当フォーラムでは、一橋大学の円谷准教授の協力を得て、有力企業の株主総会上程議案に対する主要国内機関投資家による個別の議決権行使結果(賛否状況)を分析しているが、最終回となる第八回目は、新日鐵住金(以下新日鉄)とジェイ エフ イー ホールディングス(以下JFE)の取締役選任議案(一号候補者)を取り上げる。
一号候補者 : ここでは、株主総会で選任対象となる取締役のうち、経営トップのことを指す。
2017年6月の株主総会で、新日鉄は代表取締役会長、JFEは代表取締役社長の再任議案を諮った。両候補者とも取締役会議長を務める。結果はいずれも過半数の賛成を得て選任された。以下は両候補者の氏名と役職、そして賛成率である(敬称略)。
| 社名 | 一号候補者 | 役職 | 賛成率 |
| 新日鐵住金 | 宗岡 正二 | 代表取締役会長 | 89.24% |
| JFE | 林田 英治 | 代表取締役社長 | 87.63% |
まず、トップ選任議案に関連する両社の各情報をまとめておこう。
社外取締役の人数と割合は、新日鉄が13人中の2名で15.3%、JFEが8人中の3名で37.5%と、共に議決権行使助言会社最大手のISSの基準である「2人以上」を満たしている(ただし、ISSは2019年2月以降は、指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社において取締役の3分の1が社外取締役でない場合には、経営トップ(社長および会長)の選任議案に反対するとしている。詳細は2017年10月30日のニュース「ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント」参照)。ROEについては、新日鉄は直近期4.58%で5期平均3.45%、JFEは直近期3.70%で5期平均4.41%となっており、ともにISSが求める「過去5期平均の自己資本利益率(ROE)5%」という基準(5%を下回る場合には経営トップの選任議案に反対を推奨)に達していない。
以上の結果、両社とも似通った賛成率になったものと考えられる。また、新日鐵の外国人株主比率は27.3%、JFEは28.2%とこちらも似通っている。
新日鉄の会長選任議案に反対した国内機関投資家としては、大和住銀投信投資顧問、明治安田アセットマネジメント、日生アセットマネジメント、三井住友アセットマネジメントの4社が確認された。三井住友アセットマネジメントの「SMAMガイドライン」は、投資先に求めるROEの基準として、「上場企業平均(中央値)または5%のいずれか大きい方」を3年連続で下回った場合」には3年以上在任の取締役の選任に原則反対する(社外取締役を含む)としている(1. 取締役選任 ③参照)。上場企業の前期のROE平均は約8%であるため新日鉄はこの基準に抵触、新任者を除く社内取締役全員の選任議案に反対されている。また、同じくJFEもこの基準をクリアしていないが、JFEの場合、社内取締役だけでなく「社外取締役」の選任議案に対しても反対を受けている(新任者を除く)。SMAMガイドラインは「明らかに経営責任がないと判断される者」には賛成するとしており(⑥参照)、新日鉄とJFEの社外取締役には経営責任に差があると判断した模様。JFEの再任社外取締役はそれぞれ指名・報酬委員会の議長を勤めていることが影響した可能性がある(新日鉄は両委員会を未設置)。
一方、JFEの社長選任議案に反対した投資家として確認できたのは、上述の三井住友アセットマネジメントと、朝日ライフアセットマネジメントの2社にとどまった。朝日ライフアセットマネジメントは「国内株式株主議決権行使ガイドライン」において、「独立した社外取締役が複数名選任されていない」場合には代表取締役に反対するとしている(1.取締役の選任 ① 取締役の選任 の表中「取締役の員数」の一番下参照)。朝日ライフアセットマネジメントはJFEの社外取締役3名のうち2名の選任議案に反対したことからすると、独立した社外取締役は1名のみと判断したものと考えられる。なお、同ガイドラインでは「過去3期および直近期予想ROEが連続して6%未満」の場合、取締役の再任 (社外取締役を含む)に反対としているが(1.取締役の選任 ① 取締役の選任 の表中「業績」参照)、JFEは3期前に7.65%のROEを計上しているためこの基準には抵触しない(新日鉄も3期前に7.57%のROEを計上)。
ところで、ROE基準として、大和住銀投信投資顧問は「過去3年のROE実績が一度も資本コストを上回ることなく、かつ改善傾向にない」場合(「議案別議決権行使ガイドライン」(イ)取締役の選任/解任に関する議案 (b)取締役の適格性 【ROE基準】参照)、明治安田アセットマネジメントは「3期連続ROEが8%未満の場合」の場合(「国内株式議決権行使ガイドライン」 2. 取締役の選任 1.数値基準(2)参照)にはそれぞれ取締役選任議案に反対するとし、ニッセイアセットマネジメントは「(取締役会の人数が著しく多い(20名超)、かつ)直近3期連続で経常利益ベースのROEが上場企業の市場平均以下」(「国内株式議決権行使の方針と判断基準」(1)取締役会の増員・規模 2. 参照)場合には、代表取締役の選任議案に反対するとしている。新日鉄とJFEはいずれの基準にも抵触するように見えるが、実際に反対されたのは新日鉄のみとなっている。JFEが賛成を受けた理由を行使基準から推測することは難しいが、いずれも「原則反対」としていることから、例外扱いとする何らかの要因があったことは間違いない。総会前のエンゲージメントの巧拙が、両社に対する賛否判断を分けた可能性もありそうだ。
