2017/12/22 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第八弾(最終回)(会員限定)

当フォーラムでは、一橋大学の円谷准教授の協力を得て、有力企業の株主総会上程議案に対する主要国内機関投資家による個別の議決権行使結果(賛否状況)を分析しているが、最終回となる第八回目は、新日鐵住金(以下新日鉄)とジェイ エフ イー ホールディングス(以下JFE)の取締役選任議案(一号候補者)を取り上げる。

一号候補者 : ここでは、株主総会で選任対象となる取締役のうち、経営トップのことを指す。

2017年6月の株主総会で、新日鉄は代表取締役会長、JFEは代表取締役社長の再任議案を諮った。両候補者とも取締役会議長を務める。結果はいずれも過半数の賛成を得て選任された。以下は両候補者の氏名と役職、そして賛成率である(敬称略)。

社名 一号候補者 役職 賛成率
新日鐵住金 宗岡 正二 代表取締役会長 89.24%
JFE 林田 英治 代表取締役社長 87.63%

まず、トップ選任議案に関連する両社の各情報をまとめておこう。

社外取締役の人数と割合は、新日鉄が13人中の2名で15.3%、JFEが8人中の3名で37.5%と、共に議決権行使助言会社最大手のISSの基準である「2人以上」を満たしている(ただし、ISSは2019年2月以降は、指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社において取締役の3分の1が社外取締役でない場合には、経営トップ(社長および会長)の選任議案に反対するとしている。詳細は2017年10月30日のニュース「ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント」参照)。ROEについては、新日鉄は直近期4.58%で5期平均3.45%、JFEは直近期3.70%で5期平均4.41%となっており、ともにISSが求める「過去5期平均の自己資本利益率(ROE)5%」という基準(5%を下回る場合には経営トップの選任議案に反対を推奨)に達していない。

以上の結果、両社とも似通った賛成率になったものと考えられる。また、新日鐵の外国人株主比率は27.3%、JFEは28.2%とこちらも似通っている。

新日鉄の会長選任議案に反対した国内機関投資家としては、大和住銀投信投資顧問、明治安田アセットマネジメント、日生アセットマネジメント、三井住友アセットマネジメントの4社が確認された。三井住友アセットマネジメントの「SMAMガイドライン」は、投資先に求めるROEの基準として、「上場企業平均(中央値)または5%のいずれか大きい方」を3年連続で下回った場合」には3年以上在任の取締役の選任に原則反対する(社外取締役を含む)としている(1. 取締役選任 ③参照)。上場企業の前期のROE平均は約8%であるため新日鉄はこの基準に抵触、新任者を除く社内取締役全員の選任議案に反対されている。また、同じくJFEもこの基準をクリアしていないが、JFEの場合、社内取締役だけでなく「社外取締役」の選任議案に対しても反対を受けている(新任者を除く)。SMAMガイドラインは「明らかに経営責任がないと判断される者」には賛成するとしており(⑥参照)、新日鉄とJFEの社外取締役には経営責任に差があると判断した模様。JFEの再任社外取締役はそれぞれ指名・報酬委員会の議長を勤めていることが影響した可能性がある(新日鉄は両委員会を未設置)。

一方、JFEの社長選任議案に反対した投資家として確認できたのは、上述の三井住友アセットマネジメントと、朝日ライフアセットマネジメントの2社にとどまった。朝日ライフアセットマネジメントは「国内株式株主議決権行使ガイドライン」において、「独立した社外取締役が複数名選任されていない」場合には代表取締役に反対するとしている(1.取締役の選任 ① 取締役の選任 の表中「取締役の員数」の一番下参照)。朝日ライフアセットマネジメントはJFEの社外取締役3名のうち2名の選任議案に反対したことからすると、独立した社外取締役は1名のみと判断したものと考えられる。なお、同ガイドラインでは「過去3期および直近期予想ROEが連続して6%未満」の場合、取締役の再任 (社外取締役を含む)に反対としているが(1.取締役の選任 ① 取締役の選任 の表中「業績」参照)、JFEは3期前に7.65%のROEを計上しているためこの基準には抵触しない(新日鉄も3期前に7.57%のROEを計上)。

ところで、ROE基準として、大和住銀投信投資顧問は「過去3年のROE実績が一度も資本コストを上回ることなく、かつ改善傾向にない」場合(「議案別議決権行使ガイドライン」(イ)取締役の選任/解任に関する議案 (b)取締役の適格性 【ROE基準】参照)、明治安田アセットマネジメントは「3期連続ROEが8%未満の場合」の場合(「国内株式議決権行使ガイドライン」 2. 取締役の選任 1.数値基準(2)参照)にはそれぞれ取締役選任議案に反対するとし、ニッセイアセットマネジメントは「(取締役会の人数が著しく多い(20名超)、かつ)直近3期連続で経常利益ベースのROEが上場企業の市場平均以下」(「国内株式議決権行使の方針と判断基準」(1)取締役会の増員・規模 2. 参照)場合には、代表取締役の選任議案に反対するとしている。新日鉄とJFEはいずれの基準にも抵触するように見えるが、実際に反対されたのは新日鉄のみとなっている。JFEが賛成を受けた理由を行使基準から推測することは難しいが、いずれも「原則反対」としていることから、例外扱いとする何らかの要因があったことは間違いない。総会前のエンゲージメントの巧拙が、両社に対する賛否判断を分けた可能性もありそうだ。

2017/12/21 グラスルイスが日本向け2018年版ガイドラインを公表

議決権行使助言大手のグラスルイスは(2017年)12月18日、日本向けの2018年版ガイドラインを公表した。

同ガイドラインの変更点は以下の3点となっている。それぞれについて順に説明しよう。・・・

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2017/12/21 グラスルイスが日本向け2018年版ガイドラインを公表(会員限定)

議決権行使助言大手のグラスルイスは(2017年)12月18日、日本向けの2018年版ガイドラインを公表した。

同ガイドラインの変更点は以下の3点となっている。それぞれについて順に説明しよう。

① 取締役会に女性役員がおらず、そのことについて十分な説明が伴っていない場合、特定の取締役の選任議案への反対または棄権を推奨する
このポリシーは2019年から適用する(すなわち、1年間の猶予期間がある)こととし、初年度はTOPIX Core30TOPIX Large70の計100社のみ対象とする。ここでいう「女性役員」には取締役、監査役、執行役が該当する(執行役員は含まれない)。「特定の取締役」とは、指名委員会等設置会社では指名委員会の委員長、その他の会社では会長または社長を指す。また、「十分な説明」としては、(女性役員の選任に向けた)今後の対応策や予定を開示していることが求められる。

TOPIX Core30 : 東証一部に上場する国内企業の普通株式のうち、時価総額と流動性の特に高い30銘柄を対象とした株価指数のこと。
TOPIX Large70 : 東証一部に上場する国内企業の普通株式のうち、「TOPIX Core30」に次いで、時価総額・流動性の高い70銘柄を対象とした株価指数のこと。

② 「取締役会における説明責任に対する評価」、および「買収防衛策に関する独立性の評価」について、方針を変更する
前者は、取締役・監査役の兼務社数を緩和することを示している。グラスルイスは現状、業務執行者は2社まで、非業務執行者は5社までしか兼任を認めていないが(詳細は2017年2月10日のニュース『「会長」の社外役員兼職は何社までOK?』、2017年5月8日 「グラスルイス基準と代表取締役会長」参照 )、今後、「複数のグループ会社(親会社と子会社など)」は1社とカウントする。後者は、従来は「独立した取締役と同監査役が合わせて3分の1」いない場合には買収防衛策に反対していたところ、今後はこれを「独立取締役のみで過半数」へと基準を厳しくする(ISSは「独立した取締役が3分の1以上かつ2名」)。

業務執行者 : 会社法上の「業務執行者」に限らず、広く業務執行を担当する役員(業務執行取締役、執行役員)。グラスルイスは「平取締役の会長で、執行関与がないことが開示で明らかな場合、業務執行者には該当しない」と説明している模様。

③ 株主総会の承認を必要とすることなく取締役会が利益処分の裁量権を有することについて、方針を変更する
グラスルイスは従来、「剰余金処分の決定機関は企業の財務状況などを把握している取締役会が最適である」とし、決定機関を取締役会に移す旨の定款変更には特段の意思を表明して来なかった(ISSは「反対」)。今後はこのスタンスを一部厳格化する。具体的には、剰余金処分を取締役会が決定することができる旨(会社法459条1項)の定款変更には従来どおり賛成するが、株主総会の決定権限を排除する旨(同460条1項)の定款変更には反対する。

今回のガイドライン変更において、最もインパクトが大きいのは①の女性役員に関する新基準だろう。初年度(2019年)は100社限定とはいえ、年を追って対象社数を拡大するものとみられる。また、ジェンダー・ダイバーシティを強化するグローバルな潮流を踏まえて、今後はISSや国内外の大手機関投資家が同様のスタンスに転じるのもそう遠くないと考えられる。上場会社は、今のうちから将来を見据えた対応を検討しておく必要があるだろう。

2017/12/20 会社法施行規則改正案が公表、株主総会の後ろ倒しに向けた条件すべて整う

株主が議案の検討や対話の時間的余裕を確保するために求めている株主総会日程の後ろ倒しに向けた“最後のボトルネック”と言われてきた「2回の株主確定(「決算日」と「基準日」)を不要とする(株主確定を1回で済ませる)ための会社法施行規則改正案がこのほど公表され、ついに上場会社が株主総会の後ろ倒しに踏みきるための条件がすべて整った。・・・

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2017/12/20 会社法施行規則改正案が公表、株主総会の後ろ倒しに向けた条件すべて整う(会員限定)

株主が議案の検討や対話の時間的余裕を確保するために求めている株主総会日程の後ろ倒しに向けた“最後のボトルネック”と言われてきた「2回の株主確定(「決算日」と「基準日」)を不要とする(株主確定を1回で済ませる)ための会社法施行規則改正案がこのほど公表され、ついに上場会社が株主総会の後ろ倒しに踏みきるための条件がすべて整った。

株主総会日程の後ろ倒しに向けた“最後のボトルネック”とは、会社が株主総会を後ろ倒しするために議決権行使基準日を決算日より遅い日に設定しても、金融商品取引法上の有価証券報告書と会社法上の事業報告はあくまで“決算日”における「大株主の状況」と「上位10名の株主の状況」を記載することを求めているため、議決権行使基準日における株主の確定とは別に、有価証券報告書および事業報告への記載のために決算日においても大株主を確定しなければならず、企業の事務負担が増加するという問題のこと(詳細は2017年1月31日のニュース「株主総会の7月開催を検討する会社が増加傾向も、残されたボトルネック」の最終段落、 2017年5月25日のニュース「株主総会を2か月後倒しの企業現る―決算日と異なる基準日を初めて設定」の下から三段落目参照)。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

このうち「有価証券報告書」の問題は、2017年10月24日に金融商品取引法の一部である「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案が公表され、「大株主の状況」の記載時点が「事業年度末」から原則として「議決権行使基準日」へと変更されたことで既に解消しているが(2017年11月7日のニュース「株主総会日程の後ろ倒しに向けた“最後のボトルネック”が解消」参照)、「事業報告」については法的な対応がまだだった。こうした中、法務省は2017年12月14日、この問題の解消を図るための「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表し、同日からパブリックコメントに付している(2018年1月19日(金)まで)。具体的には、事業報告の「大株主の状況」の記載時点を「議決権基準日」時点とすることを認める。下表の赤字部分のとおり、大株主の状況を「議決権基準日」時点で記載することができるのは、議決権基準日が「事業年度末日後の日」となるケースであり、大株主の状況を「議決権基準日」時点で記載する場合には当該「議決権基準日」を明らかにしなければならない。

改正案 現 行
(株式会社の株式に関する事項)
第百二十二条 (略)
一 当該事業年度の末日において発行済株式(自己株式を除く。次項において同じ。)の総数に対するその有する株式の数の割合が高いことにおいて上位となる十名の株主の氏名又は名称、当該株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。)及び当該株主の有する株式に係る当該割合
二 (略)
2 当該事業年度に関する定時株主総会において議決権を行使することができる者を定めるための法第百二十四条第一項に規定する基準日を定めた場合において、当該基準日が当該事業年度の末日後の日であるときは、前項第一号に掲げる事項については、当該基準日において発行済株式の総数に対するその有する株式の数の割合が高いことにおいて上位となる十名の株主の氏名又は名称、当該株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。)及び当該株主の有する株式に係る当該割合とすることができる。この場合においては、当該基準日を明らかにしなければならない
(株式会社の株式に関する事項)
第百二十二条 (同左)
一 当該事業年度の末日において発行済株式(自己株式を除く。)の総数に対するその有する株式の数の割合が高いことにおいて上位となる十名の株主の氏名又は名称、当該株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。)及び当該株主の有する株式に係る当該割合
二 (同左)

本省令の施行日は、「2018年3月31日以後に終了する事業年度に係る事業報告」から適用される見込み。つまり、3月決算会社であれば、現在進行中の事業年度から適用されることになる。

上述のとおり、政府はこれまで、上場会社が基準日の変更を検討するうえでボトルネックとなっている規制の緩和等に取り組んできたが(このほか、平成29年度税制改正では法人税の確定申告期限も延長されている。詳細は、2017年4月5日のニュース「確定申告期限の延長特例改正で定款変更は必要?」参照)。今回の会社法施行規則の改正は、株主総会日程の後ろ倒し実現に向け“総仕上げ”になるものと言える。

ただ、いくら株主総会を後ろ倒しするうえでの障害がなくなったとはいえ、上場会社にとっては、「株主総会を後ろ倒ししない積極的な理由」がなくなっただけで、「株主総会を後ろ倒しする積極的な理由」が乏しいことは、これまでと変わらない。したがって、今後株主総会の後ろ倒しを進展させるためには、そのためのインセンティブを会社側に与えていくことがカギとなろう。例えば、次の会社法改正で導入される株主総会資料(招集通知等)の電子提供制度でEDINETのプラットフォーム利用を可能とすること(2017年12月13日のニュース「実現すれば株主総会の後ろ倒し加速も 招集通知提出にEDINET利用案浮上」参照。株主総会資料の電子提供制度については、2017年6月15日のニュース『株主総会資料の電子提供制度、「招集の通知」は引き続き“紙”で』を参照)やKAMの会社法への導入(2017年11月15日のニュース「監査報告書へのKAMの記載を巡る関係者の見方」参照)などがありそうだ。

2017/12/19 アジアにおける日本企業のコーポレートガバナンス

アジアの主要国である日本の企業は、「アジア」という地域の括りでコーポレートガバナンスのレベルを評価されることも多い。特に欧米の投資家はその傾向が強い。例えば、日本企業の取締役会は、独立社外取締役の数やダイバーシティ(多様性)などの点において他のアジア諸国の企業より遅れているといったものだ。しかし、日本企業の経営陣は必ずしもこれを鵜呑みにする必要はない。

例えば、・・・

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2017/12/19 アジアにおける日本企業のコーポレートガバナンス(会員限定)

アジアの主要国である日本の企業は、「アジア」という地域の括りでコーポレートガバナンスのレベルを評価されることも多い。特に欧米の投資家はその傾向が強い。例えば、日本企業の取締役会は、独立社外取締役の数やダイバーシティ(多様性)などの点において他のアジア諸国の企業より遅れているといったものだ。しかし、日本企業の経営陣は必ずしもこれを鵜呑みにする必要はない。

例えば、アジア諸国の企業では、創業者一族や国が株式の過半数を所有しているケースが少なくない。この場合、取締役会がどれほど強化されても、実質的には大株主によって経営が行われることになりかねない。また、こうしたアジア企業では、取締役会における指名委員会の役割が形骸化してしまっていることが多い。結局、大株主が次期CEOを決定してしまうからである。

さらに、アジア企業では、こうした大株主がいなくても取締役会に影響を与える“機関”が存在するケースもある。例えば中国企業では、民間企業にも「共産党委員会」が設置されていることがある。こうしたアジア企業の取締役会と、一般的な日本企業の取締役会を、独立取締役の人数やダイバーシティといった観点のみで単純に比較することが合理的でないことは明らかだろう。

もちろん、日本企業でも、現CEOが次期CEOを決定し、その後、大株主でも取締役のメンバーでない「顧問・相談役」として会社の意思決定に影響を与えるといったケースが問題になっているように、コーポレートガバナンス上の問題が存在している。こうした企業が投資家に独立した指名委員会を導入するなどの対応を求められたとしても、言い訳の余地は小さい。

このように、一口に「コーポレートガバナンス」といっても、国ごとの事情や企業が置かれている状況は異なることから、各国の企業のコーポレートガバナンスのレベルを例えば「アジア」といった括りで一律に評価することは難しく、実際、上述のとおり日本企業のコーポレートガバナンスが必ずしも他のアジア諸国の企業と比べて大きく劣っているわけではない。それぞれの国の歴史、政治、経済などの特性を無視したかのような不毛な“ガバナンス議論”を投資家が仕掛けてきた場合には、企業側にも反論の余地はありそうだ。

2017/12/18 議決権行使結果の個別開示に対する機関投資家の本音

当フォーラムでは主要国内機関投資家による議決権行使結果の分析記事を順次掲載しているが(2017年12月15日のニュース「主要国内機関投資家による議決権行使結果 第七弾」参照)、議決権行使結果が個別に開示されることを大いに歓迎しているという企業は少ないのが実情だろう。では、個別開示する側の機関投資家(運用会社)はどのように考えているのだろうか。・・・

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2017/12/18 議決権行使結果の個別開示に対する機関投資家の本音(会員限定)

当フォーラムでは主要国内機関投資家による議決権行使結果の分析記事を順次掲載しているが(2017年12月15日のニュース「主要国内機関投資家による議決権行使結果 第七弾」参照)、議決権行使結果が個別に開示されることを大いに歓迎しているという企業は少ないのが実情だろう。では、個別開示する側の機関投資家(運用会社)はどのように考えているのだろうか。

結論から言えば、個別開示について未だに懸念を抱く機関投資家は少なくない。

懸念の一つがノウハウの流出だ。投資先企業を選別し、魅力のある企業にだけ投資する「アクティブ運用」を専門にする運用会社にとっては、投資先企業を選別すること自体が“ノウハウ”に他ならない。こうしたアクティブ系の運用会社が議決権行使結果を個別開示するということは全ての投資先を公表するに等しく、できれば避けたいというのが本音だろう。

アクティブ運用 : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法のこと。

また、個別開示された議決権行使結果が投資先の株価に与えかねないということも、運用会社にとっては懸念材料となっている。例えば巨額の資産を運用する影響力の大きい運用会社が、ある投資先企業の経営陣の選任議案に対して反対票を投じたとしよう。この事実が個別開示により判明した場合、他の投資かはどう感じるだろうか。なかには「この運用会社は経営陣を支持していないのだから、将来的には株式を売却するかもしれない」と考える投資家もいるかもしれない。実は当該運用会社はその企業の株式を売却する気はなく、単に経営陣を現在より良い方向に向けるためにあえて反対票を投じただけだとしても、「反対票が投じられた」という一つの事実に起因する連想や勝手な思い込みにより、当該運用会社に“先回り”して株式を売却してしまう投資家も少なからずいるだろう。その結果株価が下がってしまえば、当該運用会社の運用成績にもネガティブな影響を及ぼしかねない。

このほか、「反対票を投じること=スチュワードシップ活動をきちんとしている」と見られることは本意ではないとする運用会社もある。反対票を投じるにせよ賛成票を投じるにせよ、そこには必ず背景や理由が存在する。そこを見ることなく、反対比率の高さだけをとらえて、それが当該運用会社の「考え方」や「スタンス」であるといった評価を受けることに運用会社側からは強い危機感が示されている。

運用会社がこうした懸念を払拭していくためには、結局のところ、運用会社側が自らの考えを投資先企業はもちろん、広く一般に伝えていくしかないだろう。

実際、上述した運用会社の一つは投資先企業との対話の際に議決権の行使結果を伝えたうえで、賛成あるいは反対に至った理由や経緯などを説明するとともに、企業からも意見を聞き、議論する機会を設けているという。この運用会社は「単純に反対することだけがスチュワードシップ活動ではない。投資先企業との対話の中でお互い合意に至ることができれば、本来なら反対比率は下がっていくはず」と強調する。

また、議決権行使結果の個別開示資料にも工夫の余地がありそうだ。ある運用会社の場合、米国、英国、豪州など海外の拠点では既に(日本より先に)個別開示が行われており、日本が最も遅く個別開示をスタートしたものの、個別開示資料の中で「反対理由」についてのコメントまで開示しているのは日本だけであり、その意味では日本の開示が最も先進的なものとなっている。とはいえ、多くの運用会社の個別開示資料は300ページ前後にも及び、特定の情報を探し出すことは容易ではない。こうした中、上記運用会社は、開示資料の一番最後につけていた各開示項目に関する注釈に気付かない人が少なくないことを踏まえ、次回は注釈を前の方に移動させるという。

機関投資家のスチュワードシップ活動が企業や投資家をはじめとするステークホルダーに理解されるためには、対話の充実と機関投資家による(議決権行使結果の開示資料など)情報発信の充実が鍵となりそうだ。