役員報酬改革を検討する企業にとって、いまや欠かせないアイテムとなっているのが、経済産業省が作成している『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』だ。この手引きは税制改正等の都度改定されているが、平成29年度税制改正項目の一部が(2017年)10月1日から施行されたことなどを受け、先月末に再びその一部が改定されている。
改定点は上記最新版と前の版との比較により把握することができる。手引の中でも最も参照頻度が高いと思われる「Ⅱ.株式報酬、業績連動報酬に関するQ&A」の主な改訂箇所は以下のとおりだ。
なかには旧版とニュアンスが変わっている箇所(Q62)もあるので、注意したい。
| 改定箇所 | 改定内容 | 解説 |
| Q2 役員給与に関する平成29年度の税制改正はいつから適用されるのですか。 | 一番最後に下記の2つの文章が追加された。 | 株式交付信託には、役員在任時に株式を交付する「在任型」と退任時に株式を交付する「退任型」がある。従来は、在任型の株式交付信託は損金算入不可とされていたが、平成29年度税制改正により、「2017年4月1日以降」に支給の決議をしたもので、業績連動給与の損金算入要件を満たすものは損金算入できることとされた。一方、退任型の株式交付信託は従来は損金算入が可能だったが、「2017年10月1日以降」に支給の決議をしたものは、業績連動給与の損金算入要件を満たさない限り、損金算入不可とされたことを受けたもの。
業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。 |
| なお、既に導入済みの株式交付信託に新任役員が加わった場合には、その選任の決議の時にその給与の支給の決議等がされたものとして、上記の適用関係の考え方に沿って損金算入の可否が判断されることとなります。 | 新任役員については、「支給の決議の日=選任の決議の日」とするということである。したがって、例えば、「2017年10月1日以降」に選任された新任役員に交付する退任型の株式交付信託は、業績連動給与の損金算入要件を満たさない限り、損金算入ができない。 | |
| 既に導入済みの株式交付信託の中で、予め役員の地位の変更があった場合の支給額が定められている場合に、その地位の変更のあった役員に対する給与については、導入時の支給の決議をした時期によって適用関係を考えることとなります。 | 役員の地位に応じた支給額の定めがある株式交付信託であれば、昇格や降格等により役員の地位が変わった場合であっても、地位変更時点ではなく、当該株式交付信託の導入時点で適用関係を判定するということである。例えば2015年6月に導入された退任型の株式交付信託を例にとると、2017年6月にある平取締役が常務取締役に昇格した場合でも、当該役員に対する株式交付信託は引き続き(業績連動給与の損金算入要件を満たさなくても)損金算入することができる。 | |
| Q9 上場会社が株式報酬を交付するために第三者割当を行う際、金融商品取引法上の開示規制はどうなりますか。 | 一番最後に下記の文章が追加された。
なお、現物出資型の株式報酬について、金融商品取引法上の第三者割当の定義から除外する企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案がパブリックコメントに付され(コメント募集期間2017年5月17日から6月16日まで)、7月14日付で公布・施行されました。 |
従来、金商法(開示府令)では、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式)など現物出資型の株式報酬を「第三者割当」の一つに位置付け、役員の自宅住所を含む付与内容を「第三者割当の場合の特記事項」に記載しなければならないこととしていたが、この規制は株式報酬の普及の障害になりかねないことから、ストックオプション同様、株式報酬も第三者割当の定義から除外されたことを受けたもの。
リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬。 |
| Q10 上場会社が株式報酬を交付するために第三者割当を行う際、上場規則における開示はどうなりますか。 | 「なお、」以降が下記の文章に変更された。
なお、2016年の夏に会社情報適時開示ガイドブックが改訂され、上場企業がその役員又は従業員に対して付与された金銭報酬債権の払込みを受けることにより役務提供の対価として新株発行や自己株式処分を行う場合には、上記の開示事項に沿って適時開示を行うこととされました。 |
上記(Q9)の改正を受け、東証の上場規則においても同様の改正が行われたことを受けたもの。 |
| Q11 自己株式処分により株式の交付を行う際、金融商品取引法上のインサイダー取引規制はどのように適用されますか。 | 一番最後に下記の文章が追加された。
なお、現物出資型の株式報酬について金融商品取引法上の売買報告義務及び短期売買利益の返還義務の適用から除外する有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の改正案がパブリックコメントに付され(コメント募集期間2017年5月17日から6月16日まで)、7月14日付で公布・施行されました。 |
上場会社が自己株式の処分により役員にリストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式)を付与することは、金商法上、インサイダー取引規制の対象となる「売買等」に該当することとされ、売買報告書の提出制度および短期売買利益の返還請求制度の対象となるとされていた。しかし、この規制は株式報酬の普及を妨げかねないことから金商法が改正され、ストックオプション同様、株式報酬も売買報告書の提出制度および短期売買利益の返還請求制度の対象から除外されたことを受けたもの。 |
| Q16 事前確定届出給与としてどのような株式報酬が対象となりますか。
事前確定届出給与 : いつ、どれくらい(確定額、確定した株式数・新株予約権など)支給するかを“事前に”確定した上で原則として税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの。 |
「なお、」の前に下記の文章が追加された。
また、株式交付信託では株式の一部を役員に交付する時期に金銭に換えて役員には株式と金銭を交付することが行われていますが、このような場合についても、全体として株式を交付することが目的の給与であることが株主総会議案において明らかにされ、一定の割合の株式を源泉徴収等のために換金するものであることが役員報酬規程等で予め明らかにされ、株式の換金が受益権確定の時期に近接した時点で行われていれば、全体として確定した数の株式とされ、損金算入できると考えられます。 |
一時は、信託内で「現金」に換価されて役員に支給される部分は、事前確定届出給与の要件である「所定の時期に確定した数の株式を交付する給与」とはいい難いことから、ファントム・ストック(=現金報酬)とみなされ、利益連動給与の要件を満たさない限り損金算入できないのではないかとの懸念があった。 しかし、株式交付信託では、株式が交付された時点で役員に所得税が課されるものの、役員は株式が交付されてすぐに株式を売却するとは限らないため(インサイダー取引規制の問題のほか、株価が低迷していることもあろう)、納税資金を手当てする必要が生じることがある。こうした事情に配慮したのが左記の取扱いである。 ファントム・ストック : 架空の株式(ファントム(架空の)ストック= Phantom Stock)を用いたインセンティブ報酬。架空の株式を付与し、一定期間経過後、その間における株価の上昇・下落を反映させた「株価×付与数」を現金で支給する。フルバリュー型(⇔値上がり益型(例:通常型ストックオプション))という点で、株式報酬型ストックオプションの代替措置と言える。資本構成や議決権に影響を与えたくないなど、資本政策上の観点から利用されるこが多い。ただし、企業にとっては、ストックオプションと異なりキャッシュアウトが生じる分、負担が大きい。 |
| Q17 「特定譲渡制限付株式」に関する税制措置の概要はどのようなものですか。 | 「また、法人税については、」で始まる段落の後ろに、下記の文章が追加された。
平成29年度改正により、無償取得事由がなくなった後も譲渡制限が解除されない場合、所得税の課税時期と法人税の損金算入時期が異なることとなります。 |
平成29年度税制改正により、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)の損金算入時期が「給与等課税事由が生じた日(=譲渡制限の解除日)」から「給与等課税事由が生じることが確定した日(=株式を会社によって没収されないことが確定した日)」へと変更されたことを受けたもの。譲渡制限付株式報酬の中には、「没収されないことが確定した日」が「譲渡制限が解除された日」に先行するものがある。例えば、没収するか否かを判定することとなる「役務提供期間」よりも長い「譲渡制限期間」が設定されるケースだ。例えば役務提供期間が1年で、譲渡制限期間が3年であれば、1年で「没収されないこと」が確定した時点で法人税上は損金算入が可能となるが、所得税の課税時期までには残り2年間あり、法人税上の損金算入時期と所得税の課税時期にズレが生じることになる。 |
| Q25 「事前確定届出給与」に該当する「特定譲渡制限付株式による給与」となるための要件とはどのようなものですか。 | 二段落目の冒頭に「確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式を交付する場合には、」という限定が付くとともに、最終段落「なお、勤務期間以外の事由により」の前に下記の文章が入った。
また、所定の時期に確定した数の株式を交付する場合には、その役員の職務執行開始当初に付与する特定譲渡制限付株式の数が確定し、所定の時期までにその役員の報酬債権の現物出資と引換えにその確定した数の譲渡制限付株式が交付されることが必要となります。 |
平成29年度税制改正により、従来の「確定した額の金銭」に加え、「確定した数の株式」も事前確定届出給与の対象とされたため、「金銭」と「株式」を分けて説明する必要が生じたもの。 |
| Q26 「届出が不要となる事前確定届出給与」に該当するための株式交付等のスケジュールに係る要件とはどのようなものですか。 | 以下の赤字の文言が追加されている。
・・・具体的には、職務の執行の開始の日(原則、定時株主総会の日)から1月を経過する日までに株主総会等(株主総会の委任を受けた取締役会を含むものと解されます。)の決議により取締役個人別の確定額報酬又は確定数の株式についての定め(その決議の日からさらに1月を経過する日までに、その職務につきその役員に生ずる債権の額に相当する特定譲渡制限付株式又は確定数の株式を交付する旨の定めに限ります。)がされ、・・・以下省略 |
Q25に同じ |
| Q28 「特定譲渡制限付株式による給与」の額の損金算入時期及び損金算入額についてはどのようになりますか。 | 以下の赤字の文章が追加されている。
・・・また、損金算入額については、確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式を交付する場合(確定した数の特定譲渡制限付株式を交付する場合で「届出が不要となる事前確定届出給与」に該当するものを含みます。)では、原則として、その給与等課税額が確定した特定譲渡制限付株式の交付と引換えにその役員等により現物出資された報酬債権等の額とされています。確定した数の特定譲渡制限付株式を交付する場合(「届出が不要となる事前確定届出給与」に該当するものを除きます。)は、当初報酬の内容を決議した時点の株価を元に算定することとされています(法人税法施行令第71条の3)・・・以下省略 |
Q25に同じ |
| Q37 取締役に対して「特定譲渡制限付株式」を交付する場合、会社法上の取扱いを踏まえてどのような手続きが必要となりますか。 | 最後の段落に、以下の赤字の文言が追加されている。
・・・又は確定した数の株式についての決議を行うことが必要となります・・・以下省略 |
Q25に同じ |
| Q32 「特定譲渡制限付株式」に関する税制措置の適用関係はどのようになりますか。 | 以下の赤字の文章が追加されている。 | |
| 特定譲渡制限付株式に関する平成29年度税制改正の改正事項の多く(市場価格があるものに限定される、非居住者に対するものが損金算入の対象に含まれる、没収数が変動するものが除外されるなどの改正)は平成29年10月1日施行とされており、 | 改正内容を例示したもの。 | |
| なお、事前確定届出給与として確定した数の特定譲渡制限付株式を支給することについては、平成29年4月1日施行とされており、要件を満たす特定譲渡制限付株式については10月までの間に交付決議されたものも損金算入が可能です。 | 平成29年度税制改正項目のうち納税者(企業等)にとって有利な改正は「2017年4月1日から」、不利な改正は「2017年10月1日から」適用が開始されている。従来の「確定した額の金銭」に加え、「確定した数の株式」を事前確定届出給与の対象とする改正は納税者(企業)にとって有利な改正であることを踏まえたもの。 | |
| Q43 株式付与時における株価の参照時点はどのように処理すればよいですか。 | 冒頭に 「確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式を交付する場合で、」との限定が付き、一番最後に下記の文章が追加されている。 これに対し、確定した数の特定譲渡制限付株式を交付する場合では、報酬決議と第三者割当決議の時点が異なったとしても、報酬決議時点において報酬債権額を確定する必要がなく、第三者割当決議の時点の株価を参照することで足りるため、このような問題は生じないと考えられます。 |
基本的にQ25に同じ。 「確定した数」の譲渡制限付株式は、「報酬決定決議日」と「第三者割当決議日」が別の日でも事前確定届出給与として支給できることを明確にするもの。 |
| Q50 「所定の時期」はどのように定めますか。 | 一番最後に下記の文章が追加された。
また、この支給時期である将来の一定の日について、例えば「○○年度の定時株主総会の開催日の○○日後」といったように、確定日に限らず客観的に定まる日とすることも考えられます。業績連動給与における指標の参照時点である「所定の日」や「所定の期間」についても同様です。 |
事前確定届出給与は「所定の時期」に支給することが求められ、業績連動給与は「職務執行期間開始日の属する事業年度開始の日以後の所定の期間または職務執行期間開始日以後の所定の日における株式の市場価格の状況を示す指標」を基礎として算定することが求められる。 本改定は、「所定」の定め方を例示を追加するものである。 |
| Q54 事後交付型リストリクテッド・ストックの税務の処理方法はどうなりますか。 | 主に下記の部分が追加された。
例えば、対象勤務期間内において退任をしたり、一定の非違行為があったりした場合に株式の全てを交付しないこととする条件等が付されている場合には、その条件等が失われるまでの間は債務が確定しているとはいえないため損金算入することはできない点に注意が必要です。確定額の金銭を支給する場合も同様です。 |
Q17でも触れたとおり、平成29年度税制改正では、譲渡制限付株式報酬の損金算入時期が「譲渡制限が解除された日」から「没収されないことが確定した日」に変更された。「没収されないことが確定した日」が「譲渡制限が解除された日」に先行する場合、譲渡制限解除日よりも前に損金算入が可能となるが、企業によっては、没収するか否かを判定することとなる「役務提供期間」が終わった後も譲渡制限期間中は「不祥事」に係る没収事由だけは残しているケースがある。この場合、「没収されないことが確定した」とは言えないことから、従来どおり「譲渡制限が解除された日」が損金算入日となることを明確にしたのが本改定である。 |
| Q62 複数年にわたる業績連動給与の場合、算定方法を毎年開示する必要がありますか。また、役員の交代や追加があった場合にはどうですか。 | 下記の改定が行われている。
損金算入の要件とされている有価証券報告書等における開示について、報酬期間が複数年にわたる場合、損金算入の要件を満たすためには開示は当初にしなければなりません。報酬期間の途中で役員の退任・子会社への異動や役位の変更等が生じた場合に報酬額が変更される場合に |
役員の異動や役員変更時の報酬額の算定方法を予め定めている場合のほか、新任役員に対しても当初開示した算定方法が適用されることになっている場合には、追加の開示は不要であることが明確にされた。旧版にあった「新任の役員にもその算定方法を適用するのであれば、追加の開示が必要です。」との記述は削除されている点、注意したい。 |
| Q71 業績連動給与としてパフォーマンス・シェアではどのような要件を満たす必要がありますか。 | 一番最後に下記の文章が追加されている。
※交付する株式数の算定方法として、利益の状況を示す指標により金銭額をまず算出した上で、一定時点の株価で除して交付する株式数を算出することも想定されます。この場合、一定時点の株価として、例えば、定時株主総会開催後1月以内の新株発行又は自己株式処分に関する決議の日の前日の株価を用いることもできると考えられます。 |
平成29年度税制改正により、従来の「金銭」に加え、「株式」で業績連動給与を支給することも可能となったことを受けたもの。業績に連動した株式数を算定することは難しいことから、便宜的に、まずは金額を算定し、これを株式を付与する直前の株価で割って株式数を算定する方法が例示されている。 |

