エクスプレイン事項への対応やコンプライの中身が問題に
コーポレードガバナンスは何かの基準を満たせばそれで終わりというものではなく、常に現状を確認し、改善を進めていくことが求められます。これは、コーポレートガバナンス・コードへの対応を記載する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」(以下、コーポレートガバナンス報告書)についても同様です。
特に今年(2017年)の株主総会後に提出されるコーポレートガバナンス報告書については、投資家は昨年の報告書からどのようにガバナンス対応が改善点したのかに注目しています。2015年6月にコーポレートガバナンス・コードが導入されて以来、同コードに対応したコーポレートガバナンス報告書(「定時株主総会後遅滞なく」提出されるもの)の提出は今回で少なくとも3回目(3月決算会社の場合)となりますが、1回目の提出(2015年12月)から2回目の提出(2016年6月)までの期間がわずか半年しかなかったため、一部の企業、一部の項目を除いて大きな変化は見られませんでした。したがって、投資家は、3回目の提出となる今回こそが、改善点が明確になる初めての機会と捉えているのです。
以下、機関投資家である筆者の視点から、2017年6月総会後に提出するコーポレートガバナンス報告書を書くうえで意識して欲しい点をまとめてみます。
【本課題の主なポイント】
○コーポレートガバナンス報告書の記載事項全体でコードへの対応を示す
○コンプライ開示において必要ならば開示11項目以外の原則も任意で記載する
○コンプライ/エクスプレインの根拠や改善の取り組みを定量的に説明する
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コーポレートガバナンス報告書“全体”でコードへの対応を表現する
コーポレートガバナンス報告書の冒頭では、コーポレートガバナンス・コードのうち、実施(コンプライ)しない原則についての「エクスプレイン(実施しない理由)」と、政策保有に関する方針(原則1-4)、取締役会の実効性評価(補充原則4-11③)など11の開示原則の実施状況の記載が求められています。しかし、コード対応に関係する記載は、この冒頭部分だけにとどまりません。また、他の箇所における記載内容についても、各社におけるガバナンス改善への取り組みを踏まえて、継続的に見直す必要があります。
下表は、コーポレートガバナンス報告書の各項目とコーポレートガバナンス・コードの各原則の対応関係をまとめたものです。コーポレートガバナンス報告書を作成するうえで参考にしてみてください。
| Ⅰコーポレートガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成、企業属性その他の基本情報 |
| 1.基本的な考え方 |
1-3、2-1、3-1(i) |
| 【コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由】 |
全原則 |
| 【コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示】 |
全原則 |
| 2.資本構成 |
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| 【大株主の状況】 |
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| 3.企業属性 |
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| 4.支配株主との取引等を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針 |
1-7 |
| 5.その他コーポレートガバナンスに重要な影響を与えうる特別な事情 |
5-1③ |
| Ⅱ経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレートガバナンス体制の状況 |
| 1.機関構成・組織運営等に係る事項 |
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| 【取締役関係】 |
4-6、4-7、4-10、4-10① |
| 【監査役関係】 |
3-2、3-2①、4-4、4-4① |
| 【独立役員関係】 |
4-9、4-11② |
| 【インセンティブ関係】 |
4-2① |
| 【取締役報酬関係】 |
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| 【社外取締役(社外監査役)のサポート体制】 |
4-8①、4-8②、4-12、4-12①、4-13、4-13①、4-13②、4-13③、4-14① |
| 2.業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項 |
1-1②、1-6、2-3①、3-1(iii)(iv)、3-2②、4-1、4-1①、4-1③、4-2、4-3、4-3①、4-3②、4-14② |
| 3.現状のコーポレートガバナンス体制を選択している理由 |
3-1(ii)、4-8、4-11、4-11①、4-11③ |
| Ⅲ株主その他の利害関係者に関する施策の実施状況 |
| 1.株主総会の活性化及び議決権行使の円滑化に向けての取組み状況 |
1-1、1-1①、1-2、1-2①、1-2②、1-2③、1-2④、1-2⑤ |
| 2.IRに関する活動状況 |
3-1①、3-1②、4-1②、5-1、5-1①、5-1②、5-2 |
| 3.ステークホルダーの立場の尊重に係る取組み状況 |
2-2、2-2①、2-3、2-4、4-5 |
| Ⅳ内部統制システム等に関する事項 |
| 1.内部統制システムに関する基本的な考え方及びその整備状況 |
2-5、2-5① |
| 2.反社会的勢力排除に向けた基本的な考え方及びその整備状況 |
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| Ⅴその他 |
| 1.買収防衛策の導入の有無 |
1-5、1-5① |
| 2.その他コーポレートガバナンス体制等に関する事項 |
1-1③、1-4 |
投資家は「コンプライの程度」等に疑念
上述のとおり、東証の上場規則上、コーポレートガバナンス報告書に記載が求められるのは、コンプライしない原則についての「エクスプレイン」と11の開示原則の実施状況であり、11原則以外のコンプライする原則については開示が義務付けられているわけではありません。しかし、開示が義務付けられていないがゆえに、コンプライの程度や真偽について疑念を持っている投資家がいるのも事実です。したがって、たとえコンプライした原則であっても、少なくとも定量的に内容を示すことができるものや実行の有無を簡単に示せるものについては、任意で開示の対象とすることも検討していただきたいところです。全ての原則について1つひとつ説明することまで求められるものではありませんが、なかにはそれを実行している企業もあります(大東建託、積水化学など)。
具体例を挙げてみましょう。コーポレートガバナンス・コードの補充原則1-1①では、「相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行う」ことを求めています。総会決議議案への賛成率は臨時報告書において明らかにされることになっていますが、コーポレートガバナンス報告書にも記載があると、投資家にとっては便利です。例えば、社外取締役の選任議案への賛成率が低かった場合には、「昨年度の株主総会では、社外取締役である〇〇氏の出席率が60%だったところ、同氏の選任議案への賛成率が80%未満となったため、日程調整を行った結果、同氏の取締役会出席率は100%となり、今年度の賛成率は90%以上に改善した」など、数値とともに具体的な対応まで記載があると、本原則を具体的にどのようにコンプライしているのかが投資家に伝わります。また、そのような議案がない場合でも「全ての議案で95%以上であった」と数字で示してあげることで、同原則をコンプライする意思が投資家に伝わります。
また、前年度において英文での開示(補充原則3-1②)を見送った企業は3割程度ありましたが(2017年1月17日のニュース「CGコードの“フルコンプライ”企業の割合が頭打ちに」参照)、エクスプレインの説明において外国人株主比率を示さず、単に「外国人株主比率が低いため英文での開示を見送る。英文開示を行うかどうかは、外国人株主比率の推移を見て検討する」といった記載にとどまっているところが少なくありませんでした。今回も同じ理由で英文開示を見送るとしても、全く同じ文章が記載されているだけだと、端から英文開示をする気がないように見えてしまいます。できれば2016年と2017年の3月末時点(3月末決算会社の場合)における外国人株主比率を明記し、実際に比率を確認した上で判断したという証拠を示しておきたいところです。
このほか定量的に示すことができるものとしては、補充原則1-2②「招集通知の発送・WEB開示の時期」(日数)、原則1-3「資本政策の基本方針に基づいた資本政策の状況」(ROEの目標値と実績値(後述))などがあります。
機関投資家の関心が高い項目は?
次に、機関投資家の関心が高いと考えられる項目について見ていきましょう。
資本政策の基本的な方針(原則1-3)
資本政策の基本的な方針は引き続き株主が最も注目する事項の1つで、本来は投資家が考えるコーポレートファイナンス理論に基づいた説明をするのが望ましいところです。
昨年度の各社のコーポレートガバナンス報告書を見ると、いくつかの企業は任意で同原則の実施状況を記載していますが、投資家が満足する説明を行っている会社はほとんどありません。コーポレートファイナンス理論に基づいた説明とは、目標とするROEや格付けを達成するために適切な負債比率など「(中期的な戦略と整合性のとれた)あるべきバランスシート」(詳細は【2016年7月の課題】「目指すべきB/Sのイメージ」参照)、配当政策(中期的な成長率と適切なバランスシートの目標を考慮した配当性向、DOEなど)、それらを達成するための資本政策(中長期的な視点で、成長への投資と株主への分配をどのように考えて投資と株主還元のバランスをとるのか、また負債・株式のいずれにより資本調達を行うのかなど)の考え方を示すことです。
これらの考え方が経営陣にある場合にはそれを明記したうえで、その進捗状況を示すことができればベストです。例えば「当社は中期経営計画において、○年度にROE△%の達成、配当性向は□%とすることを目標としています。当年度のROEは▲%、配当性向は■%となりました」と記載されているだけでも、中計を意識してその達成に向けた最適な資本政策をとる意思があることが投資家に伝わります。
政策保有株式(原則1-4)
コーポレートガバナンス・コードは「毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明」を行っていることを求めています。政策保有株式は、従来から投資家の批判を浴びてきましたが、コーポレートガバナンス・コードで保有の経済合理性や保有や狙いの具体的な説明が求められたことを背景に、この1年で特に投資家の関心が高まった項目の1つです。
多くの企業では保有の大きな見直しには至っていませんが、一部銘柄を売却した企業や、保有の方針(例えば保有の具体的な目的を定め、各保有銘柄について社内格付けを行うなど)を明確に定めた企業もあります。見直しを行った企業はそのことを記載することが望ましいのですが、取引関係などから開示できないところも多いようです。そのような場合でも、事業年度末時点における保有状況を確認し、その妥当性を判断した上で保有を継続したという書き方が望まれます。例えば、「当社はいわゆる政策保有株式として、昨年度末に10社の株式を合計××億円程度保有しておりました。取締役会において保有の妥当性を検討した結果、このうち8社の株式については保有継続が妥当と判断し、当年度末時点においても合計××億円程度の保有を継続しております」と書いておけば、毎年保有の妥当性を判断していることが投資家に伝わります。
取締役会の実効性評価(補充原則4-11③)
補充原則4-11③では、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示することを求めています。ただ、昨年の段階では、多くの企業が取締役会の実効性を改善するための「課題」を明らかにしたに過ぎません。今年度の開示で投資家を納得させるには、昨年公表した評価結果(課題)を踏まえて、どのように取締役会の改善を図ったかについての説明が求められます。実際のところ昨年においては、多くの企業にとって取締役会評価を行うこと自体が初めてであり、正式には評価を実施していなかったケースも少なくなかったものと思われます。機関投資家もこのような実態を踏まえ、あえてその内容について厳しい評価はして来ませんでした。しかしながら、既にコード導入から2年が経過しているわけですから、今回はその間にどのような取り組み、あるいは準備を行ったかについて説明することが望ましいと言えます。
取り組みが進んだ実例として、取締役会の実効性に関する(取締役や監査役等への)アンケート結果を踏まえ、取締役会のメンバー構成を変えた企業も出てきています。もちろん、企業はあるべき取締役会の構成を考えて毎年取締役を任命しているはずですが、「取締役会の実効性評価を踏まえている」という形をとることで、“お手盛り”や“自己満足”ではなく「正当な手続き」に基づきあるべき人選を行っているということを示しやすいと言えます。取締役会評価が既に一般的となっている欧米企業では、前年度の取締役会評価で出た課題を踏まえ、新任取締役の選定理由などを説明しています。例えば、「取締役会のダイバーシティを高めることの必要性が指摘されたことから、新たな社外取締役として、女性の○○さんを任命した」といった形です。
グラスルイスの2017年度議決権行使助言方針では、独立役員の人数基準の厳格化、役員の兼職規制強化、さらに指名委員会及び報酬委員会の委員長を独立取締役に限定するなど、従来の方針からの変更が見られます。取締役会のあり方に対する投資家の目は今後も益々厳しくなることが予想される中、自社の取り組みに対して投資家からの理解を得られるようにするためには、アンケート結果を踏まえて(Check)、改善点と目指すべき取締役会の方向性を共有し(Action、Plan)、これを実現していく(Do)という、取締役会評価のPDCAサイクルを確立し、それをコーポレートガバナンス報告書で開示していくべきでしょう。
役員報酬(原則3-1(ⅲ))
役員報酬に関する説明(業績連動部分をどのように設定するのか、など)においては、中長期での企業価値向上を何によって評価するのかという点について、各社の考え方の違いが最も表れることになります。投資家からすると、役員報酬が、①ビジネスモデル・戦略・ビジネス上のリスクを踏まえて設定されたKPIと、②目標とする財務的な経営成果、の2点で決定されていることが明確に示されているのが理想です。①としては、例えば市場環境の影響を受けやすい企業ならば、一時点での売上よりも業界シェアの方が適切な場合もありますし、研究開発型の企業であれば、研究開発の成果について具体的なマイルストーンを設定する場合もあります。②については、例えば、ROE、ROIC、営業利益などが挙げられるでしょう。そのうえで、毎年の成果についてインセンティブ関係や取締役報酬関係の記載欄(上の表参照)で説明するべきです。
役員報酬は従来からコーポレートガバナンス報告書で開示が求められる11原則のうちの一つですが(原則3-1ⅲ)、金額そのものや単なる決定方式のような形式的な開示にとどまるのではなく、そもそも現在の役員報酬の決定方法を設定した理由から説明することが必要となってくるでしょう。例えば、株式報酬型ストックオプションを導入する企業が増加していますが、単に導入したという事実だけではなく、導入の理由、それによって期待される効果なども合わせて説明するとよいと考えられます。
なお、欧米企業に比べ役員報酬水準が低い日本企業の場合、欧米企業のように役員報酬の絶対額自体が問題視されることはほとんどありません。投資家は、経営成果を上げるための適切なインセンティブがあるかということを問題にしているのです。
以上のとおり、コーポレートガバナンス報告書(コーポレートガバナンス・コード対応部分)は、方針の説明から、現状や進捗状況の説明が求められるステージへと移行します。投資家も単に「コンプライかエクスプレインか」を形式的に判断するではなく、「改善状況」を評価することになります。企業としては、投資家が適切かつ正当な評価を行えるよう、毎年の取り組みを適切に織り込んだ、分かりやすい開示を意識的に行うべきでしょう。