2017/09/25 「政策保有株式」を巡る次の課題

政策保有株式に対する機関投資家の強い批判を受け、コーポレートガバナンス・コードには、「政策保有に関する方針の開示」など政策保有株式に関する規律が設けられている(原則1-4)。この原則1-4をコンプライしている東証上場会社は2017年7月現在で96.85%に上っているが(東証が9月5日に公表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況 (2017年7月14日時点)」の3ページ参照)、これはあくまで「政策保有する側」の話に過ぎない。一方、「政策保有される側」に関する規律は現行のコーポレートガバナンス・コードには存在しない。

【原則1-4.いわゆる政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

「政策保有する側」から見た政策保有株式の問題点は、「株主資本が有効に活用されていない」ということに尽きる。実際、資産に占める政策保有株式が多い会社に対し、多くの機関投資家は、議決権行使や財務評価を厳しめにするといった対応をとってきた。

これを「政策保有される側」から眺めると、株主構成上「安定株主」が存在する会社の経営者が「株主の相当割合を占める安定株主が経営方針等に賛同してくれるだろう」と考えることで経営者にモラルハザードが生じ、ガバナンスの効いた経営ができなくなるのではないかという別の懸念が見えてくる。コーポレートガバナンスの観点からはむしろこちらの懸念の方が深刻とも言えるだけに、今後見込まれるコーポレートガバナンス・コードの見直しでは、政策保有される側に対する規律が論点になる可能性があろう。

新たな規律の導入にあたっては、・・・

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2017/09/25 「政策保有株式」を巡る次の課題(会員限定)

政策保有株式に対する機関投資家の強い批判を受け、コーポレートガバナンス・コードには、「政策保有に関する方針の開示」など政策保有株式に関する規律が設けられている(原則1-4)。この原則1-4をコンプライしている東証上場会社は2017年7月現在で96.85%に上っているが(東証が9月5日に公表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況 (2017年7月14日時点)」の3ページ参照)、これはあくまで「政策保有する側」の話に過ぎない。一方、「政策保有される側」に関する規律は現行のコーポレートガバナンス・コードには存在しない。

【原則1-4.いわゆる政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

「政策保有する側」から見た政策保有株式の問題点は、「株主資本が有効に活用されていない」ということに尽きる。実際、資産に占める政策保有株式が多い会社に対し、多くの機関投資家は、議決権行使や財務評価を厳しめにするといった対応をとってきた。

これを「政策保有される側」から眺めると、株主構成上「安定株主」が存在する会社の経営者が「株主の相当割合を占める安定株主が経営方針等に賛同してくれるだろう」と考えることで経営者にモラルハザードが生じ、ガバナンスの効いた経営ができなくなるのではないかという別の懸念が見えてくる。コーポレートガバナンスの観点からはむしろこちらの懸念の方が深刻とも言えるだけに、今後見込まれるコーポレートガバナンス・コードの見直しでは、政策保有される側に対する規律が論点になる可能性があろう。

新たな規律の導入にあたっては、改めて政策保有株式の是非が議論されることになりそうだ。教科書的に言えば、上場会社の株式は流通させるべきということになるが、現実にはそうなっていないことが示すように、すべて流動株(市場に出回っている株式)という状態は会社の安定的な経営という観点からはリスクが高いと言える。例えば敵対的買収の提案を受けた場合、長期的な視点で会社の経営を理解したうえで、買収金額のみならず、買収者の資質まで見極めて、現経営陣と敵対的買収者のどちらを選択すべきかを判断できる能力を備えた機関投資家がどれくらいいるのか、不安を持つ経営者も少なくないだろう。経営者の立場に立てば、ある程度は安定的な株主に支えてもらいたいと考えるのは当然と言える。こうした状況は日本に特異なものと思われがちだが、ドイツやフランスにも政策保有株式の問題はあり、現在でもそのすべてが解決しているわけではない。

2017年8月4日にはトヨタとマツダが資本事業提携することで合意したが(本件に関するリリースはこちら)、これについても、株式持合の部分にフォーカスし批判的な意見を述べる投資家がいる一方で、全体を見れば両社の価値向上につながる提携であると評価する声もある。現在の株式持合がすべて解消されると東証上場会社の株価が平均10%下がるとの予測もある中、新たな規律の議論に先立ち、まずは上場会社全体でどれほどの株式が「政策保有されている」のか実態を把握する必要がありそうだが、最終的には会社と投資家が対話で解決すべき問題とも言えそうだ。

2017/09/22 自社株対価TOBが各段に実施しやすく

自社(または親会社)の株式を対価とする株式公開買付(TOB)である自社株対価TOBが各段に実施しやすくなる可能性が高まっている。

株式公開買付(TOB) : 特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めること。TOBとは「Take-Over Bid」の略。

買収資金が不要(被買収会社の株主に対し、キャッシュを支払う代わりに自社株(買収会社の株式)を付与)というメリットを持つ自社株対価TOBだが、現状、自社株対価TOBには二つの高いハードルがある。一つが・・・

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2017/09/22 自社株対価TOBが各段に実施しやすく(会員限定)

自社(または親会社)の株式を対価とする株式公開買付(TOB)である自社株対価TOBが各段に実施しやすくなる可能性が高まっている。

株式公開買付(TOB) : 特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めること。TOBとは「Take-Over Bid」の略。

買収資金が不要(被買収会社の株主に対し、キャッシュを支払う代わりに自社株(買収会社の株式)を付与)というメリットを持つ自社株対価TOBだが、現状、自社株対価TOBには二つの高いハードルがある。一つが会社法の規制、もう一つが税金の問題だ(詳細は自社株対価TOB参照)。

このうち会社法上の規制(有利発行規制現物出資規制など)は、産業競争力強化法に基づき国の認定を受けた場合には緩和されるという特例が設けられているが、2014年1月20日に産業競争力強化法が施行されて以来、当該認定を受けて会社法の規制緩和を受けた企業は一件もない。そこで政府は会社法を改正し、産業競争力強化法による規制の緩和措置を、会社法そのものに組み込むことを検討している(2017年9月6日開催の法務省 会社法制(企業統治等関係)部会の資料「その他の規律の見直しに関する論点の検討」の「第3 他の会社の株式等の取得と引換えにする株式の交付」参照)。この改正が実現すれば、産業競争力強化法に基づく国の認定がなくても、(“特例”ではなく、会社法固有のルールとして)有利発行規制や現物出資規制などの規制が適用されなくなる。

有利発行規制 : 有利発行とは、例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行すること。有利発行が行われると、既存株主の持分は希薄化するため、会社法では株主総会の特別決議(2/3以上の賛成)を求めている(会社法199条2項、3項、200条2項、201条1項、309条2項5号)。
現物出資規制 : 株式交付の対価として現物出資される財産が適正に評価されるよう、裁判所が選任した検査役により現物出資財産の価値の調査を求めるもの(会社法207条)。仮に現物出資財産の値付けが適正に行われていなければ、現物出資した者あるいは現物出資を受け株式を交付した会社の株主が損害を被ることになる。
産業競争力強化法 : 日本経済の3つの歪みとされる「過剰規制」「過小投資」「過当競争」を是正するため、収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編などの企業の取り組みを後押しする法律。一例として、企業が生産性の向上を目指す事業活動の計画を立て、その計画について国の認定を受ければ、税制優遇や会社法の規制の緩和などの恩恵がある。

残るボトルネックは税金の問題だが、自社株対価TOBで触れたように(最後の二つの段落参照)、政府は被買収会社の株主に生じる譲渡益への課税を繰り延べる(自社株対価TOBが行われた時点では課税せず、将来、買収会社株式(自社株TOBを通じ、被買収会社の株主が、被買収会社株式と引き換えに取得したもの)を売却した際まで先送りする)措置を導入することを検討している(平成30年度税制改正に関する経済産業省要望【概要】7ページ参照)。

自社株対価TOBの活用促進につながる上記会社法の改正と税制改正は水面下では連動しているものと思われ、政府がこのような動きを見せていること自体、改正が実現する可能性の高さを示唆している。M&Aを検討する上場会社の経営陣は、法律改正の動向を睨みつつ、M&Aの手段の一つとして、自社株対価TOBの利用を少なくとも検討の俎上には載せておきたいところだ。

2017/09/21 社外取締役による取引先の紹介の是非

社外取締役を複数選任する上場会社が増え、社外取締役の存在感が高まる中、社外取締役には社内外から様々な期待が寄せられている。そういった「期待」の中には、そもそも社外取締役ができない(やってはいけない)ものが含まれている可能性もある。・・・

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2017/09/21 社外取締役による取引先の紹介の是非(会員限定)

社外取締役を複数選任する上場会社が増え、社外取締役の存在感が高まる中、社外取締役には社内外から様々な期待が寄せられている。そういった「期待」の中には、そもそも社外取締役ができない(やってはいけない)ものが含まれている可能性もある。

会社法2条15号イは、社外取締役の要件の一つとして、「当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でないこと」を規定している。つまり、社外取締役が「業務の執行」をすれば社外取締役の要件を満たさないこととなってしまう。これは、社外取締役には「会社と業務執行取締役との間の利益相反を監督」したり、「業務執行者の業務執行自体を監督」したりすることが期待されており、そもそも業務執行者とは立ち位置が異なる(監督する者とされる者)からだ。そこで、社内で社外取締役に何かを依頼する際には、それが「業務の執行」にあたるのかどうかを検討する必要がある。

従来、会社法上の「業務の執行」の意義は、「会社事業に関する諸般の事務を処理すること」と“広く”解釈するのが一般的だった。そのような解釈に基づけば、例えば社外取締役が営業部門に新規営業先を紹介することは「業務の執行」に該当すると判断する余地があるようにも見える。しかし最近は、「業務の執行」の意義をより限定的に解釈する動きも出てきた。例えば、経済産業省に設置されているコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」が公表した「法的論点に関する解釈指針」では、社外取締役の活用を積極的に推進する観点から、業務執行者の指揮命令系統に属して行われる行為が「業務を執行した」にあたるとの解釈のもと、以下の各行為は原則として「業務執行」にはあたらないとしている。

例えば、以下の行為は、通常は業務執行者の指揮命令系統に属しては行われない行為であり、原則として「業務を執行した」にはあたらない。
① 業務執行者から独立した内部通報の窓口となること。
② 業務執行者から独立した立場で調査を行うために、企業不祥事の内部調査委員会の委員として調査に関わること。
③ 内部統制システムを通じて行われる調査等に対して、業務執行者から独立した立場に基づき、指示や指摘をすること。
④ MBOにおける以下のような行為
・対象会社の取締役会の意見表明(賛同の是非、応募推奨の是非、アドバイザーの選任等)について検討を行うこと。
・MBOや買付者に関する情報収集を行うこと。
・買付者との間で交渉を行うこと。
⑤ 第三者割当による株式の発行、支配株主との重要な取引等を行う場合等、上場規則に基づき必要となる場合において、業務執行者から独立した立場から意見を述べること。
⑥ 任意に設置されたコンプライアンス委員会に出席し、自らの経験を基に役職員に対するレクチャーを行う等、社内におけるコンプライアンス向上の活動に関与すること。
⑦ 経営会議その他、経営方針に関する協議を行う取締役会以外の会議体に社外取締役が出席し、意見すること。
⑧ 社外取締役が、その人脈を生かして、自らM&Aその他の商取引の相手方を発見し、紹介すること。
⑨ 株主や投資家との対話や面談を行うこと。

この解釈指針に従えば、社外取締役が自身の人脈を使って営業部門に新規営業先を紹介することは、業務の執行に該当しないと言えそうだ(上記の⑧参照)。ただし、紹介にノルマが課されていたり、社外取締役が単なる紹介に留まらず条件交渉まで代行したりすれば、業務執行者(営業担当取締役など)の指揮命令系統に属していると言え、「業務の執行」に該当することになる。

もっとも、解釈指針でも「原則として」と断っているように、「業務の執行」に該当するかどうかの境界線はかなり曖昧である。こうした中、法務省に設置されている法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会は、下記のとおり「業務の執行」の範囲を明確にする会社法改正を検討している(詳細はこちらを参照)。

(1) 株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合)において、社外取締役が株式会社の業務に関する行為(業務執行取締役の指揮命令の下に執行する業務に関する行為を除く。以下「特定受託行為」)をすることが相当と認めるときは、株式会社は、その都度、取締役会の決議によって、社外取締役に対して、当該特定受託行為をすることを委託することができるものとする。
(2)  (1)の場合において社外取締役が特定受託行為をしたことは、会社法2条15号イの「当該株式会社の業務を執行した」に当たらないものとする。
 「株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合」とは、上記解釈指針の①「内部通報窓口となること」(取締役の不正が通報される可能性がある)や④「MBO時における買付者との間の交渉」(買付者側としては「なるべく安く買いたい」が会社(株主)としては「なるべく高く売りたい」という利益相反が生じる)を念頭に置いたもの。

ここで言っていることを要約すれば、「会社と取締役の利益が相反している状況」にあれば、社外取締役は、取締役会の決議を経ることを条件に「業務執行」を行ってもよいということになる(ただし、「業務執行取締役の指揮命令の下に執行する業務に関する行為」を行うことはNG。この点は解釈指針と変わらず)。

これが法律化されたとしても、解釈指針では原則として「業務の執行」にはあたらないとされている「人脈を生かした商取引の相手方の紹介」が、法文上明確に「業務の執行」から外れることにはならない。本会社法改正案によって「業務の執行」にあたらないとされるには、あくまで「株式会社と取締役との利益が相反する状況にある」ことが前提となるが、「人脈を生かした商取引の相手方の紹介」の場面は、通常はそのような状況にはないからだ。もっとも、「人脈を生かした商取引の相手方の紹介」が本会社法改正案によって「業務の執行」に該当しないとされなかったとしても、そもそも本会社法改正案とは関係ないところで、解釈上「業務の執行」にあたらないとされる可能性はある。つまり、本会社法改正案が実現しても、「人脈を生かした商取引の相手方の紹介」が「業務の執行」に該当するかどうかは、これまでどおり会社法の解釈に委ねられることになる。

そのため、会社法にこのような規定を設けることに対して、「本来社外取締役に期待される役割・機能まで業務執行に該当してしまう懸念が生じ、かえって社外取締役の活動機会を制約する結果となる可能性もある」といった声も上がっている(経済産業省産業組織課の意見)。社外取締役の活動機会に影響するだけに、法制審議会の議論の行方が注目される。

2017/09/20 (新用語・難解用語)KAM

監査人(監査法人)が、当期の会計監査において、特に重要と判断した事項のこと。KAMとは「Key Audit Matters」の略で、読み方は・・・

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2017/09/20 (新用語・難解用語)KAM(会員限定)

監査人(監査法人)が、当期の会計監査において、特に重要と判断した事項のこと。KAMとは「Key Audit Matters」の略で、読み方は「カム」。KAMは「監査人が職業的専門家として代表取締役社長とコミュニケーションをとった事項」の中から選ばれる(逆に言うと、監査人が代表取締役社長とコミュニケーションをとっていなかった事項がいきなりKAMに選ばれることはない)。KAMは基本的に国際監査基準の用語だが、米国ではKAMに相当する用語として「CAM(Critical Audit matter」が使われている(こちらは「キャム」と読む)。

最近、日本でもKAMが取り沙汰されているが、これは欧米の影響によるところが大きい。日本の現行の監査報告書は、財務諸表が適正と認められるか否かについての監査人の意見が表明されるだけのシンプルなものとなっている。これに対し、例えば英国では、財務諸表の適正性についての監査人の意見に加え、会計監査の透明性を高めるために、会計監査人が着目した虚偽表示リスクなど、会計監査上の主要な事項(KAM)を監査報告書に記載する制度が導入されており、EUでも今年(2017年)から同様の制度が導入される予定となっている。また、米国でもKAMに相当する「CAM」を監査報告書に記載する制度が2019年6月30日以降終了する事業年度の監査から段階的にスタートする。KAMの導入により監査報告書の記載内容が増えることから、KAMを記載した監査報告書は長文式監査報告書と言われることもある(【特集】長文式監査報告書が企業に与える影響 参照)。こうしたなか日本でも、金融庁の企業会計審議会が、株主等に対する情報提供を充実させるための「監査報告書の透明化」について検討することを(2017年)9月8日の総会で明らかにしており、今後、監査報告書へのKAMの記載が検討されることになる。

監査人がKAMを決定する際には、重要な虚偽表示のリスクが高いため特別な検討が必要とされる項目や、事象または取引の重要度などを考慮することになる。KAMとして選定されやすいのは、収益の実在性や期間帰属の適切性、固定資産の減損の要否、繰延税金資産の回収可能性などが考えられる。こういった事項がKAMとして監査報告書に記載されることで、監査人の緊張感も高まり()、監査の厳格化が進むかもしれない。実際、ある中小の監査法人の代表社員は、監査報告書にKAMの記載が求められるようになることを、「大手監査法人とは一味違うところをアピールし、差別化を図る絶好のチャンス」と歓迎している。KAMの記載により監査法人の特色が浮かび上がれば、監査法人のローテーション義務化が実現する際には、次の監査人候補のふるい分けに用いる有力な情報になりえるからだ(監査法人のローテーション義務化については2016年6月14日のニュース『「同一の監査人による監査期間」の開示が制度化された場合の企業への影響』を参照)。

 監査人が適正意見を表明した後に、KAMに掲げていない項目を原因とした粉飾決算が発覚した場合、監査人は投資家などから「なぜその項目をKAMに掲げなかったのか」との切り口から責任追及を受ける可能性がある。これに対し、適正意見表明後に、KAMに掲げている項目に起因する粉飾決算が発覚した場合、今度は「KAMに掲げておきながら粉飾決算を見つけられなかったのはなぜか」と、いずれにせよ責任追及を受ける可能性がある。

KAMの開示は、これを監査の厳格化ととらえれば、企業にとって負担増につながりかねない。一方、投資家にとっては、KAMの開示により「監査人が何を重点的に監査したのか」が分かり、とかくブラックボックスと称される監査意見の形成過程をうかがい知ることができるというメリットがある。また、KAMの記載は国際的な流れであり、日本だけ採用しないことになると、日本の上場企業が公表する財務諸表への信頼性が揺らぎ、その結果海外の機関投資家が資金を引き揚げ、株価が下落するという事態にもなりかねない。監査報告書へのKAMの記載はもはや既定路線と考えておくべきだろう。むしろ企業としては、KAMの開示を自社の“弱点”が明確になるチャンスと前向きに捉え、そこについて集中的にガバナンスや内部統制を構築するきっかけにしたい。また、KAMを媒介に、投資家と企業の対話が進むことも期待されよう。

2017/09/19 英国で運用機関20社がSSコード署名者リストから除名、日本への影響は?

2017年5月22日のニュース「英国では運用機関を“格付け” 日本企業に迫るシビアな議決権行使」でもお伝えしたとおり、英国FRC(Financial Reporting Council=財務報告評議会)は昨年(2016年)秋、機関投資家のスチュワードシップ報告書のランク付けを公表したが、この結果を踏まえ、ついにスチュワードシップ・コードの署名者リストから除名された機関投資家が出ている。・・・

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2017/09/19 英国で運用機関20社がSSコード署名者リストから除名、日本への影響は?(会員限定)

2017年5月22日のニュース「英国では運用機関を“格付け” 日本企業に迫るシビアな議決権行使」でもお伝えしたとおり、英国FRC(Financial Reporting Council=財務報告評議会)は昨年(2016年)秋、機関投資家のスチュワードシップ報告書のランク付けを公表したが、この結果を踏まえ、ついにスチュワードシップ・コードの署名者リストから除名された機関投資家が出ている。

ランク付けはTier1~Tier3の3つのクラスによる。まずは各クラスの定義を見てみよう。

Tier1 スチュワードシップ責任を果たす取り組みについて良質で透明性の高い記述をしており、エクスプレインした項目についても代替的な方策を適切に説明している。
Tier2 報告書の記載は概ね期待される水準に達しているが、スチュワードシップ責任を果たす取り組みの説明に透明性が不足していたり、コードの規程に反しているにもかかわらずエクスプレインをしていなかったりする。
Tier3 報告書の記載を大幅に改善して、透明性を伴なった取り組みを確保する必要がある。現状を改善しようとするプロセスが報告書に見られないうえ、その記載は一般的なものに過ぎない。そして、コードを遵守していないにもかかわらず、エクスプレインしていなかったり貧弱な説明にとどまっていたりする。

昨年秋に最低のクラスであるTier にランクされた40社に対しては、改善を図るための猶予期間として6か月間が与えられていた。そしてFRCは8月3日、40社のうち20社はTier1もしくはTier2に達するまでに改善が認められたが、その他の20社についてはコード署名者のリストから除名すると発表している。

除名された20社は“スチュワードシップ責任を果たせない運用機関”という烙印を押されたに等しく、今後は大手の年金基金などから株式運用を受託することは難しくなるだろう。もっとも、除名された20社の多くはPEファンド債券ファンドである模様で、そもそも上場会社を対象としたスチュワードシップ活動が自社の運用方針と馴染まなかった可能性もある。

PEファンド : プライベート・エクイティ・ファンド (Private Equity Fund) の略。投資家から集めた資金を未公開株(プライベート・エクイティ)に投資するとともに、投資先企業の経営にも関与し、企業価値を高めた後に売却することを目的とした投資ファンド。ベンチャーキャピタルとの違いは、PEファンドは既にベンチャーキャピタルの投資対象ではない一定の事業規模を有する企業を投資の対象とするという点にある。
債券ファンド : 債券に投資するファンドのこと。投資対象の債券によって、国内債券ファンド、グローバル債券ファンド、先進国債券ファンドなど多くの種類がある。低格付けの債券を投資対象とする債券ファンドはハイリスク・ハイリターンとなる。

では、同様のことは近い将来の日本でも起こり得るだろうか。改訂版スチュワードシップ・コードは指針7-4で「本コードの各原則(指針を含む)の実施状況を定期的に自己評価し、結果を公表すべきである」とし、さらに自己評価の結果を公表することについて「アセットオーナーが運用機関の選定や評価を行うことにも資する」との注釈を付けている。この自己評価に関するくだり(注釈を含む)は改訂版で盛り込まれたものであることからすると(改訂履歴版参照)、いずれ日本でも、アセットオーナーや運用機関の「選定や評価」に資するよう、スチュワードシップ活動の自己評価報告書を格付けしようとする動きが出て来ることは十分に考えられる。

したがって、今後は国内機関投資家が格付けに耐え得る水準の自己評価が実施できるよう、エンゲージメントや議決権行使などのスチュワードシップ活動をより積極的かつ厳格に実施するようになる可能性がある。機関投資家である株主の多い企業、機関投資家からの投資を求める企業は、一層コーポレートガバナンスの充実など対応を迫られることになりそうだ。