2017/07/21 株式報酬がシンプルに

「株式報酬」というと、文字通り株式をそのまま付与すればよいように見えるが、日本ではそれはできない。これは、日本の会社法が、株式の発行は金銭等の「払込み」があることを前提としているからだ(会社法199条1項2号~4号)。したがって、欧米型の株式報酬のように「株式をタダであげる(無償発行)」ということは、日本の会社法上では認められない(「タダ=払込みゼロ」を意味するため。2015年12月2日のニュース「日本で株式報酬を支給できない理由」参照)。

そこで、経済産業省が「株式報酬=役員に付与した金銭報酬債権を現物出資財産として払い込んだ上で役員に対して株式を発行するもの」と整理し、これを法務省が了承したことで、上記の「株式の発行は金銭等の「払込み」を前提とする」という会社法上の問題がクリアされ、日本でも株式報酬が実現したという経緯がある(2016年9月9日のニュース「ストック・オプションか?リストリクテッド・ストックか?」の冒頭、経済産業省 法的論点に関する解釈指針14ページ 「2. 考えられる方法」参照)。ただ、このスキームに対しては「テクニカルで分かりにくい」との指摘があり、「我が国に株式報酬を定着させるためにも、欧米のように株式を直接付与できるようにすべき」との声も聞かれる。

こうした中、法務省の法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、・・・

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2017/07/21 株式報酬がシンプルに(会員限定)

「株式報酬」というと、文字通り株式をそのまま付与すればよいように見えるが、日本ではそれはできない。これは、日本の会社法が、株式の発行は金銭等の「払込み」があることを前提としているからだ(会社法199条1項2号~4号)。したがって、欧米型の株式報酬のように「株式をタダであげる(無償発行)」ということは、日本の会社法上では認められない(「タダ=払込みゼロ」を意味するため。2015年12月2日のニュース「日本で株式報酬を支給できない理由」参照)。

そこで、経済産業省が「株式報酬=役員に付与した金銭報酬債権を現物出資財産として払い込んだ上で役員に対して株式を発行するもの」と整理し、これを法務省が了承したことで、上記の「株式の発行は金銭等の「払込み」を前提とする」という会社法上の問題がクリアされ、日本でも株式報酬が実現したという経緯がある(2016年9月9日のニュース「ストック・オプションか?リストリクテッド・ストックか?」の冒頭、経済産業省 法的論点に関する解釈指針14ページ 「2. 考えられる方法」参照)。ただ、このスキームに対しては「テクニカルで分かりにくい」との指摘があり、「我が国に株式報酬を定着させるためにも、欧米のように株式を直接付与できるようにすべき」との声も聞かれる。

こうした中、法務省の法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、株式の無償発行ができるよう会社法を改正することを検討している。具体的には、取締役の報酬として株式を交付するために株式を発行または自己株式を処分する場合には、金銭の払込みを要しないとすることが検討されている。

また、取締役の報酬として株式を無償発行する場合には、有利発行規制(会社法199条3項)の適用も問題となる。会社法上、株式の有利発行には株主総会の特別決議が必要となる。この点については、新株予約権と同様の仕組みを導入することが検討されている。新株予約権を発行する際には金銭の払込みを要しないとすることができるが(会社法238条1項2号)、同様の仕組みを取締役の報酬として株式を無償発行する場合にも導入する。

有利発行 : 例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行することをいう。
特別決議 : 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議。

上記の会社法改正が実現する可能性は高い。日本の株式報酬制度もいよいよ欧米型に近付いていくことになりそうだ。

2017/07/20 企業によるESGへの取り組みが評価されるために

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が今月(2017年7月)3日に新しいESG指数の選定結果を公表し、360社ほどの日本企業が指数の構成銘柄に選定された(2017年7月6日のニュース「GPIFの新しいESG指数に約360社が選定」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。早速、自社がESG指数に組み入れられたことを自社ウェブサイトで公表し、アピールする企業もある。

その一方で、組入銘柄の一部を見て首をかしげる運用会社もある。・・・

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2017/07/20 企業によるESGへの取り組みが評価されるために(会員限定)

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が今月(2017年7月)3日に新しいESG指数の選定結果を公表し、360社ほどの日本企業が指数の構成銘柄に選定された(2017年7月6日のニュース「GPIFの新しいESG指数に約360社が選定」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。早速、自社がESG指数に組み入れられたことを自社ウェブサイトで公表し、アピールする企業もある。

その一方で、組入銘柄の一部を見て首をかしげる運用会社もある。労務問題でここ数か月株価が下がり続けているような銘柄も入っているからだ。GPIFの高橋理事長が、ESG投資について「株価水準にかかわらず進める」と発言した旨の新聞報道も見られたが、GPIFの第一の責任は運用成績を上げることであるはずだ。近年、低成長の国では株式市場だけで十分な運用成績を上げられない状況になっており、英国やオランダのように年金基金に対しレギュレーションでESG投資が求められている国の年金基金は、G(ガバナンス)はさておき、インフラの改善や病院・学校の建設、水や農作物の改良等に関するテクノロジーなどE(環境)とS(社会)については、プライベート・エクイティ(未上場企業の株式)を組み入れるケースが目に付く。その方が確実にリターンを見込むことができ、効率が良いからだ。GPIFも国民の年金を預かる以上、ESG投資に戦略を持って欲しいものである。

ESG投資 : ESGに優れた企業に投資すること。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

とはいえ、今回のようにGPIFが指数を直接選択すれば、GPIFから運用委託を受けている運用会社は、もはや当該指数と連動して銘柄に投資するしかなくなる。これは、運用会社と企業のエンゲージメントにも影響を及ぼす。なぜなら、企業はエンゲージメントの場面で運用会社から何を言われようとも、指数に組み入れられている限りは株式を保有してもらえると考えがちだからだ。その結果、企業はエンゲージメントよりもESG指数を作っている米国のMSCI社(今回も「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数(ESG総合型)」「MSCI日本株女性活躍指数(テーマ型)」という2つのESG指数が採用)などにどう評価されるかの方が重要になってしまうことにもなりかねない。

スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードの導入など一連のガバナンス改革が目指してきたのは「企業と投資家の対話の促進」であるはずだ。GPIFは株式運用約30兆円のうち1兆円のESG投資を行うとしているが、運用会社と企業との対話を円滑にするため、また、その前提として運用会社が企業のESGへの取り組みについて判断する機会を確保するためにも、せめて指数は各運用会社に選ばせてもよかったのではないだろうか。この点については、ESGに真剣に取り組んでいるにもかかわらず、たまたま今回の指数に組み入れられなかったような企業も声を上げるべきだろう。

もっとも、ガバナンスの改善やE(環境)、S(社会)への取り組みはもはや“ESG投資”という括りだけでなく、広く企業評価の場面で意識されるようになってきている。投資家はESGへの取り組みが「どう収益に貢献したか」を見ることになる。一方、企業はESGへの取り組みが「事業の内容(ビジネスモデル)」に対しどのように貢献したかを説明することが必要になろう。EUでは、企業がESGなど非財務情報として何を投資家に開示すべきかを制度化する「EU非財務開示指令」を導入する動きがあるが、この非財務開示指令の中でもやはり「事業の説明」が求められている。いかなる取り組みも事業と整合性があるかを投資家が評価できるようにするためだ。日本の開示制度やESG投資の手法も、収益に貢献するESGへの取り組みが評価され、企業と投資家の対話が進むことに寄与する方向に向かうべきではないだろうか。

2017/07/19 (新用語・難解用語)自社株対価TOB(会員限定)

自社(または親会社)の株式を対価とする株式公開買付(TOB)のこと(下図参照)。

株式公開買付(TOB) : 特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めること。TOBとは「Take-Over Bid」の略。

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自社株対価TOBは、本来であれば会社法上の規制を受ける。一つは「有利発行」規制である。自社株対価TOBを行う場合、TOBが成立するように(株主がTOBに応じるように)、TOBする会社(上図のA社)は、TOBされる会社(B社)の株主に対し、有利な価格で自社株式を発行(例えば、時価7万円のB社株式に対し、時価10万円相当のA社株式を発行)する必要がある(そうしなければ、B社株主がTOBに応じない可能性がある)。会社法上、株式の有利発行には株主総会の特別決議が必要となる。もう一つが「現物出資規制」である。自社株対価TOBでは、B社株主は金銭を払い込むのではなく、B社株式をA社に現物出資することになるが、会社法上、現物出資が行われる場合には、A社は「検査役」を選任し、現物出資財産の価額を調査させる必要がある。そもそも現物出資財産の値付けが適正に行われていなければ、A社あるいはB社の株主が損害を被ることになるからだ。

有利発行 : 例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行することをいう。
特別決議 : 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議。

ただし、自社株対価TOBについて産業競争力強化法に基づき国の認定を受けた場合には、有利発行規制、現物出資規制ともに適用されないことになっている。ところが、今のところ産業競争力強化法を活用した自社株対価TOBは広がっていないのが実情。これは、自社株対価TOBが行われた場合、TOBに応じた株主(B社株主)に対して課税が生じるおそれがあるためだ。上述のとおり、自社株対価TOBでは、B社株主は現物出資する株式(時価7万円)よりも高い金額のA社株式(時価10万円)を得ることになるのが通常だが、この場合、その差額は譲渡益として課税対象(個人株主であれば所得税、法人株主であれば法人税)になってしまう。自社株対価TOBでは、B社株主は実際に株式を売却してキャッシュを得るわけではないため納税は重荷となり、TOBにも応じなくなる可能性がある。このような状況の下では、A社としても自社株対価TOBに踏み切りづらいと言える。

産業競争力強化法 : 日本経済の3つの歪みとされる「過剰規制」「過小投資」「過当競争」を是正するため、収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編などの企業の取り組みを後押しする法律。一例として、企業が生産性の向上を目指す事業活動の計画を立て、その計画について国の認定を受ければ、税制優遇や会社法の規制の緩和などの恩恵がある。

経済産業省はかつて(2012年、2013年度税制改正時)、この課税を行わないよう税制改正を財務省に要望し、財務省が「自社株対価TOBの実績がない」という理由でこれを却下したことがあるが、最近この議論が再浮上している。2017年6月21日のニュース『「働き方改革」としての四半期開示のあり方』でお伝えしたとおり、政府の未来投資会議は(2017年)6月9日に「未来投資戦略2017-Society 5.0の実現に向けた改革―」を閣議決定したが、そこには「事業再編の円滑化」として「事業ポートフォリオの迅速な転換など大胆な事業再編を促進するための方策について関係制度の検討を行い、来年度を目途に制度的対応を講ずる」との方針が盛り込まれている(32ページ参照)。当フォーラムの取材によると、これは自社株対価TOBを想定している模様。もし上述した課税の問題が解決すれば、日本でも自社株対価TOBが普及する可能性もある。政府における検討の行方が注目されるところだ。

未来投資会議 : AI(人口知能)やIoT(Internet of Things=モノのインターネット:あらゆるモノがインターネットで接続される状態)などの第4次産業革命をはじめとする将来の成長に資する分野における大胆な投資を官民連携して進めるとともに、「未来への投資」の拡大に向けた成長戦略と構造改革を加速させるために首相官邸に設けられた会議体。「日本再興戦略2016」(2016年6月2日閣議決定)に盛り込まれた「第4次産業革命官民会議」の役割も果たしている。

2017/07/19 (新用語・難解用語)自社株対価TOB

自社(または親会社)の株式を対価とする株式公開買付(TOB)のこと(下図参照)。・・・

株式公開買付(TOB) : 特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めること。TOBとは「Take-Over Bid」の略。

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2017/07/18 ガバナンス弱体化の一因となる代取の権力の源泉にメス

規模が小さい企業や、市場の規模拡大・変化のスピードが早い業界に属する企業などが成長するためには、経営トップ(代表取締役)の強力なリーダーシップが必要となるが、それも行き過ぎればガバナンスの弱体化という弊害を生むことになる。

2015年5月1日に施行された改正会社法やコーポレートガバナンス・コードの導入を受け、ここ数年で上場企業における導入が一気に進んだ社外取締役制度は、代表取締役の独善化を防ぐ役割を担っているものの、仮に社内取締役の大多数が“イエスマン”であれば、せっかく選任した社外取締役も多勢に無勢となり、存在感を十分に発揮できない可能性がある。

改正会社法 : 2015年の会社法改正により、社外取締役を選任していない上場会社は、株主総会や事業報告で「社外取締役を置くことが相当ではない理由」を開示することが求められることとなった。

社内取締役がイエスマンとなる理由は主に2つある。1つは代表取締役の株式の保有割合の大きさであり(代表取締役自身の株式保有割合は低くても、創業家一族だったり、大株主の関係者だったりする場合も同様)、もう1つは・・・

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2017/07/18 ガバナンス弱体化の一因となる代取の権力の源泉にメス(会員限定)

規模が小さい企業や、市場の規模拡大・変化のスピードが早い業界に属する企業などが成長するためには、経営トップ(代表取締役)の強力なリーダーシップが必要となるが、それも行き過ぎればガバナンスの弱体化という弊害を生むことになる。

2015年5月1日に施行された改正会社法やコーポレートガバナンス・コードの導入を受け、ここ数年で上場企業における導入が一気に進んだ社外取締役制度は、代表取締役の独善化を防ぐ役割を担っているものの、仮に社内取締役の大多数が“イエスマン”であれば、せっかく選任した社外取締役も多勢に無勢となり、存在感を十分に発揮できない可能性がある。

改正会社法 : 2015年の会社法改正により、社外取締役を選任していない上場会社は、株主総会や事業報告で「社外取締役を置くことが相当ではない理由」を開示することが求められることとなった。

社内取締役がイエスマンとなる理由は主に2つある。1つは代表取締役の株式の保有割合の大きさであり(代表取締役自身の株式保有割合は低くても、創業家一族だったり、大株主の関係者だったりする場合も同様)、もう1つは代表取締役が「役員報酬の決定権」(役員報酬は人事と連動性があるため、「人事権」とも言える)を握っていることである。

会社法上、役員報酬は“お手盛り防止”の観点から株主総会で決定するのが原則とされている(会社法361条1項)。ただ現実には、株主総会で各取締役個人の報酬額が明らかとなることを避けるために、取締役の個人別の報酬の内容等の決定は取締役会に委任している企業が多い。さらに、取締役会がその決定を代表取締役に“再一任”するケースもよく見受けられる。このように報酬決定権を背景に代表取締役が各取締役に“睨み”を効かせることにより、イエスマンは増えていく。このような状態は、取締役会による代表取締役に対する監督機能の弱体化とも言える。

こうしたなか浮上しているのが、代表取締役への再一任を禁止するよう会社法を改正する案だ。具体的には、取締役会設置会社において、株主が定款の定めまたは株主総会の決議によって取締役の個人別の報酬等の内容の決定を取締役会に委任した場合には、取締役会は、当該決定を取締役(代表取締役を想定)に委任することができないとするものであり、現在、法制審議会会社法制部会で検討が進んでいる(法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第3回会議(2017年6月21日開催)の部会資料4「役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備に関する論点の検討」6ページ参照)。これは、代表取締役から報酬決定権をはく奪し、取締役会に移管することを通じたガバナンス強化策と評価できる。

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①が、役員の指名・報酬について「任意の諮問委員会」の設置を勧めていることを受け、昨今、任意の報酬委員会を設置する監査役会設置会社や監査等委員会設置会社が増えているが、任意の報酬委員会では「報酬水準・報酬構成の妥当性」や「インセンティブ制度の仕組みの妥当性」といった制度そのものに関する項目の審議がメインとなっているのが実態であり、「役員個人別の実際支給額の妥当性」を審議している企業は7割弱に留まっている(ウイリス・タワーズワトソンの調査結果)。上述の会社法改正が実現すれば、任意の報酬委員会も個々の役員の報酬額に目を向けざるを得なくなり、その影響力や重要性も増すことになりそうだ。

2017/07/14 譲渡制限付株式報酬への賛成率が低かった2つのパターン

2017年6月の株主総会シーズンにおける注目テーマの一つとなった役員報酬議案だが、否決された会社提案の議案が少なくとも3つ明らかになっている。そのうち2つは役員退職慰労金の贈呈議案であり、もう1つは・・・

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2017/07/14 譲渡制限付株式報酬への賛成率が低かった2つのパターン(会員限定)

2017年6月の株主総会シーズンにおける注目テーマの一つとなった役員報酬議案だが、否決された会社提案の議案が少なくとも3つ明らかになっている。そのうち2つは役員退職慰労金の贈呈議案であり、もう1つはストックオプションの付与議案であった。

退職慰労金の否決事例はイリソ電子工業(賛成率47.5%)とT&K TOKA(同48.3%)である。いずれも退任する社外監査役に支給する内容であり、ISSの「対象者に社外取締役もしくは社外監査役が含まれる場合は反対推奨」としているポリシーに抵触している。他にも可決こそしたものの賛成率が70%に達していない事例が10件ほど見つかったが、創業家と経営陣が対立している1社(後述)を除いて、例外なく対象者に監査役が含まれている。“社内”監査役であればISSのポリシーには反しないものの、実際の議決権行使の場面では反対票を投じた機関投資家が多かったものと推測される。

ストックオプションの否決事例は大戸屋ホールディングスで、賛成率は63.1%にとどまった(ストックオプションは「有利発行」に該当する場合には特別決議(3分の2以上)が必要とされる(会社法199条3項、309条2項5号))。もっとも同社は現在、創業家と経営陣が対立関係にあり、いずれの議案も60%台の賛成率となっている。同社のストックオプションはISSのポリシーに抵触するような制度設計でもないため、“特殊な事例”と考えて差し支えないだろう。

有利発行 : 例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行することをいう。役職員に付与するストックオプションは「報酬等」であるため(会社法361条1項等)、無償で発行する場合であっても有利発行には当たらず、株主総会の特別決議を経る必要はないと考えられているが、実務上は念のため特別決議とすることがある。

また、2017年6月総会シーズンの大きな特徴として、譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック=RS)を付与するために報酬金額を決定する役員報酬議案が数多く上程されたことが挙げられる。EDINETで臨時報告書を調べると、約100社が同議案の議決権行使結果を開示している。そのうち約10社では賛成率が70%に達しておらず、投資家は会社ごとに是々非々で議決権を行使していることが窺われる。以下、譲渡制限付株式報酬に関する議案への反対率が高かった2つのパターンを紹介しよう。

譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック=RS) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬

①対象に監督サイドの役員が含まれている場合

社名 対象 賛成率
第一工業製薬 監査役 55.0%
T&K TOKA 社外含む取締役 62.6%
吉野家HD 監査役 67.7%

上述の退職慰労金と同じく、社外取締役や監査役への支給を望ましくないと考える機関投資家は少なくない。ISSのポリシー上は問題ないものの、株主に機関投資家が多い場合には多くの反対票が集まる可能性がある。

②ROE(自己資本利益率)が低水準である場合

社名 対象 5期ROE 賛成率
東洋炭素 社外除く取締役 1.9% 57.0%
イノテック 社外含む取締役 2.7% 68.1%
吉野家HD 社外除く取締役 4.4% 68.7%

対象者が業務執行役員であるなど制度設計上は問題なくても、ROEが低調な場合には賛成率も低くなっている。業務執行の実績が芳しくない中で新たな報酬を付与すれば、投資家の反感を買いかねないということだろう。