2017/10/18 経産省・役員報酬Q&Aの改定点(会員限定)

役員報酬改革を検討する企業にとって、いまや欠かせないアイテムとなっているのが、経済産業省が作成している『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』だ。この手引きは税制改正等の都度改定されているが、平成29年度税制改正項目の一部が(2017年)10月1日から施行されたことなどを受け、先月末に再びその一部が改定されている。

改定点は上記最新版と前の版との比較により把握することができる。手引の中でも最も参照頻度が高いと思われる「Ⅱ.株式報酬、業績連動報酬に関するQ&A」の主な改訂箇所は以下のとおりだ。

なかには旧版とニュアンスが変わっている箇所(Q62)もあるので、注意したい。

改定箇所 改定内容 解説
Q2 役員給与に関する平成29年度の税制改正はいつから適用されるのですか。 一番最後に下記の2つの文章が追加された。 株式交付信託には、役員在任時に株式を交付する「在任型」と退任時に株式を交付する「退任型」がある。従来は、在任型の株式交付信託は損金算入不可とされていたが、平成29年度税制改正により、「2017年4月1日以降」に支給の決議をしたもので、業績連動給与の損金算入要件を満たすものは損金算入できることとされた。一方、退任型の株式交付信託は従来は損金算入が可能だったが、「2017年10月1日以降」に支給の決議をしたものは、業績連動給与の損金算入要件を満たさない限り、損金算入不可とされたことを受けたもの。

業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。

なお、既に導入済みの株式交付信託に新任役員が加わった場合には、その選任の決議の時にその給与の支給の決議等がされたものとして、上記の適用関係の考え方に沿って損金算入の可否が判断されることとなります。 新任役員については、「支給の決議の日=選任の決議の日」とするということである。したがって、例えば、「2017年10月1日以降」に選任された新任役員に交付する退任型の株式交付信託は、業績連動給与の損金算入要件を満たさない限り、損金算入ができない。
既に導入済みの株式交付信託の中で、予め役員の地位の変更があった場合の支給額が定められている場合に、その地位の変更のあった役員に対する給与については、導入時の支給の決議をした時期によって適用関係を考えることとなります。 役員の地位に応じた支給額の定めがある株式交付信託であれば、昇格や降格等により役員の地位が変わった場合であっても、地位変更時点ではなく、当該株式交付信託の導入時点で適用関係を判定するということである。例えば2015年6月に導入された退任型の株式交付信託を例にとると、2017年6月にある平取締役が常務取締役に昇格した場合でも、当該役員に対する株式交付信託は引き続き(業績連動給与の損金算入要件を満たさなくても)損金算入することができる。
Q9 上場会社が株式報酬を交付するために第三者割当を行う際、金融商品取引法上の開示規制はどうなりますか。 一番最後に下記の文章が追加された。

なお、現物出資型の株式報酬について、金融商品取引法上の第三者割当の定義から除外する企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案がパブリックコメントに付され(コメント募集期間2017年5月17日から6月16日まで)、7月14日付で公布・施行されました。

従来、金商法(開示府令)では、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式)など現物出資型の株式報酬を「第三者割当」の一つに位置付け、役員の自宅住所を含む付与内容を「第三者割当の場合の特記事項」に記載しなければならないこととしていたが、この規制は株式報酬の普及の障害になりかねないことから、ストックオプション同様、株式報酬も第三者割当の定義から除外されたことを受けたもの。

リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬。
現物出資型の株式報酬 : 会社法上、株式の発行は金銭等の「払込み」があることを前提としているため(会社法199条1項2号~4号)、日本では報酬として株式を無償で付与することはできない。そこで、「株式報酬=役員に付与した金銭報酬債権を現物出資財産として払い込んだ上で役員に対して株式を発行するもの」と整理されている。

Q10 上場会社が株式報酬を交付するために第三者割当を行う際、上場規則における開示はどうなりますか。 「なお、」以降が下記の文章に変更された。

なお、2016年の夏に会社情報適時開示ガイドブックが改訂され、上場企業がその役員又は従業員に対して付与された金銭報酬債権の払込みを受けることにより役務提供の対価として新株発行や自己株式処分を行う場合には、上記の開示事項に沿って適時開示を行うこととされました。
また、有価証券上場規程施行規則では、上場会社が第三者割当による募集株式の割当てを行う場合には、割当てを受けた者が割当後2年の間に募集株式の譲渡を行うことについての確約の締結と譲渡を行った場合の取引所への報告(有価証券上場規程施行規則第429条、第430条)、割当先が反社会的勢力と関係がないことを示す確認書の提出(有価証券上場規程施行規則第417条第1項第1号g)について定められています。
これらのルールに関し、2016年の夏に企業内容等の開示に関する内閣府令が改正され、上場企業がその役員に対する株式報酬として、新株発行や自己株式処分により特定譲渡制限付株式を交付する場合が第三者割当に該当しないこととされたため、会社情報適時開示ガイドブックにおいても、かかる場合において譲渡報告に関する確約書の写し、株式の譲渡に関する報告書及び割当先が反社会的勢力と関係がないことを示す確認書の提出を不要とすることが明確化されました。

上記(Q9)の改正を受け、東証の上場規則においても同様の改正が行われたことを受けたもの。
Q11 自己株式処分により株式の交付を行う際、金融商品取引法上のインサイダー取引規制はどのように適用されますか。 一番最後に下記の文章が追加された。

なお、現物出資型の株式報酬について金融商品取引法上の売買報告義務及び短期売買利益の返還義務の適用から除外する有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の改正案がパブリックコメントに付され(コメント募集期間2017年5月17日から6月16日まで)、7月14日付で公布・施行されました。

上場会社が自己株式の処分により役員にリストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式)を付与することは、金商法上、インサイダー取引規制の対象となる「売買等」に該当することとされ、売買報告書の提出制度および短期売買利益の返還請求制度の対象となるとされていた。しかし、この規制は株式報酬の普及を妨げかねないことから金商法が改正され、ストックオプション同様、株式報酬も売買報告書の提出制度および短期売買利益の返還請求制度の対象から除外されたことを受けたもの。
Q16 事前確定届出給与としてどのような株式報酬が対象となりますか。

事前確定届出給与 : いつ、どれくらい(確定額、確定した株式数・新株予約権など)支給するかを“事前に”確定した上で原則として税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの。

「なお、」の前に下記の文章が追加された。

また、株式交付信託では株式の一部を役員に交付する時期に金銭に換えて役員には株式と金銭を交付することが行われていますが、このような場合についても、全体として株式を交付することが目的の給与であることが株主総会議案において明らかにされ、一定の割合の株式を源泉徴収等のために換金するものであることが役員報酬規程等で予め明らかにされ、株式の換金が受益権確定の時期に近接した時点で行われていれば、全体として確定した数の株式とされ、損金算入できると考えられます。

一時は、信託内で「現金」に換価されて役員に支給される部分は、事前確定届出給与の要件である「所定の時期に確定した数の株式を交付する給与」とはいい難いことから、ファントム・ストック(=現金報酬)とみなされ、利益連動給与の要件を満たさない限り損金算入できないのではないかとの懸念があった。
しかし、株式交付信託では、株式が交付された時点で役員に所得税が課されるものの、役員は株式が交付されてすぐに株式を売却するとは限らないため(インサイダー取引規制の問題のほか、株価が低迷していることもあろう)、納税資金を手当てする必要が生じることがある。こうした事情に配慮したのが左記の取扱いである。

ファントム・ストック : 架空の株式(ファントム(架空の)ストック= Phantom Stock)を用いたインセンティブ報酬。架空の株式を付与し、一定期間経過後、その間における株価の上昇・下落を反映させた「株価×付与数」を現金で支給する。フルバリュー型(⇔値上がり益型(例:通常型ストックオプション))という点で、株式報酬型ストックオプションの代替措置と言える。資本構成や議決権に影響を与えたくないなど、資本政策上の観点から利用されるこが多い。ただし、企業にとっては、ストックオプションと異なりキャッシュアウトが生じる分、負担が大きい。

Q17 「特定譲渡制限付株式」に関する税制措置の概要はどのようなものですか。 「また、法人税については、」で始まる段落の後ろに、下記の文章が追加された。

平成29年度改正により、無償取得事由がなくなった後も譲渡制限が解除されない場合、所得税の課税時期と法人税の損金算入時期が異なることとなります。

平成29年度税制改正により、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)の損金算入時期が「給与等課税事由が生じた日(=譲渡制限の解除日)」から「給与等課税事由が生じることが確定した日(=株式を会社によって没収されないことが確定した日)」へと変更されたことを受けたもの。譲渡制限付株式報酬の中には、「没収されないことが確定した日」が「譲渡制限が解除された日」に先行するものがある。例えば、没収するか否かを判定することとなる「役務提供期間」よりも長い「譲渡制限期間」が設定されるケースだ。例えば役務提供期間が1年で、譲渡制限期間が3年であれば、1年で「没収されないこと」が確定した時点で法人税上は損金算入が可能となるが、所得税の課税時期までには残り2年間あり、法人税上の損金算入時期と所得税の課税時期にズレが生じることになる。
Q25 「事前確定届出給与」に該当する「特定譲渡制限付株式による給与」となるための要件とはどのようなものですか。 二段落目の冒頭に「確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式を交付する場合には、」という限定が付くとともに、最終段落「なお、勤務期間以外の事由により」の前に下記の文章が入った。

また、所定の時期に確定した数の株式を交付する場合には、その役員の職務執行開始当初に付与する特定譲渡制限付株式の数が確定し、所定の時期までにその役員の報酬債権の現物出資と引換えにその確定した数の譲渡制限付株式が交付されることが必要となります。

平成29年度税制改正により、従来の「確定した額の金銭」に加え、「確定した数の株式」も事前確定届出給与の対象とされたため、「金銭」と「株式」を分けて説明する必要が生じたもの。
Q26 「届出が不要となる事前確定届出給与」に該当するための株式交付等のスケジュールに係る要件とはどのようなものですか。 以下の赤字の文言が追加されている。

・・・具体的には、職務の執行の開始の日(原則、定時株主総会の日)から1月を経過する日までに株主総会等(株主総会の委任を受けた取締役会を含むものと解されます。)の決議により取締役個人別の確定額報酬又は確定数の株式についての定め(その決議の日からさらに1月を経過する日までに、その職務につきその役員に生ずる債権の額に相当する特定譲渡制限付株式又は確定数の株式を交付する旨の定めに限ります。)がされ、・・・以下省略

Q25に同じ
Q28 「特定譲渡制限付株式による給与」の額の損金算入時期及び損金算入額についてはどのようになりますか。 以下の赤字の文章が追加されている。

・・・また、損金算入額については、確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式を交付する場合(確定した数の特定譲渡制限付株式を交付する場合で「届出が不要となる事前確定届出給与」に該当するものを含みます。)では、原則として、その給与等課税額が確定した特定譲渡制限付株式の交付と引換えにその役員等により現物出資された報酬債権等の額とされています。確定した数の特定譲渡制限付株式を交付する場合(「届出が不要となる事前確定届出給与」に該当するものを除きます。)は、当初報酬の内容を決議した時点の株価を元に算定することとされています(法人税法施行令第71条の3)・・・以下省略

Q25に同じ
Q37 取締役に対して「特定譲渡制限付株式」を交付する場合、会社法上の取扱いを踏まえてどのような手続きが必要となりますか。 最後の段落に、以下の赤字の文言が追加されている。

・・・又は確定した数の株式についての決議を行うことが必要となります・・・以下省略

Q25に同じ
Q32 「特定譲渡制限付株式」に関する税制措置の適用関係はどのようになりますか。 以下の赤字の文章が追加されている。
特定譲渡制限付株式に関する平成29年度税制改正の改正事項の多く(市場価格があるものに限定される、非居住者に対するものが損金算入の対象に含まれる、没収数が変動するものが除外されるなどの改正)は平成29年10月1日施行とされており、 改正内容を例示したもの。
なお、事前確定届出給与として確定した数の特定譲渡制限付株式を支給することについては、平成29年4月1日施行とされており、要件を満たす特定譲渡制限付株式については10月までの間に交付決議されたものも損金算入が可能です。 平成29年度税制改正項目のうち納税者(企業等)にとって有利な改正は「2017年4月1日から」、不利な改正は「2017年10月1日から」適用が開始されている。従来の「確定した額の金銭」に加え、「確定した数の株式」を事前確定届出給与の対象とする改正は納税者(企業)にとって有利な改正であることを踏まえたもの。
Q43 株式付与時における株価の参照時点はどのように処理すればよいですか。 冒頭に
確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式を交付する場合で、」との限定が付き、一番最後に下記の文章が追加されている。

これに対し、確定した数の特定譲渡制限付株式を交付する場合では、報酬決議と第三者割当決議の時点が異なったとしても、報酬決議時点において報酬債権額を確定する必要がなく、第三者割当決議の時点の株価を参照することで足りるため、このような問題は生じないと考えられます。

基本的にQ25に同じ。
「確定した数」の譲渡制限付株式は、「報酬決定決議日」と「第三者割当決議日」が別の日でも事前確定届出給与として支給できることを明確にするもの。
Q50 「所定の時期」はどのように定めますか。 一番最後に下記の文章が追加された。

また、この支給時期である将来の一定の日について、例えば「○○年度の定時株主総会の開催日の○○日後」といったように、確定日に限らず客観的に定まる日とすることも考えられます。業績連動給与における指標の参照時点である「所定の日」や「所定の期間」についても同様です。

事前確定届出給与は「所定の時期」に支給することが求められ、業績連動給与は「職務執行期間開始日の属する事業年度開始の日以後の所定の期間または職務執行期間開始日以後の所定の日における株式の市場価格の状況を示す指標」を基礎として算定することが求められる。
本改定は、「所定」の定め方を例示を追加するものである。
Q54 事後交付型リストリクテッド・ストックの税務の処理方法はどうなりますか。 主に下記の部分が追加された。

例えば、対象勤務期間内において退任をしたり、一定の非違行為があったりした場合に株式の全てを交付しないこととする条件等が付されている場合には、その条件等が失われるまでの間は債務が確定しているとはいえないため損金算入することはできない点に注意が必要です。確定額の金銭を支給する場合も同様です。

Q17でも触れたとおり、平成29年度税制改正では、譲渡制限付株式報酬の損金算入時期が「譲渡制限が解除された日」から「没収されないことが確定した日」に変更された。「没収されないことが確定した日」が「譲渡制限が解除された日」に先行する場合、譲渡制限解除日よりも前に損金算入が可能となるが、企業によっては、没収するか否かを判定することとなる「役務提供期間」が終わった後も譲渡制限期間中は「不祥事」に係る没収事由だけは残しているケースがある。この場合、「没収されないことが確定した」とは言えないことから、従来どおり「譲渡制限が解除された日」が損金算入日となることを明確にしたのが本改定である。
Q62 複数年にわたる業績連動給与の場合、算定方法を毎年開示する必要がありますか。また、役員の交代や追加があった場合にはどうですか。 下記の改定が行われている。

損金算入の要件とされている有価証券報告書等における開示について、報酬期間が複数年にわたる場合、損金算入の要件を満たすためには開示は当初にしなければなりません。報酬期間の途中で役員の退任・子会社への異動や役位の変更等が生じた場合に報酬額が変更される場合に、その算定方法を定めること予め定めておけば当初の開示のみで構いません。報酬期間の途中で新任の役員が就任する場合は追加の開示が必要ですが、当初の開示における算定方法が新任の役員にも適用されることとされている場合には、追加の開示は不要と考えられます。
 新任の役員にもその算定方法を適用するのであれば、追加の開示が必要です。

役員の異動や役員変更時の報酬額の算定方法を予め定めている場合のほか、新任役員に対しても当初開示した算定方法が適用されることになっている場合には、追加の開示は不要であることが明確にされた。旧版にあった「新任の役員にもその算定方法を適用するのであれば、追加の開示が必要です。」との記述は削除されている点、注意したい。
Q71 業績連動給与としてパフォーマンス・シェアではどのような要件を満たす必要がありますか。 一番最後に下記の文章が追加されている。

※交付する株式数の算定方法として、利益の状況を示す指標により金銭額をまず算出した上で、一定時点の株価で除して交付する株式数を算出することも想定されます。この場合、一定時点の株価として、例えば、定時株主総会開催後1月以内の新株発行又は自己株式処分に関する決議の日の前日の株価を用いることもできると考えられます。

平成29年度税制改正により、従来の「金銭」に加え、「株式」で業績連動給与を支給することも可能となったことを受けたもの。業績に連動した株式数を算定することは難しいことから、便宜的に、まずは金額を算定し、これを株式を付与する直前の株価で割って株式数を算定する方法が例示されている。

2017/10/17 サイバーセキュリティ対策を開示することはリスクか?

あらゆるモノがインターネットでつながるIoT時代の到来により、サイバー攻撃による被害の範囲拡大が懸念されている。こうした中、総務省は今年(2017年)1月から「サイバーセキュリティタスクフォース」を立ち上げ、8回の会合を重ねたうえで10月3日に「IoT セキュリティ総合対策」と題する国や企業などが取り組むべき対策をまとめた報告書を公表している。

IoT : Internet of Things=モノのインターネット

報告書には、「セキュリティ・バイ・ デザイン」を踏まえて設計された機器への“認証マーク”の付与、継続的な安全性を確保するためのセキュリティ検査の仕組み作り、脆弱性チェックソフトの開発・配布、脆弱性調査の効果を高める観点からの法制度の整備、被害拡大を防止するためのISPの利用者の端末とC&C サーバの間の通信の遮断、産学官連携による研究開発、内閣府サイバーセキュリティセンター (NICT= National center of Incident readiness and Strategy for Cybersecurity) に組織された「ナショナルサイバー トレーニングセンター」におけるセキュリティ人材の育成、国際連携の推進(サイバー空間は国境を越えて利用される領域であるため)といった様々なアイデアのほか、「民間企業が取るべきセキュリティ対策の促進」策の一つとして「セキュリティ対策に係る情報開示の促進」(11ページ②)が盛り込まれている。

セキュリティ・バイ・ デザイン : 情報セキュリティを企画・設計段階から確保すること。
ISP : インターネット接続事業者。「Internet Service Provider」 の略。
C&C サーバ : サイバー攻撃では、攻撃元を割り出しにくくしたり、複数箇所から攻撃したりするため、無関係な第三者のコンピュータをウイルスに感染させるなどして乗っ取ることがある。この乗っ取ったコンピュータに命令を出したり制御したりするコンピュータをC&Cサーバという。C&C とは「command and control」の略。

報告書は、セキュリティ対策を講じることが企業のインセンティブになるよう、セキュリティ対策を講じている企業が株式市場などから評価される仕組みを構築する必要性を指摘している。報告書でも紹介されているとおり、米国では、・・・

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2017/10/17 サイバーセキュリティ対策を開示することはリスクか?(会員限定)

あらゆるモノがインターネットでつながるIoT時代の到来により、サイバー攻撃による被害の範囲拡大が懸念されている。こうした中、総務省は今年(2017年)1月から「サイバーセキュリティタスクフォース」を立ち上げ、8回の会合を重ねたうえで10月3日に「IoT セキュリティ総合対策」と題する国や企業などが取り組むべき対策をまとめた報告書を公表している。

IoT : Internet of Things=モノのインターネット

報告書には、「セキュリティ・バイ・ デザイン」を踏まえて設計された機器への“認証マーク”の付与、継続的な安全性を確保するためのセキュリティ検査の仕組み作り、脆弱性チェックソフトの開発・配布、脆弱性調査の効果を高める観点からの法制度の整備、被害拡大を防止するためのISPの利用者の端末とC&C サーバの間の通信の遮断、産学官連携による研究開発、内閣府サイバーセキュリティセンター (NICT= National center of Incident readiness and Strategy for Cybersecurity) に組織された「ナショナルサイバー トレーニングセンター」におけるセキュリティ人材の育成、国際連携の推進(サイバー空間は国境を越えて利用される領域であるため)といった様々なアイデアのほか、「民間企業が取るべきセキュリティ対策の促進」策の一つとして「セキュリティ対策に係る情報開示の促進」(11ページ②)が盛り込まれている。

セキュリティ・バイ・ デザイン : 情報セキュリティを企画・設計段階から確保すること。
ISP : インターネット接続事業者。「Internet Service Provider」 の略。
C&C サーバ : サイバー攻撃では、攻撃元を割り出しにくくしたり、複数箇所から攻撃したりするため、無関係な第三者のコンピュータをウイルスに感染させるなどして乗っ取ることがある。この乗っ取ったコンピュータに命令を出したり制御したりするコンピュータをC&Cサーバという。C&C とは「command and control」の略。

報告書は、セキュリティ対策を講じることが企業のインセンティブになるよう、セキュリティ対策を講じている企業が株式市場などから評価される仕組みを構築する必要性を指摘している。報告書でも紹介されているとおり、米国では、日本の有価証券報告書にあたる 「10-K(テンケー) 報告書」にセキュリティ対策を記載することが“推奨”(すなわち、記載するかどうかは企業の任意)されており、証券取引委員会(SEC)が記載に関する ガイドラインを策定・公表している。報告書には、米国同様に「任意の情報開示であることを前提」としつつ、「企業のセキュリティ対策に係る情報開示に関するガイドラインの策定について、関係府省と連携しつつ、年度内を目途に一定の結論が得られるよう検討する必要がある」と明記されている。これは今後日本においても、制度上、企業にセキュリティ対策の開示を求める方向で議論が進んでいく可能性を示唆している。具体的な記載場所は、有価証券報告書の「事業のリスク」あるいは「対処すべき課題」になる可能性が高いだろう。

ただ、セキュリティ対策を開示することについて企業から聞かれるのが、開示がハッカーに“手の内”を明かすことになるのではないかとの懸念だ。報告書ではこうした声に配慮してか、「開示する情報の粒度(細かさ)については情報開示が新たな攻撃を誘発しないよう十分に配慮する」との一文が盛り込まれている。

しかし結論から言えば、これは杞憂だろう。攻撃する側からすれば、企業がどのようなセキュリティ対策をとっているのかについて、有価証券報告書を見て調べることはまずない。なぜなら、どのような対策が講じられているかは、その企業のIoT機器にシステム的に接続すれば確認できるからだ(むしろ、開示情報以上の情報が得られる)。

あらゆるモノがネットワークでつながる現代社会においては、サイバー攻撃によりその一部にでも綻びが生じれば被害が拡大し、正常なビジネスの継続が困難となる。こうした傾向は、ビッドコイン(仮想通貨、デジタル通貨)の普及などによって加速することになるだろう。サイバーセキュリティ対策は全ての企業に共通する問題であるとともに、投資家がもっとも注目すべき情報でもある。企業としては、政府が今後まとめるというガイドラインを待つことなく、今から積極的にサイバーセキュリティ対策の開示に取り組むべきであろう。開示に取り組むことは、経営陣が自社のサイバーセキュリティ対策の現状を認識し、改善する絶好の機会にもなりそうだ。

2017/10/16 セミナー「海外子会社の内部統制」および「M&Aの適正価格とインセンティブプランとしての資本政策」を2017年11月24日(金)に開催しました。

本セミナーはすでに開催済みですが、会員の方向けにWEBセミナーを配信中です。
WEBセミナー:海外子会社の内部統制
WEBセミナー:M&Aの適正価格とインセンティブプランとしての資本政策

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上場会社役員ガバナンスフォーラムでは、2017年11月24日(金)の14時30分~17時40分に下記のセミナーを開催いたします。

詳細はこちらもご覧ください。

時 間 テーマ 講 師
第一部
14:30

16:00
~最新事例を踏まえた不祥事を防ぐための仕組み作り~
海外子会社の内部統制
TMI総合法律事務所
弁護士 戸田 謙太郎
第二部
16:10

17:40
~M&A時の意思決定から、M&A後の成長を後押しする仕掛けまで~
M&Aの適正価格とインセンティブプランとしての資本政策
プルータスコンサルティング
取締役 マネージング・ダイレクター
山田 昌史 様

■第一部の詳細

セミナー
の内容
巨額の損害賠償や当局からの罰金、業務停止、グローバルでのブランド失墜など、ひとたび海外子会社で不祥事が発生すれば企業に大きなダメージをもたらす恐れがあります。それだけに、海外子会社の内部統制は経営陣にとって喫緊に取り組むべき課題となっていますが、文化的な背景や言語、法制度の違いなどから、多くの企業が対応に頭を悩ませているのではないでしょうか。そこで本セミナーでは、海外当局にも対応した経験のあるTMI総合法律事務所の戸田 謙太郎 弁護士をお招きし、不祥事を防止するための海外子会社の内部統制についてお話しいただきます。具体的には、海外で起こりやすい不祥事や法律問題、さらには最新の不祥事事例も紹介していただいたうえで、最近注目を集めるグローバル内部通報制度を含む「不祥事を防ぐための仕組み作り」について解説していただきます。
講師の
ご紹介
戸田 謙太郎(とだ けんたろう)様
開成高校、東京大学法学部卒業。TMI総合法律事務所 日本国弁護士・ニューヨーク州弁護士。
独占禁止法・競争法、海外贈収賄規制、通商問題(アンチ・ダンピング等)、国際紛争、国際取引を主な取扱分野とする。競争法の分野においては、多数の企業や役職員を代理しており、日米欧を含む、各国の独占禁止法・競争当局による調査への対応やクラスアクション等の海外における民事訴訟への対応の実務に精通している。また、通商問題の分野においては、国際商業会議所( ICC )で「関税・貿易円滑化委員会」の委員を務める他、各国政府による調査への対応にあたって国内外の企業を代理しており、経験に裏打ちされた深い知見を有している。さらに、グローバルコンプライアンス体制の構築に関するアドバイスや社内コンプライアンス研修における講義なども精力的に行っている。
外国人弁護士との共著で、「米国司法省反トラスト局による身柄引渡請求とその対応方法」(BUSINESS LAW JOURNAL)、「グローバル化する日本企業のための情報ガバナンス」(国際商事法務)などの論稿もある。

■第二部の詳細

セミナー
の内容
上場企業の約8割が、市場開拓や成長戦略を加速させるためにM&Aを実行または検討していると言われています。
本セミナーでは、数多くのM&A案件の企業価値評価に関与してきたプルータスコンサルティングの山田 昌史 様をお招きし、M&Aにおけるバイサイド側のプロセスを紐解いていただくとともに、買収金額の考え方について解説していただきます。
また、M&Aは、M&Aの意思決定時のプランどおりに企業を成長させられなければ、「成功」とは言えません。企業を成長させるために必須となるのが、優秀な人材の獲保です。特に中核となる幹部社員をいかに引き留める、あるいは採用できるかが鍵であり、そのために幹部社員に継続的なインセンティブを与えることは、M&A後における極めて重要な経営課題となります。本セミナーでは、優秀な人材の確保と効率的資本政策を同時に実現するインセンティブ制度として、ストック・オプション、有償ストック・オプション、時価発行新株予約権信託についても解説していただきます。
講師の
ご紹介
山田 昌史(やまだ まさし)様
米国公認会計士、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。プルータスコンサルティング 取締役 マネージング・ダイレクターとして、組織再編・有価証券発行・資本政策関連のアドバイザリー業務に従事。企業買収に係る第三者委員も務める。セミナー、企業研修講師経験多数。
著書に「企業価値評価の実務Q&A」(共著、中央経済社)、論稿に旬刊商事法務No.2126「JCOM最高裁決定の示唆する「公正な手続」と実務」(共著)、No.2105「各種インセンティブ・プランの比較と時価発行新株予約権信託の最新動向」(共著)、No.2042、2043「新株予約権と信託を組み合わせた新たなインセンティブ・プラン」(共著)、企業会計Vol.68No.5「制度の変遷で理解する株式報酬諸制度のメリット・デメリット」、旬刊経理情報No.1487「フェアネス・オピニオンの基礎知識と活用場面」(共著)、No1468「第三者割当新株予約権の設計上のポイント」、No1432「株式価値をめぐる近時の裁判例をどう読むか」(共著)などがある。

なお、セミナー参加費につきましては、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員のみ無料、それ以外の方は21,600円(税込 ※)となっております。
※セミナーお申込み前に会員登録いただくと、セミナー参加費は無料となります。

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ご不明な点等がございましたら、ご遠慮なく jimukyoku@govforum.jp までお問い合わせください。

<セミナー概要>

  • 第一部 海外子会社の内部統制
  • 第二部 M&Aの適正価格とインセンティブプランとしての資本政策
  • 【日時】2017年11月24日(金)14時30分~17時40分
  • 【場所】六本木ヒルズ森タワー23階 TMI総合法律事務所セミナールーム
  • 【受付】六本木ヒルズ森タワーLL階ロビー 14時より
  • 【講師】第一部 TMI総合法律事務所
            弁護士
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2017/10/16 メインバンクからの要請がない子会社への債権放棄

企業グループの効率的な運営は上場企業にとって重要な経営課題の一つとなっている。そのために、企業グループ内で組織再編が必要になる場合もあろう。例えば、・・・

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2017/10/16 メインバンクからの要請がない子会社への債権放棄(会員限定)

企業グループの効率的な運営は上場企業にとって重要な経営課題の一つとなっている。そのために、企業グループ内で組織再編が必要になる場合もあろう。例えば、業績不振の子会社を別の子会社と統合するようなケースである。

こうしたケースでしばしば問題になるのが、業績不振子会社の債務だ。グループ子会社ということで、借入先が親会社であることも多い。この場合、親会社としては、統合後のスムーズな事業運営のため、統合前に債権を放棄するという経営判断もあり得よう。

法人税法では、金銭債権が回収不能であるなど一定の要件を満たすことを条件に、債権放棄額を損金に算入することを認めているが、最近、約10億円に及ぶ子会社に対する債権放棄額の損金算入をNGとする高裁判決が確定しているので、子会社への債権放棄を検討している企業は要注意だ。

損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

企業グループの頂点に位置するP社は、債務超過状態にあったグループ会社2社(S1社、S2社)を別のグループ会社1社(S3社)に統合(事業譲渡)する際に、S1社、S2社に対する貸付金約10億円を放棄した。そしてP社は、この10億円の債権放棄額を「貸倒損失」としてP社の法人税の計算上、全額損金に算入した。これに対し税務署は、貸倒損失としての損金算入は認められないとするとともに、当該債権放棄額は貸倒損失ではなく、P社からS1社およびS2社に対する「寄附金()」である認定する課税処分を行った。

 寄附金の損金算入を制限なく認めると、企業は寄附金を支出することで自由に課税所得を圧縮することができてしまうため、法人税法では寄附金の損金算入を制限している。具体的には下記の算式により計算した額が損金算入限度額となる。

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P社がこの課税処分を不服としたため本件は訴訟へと発展したが、東京地裁が税務署の課税処分を認める判決(2017年1月19日)を下したのに続き、東京高裁も東京地裁の判断を全面的に支持(同年7月26日判決)、これによりP社の敗訴が確定している。

裁判所は、P社が債権放棄額全額を損金算入するためには、S1社、S2社に対する貸付金の全額が回収不能であることが客観的に明らかであることが必要である(法人税基本通達9-6-1(4)参照)としたうえで、(1)P1社の売上は漸次増加しており、預金も5千万円あった、(2)P2社は売上4億円、売上総利益3千万円の水準を維持していた、(3)P3社への事業譲渡の後、経費削減等により収益改善が見込まれていたことに加え、(4)P社のメインバンクは、S1社およびS2社をS3社に事業譲渡することにより企業グループの財務を改善する計画については了承していたものの、P社による債権放棄は要請していなかった――ことなどを踏まえ、S1社及びS2社への貸付金の全額が客観的に回収不能であったとは言えないとし、「貸倒損失」として損金算入することはできないと判断した。

そして、当該債権放棄が「寄附金」に当たらないとされるためには、債権放棄をしなけばP社がより大きな損失を被ることが客観的に明らかである場合に限られる(法人税基本通達9-4-1参照)としたうえで、(1)債権放棄当時、S1社及びS2社が倒産の危機にあったとは言えないことに加え、ここでも(2)P社のメインバンクが債権放棄を要請していなかったことを理由に挙げ、当該債権放棄額は「寄附金」に該当すると結論付けている。

本件では、裁判所が「メインバンクによる(債権放棄の)要請」の有無を判断材料の一つとしている点、注目されよう。企業としては、子会社に対して債権放棄を行う際にも、メインバンクとは密にコミュニケーションをとっておきたいところだ。

2017/10/13 有償新株予約権 「経過措置」の最新動向

現在ASBJ(企業会計基準委員会)で会計処理の変更が検討されている有償新株予約権(有償ストックオプション)を採用する300社超の上場企業にとって大きな関心事となっているのが、新たな会計処理の適用開始時期と遡及適用(経過措置) の有無だ(会計処理案を巡る議論は2017年10月4日掲載の「有償新株予約権の会計処理、反対意見に対するASBJの見解」参照)。

遡及適用 : ここでは、新たに定められた会計ルールを過去の会計処理にも遡って適用することをいう。

(2017年)5月10日に公表された公開草案(実務対応報告公開草案52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」)では、新たな会計処理の適用時期は、当該実務対応報告の「公表日」とされたところ(公開草案第10項(1)。2017年5月12日のニュース「有償ストックオプションの会計処理案が公表、長年の議論に区切り」参照)。一方、10月5日に開催されたASBJの第108回実務対応専門委員会では、適用時期について多くの企業や公認会計士などからの質問やコメントがあったことを踏まえ(2017年9月12日のニュース「有償新株予約権の会計処理案に対し史上最多253件のコメント」参照)、一定の準備期間を設ける案(例えば「平成30年4月1日から適用する」など)が提案されたが、専門委員の間では賛否が分かれた。反対派からは、「既に内容が十分に周知されている」「あまり先の日付を設定すると、駆け込みで有償新株予約権を導入する事例が多発してしまう」といった声が聞かれた。これに対して賛成派からは、「今回多数のコメントが寄せられた事実を受け止め、丁寧な対応を行うべきである」といった意見が出ていたが、先週10月12日に開催されたASBJの親委員会の状況を踏まえると、・・・

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2017/10/13 有償新株予約権 「経過措置」の最新動向(会員限定)

現在ASBJ(企業会計基準委員会)で会計処理の変更が検討されている有償新株予約権(有償ストックオプション)を採用する300社超の上場企業にとって大きな関心事となっているのが、新たな会計処理の適用開始時期と遡及適用(経過措置) の有無だ(会計処理案を巡る議論は2017年10月4日掲載の「有償新株予約権の会計処理、反対意見に対するASBJの見解」参照)。

遡及適用 : ここでは、新たに定められた会計ルールを過去の会計処理にも遡って適用することをいう。

(2017年)5月10日に公表された公開草案(実務対応報告公開草案52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」)では、新たな会計処理の適用時期は、当該実務対応報告の「公表日」とされたところ(公開草案第10項(1)。2017年5月12日のニュース「有償ストックオプションの会計処理案が公表、長年の議論に区切り」参照)。一方、10月5日に開催されたASBJの第108回実務対応専門委員会では、適用時期について多くの企業や公認会計士などからの質問やコメントがあったことを踏まえ(2017年9月12日のニュース「有償新株予約権の会計処理案に対し史上最多253件のコメント」参照)、一定の準備期間を設ける案(例えば「平成30年4月1日から適用する」など)が提案されたが、専門委員の間では賛否が分かれた。反対派からは、「既に内容が十分に周知されている」「あまり先の日付を設定すると、駆け込みで有償新株予約権を導入する事例が多発してしまう」といった声が聞かれた。これに対して賛成派からは、「今回多数のコメントが寄せられた事実を受け止め、丁寧な対応を行うべきである」といった意見が出ていたが、先週10月12日に開催されたASBJの親委員会の状況を踏まえると、「準備期間を設ける必要はない」という結論に落ち着きそうだ。上述した反対派の意見のとおり、「経過措置の適用が周知されている以上、各企業に混乱が生じるわけではなく、あえて猶予期間を設ける必要ない」というのがその理由である。

また公開草案には、公表日より前に付与した有償新株予約権については、実務対応報告の会計処理によらず、従来採用していた会計処理を継続することができる(すなわち、これまでどおり費用計上不要)との経過措置が盛り込まれているが(公開草案第10項(2))、公開草案の「結論の背景」には「遡及適用を原則とした」との記述がある(公開草案31項)。これに対し新経済連盟などからは、遡及適用が強制され経過措置が利用できなかったり、経過措置を適用する場合に理由の説明が要求されたりするなど、実質的に経過措置の適用が阻害される可能性を危惧するコメントが寄せられていた。この点について10月12日の親委員会では、「経過措置の適用を受けるにあたって特段の条件は設けていない」ことが明確にされている。そのうえで、新経済連盟が抱いたような懸念を生じさせないよう、実務対応報告上もその旨を補足する方向で検討するとした。なお、遡及適用を原則とする旨の記述自体は、企業間の比較可能性の確保のために存続する方向。

このほか公開草案では、経過措置を適用した場合には、「有償新株予約権の内容」「規模(付与数等)」「変動状況(行使数や失効数等)」、さらに「公正な評価単価」に関する情報を注記することを求めているが(公開草案9項)、このうち「公正な評価単価」を算出は、企業に追加の手間やコスト負担を求めることになる。というのも、有償新株予約権は、権利確定条件として「業績条件」や「勤務条件」が付されているのが通常であり、有償新株予約権を発行している企業の多くは、これらの権利確定条件を考慮した新株予約権の価額情報は持っているものの、ASBJが注記を求める「公正な評価単価」とはストックオプション会計基準特有の概念であり、権利確定条件を考慮せずに算出した価額であるからだ。そこで新経済連盟などからは注記事項の見直しが要望されていたが、これに対しASBJは、「公正な評価単価」の記載を不要とする方向で調整する。

2017/10/12 「雇止め」には無期雇用化以上のリスクも

来年(2018年)4月以降は、5年を超えて有期雇用契約を締結している労働者が無期雇用契約への転換を申し込めば、使用者はそれを承諾したものとみなされる(労働契約法18条)。法律上「使用者は承諾したものとみなす」とされる以上、使用者がこれを拒否する余地は無い。この法律改正を踏まえ、“無期契約化”を防ぐため、来年3月までに「雇止め(有期雇用契約を更新しないこと)」を検討している企業もあろう。ただ、雇止めは、・・・

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2017/10/12 「雇止め」には無期雇用化以上のリスクも(会員限定)

来年(2018年)4月以降は、5年を超えて有期雇用契約を締結している労働者が無期雇用契約への転換を申し込めば、使用者はそれを承諾したものとみなされる(労働契約法18条)。法律上「使用者は承諾したものとみなす」とされる以上、使用者がこれを拒否する余地は無い。この法律改正を踏まえ、“無期契約化”を防ぐため、来年3月までに「雇止め(有期雇用契約を更新しないこと)」を検討している企業もあろう。ただ、雇止めは、無期雇用化よりむしろリスクが高いという見方もあるので留意したい。

労働契約法19条は、「反復更新されてきた有期雇用契約を更新しないことが正社員に対する解雇と同視できる場合」または「労働者が更新を期待することについて合理的な理由がある場合」には、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」雇止めはできないとしている。通常、無期雇用化の可能性がある雇用契約(すなわち、5年を超える有期雇用契約)は、このどちらか(または両方)に該当する可能性があり、そうなれば会社側からの一方的な雇い止めは許されない。

では、契約を反復更新してきた有期雇用従業員との間で「不更新合意」(例えば「この契約を最終とし次期の契約は締結しない」といった条項)を交わしておけば、それに基づいて雇止めができるかというと、それも簡単な話ではない。契約を更新しない旨の合意が明らかであるなら、基本的には両者の意思が尊重される。しかし、労働者側が「会社からの趣旨説明が不充分だった」とか「合意しなければその時点で契約更新ができないと思った」などとして、錯誤無効(民法第95条)を主張した場合、会社側はそれを覆す材料を提示できるだろうか。この点からすると、「不更新合意に基づく雇止め」にもリスクがあると言える。

錯誤無効 : 誤解に基づいてなされた意思表示のことを「錯誤」という。錯誤であると認められれば、意思を表示した者(表意者)はその意思表示の無効を主張することができる。これが「錯誤無効」である。ただし、錯誤の意思表示において表意者に重過失がある場合、錯誤無効を主張できない。

以上を踏まえると、雇止めをするためには、そうしなければならない事情を本人に丁寧に説明したうえで納得してもらうしかない。結局のところ、無期雇用化した後で退職勧奨するのとあまり変わらないということだ。

退職勧奨 : 会社から従業員に退職を勧めること。職勧奨に応じるよう上司が部下を執拗に追い詰めて「パワーハラスメント問題」に発展するケースも少なくない。

「来年3月まで」と期限を切って拙速に雇止めをした結果、トラブルの発生や従業員のモチベーション低下を招いただけだったということにならないよう、雇止めを決断する際には、そのようなリスクを負ってまで無期雇用化を防ぐことにどれだけのメリットがあるのかを見極める必要があろう。