D&O保険(会社役員賠償責任保険)への加入が社外取締役の就任条件の一つとなる中、社外取締役選任の進展とともにD&O保険への加入率も上昇し、いまや上場企業の9割以上が役員をD&O保険に加入させている。ただ、現在加入しているD&O保険の補償内容が十分ではないケースも少なくないとみられる。
まず挙げられるのが支払限度額の低さだ。東京海上日動火災保険の調査によると、D&O保険に加入している従業員数3000人以上の企業等67社(うち相当数が東証一部上場)の平均支払限度額は9.5億円と、10億円を切っている。支払限度額を「10億円以上20億円未満」に設定している企業等も13.4%あるが、米国企業の平均支払限度額が100億程度であることを考えると、日本企業も支払限度額の増額を検討する余地は十分にあろう。もっとも、損害保険会社がどこまで支払限度額の増額に応じるかは、会社の(保険金の支払いが生じる)リスクの大きさ(例えばビジネスモデルやコンプライアンス体制など)によっても異なる。この点は損害保険会社や保険代理店に率直に相談してみる必要がある。
また、補償内容についても改めてチェックしておきたい。自分が加入しているD&O保険の主な補償内容を即答できる役員は果たしてどれくらいいるだろうか。いくら支払限度額を引き上げても、実際に発生した賠償責任が補償対象とならなければ意味がない。特に補償が十分でないことが多いと思われるのが、(1)役員が会社に損害をもたらしたとして、会社から役員が訴えられ(会社訴訟)、敗訴した場合の賠償責任、(2)ハラスメントや不当解雇を理由に役員が訴えられ、敗訴した場合の賠償責任、そして(3)会社に不祥事が発生した際に設置されることが多い「第三者委員会」に関する費用の補償だ。東京海上日動火災保険の調査によると、D&O保険に加入している従業員数3000人以上の企業等67社のうち6割程度の企業がこれらを補償対象としている(付保している)ものの、残りは「対象としていない(付保していない)」か、「(対象としているかどうか)わからない」と回答している(下表参照)。
| 補償内容 | 会社訴訟 | ハラスメント 不当解雇 |
第三者委員会 |
| 「付保している」と 回答した企業の割合 |
67.2% | 65.7% | 59.7% |
| 「付保していない」と 回答した企業の割合 |
7.5% | 10.4% | 7.5% |
| 「わからない」と 回答した企業の割合 |
25.4% | 23.9% | 32.8% |
保険代理店 東海日動パートナーズTOKIOの藤野浩二氏は、「企業の保険担当者がD&O保険の補償内容を熟知しているとは限りません。各損害保険会社の保険料の比較は出来ても、補償内容まで比べているという企業は意外と少ないのではないでしょうか」と話す。また、なかには保険会社や保険代理店側においても補償の必要性等の背景知識が十分でないケースもある。現状、自社の役員が加入しているD&O保険の補償内容が十分でない、あるいは補償内容をよく把握できていないという場合には、信頼できる保険会社や保険代理店に相談することが必須となる。
このように保険金の支払限度額や補償内容を見直せば、保険料が増加することも予想される。東京海上日動火災保険の調査によると、D&O保険に加入している従業員数3000人以上の企業等67社の年間保険料の平均額は622.6万円であり、最も高い(「分からない」と回答した企業等を除く)レンジである「900万円以上1000万円未満」と回答した企業等が20.9%あった。67社のうち、保険料を会社がすべて負担している企業等は55.2%と半数を超えたが、「役員の人数で均等に分けて負担している」企業等が16.4%、「役員報酬に比例して負担額を設定している」企業等が13.3%、「取締役の地位に応じて負担額を設定している」と回答した企業等が3%あった。
2016年2月26日掲載のニュース「株主代表訴訟補償特約保険料の会社負担、給与課税不要に」でもお伝えしたとおり、D&O保険のうち、株主代表訴訟補償部分の保険料を会社が負担した場合でも役員への給与課税を不要とする取扱いが国税庁から2016年2月に公表されたところだ。東京海上日動火災保険の調査によると、D&O保険に加入している従業員数3000人以上の企業等67社のうち、給与課税が不要となったことについて「知っており、内容も把握している」と回答した企業等は45.1%と半数を割っている(「知っているが、内容はわからない」と回答した企業等は28.4%、「知らない」と回答した企業等は26.5%)。この点については、従来「保険料を会社に負担させることは会社法上の忠実義務違反(会社法355条)に該当しかねない」との指摘があった(2015年7月13日のニュース「D&O保険料の会社負担は可能か?」参照)ことを踏まえ、会社法を改正し、同法にD&O保険に関する規定を新設したうえで、会社が株主代表訴訟補償特約保険料を負担できることを前提にその手続きを明示することも検討されている(2017年4月27日のニュース「法務省、ガバナンスに関する会社法の見直しに着手」参照)。これから保険金の上限金額引上げや補償内容の見直しを検討しようという企業は、保険料の増加に備え、保険料の全額会社負担を検討しておく必要があろう。
株主代表訴訟補償 : D&O保険には、第三者訴訟(役員の故意や重過失によって会社または役員が第三者(取引先、従業員など)に損害を与えた場合、第三者が役員に対して損害賠償を請求するもの)をカバーする「普通保険約款」と、株主代表訴訟をカバーする「株主代表訴訟補償特約」がある。
参考資料:東京海上日動火災保険「会社役員賠償責任保険に関する実態把握調査【2016年度】結果報告書」
詳しい資料をご希望の方は、取材にご協力いただいた株式会社東海日動パートナーズTOKIO(東京海上日動火災保険株式会社の100%子会社)品川支店 法人営業部 部長 藤野浩二様へ直接ご連絡ください。
藤野浩二 様
Tel:03-6826-8421
Mail:koji.fujino@tnpgrp.jp
