日本企業の海外展開において不確定要素となっていた裁判がようやく決着を見た。
2017年6月8日のニュース「海外展開する日本企業に朗報」でお伝えしていた自動車部品大手のデンソーの税務訴訟の最高裁判決(*)が10月24日に下され、高裁(名古屋)で敗れていた同社が国に逆転勝訴している。総額で約73億円(一次訴訟12億円、二次訴訟62億円 : 訴訟が2つに分かれている理由は「海外展開する日本企業に朗報」の下から2段落目参照)の税額を争う大型訴訟であるうえ、海外展開する日本企業への影響も大きいことから全国紙をはじめ報道機関各社が一斉に報じたため、既にニュース自体は目にしたという会員の方も多いだろう。本稿ではそれより一歩踏み込んで、今回の最高裁判決がもたらした教訓を簡潔に整理しておきたい。
(専門的であるため、税務を所掌する役員等以外は必ずしも読む必要はありません)
本訴訟の全体像は「海外展開する日本企業に朗報」「地域統括会社」で詳しく解説しているが、一言で言えば、デンソーがシンガポールに設立した地域統括会社の「主たる業務」が「株式保有業」に当たるのどうかが争われたのが本訴訟である。
日本企業が海外展開する際、海外現地法人をとりまとめる地域統括会社(例えば「アセアン地域統括会社」など)を設立するケースは多い。本来、海外法人である地域統括会社の所得が日本企業(親会社)の所得となることはないが、税率の低い国(軽課税国)に設立した子会社に所得を集中させ日本の親会社の課税所得を圧縮するという税金逃れを防止するため、税法上、単に株式を保有する業務(以下「株式保有業」)を営むだけの地域統括会社を軽課税国に設立した場合には、その所得が日本の親会社の所得に合算されることになっている(これをタックスヘイブン対策税制という)。ちなみに、デンソーの地域統括会社は、軽課税国として知られるシンガポールにあった。
タックスヘイブン対策税制 : 軽課税国にある子会社の所得金額を日本の親会社の所得とみなして法人税を課税する仕組み。ヘイブン(Haven)とは「避難所」という意味。
デンソーの裁判では、「地域統括会社の主たる事業は株式保有業なのか?」を検証することに多くの時間が費やされている。今回の最高裁判決では「株式保有業ではない」との結論を出したからこそ、デンソーの勝訴となったわけである(高裁では「株式保有業」(デンソー敗訴)、地裁では「株式保有業ではない」(デンソー勝訴)との判断が示されている)。
主たる事業が「株式保有業」に該当するかどうかについて、最高裁が示した判定基準は「収入」「所得」「事業活動の状況」の三つ。これらを“総合勘案”して「株式保有業」に該当するかどうかを判断することになる。デンソーの地域統括会社の場合、所得の90%程度を傘下の子会社からの配当が占めていた。これだけ見ると、「主たる事業=株式保有業」と言われても致し方ないようにも見える。しかし「収入」については、約85%が傘下の子会社に対する「物流改善業務」によるものだった。また「事業活動の状況」を見ると、参加の子会社に対する財務、人事、材料調達、技術提供、情報システムや物流の改善といった“株式保有業以外の業務”が実際に行われており、現地従業員の多くがこれらの業務に従事し、保有有形固定資産の大半がこれらの業務に使われていた。こうした事情を踏まえ最高裁は、「所得に占める配当の割合は高いものの、主たる事業は株式保有業ではない」と判断、デンソーに勝訴をもたらしている。
この最高裁判決から得られる教訓は、軽課税国の地域統括会社においては、地域統括会社の「収入」「所得」「事業活動の状況」の三点について、税務署に「株式保有業を営んでいる」と言われないだけの材料を揃えておくべきだということに尽きる。デンソーの場合、三つのうち二つをクリアしていたことが今回の勝訴につながったと言える。仮に「収入」の約85%を占めていた「物流改善業務」について傘下の子会社から対価を得ていなかったとしたら、収入の大部分を配当が構成することになり、裁判所の判断も変わっていたかもしれない。また、実際に“株式保有業以外の業務”を行い、その業務に現地従業員を従事させたり、保有固定資産を使うことも重要になる。
第二次訴訟では地裁、高裁ともデンソーが勝訴しているが、今回、同じ内容で争われている第一次訴訟の最高裁でデンソーが勝訴したことから、第二次訴訟についても、デンソーが勝訴した高裁判決が確定することになろう。地域統括会社を活用して海外展開する日本企業が課税を受けないための基準を明確に示したという点で、今回の最高裁判決の意義は大きいと言えそうだ。
