<解説>
有償支給と無償支給のメリット・デメリット
企業にとって製造設備を所有することや正社員を雇用することは、製造やサービスの提供を安定的なものとすることができる反面、所有や雇用に伴うコストが固定費となり、環境変化に対応しづらくなるというリスクがあります。そこで、所有や雇用に伴うコストを変動化させてリスクを限定しながら規模の拡大を目指すために、多くの企業で外注先の利用が行われています。
製造業では、組み立てや加工といった工程での外注先の利用が多くみられます。製造業における外注先の活用にあたっては、仕入のスケールメリットを享受するため、原材料や部品について発注元が一括仕入れを行い、それらの部材を外注先に渡すのが通常です。その際、原材料や部品の対価を受け取る方法と受け取らない方法があります。外注先に原材料や部品を渡す場合に、当該原材料や部品につき対価をとることを「有償支給」と言い、無償で渡すことを「無償支給」と言います。発注元が外注先に支払う額は、「有償支給」の場合は原材料等の支給代プラス加工代であり、「無償支給」の場合は加工代のみとなります。「有償支給」と「無償支給」には下記のとおり、それぞれメリットとデメリットがあることから、一概にどちらが望ましいかを決めることはできません。
| メリット・デメリット | 有償支給 | 無償支給 |
| 発注元にとってのメリット | ・原則として外注先が仕損品や棚卸減耗のコストを負担するため、外注先にコスト圧縮についてのインセンティブを持たせることができる。 ・期末に外注先にある支給部材について、棚卸をする必要がない。 |
・有償支給時に比べて、会計処理が楽になる。 |
| 発注元にとってのデメリット | ・無償支給時に比べて、有償支給分の売上計上(買戻し義務があれば売上計上は認められない)や債権管理、入金時の消し込み等の手間が増える。 | ・原則として外注先は仕損品や棚卸減耗のコストを負担しないため、外注先にコスト圧縮についてのインセンティブを持たせることが難しい。 ・有償支給時に比べて、在庫の確認の手間が増える。 |
棚卸減耗 : 棚卸で数えた在庫の実数が帳簿上の数量を下回っていること。検収ミス、出荷時のミス、盗難等が考えられる。
なお、下請法が適用される外注先に対して有償支給を行った場合、有償支給の対価だけ早期決済することは下請法で禁止されています。また、収益認識会計基準の公開草案では、有償支給について金融取引として処理する案が提案されていたため、会計基準の改正動向も気に留めておく必要があります(2017年9月29日のニュース「収益認識基準導入控え、先取りで会計方針を変更する企業も」を参照)。
原価低減の一方的押し付けの禁止を求める世耕プラン
2016年9月に経済産業省は「未来志向型の取引慣行に向けて」(いわゆる「世耕プラン」)を打ち出しました。世耕プランでは「価格決定方法の適正化」が課題に挙げられています。これを受け、下請代⾦法の運⽤基準が改正され、主な違反事例にあらたに『親事業者は、親事業者の取引先と協議して定めた「〇年後までに製品コスト〇%減」という自己の目標を達成するために、部品の製造を委託している下請事業者に対して、半年毎に加工費の〇%の原価低減を要求し、下請事業者と十分な協議をすることなく、一方的に通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた。』が追加されました。また、「親事業者が「国際競争力を強化するためにはコストダウンをする必要がある」として主要な部品について一律に一定率引き下げた額を下請単価と定めたため、対象部品の一部の単価は通常の対価を大幅に下回るものとなった」も違反事例に掲げられています。発注元としては、外注先とは「共存共栄」の関係にあることを意識して、原価低減要請をする際には、経済合理性や十分な協議を欠いた要請は行わないように留意すべきであり、決して次のような要請をしてはなりません。
・原価低減目標の数値のみを提示する。
・原価低減要請に応じることを発注継続の前提とする。
・文書や記録を残さない(口頭で削減幅を示唆)
逆に、外注先から取引対価の見直し要請があった場合には、人手不足や最低賃金の引き上げなどによる労務費の上昇の影響を取引対価に反映するよう協議すべきです。
「生産性の向上」は発注元の務めですが、「下請法の遵守」や「外注先との共存共栄の実現」も同じく発注元の務めであることを忘れてはなりません。
さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役C:「外注先ごとに原価構造が違うにもかかわらず、一律に原価低減を要請するのは“下請けいじめ”に他なりません。わが社だけでなく外注先も潤うよう“共存共栄”を目指すべきです。また、仕損率の上昇がすべて外注先の責任かどうかは分かりません。何が原因なのか詳細な調査が必要かと思います。」
(コメント:原価低減の要請自体が悪いことではないですが、取締役Aの発言にあるように、一律に「10%」という数値目標を課して下請先に値下げを要請することは、下請法が禁止する「一律一定率の単価引下げによる買いたたき」(下請法運用基準5-4)に該当するためNGです。また、仕損率の上昇の原因は、必ずしも外注先に原因があるとは限らず、発注側の仕様変更、原材料の品質などに起因するものかもしれません。他の外注先とも比較して慎重に要因を探るとともに、仕損率を低下させるためのアドバイス等を行うのが発注元の責任と言えます。それでもなお外注先の仕損率の高さに改善が見られない場合には、有償支給に切り替える余地がありますが、その際には加工物の代金の受け取りと有償支給された原材料の支払いのタイミングを合わせる(相殺)など、外注先の負担が増さないよう工夫が必要です。Cの発言は発注元としての責任と下請法の趣旨に沿った対策を提案している点がGoodです。)
(コメント:電気代の上昇、派遣労働者の単価の上昇といった外的要因の影響を受けるのは外注先とて同じことです。それでもなお外注先が儲かっているのは血のにじむようなリストラや儲けを出すための方策を必死に考え抜き実行したからです。外注先が儲かっているのを見て、すぐに外注先を“締め付ける”発想しか出てこないのはシュリンク志向のダメな経営者の典型と言えます。まして、一律に原価低減を求めるのはBの発言は下請法や世耕プランに反するBad発言です。)
(コメント:取締役Cのコメントでも触れたとおり、外注先における仕損率の上昇があったとしても、それが外注先の責任に帰するかどうかは、しっかりと検証する必要があります。設計変更、極端な短納期、支給資材の性能等に問題があることから原材料の標準使用数量が厳しい設定になっている可能性にも配慮する必要があります。そこに手を付けずに、「早急に」無償支給から有償支給へ切り替える案を提案する取締役Cはあまりに早計と言えます。)






