2018/06/15 金融庁、開示府令改正とセットで「任意開示」のガイダンス策定へ

有価証券報告書におけるコーポレート・ガバナンスの状況やMD&Aの記載の充実やコーポレート・ガバナンス報告書におけるコーポレートガバナンス・コードへの対応により、従来と比べると投資家が望む情報が相当入手しやすくなったことは間違いない。しかし、投資家が開示の現状に満足しているかというと決してそうではない。・・・

MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

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2018/06/15 金融庁、開示府令改正とセットで「任意開示」のガイダンス策定へ(会員限定)

有価証券報告書におけるコーポレート・ガバナンスの状況やMD&Aの記載の充実やコーポレート・ガバナンス報告書におけるコーポレートガバナンス・コードへの対応により、従来と比べると投資家が望む情報が相当入手しやすくなったことは間違いない。しかし、投資家が開示の現状に満足しているかというと決してそうではない。

MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

企業情報の開示・提供のあり方を検討している金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」は2018年4月に「ディスクロージャーワーキング・グループにおける検討事項」を公表し、5月19日までパブリックコメントを募集していたが、「投資家の適切な投資判断や、企業との建設的な対話を行うために、どのような視点から、どのような情報が必要であるか」という問いかけに対して、投資家からは以下のようなコメントが寄せられている(分かりやすくするために一部当フォーラムが加筆。投資家からのコメントの詳細は「意見募集に寄せられたコメント」を参照)。

投資家から寄せられたコメント
項目 投資家が求める情報
経営戦略・
ビジネスモデル
・企業の目的、事業哲学の概要
・企業が、ステークホルダーや社会のために、事業を通じて達成する価値
・企業戦略を踏まえたKPIや目標の議論(なぜその指標を用いているのか、達成状況など)
・投資戦略やキャッシュの使い道
・事業計画策定の際の想定資本コスト、ROEROICがどの程度資本コストを上回っているか
MD&A ・セグメントごとの戦略、リスク、ESG情報
キャピタルポリシー、キャッシュの利用の優先順位
資産配分決定に関する枠組み
リスク情報 ・リスクをどのように軽減しようと考えているか(リスクへの対応策)
・リスクに変化があった場合の説明
人的情報 ・従業員の離職率
・組織の階層ごとの男女別内訳
・正社員と契約社員、フルタイムとパートタイムの内訳
・地域別の従業員数の内訳
・従業員の健康や安全に関する情報
政策保有株式 ・政策保有により、どのような経済的利益を得られるのか(政策保有をすることで相手との取引関係が強まると考える理由)
・政策保有により、上場企業はどのようなリスクを抱えるのか
・上場企業は、自社の年金基金を通じてスチュワードシップ責任をどのように果たしているか(改訂CGコード原則2-6 2018年3月15日のニュース「続報・CGコード改訂 企業年金への関与を求める原則に込められた“警告”」を参照)
・相手に保有されている株式の数
役員報酬 ・固定報酬、年次ボーナス、長期インセンティブの詳細、報酬の構成の内訳(現金報酬と株式報酬の割合、変動制の報酬の総報酬に対する割合など。報酬の構成については2018年5月11日のニュース『投資家目線の「望ましい経営者報酬」』を参照)
・報酬の方針、報酬制度の基本思想、計算式の概要、評価要素とその比重
・経営目標の達成度が業績連動報酬にどのように反映されているのか
・親会社役員が子会社から受け取る報酬額
・報酬の決定プロセスと最終的な決定権者
・支払水準を決定する報酬委員会の有無、委員会の詳細、開催頻度、出席者
・CEOの報酬(1億円に満たない場合であっても開示すべき)
ガバナンス全般 ・取締役・監査役の取締役会への出席状況
・各取締役がどのようなスキルを有しているか(各取締役のスキル開示については2018年6月14日のニュース『社長含む「社内取締役」の能力を開示する企業が出現』を参照)
・委員会のメンバー・出席状況・委員会の開催頻度
・取締役会、社外取締役、委員会が行った主要な決定について、なぜそのような決定に至ったのか、その決定の主要なリスクや機会は何か
会計監査 ・監査人の監査時間(投資家が会計監査の適切性を判断するために、監査時間が十分に確保できているかどうか)
・主要な子会社別の監査報酬
・監査の品質向上のために企業がどのように努力し、どのような考えで監査報酬に同意したか
・経営者が監査人と行ったディスカッションの内容の要約(重要な問題にどのように対処したかなど。監査報告書のKAMの記載と連動することが考えられる)
・継続監査年数(継続監査期間に関しては2016年6月24日のニュース『「同一の監査人による監査期間」の開示が制度化された場合の企業への影響』を参照)
・監査役や監査等委員による監査人の監査品質の検証内容
監査役・
監査等委員
・監査役会等の議長(社外監査役であるか否か)
・監査役会等のサポートスタッフの人数(そのうち、兼職しているスタッフの人数も含む)
・監査役会等のサポートスタッフの人事に関する監査役会等の権限(同意権の有無、その他の権限の有無)
・監査役・監査(等)委員会のメンバーと経営陣との会議の状況(開催回数、時期など)
・監査役の選任議案の決定プロセスにおける監査役の関与の状況(議案の作成者、執行側が作成している場合には同意を求められた時期、同意の理由、独立性への影響に係る意見など)
・親会社監査役と子会社監査役の連携の状況
・有価証券報告書を取締役会に決議事項または報告事項として付議している場合、当該付議に対する監査役監査の有無
その他 ・企業と投資家の打ち合わせや、決算発表時における質疑応答内容(米国などでは投資家との打ち合わせ内容の議事録がオンラインで開示されている)
・内部通報制度の整備状況

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
キャピタルポリシー : 資金調達の方針
資産配分 : 調達資金の各セグメントへの配分、セグメント内での資金の使われ方等
CEOの報酬開示の1億円基準 : 現在の開示ルール(企業内容等の開示に関する内閣府令)では、連結報酬が1億円未満の役員は報酬額の開示を免れている。
取締役会に決議事項または報告事項として付議 : 会社法上、取締役会の法定付議事項に「有価証券報告書」は含まれていないが、任意に付議している上場企業が多い。日本監査役協会の調査によると、上場企業の約6割が「有価証券報告書」を決議事項としており、また約2割が報告事項としている(役員等の構成の変化などに関する第18回インターネット・アンケート集計結果(監査役(会)設置会社版)問12-2)。

一方、上場企業からは、上記のような投資家が知りたい情報のすべての開示が求められることになれば、有価証券報告書やコーポレート・ガバナンス報告書の開示負担が過重となり、とりわけ有価証券報告書については早期開示が困難になるとの声も上がっている。

そこで、ディスクロージャーワーキング・グループの事務局(金融庁)は投資家から寄せられた意見や同グループにおける議論の結果を、いったん論点整理といった形で整理しており、金融庁では、この論点整理を踏まえて6月28日に報告書を公表する予定。今後は、その報告書をもとに、投資家が必ず開示して欲しいと考える重要な事項(現在のところ未定)については有価証券報告書の開示ルール(企業内容等の開示に関する内閣府令)を改正して開示を義務化する方針だ。そのうえで、それ以外の事項については「任意開示」を促すため、開示の考え方・内容・取り組み方を実務上のベストプラクティスから導き出したプリンシプル・ベースのガイダンスを策定する方向。同時に、証券取引所のコーポレート・ガバナンス報告書の記載ルールが改正されることも予想される。

プリンシプル・ベース : 大まかな原理・原則だけを定め、細かな運用は現場の判断に任せるという規制方法のこと。プリンシプルベース(原則主義)の反意語は「ルールベース(細則主義)」である。

本ガイダンスには、(2018年)6月1日に公表された「投資家と企業の対話ガイドライン」と同様、「コンプライ・オア・エクスプレイン」は求めない。もっとも、本ガイダンスが公表されることで、法定開示項目に対してボイラープレート(決まり文句)的な開示で済ませる企業が減り、投資家に開示する情報の質が向上するだけでなく、上場企業内に自社の経営戦略・財務状況・リスク等に関する議論を促す効果も期待できる。その結果、コーポレートガバナンス・コードの実効的なコンプライも進むことになろう(コンプライの質の問題については、2018年6月4日のニュース『「投資家と企業の対話ガイドライン」公表で注目必至の“コンプライの“質” 』参照)。

2018/06/14 社長含む「社内取締役」の能力を開示する企業が出現

コーポレートガバナンス・コード原則3-1(情報開示の充実)では、「(ⅳ)取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続」とともに、「(ⅴ)取締役会が上記(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選解任・指名についての説明」を開示し、主体的な情報発信を行うことを求めている(「解任」が追加されたのは、2018年6月1日から施行された改訂コーポレートガバナンス・コードから)。

これを受け、株主総会招集通知において、選任予定の役員の「能力」を開示する上場企業が最近散見されるようになっている。例えば荏原製作所は、3月に開催された2017年12月期の株主総会招集通知の取締役選任議案の中に設けた「取締役会の構成」と題したページにおいて、法務・リスク管理、人事・人材開発、財務・会計・資本政策、監査、企業経営・経営戦略、研究開発、環境、社会、内部統制・ガバナンスの各分野のうち、各取締役にいずれの分野での能力発揮が期待されるのかを一覧表で明示している(同社の招集通知10ページ参照)。

もっとも、日本企業としては先進的な上記の開示を行った荏原製作所でさえ、社長をはじめとする業務執行取締役である「社内取締役」を本開示の対象外としているように、「社内役員」の能力に関する開示を行う上場企業はこれまで見当たらなかった。その背景には、結果として社長をはじめとする社内役員の能力を評価することへの遠慮があるのかもしれない。

こうした中、今6月総会の招集通知で、「社内取締役」を含む全取締役の能力を開示する上場企業が少なくとも2社出現(おそらく日本初)している。

そのうちの1社が・・・

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2018/06/14 社長含む「社内取締役」の能力を開示する企業が出現(会員限定)

コーポレートガバナンス・コード原則3-1(情報開示の充実)では、「(ⅳ)取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続」とともに、「(ⅴ)取締役会が上記(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選解任・指名についての説明」を開示し、主体的な情報発信を行うことを求めている(「解任」が追加されたのは、2018年6月1日から施行された改訂コーポレートガバナンス・コードから)。

これを受け、株主総会招集通知において、選任予定の役員の「能力」を開示する上場企業が最近散見されるようになっている。例えば荏原製作所は、3月に開催された2017年12月期の株主総会招集通知の取締役選任議案の中に設けた「取締役会の構成」と題したページにおいて、法務・リスク管理、人事・人材開発、財務・会計・資本政策、監査、企業経営・経営戦略、研究開発、環境、社会、内部統制・ガバナンスの各分野のうち、各取締役にいずれの分野での能力発揮が期待されるのかを一覧表で明示している(同社の招集通知10ページ参照)。

もっとも、日本企業としては先進的な上記の開示を行った荏原製作所でさえ、社長をはじめとする業務執行取締役である「社内取締役」を本開示の対象外としているように、「社内役員」の能力に関する開示を行う上場企業はこれまで見当たらなかった。その背景には、結果として社長をはじめとする社内役員の能力を評価することへの遠慮があるのかもしれない。

こうした中、今6月総会の招集通知で、「社内取締役」を含む全取締役の能力を開示する上場企業が少なくとも2社出現(おそらく日本初)している。

そのうちの1社が武蔵精密工業だ。同社は「取締役の構成」と題したページの中で「当社の取締役が有している能力は以下のとおりです。」と明言したうえで、企業経営、製造・技術・研究開発、営業・マーケティング、先進技術・IT、財務・ファイナンス、ガバナンス・リスクマネジメント・人事、グローバル経験の各分野のうちいずれの能力を各取締役が有しているかを、社内取締役を含む全取締役について一覧表で示している(同社の招集通知19ページ参照)。

もう一社がイビデンである。同社は「取締役会の多様性スコア」というページを設け、「取締役会による的確かつ迅速な意思決定が可能な員数及び取締役会全体としての知識・経験・能力のバランスを考慮し、適材適所の観点より、総合的に検討した上で、指名・報酬(諮問)委員会の答申を参照しつつ、取締役候補者を指名しております。」と取締役の指名方針について述べたうえで、やはり社内取締役を含む全取締役について、社長経験、会計・税務、業界の知見、営業・販売、国際ビジネス、研究・製造、法務、リスク・コンプライアンス・ガバナンスの各分野における知識・経験・能力の有無を明示している(同社の招集通知10ページ参照)。

役員の能力評価結果の開示で「社内役員」を除外することについては「日本企業の開示の今後の課題」(一橋大学商学部・大学院商学研究科 円谷昭一 准教授)との指摘もあっただけに、武蔵精密工業とイビデンの取り組みは画期的と言えそうだ。

2018/06/13 Jフロント・リテイリングが改訂CGコード原則1-4をコンプライ

改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が6月1日から施行されているが、改訂CGコードに基づくコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)は(2018年)12月末までに提出すればよいこととされており、それまでの間は旧CGコードに基づきCG報告書を記載し、提出すればよい(2018年5月8日のニュース「CGコード改訂前後のCG報告書、読み手の混乱を避けるための工夫」参照)。しかし、当フォーラムの調査によると、既に提出されたCG報告書の中で、新コードに対応した記載を行っているものがあることが判明した。

6月1日から9日の10日間の間にCG報告書を提出した東証一部上場企業は42社あったが、このうち改訂CGコードに対応したCG報告書を提出したのが、アサヒグループホールディングス、安川電機、本多通信工業、J.フロントリテイリングの4社だ(各社のCG報告書はこちらで銘柄名(会社名)検索で閲覧可能)。

もっとも、改訂CGコードへの対応の“濃度”は異なる。全改訂コードに対応したのが、・・・

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2018/06/13 Jフロント・リテイリングが改訂CGコード原則1-4をコンプライ(会員限定)

改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が6月1日から施行されているが、改訂CGコードに基づくコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)は(2018年)12月末までに提出すればよいこととされており、それまでの間は旧CGコードに基づきCG報告書を記載し、提出すればよい(2018年5月8日のニュース「CGコード改訂前後のCG報告書、読み手の混乱を避けるための工夫」参照)。しかし、当フォーラムの調査によると、既に提出されたCG報告書の中で、新コードに対応した記載を行っているものがあることが判明した。

6月1日から9日の約10日間の間にCG報告書を提出した東証一部上場企業は42社あったが、このうち改訂CGコードに基づくCG報告書を提出したのが、アサヒグループホールディングス、安川電機、本多通信工業、J.フロントリテイリングの4社だ(各社のCG報告書はこちらをクリックし、銘柄名(会社名)検索で閲覧可能)。

もっとも、改訂CGコードへの対応の“濃度”は異なる。全改訂コードに対応したのが、アサヒグループホールディングスとJ.フロントリテイリングの2社である。したがって、両社のCG報告書が、改訂CGコードに対応した先行事例と位置付けられる。もっとも、CG報告書の提出日はアサヒグループホールディングスが6月1日、J.フロントリテイリングが6月7日であることから、“第一号”はアサヒグループホールディングスということになる。

アサヒグループホールディングスのCG報告書で注目されるのは、今回のCGコード改訂の中でも上場企業にとって厳しい改訂内容となった原則1-4(政策保有株式)をエクスプレインしたという点だ。「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべき」とする同原則についてアサヒグループホールディングスは、「当社の持続的な成長と中期的な企業価値の向上に資すると認められない株式がある場合は、その検証の結果を開示する」としている。現時点ではその開示の準備が整っていないことを受けたエクスプレインということだろう。これに対しJ.フロントリテイリングは、「2017年度においては12銘柄を全数売却、2銘柄を一部売却(売却金額約13.2億円)しました」と、まさに検証の結果を開示し、同原則をコンプライしている。

また、旧CGコードが求めていた経営陣幹部の“選任” に加え、“解任” を行うに当たっての方針と手続の開示を求める改訂CGコードの原則3-1(ⅳ)について、アサヒグループホールディングスは、代表取締役などの業務執行取締役(CEO以下の経営陣)を「その業績につき毎年定期的に指名委員会にて審議し、取締役会にて定めた解任基準に該当するとの審議結果であった場合は、指名委員会における審議結果を取締役会にて検証の上、基準に該当する場合は、取締役候補者として指名せず、また、代表取締役・業務執行取締役(CEO以下の経営陣)としての役職を解任」すると記載し、コンプライしている。J.フロントリテイリングのCG報告書では、「代表執行役社長・執行役、主要事業会社の代表取締役・取締役・執行役員の選任・解任と職務の委嘱・解嘱」について、「指名委員会の審議結果を取締役会に答申し決議」すると記載され、こちらもコンプライという形をとっている。

一方、安川電機と本多通信工業は、基本的には旧CGコードに基づきCG報告書を作成しつつ、改訂CGコードで新設された原則2-6(企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮)についてのみ、下記のとおり記載を追加している。例えば原則1-4(政策保有株式)の記載を見ると、改訂CGコードで開示を求めている「検証の内容」について、両社は特段の説明をしていない。また経営陣幹部の選“解”任を行うに当たっての方針と手続の開示を求める改訂CGコードの原則3-1(ⅳ)についても、両社のCG報告書には「解任」の文字は見当たらない。改訂コードに対応していると言うならば、エクスプレインしなければならないはずである。

ただし、本多通信工業は原則2-6(企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮)について、「当社の退職年金制度は、確定拠出企業年金のため、企業年金の積立金の運用はなく、財政状況への影響もありません」と記載し、同原則はコンプライorエクスプレインの【対象外】であるとしている。

【原則2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】
上場会社は、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることを踏まえ、企業年金が運用(運用機関に対するモニタリングなどのスチュワードシップ活動を含む)の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべきである。その際、上場会社は、企業年金の受益者と会社との間に生じ得る利益相反が適切に管理されるようにすべきである。
<安川電機の記載>
企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮
当社は、安川電機企業年金基金を通じて、以下のとおり企業年金の積立金の運用を行っています。
・企業年金基金に対して、会社からは企業年金の運用に適切な資質をもった人材を代議員として選出しています。
・企業年金の運用に関して、受益者の利益の最大化および利益相反取引の適切な管理を目的に、資産運用委員会での意見を踏まえて、代議員会で決定しています。
・そのほか、運用コンサルタントと連繋し、適切な運用を図るとともに、企業年金の運用に携わる人材の専門性を高めています。
<本多通信工業の記載>
【対象外】 当社の退職年金制度は、確定拠出企業年金のため、企業年金の積立金の運用はなく、財政状況への影響もありません。

なお、パブリックコメントへの回答では、旧CGコードに基づきCG報告書を提出する場合はその旨を明記するよう求められていたが(東証『「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリック・コメントの結果について』5ページ「24」参照)、東証一部上場企業の中でもそのような記載があった事例は本日(2018年6月13日)現在5社(武田薬品工業、ヤマザワ、みずほフィナンシャルグループ、ベクトル、カゴメ)にとどまっている。投資家をはじめとするCG報告書の読み手にとっての分かりやすさ(準拠しているCGコードのバージョンが現行CGコードor改訂CGコードのいずれなのか)という点からは問題がありそうだ。

2018/06/12 経営幹部のジェンダー・ダイバーシティを実現する難しさ

政府は女性が活躍する社会の実現を目指し、上場企業役員に占める女性の割合を「5%(早期)、更に10%を目指す(2020年)」ことを盛り込んだ第4次男女共同参画基本計画(15ページ参照)を2015年12月に閣議決定しているが、こうした流れを受け、(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コードの原則4-11では、役員構成の多様性の一つとして「ジェンダー」が例示されたところだ(2018年3月16日のニュース「続報・CGコード改訂 「ジェンダー・ダイバーシティ」のコンプライ基準」参照)。

原則4-11の改訂は、女性社外役員の選任ニーズに拍車をかけることになるだろう。欧州では、かねてから1人の女性が複数の会社の社外取締役を兼任する「黄金のスカート(golden skirt)」現象が問題視されているが(2015年11月4日のニュース「欧州で問題化する“ゴールデン・スカート”現象」参照)、いずれ日本でも同様の状況が起こるかもしれない。

このように女性の社外役員を選任することにより役員構成の女性比率を高めることはできても、真のジェンダー・ダイバーシティの実現と言える「CEOをはじめとする経営幹部の女性比率」を高めることは容易ではない。これは、日本よりジェンダー・ダイバーシティが進む欧米企業でも同様だ。例えば米国では・・・

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2018/06/12 経営幹部のジェンダー・ダイバーシティを実現する難しさ(会員限定)

政府は女性が活躍する社会の実現を目指し、上場企業役員に占める女性の割合を「5%(早期)、更に10%を目指す(2020年)」ことを盛り込んだ第4次男女共同参画基本計画(15ページ参照)を2015年12月に閣議決定しているが、こうした流れを受け、(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コードの原則4-11では、役員構成の多様性の一つとして「ジェンダー」が例示されたところだ(2018年3月16日のニュース「続報・CGコード改訂 「ジェンダー・ダイバーシティ」のコンプライ基準」参照)。

原則4-11の改訂は、女性社外役員の選任ニーズに拍車をかけることになるだろう。欧州では、かねてから1人の女性が複数の会社の社外取締役を兼任する「黄金のスカート(golden skirt)」現象が問題視されているが(2015年11月4日のニュース「欧州で問題化する“ゴールデン・スカート”現象」参照)、いずれ日本でも同様の状況が起こるかもしれない。

このように女性の社外役員を選任することにより役員構成の女性比率を高めることはできても、真のジェンダー・ダイバーシティの実現と言える「CEOをはじめとする経営幹部の女性比率」を高めることは容易ではない。これは、日本よりジェンダー・ダイバーシティが進む欧米企業でも同様だ。例えば米国では現在、大手企業における女性CEOの減少が問題になっている。Fortune 500企業における女性CEOの数は、その数が5人にも満たなかった2000年前後からほぼ右肩上がりで増加を続け、2017年には前年比+6.4%の32人と過去最高を記録した。しかし、2018年5月時点の集計によると、一転して前年比▲25%の24人と大幅減となり、Fortune 500企業全体に占める女性CEOの割合は5%未満に落ち込んでいる。

Fortune 500 : 米国の経済紙Fortune(フォーチュン)が作成した「総収入」で全米上位500社の企業のリスト。年1回更新される。なお、リストには未上場企業も含まれる。

このように女性CEOの数が一気に25%も減少した最大の理由は、そもそも経営幹部候補となる女性の母集団が小さいということに尽きる。このため、女性CEOが退任した場合、後任のCEOには男性が就任するケースが多い。一般的に、日本企業はもちろん欧米企業でも、管理職に昇進するタイミングから女性の占める割合が減少し始め、役職が上がっていくにつれてその割合はさらに減少していく。女性の社会進出が進んでいるイメージが強い米国の企業さえ、管理職になる割合は女性が男性よりも2割程度低いという調査結果もある。

また、女性が就く「職種」が、経営幹部に女性が少ない一因になっているとの指摘もある。管理職に昇進している女性の職種は法務や経理等が中心で、CEOをはじめとする経営幹部に昇進しやすい経営企画等、企業の収益創出に直結する職種に就いている女性の割合は、米国企業でも2割程度しかないとのデータもある。

このように、将来の経営幹部候補となる女性の管理職割合が低かったり、職種が限定的だったりする背景には、日本はもちろん欧米でも、未だに「子育て=女性の役割」という意識が潜在的に強いということがある。子育てのためにパートタイム就業や短時間勤務制度を利用する女性社員は多いが、多くの企業では、これにより女性社員のキャリアが失速しているという実態がある。近年は男性も育児に参加するケースが増えているが、有給休暇の取得を増やしたり出退社時間を調整することはあっても、パートタイム就業や短時間勤務制度まで利用するケースは少ないため、キャリアへの影響は少ない。

多くの女性が経営幹部として活躍するようになるためには、現在政府が働き方改革の一環として進めている労働時間の短縮(≒会社全体の業務量の調整)、さらにはパートタイム就業や短時間勤務制度の利用をキャリアの失速ととらえる企業風土の改革など、現経営陣が取り組むべき課題は多いだろう。

2018/06/11 英国のCG改革が迷走?株主委員会設置議案が政府の反対票により否決

(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コードでは補充原則4-10①が厳格化され、「任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会」を設置しない企業は、設置しない理由を「エクスプレイン」しなければならないこととされたところだ(2018年4月5日のニュース『任意の諮問委員会、設置しなければ「エクスプレイン」必要に』参照)。一方、これらの委員会の設置は当然となっている英国では、同国のメガバンクであり、2008年のリーマンショックを受け政府から200億ポンドの公的資金の注入を受け現在も株式の70%を政府によって保有されているロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の今年5月の株主総会で、「株主委員会」の設置が個人株主側から提案されていたのは当フォーラムで既報のとおり(2018年3月27日掲載の新用語・難解用語「株主委員会」参照)。株主委員会は文字通り株主により構成された委員会であるが、RBSの株主総会で提案された株主委員会は何らかの権限を持つのではなく、諮問機関的な役割を付与され、幹部職員の報酬などを含むRBSの経営方針や戦略、ガバナンスについて検討し、意見を述べることが想定されていた。

株主委員会はスウェーデンの企業ではごく一般的に設置されているものの、英国企業ではまだ一社も設置しているところがなかっただけに、RBSで株主委員会が設置されれば、英国企業全体のコーポレートガバナンス強化のきっかっけになることはもちろん、コーポレートガバナンス改革で英国の影響を強く受ける日本でも、株主と企業の関わり方について一石を投じることになるとの見方もあっただけに、RBSの株主総会の行方に注目が集まっていた。

結論から言えば、・・・

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2018/06/11 英国のCG改革が迷走?株主委員会設置議案が政府の反対票により否決(会員限定)

(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コードでは補充原則4-10①が厳格化され、「任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会」を設置しない企業は、設置しない理由を「エクスプレイン」しなければならないこととされたところだ(2018年4月5日のニュース『任意の諮問委員会、設置しなければ「エクスプレイン」必要に』参照)。一方、これらの委員会の設置は当然となっている英国では、同国のメガバンクであり、2008年のリーマンショックを受け政府から200億ポンドの公的資金の注入を受け現在も株式の70%を政府によって保有されているロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の今年5月の株主総会で、「株主委員会」の設置が個人株主側から提案されていたのは当フォーラムで既報のとおり(2018年3月27日掲載の新用語・難解用語「株主委員会」参照)。株主委員会は文字通り株主により構成された委員会であるが、RBSの株主総会で提案された株主委員会は何らかの権限を持つのではなく、諮問機関的な役割を付与され、幹部職員の報酬などを含むRBSの経営方針や戦略、ガバナンスについて検討し、意見を述べることが想定されていた。

株主委員会はスウェーデンの企業ではごく一般的に設置されているものの、英国企業ではまだ一社も設置しているところがなかっただけに、RBSで株主委員会が設置されれば、英国企業全体のコーポレートガバナンス強化のきっかっけになることはもちろん、コーポレートガバナンス改革で英国の影響を強く受ける日本でも、株主と企業の関わり方について一石を投じることになるとの見方もあっただけに、RBSの株主総会の行方に注目が集まっていた。

結論から言えば、RBSにおける株主委員会の設置議案は否決されている。株主委員会の設置は「特別決議事項」であり、その可決には株主75%の賛成が必要となるが、5月30日開催された同社の株主総会では、英国財務省が100%所有する組織である「英国政府投資会社」を含め、株主総会に出席した株主の実に98%が本議案に反対票を投じている。

英国政府投資会社 : 英国財務省が100%所有する組織で、国有企業の株式の管理や国有資産の売却等に関する政府のサポートなどを役割とする。

上述のとおり、RBSの株式の70%は英国政府によって保有されており、本議案が可決するかどうかは英国政府の意向次第と言える状況だったが、英国政府は、実質的な国有企業と言えるRBSに個人株主の要請を受け株主委員会を設立することにある種の煩わしさを感じたのかもしれない。ただ、英国政府が2016年11月末に公表したグリーン・ペーパーと呼ばれるコーポレートガバナンス改革案では、幹部職員の報酬や指名等に関して株主とのエンゲージメントを強化する方法の一つとして「株主委員会の設置」が挙げられている。実質的な国有企業とはいえ、RBSにおける株主委員会の設置議案に反対するという英国政府の今回の行動は明らかに自ら打ち出したコーポレートガバナンス改革案と矛盾するものであり、投資家などからは失望の声も上がっている。