2017/07/28 IFRS適用率、業種により大きな格差 時価総額ベースで8割超の業種も

日本の会計基準(以下、日本基準)を定める企業会計基準委員会(ASBJ)がIASB(国際会計基準審議会)との「東京合意」でIFRSへのコンバージェンス(収れん)を表明してから10年が経過した。その間、多くの日本基準がIFRSへのコンバージェンスを目的に改正されたものの、いまなお収益認識基準やのれんの償却などではIFRSとの隔たりが埋まらないままとなっている(収益認識基準については、2017年7月20日に「企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」が公表され、10月20日までパブリックコメントを募集中。2011年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用予定。収益認識基準の改正は6月26日のニュース「収益認識に関する会計基準導入の副作用」参照。のれんの償却を巡る論点は2017年1月26日のニュース「IFRS導入議論において役員が持つべき視点」参照)。

東京合意 : 2007年にASBJとIFRSを定めるIASBが行った、日本の会計基準をIFRSにコンバージェンス(収れん)する旨の合意。

こうした中、海外投資家の比率が高い上場企業を中心に広まっていったのがIFRSの任意適用だ。会計基準は利益を測定する“物差し”である以上、日本でしか通用しない物差し(日本基準)に基づき作成された財務諸表しかないとなると、そもそも海外の投資家による(投資対象の)選別のテーブルにも乗りにくい。世界で通用する物差しであるIFRSを適用することで、株価を下支えしてもらうことや円以外の通貨による資金調達が容易になる。

とはいえ、2017年6月30日までにIFRSにより作成された連結財務諸表または四半期連結財務諸表を提出済の上場企業(以下、「IFRS適用済企業」)は・・・

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2017/07/28 IFRS適用率、業種により大きな格差 時価総額ベースで8割超の業種も(会員限定)

日本の会計基準(以下、日本基準)を定める企業会計基準委員会(ASBJ)がIASB(国際会計基準審議会)との「東京合意」でIFRSへのコンバージェンス(収れん)を表明してから10年が経過した。その間、多くの日本基準がIFRSへのコンバージェンスを目的に改正されたものの、いまなお収益認識基準やのれんの償却などではIFRSとの隔たりが埋まらないままとなっている(収益認識基準については、2017年7月20日に「企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」が公表され、10月20日までパブリックコメントを募集中。2011年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用予定。収益認識基準の改正は6月26日のニュース「収益認識に関する会計基準導入の副作用」参照。のれんの償却を巡る論点は2017年1月26日のニュース「IFRS導入議論において役員が持つべき視点」参照)。

東京合意 : 2007年にASBJとIFRSを定めるIASBが行った、日本の会計基準をIFRSにコンバージェンス(収れん)する旨の合意。

こうした中、海外投資家の比率が高い上場企業を中心に広まっていったのがIFRSの任意適用だ。会計基準は利益を測定する“物差し”である以上、日本でしか通用しない物差し(日本基準)に基づき作成された財務諸表しかないとなると、そもそも海外の投資家による(投資対象の)選別のテーブルにも乗りにくい。世界で通用する物差しであるIFRSを適用することで、株価を下支えしてもらうことや円以外の通貨による資金調達が容易になる。

とはいえ、2017年6月30日までにIFRSにより作成された連結財務諸表または四半期連結財務諸表を提出済の上場企業(以下、「IFRS適用済企業」)は125社に過ぎない(東京証券取引所が「会計基準の選択に関する基本的な考え方」()の開示内容を分析した「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析について≪2017年3月決算会社まで≫」(2017年7月20日公表)参照)。また、「IFRS適用決定企業」27社や「IFRS適用予定企業」19社を合わせても171社と(下表参照)、全体の4%(171社/3,537社)にとどまっている。この171社に「IFRS適用に関する検討を実施している会社」214社を加えると385社となり、全上場企業の1割を超えるが、214社のうち実際にIFRSの任意適用に踏み切る企業がどの程度あるのかは未知数であることを考えると、「社数」という観点からのIFRS普及はまだ道半ばと言えるだろう。

IFRS適用決定企業 : 業務執行を決定する機関が、IFRSを適用することを決定して開示した企業
IFRS適用予定企業 : 業務執行を決定する機関がIFRSの適用を決定していないが、決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄にIFRSの適用を予定している旨を記載した企業
IFRS適用に関する検討を実施している会社 : 決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄でIFRSの適用に関する検討を実施している旨を記載した企業。なお、同欄において将来のIFRS適用の可能性のみに言及しているだけの企業は含まれない。

 上場会社は、決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄に会計基準の選択に関する基本的な考え方(例えば、IFRSの適用を検討しているか、その検討状況、適用予定時期)を記載することが求められている。
IFRS任意適用の状況 2017年6月30日現在の東証における社数 社数の合計
①IFRS適用済企業 125社
②IFRS適用決定企業 27社 ①+②=152社
③IFRS適用予定企業 19社 ①+②+③=171社

ところが、「時価総額」という観点に立つと、がらっと様相が変わる。171社の時価総額170兆円は、全上場企業の時価総額合計の30%に相当する。171社のうち92社がJPX日経400銘柄であり、これら92社の時価総額(170兆円)がJPX日経400の時価総額合計(446兆円)に占める比率は38%にも達する。

さらに、仮にIFRS適用に関する検討を実施している214社すべてがIFRSを任意適用したとすると、全上場企業の時価総額合計の52%に達し、半分超えが実現する。

IFRS適用に関する検討を実施している : 決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄でIFRSの適用に関する検討を実施している旨を記載した企業。なお、同欄において将来のIFRS適用の可能性のみに言及しているだけの企業は含まれない。

上述した東京証券取引所の調査に基づき、「IFRS任意適用率(時価総額ベース)が5割を超えた業種」と「任意適用企業数ゼロの業種」をまとめると次のとおり。IFRSを任意適用していない企業は、自社が採用している会計基準(日本基準)がもはや業界標準ではなくなっていないか、同規模の同業他社のIFRS採用動向はチェックするようにしたいところだ。

IFRS任意適用率(時価総額ベース) : 各業種における上表中の①から③の企業の時価総額の当該業種の時価総額に占める比率

IFRS任意適用率(時価総額ベース)が5割を超えた業種

順位 業種 IFRS任意適用企業数/当該業種に属する企業数 当該業種の時価総額に占める
IFRS任意適用企業の時価総額の比率
1 ゴム製品 4/17 86%
2 医薬品 16/66 76%
3 情報・通信業 17/397 71%
4 精密機器 6/51 67%
5 石油・石炭製品 1/12 57%
5 卸売業 12/314 57%

任意適用企業数ゼロの業種

業種 東証上場社数
空運業 5社
鉱業 7社
水産・農林業 11社
海運業 14社
電気・ガス業 24社
パルプ・紙 24社
倉庫・運輸関連 37社
繊維製品 52社
銀行業 86社

2017/07/27 インセンティブプランとしての時価発行新株予約権信託のメリット

昨今、役員向けに株式報酬を導入する上場企業が相次いでいるが、役員・従業員の両方を対象にしたインセンティブプランへのニーズも高い。こうした中でじわじわと採用企業数を増やしているのが、2017年4月11日掲載の「新用語・難解用語」でも取り上げた時価発行新株予約権信託だ。

時価発行新株予約権信託は、会社に費用が発生しないという点が特徴の一つとなっており、有償ストックオプションの代替プランとしても期待されるが(2017年5月12日のニュース「有償ストックオプションの会計処理案が公表、長年の議論に区切り」参照)、実は最大のメリットと言えるのは、従来の税制適格ストックオプションなどを上回るインセンティブ効果である。

従来の税制適格ストックオプションなどにおいては、発行会社は、ストックオプションの発行時点で付与対象者ごとの付与個数まで決定しなければならない(会社法238条1項、会社法243条1項)。その結果、下記のような弊害が指摘されている。・・・

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2017/07/27 インセンティブプランとしての時価発行新株予約権信託のメリット(会員限定)

昨今、役員向けに株式報酬を導入する上場企業が相次いでいるが、役員・従業員の両方を対象にしたインセンティブプランへのニーズも高い。こうした中でじわじわと採用企業数を増やしているのが、2017年4月11日掲載の「新用語・難解用語」でも取り上げた時価発行新株予約権信託だ。

時価発行新株予約権信託は、会社に費用が発生しないという点が特徴の一つとなっており、有償ストックオプションの代替プランとしても期待されるが(2017年5月12日のニュース「有償ストックオプションの会計処理案が公表、長年の議論に区切り」参照)、実は最大のメリットと言えるのは、従来の税制適格ストックオプションなどを上回るインセンティブ効果である。

従来の税制適格ストックオプションなどにおいては、発行会社は、ストックオプションの発行時点で付与対象者ごとの付与個数まで決定しなければならない(会社法238条1項、会社法243条1項)。その結果、下記のような弊害が指摘されている。

① 役職員の過去の実績などを手掛かりに将来の貢献度を予測して付与せざるを得ないため、実際の貢献度に応じた配分とならないことがある。
② 発行後に入社する役職員と既存役職員との間の不公平を避けるために、役職員の増加や入れ替わりがあるたびに何度も新たなストックオプションを発行しなければならず、煩雑な発行手続きや管理コストの負担が生じる。
③ ②の新規発行時に株価が上昇していた場合、行使価額も高くなるため、役職員が過去のストックオプションと同等の経済効果を期待できるようにするには発行規模を増やす必要がある。その結果、追加の希薄化が生じ、資本政策にも狂いが生じる。

一方、時価発行新株予約権信託では、新株予約権を役職員個人ではなく信託に付与したうえで、信託から役職員への分配ルールを定めておくことにより、実際の貢献度に応じた分配が可能となる。また、新たに採用された役職員に対しても、既存の役職員と同条件の時価発行新株予約権を分配することができるため、優秀な人材の獲得に当たってのアピール材料にもなる。

時価発行新株予約権信託においては行使条件(業績条件または株価条件)が設定されるのが通例であり、行使条件を満たすことで初めて権利行使が可能となることから、役職員に対する会社目標への意識付けをより一層強化する機能もある。

このように、時価発行新株予約権信託は、従来型の税制適格ストックオプションなどの課題を克服し、期待パフォーマンスとインセンティブの整合、入社タイミングによる不平等の解消および資本政策の安定を図ることができる新たなインセンティブプランとして導入を検討するに値しよう。

ただし、時価発行新株予約権信託に関する法務、税務などは非常に複雑であり、対応できる専門家が少ないのが現状となっている。導入を検討するにあたっては、法務・税務など複数の専門家の助言が必須となる点には留意したい。

2017/07/26 定時株主総会後倒しの理由に「猛暑」

2017年5月25日のニュース「株主総会を2か月後倒しの企業現る―決算日と異なる基準日を初めて設定」で紹介した窪田製薬ホールディングス(証券コード4596)に続き、決算日と異なる日に基準日を設定することにより定時株主総会を後倒し開催することを決めた企業がこの1か月で2社現れている。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

1社目が、・・・

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2017/07/26 定時株主総会後倒しの理由に「猛暑」(会員限定)

2017年5月25日のニュース「株主総会を2か月後倒しの企業現る―決算日と異なる基準日を初めて設定」で紹介した窪田製薬ホールディングス(証券コード4596)に続き、決算日と異なる日に基準日を設定することにより定時株主総会を後倒し開催することを決めた企業がこの1か月で2社現れている。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

1社目が、一部の新聞でも報道された4月決算会社の東和フードサービス(証券コード3329)だ。同社は(2017年)6月26日付のリリースで、定時株主総会の議決権の基準日を「毎年4月30日」から「毎年5月30日」に、株主総会の招集を「毎年7月末」から「8月末」とするための定款変更を行うとしていたが、昨日(2017年7月25日)開催された定時株主総会で本定款変更議案が可決された(同社の定款の11 条、12条参照)。そして7月24日には、5月決算会社のニイタカ(証券コード4465)も、定時株主総会の議決権の基準日を「毎年5月31日」から「毎年6月30日」に、定時株主総会の招集を「毎事業年度終了後3ヶ月以内」から「毎事業年度終了後4ヶ月以内」とするための定款変更を8月25日に開催する定時株主総会に提案することを公表している。

政府の未来投資戦略2017にも「グローバルな観点から最も望ましい対話環境の整備を図るべく、引き続き、・・・(中略)・・・、株主総会の日程や基準日を国際的にみて合理的かつ適切に設定するための環境整備の取組を進め、対話型株主総会プロセスの実現を目指す。」とあるとおり(115ページ一番下参照)、上場企業が基準日の変更を行いやすいよう環境整備が進められる中、基準日を変更する企業が出てくるのは歓迎されるべき傾向ではある。とはいえ、政府が株主総会日の後倒しを進める狙いの一つには6月総会の集中緩和があるだけに、3月決算会社で実施事例がない中で、定時株主総会が集中するとは言えない7月総会(4月決算)会社や8月総会(5月決算)会社による基準日変更が先行しているという事実は興味深い。

両社のリリースを見ると、定款変更の理由として、「株主の皆様との対話の機会を広げるため」(東和フードサービス)、「株主様との建設的な対話を促進するため」(ニイタカ)と、いずれも株主との対話促進を挙げているが、ニイタカはそれよりも上位に「猛暑の時期の株主総会開催を避けることにより、会場にお越しになる株主様の熱中症等のリスクを低減するため」という理由を掲載している。確かに近年の夏の異常な暑さの中での株主総会への参加は身体的な負担を伴うものであり、特に株主総会で目に付く高齢者層にはリスクがあるのは事実であろう。

一方で、もし猛暑の時期の株主総会開催は避けるのが望ましいといった風潮になれば、6月総会(3月決算)会社が基準日を変更して7月や8月に株主総会を開催するのは得策ではないということにもなりかねない。6月総会(3月決算)会社が基準日の変更を見送る理由として定着することがないよう願いたい。

2017/07/25 報酬と指名の関係

2017年株主総会シーズンでは株式報酬を導入する企業が相次いだが、その一方で、株式報酬の導入を見送ったところもある。単に株主総会までに検討が間に合わず、来年に先送りしたというケースもあるが、ウイリス・タワーズワトソンのコーポレートガバナンス・アドバイザリーグループでリーダーを務める櫛笥隆亮 氏によると、“意思を持った不導入”を決めたところもあるという。

「現状でも株主が満足するだけのROE等を達成しているため、報酬制度を変える必要がない」「株式報酬は自社のカルチャーには合わない」など、株式報酬を導入しない理由は様々だが、こうした企業が、株式報酬を導入する代わりに力を入れているのが「指名」、すなわち、企業価値を上げられる人物を取締役に選ぶということだ。役員在任中に、業績等の良し悪しで金額を調整する手段が株式報酬を含む役員報酬だとすれば、そもそも業績等に貢献できなかったら降格、さらには退任もあり得るという「指名」は、役員の評価方法としては、報酬よりも厳しいものと言える(櫛笥氏)。

もっとも、両者は分断された関係にはない。報酬評価は結局指名の判断にもフィードバックされるからだ。指名はいわば報酬評価の“ダイナミック版”であり、逆に報酬は指名の“予備的な評価”という位置付けになる(櫛笥氏)。この点は、経済産業省の・・・

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2017/07/25 報酬と指名の関係(会員限定)

2017年株主総会シーズンでは株式報酬を導入する企業が相次いだが、その一方で、株式報酬の導入を見送ったところもある。単に株主総会までに検討が間に合わず、来年に先送りしたというケースもあるが、ウイリス・タワーズワトソンのコーポレートガバナンス・アドバイザリーグループでリーダーを務める櫛笥隆亮 氏によると、“意思を持った不導入”を決めたところもあるという。

「現状でも株主が満足するだけのROE等を達成しているため、報酬制度を変える必要がない」「株式報酬は自社のカルチャーには合わない」など、株式報酬を導入しない理由は様々だが、こうした企業が、株式報酬を導入する代わりに力を入れているのが「指名」、すなわち、企業価値を上げられる人物を取締役に選ぶということだ。役員在任中に、業績等の良し悪しで金額を調整する手段が株式報酬を含む役員報酬だとすれば、そもそも業績等に貢献できなかったら降格、さらには退任もあり得るという「指名」は、役員の評価方法としては、報酬よりも厳しいものと言える(櫛笥氏)。

もっとも、両者は分断された関係にはない。報酬評価は結局指名の判断にもフィードバックされるからだ。指名はいわば報酬評価の“ダイナミック版”であり、逆に報酬は指名の“予備的な評価”という位置付けになる(櫛笥氏)。この点は、経済産業省のコーポレト・ガバナンスシテム研究会(通称「CGS研究会」)が今年(2017) 年 3月 10 日にとりまとめたCGS研究会報告書「実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引(CGSレポート)」でも言及されている。

4.3. 指名委員会・報酬委員会の活用<参考:企業の取組例>(44ページ)
・社長の評価に関して、報酬委員会を一緒に使うのは非常に効き目がある。1 年で業績が下がったが、しかしまだ辞めさせるかどうかわからない、もう少し頑張ってもらいたいというときには、報酬委員会を使って、その報酬の方で社長を査定していく。変動報酬の方で意思を取締役会として表示すれば、相当にいろいろな意味でその人間の選解任に対する、将来の解任に対するある種の予備的な判定をしたというような格好にもなるし、あるいは逆にもう少し頑張れということを意思表示したということにもなる。

84ページ【別紙3:指名委員会・報酬委員会の実務指針の提案】
(指名委員会と報酬委員会の関係)
○ 社長・CEO の評価をする上で、社長・CEO に問題があると認められる場合においても、指名委員会でいきなり解任する(あるいは再任しない)という厳格な選択を行う前に、報酬委員会における評価を通じて、経営の改善に取り組むようシグナルを発することが考えられる。

実際、最近は指名における選解任基準を踏まえて報酬制度を設計するなど、両者のつながりを意識する企業がかなり出てきている。指名と報酬それぞれにどの程度ウェイトを置くかは企業の判断であるため、結果として自社のスタンスを投資家に示すことにもなる(櫛笥氏)。

こうした企業の意識は、機関設計にも表れつつある。コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①が、役員の指名・報酬について「任意の諮問委員会」の設置を勧めていることから、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社が任意の指名委員会、報酬委員会を設置するケースが急増しているが、このように任意のものを含め委員会を設置している企業の半数が両者を一体にした「指名・報酬委員会」を設置している。

逆に言うと、両者をバラバラに設置している企業も半数程度存在している。この点、櫛笥氏は、「選解任基準を踏まえて報酬のあり方を検討するという両者の関連性を踏まえると、「指名・報酬委員会」といった形で両者を一体化することは検討に値する」と話す。指名委員会、報酬委員会を別々に設置している企業は、一度取締役会で両委員会の統合について議論してみてもよいだろう。

<取材にご協力いただいたウイリス・タワーズワトソン 櫛笥隆亮氏の連絡先>
ウイリス・タワーズワトソン ディレクター
コーポレートガバナンス・アドバイザリーグループ リーダー
櫛笥 隆亮
03-3581-6428
takaaki.kushige@willistowerswatson.com

2017/07/24 従業員のペイ・フォー・パフォーマンス

2017年6月株主総会シーズンでもインセンティブ型の役員報酬を導入する上場企業が相次いだ。これは企業価値を向上させるうえで有効な取り組みと言えるが、役員報酬改革に続き、多くの上場企業がそう遠くない将来において迫られる可能性があるのが、・・・

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2017/07/24 従業員のペイ・フォー・パフォーマンス(会員限定)

2017年6月株主総会シーズンでもインセンティブ型の役員報酬を導入する上場企業が相次いだ。これは企業価値を向上させるうえで有効な取り組みと言えるが、役員報酬改革に続き、多くの上場企業がそう遠くない将来において迫られる可能性があるのが、従業員の報酬改革だ。現在の人事制度を維持すれば、いずれ従業員を抱え切れなくなる企業が続出するだろう。課長になると年収が800万円になり、出世しない限りそこから年収が大きく増えることもない代わりに、大きく下がることもない。このような仕組みがフリーライダーと呼ばれる生産性の低い(しかし給料は高い)中高年社員を生む温床となっている。グローバルを含む企業間競争が厳しさを増す中で、一部の恵まれた企業を除き、このような“ぬるい”仕組みが維持できるとは考えにくい。

フリーライダー : ここでは、会社に貢献せずに給料をもらい続ける社員を指す。

すべての役職員にとって真にフェアな仕組みとするのであれば、余剰人員をカットするということも考えられる。ただ、日本では解雇法制が厳しい(新用語・難解用語辞典「整理解雇の4要素」参照)うえに、企業イメージ(及びそれをベースとした優秀な人材の確保)の毀損を回避するという観点からも現実的ではない。そこでもし終身雇用を維持するとすれば、ポジションや給料については完全な実力主義に基づくという「ペイ・フォー・パフォーマンス」とトレードオフにしなければ、日本企業は生き残れないだろう。具体的には、定年まで在籍することを認める代わりに、実力のない従業員の給料は若手社員並みに据え置くといった大胆な施策が必要になる。

仮にフリーライダーの中高年社員の給料を維持するために女性社員の給料が低く抑えられているとしたら、その企業でダイバーシティが実現することは永久にない。労働組合の同意などクリアすべき課題は多いが、従業員のペイ・フォー・パフォーマンスの徹底はいずれ日本企業が乗り越えなければならない壁と言えそうだ。