日本の会計基準(以下、日本基準)を定める企業会計基準委員会(ASBJ)がIASB(国際会計基準審議会)との「東京合意」でIFRSへのコンバージェンス(収れん)を表明してから10年が経過した。その間、多くの日本基準がIFRSへのコンバージェンスを目的に改正されたものの、いまなお収益認識基準やのれんの償却などではIFRSとの隔たりが埋まらないままとなっている(収益認識基準については、2017年7月20日に「企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」が公表され、10月20日までパブリックコメントを募集中。2011年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用予定。収益認識基準の改正は6月26日のニュース「収益認識に関する会計基準導入の副作用」参照。のれんの償却を巡る論点は2017年1月26日のニュース「IFRS導入議論において役員が持つべき視点」参照)。
東京合意 : 2007年にASBJとIFRSを定めるIASBが行った、日本の会計基準をIFRSにコンバージェンス(収れん)する旨の合意。
こうした中、海外投資家の比率が高い上場企業を中心に広まっていったのがIFRSの任意適用だ。会計基準は利益を測定する“物差し”である以上、日本でしか通用しない物差し(日本基準)に基づき作成された財務諸表しかないとなると、そもそも海外の投資家による(投資対象の)選別のテーブルにも乗りにくい。世界で通用する物差しであるIFRSを適用することで、株価を下支えしてもらうことや円以外の通貨による資金調達が容易になる。
とはいえ、2017年6月30日までにIFRSにより作成された連結財務諸表または四半期連結財務諸表を提出済の上場企業(以下、「IFRS適用済企業」)は125社に過ぎない(東京証券取引所が「会計基準の選択に関する基本的な考え方」(*)の開示内容を分析した「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析について≪2017年3月決算会社まで≫」(2017年7月20日公表)参照)。また、「IFRS適用決定企業」27社や「IFRS適用予定企業」19社を合わせても171社と(下表参照)、全体の4%(171社/3,537社)にとどまっている。この171社に「IFRS適用に関する検討を実施している会社」214社を加えると385社となり、全上場企業の1割を超えるが、214社のうち実際にIFRSの任意適用に踏み切る企業がどの程度あるのかは未知数であることを考えると、「社数」という観点からのIFRS普及はまだ道半ばと言えるだろう。
IFRS適用決定企業 : 業務執行を決定する機関が、IFRSを適用することを決定して開示した企業
IFRS適用予定企業 : 業務執行を決定する機関がIFRSの適用を決定していないが、決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄にIFRSの適用を予定している旨を記載した企業
IFRS適用に関する検討を実施している会社 : 決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄でIFRSの適用に関する検討を実施している旨を記載した企業。なお、同欄において将来のIFRS適用の可能性のみに言及しているだけの企業は含まれない。
* 上場会社は、決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄に会計基準の選択に関する基本的な考え方(例えば、IFRSの適用を検討しているか、その検討状況、適用予定時期)を記載することが求められている。
| IFRS任意適用の状況 |
2017年6月30日現在の東証における社数 |
社数の合計 |
| ①IFRS適用済企業 |
125社 |
- |
| ②IFRS適用決定企業 |
27社 |
①+②=152社 |
| ③IFRS適用予定企業 |
19社 |
①+②+③=171社 |
ところが、「時価総額」という観点に立つと、がらっと様相が変わる。171社の時価総額170兆円は、全上場企業の時価総額合計の30%に相当する。171社のうち92社がJPX日経400銘柄であり、これら92社の時価総額(170兆円)がJPX日経400の時価総額合計(446兆円)に占める比率は38%にも達する。
さらに、仮にIFRS適用に関する検討を実施している214社すべてがIFRSを任意適用したとすると、全上場企業の時価総額合計の52%に達し、半分超えが実現する。
IFRS適用に関する検討を実施している : 決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」欄でIFRSの適用に関する検討を実施している旨を記載した企業。なお、同欄において将来のIFRS適用の可能性のみに言及しているだけの企業は含まれない。
上述した東京証券取引所の調査に基づき、「IFRS任意適用率(時価総額ベース)が5割を超えた業種」と「任意適用企業数ゼロの業種」をまとめると次のとおり。IFRSを任意適用していない企業は、自社が採用している会計基準(日本基準)がもはや業界標準ではなくなっていないか、同規模の同業他社のIFRS採用動向はチェックするようにしたいところだ。
IFRS任意適用率(時価総額ベース) : 各業種における上表中の①から③の企業の時価総額の当該業種の時価総額に占める比率
IFRS任意適用率(時価総額ベース)が5割を超えた業種
| 順位 |
業種 |
IFRS任意適用企業数/当該業種に属する企業数 |
当該業種の時価総額に占める
IFRS任意適用企業の時価総額の比率
|
| 1 |
ゴム製品 |
4/17 |
86% |
| 2 |
医薬品 |
16/66 |
76% |
| 3 |
情報・通信業 |
17/397 |
71% |
| 4 |
精密機器 |
6/51 |
67% |
| 5 |
石油・石炭製品 |
1/12 |
57% |
| 5 |
卸売業 |
12/314 |
57% |
任意適用企業数ゼロの業種
| 業種 |
東証上場社数 |
| 空運業 |
5社 |
| 鉱業 |
7社 |
| 水産・農林業 |
11社 |
| 海運業 |
14社 |
| 電気・ガス業 |
24社 |
| パルプ・紙 |
24社 |
| 倉庫・運輸関連 |
37社 |
| 繊維製品 |
52社 |
| 銀行業 |
86社 |