改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が6月1日から施行されているが、改訂CGコードに基づくコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)は(2018年)12月末までに提出すればよいこととされており、それまでの間は旧CGコードに基づきCG報告書を記載し、提出すればよい(2018年5月8日のニュース「CGコード改訂前後のCG報告書、読み手の混乱を避けるための工夫」参照)。しかし、当フォーラムの調査によると、既に提出されたCG報告書の中で、新コードに対応した記載を行っているものがあることが判明した。
6月1日から9日の約10日間の間にCG報告書を提出した東証一部上場企業は42社あったが、このうち改訂CGコードに基づくCG報告書を提出したのが、アサヒグループホールディングス、安川電機、本多通信工業、J.フロントリテイリングの4社だ(各社のCG報告書はこちらをクリックし、銘柄名(会社名)検索で閲覧可能)。
もっとも、改訂CGコードへの対応の“濃度”は異なる。全改訂コードに対応したのが、アサヒグループホールディングスとJ.フロントリテイリングの2社である。したがって、両社のCG報告書が、改訂CGコードに対応した先行事例と位置付けられる。もっとも、CG報告書の提出日はアサヒグループホールディングスが6月1日、J.フロントリテイリングが6月7日であることから、“第一号”はアサヒグループホールディングスということになる。
アサヒグループホールディングスのCG報告書で注目されるのは、今回のCGコード改訂の中でも上場企業にとって厳しい改訂内容となった原則1-4(政策保有株式)をエクスプレインしたという点だ。「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべき」とする同原則についてアサヒグループホールディングスは、「当社の持続的な成長と中期的な企業価値の向上に資すると認められない株式がある場合は、その検証の結果を開示する」としている。現時点ではその開示の準備が整っていないことを受けたエクスプレインということだろう。これに対しJ.フロントリテイリングは、「2017年度においては12銘柄を全数売却、2銘柄を一部売却(売却金額約13.2億円)しました」と、まさに検証の結果を開示し、同原則をコンプライしている。
また、旧CGコードが求めていた経営陣幹部の“選任” に加え、“解任” を行うに当たっての方針と手続の開示を求める改訂CGコードの原則3-1(ⅳ)について、アサヒグループホールディングスは、代表取締役などの業務執行取締役(CEO以下の経営陣)を「その業績につき毎年定期的に指名委員会にて審議し、取締役会にて定めた解任基準に該当するとの審議結果であった場合は、指名委員会における審議結果を取締役会にて検証の上、基準に該当する場合は、取締役候補者として指名せず、また、代表取締役・業務執行取締役(CEO以下の経営陣)としての役職を解任」すると記載し、コンプライしている。J.フロントリテイリングのCG報告書では、「代表執行役社長・執行役、主要事業会社の代表取締役・取締役・執行役員の選任・解任と職務の委嘱・解嘱」について、「指名委員会の審議結果を取締役会に答申し決議」すると記載され、こちらもコンプライという形をとっている。
一方、安川電機と本多通信工業は、基本的には旧CGコードに基づきCG報告書を作成しつつ、改訂CGコードで新設された原則2-6(企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮)についてのみ、下記のとおり記載を追加している。例えば原則1-4(政策保有株式)の記載を見ると、改訂CGコードで開示を求めている「検証の内容」について、両社は特段の説明をしていない。また経営陣幹部の選“解”任を行うに当たっての方針と手続の開示を求める改訂CGコードの原則3-1(ⅳ)についても、両社のCG報告書には「解任」の文字は見当たらない。改訂コードに対応していると言うならば、エクスプレインしなければならないはずである。
ただし、本多通信工業は原則2-6(企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮)について、「当社の退職年金制度は、確定拠出企業年金のため、企業年金の積立金の運用はなく、財政状況への影響もありません」と記載し、同原則はコンプライorエクスプレインの【対象外】であるとしている。
【原則2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】
上場会社は、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることを踏まえ、企業年金が運用(運用機関に対するモニタリングなどのスチュワードシップ活動を含む)の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべきである。その際、上場会社は、企業年金の受益者と会社との間に生じ得る利益相反が適切に管理されるようにすべきである。
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<安川電機の記載>
企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮
当社は、安川電機企業年金基金を通じて、以下のとおり企業年金の積立金の運用を行っています。
・企業年金基金に対して、会社からは企業年金の運用に適切な資質をもった人材を代議員として選出しています。
・企業年金の運用に関して、受益者の利益の最大化および利益相反取引の適切な管理を目的に、資産運用委員会での意見を踏まえて、代議員会で決定しています。
・そのほか、運用コンサルタントと連繋し、適切な運用を図るとともに、企業年金の運用に携わる人材の専門性を高めています。
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<本多通信工業の記載>
| 【対象外】 当社の退職年金制度は、確定拠出企業年金のため、企業年金の積立金の運用はなく、財政状況への影響もありません。
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なお、パブリックコメントへの回答では、旧CGコードに基づきCG報告書を提出する場合はその旨を明記するよう求められていたが(東証『「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリック・コメントの結果について』5ページ「24」参照)、東証一部上場企業の中でもそのような記載があった事例は本日(2018年6月13日)現在5社(武田薬品工業、ヤマザワ、みずほフィナンシャルグループ、ベクトル、カゴメ)にとどまっている。投資家をはじめとするCG報告書の読み手にとっての分かりやすさ(準拠しているCGコードのバージョンが現行CGコードor改訂CGコードのいずれなのか)という点からは問題がありそうだ。