2018/05/15 武田薬品が“日本企業らしからぬ”M&A戦略に打って出た理由(会員限定)

既に新聞などでも報道されているとおり、武田薬品工業は(2018年)5月8日、アイルランドの製薬大手であるシャイアーを買収することで合意したと発表している(同社のリリースはこちら)。買収総額は7兆円弱に達する予定で、日本企業としては過去最大の買収案件となる。武田はシャイアー株主に対して、1株につき現金30.33USドルと武田の新株0.839株を割り当てる。両社の株主総会を経て、2019年上半期に買収が完了する予定だ。

今回の買収劇は、買収金額をはじめ、日本企業による買収としては異例尽くしの内容となっている。

まず注目されるのが、両社の時価総額の“逆転現象”だ。売上高ランキングでは武田が世界17位でシャイアーの22位を上回っているが、時価総額ではシャイアーが5兆円弱と、武田の4兆円強を上回っており、その意味では「小が大を呑む」買収だと言える。なお、両社の売上高を単純合計すると3兆4千億円ほどとなり、武田はグローバル製薬業界のベスト10に名を連ねることになる。

また、リスクの高さも際立つ。武田は1兆円強の有利子負債を抱えるが、これにシャイアーの1.5~2兆円が加わるのみならず、買収資金として新たな借り入れが発生することで最大6兆円規模にまで膨らむ見通し。さらに新株発行により武田の発行済株式数は2倍に増え、既存株主の持ち分は2分の1に希薄化する。未だかつてないハイリスクなM&Aだと言わざるを得ない。

希薄化 : 「1株当たりの価値」が下がること。

では武田はなぜ、今回のような「日本企業らしからぬ」M&A戦略に打って出ることができたのだろうか。

コーポレートガバナンス・コードの序文「本コード(原案)の目的 7.」では、同コードは会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止ではなく、会社に対してガバナンスに関する適切な規律を求めることにより「経営陣が、結果責任を問われることを懸念して、自ずとリスク回避的な方向に偏る」ことを防ぎ、「健全な企業家精神の発揮」や「迅速・果断な意思決定」を促すことを目的としていると言っているが、それを体現できている日本企業は多くない。

企業家精神や迅速・果断な意思決定という意味において日本企業の中で際立っているのがソフトバンクグループだろう。これまでの日本企業による最大の買収案件は、同社による英アーム・ホールディングスの買収(2016年)であり、その他にも米スプリントなど複数の案件がベスト10に名を連ねている。これは発行済株式の約20%を保有する孫社長が、オーナーシップに基づく企業家精神を発揮した結果に他ならない。自らが大株主であることも、投資家に対し「少なくとも長期的には少数株主とwin-winの関係を築く経営をするはず」という一定の信頼感を持たせている側面もあるだろう。

一方、既に創業家が経営の一線から退き、現在ではソフトバンクグループのようなオーナーシップを持った経営トップのいない武田が今回の大胆な買収に踏み切った一因と考えられるのが同社の役員報酬制度だ。同社は2014年に株式報酬として取締役BIP(Board Incentive Plan)信託を導入している。これは、要するに3年後の業績(売上高、営業利益)と株価によって、付与される株数が決定されるスキームである(詳細な設計は同社の株主総会招集通知の議案説明を参照)。すなわち、ウェバーCEOはじめ同社経営陣にとっては、3年後の業績および株価を向上させるために積極的にリスクを負うインセンティブが働くことになる。今回の買収では、同社の役員報酬制度が「迅速・果断な意思決定」を後押しした可能性が高い。

もっとも、「3年間」という期間が投資家目線に合致しているかについては、大いに議論の余地があるだろう。今回のシャイアー買収にしても、当面のパイプライン拡充は期待できる一方、長期的な研究開発力の強化に関しては疑問が呈されている模様。同社の役員報酬制度が経営者と投資家がwin-winとなる意思決定をもたらしたのか、その答えが出るのはまだ先になるだろう(参考記事として、2018年2月6日掲載のニュース「失敗しないM&A戦略」参照)。

パイプライン : 「新薬候補」のことであり、「開発パイプライン」と呼ばれることもある。パイプラインの数が製薬企業の将来の収益を決める重要な要素になる。

2018/05/14 改訂CGコードに基づくCG報告書、「半年間」の提出期限猶予の意味

2018年5月8日 のニュース「CGコード改訂前後のCG報告書、読み手の混乱を避けるための工夫」でお伝えしたとおり、改訂CGコードに基づくCG報告書は「遅くとも2018年12月末日までに提出する」ことが求められているが、2018年3月決算企業を例にとると、多くの企業は今回の6月株主総会後にひとまず現行CGコードに基づくCG報告書を提出することになる。今回の6月総会後に遅滞なく改訂CGコードに基づくCG報告書を提出できるのであれば、現行CGコードに基づくCG報告書を提出する必要はないが、そのような企業はほとんどないだろう。実際、当フォーラムが3月決算の上場企業数社に取材したところ、「改訂CGコードへの対応を考えるのは株主総会後」との回答が多かった。改訂CGコードに対しては経済界から厳しい意見が出ていることから(2018年5月7日のニュース「改訂CGコードに対する経済界のコメント」参照)、少なくともパブコメ(4月29日締切り)の内容を踏まえ今月中にも公表される確定版を見てから動きたいということもあるようだ(もっとも、当フォーラムの取材によると、仮に改訂案が根本的に修正されるとなれば再びフォローアップ会議での審議およびパブコメにかける必要が生じかねないこともあり、細かな言い回しの修正以外はほぼ改訂案どおり確定する可能性が高い)。

このように、3月決算企業であれば改訂CGコードに基づくCG報告書の提出まで約半年間の猶予があることになるが、当局が企業に時間的猶予を与えた理由の一つとして挙げられるのが、・・・

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2018/05/14 改訂CGコードに基づくCG報告書、「半年間」の提出期限猶予の意味(会員限定)

2018年5月8日 のニュース「CGコード改訂前後のCG報告書、読み手の混乱を避けるための工夫」でお伝えしたとおり、改訂CGコードに基づくCG報告書は「遅くとも2018年12月末日までに提出する」ことが求められているが、2018年3月決算企業を例にとると、多くの企業は今回の6月株主総会後にひとまず現行CGコードに基づくCG報告書を提出することになる。今回の6月総会後に遅滞なく改訂CGコードに基づくCG報告書を提出できるのであれば、現行CGコードに基づくCG報告書を提出する必要はないが、そのような企業はほとんどないだろう。実際、当フォーラムが3月決算の上場企業数社に取材したところ、「改訂CGコードへの対応を考えるのは株主総会後」との回答が多かった。改訂CGコードに対しては経済界から厳しい意見が出ていることから(2018年5月7日のニュース「改訂CGコードに対する経済界のコメント」参照)、少なくともパブコメ(4月29日締切り)の内容を踏まえ今月中にも公表される確定版を見てから動きたいということもあるようだ(もっとも、当フォーラムの取材によると、仮に改訂案が根本的に修正されるとなれば再びフォローアップ会議での審議およびパブコメにかける必要が生じかねないこともあり、細かな言い回しの修正以外はほぼ改訂案どおり確定する可能性が高い)。

このように、3月決算企業であれば改訂CGコードに基づくCG報告書の提出まで約半年間の猶予があることになるが、当局が企業に時間的猶予を与えた理由の一つとして挙げられるのが、“人事絡み”の改訂コードへの対応だ。改訂CGコード案では、【原則4-8.独立取締役の有効な活用】で「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役」の選任が推奨されているのをはじめ、【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】では取締役会に「ジェンダーや国際性を含む多様性」が求められ、さらに今回新設される【原則2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】では「運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置」などが求められている。

例えば改訂CGコード案で未設置の場合にはその理由を「エクスプレイン」しなければならないとされた任意の指名委員会・報酬委員会(2018年4月5日のニュース『任意の諮問委員会、設置しなければ「エクスプレイン」必要に』参照)であれば、少なくとも形式的なものであればそれほど時間をかけずに設置することが可能だろう。しかし、上記3つの原則については「人」の手当てを伴うだけに、コンプライできるようになるまでに時間を要することが考えられる。改訂CGコードに基づくCG報告書の提出期限に約半年間の猶予(3月決算企業の場合)が設けられた背景には、上記3原則への配慮もあるという。もっとも、人材の確保に「半年間」という時間は必ずしも十分とは言えない。そう考えると、上記3原則については、「エクスプレイン」を選択する企業が続出することも予想されるが、それもやむを得ないところであり、投資家も理解してくれるだろう。

ただし、「どうせエクスプレインするのだから」と言って、企業はこの半年間を無駄にしてよいわけではない。この半年間は来年以降に向けての「準備期間」と考えるべきであり、人材確保に向けた活動や(どのような人材がふさわしいのか)検討を開始しておく必要がある。そうすることにより、エクスプレインの文章にも例えば「来年以降の選任に向け、現在人選中です」「自社の状況を踏まえ、どのような人材が適切か、現在検討中です」「来年には女性を取締役に昇格させる予定です」といった今後のステップを記載することが可能になる。フォローアップ会議においても、首尾一貫した堂々としたエクスプレインは、形式的なコンプライよりも価値があるとの指摘があった。このようなエクスプレインは具体的に取り組んでいることをアピールすることにもなるため、投資家も否定的には受け取らないであろう。半年という猶予期間には、企業が来年以降のコンプライに向け目途を立てて欲しいという期待も込められていると言えそうだ。

2018/05/14 サーバーの移転に伴う不具合について

現在、上場会社役員ガバナンスフォーラムのサーバーの移転およびサイトのメンテナンスを行っており、これに伴いウェブの表示の一部(コンテンツ上部のリンク先表示。いわゆる「パンくずリスト」)に不具合が生じております。ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんが、サイトの改修作業が終了するまで(おおむね5月下旬)何卒ご容赦頂ければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。

2018/05/11 投資家目線の「望ましい経営者報酬」

株主総会に諮る議案の中でも、経営陣として最も賛否動向が気になるものの一つが役員報酬に関する議案だろう。2018年4月6日のニュース「ガバナンス優良企業で、取締役報酬額改定議案に低賛成率」でもお伝えしたとおり、2017年12月期決算会社の3月株主総会でも、コーポレートガバナンス優良企業として知られる・・・

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2018/05/11 投資家目線の「望ましい経営者報酬」(会員限定)

株主総会に諮る議案の中でも、経営陣として最も賛否動向が気になるものの一つが役員報酬に関する議案だろう。2018年4月6日のニュース「ガバナンス優良企業で、取締役報酬額改定議案に低賛成率」でもお伝えしたとおり、2017年12月期決算会社の3月株主総会でも、コーポレートガバナンス優良企業として知られる資生堂の取締役報酬額改定議案が低賛成率にとどまり、注目を集めたところだ。

日本企業の経営者報酬制度は、従来の固定報酬偏重型から、「業績連動報酬」「⻑期インセンティブ報酬」を加えた“3階建て”に組み替えるべきというのが最近の論調であり、ある大手機関投資家は、「日本企業の経営者報酬は、固定報酬・業績連動報酬・⻑期インセンティブ報酬それぞれ3分の1というのが現時点の“理想形”ではないか」と話す。これについて一部の企業の間には、「現在の報酬総額を変えずに、3種類の報酬の割合を3分の1ずつにする」との誤解があるが、この機関投資家はあくまで現在の固定報酬と同じだけ「業績連動報酬」「⻑期インセンティブ報酬」をそれぞれ上乗せするということを意図している。すなわち、結果として経営者報酬は最大で3倍になる可能性があるということだ。

上述の資生堂のケースでも、報酬限度額を5倍以上に増加させるとの内容が低賛成率の一因になったとも言われており、いきなり3倍というと「株主の賛同を得られないのではないか」という懸念を抱く企業は少なくないだろう。一方、機関投資家側は「それでも現在の⽇本企業の平均的な報酬総額が多くなり過ぎるということはない」と考えている。なかでも株式報酬は、欧米企業(特に米国企業)と比較すると遥かに小さい。株式報酬に対し、一部の日本企業の経営者からは「時流に乗って導入したものの、株価は将来どうなるのか分からないのでアテにならない」という“本音”も聞かれる。株式報酬に対する捉え方は、今のところ日本企業と欧米企業の経営者では大きく異なると言えよう。日本企業において株式報酬が「インセンティブ」として認識されるには、日々の株価の上下とは別に、中長期的には業績向上が株価と連動することが実感され、その結果として経営者が固定報酬並みの金額の株式報酬を手にするまで、数年間の時間を要することになるだろうと前出の機関投資家は予想する。

このように、機関投資家は業績連動報酬や株式報酬の導入を推奨しているが、その前提となるのが「透明性」だ。別の機関投資家は、「透明性さえ担保されていれば、報酬の仕組み、連動性などの具体的な⼿法については企業側の⾃由度、柔軟性を許容する」と語る。もっとも、「企業側の⾃由度、柔軟性を許容する」と言っても、機関投資家は決して複雑な報酬制度を望んでいるわけではない。なぜなら、報酬制度が複雑になり過ぎれば、機関投資家はもちろん、報酬をもらう経営者でさえ自身の報酬がどのようにして決まっているのかが理解しにくくなり、その結果としてインセンティブ効果が薄れてしまう可能性があるからだ。ようやく株式報酬が普及し始めたばかりの日本ではまだ表面化していないが、欧米企業等の報酬制度は過度に複雑化してしまい、それを評価する側である機関投資家も、評価される側である経営者側も報酬制度の内容がよく理解できないという問題が生じている。

経営者報酬制度を精緻に作りすぎてそれがインセンティブ効果を失えばまさに本末転倒となる。機関投資家は、自社が重視するKPIが何で、それが経営者報酬とどのように連動しているのかが明確に分かる経営者報酬制度を好んでおり、企業側も経営者報酬制度の設計にあたっては“シンプルさ”を意識する必要がある。また、経営者報酬について機関投資家と対話することになる報酬委員会が果たすべき説明責任も大きいと言えよう。

KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。

2018/05/10 機関投資家に続き上場会社にも「投資先の議決権行使結果の開示」

当フォーラムでは、来月(2018年6月)から適用される改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)で見直されることになった政策保有株式に関する原則に関する議論が、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」から金融庁・金融審議会の「ディスクロージャーワーキング・グループ」へと引き継がれることを予想していたが(2018年3月23日掲載の「CGコード改訂で大幅見直しの政策保有株式、開示府令も見直しへ」参照)、そのとおりの動きが本格化してきた。

政策保有株式に関する改訂原則(原則1-4、補充原則1-4①)は、上場企業にとっては従来のものより厳しくなっている。経済界からは、改訂CGコードが取締役会に対し毎年「個別の」政策保有株式を対象に「目的が適切か」「資本コストに見合っているか」などを具体的に精査しその検証の内容を開示することを求めていることなどに対し、「個別検証結果の開示は膨大で負担が重く、企業秘密の観点からも困難」、「資本コストとは具体的に何なのか」などの不満や疑問の声が上がっているが(2018年5月7日 のニュース「改訂CGコードに対する経済界のコメント」、2018年4月16日のニュース『改訂CGコードで把握が求められる「資本コスト」、投資家にはどう説明する?』参照)、政策保有株式に対する機関投資家の不満は大きい(機関投資家が考える政策保有株式の問題点は【2017年10月の課題】政策保有株式が抱える問題点と対応策を参照)。「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」のメンバーである冨山和彦氏(経営共創基盤代表取締役CEO)は、株式の政策保有、すなわち“持ち合い”は「取引関係強化の美名のもと行われる無能な経営者同士の安全保障条約」に過ぎないとして、解消を強く求めている。

こうした中、機関投資家には投資判断にあたり投資先や投資候補先における「株式の持ち合い」(あるいは「片持ち」)の状況を把握しておきたいというニーズが以前からある。2010年3月期にはそのニーズに応えるべく開示制度が改正され、上場企業は有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況等】で「株式の保有状況」を開示することとされたのは周知のとおりだ。具体的には、上場企業は「純投資目的以外の目的」(以下、政策保有目的)で保有する上場株式のうち、銘柄別による投資株式の貸借対照表計上額が提出会社の資本金額の100分の1を超えるもの(当該株式が30銘柄に満たない場合には、当該貸借対照表計上額の大きい順の30銘柄(この場合、資本金額の100分の1以下の銘柄も開示することになる))について、「株式数」「貸借対照表計上額」「保有目的」を開示する必要がある。

純投資目的 : 専ら株式の価値の変動または株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合

しかし、この開示には次のような問題点が指摘されている。

・「政策保有目的」か「純投資目的」かの明確な判断基準が開示府令では示されておらず、上場企業がそれぞれ判断することになるため、投資家から見ると判断基準が“ブラックボックス化”している。また、純投資目的であれば銘柄ごとの開示は不要になるため、上場企業には、保有目的の判断が微妙な銘柄は純投資目的であると判断するインセンティブが働きやすい。
・資本金額の100分の1を超えず、かつ上位30銘柄に入っていない銘柄はそもそも保有しているかどうかも分からない。
・株式持ち合いをしているかどうかを調べるには、持ち合い相手の上場企業の有価証券報告書を閲覧する必要があるが、持ち合い相手がこちらの株式の保有目的を純投資目的と判断していたり、政策保有目的と判断していても資本金額の100分の1を超えず、上位30銘柄にも入っていなかったりすれば開示されないため、持ち合いの実態を把握できない。

こうした問題点を踏まえ、機関投資家からは、上場企業に「純投資と政策投資の区分の基準や考え方」「純投資目的で保有している銘柄についての情報」を開示させようという声が上がっていたが、それを受け・・・

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2018/05/10 機関投資家に続き上場会社にも「投資先の議決権行使結果の開示」(会員限定)

当フォーラムでは、来月(2018年6月)から適用される改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)で見直されることになった政策保有株式に関する原則に関する議論が、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」から金融庁・金融審議会の「ディスクロージャーワーキング・グループ」へと引き継がれることを予想していたが(2018年3月23日掲載の「CGコード改訂で大幅見直しの政策保有株式、開示府令も見直しへ」参照)、そのとおりの動きが本格化してきた。

政策保有株式に関する改訂原則(原則1-4、補充原則1-4①)は、上場企業にとっては従来のものより厳しくなっている。経済界からは、改訂CGコードが取締役会に対し毎年「個別の」政策保有株式を対象に「目的が適切か」「資本コストに見合っているか」などを具体的に精査しその検証の内容を開示することを求めていることなどに対し、「個別検証結果の開示は膨大で負担が重く、企業秘密の観点からも困難」、「資本コストとは具体的に何なのか」などの不満や疑問の声が上がっているが(2018年5月7日 のニュース「改訂CGコードに対する経済界のコメント」、2018年4月16日のニュース『改訂CGコードで把握が求められる「資本コスト」、投資家にはどう説明する?』参照)、政策保有株式に対する機関投資家の不満は大きい(機関投資家が考える政策保有株式の問題点は【2017年10月の課題】政策保有株式が抱える問題点と対応策を参照)。「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」のメンバーである冨山和彦氏(経営共創基盤代表取締役CEO)は、株式の政策保有、すなわち“持ち合い”は「取引関係強化の美名のもと行われる無能な経営者同士の安全保障条約」に過ぎないとして、解消を強く求めている。

こうした中、機関投資家には投資判断にあたり投資先や投資候補先における「株式の持ち合い」(あるいは「片持ち」)の状況を把握しておきたいというニーズが以前からある。2010年3月期にはそのニーズに応えるべく開示制度が改正され、上場企業は有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況等】で「株式の保有状況」を開示することとされたのは周知のとおりだ。具体的には、上場企業は「純投資目的以外の目的」(以下、政策保有目的)で保有する上場株式のうち、銘柄別による投資株式の貸借対照表計上額が提出会社の資本金額の100分の1を超えるもの(当該株式が30銘柄に満たない場合には、当該貸借対照表計上額の大きい順の30銘柄(この場合、資本金額の100分の1以下の銘柄も開示することになる))について、「株式数」「貸借対照表計上額」「保有目的」を開示する必要がある。

純投資目的 : 専ら株式の価値の変動または株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合

しかし、この開示には次のような問題点が指摘されている。

・「政策保有目的」か「純投資目的」かの明確な判断基準が開示府令では示されておらず、上場企業がそれぞれ判断することになるため、投資家から見ると判断基準が“ブラックボックス化”している。また、純投資目的であれば銘柄ごとの開示は不要になるため、上場企業には、保有目的の判断が微妙な銘柄は純投資目的であると判断するインセンティブが働きやすい。
・資本金額の100分の1を超えず、かつ上位30銘柄に入っていない銘柄はそもそも保有しているかどうかも分からない。
・株式持ち合いをしているかどうかを調べるには、持ち合い相手の上場企業の有価証券報告書を閲覧する必要があるが、持ち合い相手がこちらの株式の保有目的を純投資目的と判断していたり、政策保有目的と判断していても資本金額の100分の1を超えず、上位30銘柄にも入っていなかったりすれば開示されないため、持ち合いの実態を把握できない。

こうした問題点を踏まえ、機関投資家からは、上場企業に「純投資と政策投資の区分の基準や考え方」「純投資目的で保有している銘柄についての情報」を開示させようという声が上がっていたが、それを受け金融庁のディスクロージャーワーキング・グループは2018年4月20日に「ディスクロージャーワーキング・グループにおける検討事項」(以下、「検討事項」)を公表、パブコメを募集することとなった。「検討事項」は、有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況等】の「株式の保有状況」欄における開示内容を以下のとおり拡充する案の是非を問うものとなっている。要するに、開示拡充により株式持ち合いの解消を促す策と言える。

・個別銘柄につき、より具体的な保有目的および効果を開示
・保有の合理性を検証する枠組みや、取締役会等における議論の状況を開示
・純投資と政策投資の区分の基準や考え方、純投資目的の有価証券の状況
・前年からの異動(増減)に関する情報を開示
・保有株式の議決権行使の内容を開示
・持ち合いの状況(政策保有対象企業によって保有されている自社の株式の状況)を開示
・記載の対象銘柄の範囲の拡張(銘柄数基準を30銘柄から増やすかどうか)

この中で最も注目されるのは「保有株式の議決権行使の内容の開示」であろう。現在、機関投資家の多くがスチュワードシップ・コードに基づき投資先の議決権行使結果を開示しているが、これと同じことを上場会社が法定開示で求められる可能性がある。

「検討事項」は上記以外にも、改訂CGコードでも把握するよう求められた「資本コストの開示」(2018年4月16日のニュース『改訂CGコードで求められる「資本コスト」、投資家にはどう説明する?』を参照)のほか、「従業員の離職率の開示」「金額にかかわらず(1億円未満でも)役職等を基準とした役員報酬の個別開示」といった開示拡充策の是非も問うものとなっている。いずれも企業にとってはインパクトのある内容だけに、パブコメの集計結果が気になるところだ。

2018/05/09 「高度外国人材」を巡る国の施策の動向

厚生労働省によると、昨年(2017年)10月末現在、外国人労働者数は127万8千670人にも達したという。これは前年の同時期と比べて約20万人(18.0%)の増加であり、外国人労働者の届け出が義務化された2007年10月以来、過去最高の数値となっている。

なかでも、企業から持続的成長をするためのイノベーション等の担い手として期待が高まっているのが、高度な能力・資質・経験などを有する「高度外国人材」だ。既に2015年4月からは、日本で就労しようとする外国人の「学歴」「職歴」「年収」などをポイント制で評価し、そのポイントの合計が一定点数に達した者には、各種優遇措置(後述)のある在留資格である「高度専門職1号」または「高度専門職2号」(1号取得者が3年以上在留し、資格変更を許可された者)を付与するという仕組みが導入されている。

主な優遇措置を見ると、「高度専門職1号」では(1)在留期間「5年」の付与(通常は1年または3年)、(2)在留資格(ビザ)で許可された主な活動以外の活動を行うことができる(ただし、許可された主な活動の関連業務に限る)、「高度専門職2号」では(1)在留期間が無期限、(2)在留資格で許可された主な活動以外の活動を行うことができる(許可された主な活動との関連性は不要)--などが挙げられる。

さらに、昨年(2017年)に行われた出入国管理及び難民認定法の改正により、・・・

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2018/05/09 「高度外国人材」を巡る国の施策の動向(会員限定)

厚生労働省によると、昨年(2017年)10月末現在、外国人労働者数は127万8千670人にも達したという。これは前年の同時期と比べて約20万人(18.0%)の増加であり、外国人労働者の届け出が義務化された2007年10月以来、過去最高の数値となっている。

なかでも、企業から持続的成長をするためのイノベーション等の担い手として期待が高まっているのが、高度な能力・資質・経験などを有する「高度外国人材」だ。既に2015年4月からは、日本で就労しようとする外国人の「学歴」「職歴」「年収」などをポイント制で評価し、そのポイントの合計が一定点数に達した者には、各種優遇措置(後述)のある在留資格である「高度専門職1号」または「高度専門職2号」(1号取得者が3年以上在留し、資格変更を許可された者)を付与するという仕組みが導入されている。

主な優遇措置を見ると、「高度専門職1号」では(1)在留期間「5年」の付与(通常は1年または3年)、(2)在留資格(ビザ)で許可された主な活動以外の活動を行うことができる(ただし、許可された主な活動の関連業務に限る)、「高度専門職2号」では(1)在留期間が無期限、(2)在留資格で許可された主な活動以外の活動を行うことができる(許可された主な活動との関連性は不要)--などが挙げられる。

さらに、昨年(2017年)に行われた出入国管理及び難民認定法の改正により、高度専門職は最短1年の在留で永住許可が得られる「日本版高度外国人材グリーンカード」が導入されたが、「高度専門職2号」と「グリーンカード」を比較すると、「高度専門職2号」では子育てのために親を呼び寄せられるなどのメリットがある代わりに、勤務している会社を退職した場合には高度専門職2号のビザが取り消される可能性がある。一方、「グリーンカード」では、在留資格が取り消されることはほとんどない代わりに親を呼び寄せることはできないなど、それぞれ一長一短ある。選択にあたっては、当該外国人の働き方や将来ビジョンを考慮する必要がある。

昨年6月9日に閣議決定された『未来投資戦略2017』で、政府は2020年末までに1万人、2022年末までに2万人の高度外国人材認定を目指す、としている。また、アニメーションやファッションなどの分野で活躍する「クールジャパン人材」についても、2018年度を目途に「高度専門職」制度に組み込まれることが決定している。

周知のとおり、今や一部の業態では、人手不足により、留学生によるアルバイトや「技能実習」という名の実質的な単純労働に頼らざるを得なくなっている。今後日本の労働人口が減少していく中、外国人労働者が様々な分野で増加していくことは間違いない。現在は外国人を雇用していない企業においても、自社において外国人労働力をどのように活用するべきか、検討を始める時期に来ていると言えよう。