社外取締役を複数選任する上場会社が増え、社外取締役の存在感が高まる中、社外取締役には社内外から様々な期待が寄せられている。そういった「期待」の中には、そもそも社外取締役ができない(やってはいけない)ものが含まれている可能性もある。
会社法2条15号イは、社外取締役の要件の一つとして、「当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でないこと」を規定している。つまり、社外取締役が「業務の執行」をすれば社外取締役の要件を満たさないこととなってしまう。これは、社外取締役には「会社と業務執行取締役との間の利益相反を監督」したり、「業務執行者の業務執行自体を監督」したりすることが期待されており、そもそも業務執行者とは立ち位置が異なる(監督する者とされる者)からだ。そこで、社内で社外取締役に何かを依頼する際には、それが「業務の執行」にあたるのかどうかを検討する必要がある。
従来、会社法上の「業務の執行」の意義は、「会社事業に関する諸般の事務を処理すること」と“広く”解釈するのが一般的だった。そのような解釈に基づけば、例えば社外取締役が営業部門に新規営業先を紹介することは「業務の執行」に該当すると判断する余地があるようにも見える。しかし最近は、「業務の執行」の意義をより限定的に解釈する動きも出てきた。例えば、経済産業省に設置されているコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」が公表した「法的論点に関する解釈指針」では、社外取締役の活用を積極的に推進する観点から、業務執行者の指揮命令系統に属して行われる行為が「業務を執行した」にあたるとの解釈のもと、以下の各行為は原則として「業務執行」にはあたらないとしている。
例えば、以下の行為は、通常は業務執行者の指揮命令系統に属しては行われない行為であり、原則として「業務を執行した」にはあたらない。
① 業務執行者から独立した内部通報の窓口となること。
② 業務執行者から独立した立場で調査を行うために、企業不祥事の内部調査委員会の委員として調査に関わること。
③ 内部統制システムを通じて行われる調査等に対して、業務執行者から独立した立場に基づき、指示や指摘をすること。
④ MBOにおける以下のような行為
・対象会社の取締役会の意見表明(賛同の是非、応募推奨の是非、アドバイザーの選任等)について検討を行うこと。
・MBOや買付者に関する情報収集を行うこと。
・買付者との間で交渉を行うこと。
⑤ 第三者割当による株式の発行、支配株主との重要な取引等を行う場合等、上場規則に基づき必要となる場合において、業務執行者から独立した立場から意見を述べること。
⑥ 任意に設置されたコンプライアンス委員会に出席し、自らの経験を基に役職員に対するレクチャーを行う等、社内におけるコンプライアンス向上の活動に関与すること。
⑦ 経営会議その他、経営方針に関する協議を行う取締役会以外の会議体に社外取締役が出席し、意見すること。
⑧ 社外取締役が、その人脈を生かして、自らM&Aその他の商取引の相手方を発見し、紹介すること。
⑨ 株主や投資家との対話や面談を行うこと。 |
この解釈指針に従えば、社外取締役が自身の人脈を使って営業部門に新規営業先を紹介することは、業務の執行に該当しないと言えそうだ(上記の⑧参照)。ただし、紹介にノルマが課されていたり、社外取締役が単なる紹介に留まらず条件交渉まで代行したりすれば、業務執行者(営業担当取締役など)の指揮命令系統に属していると言え、「業務の執行」に該当することになる。
もっとも、解釈指針でも「原則として」と断っているように、「業務の執行」に該当するかどうかの境界線はかなり曖昧である。こうした中、法務省に設置されている法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会は、下記のとおり「業務の執行」の範囲を明確にする会社法改正を検討している(詳細はこちらを参照)。
(1) 株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合(*)において、社外取締役が株式会社の業務に関する行為(業務執行取締役の指揮命令の下に執行する業務に関する行為を除く。以下「特定受託行為」)をすることが相当と認めるときは、株式会社は、その都度、取締役会の決議によって、社外取締役に対して、当該特定受託行為をすることを委託することができるものとする。
(2) (1)の場合において社外取締役が特定受託行為をしたことは、会社法2条15号イの「当該株式会社の業務を執行した」に当たらないものとする。 |
* 「株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合」とは、上記解釈指針の①「内部通報窓口となること」(取締役の不正が通報される可能性がある)や④「MBO時における買付者との間の交渉」(買付者側としては「なるべく安く買いたい」が会社(株主)としては「なるべく高く売りたい」という利益相反が生じる)を念頭に置いたもの。
ここで言っていることを要約すれば、「会社と取締役の利益が相反している状況」にあれば、社外取締役は、取締役会の決議を経ることを条件に「業務執行」を行ってもよいということになる(ただし、「業務執行取締役の指揮命令の下に執行する業務に関する行為」を行うことはNG。この点は解釈指針と変わらず)。
これが法律化されたとしても、解釈指針では原則として「業務の執行」にはあたらないとされている「人脈を生かした商取引の相手方の紹介」が、法文上明確に「業務の執行」から外れることにはならない。本会社法改正案によって「業務の執行」にあたらないとされるには、あくまで「株式会社と取締役との利益が相反する状況にある」ことが前提となるが、「人脈を生かした商取引の相手方の紹介」の場面は、通常はそのような状況にはないからだ。もっとも、「人脈を生かした商取引の相手方の紹介」が本会社法改正案によって「業務の執行」に該当しないとされなかったとしても、そもそも本会社法改正案とは関係ないところで、解釈上「業務の執行」にあたらないとされる可能性はある。つまり、本会社法改正案が実現しても、「人脈を生かした商取引の相手方の紹介」が「業務の執行」に該当するかどうかは、これまでどおり会社法の解釈に委ねられることになる。
そのため、会社法にこのような規定を設けることに対して、「本来社外取締役に期待される役割・機能まで業務執行に該当してしまう懸念が生じ、かえって社外取締役の活動機会を制約する結果となる可能性もある」といった声も上がっている(経済産業省産業組織課の意見)。社外取締役の活動機会に影響するだけに、法制審議会の議論の行方が注目される。