2025/05/26 監査役会にも矛先 拡張するアクティビストの株主提案戦略

これまでアクティビストによる株主提案の矛先は一貫して業務執行を担う経営陣、すなわち代表取締役や取締役に向けられてきた。これは、アクティビストが経営戦略の見直し、資本政策の再構築、配当政策の見直しなど、企業価値向上に直結する施策の実行を促すことを主な目的としているからだ。ところが、最近はアクティビストが経営陣だけでなく、業務執行を行わない監査役会、監査等委員会、監査委員会(以下、監査役会等)に対しても、具体的な改革要求を突きつける動きが出てきた。

2025年の株主総会シーズンを前に、東証プライム上場企業に対し監査役会等への責務強化を求める株主提案を行ったのが、・・・

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2025/05/26 監査役会にも矛先 拡張するアクティビストの株主提案戦略(会員限定)

これまでアクティビストによる株主提案の矛先は一貫して業務執行を担う経営陣、すなわち代表取締役や取締役に向けられてきた。これは、アクティビストが経営戦略の見直し、資本政策の再構築、配当政策の見直しなど、企業価値向上に直結する施策の実行を促すことを主な目的としているからだ。ところが、最近はアクティビストが経営陣だけでなく、業務執行を行わない監査役会、監査等委員会、監査委員会(以下、監査役会等)に対しても、具体的な改革要求を突きつける動きが出てきた。

2025年の株主総会シーズンを前に、東証プライム上場企業に対し監査役会等への責務強化を求める株主提案を行ったのが、環境NGO「マーケット・フォース(Market Forces)」を中心とした市民団体連合である(マーケット・フォースのリリースはこちら)。提案の内容は、気候関連リスクを含む財務リスクへの監査の結果を監査役会等の監査報告書に具体的に開示するよう定款変更を求めるものとなっている。

会社名 株主提案内容 提案者
三菱UFJFG 定款一部変更の件(監査委員会の財務リスク監査に係る情報開示) レインフォレスト・アクション・ネットワーク(個人)
マーケット・フォース
気候ネットワーク
三井住友FG 定款一部変更の件(監査委員会の財務リスク監査に係る情報開示) レインフォレスト・アクション・ネットワーク(個人)
マーケット・フォース
気候ネットワーク
みずほFG 定款一部変更の件(監査委員会の財務リスク監査に係る情報開示) レインフォレスト・アクション・ネットワーク(個人)
マーケット・フォース
気候ネットワーク
三菱商事 定款一部変更の件(監査等委員会の財務リスク監査に係る情報開示) FoE Japan
マーケット・フォース
三井物産 定款一部変更の件(監査役会の財務リスク監査に係る情報開示) FoE Japan(個人)
マーケット・フォース
住友商事 定款一部変更の件(監査役会の財務リスク監査に係る情報開示) マーケット・フォース
中部電力 定款一部変更の件(監査等委員会の財務リスク監査に係る情報開示) 気候ネットワーク
マーケット・フォース

監査役会等の監査報告書は、多くの企業で「内部統制システムに関する取締役会決議の内容は相当であると認めます。また、当該内部統制システムに関する事業報告の記載内容及び取締役の職務の執行についても、指摘すべき事項は認められません。」といったひな形的な記載にとどまっているのが現状だ。この点についてマーケット・フォース等は、「投資家は、リスクの監督が十分であるかを評価するための明確な開示情報を必要としている」にもかかわらず、現行の監査報告書のひな形的な記載では「化石燃料投資に関連する移行リスクおよび物理的リスクを含むマテリアルリスクに関して、取締役が実効性のある管理を実施しているかをどのように評価しているか」が分からないとして、例えば住友商事に対しては、監査役会等の監査報告書において下記の事項を記載すべきと主張し、株主提案を行っている。


移行リスク : 脱炭素社会への移行に伴い、規制強化や市場の変化が企業の事業モデルに影響を与えるリスクのこと。
物理的リスク : 気候変動による異常気象(台風、洪水、猛暑など)が企業のインフラやサプライチェーンに影響を与えるリスクのこと。
マテリアルリスク : 企業の財務や事業に重大な影響を及ぼす可能性のあるリスクのこと。移行リスクや物理的リスクはマテリアルリスクの例である。

住友商事への株主提案
以下の条項を、当会社の定款に追加的に規定する。なお、当会社が監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行した場合には、「監査役及び監査役会」は「監査等委員及び監査等委員会」に修正するものとする。

第5章 監査役及び監査役会
第3 1条 監査役会の財務リスク監査の情報開示
当会社は、ガバナンス体制や気候変動等の重大な課題に起因する急性かつシステミックな財務リスクの増大、並びに取締役の職務執行の妥当性を監査する監査役及び監査役会の職責を踏まえ、当会社の長期的な企業価値の向上を図るため、監査報告書において以下の事項を開示する。なお、当該開示は、合理的な費用の範囲内で行われるものとし、営業秘密情報に該当する情報は除くものとする。

1.当会社が特定した重要課題に関連する財務リスクを軽減するための当会社の戦略、方針およびプロセスの妥当性に関する監査役及び監査役会の評価(リスク管理が適切に実施されている場合及び不十分な場合のそれぞれにおいて当会社が直面し得る財務リスクの検討手続及び検討結果の妥当性に関する評価を含む。)、並びに、その評価の根拠

2.当会社が特定した重要課題に関連する当会社のリスク管理体制に関する監督が適切に行われているかを監査するための、評価基準その他の枠組み

提案理由
本提案は、当社取締役によるリスク監視が適切に行われているかを株主が判断するために必要な情報を監査報告書にて開示することを求めるものである。株主は現状、当社取締役会による監督及びそのプロセスが当社経営陣によるリスク管理を適切に監督しているかを評価することができない。近年発生した国外不祥事例を踏まえ、株主は当社取締役会の監督体制に正当な懸念を抱いており、他の重大なリスク
(気候関連財務リスク等)に対する監督体制の実効性についても同様である。例えば、2023年度の監査報告書では取締役監督上の問題点が指摘されていないが、その結論に至った根拠は定かでない。会社法及びコーポレートガバナンスコードの定めに従い、当社は株主への説明責任を果たすべきである。本提案が求める開示は、当社のガバナンスを強化し、中長期的な企業価値の向上を促進し、経営陣との対話機会を有しない株主も含め、全株主の利益に資するものである。


システミック : 「システミック(systemic)」とは、「全体に関わる」「広範囲に影響を及ぼす」という意味である。

監査役会等の監査報告書には、法定の記載事項とは別に任意で追加的な記載をすることができる。ただ、何をどう記載するのかは監査役会等に裁量・権限があり、株主総会といえども「直接」口出しすることはできない。そこで本株主提案は、定款を変更し、変更後の定款を通じて監査役会等の監査報告書の記載事項を間接的にコントロールすることを目論んだものとなっている。

本株主提案に対して住友商事の取締役会は、「監査役は毎年度監査の方針・計画を策定し、当社における重要課題を念頭に監査の重点を定めたうえで監査を行い、監査活動やその結果を適切に開示していること、及び、事業環境の変化に応じた重要課題を踏まえて行う監査において、特定の事項に関して常に監査報告書に詳細の記載を義務付けることは適切でないことから、当社は、本株主提案の内容を定款に規定するべきではないと考えています。」という理由で反対している。

本株主提案は「気候変動リスクが将来の財務に与える影響」をテーマにしているが、監査報告書を切り口とした株主提案は汎用性があるため、環境問題だけでなく、監査役が関わる企業のあらゆるリスクがテーマとなり得る。つまり、監査役会等の監査報告書の記載をより充実させることで、監査体制そのものを強化し、それを通じて、経営への間接的な影響力を行使しようとするこの戦略は、アクティビズムの射程が広がりを見せていることを意味している。今後、同様の株主提案が定着すれば、監査役会等としても監査報告書の記載内容の充実などの行動変容を迫られることになる。

アクティビストによる提案が経営陣から監査機能へと拡張する動きが一過性の試みに終わるのか、あるいはガバナンス改革の新潮流として定着するのか──その行方が注目される。

2025/05/23 【失敗学第131回】不動テトラの事例(会員限定)

概要

不動テトラ(東証プライム市場に上場)の複数の従業員が、工事資機材販売業者と通謀し、水増し発注等を行い、商品券によるキャッシュバックを受けていた(架空発注額は40,269,652円)。

経緯

不動テトラが2025年3月31日に公表した「社内調査委員会の調査報告書」等によると、一連の経緯は次のとおり。

2024年
12月上旬:不動テトラでは、外部機関の指摘を受け、同社の東京地盤工事部に属する管理職従業員が、同事業に係る一部の取引において、複数年にわたって特定の工事資機材販売業者に対し、水増し又は架空発注を行い、その発注相当額の一部で商品券を購入する形をとって自らに還流させて着服するほか、地盤本部に属し工事現場の所長(工事所長)を務める従業員が同工事資機材販売業者に対する水増し又は架空発注の方法を用いて、当該発注額を同業者にプールさせた上で、同社が受注する別工事の工事資機材代金に充てるよう依頼し、又は同社で正規に処理できない領収書を買い取らせていたことが判明した。
12月24日:不動テトラは、管理本部、監査部を中心とする役職員によって構成される緊急対策本部を設置して本件架空発注等の事案解明のための調査を開始し、関与者のヒアリング、上記各従業員の直近1年間のメールデータの保全、解析等(予備調査)を実施した。

2025年
1月27日:不動テトラの取締役会は、予備調査によって判明した事実に基づき、外部専門家や社外取締役監査等委員(弁護士)によって構成される社内調査委員会を設置した。
3月31日:不動テトラは「社内調査委員会の調査報告書」をリリースした。
5月9日:不動テトラは「再発防止策詳細実行計画のお知らせ」をリリースした。

内容・原因・再発防止策

不動テトラが2025年3月31日に公表した「社内調査委員会の調査報告書」等によると、本件不正の内容、原因および再発防止策は次のとおりとされている。

水増し発注等による商品券での還流
内容 ・不動テトラの東京地盤工事部に属する管理職従業員(A氏)は、同事業に係る一部の取引において、複数年にわたって特定の工事資機材販売業者(X社)に対し、水増し又は架空発注を行い、その発注相当額の一部で商品券を購入する形をとって自らに還流させて着服していた(架空発注額は13,393,880円)。A氏は、受領した商品券を換金し、社内のゴルフコンペの会費、ゴルフコンペの懇親会費、慰労飲食代、現場応援や工事事務所での宿泊時の自身の食費等に充てていた。
・不動テトラの地盤本部に属し工事現場の所長(工事所長)を務める従業員(B氏)は、X社に対する水増し又は架空発注の方法を用いて、当該発注額を同業者にプールさせた上で、同社が受注する別工事の工事資機材代金に充てるよう依頼し、又は不動テトラで正規に処理できない私的利用の領収書を買い取らせていた(架空発注額は8,337,400円)。
・不動テトラの地盤本部工事部工事課のC氏は、2019年11月から2023年12月までの間、X社から不動テトラ又は不動テトラの子会社のソイルテクニカに対し架空発注額を請求させ、不動テトラ又はソイルテクニカからX社に対して合計3,558,400円(税別)を支払わせ、プール金とした上で、X社に領収書の買取りを求める形で合計1,833,629円を現金で受領していた。
・その他、不動テトラの従業員のD氏~L氏9名も領収書買取や架空発注等で還流を受ける等していた。不正行為に協力した外部業者はX社以外にも12社に及んだ。
原因 <動機>
・A氏は、自身が東京地盤工事部課長であった2016年頃から、社内の懇親会、特に部課長レベルや地盤本部との懇親会の2次会や3次会でかかった飲食代について、自らのクレジットカードで支払い、そのまま出席者間や社内での交際費としての精算をしなかったため、結果として自らの負担となることが多くなり、そのような支払に備えるために、自身が自由に使える現金を手元に確保しておきたかった。A氏によれば、過去、このような懇親会の費用については、現場の工事所長が出席していないにもかかわらず、現場の交際費の枠を使って精算するという運用がなされていたが、A氏は自身が工事所長であった頃にそのような交際費の使われ方をされたことについて良く思っていなかったことから、自分が課長になった以降は工事所長に同じ思いをさせないように、現場の交際費として精算することはなく、自ら負担していた。また、A氏は、上記支払に充てたクレジットカードの返済方法をいわゆるリボ払いにして、自身の収入の一部を当該クレジットカードの支払に充てていたが、毎月の支払額が多くなったため、現場応援に行く際や、東京港総合事務所や工事事務所に宿泊する際の自身の食費等に窮することとなったため、懇親会等の会社関連による持ち出しが減った以降も、商品券の受領をやめることができずに、商品券を換金して得た現金から、これらの支払に充てていたと述べる。
・B氏は、不動テトラの人事評価において作業所の売上総利益率が考慮要素の一つであると認識していたところ、自身が担当する地盤改良工事について、現場によっては予算が限られており利益を出しづらいものもあったため、利益が予算上の想定を上回ることが見込まれる現場の予算を転用したいと考えるに至った。B氏は、取引上接点があったX社のY社長との雑談において、当時担当していた現場が予算管理上大変である旨を伝えたところ、Y社長から、X社では、X社に対して架空発注をして、同社に支払われた額をプールした上で、別工事現場の工事資機材代金に充当させることが可能であり、次の工事も大変であろうからこの方法で備えてはどうかという提案を受けた。そのため、B氏は、利益を出しづらい次の現場に備えるためにプール金を作りたいと考え、架空発注に基づくプール金による原価付替を行うようになった。また、B氏は、X社のY社長から、X社に対し領収書を送付すればそのプール金を原資に現金を送金することもできるという話を聞き、業務上発生した交際費であって不動テトラにおいて正規に処理しにくい領収書について、X社に対して、プール金による領収書の買取りを求めるようになった。
・C氏は、海上工事においては現場作業員に対してビールを配布することが通例であるところ、ビールは不動テトラ又は子会社のソイルテクニカで経費として精算できないため、自身でビールを購入し、その領収書をX社に買い取ってもらっており、このような取扱いは海上工事における暗黙のルールだと認識していた。

<正当化>
・A氏は、多少会社のお金を自分が使っても、それは実質会社が負担すべきものでありながら自分が負担している債務を支払うため、また、仕事に役立てるためであって、自分がこれだけ頑張って会社のためになっているからよいのではないか、という誤った意識をもって、自身の行為を正当化しながらX社との不適切な取引を繰り返していた。
・B氏は、日頃、自身が一人所長として他の所長に比べかなり難しく、大規模な工事を担当しているにもかかわらず工事実績に見合う給与は支払われていないと感じていたこと、現場で利益を上げても、その利益を不動テトラは工事に従事する自分たちのために適切に使用していないと考え、不満を感じていたことから、プール金による原価付替を重ねコンプライアンス意識を鈍麻させていく中で、多少の私的利用は許されるとして、自身の行為を正当化していた。

<発覚を免れるための偽装工作>
A氏は、架空水増請求が不動テトラに発覚することを避けるため、リストアップする架空の品物として、工材や、スケール、巻き尺、ライフジャケットなどの不動テトラの地盤改良工事において通常使用される物品や、同社の事務所の備品となりうる物品を、過剰な数量とならないように選び、さらにそれらを自身が部長としての立場で管轄する東京地盤工事部の複数の工事現場に振り分けることで、上記の作業所決裁が可能な取引類型として、拠点の部課長や購買部のチェックを経ずに取引が進められていても不自然ではない形を作っていた。対象となった各工事現場を担当する工事所長の中には、X社からの請求書に、自身が発注しておらず、実際には納品を受けていない品物が含まれていることに気が付いた者もいた。もっとも、それらの請求に関して、A氏が他の現場で発注した品物を当該工事現場に請求させているものと考えたり、東京港総合事務所等に備える共通の物品を当該現場に対して請求しているものと理解したりするなどして、特段実際の取引の有無の確認や、架空水増請求ではないことの確認を行う者はいなかった。
C氏は、1回あたりの発注額に関しては、50万円以下であれば作業所決裁として拠点の部課長や購買部のチェックを経ないことを認識しつつ、50万円以下の金額となるように調整していた。一人所長による作業所決裁は内部けん制が効きにくいという問題があった。

<地盤改良事業の特殊性>
地盤改良事業は、主に下請事業であり、個々の工事は土木事業などに比べると小規模かつ短期間の工事であることが大半であって、従業員の配置も1人の工事所長(若年層も多い)とされ、当該従業員が事業年度中に何度も場所を変えて継続的に複数の工事を担当することもあること、その中で、工種も単一であることも相まって協力業者として取引相手となる業者が固定化する傾向があり、また、海上地盤工事等では臨機に物品等を調達することに不便さがみられ、長年付き合いのある協力業者を頼るとともに協力業者側でも工事所長の要請に従う状況があった。
また、現場慣行として、現場作業員に対して慰労のために飲料の提供等を行うこと(ベテランの作業員から若年の所長に求められることもある)が慣習的にみられ、それを正規の手続ではなくより簡易に(面倒なく)実施するための手段として、上記のような費用の付替をすることを事実上選択する雰囲気が残されていた。
地盤改良事業の工事の特性から、短期間で工事が終了し、その精算の後は納品書が保管されないといった実態があった。

<不適切な対応を許容する協力業者の存在>
本件不正においては、X社など不適切な対応を許容する協力業者の存在が不可欠であった。今回発覚した事案の中にはX社から提案を受けて不正を行う者もいた。

<不十分な内部監査>
内部監査は、一人所長下の作業所決裁にほとんど焦点を当てていなかった。

再発防止策 (社内調査委員会の報告書による再発防止策)
(1)企業文化・風土の面
(2)業務処理統制(作業所決裁問題等)の対応
(3)内部監査によるチェック体制の強化
(4)内部通報制度の周知徹底
(5)教育研修

(再発防止策詳細実行計画による再発防止策)
(1)企業文化・風土の改革
① 社⻑及び各事業本部⻑は、全社及び各事業本部の役員、社員に向けて、本事案の理解と断固として不正を許さない旨を強く宣⾔する
② 各地区間等における⼈員配置等の⾒直しや⼈事交流などによる、組織の固定化の防⽌と活性化
③ 従前の事業運営上の慣習等を払拭する観点からの原価管理、購買のルール等の改善と浸透、及び⼼理的安全性や⾵通しの良い職場環境の確⽴を⽬的とした教育研修の実施
④ ⾏動規範及びその⼿引き並びにコンプライアンスマニュアル等の⾒直しと、本事案の発⽣事実、発⽣原因及び再発防⽌策に係る教育研修の実施
⑤ ⾵⼟・業務改⾰委員会の設置による、社内の意⾒等の取り込みと、再発防⽌策に基づく各種施策の実⾏、フォローを通じた企業・職業倫理の浸透と⾵通しの良い組織⾵⼟の醸成
(2)業務処理統制環境の強化
① 納品書の保存のルール化と、請求内容と納品書のチェックによる統制強化
→「納品書」が法定保存⽂書であることの再認識を徹底し、「納品書」が取引の実在性を証する書⾯であることを明確化する
→内部統制3点セット「建設事業 ⽀払処理(作業所決済)」において、「請求内訳書」と「納品書」の突合による確認を「キーコントロール」と位置づける
② ⽀払承認時における『取引の実在性』に係るサンプリングチェックのルール化
③ 購買プロセス、請求書処理プロセス、原価管理プロセス等における、部課⻑の権限とその⾏使及びそのチェック体制の⾒直し
④ 費⽬の付替と交際費、経費の取り扱いに係る正規の⼿続、ルールの⽂書化と浸透
⑤ その他
(3)内部監査によるチェック体制の強化
① ⼀⼈所⻑の⼯事現場を内部監査部⾨の監査対象とするモニタリングの強化
② 監査部⾨の社員の監査の能⼒、スキルの継続的な向上
(4)内部通報制度の周知徹底
① 経営トップによる内部通報制度の意義や安全性、信頼性と制度の利⽤についての定期的な発信
② 内部通報制度の継続的な周知と制度利⽤対象者への説明の実施的なコンプライアンスアンケートの実施とそれを基にした内部通報制度の補完および実効性の検証
(5)教育研修
① ⼯事部⾨の社員に向けた、本事案等の不正に対応した具体的な事例に基づく教育研修の制度化と受講管理の徹底及び習熟度の確認
② 上記(2)業務処理統制環境の整備の⾯の施策で⽂書化した、正規の⼿続きの浸透に向けた教育研修の実施
(6)協力業者対応
① 協⼒業者に対する、不動テトラ社員による不適切な要求に対する拒絶の要請と内部通報制度の積極的な利⽤の喚起
② 安全衛⽣協⼒会の組織の枠組みを通じた、本事案や内部通報制度の利⽤等に係る教育研修の実施と適正取引
③ 協⼒業者に向けた定期的なサンプリングによるコンプライアンスアンケートの実施

<この事例から学ぶべきこと>

工事現場においては交際費の支出が多く、職位が上に行けば行くほど、自腹による金銭的負担も増える傾向にあります。一方で、調査報告書にはB氏が「工事実績に見合う給与は支払われていない」と感じていたとあり、業務内容と給与が見合っていなかった可能性もあります。そのような状況で不適切な対応を許容する協力業者がいれば、今後も容易に不正が惹起されることが想像されます。不動テトラが示した再発防止策には給与のことが記載されていなかったのが気掛かりです。業務内容と給与が見合っていないと、不正に対する正当化も起きやすいので注意が必要です。

なお、再発防止策に「内部通報制度の周知徹底」とありますが、仮に内部通報制度を周知徹底させていたとしても本件不正を防げていたとは到底思えません。一方で上述したとおり社内調査報告書の再発防止策に「給与」についての指摘は一切記載されていません。近年、調査報告書が一大ビジネス化していると言われています。また、調査報告書のテンプレート化も進行しています。「給与増額のような企業負担が増える策の提案は回避」「とりあえず内部通報制度の周知徹底を対策の一つに掲げておけば間違いないであろう」といった報告書が増えることは、調査報告書の作成がビジネス化していることの裏返しと言えそうです。

2025/05/22 「投資単位10万円」に向けて上場会社が事前に整理しておくべきこと

株価は自社の経営に対する市場からの評価であり、当然ながら上場会社の経営陣にとって自社の株価は大きな関心事であろう。なかには「株価に一喜一憂しないためあえて株価を見ないようにしている」という経営陣もいるが、それでも重要なリリースをした後の株式市場の反応は気になるものだ。

また、上場会社の経営陣であれば、株価の動向だけでなく、「株価に100を乗じた値」の水準の妥当性にも注意を払う必要がある。なぜなら、上場会社の株価に100を乗じた値は「投資単位」と呼ばれる「投資家が株式を購入(投資)するにあたって必要となる最低投資金額」であり、それが高額だと個人投資家から投資を敬遠されるリスクがあるからだ。例えば株価が10,000円の銘柄と1,000円の銘柄の2つを比較してみよう。株価が10,000円の銘柄を購入する場合は100万円が必要となるが、株価が1,000円の銘柄を購入する場合は10万円で済むことになる。資金が潤沢な機関投資家と異なり、株式投資に回せる資金に限りがある個人投資家にしてみれば、分散投資の観点からも投資単位が小さい銘柄の方が選択しやすい。逆に投資単位が大きい銘柄は値嵩株(ねがさかぶ)と呼ばれ、個人投資家は手を出しにくい。・・・


100 : 上場会社では1単元が100株に統一されているため

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2025/05/22 「投資単位10万円」に向けて上場会社が事前に整理しておくべきこと(会員限定)

株価は自社の経営に対する市場からの評価であり、当然ながら上場会社の経営陣にとって自社の株価は大きな関心事であろう。なかには「株価に一喜一憂しないためあえて株価を見ないようにしている」という経営陣もいるが、それでも重要なリリースをした後の株式市場の反応は気になるものだ。

また、上場会社の経営陣であれば、株価の動向だけでなく、「株価に100を乗じた値」の水準の妥当性にも注意を払う必要がある。なぜなら、上場会社の株価に100を乗じた値は「投資単位」と呼ばれる「投資家が株式を購入(投資)するにあたって必要となる最低投資金額」であり、それが高額だと個人投資家から投資を敬遠されるリスクがあるからだ。例えば株価が10,000円の銘柄と1,000円の銘柄の2つを比較してみよう。株価が10,000円の銘柄を購入する場合は100万円が必要となるが、株価が1,000円の銘柄を購入する場合は10万円で済むことになる。資金が潤沢な機関投資家と異なり、株式投資に回せる資金に限りがある個人投資家にしてみれば、分散投資の観点からも投資単位が小さい銘柄の方が選択しやすい。逆に投資単位が大きい銘柄は値嵩株(ねがさかぶ)と呼ばれ、個人投資家は手を出しにくい。


100 : 上場会社では1単元が100株に統一されているため

値嵩株への投資を希望する個人投資家は単元未満株式で投資する手法もなくはないが、売買手数料が高かったり、リアルタイムに売買ができなかったりと不便なことも多い。そこで、個人投資家の間では値嵩株の投資単位の引き下げを求める声があり、証券取引所もルール(目安)を設けている。東証の場合、望ましい投資単位として「50万円未満」という水準を明示しており(東証の有価証券上場規程445条)、当該水準への移行(その手法として株式分割がある)および維持に努めることを求めている(2023年12月15日のニュース「上場会社が目標とすべき投資単位」参照)。また、東証はその実効性を確保するため、投資単位が50万円以上の東証上場会社(内国会社に限る)に対して、事業年度経過後3か月以内に「50万円未満の水準に移行するための投資単位の引下げに関する考え方及び方針等」を開示することを義務付けている(東証「【企業行動規範の概要】望まれる事項 (1)望ましい投資単位の水準への移行及び維持に係る努力等」参照)。


単元未満株式 : 銘柄ごとに決められている最低売買単位である1単元の株数に満たない株式のこと。

さらに東証は、2025年4月24日に公表した「少額投資の在り方に関する勉強会」の報告書において、「10万円程度」という投資単位の“新たな目安”を示している(同報告書の17ページ参照)。10万円という金額は、同勉強会が個人投資家に対してアンケートを行った結果によるもの。つまり、10万円を100で除した「1,000円」という株価が、個人投資家が投資しやすい株価の上限の目安ということになる。

ただ、個人投資家の視点では投資単位は小さい方が望ましいとしても、投資単位が小さ過ぎると上場会社にとって何か問題は生じないのだろうか。この点、2023年10月に東証の規則が改正され、従来の「5万円以上」という“望ましい投資単位”の下限が撤廃されたもののの(投資単位の下限撤廃については2023年8月4日のニュース『企業行動規範に女性役員選任努力義務を明記 「執行役員に準じる役職者」の範囲は?』参照)、例えば1株100円未満となることが見込まれる株式分割のように極端に低水準の株価とすることを目的とした株式分割など、流通市場に混乱をもたらす又は株主の利益の侵害をもたらすおそれのある株式分割等を行わないこととする規定(有価証券上場規程433条:企業行動規範の「遵守すべき事項」の一つ)は撤廃されていないので注意が必要だ。

実務上は、株式分割により発行済株式総数が増加することに伴い株主の数も増え、株主管理コストが増加するという問題がある。株主数が増えれば、株主総会の会場もより大きなところにしなければならなくなる。また、一般的に個人株主は議決権行使率が低いことから、定款変更議案のように「議決権を行使できる株主の過半数が出席」といった可決のための前提条件を満たせなくなるリスクもある。さらに、株主提案権を行使するハードルが下がることも見逃せない。株主提案権を行使するには、総株主の議決権の「100分の1以上」の議決権または「300個以上」の議決権を6か月前から保有し続けている必要があるが(ケーススタディ【株主総会の運営】「株主が株主提案権を行使してきた」参照)株主でない者が300個の議決権を得ようとすると、株価が10,000円の銘柄であれば3億円の資金が必要になる。一方、株価が100円の銘柄であれば3百万円で済む。すなわち、株式分割による投資単位の引き下げにより株主提案権が行使されやすくなるということだ。これは、多くの上場会社が株主提案権の増加をもたらしかねない投資単位の引き下げを躊躇している理由と言われている。

これら投資単位の引き下げに伴い生じる問題点について、上記東証の報告書では、その解決の方向性を下表のとおり整理している。「株主提案にかかる行使要件の実質的緩和による株主提案への対応リソースの増大」(表中の一番下の欄参照)という問題は会社法を改正することでしか解決できず、上場会社としては対応しようがないのが現状だ。

投資単位の引き下げに伴い生じる問題点と解決の方向性
問題点 解決の方向性 備考
株主数増加に伴う株主向け提供書面の印刷・郵送費等の負担増 株主向け提供書面の電子化による負担軽減の余地 ・株主総会の招集にあたっては議決権行使QRコードのみをハガキで送付すればよい。その他はすべて電子化が可能。それにもかかわらず、未だ電子化に踏み切れていない上場会社が多い。
・株主総会終了後の決議通知書面の送付はそもそも法的に求められたものではないので、送付するにしても電子化が可能。
株主総会運営負担の増加 バーチャルオンリー株主総会の実施 ・バーチャルオンリー株主総会の場合、株主の顔が見えないことから、対面型に比べて過激な発言や提案が出やすくなる恐れもある。また、通信障害による決議取消リスクやそれを避けるためのシステム構築の負荷もある。
・バーチャルオンリー株主総会については、現行の産業競争力強化法ではなく会社法上の定めとするよう経産省内で改正を求める動きがある(2025年1月9日のニュース「指名委員会等設置会社における指名・報酬の決定権限の見直し議論が後退」参照)。
・ハイブリッド方式については、対面/バーチャル両面をケアしなければならず、コスト面を含め負担が純増してしまう。
個人投資家の議決権行使率の低さ 個人投資家に対し、議決権行使の意義や行使方法の周知、電子行使の一層の促進 本表の下の図参照
株主提案にかかる行使要件の実質的緩和による株主提案への対応リソースの増大 株主提案権の議決権個数に係る要件見直しなど濫用的な権利行使への手当てが必要 個々の会社では解決できず、会社法の改正が必要。なお、経済産業省内には、取締役会によるモニタリング機能が十分に果たされている場合は「議決権300個以上」との要件を廃止するよう会社法改正を求める動きがある(2025年1月9日のニュース「指名委員会等設置会社における指名・報酬の決定権限の見直し議論が後退」参照)。


バーチャルオンリー株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。

本報告書25ページには、個人投資家が議決権行使を断念するタイミングについての調査結果が図示(下記参照)されている。この図を見ると、個人投資家の多くが情報量の多さなどで議決権行使を断念しており、個人投資家に議決権を行使してもらうには「簡潔さ」や「読みやすさ」やがいかに重要かが分かる。投資単位の引き下げにあたっては、これらの観点から招集通知等を改善することも検討課題に含めるべきであろう。

個人投資家の議決権行使断念のタイミング
77145

2024年1月からの新NISA開始を受けて、長期保有スタンスの個人投資家の層は確実に厚くなっている。もっとも、新NISAの「成長投資枠」での年間投資上限額は240万円に過ぎない。例えば株価が3万円の銘柄の場合、投資単位は300万円(=3万円×100株)となるため、個人投資家が新NISAの成長投資枠を通じて当該銘柄を直接保有することはできない。投資単位が高い上場企業は、新NISAを通じて個人株主を増やすため、東証が示した新たな投資単位の目安である「10万円」を目指した株式分割を検討したいところだ。

2025/05/21 6月3日(火)開催 WTW主催セミナー「人的資本とガバナンス」に当フォーラムの会員も参加できます。

世界的な人事コンサルティング会社であるWTWが2025年6月3日(火)に「人的資本とガバナンス」を開催します。同社のご厚意により、当フォーラムの会員も参加いただくことができます。詳細の確認およびお申込みは下記よりお願い致します。
—————————-
ご関係各位

貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。平素より格別のご高配を賜り、誠にありがとうございます。

このたび、2025年6月3日(火)に、WTW主催セミナー「人的資本とガバナンス」 を開催する運びとなりましたので、ご案内申し上げます。
本セミナーでは、企業経営における人的資本の活用とガバナンス強化の最新動向について、実務的な観点からもご紹介いたします。
※本セミナーは【現地開催のみ】となり、Web・アーカイブ配信等は予定しておりません。
※席数に限りがございますため、お早めのお申し込みをお勧めいたします。

■本セミナーの詳細及びお申込みは下記のリンクよりご参照ください。
https://events.wtwco.com/event/dd785887-6c55-4df4-8bbd-8a703ecc0946/summary?RefId=Summary

本セミナーでは、以下のゲストをお招きし、特別講演及びパネルディスカッションを実施する予定でございます。

【株式会社日立製作所】
山本 高稔 様 │ 社外取締役、報酬委員長
瀧本 晋 様 │ 執行役常務、Deputy CHRO 兼 人材統括本部副統括本部長

【株式会社レゾナック・ホールディングス】
安川 健司 様 │ 社外取締役、報酬諮問委員長(アステラス製薬株式会社 代表取締役会長)
今井 のり 様 │ 取締役 常務執行役員、最高人事責任者(CHRO)

日頃より、人的資本/サステナビリティ/コーポレートガバナンス(役員指名・報酬を含む)の実務に携わるご担当者の皆さまにおかれましても、大変有意義な講演となるかと存じますので、ご興味・ご関心がありましたら、是非ご参加くださいませ。

皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

2025/05/21 株主優待のメリットとデメリット

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

近年、株主優待を復活させる企業が増加している。例えば回転ずしチェーンのくら寿司は昨年12月に株主優待の廃止を打ち出したが、わずか2か月で再開を発表した。同社は再開の理由として、多くの株主から株主優待再開の要望等があったことを挙げている(同社のリリースはこちら)。同社の株主優待では、1000株以上を保有する株主は2万円分の食事券を受け取ることができる。この株主優待を発表した翌日の株価は制限値幅いっぱいのストップ高となった。また、ヘアカット専門店QBハウスを運営するキュービーネットホールディングスは今年2月、株主優待制度を新設すると発表した(同社のリリースはこちら)。100株以上を半年以上にわたって継続保有する株主は、保有株数に応じて「無料ヘアカット券」を贈呈される。今年6月までに株主を現在の約6000人から8000人に増やすことを目指すという。

株主優待は小口株主に有利な制度であり、その目的は小口株主である個人投資家に自社をアピールすることにある。日本の実証研究でも、株主優待の導入を発表した企業の個人株主数は増加し、株式の流動性指標が向上していることが確認されている。また、株主優待の導入を発表した企業の株価は有意に上昇しており、株主数の増加や流動性の向上が株価に好影響を与えていることが分かっている。

また、最近は「買収防衛」としての機能も注目されている。というのも、株主優待は上場企業全体の4割弱、小売業では8割が導入しているにもかかわらず、こうしたトレンドとは距離を置いていたセブン&アイ・ホールディングス(HD)が同意なき買収のターゲットとなる一方、積極的に進めてきたイオンが同意なき買収のターゲットとなっていないからである。セブン&アイHDが昨年4月に突如、株主優待の新設を発表したのはその証左と言える。

イオンには既に95万人を超える個人株主がいる。これはNTTと三菱UFJフィナンシャル・グループに次ぐ規模と言われており、現在も増加傾向にある。イオンは、100株保有者には半年毎にイオンを通じた買物総額の3%、1000株保有者には5%、3000株保有者には7%のキャッシュバックを行っている。現状の株価水準で言うと、40万円程度で100株を保有すれば、イオンでの買い物の際に3%のディスカウントを受けられる。生活圏の中にイオンがあり、日常的にイオンで買い物をするのであれば、株価が急落しない限り、株主が株式を売却するインセンティブはない。また、議決権を行使する株主も多く、株主総会では会社提案への賛成比率も高い。すなわち、個人株主が「安定株主」として定着している。

もっとも、イオンの経営指標は必ずしも思わしくない。2025年2月期のROEは2.7%、ROICは3.0%となっており、セブン&アイHDの 4.3%、4.1%に見劣りする。しかし、2025年5月20日現在のPERは92.8 倍、PBRは3.54 倍となっており、セブン&アイHD の22.7倍、1.43 倍を凌駕している。すなわち、企業価値では測れない価値が市場で評価されていると言える。


ROE : ROE(Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。
PER : Price Earnings Ratio=株価収益率(株価/1株当たり純利益)
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

しかし、株主優待もメリットばかりではない。・・・

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2025/05/21 株主優待のメリットとデメリット(会員限定)

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

近年、株主優待を復活させる企業が増加している。例えば回転ずしチェーンのくら寿司は昨年12月に株主優待の廃止を打ち出したが、わずか2か月で再開を発表した。同社は再開の理由として、多くの株主から株主優待再開の要望等があったことを挙げている(同社のリリースはこちら)。同社の株主優待では、1000株以上を保有する株主は2万円分の食事券を受け取ることができる。この株主優待を発表した翌日の株価は制限値幅いっぱいのストップ高となった。また、ヘアカット専門店QBハウスを運営するキュービーネットホールディングスは今年2月、株主優待制度を新設すると発表した(同社のリリースはこちら)。100株以上を半年以上にわたって継続保有する株主は、保有株数に応じて「無料ヘアカット券」を贈呈される。今年6月までに株主を現在の約6000人から8000人に増やすことを目指すという。

株主優待は小口株主に有利な制度であり、その目的は小口株主である個人投資家に自社をアピールすることにある。日本の実証研究でも、株主優待の導入を発表した企業の個人株主数は増加し、株式の流動性指標が向上していることが確認されている。また、株主優待の導入を発表した企業の株価は有意に上昇しており、株主数の増加や流動性の向上が株価に好影響を与えていることが分かっている。

また、最近は「買収防衛」としての機能も注目されている。というのも、株主優待は上場企業全体の4割弱、小売業では8割が導入しているにもかかわらず、こうしたトレンドとは距離を置いていたセブン&アイ・ホールディングス(HD)が同意なき買収のターゲットとなる一方、積極的に進めてきたイオンが同意なき買収のターゲットとなっていないからである。セブン&アイHDが昨年4月に突如、株主優待の新設を発表したのはその証左と言える。

イオンには既に95万人を超える個人株主がいる。これはNTTと三菱UFJフィナンシャル・グループに次ぐ規模と言われており、現在も増加傾向にある。イオンは、100株保有者には半年毎にイオンを通じた買物総額の3%、1000株保有者には5%、3000株保有者には7%のキャッシュバックを行っている。現状の株価水準で言うと、40万円程度で100株を保有すれば、イオンでの買い物の際に3%のディスカウントを受けられる。生活圏の中にイオンがあり、日常的にイオンで買い物をするのであれば、株価が急落しない限り、株主が株式を売却するインセンティブはない。また、議決権を行使する株主も多く、株主総会では会社提案への賛成比率も高い。すなわち、個人株主が「安定株主」として定着している。

もっとも、イオンの経営指標は必ずしも思わしくない。2025年2月期のROEは2.7%、ROICは3.0%となっており、セブン&アイHDの 4.3%、4.1%に見劣りする。しかし、2025年5月20日現在のPERは92.8 倍、PBRは3.54 倍となっており、セブン&アイHD の22.7倍、1.43 倍を凌駕している。すなわち、企業価値では測れない価値が市場で評価されていると言える。


ROE : ROE(Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。
PER : Price Earnings Ratio=株価収益率(株価/1株当たり純利益)
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

しかし、株主優待もメリットばかりではない。

欧米の実証研究では、株主優待は長期的な個人株主を増加させ、株主基盤の安定化につながる結果、経営者をより長期志向にさせ、経営者のREM(Real Earnings Management=実体的利益調整)への関与を低下させるとの分析もある。その一方で、株主優待の導入による個人株主の増加は、平均保有株式数を減少させて所有権の拡散を招く結果、コーポレート・ガバナンスの効率を低下させるため、経営者のREMを誘発するリスクも指摘されている。また、個人株主の増加により経営者と株主の利害の一致度合いも低下する。これに伴い、REMによる利益操作に走り、目先の目的を達成しようという機会主義(オポチュニズム=日和見主義、御都合主義)的な行動の裁量を経営者に与える可能性も指摘されている。


REM(Real Earnings Management=実体的利益調整) : 経営者が、キャッシュ・フローを変化させることによって利益数値を変化させること。例えば広告宣伝費や研究開発費は減価償却を経ずに即時に費用計上されるため、これらの費用を削減又は増やすことで、利益を捻出又は圧縮することができる。REMにより企業の短期的な業績を良く見せることができるが、例えば研究開発費を削減し続けると将来的な競争力が低下するなど、長期的な成長や持続可能性に悪影響を及ぼす可能性がある。

約10年前の2014年、日本マクドナルドホールディングスでは賞味期限切れ鶏肉問題の発覚により客足が遠のき、2015年12月期決算は380億円の最終赤字となった。業界関係者の間では、投資ファンドと米国マクドナルドが株式を買い取り、非公開化した上で、再建に取り組むのが得策とする意見があった。しかし、イオンと同様の企業価値では測れない高い株価がネックになり、断念したという。株主優待は多くの国で存在しているとはいえ、諸外国における導入企業数は日本よりはるかに少ない。その意味で株主優待は「日本独自の制度」とも言える。上記のとおり、株主優待は経営者を長期志向にするインセンティブがある一方、機会主義的な行動を促進するというガバナンス上の問題点も指摘され始めており、後者は今後機関投資家の関心事となる可能性がある。株主優待の導入にあたっては、そのメリットとデメリットを十分考慮する必要があろう。

<参考文献>
・Chen, Liqian and Matsuura, Yoshiyuki and Tareq, Mohammad Ali and AKHTAR, TAHIR, Does the Retail Shareholder-Increasing Strategy Benefit Long-Term Management? – Evidence of Shareholder Perks Program in Japan (2023).
・Karpoff, Jonathan M. and Schonlau, Robert J. and Suzuki, Katsushi, Shareholder Perks and Firm Value, The Review of Financial Studies, Vol. 34, No. 12 (2021), pp. 5676-5722.

2025/05/20 経営陣全員が70代の上場会社に株主が異議

年齢を重ねることで経験や知見は蓄積される一方、新しいことへのチャレンジが億劫になったり、判断が保守的になったりするということも起こり得るが、それが株主から経営を託されている上場会社のトップに起きた場合、その影響は会社の将来にネガティブな影響を及ぼしかねない。経営陣の高齢化が物議を醸しているのが、・・・

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