2017/09/12 有償新株予約権の会計処理案に対し史上最多253件のコメント

これまで多くの上場企業に採用されてきた有償新株予約権(有償ストックオプション)の会計処理を変更する企業会計基準委員会(ASBJ)の実務対応報告公開草案52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」(以下、「本公開草案」)は2017年5月10日に公表され7月10日までパブリック・コメントに付されていたが、これに対し、異例とも言える253件もの意見が寄せられている。・・・

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2017/09/12 有償新株予約権の会計処理案に対し史上最多253件のコメント(会員限定)

これまで多くの上場企業に採用されてきた有償新株予約権(有償ストックオプション)の会計処理を変更する企業会計基準委員会(ASBJ)の実務対応報告公開草案52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」(以下、「本公開草案」)は2017年5月10日に公表され、7月10日までパブリック・コメントに付されていたが、これに対し、異例とも言える253件もの意見が寄せられている。

2017年5月12日のニュース「有償ストックオプションの会計処理案が公表、長年の議論に区切り」でもお伝えしたとおり、本公開草案のポイントは、これまで有償ストックオプションは「現金を対価として株式を発行する取引」(すなわち労務提供の対価ではない)として費用計上する必要がないとされてきたところ、今後は通常のストックオプション(無償で発行されるストックオプション)と同様、役職員等への(労務提供の対価としての)「報酬」として費用計上を求めることとしたという点だが、これに対し多数の反対意見が寄せられた。

具体的にみてみよう。

本公開草案の公表に際しては以下の5つの質問が用意されており、寄せられた意見はこれらの質問への回答という位置付けになる。

・質問1(ストック・オプション会計基準に含まれることに関する質問)
本公開草案では、対象とする権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引が、ストック・オプション会計基準第2項(4)に定める報酬としての性格を持つと考えられるため(実務対応報告公開草案第17項から第23項を参照)、当該権利確定条件付き有償新株予約権は、企業が従業員等から払い込まれる金銭の対価及び従業員等から受ける労働や業務執行等のサービスの対価として付与するものと整理し、ストック・オプション会計基準第2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものと提案しています。この提案に同意しますか。同意しない場合は、その理由をご記載ください。
・質問2(会計処理に関する質問)
本公開草案では、権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引の会計処理について、上記のように、基本的にストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針に準拠した取扱いを提案しています。この提案に同意しますか。同意しない場合は、その理由をご記載ください。
・質問3(注記に関する質問)
本公開草案では、権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引の開示について、上記のように、ストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針に準拠した取扱いを提案しています。この提案に同意しますか。同意しない場合は、その理由をご記載ください。
・質問4(適用時期及び経過措置に関する質問)
本公開草案の適用時期等に関し、公表日以後適用するとの提案、及び、公表日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引について、上記のように一定の事項を注記した上で、従来採用していた会計処理を継続することができるとの提案に同意しますか。同意しない場合は、その理由をご記載ください。
・質問5(その他)
その他、本公開草案に関して、ご意見があればご記載ください。

本公開草案に対して寄せられた意見の内容は2017年8月25日に公表されているが、253件の意見を上記5つの質問ごとに賛否等に基づき筆者が集計したのが下表である。〇は提案に「同意」、×は提案に「不同意」、△は「その他」、-は「言及なし」を表している。なお、2017年9月7日に開催されたASBJ実務対応専門委員会では、質問1に対する反対意見203件のうち、有償新株予約権の発行企業からの意見は約60~70件程度であった旨の報告がなされている。

【結果の概要】
  質問1 質問2 質問3 質問4
6 6 5 8
× 203 143 110 103
1 0 0 3
- 43 104 138 139
253 253 253 253

賛成意見では「同意する」という結論のみが記載されているが、反対意見では「同意しない」旨に加えてその理由が記載されている。反対意見の理由は各者各様だが、そのうち主な反対意見は下記のとおり。なお、本公開草案においては質問1が主要論点であるため、質問1の反対意見のみを紹介する。その他の具体的な意見についてはASBJのウェブサイトを確認されたい。
※分かりやすくするために筆者が適宜加筆修正。

・新株予約権者が有償新株予約権の公正価値に対し金銭により対価を支払っているのであれば、報酬性はない。

・発行会社は有償新株予約権を、金銭を対価とした投資制度として発行しており、労働や業務執行等のサービスの対価として給付する意図はないため、報酬性はない。
・有償新株予約権は損失が発生する可能性のある投資制度であるため、報酬性はない。

・ストック・オプション会計基準は、公表当時、一般的に利用されていた無償で付与されるストック・オプションを念頭において検討されたものであり、有償新株予約権を考慮して報酬概念が検討されていたわけではない。したがって、報酬概念の再定義が必要であり、実務対応報告で対応する本公開草案で対応するよりも、ストック・オプション会計基準そのものを見直すべきである。

反対意見の多くが、有償新株予約権には「報酬性」がないことを理由に、ストック・オプション会計基準を適用することに異を唱えている。これに対しASBJは、「企業は追加的なサービスの提供も期待して権利確定条件付き有償新株予約権を付与しているものと考えられることから、報酬としての性格も併せ持つ」とし、現時点では公開草案の内容を見直す方針を示していない。

質問5ではオープンな形の質問が用意されており、筆者が集計したところ、116件の意見が寄せられていた。そのうち特に多かったのが、①未公開企業の取扱いに関する意見、②国際財務報告基準(IFRS)上の取扱いとの差異に関する意見だ。

まず①未公開企業の取扱いに関する意見としては、下記のようなものが寄せられている。

①未公開企業の取り扱いに関する意見
(一般社団法人新経済連盟のコメントより抜粋)
本公開草案は、適用対象とされる企業に公開企業・未公開企業の区別はなく、未公開企業にも適用されるものと理解している。そして、未公開企業にも公開草案が適用される場合、ストック・オプション会計基準における未公開企業における取扱い(13項)が適用され、ストック・オプションの公正な評価単価に代えて、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行う方法を選択適用することができるものと理解しているが、当該取り扱いについて、本公開草案では明示的に示されていないため、未公開企業における取扱いについては当該特則が適用できる旨を明示すべきである。(後略)

ストック・オプション会計基準では、未公開企業においては、ストック・オプションの会計処理にあたり、ストック・オプションの「公正な評価単価」に代えて、「本源的価値」(付与日時点の株価と権利行使価格の差額)をもって会計処理を行うことができるとされている(会計基準第13項)。ストック・オプションの「公正な評価単価」とはいわゆるオプション価値のことだが、市場株価のない未公開企業においてオプション価値を計算するには高度な専門知識を必要とするなど困難を伴う。そこで会計基準では、“簡便法”として本源的価値による会計処理を認めている。この会計処理は従来から未公開企業で一般的に用いられてきたが、これが有償新株予約権においても認められることを明確にするよう求めるのが上記の意見である。この論点は特にIPOを目指すベンチャー企業にとって重要な関心事であることもから、上記の新経済連盟のほか、ベンチャー企業やそのコンサルティングを手掛ける公認会計士、日本公認会計士協会などからも多数のコメントが寄せられている。

オプション価値 : オプション(将来の一定の期日(期間内)に一定の数量を、その時の市場価格に関係なく、予め決められた特定の価格(権利行使価格)で買う権利、または売る権利)に対して付けられる価値のこと。プレミアムとも言われる。オプションの行使価格、オプションの満期までの期間、算定時点における株価、株価変動性、満期までの期間における配当額、無リスクの利子率によって価値が変化する。

国際財務報告基準(IFRS)上の取扱いとの差異に関する意見としては、下記のようなものが寄せられている。

②国際財務報告基準(IFRS)上の取扱いとの差異に関する意見
(一般社団法人新経済連盟のコメントより抜粋)
国際財務報告基準(IFRS)において、有償新株予約権を報酬として認識し費用計上する場合があるが、それは、権利確定条件として勤務条件がある場合に限定されている。
本公開草案は、勤務条件がなくとも業績条件が付されている有償新株予約権は、全て報酬として取り扱う整理としており、ここに会計基準間のGAAP差が生じることとなる。
IFRS導入企業に対する聞き取り調査の結果としても、有償新株予約権を購入した従業員等が会社を退職した後も(退職を理由に新株予約権を没収することなく)投資家として新株予約権を保有し続けてもらえるようにすることで、有償新株予約権の付与が報酬取引でないことを立証されている旨を聞いている。(後略)

ここでいう「勤務条件」とは、ストック・オプションの保有者である役員・従業員が、その権利を行使するまでの間に会社に継続して勤務することを要求する条件のことを指し、IFRSにおいては株式報酬の定義を構成する重要な要素となっている。

これに対し本公開草案は、報酬としての会計処理を要求する有償新株予約権の範囲に「勤務条件は付されていないが業績条件は付されている有償新株予約権」が含まれる内容となっており、IFRSにおいて勤務条件が重要な考慮要素となっていることに対して会計基準間の差異が生じてしまうことが懸念されている。勤務条件の問題以外にも潜在的な会計基準間の差異が存在する可能性を懸念するコメントも多く寄せられた。

こうした意見の内容に加え、何より過去の公開草案と比較しても類を見ない「253件」という数の意見が寄せられたという事実を踏まえ、ASBJは今後慎重な議論を求められることになろう。

また、有償新株予約権を導入している企業のみならず、導入していない企業や、公認会計士、弁護士、税理士、司法書士など専門家からも疑問やコメントが寄せられていることを考慮すると、公開草案の内容に何らかの見直しが入る可能性も否定できない。いずれにせよ、正式な有償新株予約権の会計処理が公表されるまでには、まだ暫く時間がかかることになりそうだ。

2017/09/11 役員も押さえておきたい 収益認識会計基準導入で企業に求められる対応

企業の売上の計上ルールを変える新たな会計基準「収益認識に関する会計基準(案)」が(2017年)7月20日に企業会計基準委員会(ASBJ)から公表されたのは周知のとおり(2017年5月19日のニュース「収益認識会計は単体も連結と同じ基準に 事業計画見直しも」、2017年5月30日掲載の【役員会 Good&Bad発言集】「収益認識」参照)。この改正のポイントの一つが、・・・

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2017/09/11 役員も押さえておきたい 収益認識会計基準導入で企業に求められる対応(会員限定)

企業の売上の計上ルールを変える新たな会計基準「収益認識に関する会計基準(案)」が(2017年)7月20日に企業会計基準委員会(ASBJ)から公表されたのは周知のとおり(2017年5月19日のニュース「収益認識会計は単体も連結と同じ基準に 事業計画見直しも」、2017年5月30日掲載の【役員会 Good&Bad発言集】「収益認識」参照)。この改正のポイントの一つが、収益の認識時点についての考え方の明確化だ。

これまでわが国には収益認識を定める包括的な会計基準はなく、1949年に定められた企業会計原則に「売上高は、実現主義の原則に従い・・・」等の記述がある程度に過ぎなかった。そこで実務上は、法人税の取扱いに沿って、「出荷日」に収益を認識する企業が少なくなかった(法人税基本通達2-1-2)。

法人税基本通達2-1-2
棚卸資産の販売による収益の額は、例えば出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じてその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、法人が継続して収益計上を行うこととしている日の属する事業年度の益金の額に算入すること。

新たに導入される収益認識会計基準では、「支配の移転」の時に収益を認識することになり(下記の「収益認識に関する会計基準(案)」第32項、34項参照)、出荷日に「支配の移転」が認められない販売形態では、従来の「出荷日」ではなく、「検収時」において収益を認識するのが原則となる。

第32項 収益認識基準 企業は約束した財又はサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識する。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時、又は獲得するにつれてである。
第34項 資産に対する支配 資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む。)である。

ただし、「商品又は製品の出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転された時までの期間が通常の期間である場合」に該当すれば、引き続き出荷基準により収益を認識してもよいことされる(下記の第97項参照)。

97. 会計基準第36項及び第37項の定めにかかわらず、商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(会計基準第32項から第34項、第36項及び第37項の定めに従って決定される時点、例えば顧客による検収時)までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができる。
商品又は製品の出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合とは、当該期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合をいう。

逆に言うと、出荷時に収益を認識するためには「商品又は製品の出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間」であることが必要になる。上記のとおり、「通常の期間である場合とは、当該期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数」とされているが、収益認識会計基準案の「たたき台」には下記の記述が見られたところ(第355回 2017年2月22日 審議事項(2)-4)。

「商品又は製品の販売について、出荷時から顧客による検収時までの期間が極めて短い(又は一週間程度)と認められる場合には、出荷時に収益を認識することができる。」

つまり、出荷時から顧客による検収時までの期間が最大一週間程度であれば、収益認識会計基準適用後も、出荷基準が容認される可能性はあるということになる。

以上を踏まえ、会社としては、次のようなことに取り組むべきだろう。

まず、自社の商品が出荷してから何日後に着荷し、何日後に検収を受けているのかを把握することである。これだけ物流網が発達した現代において、出荷から着荷までが一週間を超えるというのは極めて稀であり、着荷後すぐに検収を受けているのであれば、通常はこれまでどおり「出荷基準」の適用が認められるケースが多いと思われる。ただ、そもそも自社の商品等がいつ着荷し検収を受けているのかのデータがないと、売上計上日を変更(出荷基準→着荷基準or検収基準)すべきかどうかという社内での議論の出発点に立つことすらできない。

次に取り組むべきなのは、自社の物流プロセスの見直しだ。上述のとおり、出荷時から顧客による検収時までの期間が最大一週間程度であれば引き続き出荷基準が容認される可能性はあるが、収益認識会計基準に「一週間」という定量的な基準が設けられたわけではないため、監査法人によっては、「一週間より短い基準」を求めてくるところがないとは言い切れない。こうした事態に備えて、物流プロセスを見直して無駄を排除し、少しでも早く着荷or検収に至るように努力する必要がある。

仮に出荷基準を着荷基準や検収基準に変更するのであれば、それに伴いやらなければならないことは多い。まず想定されるのがシステム改修だ。出荷データに基づき出荷日に売上を計上する現行のシステムを、着荷や検収のデータに基づき着荷日や検収日に売上を計上するシステムに変更しなければならない。ただ、一口にシステム変更と言っても、出荷の事実は自社で把握できるものの、着荷や検収は取引相手の範疇になる。このため、どのようにして着荷や検収のデータを取得するのか(着荷や検収の事実をどのように経理が認識するのか)、あるいはシステムがどのようにしてデータを取得するのかといった課題が生じる。場合によっては、期中は出荷基準のままとして、期末近辺の収益に限って決算整理により着荷基準に変更する案も検討しなければならないかもしれない(その場合、システム改修はせずに、エクセル等で対応することも考えられる)。

また、 関連部署間の連携も欠かせない。会計方針の変更(出荷基準→着荷基準or検収基準)に先立ち、経理部門のニーズを物流部門に伝えて、必要な書類やデータをタイムリーに経理に受け渡す方法を事前に検討しておかなければならない。会計方針を変更するとなれば、証憑の種類も変わることになる。出荷基準においては「運送会社の運送請書」等が証憑とされてきたが、これが着荷基準になれば「得意先の受領印(あるいは受領データ)」、検収基準となれば「得意先の検収印(あるいは検収データ)」が必要になる。これまで得意先の検収印等をもらっていない企業は、会計方針の変更に伴い、得意先に検収に関する証憑(検収書に検収印を押してもらう等)の発行を依頼しなければならない。得意先と自社の力関係次第では、今までもらっていなかった検収に関する証憑の発行を依頼すること自体が困難なことも考えられる。物流部門や営業部門の全面協力を仰ぐ必要があろう。

収益認識会計基準が適用されるのは「2021年4月1日以後開始する事業年度の期首」からとなっている(なお、2018年1月1日以後開始する事業年度から早期適用することも可能)。まだ時間はあるとはいえ、影響の大きさを考えれば、早めに準備にとりかかりたいところだ。

2017/09/08 議決権行使助言最大手のISSが買収される!

議決権行使助言最大手のISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は(2017年)9月7日、ジェンスター・キャピタルに買収されることで合意に至ったと発表した(リリース(英文)はこちら)。買収は年内にも完了する予定。ISS経営陣は・・・

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2017/09/08 議決権行使助言最大手のISSが買収される!(会員限定)

議決権行使助言最大手のISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は(2017年)9月7日、ジェンスター・キャピタルに買収されることで合意に至ったと発表した(リリース(英文)はこちら)。買収は年内にも完了する予定。ISS経営陣は留任し、独立した運営が継続されるという。ISSの現在の親会社であるベスター・キャピタルに対しては7.2億ドルが支払われるが、これは2014年にベスターがMSCIに支払った3.6億ドルの倍に相当する。

MSCI : 株価指数の算出やポートフォリオ分析などのサービスを提供する米国の金融サービス会社。 ちなみに、MSCIとは元々は「モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル」の略であるが、米モルガン・スタンレーが保有していたMSCIの株式を2009年に全て売却(売却代金は約5億9600万ドル)したことに伴い、「MSCI」が正式名称となった。

ジェンスター・キャピタルはサンフランシスコに本拠を置くPE(プライベート・エクイティ)ファンドで、約30億ドルの資金を米国の中堅企業に投じている。投資対象となるのは成長産業と目される分野で、具体的には、ライフサイエンス、ヘルスケア、産業機械、ソフトウェア、ビジネスサービスが主なものとなっている。ISSが手掛ける議決権行使助言サービス、および子会社ICS(ISSコーポレート・ソリューションズ)が展開する企業向けの(コーポレートガバナンス等の)コンサルティングが、ジェンスターによって成長分野とみなされたことになる。

実際、ISSは1985年にロバート・モンクス(米国労働省の企業年金局長)により設立されて以来、そのビジネスの成長性および圧倒的な市場シェアが魅力とされ、数度にわたって買収の対象となってきた。議決権行使助言の準大手であるグラスルイスもまた、2003年の設立から既に2度のオーナー交代を経験している(下記参照。議決権行使助言会社の歴史等は2014年5月1日掲載の新用語・難解用語辞典「議決権行使助言サービス」も参照)。

ISSの親会社の変遷
1985:設立
1992:トムソン・ファイナンシャル
2001:ウォーバーグ・ピンカス、ハーミーズ
2005:(ISSが同業他社のIRRC(=Investor Responsibility Research Center )を買収)
2007:リスク・メトリックス
2010:MSCI
2014:ベスター・キャピタル(現在に至る)
2017:ジェンスター・キャピタル(予定)

グラスルイスの親会社の変遷
2003:設立
2006:新華ファイナンス
2007:オンタリオ教員年金(現在に至る)

ジェンスター・キャピタルは金融サービスを提供する企業に対して投資したうえで経営陣を支援する手法および経験が豊かであり、ISSが現業を発展させることや企業買収によって一層の成長を実現することを強力に後押しするという。それが議決権行使助言における更なる支配力の獲得につながるのか、あるいはISSのもう一つの事業の柱である企業向けコンサルティングの積極的な拡大につながるのか、来年以降の動向が注目される。

2017/09/07 弁護士の社外取締役に求めるべき役割

社外取締役に弁護士を選任する上場企業は多い。東証のコーポレートガバナンス白書2017(80ページ)によると、独立社外取締役の属性は「他の会社の出身者」が全体の59%と圧倒的に多いものの、弁護士はこれに次ぐ16%を占めている(関連記事として、2017年8月28日のニュース「他社の経営者トップである社外取締役に対するグローバル投資家の意見」参照)。

弁護士というと「コンプライアンス」というキーワードが頭に浮かぶが、社外取締役である弁護士にコンプライアンスの観点からの貢献のみを求めるのは“宝の持ち腐れ”と言える。この点を指摘したのが、・・・

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2017/09/07 弁護士の社外取締役に求めるべき役割(会員限定)

社外取締役に弁護士を選任する上場企業は多い。東証のコーポレートガバナンス白書2017(80ページ)によると、独立社外取締役の属性は「他の会社の出身者」が全体の59%と圧倒的に多いものの、弁護士はこれに次ぐ16%を占めている(関連記事として、2017年8月28日のニュース「他社の経営者トップである社外取締役に対するグローバル投資家の意見」参照)。

弁護士というと「コンプライアンス」というキーワードが頭に浮かぶが、社外取締役である弁護士にコンプライアンスの観点からの貢献のみを求めるのは“宝の持ち腐れ”と言える。この点を指摘したのが、日弁連が(2017年)8月25日に法務大臣宛に提出した「会社法改正についての意見書」だ。

意見書ではまず社外取締役の義務化について、「上場企業のほとんどが社外取締役を選任しているということは、裏を返せば社外取締役を選任する必要がないと考える会社がごく少数に過ぎないことを意味し、それは上場企業が社外取締役の有用性を認めていることを物語るものである」と指摘、このことは上場企業に社外取締役を少なくとも1名選任することを義務付ける会社法改正を裏付ける“立法事実”であるとし、会社法で社外取締役の選任を義務付けるべきと主張している。

もっとも、コーポレートガバナンス・コードの導入や2014年の会社法改正()を経て、社外取締役を選任する上場企業が増え、いまだに社外取締役を1人も選任していない企業は東証全体で3.1%(101社)にすぎない(2017年7月26日に東京証券取引所が公表した「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び委員会の設置状況」の5ページを参照)。

 2014年の会社法改正(施行は2015年5月1日~)により、監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社(以下「上場会社等」)が社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならない旨定められている(会社法327条の2)。

こうした中、上場企業への取締役の選任義務付け論に対しては、「ここまで社外取締役の普及が進んでいる中、選任の義務付けをするよう会社法を改正したところで実益がない」との声も聞かれるところだが、これに対して日弁連は本意見書の中で、「海外諸市場においては社外取締役が広く受け入れられているにも関わらず、日本の上場会社等における社外取締役の位置付けが曖昧であることが、海外投資家等にとって日本の株式市場に対する投資をためらう原因の一つである」「日本の上場会社等においては、一律に社外取締役1名の選任が義務付けられているという制度にすることが、海外投資家等にとってもわかりやすい」と反論している。

このように日弁連は社外取締役1名の選任義務付けを訴えたうえで、社外取締役には弁護士を選任すべきと主張している。一見すると“手前味噌”にも見られかねないこの主張だが、本意見書で述べられているその理由には一定の合理性がある。具体的には、「コンプライアンス」に加えて、「取締役会における経営判断が善管注意義務違反とならないよういわゆる経営判断原則に留意する運営を行わせること、逆に言えば、経営判断原則に適う場合にはその旨を明確にすることができ、ひいては取締役による健全なリスクテイクを後押しすることができる」としている。上述のとおり社外取締役として弁護士を選任する上場企業は多いが、取締役会で「コンプライアンス」関連の発言に終始しがちな弁護士も少なくないと聞く。経営判断の原則は、取締役を善管注意義務違反から守る“最後の砦”であり、同時に会社が変化の激しい時代を生き残るための大胆な経営判断を後押しする概念でもある。社内取締役としては、せっかく法律の専門家を社外取締役として迎え入れる以上は、「現在検討している意思決定が経営判断原則に適うかどうか」といった観点からの発言を積極的に求めるようにするべきだろう。

2017/09/06 取締役会の実効性評価のエクスプレイン率が20%台に低下もその実態は?

コーポレートガバナンス・コードの適用開始(2015年6月1日)から2年超が経過し、その間に3度の株主総会(3月決算会社の6月株主総会)シーズンが過ぎた。こうした中、東証は9月5日、「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果(2017年7月14日時点)」を公表している。本集計結果は2015年末からほぼ半年ごとに公表されており、今回が4回目の公表となる。

「エクスプレイン」した企業の割合が20%を超えるのが、下表に示した5つの原則である。下表では過去3回分のエクスプレイン率も示しているが、全4回を通じ、断トツのエクスプレイン率となっているのが、・・・

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2017/09/06 取締役会の実効性評価のエクスプレイン率が20%台に低下もその実態は?(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードの適用開始(2015年6月1日)から2年超が経過し、その間に3度の株主総会(3月決算会社の6月株主総会)シーズンが過ぎた。こうした中、東証は9月5日、「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果(2017年7月14日時点)」を公表している。本集計結果は2015年末からほぼ半年ごとに公表されており、今回が4回目の公表となる。

「エクスプレイン」した企業の割合が20%を超えるのが、下表に示した5つの原則である。下表では過去3回分のエクスプレイン率も示しているが、全4回を通じ、断トツのエクスプレイン率となっているのが、「補充原則1-2(議決権の電子行使のための環境整備、招集通知の英訳)」だ。エクスプレインした企業は、議決権電子行使プラットフォームを活用するニーズの低い中堅規模以下の企業が大多数を占めているものと推測される。

  2017/7/14 2016/12/31 2016/7/14 2015/12/31
補充原則
1-2④
議決権電子行使、招集通知英訳 55.8% 57.7% 55.7% 55.9%
補充原則
3-1②
英語での情報開示・提供 29.4% 30.0% 28.1% 25.8%
補充原則
4-2①
業績連動報酬、自社株報酬 29.1% 31.4% 29.8% 30.7%
補充原則
4-11③
取締役会の実効性評価、結果開示 28.7% 44.7% 45.0% 63.6%
補充原則
4-10①
指名・報酬等の任意諮問委員会 23.3% 25.7% 25.1% 29.4%

全4回のエクスプレイン率の推移をみると、これ以外にも興味深い特徴が見て取れる。それは、エクスプレイン率が明確な低下トレンドにあるのは補充原則4-11③(取締役会による取締役会の実効性に関する分析・評価、結果の概要の開示)のみで、他の4原則は概ね横ばいで推移しているということである。

この主な要因としては、補充原則4-11③(取締役会による取締役会の実効性に関する分析・評価、結果の概要の開示)以外の4原則はコーポレートガバナンス報告書における「コードの各原則に基づく開示」が求められていないということがあろう。現実問題として、コーポレートガバナンス・コード導入当初は実態が伴わないにもかかわらず「コンプライ」としたうえで、“後付け”で実態の伴ったコンプライとするための取り組みを漸次進めている企業は少なくない。そのような企業も表面的には“コンプライ”とカウントされるため、エクスプレイン率は実態よりも低く出ることになる。

とはいえ、補充原則4-11③が求める「取締役会全体の実効性について分析・評価」を開示するのは容易ではなく、実態が欠けていれば記載に苦慮することになる。エクスプレイン率の低下は、実際に取り組みが進展してきたことを示していると言えよう。

補充原則4-11③のエクスプレイン率は2015年:63%→2016年→45%→2017年:28%とコンスタントに
低下しているが、このトレンドの背景には以下のような企業行動が存在すると推察される。

・2015年:ガバナンス先進企業が試行錯誤でコンプライする一方、多くの企業はエクスプレインを選択
・2016年:再度のエクスプレインを避けるため、相当数の企業が最低限の取り組みをもってコンプライとした
・2017年:2年続けてエクスプレインした企業が、先行事例を参考に一定水準の取り組みをもってコンプライとした

結局、現状の取締役会評価は、クオリティという点で“玉石混交”の状態になっていると考えられる。既にエクスプレイン率がある程度低下する中、今後はコンプライの水準を高めていく企業とこれ以上の取り組みが難しい企業の二極化が鮮明になりそうだ。