2018/05/21 6割超の株主が反対または投票を棄権した高額賞与議案が可決

来月に迫った3月決算会社の定時株主総会では、昨年に引き続き多くの企業が経営者報酬制度の見直しを諮ることが見込まれる。2018年5月11日のニュース『投資家⽬線の「望ましい経営者報酬」』でもお伝えしたとおり、機関投資家からは、日本企業の経営者報酬としては「固定報酬」「業績連動報酬」「⻑期インセンティブ報酬」の割合が3分の1ずつの“3階建て”が望ましいとの声も聞かれるが、この場合、経営者報酬は最大で3倍になる可能性があるため、株主の賛同を得られるかどうか懸念を抱く企業もある。実際、報酬限度額を5倍以上に増加させた資生堂(12月決算・3月総会)の「取締役の報酬額改定」議案への賛成率が77.9%にとどまったこともその懸念に拍車をかけているようだ(2018年4月6日のニュース「ガバナンス優良企業で、取締役報酬額改定議案に低賛成率」参照)。

もっとも、上述のとおり、機関投資家は現在の⽇本企業の経営者報酬は低いと考えており、特に株式報酬については欧米企業との差は大きい。それを象徴する“事件”が・・・

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2018/05/21 6割超の株主が反対または投票を棄権した高額賞与議案が可決(会員限定)

来月に迫った3月決算会社の定時株主総会では、昨年に引き続き多くの企業が経営者報酬制度の見直しを諮ることが見込まれる。2018年5月11日のニュース『投資家⽬線の「望ましい経営者報酬」』でもお伝えしたとおり、機関投資家からは、日本企業の経営者報酬としては「固定報酬」「業績連動報酬」「⻑期インセンティブ報酬」の割合が3分の1ずつの“3階建て”が望ましいとの声も聞かれるが、この場合、経営者報酬は最大で3倍になる可能性があるため、株主の賛同を得られるかどうか懸念を抱く企業もある。実際、報酬限度額を5倍以上に増加させた資生堂(12月決算・3月総会)の「取締役の報酬額改定」議案への賛成率が77.9%にとどまったこともその懸念に拍車をかけているようだ(2018年4月6日のニュース「ガバナンス優良企業で、取締役報酬額改定議案に低賛成率」参照)。

もっとも、上述のとおり、機関投資家は現在の⽇本企業の経営者報酬は低いと考えており、特に株式報酬については欧米企業との差は大きい。それを象徴する“事件”が英国企業の4月総会で発生している。

2018年4月25日に開催された英国の大手住宅建設会社パーシモン社の年次株主総会では、同社幹部への高額賞与支給議案に対し、64%もの株主が反対票を投じるかまたは投票を棄権した。CEOへの賞与は実に7500万ポンド(112億5千万円 ※1ポンド=150円で換算)にも及ぶ。ところが、この賞与支給議案は結果として可決されている。これは、棄権票は賛否にカウントされないため。棄権票を除くと賛成率は51.48%となり、異常とも言える高額賞与支給議案は辛くも否決を免れている。

とはいえ、51.48%という賛成率は今年のFTSE350企業の報酬議案としては最低水準であり、英国でも大きな話題を呼んだ。CEOへの賞与の金額だけを見ても日本企業では考えられない話だが、そもそもこのような天文学的な金額がはじき出された理由は、パーシモン社の幹部の賞与額は同社の株価と連動して決定されることになっているうえ、「上限」が設けられていないことにある。実際、同社の株価は、英国政府の住宅購入支援策による住宅需要の高まりにより、2012年当時の6.57ポンドから現在は 27ポンドにまで上昇している。同社がこの巨額の賞与の根拠となった株価連動の報酬スキームを導入したのは2012年と、まさに今後の株価の上昇を見込んだかのような絶妙のタイミングだったということになる。

FTSE350 : ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位350銘柄による時価総額加重平均型の株価指数

これに対し、パーシモン社の2.3%の株を保有する英国最大の運用機関であるスタンダード・アバディーン・インベストメントのスチュワードシップ部門統括責任者は、同社の株主総会で、パーシモン社の役員を「会社の最善の利益のために行動する法的義務を怠っている」と批判している。英国では大手機関投資家が株主総会で発言することは珍しいだけに(通常は個別に対話)、よほど腹に据えかねたということだろう。欧米企業の高額経営者報酬に慣れている外国人投資家が日本企業の経営者報酬増額を問題視するケースはまだ当分発生しない可能性が高そうだ。

2018/05/18 統合報告書の「質」向上へ 経産省が新たな取り組み

従来から統合報告書を公表してきた日本の上場企業の多くが作成の拠り所としてきたのが、GRI(Global Reporting Initiative=グローバル・レポーティング・イニシアティブ)のガイドラインや、IIRC(国際統合報告評議会= International Integrated Reporting Council)のIIRCフレームワークだが、日本版・統合報告フレームワークとも言えるのが、経済産業省が昨年(2017年)5月に公表した「価値協創ガイダンス」だ(非情報の開示の指針については「【2017年9月の課題】非財務情報の準備」の解答も参照)。

統合報告書 : 統合報告とは「企業の持続的な成長を伝えるプロセス」であり、統合報告書は統合報告の成果物(アウトプット)を指す。
IRC(International Integrated Reporting Council=国際統合報告評議会)が2013年12月に公表した「国際統合報告フレームワーク」では、統合報告を「企業がどのように持続的な成長を実現しようとしているのかについて報告するもの」と定義している。具体的には、ビジネス上の様々な問題にどう対処するのか、自社の将来性をどうとらえているのか、中長期的な経営戦略をどう描くのか、どのように長期的な企業価値を作り出そうとしているのか、といった内容の報告であり、そこには「非財務情報」が多数含まれる。
GRI : GRIは地球環境問題の深刻化を背景に1997年、国連傘下のNGOとして設立された。当初は環境報告書の国際基準を策定することを目的にしていたが、その後、「経済」「環境」「社会」の3つの側面から企業を評価するトリプルボトムラインの考え方を採用することで、GRIのガイドラインは持続可能性(サステナビリティ)報告書の指針となった。
IIRC : 国際的に合意された統合報告のフレームワークを構築するため、2010年8月に設立された英国を拠点とする民間の非営利法人。規制当局、投資家、企業、会計の専門家、NGOにより構成される国際的な連合組織である。また、IFAC(国際会計士連盟)、IASB(国際会計基準審議会)などとも協力関係にある。

日本企業の間では、価値協創ガイダンスは既にGRIやIIRCといった海外のフレームワークよりも活用が進んでいるとの調査結果もあるが(2018年4月20日 日本IR協議会調査結果13~16ページ参照)、経済産業省が価値協創ガイダンスに基づく統合報告書の作成を促進する新たな取り組みを開始する。・・・

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2018/05/18 統合報告書の「質」向上へ 経産省が新たな取り組み(会員限定)

従来から統合報告書を公表してきた日本の上場企業の多くが作成の拠り所としてきたのが、GRI(Global Reporting Initiative=グローバル・レポーティング・イニシアティブ)のガイドラインや、IIRC(国際統合報告評議会= International Integrated Reporting Council)のIIRCフレームワークだが、日本版・統合報告フレームワークとも言えるのが、経済産業省が昨年(2017年)5月に公表した「価値協創ガイダンス」だ(非情報の開示の指針については「【2017年9月の課題】非財務情報の準備」の解答も参照)。

統合報告書 : 統合報告とは「企業の持続的な成長を伝えるプロセス」であり、統合報告書は統合報告の成果物(アウトプット)を指す。
IRC(International Integrated Reporting Council=国際統合報告評議会)が2013年12月に公表した「国際統合報告フレームワーク」では、統合報告を「企業がどのように持続的な成長を実現しようとしているのかについて報告するもの」と定義している。具体的には、ビジネス上の様々な問題にどう対処するのか、自社の将来性をどうとらえているのか、中長期的な経営戦略をどう描くのか、どのように長期的な企業価値を作り出そうとしているのか、といった内容の報告であり、そこには「非財務情報」が多数含まれる。
GRI : GRIは地球環境問題の深刻化を背景に1997年、国連傘下のNGOとして設立された。当初は環境報告書の国際基準を策定することを目的にしていたが、その後、「経済」「環境」「社会」の3つの側面から企業を評価するトリプルボトムラインの考え方を採用することで、GRIのガイドラインは持続可能性(サステナビリティ)報告書の指針となった。
IIRC : 国際的に合意された統合報告のフレームワークを構築するため、2010年8月に設立された英国を拠点とする民間の非営利法人。規制当局、投資家、企業、会計の専門家、NGOにより構成される国際的な連合組織である。また、IFAC(国際会計士連盟)、IASB(国際会計基準審議会)などとも協力関係にある。

日本企業の間では、価値協創ガイダンスは既にGRIやIIRCといった海外のフレームワークよりも活用が進んでいるとの調査結果もあるが(2018年4月20日 日本IR協議会調査結果13~16ページ参照)、経済産業省が価値協創ガイダンスに基づく統合報告書の作成を促進する新たな取り組みを開始する。

経済産業省に設置された「統合報告・ESG対話フォーラム」は本日(2018年5月18日)、報告資料を公表した。同フォーラムは「伊藤レポート2.0」の提言にある「企業の統合的な情報開示と投資家との対話を促進するプラットフォームの設立」に基づいて設置されたもので、昨年12月から企業の開示、投資家との対話を促進する方策について議論を重ねてきた。今回、以下のとおり、開示と対話の促進のために必要な「4つの視点」と「4つのアクション」を提言している。

<開示と対話の促進のために必要な4つの視点>
必要な視点 具体的な内容
(1)「目的を持った対話」を理解する 企業と投資家がともに、開示・対話を単なるコストではなく、企業価値向上に向けた投資として捉え、「目的」を明確にして取り組むこと。
(2)共通言語を活用する 企業や投資家の多様性・独自性を尊重しつつも、「価値協創ガイダンス」等の共通言語を使うことで、より効果的・効率的な情報開示や対話を行うこと。
(3)社内でも対話する 「価値協創ガイダンス」を活用した開示や対話を契機として、経営者のみならず社外取締役や実務担当者も含む社内の対話を深め、自社の価値創造プロセスを理解すること。
(4)投資家が企業評価手法を示す ESG等の非財務情報や対話をどう投資判断に反映するか見えないことで企業が開示・対話に 消極的にならないよう、「価値協創ガイダンス」等を使って投資家が自らの評価手法を示すこと。
<4つのアクション>
アクション 具体的な内容
(1)「価値協創ガイダンス」のロゴマークの作成 ・価値協創ガイダンスを参照して作成された開示書類等には「ロゴマーク」の表示を可能とする。「ロゴマーク」の表示により、国内上場企業の統合報告等の差別化をサポート(積極的に開示を行う企業の支援)。
・企業側から統合思考・統合開示への意志を表明することで、機関投資家との対話の契機に。
(2)機関投資家による「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」の作成 ・ファンドマネージャーとして、企業が価値協創ガイダンスに基づく開示を行った場合にはその内容を参照し、精読・咀嚼した上で対話に臨むことや、ESG・非財務情報を活用していることを表明(宣言)する。
・積極的に価値協創ガイダンスに基づく開示を行おうとする企業を後押しし、対話の質を高める。
(3)各産業・分野への価値協創ガイダンスの浸透拡大(各種ガイドライン等間の連携促進) ・バイオメディカル産業版「価値協創ガイダンス」の策定、価値協創ガイダンスを参考に審査基準を設定した「産業保安・製品安全分野での統合報告書等の情報開示の評価」の実施など、各産業における価値協創ガイダンスの活用の推進。
・価値協創ガイダンスと「CGSガイドライン(2017年3月制定)」や「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン(2017年3月制定)」等分野別のガイドラインとの関係性を明示しつつ、それらの今後の改訂を整合的・補完的に行うことで、ユーザーが効果的・統合的にそれぞれの文書を活用できように取り組む。
(4)中小型株における開示・対話のあり方の検討・情報発信 ・統合報告・ESG対話フォーラムフォーラムの分科会である「関西分科会」において、IR 担当者が数名である企業の開示・対話に携わる実務家が集まり、リソースが必ずしも潤沢ではない企業にとっての価値協創ガイダンスの活用方法の検討や取組事例の共有を行う。
・価値協創ガイダンス利用企業の裾野を拡大し、我が国上場企業全体の底上げを図る。

上記のアクションの中で、企業に大きな影響を与えることになりそうなのが、「価値協創ガイダンス」のロゴマーク」と「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」の作成だろう。

上述のとおり、日本企業の間では、既にGRI やIIRCといった海外のフレームワークよりも価値協創ガイダンスに基づく統合報告書の作成が進んでいる。こうした中、機関投資家からは「価値協創ガイダンスを参照して作成した統合報告書等を可視化して欲しい」という声も挙がっていた。今回のロゴマーク作成は、こうした機関投資家の声に応えるとともに、企業に対しても「価値協創ガイダンス」に基づく統合報告書の作成を促進する効果がありそうだ。経済産業省も企業に広くロゴマークの利用を呼び掛けており、ロゴマークの入った統合報告書を目にする日も近いだろう。なお、ロゴマークには何パターンかの色やデザイン、また使用規約があるので、これらを確認してから使用前する必要がある(詳細はこちらを参照)

<価値協創ガイダンスのロゴ ※他のパターンもあり>
36480


企業による価値協創ガイダンスの利用が広がる一方で、企業側には「投資家は本当にこのガイダンスを利用しているのか」という疑念が根強くある。そこで経済産業省は、企業向けにロゴを作成するのと併せ、投資家に対しても、「価値協創ガイダンス」に基づく情報開示を歓迎し、投資判断プロセスに組み込むこと等の宣言を求める「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」も作成・公表しており、今後、機関投資家による宣言への賛同を広げたいとしている。

さらに経済産業省は、今回の報告資料の中で、統合報告や企業価値に関する表彰制度を持つ東京証券取引所(2017年度から「企業価値向上表彰」の審査に価値協創ガイダンスを活用)、WICI(The World Intellectual Capital/Assets Initiative 2017年度の「統合報告優良企業賞」 の審査に価値協創ガイダンスを活用)等と連携する方針も示している。

統合報告書を作成する企業は既に相当数に上っており、作成企業数の伸び自体は鈍化している。統合報告書は単に作成することから「質」の向上が求められるステージに入ったと言える。そのためにも、価値協創ガイダンスを参照しながら自社の統合報告書の不十分な点や問題点を洗い出し改善を図ることは、投資家との対話の質を向上させ、株式を長期保有してもらうためにも有益だろう。

2018/05/17 KAMの記載、株主総会の後ろ倒しや監査役監査報告書に影響も

2017年11月15日のニュース「監査報告書へのKAMの記載を巡る関係者の見方」でお伝えした「監査報告書へのKAMの記載」の実施まで、いよいよ秒読みとなってきた(監査報告書へのKAMの記載については【特集】長文式監査報告書が企業に与える影響新用語・難解用語の解説も参照)。

KAM : 監査人(監査法人)が、当期の会計監査において、特に重要と判断した事項のこと。KAMとは「Key Audit Matters」の略で、読み方は「カム」。

金融庁に設置されている企業会計審議会監査部会が5月8日に公表しパブコメ(2018年6月6日まで募集)に付している監査基準の改訂案(以下、パブコメ案)では、監査人(公認会計士)に対し、監査報告書に「主要な監査上の検討事項」を記載することを求めている。この「主要な監査上の検討事項」とは「当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項(※後述)のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項のこと」であり、KAMを指している。改訂案によると、監査人は、企業の財務諸表にKAMの対象となる開示項目がある場合には、読み手が当該開示項目を参照できるよう財務諸表における掲載箇所を明示したうえで、会計監査に関する下記の事項を監査報告書に記載する必要がある。

・主要な監査上の検討事項の内容
・監査人が主要な監査上の検討事項であると決定した理由
・監査における監査人の対応

KAMの記載が必要になるのは、下表のとおり企業が金融商品取引法監査(すなわち有価証券報告書で開示される連結財務諸表および単体の財務諸表に対する公認会計士の監査)の監査報告書に限られる(例外については下表の*1*2参照)。一方、会社法監査(すなわち連結計算書類および計算書類に対する会計監査人の監査)の監査報告書には記載不要となっている。

KAMの記載が必要になる監査報告書
  連結 単体
金商法監査(有価証券報告書に添付)*1 記載必要 記載必要 (*2
会社法監査(計算書類に添付) 記載不要

*1 非上場企業でも1億円以上の公募をするなどして有価証券報告書を継続的に提出している企業があるが、これらの企業のうち、資本金5億円未満または売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除く。
*2 連結財務諸表作成会社では、個別財務諸表、連結財務諸表の両方の監査報告書にKAMの記載が求められるものの、両方に同一内容の「主要な監査上の検討事項」が記載されている場合は、単体財務諸表の監査報告書への記載は省略可能。

企業にとって最も気になるのは、どのようなことがKAMとして記載されるのかという点だろう。日本公認会計士協会は昨年(2017年)11月、主に大手監査法人とその被監査会社26社(以下、試行企業)の協力を得てKAMの記載を試行した結果を取りまとめた「KAM試行の取りまとめ」を公表しているが、これによると、試行企業では主なKAMとして下記の項目が選定されていた。

・資産(のれん以外の固定資産)の減損
企業結合に関する会計処理、のれんの計上および評価
・引当金・資産除去債務偶発債務

企業結合に関する会計処理 : たとえば「取得」に該当する企業結合(合併)においては「取得原価の算定」「取得原価の配分」「のれんの計上と償却」「増加資本」といった会計処理が難しく、発生頻度が少ないことから企業内にノウハウが蓄積しづらいこともあり、誤謬が生じがちである。
資産除去債務 : 有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるもの。資産除去債務は原則として発生時に、当該有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)を算定して負債に計上しなければならない。資産除去債務は見積もり計算に基づいて算定される以上恣意性が入りやすい。
偶発債務 : 債務保証や手形の裏書のように、期末日より前に行った行為であり、現時点では確定債務ではないものの、将来一定の条件が成就する(例えば、保証債務であれば「保証債務の履行を求められる」)ことで確定債務になる可能性があるもの

また、試行企業について監査法人が選定したKAMの主な選定理由は次のとおり。

・財務諸表に与える金額的重要性が高い。
・財務数値の算定プロセス(例えば、評価や見積プロセス)が複雑である。
・財務数値の算定に、将来事象に係る経営者の意思や主観的判断の影響を大きく受ける要素が含まれている。

監査上問題となりそうな事項がKAMに選定されているのは、KAMの趣旨(監査プロセスの透明化)からして当然と言えよう。

これらがKAMとして監査法人の監査報告書に記載されることで、それを見た株主や投資家から質問が増えることは容易に想像できる。実際、上記試行の際には、「良くも悪くも、株主や投資家からの質問は増加すると考える」との感想を示す企業があった。企業としては、KAMに選定された項目については、投資家との対話や定時株主総会の前に想定問答集を整えておく必要がありそうだ。

実施時期についてパブコメ案では、東証1部上場企業にあっては、できるだけ2020年3月決算の監査から早期適用が行われるよう、東京証券取引所および日本公認会計士協会等の関係機関における早期適用の実施に向けた取組みを期待するとしている(資料3の2ページ目を参照)。金融庁の思惑どおりとなれば、3月決算企業の監査報告書には来期からKAMが記載されることになる。

ただし、3月決算の企業の株主が、来期の定時株主総会(2020年6月総会)からKAMを見ながら質問権を行使できるようになるのかと言うと、実はそうではない。有価証券報告書は株主総会開催後に提出されるのが通常であり、それを前提にすると2020年6月に提出した有価証券報告書に添付される監査報告書に記載されるKAMを見ながら株主・投資家が質問できるのは2021年6月総会からとなってしまう。そうなると、株主や投資家からすれば、「1年遅れの情報をもとに質問しても仕方がない」ということになりかねない。

それを解決する方法は2つある。

まず1つ目は、・・・

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2018/05/17 KAMの記載、株主総会の後ろ倒しや監査役監査報告書に影響も(会員限定)

2017年11月15日のニュース「監査報告書へのKAMの記載を巡る関係者の見方」でお伝えした「監査報告書へのKAMの記載」の実施まで、いよいよ秒読みとなってきた(監査報告書へのKAMの記載については【特集】長文式監査報告書が企業に与える影響新用語・難解用語の解説も参照)。

KAM : 監査人(監査法人)が、当期の会計監査において、特に重要と判断した事項のこと。KAMとは「Key Audit Matters」の略で、読み方は「カム」。

金融庁に設置されている企業会計審議会監査部会が5月8日に公表しパブコメ(2018年6月6日まで募集)に付している監査基準の改訂案(以下、パブコメ案)では、監査人(公認会計士)に対し、監査報告書に「主要な監査上の検討事項」を記載することを求めている。この「主要な監査上の検討事項」とは「当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項(※後述)のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項のこと」であり、KAMを指している。改訂案によると、監査人は、企業の財務諸表にKAMの対象となる開示項目がある場合には、読み手が当該開示項目を参照できるよう財務諸表における掲載箇所を明示したうえで、会計監査に関する下記の事項を監査報告書に記載する必要がある。

・主要な監査上の検討事項の内容
・監査人が主要な監査上の検討事項であると決定した理由
・監査における監査人の対応

KAMの記載が必要になるのは、下表のとおり企業が金融商品取引法監査(すなわち有価証券報告書で開示される連結財務諸表および単体の財務諸表に対する公認会計士の監査)の監査報告書に限られる(例外については下表の*1*2参照)。一方、会社法監査(すなわち連結計算書類および計算書類に対する会計監査人の監査)の監査報告書には記載不要となっている。

KAMの記載が必要になる監査報告書
  連結 単体
金商法監査(有価証券報告書に添付)*1 記載必要 記載必要 (*2
会社法監査(計算書類に添付) 記載不要

*1 非上場企業でも1億円以上の公募をするなどして有価証券報告書を継続的に提出している企業があるが、これらの企業のうち、資本金5億円未満または売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除く。
*2 連結財務諸表作成会社では、個別財務諸表、連結財務諸表の両方の監査報告書にKAMの記載が求められるものの、両方に同一内容の「主要な監査上の検討事項」が記載されている場合は、単体財務諸表の監査報告書への記載は省略可能。

企業にとって最も気になるのは、どのようなことがKAMとして記載されるのかという点だろう。日本公認会計士協会は昨年(2017年)11月、主に大手監査法人とその被監査会社26社(以下、試行企業)の協力を得てKAMの記載を試行した結果を取りまとめた「KAM試行の取りまとめ」を公表しているが、これによると、試行企業では主なKAMとして下記の項目が選定されていた。

・資産(のれん以外の固定資産)の減損
企業結合に関する会計処理、のれんの計上および評価
・引当金・資産除去債務偶発債務

企業結合に関する会計処理 : たとえば「取得」に該当する企業結合(合併)においては「取得原価の算定」「取得原価の配分」「のれんの計上と償却」「増加資本」といった会計処理が難しく、発生頻度が少ないことから企業内にノウハウが蓄積しづらいこともあり、誤謬が生じがちである。
資産除去債務 : 有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるもの。資産除去債務は原則として発生時に、当該有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)を算定して負債に計上しなければならない。資産除去債務は見積もり計算に基づいて算定される以上恣意性が入りやすい。
偶発債務 : 債務保証や手形の裏書のように、期末日より前に行った行為であり、現時点では確定債務ではないものの、将来一定の条件が成就する(例えば、保証債務であれば「保証債務の履行を求められる」)ことで確定債務になる可能性があるもの

また、試行企業について監査法人が選定したKAMの主な選定理由は次のとおり。

・財務諸表に与える金額的重要性が高い。
・財務数値の算定プロセス(例えば、評価や見積プロセス)が複雑である。
・財務数値の算定に、将来事象に係る経営者の意思や主観的判断の影響を大きく受ける要素が含まれている。

監査上問題となりそうな事項がKAMに選定されているのは、KAMの趣旨(監査プロセスの透明化)からして当然と言えよう。

これらがKAMとして監査法人の監査報告書に記載されることで、それを見た株主や投資家から質問が増えることは容易に想像できる。実際、上記試行の際には、「良くも悪くも、株主や投資家からの質問は増加すると考える」との感想を示す企業があった。企業としては、KAMに選定された項目については、投資家との対話や定時株主総会の前に想定問答集を整えておく必要がありそうだ。

実施時期についてパブコメ案では、東証1部上場企業にあっては、できるだけ2020年3月決算の監査から早期適用が行われるよう、東京証券取引所および日本公認会計士協会等の関係機関における早期適用の実施に向けた取組みを期待するとしている(資料3の2ページ目を参照)。金融庁の思惑どおりとなれば、3月決算企業の監査報告書には来期からKAMが記載されることになる。

ただし、3月決算の企業の株主が、来期の定時株主総会(2020年6月総会)からKAMを見ながら質問権を行使できるようになるのかと言うと、実はそうではない。有価証券報告書は株主総会開催後に提出されるのが通常であり、それを前提にすると2020年6月に提出した有価証券報告書に添付される監査報告書に記載されるKAMを見ながら株主・投資家が質問できるのは2021年6月総会からとなってしまう。そうなると、株主や投資家からすれば、「1年遅れの情報をもとに質問しても仕方がない」ということになりかねない。

それを解決する方法は2つある。

まず1つ目は、株主総会前に有価証券報告書を提出することだ。こうすれば、株主総会に参加した株主は最新の有価証券報告書に添付された監査報告書に記載されてあるKAMを見ながら質問権を行使できる。現在のところ、株主総会前に有価証券報告書を提出している上場企業は2016年12月期~2017年11月期決算企業(約3,600社)のうち22社に過ぎない(金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第6回)資料を参照)が、KAMの導入が株主総会の後ろ倒し開催(あるいは、株主総会の後ろ倒しはせずに、有価証券報告書を株主総会前に提出)の実現に向けた動きを加速させる可能性もありそうだ。

2つ目の方法が、監査役(あるいは、監査等委員会設置会社における監査等委員。以下、監査役等)が自身の監査報告書に監査役等として把握しているKAMを記載することである。上述したとおり、KAMは「当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項」をベースに選定される。つまり、監査役等も「当年度の財務諸表の監査の過程で監査法人と協議した事項」を把握していることから、自身の監査報告書の提出日前に監査法人とすり合わせをするだけで、監査役等は容易に「監査法人が金商法の監査報告書に記載するであろうKAM」を自身の監査報告書に記載できるはずだ。実際、上記の試行時のアンケートでは、「KAMが導入された場合、監査役等の監査報告書の記載に影響を及ぼすと予想されるか」との質問に対して、「監査役は、監査人の監査の方法と結果の相当性を判断する必要があり、KAMは監査人が統治責任者(監査役等)にコミュニケーションを行った事項から選択されるのであれば、監査報告書の中で、何らかの記載(表明)が必要と考える」「株主総会で報告される監査役等の監査報告書において何もKAMについて触れないというのは、株主総会の重要性を考えるとあり得ないと考える」といった回答が寄せられている。KAMの導入は監査役等の監査報告書にもインパクトを与えることになりそうだ。

2018/05/16 【特集】~経産省「ダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」座長 青山学院大学北川教授に聞く~日本企業の取締役会が向かうべき方向性

現在パブリックコメントに付されている改訂コーポレートガバナンス・コードでは、原則4-8が「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役の選任」を推奨されるような書きぶりに改められたほか、指名委員会・報酬委員会など独立した諮問委員会を設置しない場合には事実上エクスプレインが求められることとされ、さらに役員構成の多様性として「ジェンダー」と「国際性」が例示されるなど、取締役会のあり方の見直しを迫っている。

こうした中、日本企業の取締役会はどのような方向に向かうべきなのか―――伊藤レポートの作成メンバー、経済産業省の「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」(同検討会の報告書はこちら)座長、環境省「ESG金融懇談会」メンバーなどを歴任し、欧米のコーポレートガバナンス、欧米企業の取締役会運営・評価にも精通する青山学院大学大学院国際マネジメント研究科の北川哲雄教授にお話をうかがった。

 

“独立した”諮問委員会の設置で社外取締役の増員も

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2018/05/16 【特集】~経産省「ダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」座長 青山学院大学北川教授に聞く~日本企業の取締役会が向かうべき方向性(2・会員限定)

“独立した”諮問委員会の設置で社外取締役の増員も

―――「独立社外取締役の2名以上の選任(原則4-8)」は2015年6月に導入された日本版コーポレートガバナンス・コードの目玉の一つでしたが、導入以来初となる2018年の改訂では同原則が変更され、「3分の1以上の独立社外取締役」を推奨するような表現となりました。日本企業における独立社外取締役の選任状況についてはどのような感想をお持ちでしょうか。

【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】の改訂部分

独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。 また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。

北川  東証一部上場企業でも独立社外取締役が全取締役の3分の1以上を占めるところは3割に満たないという現状(注:東証の2017年7月26日のデータでは27.2%)は、まだ物足りないというのが率直な感想です。 もちろん単に数を揃えればよいと言っているわけではなく、委員会の運営や取締役会のダイバーシティといった点を考慮すると、あと数人は必要でしょう。実際、欧米をはじめとする海外企業では6~7人の社外取締役を置いているケースが多くなっています。

―――2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、任意の指名委員会・報酬委員会について規定する補充原則4-10①から「例えば」と「など」という文言が削除され、「任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置」を設置しなければ事実上エクスプレインが求められることとなりましたが、企業にとってはこの改訂も社外取締役増員へのプレッシャーとなるのでしょうか。

【補充原則4-10①】の改訂部分

上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。

北川  任意の指名委員会、報酬委員会を設置するのが当然になっていくはずですし、今回の改訂で「独立した」という文言が追加された以上、各委員会における社外取締役の割合も過半数はクリアしたいところです。そう考えると、本原則に対応するために社外取締役の増員を図る企業が出て来る可能性はあるでしょう。

任意の指名委員会、報酬委員会についてはコーポレートガバナンス・コード導入時に設置済みという上場企業も少なくありませんが、欧米企業の例を見ると、他にも様々な委員会を設置している企業が目に付きます。例えば財務政策やIRなどについて検討する「ファイナンス委員会」は業種を問わずよく見られますし、サプライチェーンで問題(例えば児童労働など)が起きやすい小売業などではCSR委員会やサステナビリティ(持続可能性)委員会、化学メーカーや鉱山会社などでは「安全委員会」といった具合に、自社の特性に応じて5つ、6つ位は委員会があるのが通常です。それぞれの委員会が3人の委員で構成されるとして、そのうち最低2人は社外取締役が務めるとなれば、5つ委員会がある企業では単純計算で10人、1人の社外取締役が複数の委員会の委員を兼務するとしても、5~6人の社外取締役が必要ということになります。

企業は“見栄え”の良い人ばかりを集めることから卒業を

青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 北川哲雄 教授―――それだけ委員会のバリエーションがあると、様々な専門性を持った社外取締役が必要になりますね。

北川  そうですね。2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、役員構成の多様性として「ジェンダー」と「国際性」が例示されましたが(原則4-11. 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件)、能力の多様化も非常に重要です。日本企業ではとりあえず元経営者や弁護士、公認会計士などを社外取締役や社外監査役に選任するケースが目に付きますが、取締役会が議論すべき課題には様々なものがあるため、他の専門性が必要になるケースも出て来るはずです。

役員構成については機関投資家の見る目も変わって来て、「企業価値を上げるための布陣になっているのか」「株主のためのエージェント機能(株主のために執行側が何をすべきかをアドバイスorチェックする)を果たせる人材なのか」といった観点から、各役員のバックグラウンドや専門性をしっかり見るようになりつつあります。たとえ改訂コーポレートガバナンス・コードが推奨する「3分の1以上の独立社外取締役」を揃えていたとしても、多様性に欠ける取締役会に対しては機関投資家の評価も低くなります。

企業側も、有名経営者や著名文化人など“見栄え”の良い人達を集めることばかりに一生懸命になることからはそろそろ卒業するべきです。そもそも自社がどういう方向に向かおうとしているのか、そのために自社にとって課題となるものは何かといった点を念頭に置いたうえで、どういう人が自社の社外取締役あるいは社外監査役に適しているのかを真剣に考えるべきであり、それは各社それぞれ異なるはずです。役員構成は取締役会評価においても重要なポイントの一つになります。

自社に必要な人材を「掘り起こす」ことが企業の役目に

―――ただ、こうした多様な専門家を見つけて来るのは企業にとっても容易ではないのではないでしょうか?
北川  確かにこれまでは多くの企業が「独立社外取締役2名以上」というコーポレートガバナンス・コードが求める要件を満たすことで精一杯だったと思いますが、時間の経過とともに企業、機関投資家ともに社外取締役(候補)を見る目が肥えてきているはずですし、これからは自社に必要な人材を「掘り起こす」ことが企業の役目になっていくと思います。こうした自覚のない企業は今後機関投資からも問題視されるようになるでしょう。先進的な企業は着々と手を打っています。

―――従来からある3委員会(監査委員会、指名委員会、報酬委員会)のいずれかであれば、(元)経営者や弁護士、会計士など候補者がイメージしやすいのですが、CSRやサステナビリティの委員会となるとそもそも候補となる人材の母数が少ないような気がします。
北川  CSRという言葉が世に出てきてから既に20年以上経過していますので、この分野で経験がある人は実は結構います。例えば企業のCSR部門に長年所属していた方です。この分野には女性も多いので、ジェンダー・ダイバーシティという点も考えれば、こういう方を社外取締役に選任すれば一石二鳥です。

ESGに優れた企業に投資するESG投資が本格化する中、今後はCSRやサステナビリティに詳しい社外取締役へのニーズが高まるでしょう。実際、この分野における企業のリスクは高まっています。こういった問題に対し先鋭的な意見を述べるNGOなどは以前から存在しますが、最近は“ESGアクティビスト”と呼ばれる機関投資家も出現しています。「途上国とのフェアートレード」「人権問題への配慮」等これまで指摘されてきた問題のみならず、例えば取引先の違法行為といったサプライチェーン全体に対する広範囲かつ細かい目配せも必要となってきました。

このように、企業にとっては一見些細なこと、あるいは自社とは直接関係ないと思えるようなことでも、それが自社のレピュテーションに致命的なダメージを与える可能性もあります。CSRやサステナビリティというと「企業の社会的責任」といったニュアンスで捉えられることも多いですが、このように考えると、実は紛れもなく“事業のリスクマネジメント”の一分野と言えますので、リスクマネジメントの分野で経験を積んだ人材も社外取締役としては適任かもしれません。また、海外企業で起きたことが少し時間を置いて日本企業にも起こるケースも多いので、国際感覚に優れた人材やグローバルで起きている事象に対する判断能力が高い人材へのニーズも高まるでしょう。

また、CSRやサステナビリティに関わる事象にいかに対処するかによって長期的な企業価値が変わってきますので、今後は優れた機関投資家ほどボード(取締役メンバー)の中にこの分野の人材がいるか否かに注目してくると思います。

―――今お聞きしたお話はESGのうちE(環境)とS(社会)に関するものだと思うのですが、G(ガバナンス)についてカバーできるのはどのようなバックグラウンドを持った方なのでしょうか。
北川  一番の適任者はキャピタルマーケット(資本市場、金融市場)が分かっている方でしょうね。こういう人材は企業にとっての“敵方”から探してくるというのも一つの手です。つまり運用機関にいた人です。これは海外企業ではよくある話ですよ。ただ、日本企業からすると、それはあまりに露骨すぎるというのであれば、運用会社出身でシンクタンクや大学で活躍されている人を探すというのも考えられるでしょう。

時価総額の低い中堅企業にこそ投資家出身の社外役員を

―――最近はアクティビスト投資家からの株主提案も増えていると聞きます。キャピタルマーケットを理解している方を社外役員に迎え入れることは、企業にとって自衛手段の一つになるのでしょうか。
北川  現在、投資家の世界は二極化している状況にあります。ESGやSDGsを重視し、真の意味での長期投資を標榜する投資家が増加する一方で、他の複数の投資家から賛同を得られることを念頭に置きながら、経営陣の刷新や急進的な財務政策(大幅増配等)を迫る投資家の勢力も昨年(2017年)あたりから急伸しています。株主提案の数が増加しているのもそのためです。昨年は現実にアクティビストの提案が可決されたケースも出ました。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、下図の17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

こうしたリスクを認識しているのは主にtop-tier(トップクラス)の企業であり、これらの企業は自社の株式をどういう投資家が保有し、彼らがどういう意見を持っているのかをしっかりチェックしたうえで隙のないガバナンス体制を構築しています。

逆に言うと、投資家から見れば突っ込みどころ満載のガバナンス体制の企業、その中でも時価総額がそれほど大きくないところなどは、持ち合いの解消が進む昨今、いきなりアクティビストがトップ株主になってしまうということが現実に起こり得ます。日本の投資家は海外投資家に比べるとまだまだ穏健なところが多いのですが、これから彼らのスタンスが海外投資家に近付いてくれば、企業にとってはいきなり試練が訪れるというリスクが高まることになるでしょうね。

―――そのような事態を避けるためにはどうすればよいのでしょうか?
北川  何十パーセントかの株式を保有されてから法律事務所に駆け込んだところで、もはや事実上経営権を取得されているわけですから「時、既に遅し」です。彼らからファーストレターが来た時点できちっと対応できる体制が整っているかどうかが重要だと思います。

ただ、日々のオペレーションに追われている業務執行役員や経営トップの中で、こうしたことに対応する能力を持った人は恐らくあまりいないと思います。また、投資家をファイナンス理論で論破できるCFOも、残念ながら現状ではほとんどいないでしょう。

そのような企業には、単なる“お飾り”ではなく、先鋭的な投資家も説得できる力のある、本当の意味で“防波堤”になってくれる社外役員が必要です。別に社外役員だからといって1か月に1回だけ会社に来るのではなく、時と場合によっては週に2、3日ぐらい顔を出して、例えばROEを上げていく方策、財務政策、配当施策などについてアドバイスしたり、投資家に対する情報発信をサポートしたりするといったスタイルをとってもよいと思います。

社外役員のサクセッションプラン(会員限定)

2018/05/16 【特集】~経産省「ダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」座長 青山学院大学北川教授に聞く~日本企業の取締役会が向かうべき方向性(3・会員限定)

社外役員のサクセッションプラン

青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 北川哲雄 教授

―――ただ、苦労してこうした能力のある社外役員を見つけても、時機が来れば入れ替えが必要になるケースも出てくるかと思います。コーポレートガバナンス・コードの導入を受けて社外取締役を選任した企業も、そろそろ後任探しを始めなければならないのではないでしょうか。
北川  日本企業の社外取締役の在任期間は3~4年にとどまることが少なくありませんが、私はこれでは短か過ぎると思っています。確かに長過ぎるのも問題ですが、会社のことをきちんと理解して、業務執行役員と対等に議論できるようになれるまでには相当な時間かかります。実際、欧米企業だと在任期間7~8年というケースが一般的です。

また、欧米企業では、類似したバックグラウンドを持つ(複数の)社外取締役の就任時期を意図的にズラすことも行われています。社外取締役の任期を8年とすると、例えば会計系のバックグラウンドを持つ社外取締役が在任4年を経過したタイミングでもう一人類似したバックグラウンドの社外取締役を選任すれば、就任間もない社外取締役の会社に対する知識不足を既存の社外取締役が補うことができますし、既存の取締役が退任する頃には、後から就任した社外取締役も会社に対して十分な知識がついているというわけです。社外取締役が株主の代理人として本来の実力を発揮し、取締役会の実効性向上に貢献するためには、こうした“社外取締役のサクセッションプラン”も必要だと思います。いわゆる合理的な期差を制度として取り入れるということですね。

―――社外監査役を含め、監査役の任期は4年という日本企業が多いと思います。この点についてはどうお考えでしょうか。
北川  社外取締役の任期が1年とされている一方で、4年の任期が保障されているということは、監査役は相当深く色々なことができるということです。

監査役設置会社の場合、監査役は取締役会の一員ではなく、それゆえ議決権もないという点が強調されがちですが、監査役には、例えば取締役会自体を監査・監督し取締役会側も彼らの示唆を受け入れる必要があるという、かなり強い権限が与えられています。

企業というのは生き物ですし、上場企業のような従業員の多いところでは必ずと言っていいほど毎日色々な問題が起こります。だからこそ監査役には「4年」という任期が保障されているわけで、そういう意味では監査役自身も強い責任感を持つべきです。むしろ、社外取締役の監督機能が十分に発揮されていない企業では社外監査役が頑張るくらいの気概を持って、“うるさ型”として言うことは言うという姿勢を貫いて欲しいですね。

―――一方で、監査役の場合、監査計画というものがありますので、やるべきこととそのスケジュールが明確であるとともに、その範囲もある程度限定されますよね。
北川  その点はそのとおりですが、それは社外取締役にも言えることです。例えばニュース番組などで1人のコメンテーターが専門外のことにコメントしていたら違和感を持つのと同じように、少数の社外取締役が専門外のことについて的確なアドバイスができるとは思えません。

冒頭の話にも関連しますが、取締役会における幅広い分野に渡る経営判断をカバーするためには、やはり各人の活躍領域および能力のダイバーシティを考慮しながら、社外取締役をある程度の人数揃えておく必要があります。監査役の役割が明確であるように、社外取締役も一定以上の人数がいれば、それぞれ自分の役割が明確になります。実際、欧米企業は既にそうなっているわけですし、今後は日本企業もそういう方向に進むことになるはずです。

―――“活動領域と能力のダイバーシティ”は、今後日本企業の取締役会のあり方を考えていくうえでカギとなりそうですね。本日は有益なお話を聞かせていただき、誠にありがとうございました。

2018/05/15 武田薬品が“日本企業らしからぬ”M&A戦略に打って出た理由

既に新聞などでも報道されているとおり、武田薬品工業は(2018年)5月8日、アイルランドの製薬大手であるシャイアーを買収することで合意したと発表している(同社のリリースはこちら)。買収総額は7兆円弱に達する予定で、日本企業としては過去最大の買収案件となる。武田はシャイアー株主に対して、1株につき現金30.33USドルと武田の新株0.839株を割り当てる。両社の株主総会を経て、2019年上半期に買収が完了する予定だ。

今回の買収劇は、買収金額をはじめ、日本企業による買収としては異例尽くしの内容となっている。

まず注目されるのが、両社の時価総額の“逆転現象”だ。売上高ランキングでは武田が世界17位でシャイアーの22位を上回っているが、時価総額ではシャイアーが5兆円弱と、武田の4兆円強を上回っており、その意味では「小が大を呑む」買収だと言える。なお、両社の売上高を単純合計すると3兆4千億円ほどとなり、武田はグローバル製薬業界のベスト10に名を連ねることになる。

また、リスクの高さも際立つ。武田は1兆円強の有利子負債を抱えるが、これにシャイアーの1.5~2兆円が加わるのみならず、買収資金として新たな借り入れが発生することで最大6兆円規模にまで膨らむ見通し。さらに新株発行により武田の発行済株式数は2倍に増え、既存株主の持ち分は2分の1に希薄化する。未だかつてないハイリスクなM&Aだと言わざるを得ない。

希薄化 : 「1株当たりの価値」が下がること。

では武田はなぜ、今回のような「日本企業らしからぬ」M&A戦略に打って出ることができたのだろうか。

コーポレートガバナンス・コードの序文「本コード(原案)の目的 7.」では、同コードは会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止ではなく、会社に対してガバナンスに関する適切な規律を求めることにより「経営陣が、結果責任を問われることを懸念して、自ずとリスク回避的な方向に偏る」ことを防ぎ、「健全な企業家精神の発揮」や「迅速・果断な意思決定」を促すことを目的としていると言っているが、それが体現できている日本企業は多くない。

企業家精神や迅速・果断な意思決定という意味において日本企業の中で際立っているのがソフトバンクグループだろう。これまでの日本企業による最大の買収案件は、同社による英アーム・ホールディングスの買収(2016年)であり、その他にも米スプリントなど複数の案件がベスト10に名を連ねている。これは発行済株式の約20%を保有する孫社長が、オーナーシップに基づく企業家精神を発揮した結果に他ならない。自らが大株主であることも、投資家に対し「少なくとも長期的には少数株主とwin-winの関係を築く経営をするはず」という一定の信頼感を持たせている側面もあるだろう。

一方、既に創業家が経営の一線から退き、現在ではソフトバンクグループのようなオーナーシップを持った経営トップのいない武田が今回の大胆な買収に踏み切った一因と考えられるのが・・・

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