2025/05/20 経営陣全員が70代の上場会社に株主が異議(会員限定)

年齢を重ねることで経験や知見は蓄積される一方、新しいことへのチャレンジが億劫になったり、判断が保守的になったりするということも起こり得るが、それが株主から経営を託されている上場会社のトップに起きた場合、その影響は会社の将来にネガティブな影響を及ぼしかねない。経営陣の高齢化が物議を醸しているのが、東証スタンダード市場に上場するオーネックスだ。

同社は金属熱処理加工業を営む中堅企業だが、代表取締役社長は75歳、最年少の取締役でも70歳と、取締役全員が70代となっている。2024年6月期には約3.7億円の純損失を計上。危機感を募らせた株主が、臨時株主総会の招集を会社に請求するという事態に発展した(同社のリリースはこちらを参照)。株主提案議案および臨時株主総会の招集理由は以下のとおり。

議案
議案1 定款一部変更の件
議案2 全取締役解任の件
議案3 取締役7名選任の件

招集の理由
当社においては、直近の事業年度においては約3.7億円という多額の純損失を計上しているところでありますが、当社の現役員はその大半が70歳を超える年齢であり、経営の若返りを図り、利益を生み出す体制の構築をすることが急務になっている状況です。
もっとも、提案株主としては、経営の若返りを図るべく経営陣の刷新及び新役員の選任が必須となっているもののこれまで当社に尽くし、また、当社グループの勝手を知ってこれまでの経験及び実績に基づいて業務執行等することができる現経営陣にも当社をけん引していただきたいと考えています。
このような経緯から、提案株主は、当社の定款19条の「当会社の取締役は、8名以内とする。」との定めを変更して定員を13名に増員するとともに、新たに当社の取締役を7名増員して新体制を構築するべく下記(1)の定款変更及び(3)の取締役候補者の選任をお願いするものです。
なお、提案株主は、本株主提案をするに先立って当社現経営陣と本株主提案について協議しておらず、当社現経営陣の方針や当社の株主の皆様のお考えが現状分からないため、定款一部変更が可決されないことに備えて全取締役の解任議案も議案の1つに入れておりますものの、上記のとおり新取締役と現経営陣が協同して当社の企業価値の向上に努めていただくことが最もよいと考えているため、定款一部変更の件が可決されて当社の取締役の員数の枠が増員された場合には、下記(2)の全取締役の解任の件については撤回することを検討しています。

この株主提案の特徴は、対立色をあえて強めず、現経営陣との共存を模索する内容となっている点にある。具体的には、「当社グループの勝手を知ってこれまでの経験及び実績に基づいて業務執行等することができる現経営陣にも当社をけん引していただきたい」としたうえで、7名の新任取締役(第3号議案)と現経営陣をともに取締役会のメンバーとする提案となっている。完全に排除するのではなく「融合による移行」を掲げることで、他の株主の理解を得やすくしている点が巧妙と言える。

また、定款変更には3分の2以上の賛成が必要という高いハードルがあるが、仮にこれが否決された場合の“バックアップ案”として、「全取締役の解任」も提案している(第2号議案)。株主側の本気度が見えるとともに、現実的かつ計算されたアプローチと評価できる。

経営者の高齢化はオーネックスだけの問題ではなく、社会全体が高齢化している日本では今後多くの会社にとって現実的なテーマとなっていくことが予想される。上場会社各社における(任意または法定の)指名委員会では、ボードメンバーの年齢の多様性も考慮することが不可欠となろう。

オーネックスは現時点で「株主による請求への対応方針を検討中」としているが、同社のように、業績不振に加え、(特定の一人ではなく)経営陣全体の高齢化という要素がここまで明確に株主提案の根拠となった事例は珍しいだけに、同社の見解が注目される。

2025/05/19 【特集】フジテレビのガバナンス上の問題点とCGコードの対応関係【後編】(2・会員限定)

6. 役員報酬ガバナンス
報酬決定機能については、指名機能(5.役員指名ガバナンス参照)ほどあからさまにCGコードに反しているというわけではない。しかし、取締役相談役の報酬水準ひいては役員報酬制度に問題があること、経営報酬委員会に適切に情報提供がされていないことは看過できない。

調査報告書(抜粋:当フォーラムが文言調整。以下同) CGコード(抄)
● 取締役の報酬は、各取締役の役職位、代表権の有無、在任期間、貢献度等、会社の業績等を勘案して決定するとしている。
● 日枝氏の報酬総額は、一部の年を除き、代表取締役会長・社長の報酬総額を上回っており、その他の年でも2番目の金額となっている。
● 取締役相談役の職務と地位を考慮し、相談役にふさわしい金額を検討すべきである。
原則4-2
経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。
● 経営諮問委員会は、報酬についても取締役会の諮問を受けて助言するとされている。
● 社外取締役は、報酬制度についての説明を受けて、「具体的な報酬制度案が示されないと有効な議論ができない」として具体案の提示を求めていた。
● 今後は報酬制度の透明性を高めていくために、経営諮問委員会のような場で報酬制度を継続して議論していくことが期待される。
補充原則4-10①
経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置することにより、適切な関与・助言を得るべきである。

7. 監査役会・監査等委員会の活動状況
親会社の監査等委員が子会社の監査役を兼任することによる自己監査のリスク、社内外の監査等委員の選任における取締役相談役の影響力、執行側による監査等委員報酬の決定が問題点として指摘された。いずれも監査の独立性と実効性を損なう要因と言える。

調査報告書(抜粋) CGコード(抄)
● 子会社監査が機能しているかどうかを監査する親会社(HD)の監査等委員が子会社の監査役を兼任しており、自己監査の問題が起こり得る。また、子会社の監査役の親会社からの独立性に疑義が生じる。
● 社外監査等委員の監査活動は、常勤監査等委員から受ける情報共有に依拠する範囲に限定されてしまう。現に、ハラスメントを含むコンプライアンスに関する情報共有は受けていない状況にある。
● 社内監査等委員は日枝氏と協議して決定している。社外監査等委員は日枝氏がグループ企業の代々の社長やスポンサーとして長年の取引がある企業のトップを指名し、取締役会において決定している。実効性ある監査を行う上で好ましい状況ではない。
● 監査等委員報酬を執行側が決定している疑いがある。
補充原則4-4①
監査役会は、会社法により、その半数以上を社外監査役とすること及び常勤の監査役を置くことの双方が求められていることを踏まえ、その役割・責務を十分に果たすとの観点から、前者に由来する強固な独立性と、後者が保有する高度な情報収集力とを有機的に組み合わせて実効性を高めるべきである。

8. FMH(フジ・メディア・ホールディングス)によるCX(フジテレビ)の管理の状況(会員限定)

2025/05/19 【特集】フジテレビのガバナンス上の問題点とCGコードの対応関係【後編】(3・会員限定)

8. FMH(フジ・メディア・ホールディングス)によるCX(フジテレビ)の管理の状況
グループ各社の社長を構成メンバーとするグループコンプライアンス等委員会は設置しているものの、コンプライアンスや人権侵害の問題、職場環境アンケート調査やリスクチェックシートの結果などは報告されていない。親会社の取締役会も報告を求めておらず、リスク管理体制を整備する責任を果たしていない。

調査報告書(抜粋) CGコード(抄)
● グループ各社の代表取締役社長を構成メンバーとするグループコンプライアンス等委員会を組織し、各事業を統括する体制を構築している。
● 個別のコンプライアンス上の問題や、ハラスメントや重大な人権侵害の問題についての報告は一切されていない。また、コンプライアンス推進室が実施した職場環境アンケート調査やリスクチェックシートの報告もされていない。
● 取締役会からグループコンプライアンス等委員会に対して報告を求めたこともない。
原則4-3
取締役会は、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきである。

9. フジサンケイグループについて
グループ各社はイベントを通じた連携が中心で、グループ体制自体を問題視する指摘はない。ただし、取締役相談役により支配されているという外観は、グループガバナンスの透明性への懸念を惹起することになる。

調査報告書(抜粋) CGコード(抄)
● 総じて、イベントを通じた緩やかなグループ内企業の結び付き以上のものは認められなかった。
● しかしながら、日枝氏が代表を務めるフジサンケイグループが人事を通じてFMHを支配しているという外観を呈しており、グループガバナンスの透明性に悪い影響を与えている。
● したがって、より透明性を高める必要があると評価すべきである。
原則1-7
上場会社がその役員や主要株主等との取引を行う場合には、そうした取引が会社や株主共同の利益を害することのないよう、また、そうした懸念を惹起することのないよう、取締役会は、あらかじめ、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めてその枠組みを開示するとともに、その手続を踏まえた監視を行うべきである。

10.経営諮問委員会の活動状況
指名報酬機能を持つ経営諮問委員会については、特に指名については形骸化が顕著であり、報酬についても機能不全が指摘された。第三者委員会調査報告書は少なくとも開催回数を増やすことを提言しているが、実質の伴った指名・報酬委員会の確立が急務と言えよう。

調査報告書(抜粋) CGコード(抄)
● 経営諮問委員会は、取締役の選任・解任、監査等委員である取締役を除く取締役の報酬について、取締役会に対し助言・提言を行う機能を有している。
● 取締役指名については、日枝氏が取締役候補者を提案し、それに対し各委員が質問等を行った上で、経営諮問委員会として当該提案を了承し、取締役会に上程するというプロセスを経ている。
● 各取締役の個別報酬の算定プロセスについては、役位に応じた固定報酬の算定根拠が示されたテーブルが議事資料として提示されていない。
● 不透明だったプロセスにメスを入れるため、経営諮問委員会の開催回数を増やすべきであろう。
補充原則4-10①
経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置することにより、適切な関与・助言を得るべきである。

以上を踏まえ、第三者委員会調査報告書は小括として、「取締役会の機能不全」とともに、「監査等委員会」も多くの問題点を抱えていると指摘。その背景として、取締役相談役(日枝氏)による「ブラックボックス化した透明性と公平性を欠いた」役員指名の在り方を挙げている。ここで重要なポイントとなるのは、形式的には経営諮問委員会による指名報酬機能が確立しているように見えていたということにある。裏を返せば、本件においては、実効性のあるコーポレートガバナンスの構築を阻む要因が網羅されている。上場会社各社にとっては、自社のガバナンスの適切性・有効性を検証するための他山の石として本報告書を読み解くことは有効と言えよう。

2025/05/19 【特集】フジテレビのガバナンス上の問題点とCGコードの対応関係【後編】

フジテレビのガバナンスの問題点を確認するため、第三者委員会調査報告書(「第7章 内部統制・コーポレートガバナンスの状況」のうち「第4 コーポレートガバナンスの状況」(229~244ページ))における指摘事項を抽出し、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の要請と照らし合わるという本特集の後編では、以下の5項目を取りあげる。

6. 役員報酬ガバナンス
7. 監査役会・監査等委員会の活動状況
8. FMHによるCXの管理の状況
9. フジサンケイグループについて
10.経営諮問委員会の活動状況
※【前編】はこちら

6. 役員報酬ガバナンス(会員限定)

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2025/05/16 【特集】フジテレビのガバナンス上の問題点とCGコードの対応関係【前編】(会員限定・3)

3.本事案に関する取締役会の対応状況

前述のとおり、取締役会は会社に重大な問題が生じていることが明らかであるにもかかわらず、報告に頼った受け身の姿勢に終始したため、重要な情報を得られず監督機能を発揮できなかった。社外取締役をはじめ取締役自身が危機意識を持って積極的に情報を収集し、取締役会の招集を求めることが必要だったと言える。

調査報告書(抜粋) CGコード(抄)
● 危機的状況が発生しているのにもかかわらず取締役会が開催されず、社外を含む全ての取締役に情報が共有されなかった。
● 社内取締役に連絡して個別に情報を取ろうとしていた社外取締役もいたが、全ての社外取締役は取締役会の招集は求めなかった。
● 社外取締役が執行側に報告を求めなかったことは不適切というほかない。
原則4-13
社外取締役を含む取締役は、透明・公正かつ迅速・果断な会社の意思決定に資するとの観点から、必要と考える場合には、会社に対して追加の情報提供を求めるべきである。

4.経営刷新小委員会の活動状況
第三者委員会調査報告書は、2025年1月27日に設置された経営刷新小委員会については一定の評価を与えているが、リスク情報の共有が未だ不十分であることは問題視している。CGコードが期待する「任意の仕組み」として有効に機能するよう、構成メンバーである各社外取締役による積極的な情報収集が求められている

調査報告書(抜粋) CGコード(抄)
● 社外取締役で構成される経営刷新小委員会を取締役会の諮問機関として設置したことにより、社外取締役にも情報が共有されるようになった。
● しかし、会社側からは職場環境アンケートやリスクチェックシートの説明はされていなかった。
● 執行側からの情報提供が不足していることも問題だが、社外取締役にも積極的に情報収集に努め適正な判断と行動につなげていく姿勢が期待される。
原則4-10
上場会社は、会社法が定める会社の機関設計のうち会社の特性に応じて最も適切な形態を採用するに当たり、必要に応じて任意の仕組みを活用することにより、統治機能の更なる充実を図るべきである。

5.役員指名ガバナンス
指名機能については、全般的に取締役相談役の影響が強いこと、経営諮問委員会は形骸化していることが指摘された。CGコードが求める「公正かつ透明性の高い手続」「指名委員会による適切な関与・助言」が確立できているとは到底言えない状況となっている。

調査報告書(抜粋) CGコード(抄)
● 代表取締役会長および代表取締役社長が交代する際の人事は全て日枝氏が決定しており、交代の理由も告げられない。
● 社外取締役については、日枝氏が誰に依頼するかを決定している。
● 「本社✕✕階の個室で日枝氏が決めている」という指名プロセスのブラックボックス化を招いている。
補充原則4-3①
取締役会は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである。
● コーポレートガバナンス報告書によると、社内取締役については、適任者を、経営諮問委員会の助言・提言を得たうえで取締役候補者として指名することを方針としている。
● 経営諮問委員会が具体的な候補者の人選について助言を求められることはない。
● 株主総会直前に開催される経営諮問委員会で総会に付議される候補者の説明を受け、特に議論することなく承認している。
補充原則4-10①
経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置することにより、適切な関与・助言を得るべきである。

【後編】に続く

2025/05/16 【特集】フジテレビのガバナンス上の問題点とCGコードの対応関係【前編】(会員限定・2)

1.人権への取組みに対する取締役会の体制構築・運用モニタリング状況

ここでは、同社経営における重要なサステナビリティ課題である人権問題について、①人権方針策定に取締役会が実質的に関与していなかったこと、②問題とすべき具体的な事象について取締役会が報告を受けていなかったことが指摘された。特に後者については受動的に報告を待つのではなく、取締役が自ら主体的に情報を収集するべきだったと言える。

調査報告書(抜粋:当フォーラムが文言調整。以下同) CGコード(抄)
● 取締役会において重要な人権課題の特定や人権方針の経営体制への組み込み方などについて議論がないまま、人権方針が承認された。
● 人権に関する活動の報告は取締役会で行われておらず、また取締役会からの指示もない。
● 人権方針を制定したといっても、その実行は執行部任せになっていた。
補充原則4-2②
取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。
● 取締役会は、社員の年齢・性別・容姿などに着目して同席を求めた会合・会食が開催されている状況を認識していない。
● テラスハウス問題がBPOで取り上げられた後、取締役会には検証報告書が報告されることすらなかった。
● 旧ジャニーズ事務所問題については、検証報告書は作成されず、取締役会で議論も報告もされなかった。
● 週刊文春の報道から1か月の間、取締役会は全く動いていないという異常な状態である。
原則4-13
社外取締役を含む取締役は、透明・公正かつ迅速・果断な会社の意思決定に資するとの観点から、必要と考える場合には、会社に対して追加の情報提供を求めるべきである。


BPO : 放送倫理・番組向上機構(Broadcasting Ethics & Program Improvement Organization)の略称。BPOはテレビやラジオの番組内容が倫理的に適切かどうかを審査する機関であり、視聴者からの苦情や問題のある番組を審査の対象としている。

2.内部統制機能・運用のモニタリング状況
コンプライアンス推進室による職場環境調査アンケートやリスクチェックなどの結果について、取締役会が報告を受けていなかった。また、報告を求めなかった取締役会の危機意識の欠如も指摘された。CGコードでは行動準則のレビュー、内部統制およびリスク管理体制の整備を求めており、このような状況はCGコードの要請に応えているとは言い難い。


行動準則 : 企業が健全な経営を維持し、ステークホルダーの信頼を確保するために定める行動指針のこと。企業の透明性、公正性、説明責任を強化し、経営陣や従業員が適切な意思決定を行うための基準となる。

調査報告書(抜粋) CGコード(抄)
● 職場環境調査アンケートには、あらゆる部署でハラスメントが相当数発生している状況が記載されていた。
● リスクチェックシートの評価結果が取締役会に報告されることはなく、また、取締役会がリスク評価の報告を求めたこともなかった。
補充原則4-2②
取締役会は、行動準則が広く実践されているか否かについて、適宜または定期的にレビューを行うべきである。
● 社内・社外の取締役および経営幹部全員が人権に関するリスクが顕在化していることを知るべき立場にあった。
● 報告がなかったということで取締役会の不作為を正当化することは許容されない。
● 取締役会は、ハラスメント・リスクに対する内部統制構築・運用の不備を放置してきた。
原則4-3
取締役会は、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきである。

3.本事案に関する取締役会の対応状況(会員限定)

2025/05/16 【特集】フジテレビのガバナンス上の問題点とCGコードの対応関係【前編】

はじめに

フジ・メディア・ホールディングスは2025年4月30日、「フジテレビの再生・改革に向けた8つの具体的強化策及び進捗状況」と題する経営改革案を公表している。この経営改革案では、3月31日に受領した第三者委員会調査報告書を踏まえ、同社グループとフジテレビの改革を実行する具体策がそれぞれ8項目ずつ、詳細に説明されている。例えばグループにおけるガバナンス改革として、①指名・報酬委員会の設置、②役員定年制・在任期間制限規定の導入、③サクセッションプランの策定、④リスクポリシー委員会の設置を打ち出している。

これらの施策が適切なものなのか、また実効性が期待できるものなのかを判断するためには、そもそもフジテレビのガバナンスにどのような問題があったのかを正確に把握する必要がある。そこで当フォーラムでは、第三者委員会調査報告書「第7章 内部統制・コーポレートガバナンスの状況」のうち「第4 コーポレートガバナンスの状況」(229~244ページ)における指摘事項を抽出し、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の要請と照らし合わせてみた。自社において本稿で挙げる各CGコードへの対応不足が起きていないか、確認しておきたい。

以下の10項目について順に見ていこう。

1.人権への取組みに対する取締役会の体制構築・運用 モニタリング状況
2.内部統制機能・運用のモニタリング状況
3.本事案に関する取締役会の対応状況
4.経営刷新小委員会の活動状況
5.役員指名ガバナンス
6.役員報酬ガバナンス
7.監査役会・監査等委員会の活動状況
8.FMHによるCXの管理の状況
9.フジサンケイグループについて
10.経営諮問委員会の活動状況

1.人権への取組みに対する取締役会の体制構築・運用モニタリング状況(会員限定)

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2025/05/15 不正会計事案における「金額の重要性」のボーダーライン

上場企業で不正会計があった場合、企業が役員に対し損害賠償を求めることは珍しくない。本質的には不正会計の責任は金額の多寡の問題ではないとはいえ、裁判となった場合、役員の損害賠償責任が認められるかどうかの判断上、金額の重要性も争点となる。そのボーダーラインを示したのが、・・・

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2025/05/15 不正会計事案における「金額の重要性」のボーダーライン(会員限定)

上場企業で不正会計があった場合、企業が役員に対し損害賠償を求めることは珍しくない。本質的には不正会計の責任は金額の多寡の問題ではないとはいえ、裁判となった場合、役員の損害賠償責任が認められるかどうかの判断上、金額の重要性も争点となる。そのボーダーラインを示したのが、東芝が不適切会計事件を巡り元役員らに対して損害賠償を求めていた訴訟の控訴審だ。

東京高裁は令和7年3月19日、元役員ら3名に連帯して1億円から2億円の損害賠償を命じた一審判決を取り消したうえで、東芝の訴えを斥ける判決を下している。東京高裁は「引当金の計上不足」を認定したものの、当該引当金の会計処理が投資者の判断に与える影響という観点から、「東芝の企業規模に照らせば、有価証券報告書等に重要な事項について虚偽の記載をしたものということはできない」として、(米国)会計基準に違反する違法なものであったということはできないとの判断を示した。

本件の争点は、①東芝の米国連結子会社が受注した地下鉄車両に使用する電機品等の納入や設計に関する請負契約(以下、米国地下鉄案件)、②東芝が受注した高速道路上のETC設備の更新工事に関する請負契約(以下、ETC案件)、③東芝の米国連結子会社が受注した原子力新規プラントの建設に関する請負契約(以下、原子力プラント案件)の3つの案件(以下、3つの案件をまとめて「インフラ案件」)に係る引当金の一部未計上(過少計上)が「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」(会社法431条)に違反する違法なものであったか否かという点と、違法であった場合における元役員らの賠償責任の有無にある。

一審の東京地裁は、インフラ案件について、その時点において会社の置かれた状況の下で合理的に算定されたものと認められる見積値による引当金を計上しなかった東芝の会計処理は米国会計基準に違反する違法なものであったと判断。被告となった元役員ら5名のうち3名は違法な会計処理が行われることを少なくとも認識し得たのであるから、その会計処理を中止または是正させる義務を怠ったものであり、取締役としての善管注意義務に違反したとして、元役員ら3名に連帯して1億円~2億円の損害賠償を命じていた(令和5年3月28日判決 東京地裁の判決文はこちら)。

これに対し東京高裁は、「東芝の企業規模」に照らせば、有価証券報告書等の重要事項について虚偽記載をしたとは言えないとの判断を下している。具体的には、まず米国地下鉄案件について、平成23年度第4四半期末から平成25年度第4四半期末までは引当金を計上(追加計上)した会計処理が米国会計基準に違反する違法なものであったということはできないとした。東京高裁は、平成26年度第1四半期末は約6,430米ドルの損失の発生が見込まれることを前提とした引当金を計上すべきであったところ、計上された引当金額は損失見積額を約38億8,900万円(1米ドル100円で換算すると約3,889万米ドル)とすることを前提としたものであったから、計上された引当金額は本来計上すべきであった額に不足している可能性があると指摘したものの、下記の「東芝の企業規模」に照らせば、これらの引当金に係る会計処理が投資者の判断に影響を与えるという観点から「有価証券報告書等に重要な事項につき虚偽の記載をしたものということはできない」として、米国会計基準に違反する違法なものでとは言えないとの判断を示した。

東芝の概要(判決文中の「前提事実」から抜粋)
原告東芝は、本件対象期間中、大規模かつ多角的な事業を営み、多数の子会社等を抱える企業グループを形成し、年間約6兆円前後の連結決算上の売上高を維持し、20万人前後の従業員を有する巨大企業であった。
【以下、高裁判決で地裁判決を訂正(補正・追加)した部分】
本件対象期間における東芝の連結決算(ただし過年度決算等の修正後のもの)は、次のとおりである。
① 平成20年度 営業損益 損失約3,092億円 税引前損益 損失約3,361億円
② 平成21年度 営業損益 利益約718億円  税引前損益 損失約143億円
③ 平成22年度 営業損益 利益約2,445億円 税引前損益 利益約2,018億円
④ 平成23年度 営業損益 利益約1,149億円 税引前損益 利益約614億円
⑤ 平成24年度 営業損益 利益約921億円  税引前損益 利益約749億円
⑥ 平成25年度 営業損益 利益約2,571億円 税引前損益 利益約1,823億円
⑦ 平成26年度(第1四半期~第3四半期累計)
営業損益 利益約2,018億円 税引前損益 利益約1,882億円

また、東京高裁はETC案件についても、平成25年度第1四半期末には少なくとも約36億円、同年度第2四半期末には少なくとも約45億円、同年度第3四半期末には少なくとも約87億円の損失が発生することを前提とした引当金を計上すべきであったと指摘したものの、米国地下鉄案件と同様、東芝の企業規模に照らせば有価証券報告書等に重要な事項について虚偽の記載をした違法なものとまでは言えないとの判断を示した。

さらに原子力プラント案件についても、平成25年度第2四半期末において工事原価総額の増加見積額を6,900万米ドル(平成25年度第3四半期においては2億9,300万米ドル)とした東芝見積値は、米国会計基準にいう「見積もった金額の中で最も可能性の高い金額」にも「見積もった金額の範囲内で最も低い利益額」にも当たらないとし、平成25年度第2四半期決算において工事原価総額の増加見積額を6,900万米ドル(平成25年度第3四半期においては2億9,300万米ドル)とすることを前提とした会計処理が米国会計基準に違反するものであったとは認められないとの判断を示した。

このように、引当金の計上不足を認定しつつも「違法ではない」とした東京高裁の判断は注目すべきものであり、今後の不正会計事案にも影響を与える可能性がある。ただし、高裁で逆転敗訴した東芝は上告している。地裁と高裁で判断が分かれた本件に最高裁がどのような判断を示すのか、注目される。

2025/05/14 ダイバーシティ経営実現のためのステップとアクション

保護主義の台頭とトランプ関税を契機とする関税戦争、AIや量子コンピュータなど予測不能な技術革新、人口減少に伴う人材獲得競争の激化など、上場会社を取り巻く環境はかつてないほど複雑になっている。そのような中で注目を集めているのが、「ダイバーシティ経営」だ。

フジテレビの騒動を例に出すまでもなく、同質的な人材ばかりの組織では変化への対応力に限界がある。また、衰退産業にありがちな成功体験への固執と思考の偏りが外部環境の変化への感度を鈍らせ、イノベーションを阻む。逆に、衰退産業であっても異なる価値観や経験を持つ人材が集えば、想定外の課題にも柔軟に立ち向かえるようになる。そのためには、多様性を「社会的な要請」と捉えて渋々対応するのではなく、「競争力」と捉えて積極的に経営に取り込むという発想の転換が必要になる。

現在、ほとんどの上場会社が、多様な人材の活躍を推進するための制度の構築に取り組んではいるものの、実際のところそれらの取り組みを企業価値向上に結び付けることができている事例はごくわずかといっても過言ではない。外部の女性士業を社外取締役に招聘し、手っ取り早く女性役員比率をアップさせることで「多様性」をアピールしている上場会社も多い(2025年1月17日のニュース「女性管理職比率の開示義務化が既定路線に 適用対象拡大により子会社での開示が必要になるケースも増加へ」参照)。このような上場会社からは「多様性の事業上の必要性が分からない」「競争力強化へのパスが不明瞭」といった声がよく聞かれるが、ダイバーシティ経営の難しさに頭を悩ませている取締役会、社長・CEOら経営陣およびダイバーシティ経営の推進担当者は、・・・

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