2017/08/01 【WEBセミナー】2017年6月株主総会分析(会員限定)

概略

【セミナー開催日】2017年7月21日(金)

3月決算会社にとって、2017年6月の株主総会は、スチュワードシップ・コードの改訂により議決権行使結果の個別開示の導入が見込まれる中ではじめて迎える株主総会となります。個別開示の導入により機関投資家は従来よりもシビアな姿勢で議決権行使に臨むことが予想され、今株主総会でも賛成率の低い議案が出てくる可能性もあるでしょう。先に開催された12月決算会社の3月株主総会でも、自社の財団を引受先とする第三者割当を図る議案が否決寸前まで追い込まれたほか、会長の選任議案への賛成率が80%を大きく割る水準となる事例が出るなど、その兆候は表れています。
本セミナーでは、全国株懇連合会の理事でもあり、株主総会関連の著書も多い株主総会のプロフェッショナルとして著名な三菱UFJ信託銀行㈱法人コンサルティング部会社法務コンサルティング室 室長の中川雅博様をお招きし、2017年6月総会における注目テーマへの賛否状況、賛成率が低かった背景や原因、株主からの質問内容など、今株主総会の動向を詳しく分析していただきます。

【講師】三菱UFJ信託銀行 法人コンサルティング部 会社法務コンサルティング室 室長 中川 雅博 様

セミナー資料 2017年6月株主総会分析.pdf(657KB)
セミナー動画

(1)(サマリー)事前に予想された2017年6月総会の焦点と実際の総会概況、Ⅰ2017年6月総会の概況

(2)Ⅰ2017年6月総会の概況 続き(議決権行使結果~)

(3)Ⅰ2017年6月総会の概況 続き(株主提案の状況~)

(4)Ⅱ2017年6月総会におけるコード対応

(5)Ⅲ次期定時株主総会に向けて

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2017/07/31 【2017年7月の課題】役員報酬のトレンド

2017年7月の課題

2017年6月の株主総会では多くの上場企業が役員報酬改革に踏み切りましたが、東証一部に上場するA社(3月決算)は、平成29年度税制改正で大幅に改正された役員給与税制の詳細な取扱いが株主総会議案の内容を固める3月時点で明確になっていなかったことや、果たして自社に株式報酬が適しているのか、取締役会の中でも意見が分かれていたため、まずは2017年6月総会で他社がどのような役員報酬制度を導入するのか様子を見てから、来年の総会での実施を目指すことになりました。 2017年6月総会に上程された各社の株主総会議案および開示等を整理し、そこから見えるトレンドを踏まえたうえで、自社としてどのような役員報酬制度を導入するべきか、検討してみてください。

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2017/07/31 【役員会 Good&Bad発言集】株式報酬を導入する際の視点

東証一部に上場するメーカーの甲社(3月決算の監査役会設置会社)は、コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①を踏まえ、任意の指名・報酬委員会を設置しています。
60年を超える伝統を誇る甲社ですが、その裏返しとして何事についても意思決定が若干遅い面があり、役員報酬の見直しも進んでいません。こうした中、2017年株主総会後に開催された同社の指名・報酬委員会では、役員報酬改革がテーマとなっています。

取締役A「6月の総会では同業の乙社を含めかなりの数の会社が役員報酬を見直しています。株主の目もありますし、来年の総会ではウチもやらないわけにはいかないでしょう。」
取締役B「株主の納得感が得られやすいという点では、株式報酬がベストでしょうね。」
社外取締役C「株式報酬の導入は検討に値すると思います。」

株式報酬が話題に上ったところで、取締役A・B・Cが下記の発言をしました。誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「株式報酬には色々種類があるようですし、種類によって課税関係も違うようです。株式報酬を導入すればトータルの支給額も増える可能性があるので、会社の負担を考えると、できるだけ損金になるものを選ぶ必要がありますね。損金になればROEにも好影響を与えるので、株主の納得感も高いはずです。」

損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

取締役B:「株式報酬を「退職金」として導入すると、会社・役員個人の双方の税負担が軽くなるようです。ただ、この6月の株主総会では、退職慰労金の贈呈議案が否決された事例も出ていますし、インセンティブ性という観点からも、「退職金」では株主の理解を得られないかもしれませんね。」

社外取締役C:「一種類の株式報酬にこだわる必要はないのではないでしょうか。異なる要素を持った報酬の組み合わせを検討してもよいと思います。」

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2017/07/31 【役員会 Good&Bad発言集】株式報酬を導入する際の視点(会員限定)

<解説>
株式報酬では損金算入額と会計上の費用額が一致しないことも

2017年6月株主総会では多くの上場企業が株式報酬を導入しましたが、複数種類ある株式報酬の中からいずれの株式報酬を選択するかの判断材料の一つとなるのが税金です(株式報酬を含む役員報酬の種類と課税関係は【特集】2017年度税制改正を踏まえたインセンティブ報酬設計のポイントの2ページ、3ページ(課税関係)参照。以下、同)。実際、株式報酬などのインセンティブ報酬が役員報酬に占める割合が高い欧米企業では、会社のキャッシュフローやROE()に影響を与える損金性は、役員報酬制度を設計するうえで重要な要素となっています。

損金性 : 会計上の費用が損金になるかどうか。もし会計上の費用が損金になれば、損金にならなかったときと比べると法人税の額が減るため、税引後当期純利益が増える。

 ROE(自己資本利益率=税引後当期純利益/自己資本)の分母は税引後当期純利益であるため。

ただし、税金だけを気にしていればよいというわけではありません。株式報酬によっては、損金算入額と会計上の費用の額が大きく異なるケースがあります。会計上の費用は、会社の業績はもちろん、税引“前”の利益を通じてROEにも影響しますので、損金算入額のみならず、こちらも判断材料に入れる必要があります。

例えば、平成29年度税制改正ではリストリクテッド・ストック・ユニットの損金算入が認められましたが、法人税法上、リストリクテッド・ストック・ユニットの損金算入額は「交付の決議時」の時価とされているのに対し、会計上の費用の額は「交付時」の時価と考えられます。仮に交付決議時の株価(付与株数は1株とする)が10で、交付時には株価が100に上昇した場合、会計上の費用が100計上されるのに対し、損金算入額は10しか認められません。逆に、交付決議時の株価が100で、交付時には株価が10に下落した場合、会計上の費用は10しか計上されませんが、損金算入額は100となります。すなわち、リストリクテッド・ストック・ユニットは、株価の下落局面では会計上の費用は小さく、損金算入額は大きくなるため、ROEに好影響をもたらします(なお、IFRS(国際会計基準)では、ユニット付与時の公正価値で費用を計算することになっています)。

リストリクテッド・ストック・ユニット : 株主総会による選任後に予め交付株式数を定めたうえで、最初にユニット(単位)やポイントを付与し、中期経営計画の計画終了時や継続勤務期間など一定期間経過後に、ユニットやポイント数に応じた株式を後で交付するタイプの株式報酬。

また、リストリクテッド・ストックでは、業績が未達の場合に「全部」の株式を没収するタイプのリストリクテッド・ストックも損金算入が可能ですが(2017年4月14日のニュース『「業績」を要件とする譲渡制限付株式報酬が損金となるパターン』参照)、実際に業績が未達となって全株式が没収された場合、役員は株式報酬を手にしない以上、損金算入額もゼロとなります。ところが、日本の会計基準では、最初に決めた報酬債権額()を「特別損失」として費用に計上しなければなりません。仮に報酬債権額を100とすると、損金算入額はゼロとなった場合でも、会計上は100の特別損失が計上されるということです。

リストリクテッド・ストック : 最初に株式を付与し、一定期間経過後に譲渡制限を解除する株式報酬。通常は業績の達成要件などが設定され、これを達成できなければ付与した株式を“没収”するという仕組み(「没収要件」と呼ばれる)となっている。リストリクテッド・ストック・ユニットと趣旨や構造は類似しているが、リストリクテッド・ストック・ユニットでは最初にポイント(ユニット=単位)を付与し、後でポイントに応じた株式を付与するのに対し、リストリクテッド・ストックでは最初から株式を付与するという点で両者は異なる。

 日本の会社法は、株式の発行は金銭等の「払込み」があることを前提としているため、欧米型の株式報酬のように「株式をタダであげる(無償発行)」ということができない(「タダ=払込みゼロ」を意味するため)。そこで、「株式報酬=役員に付与した金銭報酬債権を現物出資財産として払い込んだ上で役員に対して株式を発行するもの」と擬制することで上記の会社法上の問題がクリアされている(2017年7月21日のニュース「株式報酬がシンプルに」参照)

一方、パフォーマンス・シェア・ユニットは、日本の会計基準上は「株式交付時の株価×最終交付数」が費用に計上されることになり、法人税上も会計上費用となった金額の全額について損金算入が可能となります。したがって、株価の上昇局面(会計上の費用、損金算入額ともに増加)では節税メリットが大きくなります。

パフォーマンス・シェア・ユニット : 一定期間(以下、業績等評価期間)における「業績」や「株価」によって交付する株式数が変動するタイプの株式報酬のこと。業績評価期間の最初に株式を交付するものは単に「パフォーマンス・シェア(通称:PS)」と呼ばれるが、まずポイント(ユニット=単位)を付与し、業績等評価期間終了後に評価の結果に応じてポイント数を変動させ、当該ポイントに応じた株式を後から交付するのがパフォーマンス・シェア・ユニットである。

複数の株式報酬を組み合わせるパターンが主流になる可能性も

株式報酬を導入する際には、税金や会計以外にも、そもそもそれがインセンティブ報酬として機能するのかという点も検討する必要があります。

例えばリストリクテッド・ストックなどの株式報酬を「退職金」として支給するケースを考えてみましょう。退職金とすれば役員の所得税負担が軽くなるうえ、法人税上も退職給与として損金算入できる(2017年7月4日のニュース『「退職金」としての株式報酬の是非』参照)というメリットもあります。ただ、“攻めのコーポレートガバナンス”を実現するために役員報酬改革が求められている中で、退任時まで株式を保有するようなタイプの役員報酬が果たしてインセンティブ報酬として株主に容認されるのか、不安が残るところです。

しかし株式報酬には、「インセンティブ」のみならず「株主との利害共有」という側面もあります。在任中株式を売却できないということは、その間、株主との利害共有も継続するということであり、これは株主にとっても良い状況と言えます。

とはいえ、退任時まで保有することが前提になっている場合、例えば中期経営計画の期間と株式報酬の対象期間が整合しないなど、企業の経営戦略に合った報酬制度を設計しにくいといった問題もあります。そこで、このような役員報酬を導入する場合には、これにプラスして、中長期の業績目標の達成度合いに応じ、中期経営計画終了時等の将来の一定時期に株式を交付するパフォーマンス・シェア・ユニットを併せて導入することも考えられます。このパフォーマンス・シェア・ユニットも、平成29年度税制改正により損金算入することが可能となっています。

パフォーマンス・シェア・ユニット : 一定期間(以下、業績等評価期間)における「業績」や「株価」によって交付する株式数が変動するタイプの株式報酬のこと。業績評価期間の最初に株式を交付するものは単に「パフォーマンス・シェア(通称:PS)」と呼ばれるが、まずポイント(ユニット=単位)を付与し、業績等評価期間終了後に評価の結果に応じてポイント数を変動させ、当該ポイントに応じた株式を後から交付するのがパフォーマンス・シェア・ユニットである。

さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

社外取締役C:「一種類の株式報酬にこだわる必要はないのではないでしょうか。異なる要素を持った報酬の組み合わせを検討してもよいと思います。」
コメント:株式報酬には、株式の交付時期、業績との連動性などにより様々なタイプがあります。それぞれの良いところを取り入れるためには、異なるタイプの株式報酬を組み合わせるという選択には合理性があります。実際、退任時に譲渡制限を解除するリストリクテッド・ストックと、中長期の業績目標の達成度合いに応じて中期経営計画終了時等の将来の一定時期に株式を交付するパフォーマンス・シェア・ユニットを組み合わせた役員報酬制度を導入する企業も出てきています。

BAD発言はこちら
取締役A:「株式報酬には色々種類があるようですし、種類によって課税関係も違うようです。株式報酬を導入すればトータルの支給額も増える可能性があるので、会社の負担を考えると、できるだけ損金になるものを選ぶ必要がありますね。損金になればROEにも好影響を与えるので、株主の納得感も高いはずです。」
コメント:報酬の選択にあたり税負担を考慮することは欧米企業では当然とされており、この点ではGOOD発言と言えますが、判断の視点が税金に偏っている点がBADです。税金のみならず、会計上の費用のことや、インセンティブ報酬としての機能についても考慮する必要もあります。
取締役B:「株式報酬を「退職金」として導入すると、会社・役員個人の双方の税負担が軽くなるようです。ただ、この6月の株主総会では、退職慰労金の贈呈議案が否決された事例も出ていますし、インセンティブ性という観点からも、「退職金」では株主の理解を得られないかもしれませんね。」
コメント:株式報酬には、「インセンティブ」のみならず「株主との利害共有」という側面もあります。退職金として株式報酬を支給すれば、退任時まで株主との利害共有も継続することになります。この点を見落とし、退職金として支給する株式報酬と退職慰労金を同列にとらえている点がBADです。

2017/07/31 グローバル化を目指す企業の人材戦略(会員限定)

海外展開が必須となっている日本企業では、若手社員の海外への派遣など様々な育成プログラムを実施するとともに、既に海外でのビジネス経験のある「グローバル人材」を積極的に採用している。

ところが、機関投資家である筆者の知るグローバル企業が進出先の各国で採用を行う場合、求められているのは、グローバル人材よりもむしろ“国内市場のスペシャリスト”であることが多い。

例えばあるグローバル企業が日本で人材を探すとしよう。彼らが求めるのは日本市場に精通した人材、すなわち日本国内の取引先と関係を持っている人や日本の商慣習に詳しい人ということになる。ある程度の英語力や海外への理解は必要だが、決して「海外でビジネス経験がある人」や「海外に詳しい人」が求められているわけではない。むしろ海外在住が長く日本でのビジネス経験が短いといった場合、採用上不利になる可能性がある。日本のことは日本在住の日本人、米国のことは米国在住の米国人に任せればよいというのがグローバル企業の一般的な考え方であり、「米国市場の専門家」であることを日本人に期待することはまずない。皮肉なことに、既にグローバル企業となっている企業ほど、「グローバル人材」よりも、現地の人材の採用に力を入れているというわけだ。もちろん、世界各国で展開する事業を横断的に見なければならない経営層ともなればグローバルなビジネス経験が求められるが、それが求められる人材は極めて少数であり、残念ながらこうした役割を日本人に求めるグローバル企業は少ない。

既存のグローバル企業の例を見れば分かるように、日本企業がグローバル企業へと脱皮を図っていくためには、経営陣は日本人の育成・採用に力を入れるだけでなく、海外でのマネジメントを現地採用の人材に権限委譲していくことも併せて検討する必要がある。同時に、その過程では、多くの日本企業が海外子会社の内部統制やガバナンスに頭を悩ませることになりそうだ。

2017/07/31 【2017年6月の課題】サイバーセキュリティの確保:解答(会員限定)

サイバー攻撃を“見える化”すると

「サイバー攻撃が増えている」というニュースを見聞きする機会が増えましたが、実際に攻撃を受けた経験がない限り、どこか遠い世界の話と思ってしまいがちです。そのような楽観的な見方を持っている方もこちらのサイトを見れば考えを改めることでしょう(下記の「サイバー攻撃を“見える化”したサイトはこちら」をクリック)。

サイバー攻撃を“見える化”したサイトはこちら

これはNICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)がキャッチしたサイバー攻撃を見える化したサイトです。世界中から日本が攻撃を受けている(もちろん日本からも各国を攻撃しているようですが)様子がうかがえ、ぞっとするとともに、サイバー攻撃からの防御(サイバーセキュリティ対策)の必要性を痛感することでしょう。

もちろんこれがサイバー攻撃の全体像ではありません。また、攻撃の多くは適切なセキュリティによりはじかれているはずです。しかし、セキュリティが不十分な企業では、今この瞬間にも攻撃を受け情報が流出している可能性もあります。

サイバー攻撃の目的は情報の流出だけに留まりません。最近では“身代金”を要求するランサムウェアという攻撃手法も登場しており、金銭の取得もサイバー攻撃の目的になっています。2017年7月現在、ランサムウェアの中でもとりわけ「WannaCry」またはその亜種が猛威を振るっています。英国の病院では感染により患者のデータにアクセスできなくなり医療行為に支障が生じたり、JR東日本や日立(海外工場)などでも感染があったりしたことが報道されています。

他にも、システム破壊を目論む愉快犯や政治的信条を主張するためのサイトの改ざんなど、サイバー攻撃の意図や方法は多岐にわたります。

ランサムウェア : ランサムとは身代金の意味。これに感染したPC上のデータはすべて拡張子が書き換えられる等して暗号化される。そして、感染前の状態に戻したい場合は身代金を支払うよう脅迫文が表示される。身代金を支払ってもデータが復旧するとは限らない。

”サイバーセキュリティ経営”で後れをとる日本企業

このように攻撃の幅を増したサイバー攻撃ですが、攻撃内容は日々進化しているため、サイバーセキュリティ対策もそれにキャッチアップしていく必要があります。

このサイバーセキュリティ対策の強化を「IT担当部門の課題」と捉えるのは禁物です。サイバー攻撃の脅威を考えると、サイバーセキュリティ対策は、自社の企業価値を損なわないために、経営者が自社へのサイバー攻撃への脅威をどのように評価し、それに対してどのようなリスクマネジメントを行うかという極めて経営的な課題と言えます。それにもかかわらず、日本企業ではサイバーセキュリティ対策強化を経営課題と捉えていない経営陣が多々見受けられます。下のグラフからわかるように、サイバー攻撃の予防は取締役レベルで議論すべきかとの問いについて、海外企業では半数以上(56%)が「非常にそう思う」と回答しているのに対し、日本企業では18%(2015年)にとどまっています。「どちらかと言えばそう思う」(50%:2015年)も含めると68%になり、2013年の調査時の52%(「非常にそう思う」13%+「どちらかと言えばそう思う」39%)に比べれば増加していますが、海外の88%(「非常にそう思う」56%+「どちらかと言えばそう思う」32%)と比べると大きく引けを取っていると言わざるを得ません。

図:サイバー攻撃の予防は取締役レベルで議論すべきか
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(出典:サイバーセキュリティ経営ガイドライン

経営者がサイバーセキュリティ対策を進めるための3原則

上場企業の経営者がサイバーセキュリティ対策を推進するにあたり認識する必要があるのが、「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」()で定められている「3原則」です。

 経済産業省が、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)とともに、大企業および中小企業(小規模事業者を除く)のうち、ITに関するシステムやサービス等を供給する企業および経営戦略上ITの利活用が不可欠である企業の経営者を対象に、経営者のリーダーシップの下で、サイバーセキュリティ対策を推進するために策定した指針。

サイバーセキュリティ経営ガイドラインが定める3原則

原則1 経営者は、IT 活用を推進する中で、サイバーセキュリティリスクを認識し、リーダーシップによって対策を進めることが必要
原則2 自社は勿論のこと、系列企業やサプライチェーンのビジネスパートナー、IT システム管理の委託先を含めたセキュリティ対策が必要
原則3 平時及び緊急時のいずれにおいても、サイバーセキュリティリスクや対策、対応に係る情報の開示など、関係者との適切なコミュニケーションが必要

第一の原則には、「経営者がサイバーセキュリティリスクを認識すること」と「サイバー攻撃への対策にあたり経営者がリーダーシップを発揮すること」の2つが記載されています。サイバーセキュリティ対策を実施するにあたり、まず自社がどのようなリスクに直面しているのかを正しく認識しなければなりません。その際「サイバー攻撃を受けるリスク」といったあいまいなリスクではなく、「機密情報の漏洩により自社の競争力の源泉である知的財産が競合他社の手に渡り、自社の競争力が低下するリスク」「工場の端末が標的型攻撃メールの添付ファイルに感染する等して暗号化され、製造設備の稼働に影響を与え、生産が停止するリスク」といったある程度具体的なリスクに落とし込む必要があります。また、「他社がやっているから」サイバーセキュリティ対策に取り組むのではなく、経営者自身が認識したリスクに基づき、そのリスクをコントロールするための手立てとして、サイバーセキュリティ対策を考えなくてはなりません。サイバーセキュリティ対策の実行には予算と人員が必要となります。予算と人員という経営資源をサイバーセキュリティ対策のためにどの程度割くのかを判断するのは経営者です。また、標的型攻撃メールの添付ファイルを開かせないための訓練などは全社横断的に実施する必要があり、各部署の連携が欠かせません。それには経営者の強いリーダーシップが求められます。

第二の原則では、セキュリティのリスク診断や防御範囲の適切性が述べられています。上場会社の場合、子会社で起きた不祥事であっても、親会社が適時開示をしなくてはなりません(重要性のないものを除く)。子会社で個人情報が漏洩すると、外部の被害者は親会社である上場会社を責める可能性もあります。また、サイトの運営を資本関係のない外部の企業に委託している場合に、当該委託先で個人情報の漏洩が起きると、委託した側も「セキュリティの不十分な外部企業に安易に委託した」として責任を問われる可能性があります。そのため、第二の原則では、セキュリティのリスク診断や防御範囲を自社だけに留めることのないよう留意すべきとしています。広範な範囲でさまざまなリスクを想定しながら、取りこぼしのないように防御範囲を決めるようにしましょう。また、防御範囲は定期的に見直すようにしましょう。

第三の原則では、平時および非常時のセキュリティに関する開示の重要性が述べられています。平時は、自社が実施しているサイバーセキュリティのレベルを取引先等に開示することで、取引先からの信頼性を高めておきます。平時から取引先とセキュリティリスクのコミュニケーションができていれば、万一サイバー攻撃を受け、防御に失敗し、被害が発生しても、平時においてそのようなコミュニケーションをとっていなかった場合と比べると、取引先の不信感を取り除くことは格段に容易と言えます。

CISOへの指示は10項目を参考に

経営者がリーダーシップをもってサイバーセキュリティ対策に臨む(上記の第1の原則)と言っても、経営者が必ずしもこの分野に明るいとは限りません。そこで、実際に情報セキュリティ対策を実施する上での責任者となる担当幹部(CISO等)を設置するのが通常です。

CISO : Chief Information Security Officer(最高情報セキュリティ責任者)

それでは、経営者はCISOにどのような指示を出すべきでしょうか。それに対する1つの回答が、上で紹介したサイバーセキュリティ経営ガイドラインが定める「重要10項目」です。

サイバーセキュリティ経営ガイドラインが定める「重要10項目」

指示1 サイバーセキュリティリスクへの対応について、組織の内外に示すための方針(セキュリティポリシー)を策定すること。
指示2 方針に基づく対応策を実装できるよう、経営者とセキュリティ担当者、両者をつなぐ仲介者としての CISO 等からなる適切な管理体制を構築すること。その中で、責任を明確化すること。
指示3 経営戦略を踏まえて守るべき資産を特定し、セキュリティリスクを洗い出すとともに、そのリスクへの対処に向けた計画を策定すること。
指示4 計画が確実に実施され、改善が図られるよう、PDCA を実施すること。また、対策状況については、CISO 等が定期的に経営者に対して報告をするとともに、ステークホルダーからの信頼性を高めるべく適切に開示すること。
指示5 系列企業やサプライチェーンのビジネスパートナーを含め、自社同様にPDCA の運用を含むサイバーセキュリティ対策を行わせること。
指示6 PDCA の運用を含むサイバーセキュリティ対策の着実な実施に備え、必要な予算の確保や人材育成など資源の確保について検討すること。
指示7 IT システムの運用について、自社の技術力や効率性などの観点から自組織で対応する部分と他組織に委託する部分の適切な切り分けをすること。また、他組織に委託する場合においても、委託先への攻撃を想定したサイバーセキュリティの確保を確認すること。
指示8 攻撃側のレベルは常に向上することから、情報共有活動に参加し、最新の状況を自社の対策に反映すること。また、可能な限り、自社への攻撃情報を公的な情報共有活動に提供するなどにより、同様の被害が社会全体に広がることの未然防止に貢献すること。
指示9 サイバー攻撃を受けた場合、迅速な初動対応により被害拡大を防ぐため、CSIRT(サイバー攻撃による情報漏えいや障害など、コンピュータセキュリティにかかるインシデントに対処するための組織)の整備や、初動対応マニュアルの策定など緊急時の対応体制を整備すること。また、定期的かつ実践的な演習を実施すること。
指示10 サイバー攻撃を受けた場合に備え、被害発覚後の通知先や開示が必要な情報項目の整理をするとともに、組織の内外に対し、経営者がスムーズに必要な説明ができるよう準備しておくこと。

このうちもっとも重要となるのが、指示6の「サイバーセキュリティ対策のための人材確保」です。サイバーセキュリティ対策に精通した人材の獲得コストは決して低廉ではありません。サイバーセキュリティの世界は日進月歩であり、ノウハウの蓄積スピードを考慮すると、“完全自前主義”では技術が陳腐化するという別のリスクを抱えることになります。一方で、サイバーセキュリティに関する事項のすべてを外注すれば、自社にノウハウがたまらないだけでなく、サイバーセキュリティ対策の予算も膨れ上がることでしょう。どこまでを内製化し、どこからを外注するか(あるいはサイバーリスク保険の活用によりリスクを移転するか)の判断(指示7参照)を適切に行うためにも、社内にサイバーセキュリティ対策に精通した人材を確保しておきたいところです。

サイバーセキュリティ対策に関わる社内人材が増えてくると、組織化が必要になります。サイバーセキュリティ対策に携わる組織をCSIRTと称することもあります(指示9参照)。最近では、登録情報セキュリティスペシャリストという国家資格も誕生しました。CISOはもちろん、CSIRTのメンバーに登録情報セキュリティスペシャリストの資格取得を奨励、場合によっては義務付けることも検討に値します(登録情報セキュリティスペシャリストについては2016年10月27日のニュース「サイバー攻撃対策の国家資格が登場」を参照)。また、日本コンピュータセキュリティインシデント対応チーム協議会(日本シーサート協議会)に加盟し、CSIRT間で情報共有および連携を図ることも有益でしょう。

CSIRT : Computer Security Incident Response Teamの略。サイバー攻撃による情報漏えいや障害など、コンピュータセキュリティにかかる(事故などの危難が生じる可能性の高い事態)に対処するための組織の総称。「シーサート」と読む。

また、指示9の定期的かつ実践的な演習も重要となります。例えば、上述した「標的型攻撃メールの添付ファイルを開かせないための訓練」(標的型攻撃メール演習)などが挙げられます。最近の標的型攻撃メールのメール本文や添付ファイル名はますます巧妙化しており、メール処理に忙殺され注意力が鈍った状況では、うかつに開いてしまう従業員がいてもおかしくありません。そのようなリスクに備え、標的型攻撃メール演習はすぐにでも取り組みたいところです。

2017/07/31 2017年7月度チェックテスト

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【問題1】

パフォーマンス・シェア・ユニットとは、一定期間における「業績」や「株価」に応じて交付する株式数が変動するタイプの株式報酬を言う。


正しい
間違い
【問題2】

改訂スチュワードシップ・コードに基づき運用機関が議決権行使を個別開示するようになると、議決権行使助言会社の影響力が増すことが予想される。


正しい
間違い
【問題3】

相談役・顧問制度を有する上場企業への風当たりが強くなっているため、相談役・顧問制度を有する上場企業は2割程度にまで激減した。


正しい
間違い
【問題4】

社外役員への退職慰労金の支給議案に関するISSのポリシーによると、対象者が社外監査役であれば反対推奨されるが、社外取締役であれば反対推奨されない。


正しい
間違い
【問題5】

法務省が検討を進めている会社法の見直し案が実現すると、取締役会設置会社において、株主が定款の定めまたは株主総会の決議によって取締役の個人別の報酬等の内容の決定を取締役会に委任した場合には、取締役会は、当該決定を取締役(代表取締役を想定)に委任できなくなる。


正しい
間違い
【問題6】

自社株対価TOBは、「TOBをする会社」が「TOBをされる会社の株主」に対し自社株式を発行する形のTOBであり、「TOBをされる会社の株主」にとっては何らメリットがないことから、普及が進んでいない。


正しい
間違い
【問題7】

GPIFがESG投資に係る指数を“直接”選択したことは、運用会社と企業のエンゲージメントにも好影響をもたらすと言える。


正しい
間違い
【問題8】

法務省が検討を進めている会社法の見直し案が実現すると、株式報酬の支払いにあたり、役員に付与した金銭報酬債権を現物出資財産として払い込んだ上で役員に対して株式を発行するという迂遠な方法による必要がなくなる。


正しい
間違い
【問題9】

選解任基準を踏まえて報酬のあり方を検討するという指名と報酬の関連性を考慮すると、任意の指名委員会と報酬委員会は別々に設置すべきである。


正しい
間違い
【問題10】

IFRS適用決定企業IFRS適用予定企業IFRS適用に関する検討を実施している会社の時価総額を合計すると、全上場企業の時価総額合計の30%に相当する。

IFRS適用決定企業 : 業務執行を決定する機関が、IFRSを適用することを決定して開示した企業
IFRS適用予定企業 : 業務執行を決定する機関がIFRSの適用を決定していないが、決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄にIFRSの適用を予定している旨を記載した企業
IFRS適用に関する検討を実施している会社 : 決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄でIFRSの適用に関する検討を実施している旨を記載した企業。なお、同欄において将来のIFRS適用の可能性のみに言及しているだけの企業は含まれない。


正しい
間違い

2017/07/31 2017年7月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
東京証券取引所の調査によると、IFRS適用決定企業IFRS適用予定企業IFRS適用に関する検討を実施している会社の会社数合計は171社とまだまだ少数派ですが、時価総額を合計すると全上場企業の時価総額合計の30%に相当することが分かりました。

IFRS適用決定企業 : 業務執行を決定する機関が、IFRSを適用することを決定して開示した企業
IFRS適用予定企業 : 業務執行を決定する機関がIFRSの適用を決定していないが、決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄にIFRSの適用を予定している旨を記載した企業
IFRS適用に関する検討を実施している会社 : 決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄でIFRSの適用に関する検討を実施している旨を記載した企業。なお、同欄において将来のIFRS適用の可能性のみに言及しているだけの企業は含まれない。

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2017/07/28 IFRS適用率、業種により大きな格差 時価総額ベースで8割超の業種も(会員限定)

2017/07/31 2017年7月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
東京証券取引所の調査によると、IFRS適用決定企業IFRS適用予定企業IFRS適用に関する検討を実施している会社の会社数合計は171社とまだまだ少数派ですが、時価総額を合計すると全上場企業の時価総額合計の30%に相当することが分かりました。

IFRS適用決定企業 : 業務執行を決定する機関が、IFRSを適用することを決定して開示した企業
IFRS適用予定企業 : 業務執行を決定する機関がIFRSの適用を決定していないが、決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄にIFRSの適用を予定している旨を記載した企業
IFRS適用に関する検討を実施している会社 : 決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄でIFRSの適用に関する検討を実施している旨を記載した企業。なお、同欄において将来のIFRS適用の可能性のみに言及しているだけの企業は含まれない。

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2017/07/28 IFRS適用率、業種により大きな格差 時価総額ベースで8割超の業種も(会員限定)

2017/07/31 2017年7月度チェックテスト第9問解答画面(不正解)

不正解です。
選解任基準を踏まえて報酬のあり方を検討するという指名と報酬の関連性を考慮すると、任意の指名委員会と報酬委員会を別々に設置するのではなく、指名・報酬委員会として一体化すべきと言えます(問題文は誤りです)。

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2017/07/25 報酬と指名の関係(会員限定)