2017/10/31 D&O保険の補償内容、見直しのポイント(会員限定)

D&O保険(会社役員賠償責任保険)への加入が社外取締役の就任条件の一つとなる中、社外取締役選任の進展とともにD&O保険への加入率も上昇し、いまや上場企業の9割以上が役員をD&O保険に加入させている。ただ、現在加入しているD&O保険の補償内容が十分ではないケースも少なくないとみられる。

まず挙げられるのが支払限度額の低さだ。東京海上日動火災保険の調査によると、D&O保険に加入している従業員数3000人以上の企業等67社(うち相当数が東証一部上場)の平均支払限度額は9.5億円と、10億円を切っている。支払限度額を「10億円以上20億円未満」に設定している企業等も13.4%あるが、米国企業の平均支払限度額が100億程度であることを考えると、日本企業も支払限度額の増額を検討する余地は十分にあろう。もっとも、損害保険会社がどこまで支払限度額の増額に応じるかは、会社の(保険金の支払いが生じる)リスクの大きさ(例えばビジネスモデルやコンプライアンス体制など)によっても異なる。この点は損害保険会社や保険代理店に率直に相談してみる必要がある。

また、補償内容についても改めてチェックしておきたい。自分が加入しているD&O保険の主な補償内容を即答できる役員は果たしてどれくらいいるだろうか。いくら支払限度額を引き上げても、実際に発生した賠償責任が補償対象とならなければ意味がない。特に補償が十分でないことが多いと思われるのが、(1)役員が会社に損害をもたらしたとして、会社から役員が訴えられ(会社訴訟)、敗訴した場合の賠償責任、(2)ハラスメントや不当解雇を理由に役員が訴えられ、敗訴した場合の賠償責任、そして(3)会社に不祥事が発生した際に設置されることが多い「第三者委員会」に関する費用の補償だ。東京海上日動火災保険の調査によると、D&O保険に加入している従業員数3000人以上の企業等67社のうち6割程度の企業がこれらを補償対象としている(付保している)ものの、残りは「対象としていない(付保していない)」か、「(対象としているかどうか)わからない」と回答している(下表参照)。

補償内容 会社訴訟 ハラスメント
不当解雇
第三者委員会
「付保している」と
回答した企業の割合
67.2% 65.7% 59.7%
「付保していない」と
回答した企業の割合
7.5% 10.4% 7.5%
「わからない」と
回答した企業の割合
25.4% 23.9% 32.8%

保険代理店 東海日動パートナーズTOKIOの藤野浩二氏は、「企業の保険担当者がD&O保険の補償内容を熟知しているとは限りません。各損害保険会社の保険料の比較は出来ても、補償内容まで比べているという企業は意外と少ないのではないでしょうか」と話す。また、なかには保険会社や保険代理店側においても補償の必要性等の背景知識が十分でないケースもある。現状、自社の役員が加入しているD&O保険の補償内容が十分でない、あるいは補償内容をよく把握できていないという場合には、信頼できる保険会社や保険代理店に相談することが必須となる。

このように保険金の支払限度額や補償内容を見直せば、保険料が増加することも予想される。東京海上日動火災保険の調査によると、D&O保険に加入している従業員数3000人以上の企業等67社の年間保険料の平均額は622.6万円であり、最も高い(「分からない」と回答した企業等を除く)レンジである「900万円以上1000万円未満」と回答した企業等が20.9%あった。67社のうち、保険料を会社がすべて負担している企業等は55.2%と半数を超えたが、「役員の人数で均等に分けて負担している」企業等が16.4%、「役員報酬に比例して負担額を設定している」企業等が13.3%、「取締役の地位に応じて負担額を設定している」と回答した企業等が3%あった。

2016年2月26日掲載のニュース「株主代表訴訟補償特約保険料の会社負担、給与課税不要に」でもお伝えしたとおり、D&O保険のうち、株主代表訴訟補償部分の保険料を会社が負担した場合でも役員への給与課税を不要とする取扱いが国税庁から2016年2月に公表されたところだ。東京海上日動火災保険の調査によると、D&O保険に加入している従業員数3000人以上の企業等67社のうち、給与課税が不要となったことについて「知っており、内容も把握している」と回答した企業等は45.1%と半数を割っている(「知っているが、内容はわからない」と回答した企業等は28.4%、「知らない」と回答した企業等は26.5%)。この点については、従来「保険料を会社に負担させることは会社法上の忠実義務違反(会社法355条)に該当しかねない」との指摘があった(2015年7月13日のニュース「D&O保険料の会社負担は可能か?」参照)ことを踏まえ、会社法を改正し、同法にD&O保険に関する規定を新設したうえで、会社が株主代表訴訟補償特約保険料を負担できることを前提にその手続きを明示することも検討されている(2017年4月27日のニュース「法務省、ガバナンスに関する会社法の見直しに着手」参照)。これから保険金の上限金額引上げや補償内容の見直しを検討しようという企業は、保険料の増加に備え、保険料の全額会社負担を検討しておく必要があろう。

株主代表訴訟補償 : D&O保険には、第三者訴訟(役員の故意や重過失によって会社または役員が第三者(取引先、従業員など)に損害を与えた場合、第三者が役員に対して損害賠償を請求するもの)をカバーする「普通保険約款」と、株主代表訴訟をカバーする「株主代表訴訟補償特約」がある。

参考資料:東京海上日動火災保険「会社役員賠償責任保険に関する実態把握調査【2016年度】結果報告書」

詳しい資料をご希望の方は、取材にご協力いただいた株式会社東海日動パートナーズTOKIO(東京海上日動火災保険株式会社の100%子会社)品川支店 法人営業部 部長 藤野浩二様へ直接ご連絡ください。
藤野浩二 様
Tel:03-6826-8421
Mail:koji.fujino@tnpgrp.jp

2017/10/31 【失敗学第41回】東洋炭素の事例(会員限定)

概要

黒鉛・カーボン素材の製品の製造・販売を営む東洋炭素(東京証券取引所市場第一部上場)で、フランス連結子会社(TOYO TANSO FRANCE S.A.)の経理担当者が会社資金を不正に流用していた(被害額は約182百万円)。

経緯

東洋炭素が、2017年10月に「社内調査委員会の調査結果」を公表するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。

2011年7月から2017年4月:東洋炭素のフランス子会社で、現地従業員が会社の預金口座から本人の口座に不正送金をしていた(回数は135回にのぼる)。

2017年
4月:フランス子会社において、フランス税務当局が実施した税務調査で、VAT還付額の不正水増しの可能性を指摘される。
6月:フランス子会社は不正行為者を解雇。
7月:社内調査委員会を設置するとともに、不正行為者を刑事告訴(こちらのリリースを参照)。
10月:東洋炭素が「社内調査委員会の調査結果」を公表するとともに、不正の防止および長期にわたり不正行為を発見できなかった責任を明確にするため、代表取締役社長や財務経理担当取取締役・欧州地域担当執行役員等の経営陣の月額報酬の10%減俸(3か月)を公表する。

内容・原因・改善策

東洋炭素が、2017年10月に公表した「社内調査委員会の調査結果」によると、本件の問題点の主な内容とその原因、対応策および再発防止策は次のとおりである。

海外子会社の従業員によるVATを用いた資金流用
内容 海外子会社の従業員が会社資金を自身の口座へ不正に送金していた(被害額は約182百万円)。
原因 (手口)
・架空の輸入取引による仮払VAT(付加価値税。日本の消費税に相当)を計上し、当該仮払VAT金額の送金伝票を偽造(上司のサインを偽造)して銀行に送付し、資金を自身の口座に送金させていた。
・架空取引によって計上した仮払VATにつき税務当局へ還付請求を行い、会社に対して税金の還付が行われていた。仮払VATの方が仮受VATを上回れば、その差額分を税務当局へ請求することで還付を受けることができる。フランス子会社では還付金が入金されるため、税務調査を受けるまで不正送金が発覚することはなかった。
(機会)
当該従業員に経理・財務の権限が集中していた。
(動機)
・金銭的利得。
再発防止策 ・当該従業員を解雇し、刑事告訴
・フランス子会社における会計業務を外部会計事務所へ委託(応急対策)
・フランス子会社における銀行出金手続きおよびVAT申告手続きを外部会計事務所へ委託(応急対策)
・フランス子会社の出金状況を把握するため、親会社における銀行口座のモニタリングシステムを導入
・関係会社の役員の役割、責務や懲戒基準の明確化
・その他は下記の<この失敗から学ぶべきこと>を参照
<この失敗から学ぶべきこと>

海外進出した上場企業の多くで、海外子会社を管理する担当役員が頭を悩ませているのが、「海外子会社の内部統制」です。すべての海外子会社において、親会社と同レベルの内部統制を構築するのは不可能です。そうかといって、貧弱な内部統制では不正を招きかねません。そこで、当該海外子会社の規模や重要性(J-SOXの対象かどうか)に応じて内部統制を構築することになりますが、そのさじ加減は難しく、コストを重視するあまり不十分な内部統制のまま放置して結果、不正を発生させてしまう上場企業が後を絶ちません。
実際に、東洋炭素のフランス子会社でも、業績面での管理に重きが置かれ、ガバナンス確保や内部統制の構築が不十分でした。重要性に応じた内部統制を構築する方針のもと、簡素な内部統制しか設けていない子会社については、内部統制の不足を補うため、親会社が関わる形で当該子会社のガバナンスや内部監査等のモニタリングを充実させるべきです。
今回の不祥事発覚を受け東洋炭素がとった再発防止対策を下に掲げておきます。他の上場企業でも、内部統制が手薄になりがちな関係会社に対する親会社のかかわり方という観点から、これらの項目のうち不足しているものがないか点検しておきましょう。
・関係会社の役員の役割、責務や懲戒基準の明確化
・親会社において、関係会社の出金を集中管理する
・関係会社の出金プロセスの再確認と改善指導
・関係会社の現地責任者および会計責任者への教育・指導ならびに人事評価および賞罰の明確化と強化
・関係会社へのコンプライアンス教育の強化ならびにコンプライアンス関連の規程整備
・関係会社の各機能に対する干渉部門の整理と体制強化および管掌役員の役割と責任の明確化、ならびに関係会社との連携体制の強化
・関係会社への内部監査の強化
・関係会社のリスク・コンプライアンスに関するモニタリング体制の強化

2017/10/31 【2017年9月の課題】非財務情報の準備:解答(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
研究開発/コンサルティング部 
チーフコンサルタント 藤島 裕三

法的に強制されない非財務情報の開示は必要か

上場会社の財務情報は、証券取引所の規則に基づく「決算短信」、会社法に基づく「事業報告」、金融商品取引法に基づく「有価証券報告書」などの法定書類によって開示することが求められています。また、これらの財務情報は会計基準(日本基準、米国基準、IFRS)に則って定期的に作成されるため、投資家は時系列や企業間で財務情報を比較・分析することも可能となっています。

一方で、ESG情報に代表される非財務情報については、少なくとも法的強制力を伴った開示規制はありません。すなわち、非財務情報を開示しようとする企業にとって、守らなければならない(ある意味で“拠り所”となる)基準は存在しないということになります。逆に言うと、企業が自ら「自社が開示するべき非財務情報は何か」「投資家が求めている非財務情報は何か」を検討し、最適な情報開示を実施しなければなりません。

「法令等で強制されていない非財務情報の開示など必要ない」と割り切る考え方もあり得るでしょう。しかし、メインストリーム(主流)の投資家は近年、企業を長期的な視点で評価分析したうえで、投資や議決権行使を判断するようになってきています。そしてその有用な判断材料として、過去の経営成績や今期・来期の収益見通しを示す財務情報よりも、将来の戦略やリスクを表現する非財務情報が重要視されているのです。

特に規模(時価総額)が大きく投資家の注目度が高い企業や、資金需要が旺盛で投資家の関心を得たいと考えている成長企業などにおいては、自社の非財務情報が投資家にとって有益な投資の判断材料となるよう整理し、積極的に開示していくべきでしょう。この場合の非財務情報は、将来の企業価値を左右する戦略やリスクに関するものが中心となるため、他社の開示には見られない独自性の高いものとなるはずです。

このような非財務情報の独自性の高さを踏まえると、そのあり方を規制する法例等が存在しないも当然かもしれません。とはいえ、参照できる指針が何もないとなると、企業としては、どういう方針の下で何をどうやって開示すればよいのか、悩ましいところでしょう。

これから情報開示を始めようという企業にとって使いやすい「価値協創ガイダンス」

こうした企業にとって有用なのが、以下で紹介する、非財務情報を適切に開示するための“準公的”な指針です。それぞれ特徴が異なりますので、自社に適したものを選択し、非財務情報を開示する際の方針とするとよいでしょう。

① サステナビリティ・レポーティング・ガイドライン(第4版)
 報告原則及び標準開示項目
 実施マニュアル
サステナビリティ・レポーティング・ガイドラインは GRI(Global Reporting Initiative=(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)によって、策定されているものです。GRIは地球環境問題の深刻化を背景に1997年、国連傘下のNGOとして設立されました。当初は環境報告書の国際基準を策定することを目的にしていましたが、その後、「経済」「環境」「社会」の3つの側面から企業を評価するトリプルボトムラインの考え方を採用することで、GRIのガイドラインは持続可能性(サステナビリティ)報告書の指針となりました。

2013年に発表された第4版ガイドライン(G4)は、上記のとおり「報告原則と標準開示項目」と「実施マニュアル」から構成されています。「報告原則」には内容面(16ページ~、例えばマテリアリティ(重要性)、網羅性など)と品質面(17ページ~、例えばプラス面とマイナス面のバランス、比較可能性、正確性など)、および非財務情報の開示にあたっての留意事項が解説されています。「標準開示項目」(20ページ~)には具体的な開示項目が、一般標準開示項目(戦略および分析、組織のプロフィール、ガバナンス、倫理と誠実性)と、マテリアリティに従って求められる特定標準開示項目(マネジメント手法、環境、社会)に分類して記載されています。

一般標準開示項目 : 組織および報告プロセスに関係する情報を提供するもの
特定標準開示項目 : マテリアルな側面に関係する組織のマネジメントおよびパフォーマンス情報を提供するもの

持続可能性報告書は元々、グローバル企業の経済活動が環境問題や社会問題を引き起こしたとの認識から、企業に「持続可能性についてのステークホルダーへの説明責任」を果たさせようとするものです。そのため、GRIガイドラインが要求する開示項目は圧倒的に環境・社会カテゴリーが多くなっているのが特徴となっています。また、一般標準開示項目は、「中核」か「包括」かの準拠オプションによって異なり、企業はそのいずれに準拠することもできますが(11ページ参照)、ガバナンスについては「組織のガバナンス構造」を除いて「中核」の開示項目とはなってない(12ページの表および36ページ「G4-34」参照)など、必ずしも投資家向けの情報開示とは言えない面もあります。そう考えると、GRIのガイドラインは、投資家のみならず消費者や地域社会など、広範なステークホルダーとのエンゲージメントが求められるグローバル企業にとって有用な指針と言えるでしょう。

なお、2016年10月には新たな基準として「GRIスタンダード」が公表されており、現行の第4版ガイドラインは2018年7月からGRIスタンダードに切り替わることになっています。

② IIRCフレームワーク
リーマンショックを契機とした短期志向に基づく企業活動・投資活動への反省から、長期的な企業価値の創造につながる非財務情報を開示する統合報告(Integrated Reporting)がグローバルな資本市場で重要視されています。IIRC(International Integrated Reporting Council=国際統合報告評議会)は国際的な統合報告の枠組みを開発するため2010年に英国で設立された団体であり、2013年12月に統合報告書を作成するためのフレームワーク「IIRCフレームワーク」を発表しました。IIRCの調査によると同フレームワークは62か国、1,500社以上で採用されています。

IIRC : 国際的に合意された統合報告のフレームワークを構築するため、2010年8月に設立された英国を拠点とする民間の非営利法人。規制当局、投資家、企業、会計の専門家、NGOにより構成される国際的な連合組織である。また、IFAC(国際会計士連盟)、IASB(国際会計基準審議会)などとも協力関係にある。

IIRCフレームワークは、統合報告の定義、および組織に対する価値創造と他者に対する価値創造、資本、価値創造プロセスなどの基礎概念を説明する「イントロダクション」と、指導原則(情報の結合性、ステークホルダーとの関係性、重要性、簡潔性、信頼性と完全性、首尾一貫性と比較可能性など)から作成基準までを示す「統合報告書」から成り立っています。

基礎概念として特に重要なのが「価値創造プロセス」です。ここでは、ビジネスモデルを中核に6つの資本(財務、製造、知的、人的、社会・関係、自然)がいかに利用され(インプット)、いかに増減したか(アウトカム)を説明しなければなりません。その説明には「ガバナンス」や「リスクと機会」など8つの内容要素を含めるよう、作成基準において定められています。

IIRCフレームワークには、統合報告書の対象は「財務資本の提供者」だと明示されています。すなわち、IIRCフレームワークはまさに投資家が求める非財務情報のあり方を示すものだと言えます。

英国では統合報告書に類似した戦略報告書の作成が義務付けられていますし、日本でもGPIFが運用委託機関に対して統合報告書の活用を要請しています。株主構成における機関投資家比率が高い企業にとって、統合報告書の作成(もしくはそれに類似した情報開示)は必須になりつつあると言えるでしょう。ただし、IIRCフレームワークに示されている基準は総じて抽象的であり、本フレームワークでも、何をどのように記載するかは“統合思考”により企業が能動的に考えるとしています。この点、非財務情報の開示に慣れていない企業にとっては負担が重いことは否定できません。

※IIRCフレームワークの詳細な解説は、ケーススタディ「【ディスクロージャー】統合報告書を出したい」を参照

③ 価値協創ガイダンス
2015年に経産省から公表された「伊藤レポート」はROEなど財務価値の重要性を訴えた一方、その実現に貢献する非財務価値に関する記述については手薄な感もありました。そこで経済産業省の「持続的成長に向けた長期投資研究会」は、企業による非財務情報の開示および投資家による評価の手引とするべく、2017年5月に「価値協創のための総合的開示・対話ガイダンス -ESG・非財務情報と無形資産投資-(価値協創ガイダンス)」を公表しています。なお本ガイダンスは2017年10月に公表された「伊藤レポート2.0」の中核的なコンテンツとなっています。

価値協創ガイダンスはその冒頭で、本ガイダンスの役割を「企業と投資家が互いの理解を深める」こととしたうえで、企業が開示すべき非財務情報として6項目(価値観、ビジネスモデル、持続可能性・成長性、戦略、成果と重要な成果指標、ガバナンス)を示しています。そして、それぞれの項目について、「企業がどう投資家に伝えるべきか」のみならず、それによって「投資家がどう企業を評価すべきか」、望ましいとされる考え方を解説しています。企業にばかり負担を課すのではなく、投資家側にも理解度の向上を求める点が特徴と言えます。

IIRCフレームワークと同様、本ガイダンスも抽象的な説明が中心であるため、読んですぐに使える基準とは言いにくい面はありますが、6項目に絞ったシンプルな内容であることから非常に理解しやすく、また実行もしやすいと言えます。また、例えばESG要素については、「主なリスク要因として認識されているもの」に特定することが投資家の理解を得る上で有用であるとするなど、開示事項を“減らす”アドバイスも含まれています。これから非財務情報の開示を始めてみようという企業にとっては、極めて有用な指針となるでしょう。

2017/10/30 ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント(会員限定)

議決権行使助言の世界最大手ISSは10月26日、2018年2月1日から適用される日本向け助言方針(ポリシー)の改定案を公表した。同改定案は11月9日までオープンコメントを募集、幅広い市場関係者の意見を踏まえた上で正式決定される。

今回のポリシー改定案のポイントは以下の2点となっている。

1. 指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社の取締役会構成要件の厳格化
指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社において、取締役の3分の1が社外取締役でない場合には、経営トップ(社長および会長)の選任議案に反対する。

従来、社外取締役は2人以上選任していれば問題なしとしていたが、さらに社外取締役を増加させる流れを推し進めるという。ただし、このポリシーは、企業が適切な社外取締役を選任するため十分な時間を確保する観点から、1年間の猶予期間が設定されている(2019年2月から適用)。

一方、監査役会設置会社については従前通り、2名の社外取締役がいればよいこととする。指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社により多くの社外取締役の設置を求めたのは、そもそもこれらの機関設計を採用すること自体、経営者が監督と経営の分離を目指す意思を持っていると解釈でき、監査役設置会社よりも多くの社外取締役を求めることが合理であると考えたためだという。

なお、本ポリシーにおいては社外取締役に独立性(例えばメインバンクや主要取引先における勤務経験、コンサルティングや顧問契約などの重要な取引関係など)を問わないとしている。ISSは独立性は重要な概念としながらも、現在の日本のコーポレートガバナンスの状況で社外取締役の独立性を重視しすぎると、企業が資質よりも独立性の確保に過度に注力し、弁護士、会計士、学識経験者などマネジメント経験の少ない人物のみに社外取締役への就任を求めることにつながりかねないからだという。ISSは、取締役会の多様性を確保する観点からも、社外取締役全員がそのような人物のみで占められることは望ましいことではないとしている。

東証のコーポレートガバナンス情報サービスで確認すると、2017年10月30日現在、東証一部上場企業のうち指名委員会等設置会社は62社、同じく監査等委員会設置会社は453社となっている。このうち社外取締役が3分の1に達していない企業として、取締役が「10名以上かつ社外取締役が3名以下」は38社、「13名以上かつ4名以下」は46社あった(すべて監査等委員会設置会社)。少なくとも100社に迫る東証一部企業は、取締役の3分の1が社外取締役であることを求めるISSの新ポリシー抵触するものとみられる。

2. 買収防衛策の総継続期間要件の導入
買収防衛策の導入議案への賛否を判断する第1段階(形式基準)において、新たに「総継続期間が3年以内である」ことが追加された。ここでいう「総継続期間」とは「買収防衛策の導入時点から、今回提案されている買収防衛策の有効期間終了までの合計期間」を指す。

<買収防衛策に関するISSのポリシー>
買収防衛策の導入および更新は、下記の条件をすべて満たす場合を除き、原則として反対を推奨する。
(第1段階:形式審査)
・総会後の取締役会に占める出席率に問題のない独立社外取締役の比率が3分の1以上、かつ2名以上である
・取締役の任期が1年である
・特別委員会の委員全員が出席率に問題のないISSの独立性基準を満たす社外取締役もしくは社外監査役である
・買収防衛策の発動水準が20%以上である
・有効期限が3年以内である
・総継続期間が3年以内である←今回追加
・他に防衛策として機能しうるものがない
・株主が買収防衛策の詳細を検討した上で、経営陣に質問する時間を与えるために、招集通知が総会の4週間前までに証券取引所のウェブサイトに掲載されている
(第2段階:個別審査)
・買収されやすい状況の改善を目的とする具体的な株主価値向上施策に加え、買収防衛策導入により与えられる一時的な保護が、どのようにしてその施策の実行に役立つのかを招集通知で説明しており、その内容が妥当であると結論付けられる

期間に関しては従来、有効期限(更新期間=サンセット条項)を3年としていたのみだったが、今回の改定案では「総継続期間が3年以内」とされるため、買収防衛策を導入してから3年が超過した場合、形式基準で否定的な判断がなされることになる。なお、個別審査(第2段階)についての変更は予定されていない。

更新期間=サンセット条項 : 買収防衛策の合理性を確保し、株主や投資家など関係者の理解と納得を得るため、定期的に株主総会の承認を確保する条項のこと。サンセット(Sunset)とは「日没」を意味する。

10月30日現在における東証のコーポレートガバナンス情報サービスのデータによると、買収防衛策を導入している東証一部企業は319社ある。大部分は3年間のサンセット条項に基づき継続更新を実施済みで、総継続期間は優に3年間を超えているとみられる。今回の改定によって、買収防衛策の継続議案がISSの賛成推奨を得ることは一段と厳しくなったと言わざるを得ない。もっとも、ISSは既に現段階でも買収防衛策のほぼ全議案に反対しており、状況に大きな変化はないとも言えよう。

2017/10/30 ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント

議決権行使助言の世界最大手ISSは10月26日、2018年2月1日から適用される日本向け助言方針(ポリシー)の改定案を公表した。同改定案は11月9日までオープンコメントを募集、幅広い市場関係者の意見を踏まえた上で正式決定される。

今回のポリシー改定案のポイントは以下の2点となっている。・・・

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2017/10/27 FDルールの適用を回避できる「やむを得ない理由」が明らかに

企業と投資家の双方が対話の充実に向けた取り組みを進めるにつれ、両者の間で生じている悩ましい問題が、インサイダー情報の漏洩だ。上場会社が投資家からの質問に答えていく中で、つい未公表のインサイダー情報を漏らしてしまう可能性は否定できない。こうした中、2017年の金融商品取引法の改正により「フェア・ディスクロージャー・ ルール」(以下、FDルール)が創設され、2018年4月1日から適用が開始されることになったのは既報のとおり(2017年3月9日「フェア・ディスクロ・ルール成立までに上場会社がやるべきこと」、2017年3月21日「FDルール「株価に影響を及ぼす決算情報」の選定が困難な場合の対応は?」参照)。

FDルールはインサイダー規制と混同しやすいが、インサイダー規制がインサイダー情報をもとに株式を売買して利益を得た「投資家」に対する金商法上の規制である一方、FDルールは、インサイダー情報を漏らしてしまった「企業」の行動を規制するルールであり、これまで我が国には存在しなかった。具体的には、上場会社が未公表の重要な情報を証券会社や投資家などに伝達する場合には、「意図的な伝達の場合は、同時に」、「意図的でない伝達の場合は、速やかに」当該情報を企業のウェブサイトなどで公表することが求められる。

ただ、これには例外がある。取引関係者(証券会社や信用格付業者など)が、「法令(例えば金融商品取引法)または契約」により、重要情報の公表前にこれに関する秘密を他に漏らすこと及び当該上場会社の株式を売買してはならない等の義務を負っている場合、FDルールは適用されないことになっている(改正金商法27条の36第1項ただし書き)。これは、法令や契約で情報漏洩や株式の売買が禁止されていれば、取引の公正性が害されるリスクは低いからだ。

それでも、取引関係者から情報が洩れる可能性はゼロではないだろう。そこでFDルールでは、情報が漏れた場合に備えて、取引関係者が法令または契約に違反して(重要情報公表前に)秘密を漏らしたり株式を売買したりしたことを上場会社が知った場合には、当該上場会社は“速やかに”当該重要情報を公表しなければならないとしている(改正金商法27条の36第3項)。

もっとも、上場会社にしてみれば、公表できない情報もあろう。この点を踏まえFDルールでは、「やむを得ない理由により当該重要情報を公表することができない場合その他の内閣府令で定める場合」には情報公開しなくてもよいとしているが(改正金商法27条の36第3項ただし書き)、これまで「やむを得ない理由により当該重要情報を公表することができない場合がどういう場合を指すのかは明らかでなかった。こうした中、金融庁はこのほど(10月24日)「重要情報の公表に関する内閣府令案」(以下、内閣府令案)を公表(11月22日までパブリックコメントを募集)し、その具体例を示している。それによると、「やむを得ない理由により重要情報を公表することができない場合」は下表のとおり、・・・

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2017/10/27 FDルールの適用を回避できる「やむを得ない理由」が明らかに(会員限定)

企業と投資家の双方が対話の充実に向けた取り組みを進めるにつれ、両者の間で生じている悩ましい問題が、インサイダー情報の漏洩だ。上場会社が投資家からの質問に答えていく中で、つい未公表のインサイダー情報を漏らしてしまう可能性は否定できない。こうした中、2017年の金融商品取引法の改正により「フェア・ディスクロージャー・ ルール」(以下、FDルール)が創設され、2018年4月1日から適用が開始されることになったのは既報のとおり(2017年3月9日「フェア・ディスクロ・ルール成立までに上場会社がやるべきこと」、2017年3月21日「FDルール「株価に影響を及ぼす決算情報」の選定が困難な場合の対応は?」参照)。

FDルールはインサイダー規制と混同しやすいが、インサイダー規制がインサイダー情報をもとに株式を売買して利益を得た「投資家」に対する金商法上の規制である一方、FDルールは、インサイダー情報を漏らしてしまった「企業」の行動を規制するルールであり、これまで我が国には存在しなかった。具体的には、上場会社が未公表の重要な情報を証券会社や投資家などに伝達する場合には、「意図的な伝達の場合は、同時に」、「意図的でない伝達の場合は、速やかに」当該情報を企業のウェブサイトなどで公表することが求められる。

ただ、これには例外がある。取引関係者(証券会社や信用格付業者など)が、「法令(例えば金融商品取引法)または契約」により、重要情報の公表前にこれに関する秘密を他に漏らすこと及び当該上場会社の株式を売買してはならない等の義務を負っている場合、FDルールは適用されないことになっている(改正金商法27条の36第1項ただし書き)。これは、法令や契約で情報漏洩や株式の売買が禁止されていれば、取引の公正性が害されるリスクは低いからだ。

それでも、取引関係者から情報が洩れる可能性はゼロではないだろう。そこでFDルールでは、情報が漏れた場合に備えて、取引関係者が法令または契約に違反して(重要情報公表前に)秘密を漏らしたり株式を売買したりしたことを上場会社が知った場合には、当該上場会社は“速やかに”当該重要情報を公表しなければならないとしている(改正金商法27条の36第3項)。

もっとも、上場会社にしてみれば、公表できない情報もあろう。この点を踏まえFDルールでは、「やむを得ない理由により当該重要情報を公表することができない場合その他の内閣府令で定める場合」には情報公開しなくてもよいとしているが(改正金商法27条の36第3項ただし書き)、これまで「やむを得ない理由により当該重要情報を公表することができない場合がどういう場合を指すのかは明らかでなかった。こうした中、金融庁はこのほど(10月24日)「重要情報の公表に関する内閣府令案」(以下、内閣府令案)を公表(11月22日までパブリックコメントを募集)し、その具体例を示している。それによると、「やむを得ない理由により重要情報を公表することができない場合」は下表のとおり、「組織再編行為、TOB、資本・業務提携」と「エクイティ・ファイナンス」とされている(内閣府令案9条)。

やむを得ない理由により重要情報を公表することができない場合
一 組織再編行為、TOB、資本・業務提携
取引関係者が受領した重要情報が、当該上場会社が行い、または行おうとしている次に掲げる行為に係るものであって、当該重要情報の公表により、当該行為の遂行に重大な支障が生ずるおそれがあるとき
イ 吸収合併
ロ 新設合併
ハ 吸収分割
ニ 新設分割のうち二以上の株式会社または合同会社が行うもの
ホ 株式交換
へ 株式移転
卜 事業譲渡等(会社法467条1項各号に掲げる行為)
チ TOB(株式公開買い付け)
リ 資本提携または業務提携
二 エクイティ・ファイナンス
取引関係者が受領した重要情報が、当該上場会社による新株発行等の資金調達に係るものであって、当該重要情報の公表により、当該行為の遂行に重大な支障が生ずるおそれがあるとき

上場会社は、上の表に記載した行為を検討するにあたり、事前に証券会社等に相談することが多いと思われるが、証券会社等が守秘義務に違反してその情報を第三者に漏洩した場合、仮にFDルールに基づき上場会社が当該情報の公表を強制されるとなれば、水面下で行われていた合併などの交渉が決裂してしまう恐れがある。インサイダー取引規制への抵触を回避するという意味では“投資家保護”のために導入したFDルールを必要以上に厳格に適用することで、企業価値を向上させるための組織再編やエクイティ・ファイナンスの交渉が白紙に戻るようなことになれば投資家は損失を被ることになり、それこそ本末転倒と言える。それを防ぐのが、今回明らかにされた内閣府令案9条の目的とするところであり、上場会社、投資家双方にとってメリットのあるルールと言えそうだ。

2017/10/26 みずほフィナンシャルグループが顧問制度について開示

東証は来年(2018年)1月1日から、コーポレート・ガバナンス報告書に「相談役・顧問」等の業務内容などの記載を求める任意開示制度を開始するが、これに先立ち、みずほフィナンシャルグループは10月16日、「当社の顧問制度について」と題するリリースを行っている。同社は今回のリリースの理由を・・・

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2017/10/26 みずほフィナンシャルグループが顧問制度について開示(会員限定)

東証は来年(2018年)1月1日から、コーポレート・ガバナンス報告書に「相談役・顧問」等の業務内容などの記載を求める任意開示制度を開始するが、これに先立ち、みずほフィナンシャルグループは10月16日、「当社の顧問制度について」と題するリリースを行っている。同社は今回のリリースの理由を「相談役・顧問等に関する社会的関心の高まりや本年3月に経済産業省が策定した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」における開示に関する提言()も踏まえたもの」としている。

 「5.1.2. 社内での役割の明確化と情報発信」39ページには、「社長・CEO 経験者を相談役・顧問として会社に置く場合には、自主的に、社長・CEO 経験者で相談役・顧問に就任している者の人数、役割、処遇等について外部に情報発信することは意義がある。産業界がこうした取組を積極的に行うことが期待される。」との記述がある。

同社には相談役制度はないが、元代表取締役社長等を顧問(常任顧問、名誉顧問)とする場合がある。そこで、「同社グループのコーポレートガバナンスのあるべき姿、透明性確保等の観点」から、昨年度(2016年度)、社外取締役全員を交えた議論を経て、顧問制度の整理・見直しを行い、顧問制度に関する社内規程で以下を定めたという。

※ ②~⑤は今後の原則
① 顧問は経済団体活動や社会貢献活動等を担い、経営には関与しない。
② 常任顧問は同社社長またはカンパニー長経験者のみが就任できるものとし任期は66歳とする。
③ その後、当社社長経験者は名誉顧問に就任できるものとし、任期は定めないが無報酬とする。
④ 当社グループにとって重要な対外活動を担う場合には報酬を支払うことがあり、上限を20百万円として、活動状況等を踏まえ1年毎に見直しを行う。
⑤ 顧問制度や顧問の選任・報酬は社外取締役を中心とした会議体(指名委員会・報酬委員会・人事検討会議)を経て決定する。

なお、同社には現在7名の名誉顧問が「経済団体活動、社会貢献活動等(経営非関与)」を業務内容として在任し、6名が「終身、非常勤、報酬なし」、1名が「終身、非常勤、報酬あり」という立場にある。

2017年9月27日のニュース「相談役・顧問制度の開示事例」でお伝えしたとおり、来年からの開示制度の導入に先駆け、コーポレート・ガバナンス報告書で相談役・顧問について任意開示を行っている事例は存在するが、今回のみずほフィナンシャルグループの事例に触発され、年内に任意開示に踏み切る企業が現れるかもしれない。