2017/10/11 「実質的にコンプライしている」と言えるレベルの役員トレーニング

本則市場に上場している企業の取締役会は、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の原則4-14により、取締役・監査役に「トレーニングの機会の提供・斡旋」や「その費用の支援」を行うだけでなく、「こうした対応が適切にとられているか否かの確認」をすることが求められている。

【原則4-14.取締役・監査役のトレーニング】
新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担う者として期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべきである。

本原則のコンプライ率は極めて高い。CGコード導入初年度(2015年)で既に98.1%のコンプライ率だった(東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果」(2015年12月末時点)を参照)が、最新の東証の調査(2017年7月14日時点)では99.09%と、全企業がコンプライするまであと少しという状況となっている。

ただ、本原則の“コンプライの程度”は企業によってかなり異なるのが実態だ。役員のトレーニングに熱心に取り組んでいる企業もあれば、残念ながら“形式的なコンプライ”にとどまっている企業も少なくない。

例えば下記のような取り組みをもって「原則4-14をコンプライしている」としている企業はよく見受けられるが、役員トレーニングを実施する目的が取締役会の質の向上にあることを考えると、十分とは言えないだろう。・・・

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2017/10/11 「実質的にコンプライしている」と言えるレベルの役員トレーニング(会員限定)

本則市場に上場している企業の取締役会は、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の原則4-14により、取締役・監査役に「トレーニングの機会の提供・斡旋」や「その費用の支援」を行うだけでなく、「こうした対応が適切にとられているか否かの確認」をすることが求められている。

【原則4-14.取締役・監査役のトレーニング】
新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担う者として期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべきである。

本原則のコンプライ率は極めて高い。CGコード導入初年度(2015年)で既に98.1%のコンプライ率だった(東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果」(2015年12月末時点)を参照)が、最新の東証の調査(2017年7月14日時点)では99.09%と、全企業がコンプライするまであと少しという状況となっている。

ただ、本原則の“コンプライの程度”は企業によってかなり異なるのが実態だ。役員のトレーニングに熱心に取り組んでいる企業もあれば、残念ながら“形式的なコンプライ”にとどまっている企業も少なくない。

例えば下記のような取り組みをもって「原則4-14をコンプライしている」としている企業はよく見受けられるが、役員トレーニングを実施する目的が取締役会の質の向上にあることを考えると、十分とは言えないだろう。

・社外セミナー受講の勧奨(受講レポートは回収せず)
・様々なセミナーを受講できるプログラムに法人契約で加入(利用は本人任せで、誰からもモニターされていない
年に1から2回程度の勉強会
・社外役員に対して就任時にのみ会社の事業について説明を行う

原則4-14を“実質的”にもコンプライしていると言うには、例えば以下のようなレベルまで踏み込みたい。

・社外セミナー受講の強制(受講レポートを総務部等が回収して受講状況を“見える化”する)
・法人契約のセミナープログラムについては総務部門等が利用状況をモニタリング
・四半期に一度、各役員が自身のトレーニングの状況を取締役会で報告
・勉強会の頻度を増やし、テーマも幅広い分野から選択
・社外役員に対して継続的(例えば四半期に一度)に会社の事業について様々な角度から説明を行う。
・「心構え」的なセミナーではなく、より実践に近いケーススタディ的なセミナーや小規模のワークショップを選ぶ

役員は十分な知識がないまま意思決定に参加することは自身のリスクであることを自覚したうえで、自らに足りない部分を補うトレーニングに積極的に取り組みたいところだ。

2017/10/10 「MiFID2」余波で証券会社依存のIR/SR活動は困難に

これまで、上場会社のIR/SR活動において証券会社は重要な役割を果たしてきた。上場会社のIR/SR訪問では、訪問先の機関投資家の選定からスケジュール調整まで証券会社がアレンジするケースが多く、また、IR活動の重要な目的の一つとして、証券会社に所属するセルサイドアナリストによるレポートの執筆が意識されてきた。しかし、今後はIR/SR活動における証券会社の存在感は薄れていく可能性がある。

SR : Shareholder Relations の略で、「株主向け広報」と訳される。株主を含む広く投資家全般に対する広報活動を「IR」 (Investor Relations) と呼ぶのに対し、SR活動とは、企業と株主との信頼関係を築くための活動を指す。
セルサイドアナリスト : 証券会社に所属しており(株式を売る側にいることからこう呼ばれる)、そのレポート(アナリスト・レポート)は、証券会社の顧客である個人投資家や機関投資家に提供され、投資家はこれを投資先の選定や売買のタイミングの判断に利用する。

その背景にあるのが、EU(欧州連合)の金融商品取引法であるMiFID(Markets in Financial Instruments Directive=金融商品市場指令 ※「ミフィッド」と呼ばれる)の改正版「MiFID2」の施行(2018年1月~)だ。なぜEUの法律改正が日本の上場会社のIR/SR 活動に影響を与えるのか、説明しよう。・・・

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2017/10/10 「MiFID2」余波で証券会社依存のIR/SR活動は困難に(会員限定)

これまで、上場会社のIR/SR活動において証券会社は重要な役割を果たしてきた。上場会社のIR/SR訪問では、訪問先の機関投資家の選定からスケジュール調整まで証券会社がアレンジするケースが多く、また、IR活動の重要な目的の一つとして、証券会社に所属するセルサイドアナリストによるレポートの執筆が意識されてきた。しかし、今後はIR/SR活動における証券会社の存在感は薄れていく可能性がある。

SR : Shareholder Relations の略で、「株主向け広報」と訳される。株主を含む広く投資家全般に対する広報活動を「IR」 (Investor Relations) と呼ぶのに対し、SR活動とは、企業と株主との信頼関係を築くための活動を指す。
セルサイドアナリスト : 証券会社に所属しており(株式を売る側にいることからこう呼ばれる)、そのレポート(アナリスト・レポート)は、証券会社の顧客である個人投資家や機関投資家に提供され、投資家はこれを投資先の選定や売買のタイミングの判断に利用する。

その背景にあるのが、EU(欧州連合)の金融商品取引法であるMiFID(Markets in Financial Instruments Directive=金融商品市場指令 ※「ミフィッド」と呼ばれる)の改正版「MiFID2」の施行(2018年1月~)だ。なぜEUの法律改正が日本の上場会社のIR/SR 活動に影響を与えるのか、説明しよう。

MiFIDは2007年、欧州の株式取引ルールを統一して自由な競争を促進するために導入された。しかし、2008年のリーマンショックを機にデリバティブ(金融派生商品)やHFT(High frequency trading=高速/高頻度取引)、そして金融機関の不正などに対する懸念が高まったことから、金融市場の複雑さや不公正さから投資家を保護して金融市場への信頼を回復する必要に迫られた。そのため、MiFID2は以下の内容を含む。

① デリバティブ業者も適用範囲に加える
② HFT業者に登録や検査受入れを義務付け
③ 私設株式市場における取引を制限
④ 取引業者に通信/通話の保存を義務付け
⑤ 売買手数料と情報提供料の分離

私設株式市場 : 金融商品取引所を介さず有価証券を売買することが出来る市場(取引システム)のこと。

グローバル金融市場に特に大きな影響を及ぼすこと見られるのが⑤の「売買手数料と情報提供料の分離」だ。運用会社に金融商品の売買を取り次ぐ証券会社は従来、売買取引に付随するサービスとして、セルサイドアナリストが執筆する「リサーチ・レポート」の提供や、上場会社による(運用会社への)訪問のアレンジ(コーポレート・アクセス)を、売買手数料に“上乗せ”したコストで実施してきた。

この慣行はMiFID2の施行によって継続が難しくなる。運用会社は売買手数料と情報提供料を分別して管理することが求められるため、これまでより情報提供料の妥当性(情報の価値に見合っているか)が厳しく問われることになり、証券会社から安易に情報提供を受けにくくなるからだ。そもそも運用会社が証券会社に支払う情報提供料は年金基金等の投資家が拠出した運用手数料の一部であり、情報提供料の透明性欠如は利益相反(投資家の意に反して不当に高額な情報提供料を親密な証券会社に支払うなど)など不正行為の温床になるとみなされたことが、この規制の背景にある。

MiFIDは直接的には欧州域内に拠点を置く金融機関を対象としているものの、欧州域内の投資家に対する金融サービス(例えば日本の運用機関が欧州の年金の運用を受託した場合)も適用対象としているため、日本の金融機関を含めグローバルな影響が発生することが予想される。実際、MiFID2の施行を前に、グローバルな金融機関は対応に追われている。具体的には、運用会社は既に証券会社に依存したリサーチ体制の見直しに着手しており、自社のバイサイドアナリストを増員する、独立系リサーチハウスを活用するなどの施策を検討している。

バイサイドアナリスト : 運用会社に所属するアナリストであり、そのレポートは、自社のファンドマネージャーの運用成績向上のために作成される。

一方、証券会社は今後、運用会社との関係維持に苦慮するかもしれない。既に一部では、セルサイドアナリスト体制の縮小やコーポレート・アクセス機能の削減が囁かれているようだ。

上述したように、MiFIDは欧州域内に拠点を置く金融機関を対象としているが、日本の運用会社が欧州の投資家から資金運用を受託すれば適用されるだけでなく、将来的に同様の規制の導入が日本の金融市場において議論されることは容易に想定される。そこで上場会社としては、今のうちから証券会社の情報サービスに頼らないIR/SR活動を視野に入れておくべきだろう。具体的に検討すべき対応としては、例えば以下の2点が挙げられる。

① 「成長ストーリー」として投資家にアピールするIR情報の再構築
今後、セルサイドアナリストはハイレベルな産業分析など付加価値の高いレポートに注力するとみられ、特に中小型株の調査に時間を割くことが難しくなるだろう。そこで上場会社としては、セルサイドアナリストの分析に頼ることなく、自ら積極的に成長ストーリーを投資家に提示しなければならない。

② 自前の株主リストによる投資家ロードショーの実施
今後証券会社は、上場会社のIR/SRのための訪問先の選定やスケジュール調整について運用会社から対価を得ることが難しくなり、また対価を得るとしてもそれに見合った効果が厳しく問われることになる(その結果、訪問先の選定やスケジュール調整をしてくれなくなる可能性がある)。したがって上場会社としては、自社株式を保有する運用会社を把握したうえで、運用会社にとって効果的・効率的なロードショーを構築し、自前で実施することが望ましいだろう。

投資家ロードショー : 経営陣が機関投資家を連続して訪問すること。「ロードショー(road show)」と言われるのは、複数の機関投資家を一定期間内で一気に訪問するからである。海外の機関投資家を訪問する場合や、新規上場などの際にも「ロードショー」という言葉が使われることが多い。

2017/10/06 監査役会設置会社が機動的に意思決定をするための策

2017年9月28日のニュース「取締役会における決議事項減少に“過半数の社外取締役”要件のハードル」では、法務省に設置されている法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会が、監査役会設置会社でも「取締役の過半数が社外取締役であること」などを条件に重要な業務執行の決定を取締役に委任することを認めるかどうかについて検討しているものの、取締役会の過半数を社外取締役が占めている上場会社は東証一部でも4.4%(89社)に過ぎず、取締役の過半数を社外取締役とするのは容易ではない旨お伝えしたところだ。

こうした中、監査役会設置会社が意思決定の迅速化を図る手法として検討に値するのが、・・・

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2017/10/06 監査役会設置会社が機動的に意思決定をするための策(会員限定)

2017年9月28日のニュース「取締役会における決議事項減少に“過半数の社外取締役”要件のハードル」では、法務省に設置されている法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会が、監査役会設置会社でも「取締役の過半数が社外取締役であること」などを条件に重要な業務執行の決定を取締役に委任することを認めるかどうかについて検討しているものの、取締役会の過半数を社外取締役が占めている上場会社は東証一部でも4.4%(89社)に過ぎず、取締役の過半数を社外取締役とするのは容易ではない旨お伝えしたところだ。

こうした中、監査役会設置会社が意思決定の迅速化を図る手法として検討に値するのが、「特別取締役制度」(会社法373条)の活用だ。これは、重要な財産の譲受け・処分、多額の借財について、特別取締役(あらかじめ選定した少数(3名以上)の取締役)のみにより構成される取締役会において決議できるとする制度(特別取締役制度についてはケーススタディ「固定資産を取得したい」の「通常の取締役会を開催せずに高額な固定資産を取得する方法」も参照)。

上述した法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会が検討している重要な業務執行の決定を取締役に委任することを認める案と比べると、重要な業務執行を取締役個人が決めることができず、特別取締役3名以上から構成される会議体での決議が必要となるという点で若干機動性は落ちてしまうものの、社外取締役が細々とした事項を承認する必要がなくなるという点は変わらない。

法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会は、重要な業務執行の決定を取締役に委任することを認める会社法改正が実現しても特別取締役制度は存続させる方針としている。上場会社は、社外取締役を増員しなくても実現できる取締役会活性化策として、特別取締役制度の採用を検討したいところだ。

2017/10/05 取締役会の議案用資料の充実がもたらす効用

上場会社で相次いだ社外取締役の増員は取締役会の運営にも大きな影響をもたらしたようだ。例えば定例取締役会の日程の固定化、資料の事前配布の徹底、議案に対する賛否の意思確認の徹底など、社外取締役を招聘したことで取締役会の運営が劇的に変わったという上場会社は少なくない。

ただ、このうち・・・

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2017/10/05 取締役会の議案用資料の充実がもたらす効用(会員限定)

上場会社で相次いだ社外取締役の増員は取締役会の運営にも大きな影響をもたらしたようだ。例えば定例取締役会の日程の固定化、資料の事前配布の徹底、議案に対する賛否の意思確認の徹底など、社外取締役を招聘したことで取締役会の運営が劇的に変わったという上場会社は少なくない。

ただ、このうち「資料の事前配布」については不満を持つ社外取締役が少なくない。ある上場企業(東証一部)の社外取締役は「意思決定をするには情報量が不十分」と不満を漏らす。例えば、関連会社への貸付けを承認すべきかどうかが議題に上がった際に取締役会の事務局(総務部)が作成した資料には下記の項目が掲げられているだけだった。

<関連会社であるA社への運転資金貸付>
貸出額:1億円
貸出期間:●年●月●日~●年●月●日
利率:1.5%(固定)
元本返済:毎月末(元金均等)
利払日:毎月末(後払い)
担保の有無:なし

そこでその社外取締役が、「金銭消費貸借契約書のドラフト」(貸付条件の確認をする場合に備えて)、「貸付先の最新の月次試算表や事業計画」(貸付先が借入金を完済できないリスクを評価するため)、「利率を1.5%とした根拠」(自社の資本コスト率との関係を把握するため)、「他の貸付先との貸付条件の比較」(貸付先により条件が異なるかどうかを把握するため)を追加情報として請求したところ、ようやくそれらの資料が出てきた。従来、この会社は同様の議案では上記のような限定的な情報だけで付議を行っていたという。社外取締役は「情報が不足していては事前配布の意味がない」と嘆いていた。

資本コスト率 : 資本を調達するために必要となるコストの調達資本に対する比率。借入金による資本調達であれば利率、株式による資金調達であれば投資家の期待収益率(配当への期待や値上がり益の期待と株価の比率)こと。なお、上場会社の場合、投資家の期待収益率は、資本資産評価モデル(Capital Asset Pricing Model:CAPM)などにより計算される。

このほか、新規事業への進出、買収、事業提携などの議案も資料が不足しがち。取締役会でこういった重要な案件を審議する際に、担当取締役が口頭でリスクを説明するだけで済ませてはいないだろうか。これは社外取締役がもっとも嫌がるパターンと言える。「本案件にはどのようなリスクが考えられ、それに対してどう対応するのか」が分かる資料を、取締役会の開催に先立ち社外取締役を含む全取締役に送付しておけば、各取締役はリスクの全体像を事前に知ることができる。これにより、取締役会では初歩的な質疑応答(例えば「この事業提携には、どのようなリスクがあるのか」といった質問)を省くことができ、より高い次元の議論に時間を費やすことが可能となる。

こうした資料は担当部署が稟議を上げる際に作成・検討済みのはずであり、取締役会のために一から作る必要はない。社“内”取締役はその気になれば事前にこれらの情報に容易にアクセスできるのに対し、社外取締役は取締役会事務局から提供された資料が手持ちの情報のすべてとなる。社内取締役との情報格差が生じることを防ぐためにも、取締役会の事務局は、社外取締役との間で「●●の議案を上程するのに先立ち、事前に●●や●●の資料を送付する予定であるが、不足している資料があれば教えて欲しい」といったコミュニケーションをとっておくべきだろう。

社外取締役が求める資料やデータを社内取締役も共有することで、社内取締役が「経営判断をする際の目の付け所」を学ぶことができ、また、議案に関わる部門の従業員も、要求された資料を準備する過程で、未認識のリスクに気付かされることもある。これにより、上場会社としてのガバナンスの底上げももたらされることになるはずだ。

2017/10/04 有償新株予約権の会計処理、反対意見に対するASBJの見解

2017年9月12日のニュース「有償新株予約権の会計処理案に対し史上最多253件のコメント」でもお伝えしたとおり、有償新株予約権(有償ストックオプション)の会計処理を変更する企業会計基準委員会(ASBJ)の実務対応報告公開草案第52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」に対して、253件ものコメント(ASBJに寄せられたコメント数としては新記録)が寄せられ、話題を呼んだところだ。コメントが締め切られてから2か月半ほど経つが、2017年9月21日に開催されたASBJでは、これらのコメントについての初めての審議が行われている。

コメントの中には、下記のように若干感情の入ったものも見られたが、・・・

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2017/10/04 有償新株予約権の会計処理、反対意見に対するASBJの見解(会員限定)

2017年9月12日のニュース「有償新株予約権の会計処理案に対し史上最多253件のコメント」でもお伝えしたとおり、有償新株予約権(有償ストックオプション)の会計処理を変更する企業会計基準委員会(ASBJ)の実務対応報告公開草案第52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」に対して、253件ものコメント(ASBJに寄せられたコメント数としては新記録)が寄せられ、話題を呼んだところだ。コメントが締め切られてから2か月半ほど経つが、2017年9月21日に開催されたASBJでは、これらのコメントについての初めての審議が行われている。

コメントの中には、下記のように若干感情の入ったものも見られたが、多くの反対意見は、有償新株予約権は(企業に)資金調達の機会、(従業員等に)投資の機会を提供するものであるため「報酬」としての性格はないということを主張するものとなっている。

提出者 コメント
株式会社 カレン ■17項(1))について
「有償」の特徴を除いたら「無償」と同じになってしまうのは、当たり前のことである。その特徴を除いたら有償ではなくなってしまうため、専門家が議論した結果としての記載とは思えない内容に愕然としました。
(以下、略)
 有償新株予約権がストック・オプション会計基準に定める報酬としての性格を併せ持つと考えられる理由の一つとして、「有償新株予約権は、その付与に伴い従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込むという特徴を除けば、ストック・オプション会計基準を設定した当初に主に想定していたストック・オプション取引(付与に伴い従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込まない取引)と類似している」ことを挙げたもの。

主な反対意見と、2017年9月21日の会合で明らかとなった反対意見に対するASBJの見解は以下のとおりだ。

(注)実務対応報告公開草案第52号の対象とする「権利確定条件付き有償新株予約権」とは、①勤務条件および業績条件が付されている有償新株予約権、②勤務条件は付されていないが業績条件が付されている有償新株予約権である。
主な反対意見 ASBJの見解
信頼のおける独立した第三者評価機関の評価に基づき、監査法人とも評価の前提となる基礎数値を確認の上、当該算定結果を公正価値として、公正価値相当額の金銭の実際の払い込みに対して新株予約権を発行するものであり、明らかに報酬性はないと考える。 従業員等が金銭の払込を行うことから、資金調達としての性格を有するものの、企業が追加的なサービスを期待して有償新株引受権を発行している側面を有すると考えられ、報酬の性格も併せ持つと考える。
一般的には持株会と同様の投資制度として活用しており、その発行目的であれば企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」に合致しているため、その導入会社の発行目的を完全に無視して基準を開発する理由があまりにも不明確である。 従業員が対価を払い込み、資本性金融商品を取得するという点で、持株会と有償新株予約権は同一の性格を有するが、持株会は何ら特段の条件が付されていないのに対して、有償新株予約権は権利確定条件(注)が付されており、その点で異なる。権利確定条件が付されているから、企業は、追加的なサービスを期待していると考えられ、報酬としての性格を有すると考える。
公正価値での新株予約権への投資制度であるため、結果次第では、当初の取得時の資金負担額である投資元本が毀損する可能性があり、そもそも損失が発生する報酬制度は存在し得ないと考える。 権利確定条件付き有償新株予約権は、従業員からの金銭の払込という投資の対価の側面と、労働役務の対価という報酬としての側面の両方があるが、損失は、前者の投資の対価の側面から生じるものである。

ASBJはこれらの反対意見は当初から想定していたものであり、また、反対意見に対する見解も既に公開草案の「結論の背景」に記載済みと考えている模様。このため、関係者の理解が得られるよう修文により丁寧に説明することとし、有償新株予約権をストック・オプション会計基準の対象とするという方向性自体は変更しない方針だ。

公開草案第20項および23項には、権利確定条件付き有償新株予約権が「従業員等から受ける労働や業務執行等のサービスの対価として用いられていないことを立証できる場合、当該権利確定条件付き有償新株予約権は、ストック・オプション会計基準に定めるストック・オプションに該当しないものとすることとした」とある。これによれば、有償新株予約権が従業員等から受ける労働や業務執行等のサービスの対価として用いられていないことを会社が立証し会計監査人が認めない限り、「有償新株予約権の公正な評価額-払込金額」の費用計上が求められることになる。企業としては、ここでいう「従業員等から受ける労働や業務執行等のサービスの対価として用いられていないことを立証できる場合」として具体的にどのようなケースがあるか気になるところだが、ASBJはこの点については具体的な記載はしないとのことだ。