“独立した”諮問委員会の設置で社外取締役の増員も
―――「独立社外取締役の2名以上の選任(原則4-8)」は2015年6月に導入された日本版コーポレートガバナンス・コードの目玉の一つでしたが、導入以来初となる2018年の改訂では同原則が変更され、「3分の1以上の独立社外取締役」を推奨するような表現となりました。日本企業における独立社外取締役の選任状況についてはどのような感想をお持ちでしょうか。
【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】の改訂部分
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。 また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。 |
北川 東証一部上場企業でも独立社外取締役が全取締役の3分の1以上を占めるところは3割に満たないという現状(注:東証の2017年7月26日のデータでは27.2%)は、まだ物足りないというのが率直な感想です。 もちろん単に数を揃えればよいと言っているわけではなく、委員会の運営や取締役会のダイバーシティといった点を考慮すると、あと数人は必要でしょう。実際、欧米をはじめとする海外企業では6~7人の社外取締役を置いているケースが多くなっています。
―――2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、任意の指名委員会・報酬委員会について規定する補充原則4-10①から「例えば」と「など」という文言が削除され、「任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置」を設置しなければ事実上エクスプレインが求められることとなりましたが、企業にとってはこの改訂も社外取締役増員へのプレッシャーとなるのでしょうか。
【補充原則4-10①】の改訂部分
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。 |
北川 任意の指名委員会、報酬委員会を設置するのが当然になっていくはずですし、今回の改訂で「独立した」という文言が追加された以上、各委員会における社外取締役の割合も過半数はクリアしたいところです。そう考えると、本原則に対応するために社外取締役の増員を図る企業が出て来る可能性はあるでしょう。
任意の指名委員会、報酬委員会についてはコーポレートガバナンス・コード導入時に設置済みという上場企業も少なくありませんが、欧米企業の例を見ると、他にも様々な委員会を設置している企業が目に付きます。例えば財務政策やIRなどについて検討する「ファイナンス委員会」は業種を問わずよく見られますし、サプライチェーンで問題(例えば児童労働など)が起きやすい小売業などではCSR委員会やサステナビリティ(持続可能性)委員会、化学メーカーや鉱山会社などでは「安全委員会」といった具合に、自社の特性に応じて5つ、6つ位は委員会があるのが通常です。それぞれの委員会が3人の委員で構成されるとして、そのうち最低2人は社外取締役が務めるとなれば、5つ委員会がある企業では単純計算で10人、1人の社外取締役が複数の委員会の委員を兼務するとしても、5~6人の社外取締役が必要ということになります。
企業は“見栄え”の良い人ばかりを集めることから卒業を
―――それだけ委員会のバリエーションがあると、様々な専門性を持った社外取締役が必要になりますね。
北川 そうですね。2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、役員構成の多様性として「ジェンダー」と「国際性」が例示されましたが(原則4-11. 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件)、能力の多様化も非常に重要です。日本企業ではとりあえず元経営者や弁護士、公認会計士などを社外取締役や社外監査役に選任するケースが目に付きますが、取締役会が議論すべき課題には様々なものがあるため、他の専門性が必要になるケースも出て来るはずです。
役員構成については機関投資家の見る目も変わって来て、「企業価値を上げるための布陣になっているのか」「株主のためのエージェント機能(株主のために執行側が何をすべきかをアドバイスorチェックする)を果たせる人材なのか」といった観点から、各役員のバックグラウンドや専門性をしっかり見るようになりつつあります。たとえ改訂コーポレートガバナンス・コードが推奨する「3分の1以上の独立社外取締役」を揃えていたとしても、多様性に欠ける取締役会に対しては機関投資家の評価も低くなります。
企業側も、有名経営者や著名文化人など“見栄え”の良い人達を集めることばかりに一生懸命になることからはそろそろ卒業するべきです。そもそも自社がどういう方向に向かおうとしているのか、そのために自社にとって課題となるものは何かといった点を念頭に置いたうえで、どういう人が自社の社外取締役あるいは社外監査役に適しているのかを真剣に考えるべきであり、それは各社それぞれ異なるはずです。役員構成は取締役会評価においても重要なポイントの一つになります。
自社に必要な人材を「掘り起こす」ことが企業の役目に
―――ただ、こうした多様な専門家を見つけて来るのは企業にとっても容易ではないのではないでしょうか?
北川 確かにこれまでは多くの企業が「独立社外取締役2名以上」というコーポレートガバナンス・コードが求める要件を満たすことで精一杯だったと思いますが、時間の経過とともに企業、機関投資家ともに社外取締役(候補)を見る目が肥えてきているはずですし、これからは自社に必要な人材を「掘り起こす」ことが企業の役目になっていくと思います。こうした自覚のない企業は今後機関投資からも問題視されるようになるでしょう。先進的な企業は着々と手を打っています。
―――従来からある3委員会(監査委員会、指名委員会、報酬委員会)のいずれかであれば、(元)経営者や弁護士、会計士など候補者がイメージしやすいのですが、CSRやサステナビリティの委員会となるとそもそも候補となる人材の母数が少ないような気がします。
北川 CSRという言葉が世に出てきてから既に20年以上経過していますので、この分野で経験がある人は実は結構います。例えば企業のCSR部門に長年所属していた方です。この分野には女性も多いので、ジェンダー・ダイバーシティという点も考えれば、こういう方を社外取締役に選任すれば一石二鳥です。
ESGに優れた企業に投資するESG投資が本格化する中、今後はCSRやサステナビリティに詳しい社外取締役へのニーズが高まるでしょう。実際、この分野における企業のリスクは高まっています。こういった問題に対し先鋭的な意見を述べるNGOなどは以前から存在しますが、最近は“ESGアクティビスト”と呼ばれる機関投資家も出現しています。「途上国とのフェアートレード」「人権問題への配慮」等これまで指摘されてきた問題のみならず、例えば取引先の違法行為といったサプライチェーン全体に対する広範囲かつ細かい目配せも必要となってきました。
このように、企業にとっては一見些細なこと、あるいは自社とは直接関係ないと思えるようなことでも、それが自社のレピュテーションに致命的なダメージを与える可能性もあります。CSRやサステナビリティというと「企業の社会的責任」といったニュアンスで捉えられることも多いですが、このように考えると、実は紛れもなく“事業のリスクマネジメント”の一分野と言えますので、リスクマネジメントの分野で経験を積んだ人材も社外取締役としては適任かもしれません。また、海外企業で起きたことが少し時間を置いて日本企業にも起こるケースも多いので、国際感覚に優れた人材やグローバルで起きている事象に対する判断能力が高い人材へのニーズも高まるでしょう。
また、CSRやサステナビリティに関わる事象にいかに対処するかによって長期的な企業価値が変わってきますので、今後は優れた機関投資家ほどボード(取締役メンバー)の中にこの分野の人材がいるか否かに注目してくると思います。
―――今お聞きしたお話はESGのうちE(環境)とS(社会)に関するものだと思うのですが、G(ガバナンス)についてカバーできるのはどのようなバックグラウンドを持った方なのでしょうか。
北川 一番の適任者はキャピタルマーケット(資本市場、金融市場)が分かっている方でしょうね。こういう人材は企業にとっての“敵方”から探してくるというのも一つの手です。つまり運用機関にいた人です。これは海外企業ではよくある話ですよ。ただ、日本企業からすると、それはあまりに露骨すぎるというのであれば、運用会社出身でシンクタンクや大学で活躍されている人を探すというのも考えられるでしょう。
時価総額の低い中堅企業にこそ投資家出身の社外役員を
―――最近はアクティビスト投資家からの株主提案も増えていると聞きます。キャピタルマーケットを理解している方を社外役員に迎え入れることは、企業にとって自衛手段の一つになるのでしょうか。
北川 現在、投資家の世界は二極化している状況にあります。ESGやSDGsを重視し、真の意味での長期投資を標榜する投資家が増加する一方で、他の複数の投資家から賛同を得られることを念頭に置きながら、経営陣の刷新や急進的な財務政策(大幅増配等)を迫る投資家の勢力も昨年(2017年)あたりから急伸しています。株主提案の数が増加しているのもそのためです。昨年は現実にアクティビストの提案が可決されたケースも出ました。
SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、下図の17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
こうしたリスクを認識しているのは主にtop-tier(トップクラス)の企業であり、これらの企業は自社の株式をどういう投資家が保有し、彼らがどういう意見を持っているのかをしっかりチェックしたうえで隙のないガバナンス体制を構築しています。
逆に言うと、投資家から見れば突っ込みどころ満載のガバナンス体制の企業、その中でも時価総額がそれほど大きくないところなどは、持ち合いの解消が進む昨今、いきなりアクティビストがトップ株主になってしまうということが現実に起こり得ます。日本の投資家は海外投資家に比べるとまだまだ穏健なところが多いのですが、これから彼らのスタンスが海外投資家に近付いてくれば、企業にとってはいきなり試練が訪れるというリスクが高まることになるでしょうね。
―――そのような事態を避けるためにはどうすればよいのでしょうか?
北川 何十パーセントかの株式を保有されてから法律事務所に駆け込んだところで、もはや事実上経営権を取得されているわけですから「時、既に遅し」です。彼らからファーストレターが来た時点できちっと対応できる体制が整っているかどうかが重要だと思います。
ただ、日々のオペレーションに追われている業務執行役員や経営トップの中で、こうしたことに対応する能力を持った人は恐らくあまりいないと思います。また、投資家をファイナンス理論で論破できるCFOも、残念ながら現状ではほとんどいないでしょう。
そのような企業には、単なる“お飾り”ではなく、先鋭的な投資家も説得できる力のある、本当の意味で“防波堤”になってくれる社外役員が必要です。別に社外役員だからといって1か月に1回だけ会社に来るのではなく、時と場合によっては週に2、3日ぐらい顔を出して、例えばROEを上げていく方策、財務政策、配当施策などについてアドバイスしたり、投資家に対する情報発信をサポートしたりするといったスタイルをとってもよいと思います。
社外役員のサクセッションプラン(会員限定)