、石炭関連産業に対する逆風に経営層が真摯に向き合い議論を行なっていることなどから、LGIMに“気候変動対策先進企業”との評価を受けている。機関投資家の評価は、気候変動に対する経営陣の姿勢や情報開示に大きく左右されることになりそうだ。

2018/06/21 政府、子会社の不祥事続発で「グループガバナンス」も重視へ

最近の上場会社関連の不祥事には一つの顕著な特徴がある。それは、上場会社本体ではなく、その子会社で不祥事が起こるケースが目に付くということだ。当フォーラムの「役員と会社の失敗学」でも、子会社で起きた不祥事を取り上げる機会が増えている。

「役員と会社の失敗学」で取り上げた事例 不祥事の発生源
【失敗学第48回】日本紙パルプ商事の事例 国内子会社
【失敗学第47回】亀田製菓の事例 タイ子会社
【失敗学第46回】三菱マテリアルの事例 国内子会社
【失敗学第45回】シチズン時計の事例 国内子会社
【失敗学第44回】INESTの事例 上場会社である親会社
【失敗学第43回】ソフィアホールディングスの事例 国内子会社
【失敗学第42回】澤藤電機の事例 国内子会社
【失敗学第41回】東洋炭素の事例 フランス連結子会社

子会社の不祥事が増加している最大の理由は、上場会社の連結子会社が増加しているということだろう。上場会社の1社当たり連結子会社数は2000年度には平均で16.6社だったが、2016年度には23.8社へと増加している(2017年12月8日に開催された経済産業省の第1回コーポレート・ガバナンス・システム(CGS)研究会(第2期)の事務局説明資料・22ページ参照)。内部統制やガバナンスが充実している親会社と比較すると、相対的に子会社では両者とも不十分なケースが多い。特に海外子会社は親会社の目が届きにくく、不祥事が起こりやすい傾向にある。

こうしたなか政府は、・・・

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2018/06/21 政府、子会社の不祥事続発で「グループガバナンス」も重視へ(会員限定)

最近の上場会社関連の不祥事には一つの顕著な特徴がある。それは、上場会社本体ではなく、その子会社で不祥事が起こるケースが目に付くということだ。当フォーラムの「役員と会社の失敗学」でも、子会社で起きた不祥事を取り上げる機会が増えている。

「役員と会社の失敗学」で取り上げた事例 不祥事の発生源
【失敗学第48回】日本紙パルプ商事の事例 国内子会社
【失敗学第47回】亀田製菓の事例 タイ子会社
【失敗学第46回】三菱マテリアルの事例 国内子会社
【失敗学第45回】シチズン時計の事例 国内子会社
【失敗学第44回】INESTの事例 上場会社である親会社
【失敗学第43回】ソフィアホールディングスの事例 国内子会社
【失敗学第42回】澤藤電機の事例 国内子会社
【失敗学第41回】東洋炭素の事例 フランス連結子会社

子会社の不祥事が増加している最大の理由は、上場会社の連結子会社が増加しているということだろう。上場会社の1社当たり連結子会社数は2000年度には平均で16.6社だったが、2016年度には23.8社へと増加している(2017年12月8日に開催された経済産業省の第1回コーポレート・ガバナンス・システム(CGS)研究会(第2期)の事務局説明資料・22ページ参照)。内部統制やガバナンスが充実している親会社と比較すると、相対的に子会社では両者とも不十分なケースが多い。特に海外子会社は親会社の目が届きにくく、不祥事が起こりやすい傾向にある。

こうしたなか政府は、「上場会社グループ全体」として不祥事を防止(「守り」のガバナンス)したうえでグループ全体の企業価値向上を図る(「攻め」のガバナンス)べく、来年春を目途に「グループガバナンスの在り方に関する実務指針」を策定する方針だ。この方針は6月15日に閣議決定された未来投資戦略2018に盛り込まれていることから(145ページ参照)実現は確実。議論の場は同じく経済産業省の(第2期)CGS研究会となる。

実はこの「グループガバナンス」というテーマは、第1期CGS研究会が2017年3月10日に公表した報告書(47ページ参照)で「十分に議論できなかった事項」に挙げられていたものでもある。第1期CGS研究会では個社単位のガバナンスに議論が集中し、グループ単位でのガバナンスの在り方に関する議論が十分にできなかった。そこで第2期CGS研究会ではグループガバナンスをメインテーマの一つに据え、昨年(2017年)12月から議論を重ねてきた結果、未来投資戦略2018 にも「グループガバナンスの在り方に関する実務指針」の策定が盛りこまれることになったという経緯がある。

第2期CGS研究会では、既に昨年(2017年)12月から今年(2018年)の1月にかけて、東証一部・二部上場会社を対象に、例えば取締役会で議論が不足している事項や取締役会への付議事項の見直しの状況など、コーポレートガバナンスの主要事項への取り組み状況や課題認識を把握するためのアンケート調査を実施(アンケート結果については2018年5月25日に開催したCGS研究会における事務局説明資料①「グループガバナンスに関係するアンケート結果について」の2ページ目以降を参照)するとともに、昨年(2017年)10月から今年5月にかけて、グローバルかつ多角的にビジネスを展開する子会社数の多い上場会社を41社選定し、企業グループの全体設計に関する方針、考え方やグループ企業の管理の手法などについてヒアリングを実施済み(ヒアリング結果については、2018年5月25日に開催した第2期CGS研究会における事務局説明資料②「グループガバナンスに関する現状と課題」の8ページ目以降を参照)であり、これらにより集めたグループガバナンスの課題やベストプラクティスをもとに、「グループガバナンスの在り方に関する実務指針」を取りまとめる方針だ。

「グループガバナンスの在り方に関する実務指針」には、上述のとおり「守り」と「攻め」の両面の要素が盛り込まれる予定。「守り」のグループガバナンスとしては、例えばグループ企業における内部統制やリスク管理の充実、コンプライアンスの徹底を通じた不祥事よる法的リスクの低減、ブランド価値の維持やレピュテーションリスクの低減などが挙げられる。一方、「攻め」のガバナンスとしては、例えば企業理念・経営ビジョン、業績目標管理、人事、インセンティブ報酬等を個社単位ではなくグループ単位で検討することなどが挙げられる。第2期CGS研究会は、これら「守り」と「攻め」のグループガバナンスに加えて、グループ内での事業ポートフォリオマネジメントも同実務指針に盛り込む方針。

事業ポートフォリオマネジメント : グループ全体としての経営戦略を描いたうえで、グループ内の限られた経営資源を適切に配分し、全体最適を図ること。事業ポートフォリオマネジメントの実施にあたっては、事前に事業ポートフォリオに関する方針(企業グループにおける中核事業は何か、どのような市場をターゲットとするのか等)や見直し基準(収益性・成長性等に関する指標等)、見直しプロセス(「いつ」「だれが」撤退の判断をするのか等)を定めておくことが欠かせない。

子会社で不祥事が起きた場合に謝罪会見に臨むのは親会社の役員であり、投資家も企業グループ全体を見て投資価値を見定めている。それにもかかわらず、親会社の役員の注意は依然として自社のガバナンスの向上にだけ注がれがちなのが実態と言える。目が届きにくい子会社での不祥事は突如顕在化するケースが少なくない。親会社の役員としては、「グループガバナンスの在り方に関する実務指針」の公表(2019年春予定)まで待たず、一刻も早くグループガバナンスの向上に取り組むべきだろう。
 
 
 
 
 
 
 

2018/06/20 オペレーティングリースのオンバランス化実現なら建設、小売等への影響大

設備等の購入の代替手段としてリースを利用する企業は多い(リースのメリットはケーススタディ「固定資産を取得したい」の「購入かリースかは一概に判断できず」を参照)が、リースに関する日本の会計基準(リース会計基準)が企業にとって不利な方向に改正される可能性が高まっている。

リースには大きく分けて「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の2種類があるが、このうち会計基準の見直しの是非が今後本格的に検討されることになっているのがオペレーティングリースだ。

「ファイナンスリース」とは、設備等の購入金額の借入れが難しい場合に、借入れによる購入の代替措置として活用されるものであり、実質的な「割賦販売」に当たる。日本の会計基準では、「リースが借入れによる購入の代替とみなされる場合」とは「支払いリース料総額の現在価値が、見積もり現金購入価額の90%以上」または「リース期間が耐用年数の75%以上」で中途解約もできないケースを指し、リース資産およびリース債務(未経過リース料)をオンバランス(リース資産をB/S上の資産、リース債務(未経過リース料)をB/S上の負債にそれぞれ計上)することが求められる。

実質的な「割賦販売」 : リースと割賦は、形式上は所有権の扱い等で違いがある。

一方、購入の代替ではなく、「物を借りて賃借料を払う」という本来のリースが「オペレーティングリース」である。オペレーティングリースはリース期間の設定が自由であり、契約によっては中途解約も可能。そして最大のメリットと言えるのが、会計上、毎期の支払いリース料を費用計上する一方、B/Sには何も計上しなくてもよい(=オフバランス)という点だ。B/Sに計上されない以上、総資産を増やすことがないのでROAも高くなる()。こうした“恩恵”受けるため、意図的に上述したファイナンスリースの数値基準を満たさないようにリース契約を仕組んでオペレーティングリースにし、オンバランス化を回避する行為も一部では行われてきた。

ROA : Return On Assets = 総資本利益率。「利益/総資産」により計算される。実務上は、ROEの利益には「当期純利益」を使うことが多い。これは、株主資本に対応するのは、株主資本に帰属する当期純利益であるとの考え方による。

 なお、借手の固定資産税が不要になるリース(固定資産税はリース会社が支払っているため)は、資産を購入するよりもメリットがあると言われることもあるが、リース会社も営利事業としてリース業を営んでいる以上、リース料の中に固定資産税相当額を含めてリース料を算出しており、実質的にはリース資産の借手が固定資産税を負担していることから、「メリット」とは言えない。

そこでIFRS(国際会計基準)や米国会計基準では原則としてすべてのリースを「オンバランス」とすることになっており、この点、オペレーティングリースをオフバランスとすることを認めている日本の会計基準とは大きく異なる。

こうした中、日本の会計基準を策定している企業会計基準委員会(ASBJ)は、・・・

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2018/06/20 オペレーティングリースのオンバランス化実現なら建設、小売等への影響大(会員限定)

設備等の購入の代替手段としてリースを利用する企業は多い(リースのメリットはケーススタディ「固定資産を取得したい」の「購入かリースかは一概に判断できず」を参照)が、リースに関する日本の会計基準(リース会計基準)が企業にとって不利な方向に改正される可能性が高まっている。

リースには大きく分けて「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の2種類があるが、このうち会計基準の見直しの是非が今後本格的に検討されることになっているのがオペレーティングリースだ。

「ファイナンスリース」とは、設備等の購入金額の借入れが難しい場合に、借入れによる購入の代替措置として活用されるものであり、実質的な「割賦販売」に当たる。日本の会計基準では、「リースが借入れによる購入の代替とみなされる場合」とは「支払いリース料総額の現在価値が、見積もり現金購入価額の90%以上」または「リース期間が耐用年数の75%以上」で中途解約もできないケースを指し、リース資産およびリース債務(未経過リース料)をオンバランス(リース資産をB/S上の資産、リース債務(未経過リース料)をB/S上の負債にそれぞれ計上)することが求められる。

実質的な「割賦販売」 : リースと割賦は、形式上は所有権の扱い等で違いがある。

一方、購入の代替ではなく、「物を借りて賃借料を払う」という本来のリースが「オペレーティングリース」である。オペレーティングリースはリース期間の設定が自由であり、契約によっては中途解約も可能。そして最大のメリットと言えるのが、会計上、毎期の支払いリース料を費用計上する一方、B/Sには何も計上しなくてもよい(=オフバランス)という点だ。B/Sに計上されない以上、総資産を増やすことがないのでROAも高くなる()。こうした“恩恵”受けるため、意図的に上述したファイナンスリースの数値基準を満たさないようにリース契約を仕組んでオペレーティングリースにし、オンバランス化を回避する行為も一部では行われてきた。

 なお、借手の固定資産税が不要になるリース(固定資産税はリース会社が支払っているため)は、資産を購入するよりもメリットがあると言われることもあるが、リース会社も営利事業としてリース業を営んでいる以上、リース料の中に固定資産税相当額を含めてリース料を算出しており、実質的にはリース資産の借手が固定資産税を負担していることから、「メリット」とは言えない。

そこでIFRS(国際会計基準)や米国会計基準では原則としてすべてのリースを「オンバランス」とすることになっており、この点、オペレーティングリースをオフバランスとすることを認めている日本の会計基準とは大きく異なる。

こうした中、日本の会計基準を策定している企業会計基準委員会(ASBJ)は、2016年に公表した「中期運営方針」の中で、リース会計基準の改正も視野に、リース会計専門委員会において「国際的な会計基準と整合性を図ることに対する必要性及び懸念に関する検討を行う」としていたが、当該中期運営方針を踏まえ、ついにリース会計基準を改正するか否かの検討を開始している。ASBJは、IFRSや米国会計基準がオペレーティングリースを含むすべてのリースをオンバランスしていることから、「オペレーティングリースについて国際的な会計基準との比較可能性を高めることは財務諸表間の比較可能性を高めることにつながる」「重要な負債(未経過のリース料)がオフバランスになっていることに対し、国際的な批判を受ける可能性があり、日本の資本市場及び日本企業の財務報告に対する信頼性へのリスクが大きい」との見解を示しており、将来的なオペレーティングリースのオンバランス化は避けられない情勢となっている。

上述のとおり、オペレーティングリースでは中途解約を可能とするかどうかは契約次第となるが、中途解約が禁止されているオペレーティングリースはファイナンスリースに近いことから、リース会計基準上、未経過リース料をB/Sに計上することが求められるファイナンスリースと同様に未経過リース料を“見える化”するため、財務諸表に「解約不能期間中の未経過リース料」を1年以内・1年超に区分して注記することが求められている。ASBJが日本の会計基準に準拠して連結財務諸表を作成している東証上場企業3,414社を調査したところ、1,403社がこの注記を行っていたという。負債に占める未経過リース料の割合は全業種平均では0.9%だったものの、建設業、海運業、小売業などは10%を超えていた。

オペレーティングリースのオンバランス化に対しては企業側の反対が強く、会計基準の改正に関する議論もまだ始まったばかりだが、仮にオンバランス化が実現した場合には、とりわけ建設業、海運業、小売業などでは負債(および総資産)が膨らむことからROAが低下することは免れない。また、オペレーティングリースをそれほど利用していない企業でもリース資産台帳に基づき計算した減価償却費をP/Lに計上する必要が生じる()など手間が増えることは間違いないため、広範な影響が生じることになりそうだ。

ROAが低下 : ROA(Return on Assets)は利益を総資産で除して求めるため、分母である総資産の増加はROAの低下をもたらす。

 その代わりリース料のP/L計上は不要となるので、計上すべき費用の額が2倍になるわけではない。また、オペレーティングリースのオンバランスの要否の判定には重要性基準も導入されるはずであり、すべてのオペレーティングリースをオンバランスしなければならなくなるわけではない。

2018/06/19 英国、非上場の大企業にもCGコード

日本のコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が英国のCGコードを手本としたことは周知のとおりだが、その英国でさらなるコーポレートガバナンス改革が進んでいる。・・・

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2018/06/19 英国、非上場の大企業にもCGコード(会員限定)

日本のコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が英国のCGコードを手本としたことは周知のとおりだが、その英国でさらなるコーポレートガバナンス改革が進んでいる。

「コンプライorエクスプレイン」というプリンシプル・ベースを採用するCGコードは法律ではないが、今回英国政府が打ち出したコーポレートガバナンス改革は「法律」によるものであり、コーポレートガバナンスへの取り組みについて、年次報告書への記載などが義務付けられる(2020年から適用開始見込み)。

プリンシプル・ベース : 大まかな原理・原則だけを定め、細かな運用は現場の判断に任せるという規制方法のこと。プリンシプルベース(原則主義)の反意語は「ルールベース(細則主義)」である。

英国政府が6月11日に国会に提出した法案の主な内容は大きく分けて3つのポイントがある。一つは、従業員250人以上の上場企業に対し、CEOと一般従業員の報酬格差の開示を義務付けることだ。具体的には、①CEOの報酬が、フルタイム従業員の報酬の下から25%、50%(中央値)、75%それぞれの平均額の何倍にあたるか、②中央値との格差は、報酬に関する自社の方針と合致しているか。また、合致している場合にはどのように合致しているのか――を年次報告書に記載することを求める。さらに、全上場企業に対し、「自社の株価が50%上昇した場合の幹部職員の報酬への考えられ得る影響」を年次報告書に記載することを求める。

2018年4月6日のニュース「ガバナンス優良企業で、取締役報酬額改定議案に低賛成率」でお伝えしたとおり、資生堂(12月期決算)の2017年3月株主総会では、取締役の報酬額改定議案に対する賛成率が77.9%と低水準にとどまり、その一因として、報酬限度額の増加幅が大き過ぎる(月額3,000万円以内→年額20億円)ことが指摘されているが、英国では、2016年におけるFTSE100構成企業のCEOの年間報酬の平均が約6億6,150万円(450万ポンド)と、英国のフルタイム労働者の平均賃金である約411万円(2万8千ポンド)の約160倍にも及んでいる。また、英国政府には、貧富の差に対する国民の不満がEU離脱につながったとの認識があり、EUからの離脱を決めた2016年の国民投票後に誕生した現政権が発足当初よりコーポレートガバナンス改革を重要政策に掲げている理由もそこにある。こうした“特殊事情”が報酬格差の開示という法律の制定につながったと言える。

FTSE100 : ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位100銘柄による時価総額加重平均型の株価指数

一方、日本企業の経営者報酬について、「固定報酬×3」でもよいとの見解を示す機関投資家もいるが(2018年5月11日のニュース『「投資家目線の「望ましい経営者報酬」』を参照)、近年は日本でも「格差社会」という言葉がよく聞かれるように、株式報酬等の導入により今後CEOをはじめとする役員報酬が高額化していけば、社会的な批判を浴びる時代が来ないとも限らないだろう。

また法案では、①取締役が「従業員の利益」や「サプライヤーや顧客等と会社の関係構築の必要性」等をいかに考慮したか、そして②それらを考慮したことが自社の主要な決定にどのような影響を与えたかについても、年次報告書で開示することを求めている(従業員250人以上の上場企業が対象)。既に英国の会社法では、取締役に対し「従業員の利益」「サプライヤーや顧客等と会社の関係構築の必要性」等を考慮することを義務付けているが、今回の法案ではさらにその取り組みの開示を求めた格好となっている。

もう一点、同法案で注目されるのは、「非上場」の大企業に対し、CGコードの適用状況の開示も義務付けている点だ。英国のCGコードは上場企業向けに財務報告評議会(FRC)が策定したものだが、政府は現在これとは別に、産業界の代表者で構成されるグループに「非上場」の大企業向けのCGコードの策定を依頼している()。日本にも非上場の大企業は少なくないが、こうした企業には従業員や顧客など多くのステークホルダーが存在するとともに、社会に与える影響も大きい。「非上場」の大企業に対しCGコードを適用するという取り組みは、日本でも参考になる部分がありそうだ。

財務報告評議会(FRC) : 英国におけるコーポレートガバナンス・コードや会計監査業務の規制当局で、正式名称はある財務報告評議会。FRCは「Financial Reporting Council」の略である。

 ただし法案では、非上場の大企業が適用するCGコードは必ずしも現在作成中の非上場大企業向けCGコードである必要はなく、コーポレートガバナンスに関するいかなる行動基準でもよいとしている。

2018/06/18 補充原則1-4①、取引先の開示内容をチェックする必要

(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コードの中で、機関投資家が最も注目している原則の1つに挙げられるのが、今回新設された補充原則1-4①(政策保有株主による自社株式の売却意向への対応)だ。

補充原則1-4①
上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げるべきではない。

金融機関においては自己資本比率規制などもあり相当程度政策保有株式の売却が進んだが、事業会社間における政策保有は依然として高水準にある。これに対し、機関投資家はしばしば不満を示してきた。補充原則1-4①の導入は、このような機関投資家の声に応えたものと言える。

自己資本比率規制 : リスク資産と自己資本の比率。自己資本比率規制は金融機関の健全性を保つことを目的としており、リスク資産の保有を抑制する効果がある。

実際、エンゲージメント(投資家と企業の対話)の場において、機関投資家が企業に政策保有株式の縮減を求めるケースは少なくない。しかし、企業から縮減に前向きな発言を引き出すことは難しく、「そうは言っても相手があることだし、取引に支障が出ては困る」などと、往々にして矛先を逸らされるようだ。こうした中、補充原則1-4①の新設により、機関投資家は、「そのような企業(政策保有株式の売却を阻止しようとする企業)は補充原則1-4①に反している」と言うことができるようになった。逆に言うと、企業としては「相手が売るなと言っているので」といった言い訳がしにくくなったわけだ。もっとも、補充原則1-4①はガバナンス報告書で「開示」が求められる原則ではないため、必ずしも企業側から積極的に取り組み方針を打ち出す必要はなく、また、多くの企業においてはそのようなインセンティブも存在しないのが実態だろう。こうした中、任意で同原則への取り組みを開示した企業が現れたので紹介しよう。

まずは・・・

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2018/06/18 補充原則1-4①、取引先の開示内容をチェックする必要(会員限定)

(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コードの中で、機関投資家が最も注目している原則の1つに挙げられるのが、今回新設された補充原則1-4①(政策保有株主による自社株式の売却意向への対応)だ。

補充原則1-4①
上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げるべきではない。

金融機関においては自己資本比率規制などもあり相当程度政策保有株式の売却が進んだが、事業会社間における政策保有は依然として高水準にある。これに対し、機関投資家はしばしば不満を示してきた。補充原則1-4①の導入は、このような機関投資家の声に応えたものと言える。

自己資本比率規制 : リスク資産と自己資本の比率。自己資本比率規制は金融機関の健全性を保つことを目的としており、リスク資産の保有を抑制する効果がある。

実際、エンゲージメント(投資家と企業の対話)の場において、機関投資家が企業に政策保有株式の縮減を求めるケースは少なくない。しかし、企業から縮減に前向きな発言を引き出すことは難しく、「そうは言っても相手があることだし、取引に支障が出ては困る」などと、往々にして矛先を逸らされるようだ。こうした中、補充原則1-4①の新設により、機関投資家は、「そのような企業(政策保有株式の売却を阻止しようとする企業)は補充原則1-4①に反している」と言うことができるようになった。逆に言うと、企業としては「相手が売るなと言っているので」といった言い訳がしにくくなったわけだ。もっとも、補充原則1-4①はガバナンス報告書で「開示」が求められる原則ではないため、必ずしも企業側から積極的に取り組み方針を打ち出す必要はなく、また、多くの企業においてはそのようなインセンティブも存在しないのが実態だろう。こうした中、任意で同原則への取り組みを開示した企業が現れたので紹介しよう。

まずはJ.フロント リテイリングだ。

当社の株式を保有する政策保有株主から売却の意向が示された場合、取引の縮減を示唆する等の売却を妨げることは一切行っておらず、適切に売却等に対応しています。

このような開示は、J.フロント リテイリングの株式を保有している上場企業にプレッシャーを与えることになろう。有価証券報告書における「特定投資株式」の開示により同社株式を保有していることが明らかな場合、投資家から「売却すべき」と言われたら逃げ場がないことになる。J.フロント リテイリングとしても、その結果として自社株式が売却されることは覚悟のうえでの開示と言える。

特定投資株式 : 純投資目的以外の目的で保有する上場会社の株式。いわゆる「持合株式」を指す。

カゴメが行った開示は、もう一歩進んで、自社からも積極的に政策保有を解消することを付言している。

まず

当社は、直近事業年度末の状況に照らし、保有の意義が希薄と考えられる政策保有株式については、できる限り速やかに処分・縮減していく基本方針のもと、毎年、取締役会で個別の政策保有株式について、政策保有の意義、経済合理性等を検証し、保有継続の可否および保有株式数を見直します。なお、経済合理性の検証の際は、直近事業年度末における各政策保有株式の金額を基準として、これに対する、発行会社が同事業年度において当社利益に寄与した金額の割合を算出し、その割合が当社の単体5年平均ROAの概ね2倍を下回る場合には、売却検討対象とします。また、簿価から30%以上時価下落した銘柄及び、当社との年間取引高が1億円未満である銘柄についても、売却検討対象とします。その上で、得意先企業のうちこれらの基準のいずれかに抵触した銘柄については、毎年、取締役会で売却の是否に関する審議を行い、売却する銘柄を決定します。見直しの結果、2018年度に一部保有株式を売却いたしました。

としたうえで、次のように続けている。

当社は、当社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)から当該株式の売却等の意向が示された場合には、無条件でこれを承諾します。
また、その場合において、当社が当該政策保有株主である会社の株式を政策保有株式として保有しているときは、できる限り速やかにこれを処分します。

この開示は、「当社はいつでも持ち合いを解消するので、遠慮なく言って欲しい」と、持ち合い関係にある取引先に持ちかけているに等しい。同社の有価証券報告書を確認すると、同社が政策保有している銘柄には協業先である食品メーカーや販売先である小売業チェーンがずらりと並んでいるが、上記のように言われてしまうと、もし持ち合い関係の解消に至らなければ、カゴメの株式を保有し続ける協業先や販売先こそ「持ち合い解消を妨げる元凶」であるかのようなマイナスの印象を機関投資家に与えかねない。

今後、例えば自社のガバナンス基本方針を開示している企業などで、補充原則1-4①に対するスタンスを明らかにするところが出てくるだろう。逆に言うと、企業(政策保有側)としては、改訂コードに対する自社の取り組みのみならず、取引先など他社の開示にも留意する必要がある。