2017/05/12 有償ストックオプションの会計処理案が公表、長年の議論に区切り(会員限定)

上場企業による採用が非常に多いことから当フォーラムでも何度か取り上げてきた有償ストックオプションの会計処理案(実務対応報告「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」)がこのほど会計基準委員会(ASBJ)から公表された(2017年5月10日付)。内容はほぼ当フォーラムで報じてきたとおりとなっている(2017年1月18日 のニュース「有償ストックオプション、費用計上が求められるのはいつから?」参照)。これまで、有償ストックオプションは会社にとって「現金を対価として株式を発行する取引」である(すなわち労務提供の対価ではない)ことから、費用に計上する必要がないとされてきたが、今後は通常のストックオプション(無償で発行されるストックオプション)と同様、役職員等への(労務提供の対価としての)「報酬」として、費用計上が求められることになる。

新たな会計処理が適用されるのは実務対応報告の「公表日以降」となる。逆に言うと、公表日より前に付与した有償ストックオプションについては、これまでどおり費用計上する必要がない(ただし、当該会計処理や、付与数・行使数・失効数などの注記は必要)。すなわち、現在既に有償ストックオプションを導入している企業には何ら影響はないということだ。“駆け込み”での導入を図る企業が出てくるかもしれないが、公表日の前日までに導入が完了していればやはり費用計上は不要となる。新会計処理案はこれから2か月間(2017年7月10日まで)の意見募集に付されることになるが、通常のスケジュールであれば、意見募集を締め切ってから1~2か月で確定することになる。ただ、意見が多ければ確定までの時間が長くなることもあるうえ、今回は夏休みも挟むことも踏まえると、確定は10月頭頃となることが予想される。

もっとも、今回の実務対応報告によって有償ストックオプションの会計処理を巡る議論が終結するとは限らない。本実務対応報告が対象としているのは、「範囲」に記載されている(1)~(9)の条件を満たすものであり、仮に今後この範囲から外れるタイプの有償ストックオプションが開発された場合、それに本実務対応報告は適用されないと考えられるからだ。あらゆるタイプの有償ストックオプションを対象にしようとするのであれば、会計基準(企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準)そのものを見直し、ストックオプションの会計処理に関する大元の考え方を整理し直すしかない。実際、2015年11月に始まった有償ストックオプションの会計処理を巡る議論では、元々は会計基準の見直しがテーマとなっていたが、会計基準を見直せば影響範囲が広くなり、結論が出るまでにさらに時間がかかることになるため、「実務対応報告」での対応に落ち着いたという経緯がある。

当フォーラムでも紹介した時価発行新株予約権信託を利用する企業は既に出てきている。今後どのようなタイプの(有償)ストックオプションが登場するのか、注目されるところだ。

2017/05/11 日本企業のESG対応、過小評価も

日本の機関投資家による「サステナブル投資」が拡大している。サステナブル投資(サステナブル(sustainable)とは「持続可能」を意味する)とは、経済、環境、社会の持続性に配慮した投資手法であり、具体的には、経済的なパフォーマンスに加え、ESGに配慮して投資先を選定することと言える。ちなみに、サステナブル投資を日本で普及させる活動を行うNPO法人 日本サステナブル投資フォーラムは、サステナブル投資を、1. 地球と社会の持続可能性に配慮した投資であること、2. 原則1の投資プロセスや社会的な効果を資金の供給者に対して開示していること、の2つの原則を満たすものと位置付けている。

この日本サステナブル投資フォーラムを含む世界各国のサステナブル投資フォーラムが集計するサステナブル投資残高などの数値をグローバルレポートとしてとりまとめた報告書「Global Sustainable Investment Review 2016」によると、世界のサステナブル投資残高は22兆8,900億米ドルとなった。この報告書は隔年で公表されているが、前回調査時の2014年の数値と比較すると25.2%増加している。これに大きく寄与したのが日本で、日本の機関投資家によるサステナブル投資残高は2014年の70億米ドルから2016年は4,740億米ドルへと大幅に拡大した。その他、米国やオーストラリア、ニュージーランドでの拡大も目に付く。一方でこれまでサステナブル投資を牽引してきた欧州での伸びが鈍化している要因は集計基準の厳格化にあり、世界的にはサステナブル投資が伸びているというトレンドにあることは間違いない。

日本における増加要因の一つには、2014年の調査時点では調査対象が金額の把握が可能な個人向けの金融商品(公募投資信託、社会貢献型債券)に限られていたということも挙げられるが、それ以上に、投資家に社会・環境問題に関連するリスクへの対応を求める日本版スチュワードシップ・コード(指針3-3参照)や企業にESGやサステナビリティへの対応を求めるコーポレートガバナンス・コード(基本原則2の「考え方」、原則2-3、補充原則2-3①参照)の導入をはじめとした政策的な後押し、さらにはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資を提唱した国連のPRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則)に署名(2015年9月16日付)し、ESG指数の導入を決めたことが大きい。今後は、GPIFが採用する日本株ESG指数の公表(2017年夏を予定)や、日本版スチュワードシップ・コード改訂案に盛り込まれた議決権行使結果の個別開示(2017年3月29日のニュース「企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容」参照)により、日本でサステナブル投資がさらに進む可能性は高い。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) : 厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
PRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則) : 機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するもの。これに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。

こうした状況の中で企業に求められているのが・・・

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2017/05/11 日本企業のESG対応、過小評価も(会員限定)

日本の機関投資家による「サステナブル投資」が拡大している。サステナブル投資(サステナブル(sustainable)とは「持続可能」を意味する)とは、経済、環境、社会の持続性に配慮した投資手法であり、具体的には、経済的なパフォーマンスに加え、ESGに配慮して投資先を選定することと言える。ちなみに、サステナブル投資を日本で普及させる活動を行うNPO法人 日本サステナブル投資フォーラムは、サステナブル投資を、1. 地球と社会の持続可能性に配慮した投資であること、2. 原則1の投資プロセスや社会的な効果を資金の供給者に対して開示していること、の2つの原則を満たすものと位置付けている。

この日本サステナブル投資フォーラムを含む世界各国のサステナブル投資フォーラムが集計するサステナブル投資残高などの数値をグローバルレポートとしてとりまとめた報告書「Global Sustainable Investment Review 2016」によると、世界のサステナブル投資残高は22兆8,900億米ドルとなった。この報告書は隔年で公表されているが、前回調査時の2014年の数値と比較すると25.2%増加している。これに大きく寄与したのが日本で、日本の機関投資家によるサステナブル投資残高は2014年の70億米ドルから2016年は4,740億米ドルへと大幅に拡大した。その他、米国やオーストラリア、ニュージーランドでの拡大も目に付く。一方でこれまでサステナブル投資を牽引してきた欧州での伸びが鈍化している要因は集計基準の厳格化にあり、世界的にはサステナブル投資が伸びているというトレンドにあることは間違いない。

日本における増加要因の一つには、2014年の調査時点では調査対象が金額の把握が可能な個人向けの金融商品(公募投資信託、社会貢献型債券)に限られていたということも挙げられるが、それ以上に、投資家に社会・環境問題に関連するリスクへの対応を求める日本版スチュワードシップ・コード(指針3-3参照)や企業にESGやサステナビリティへの対応を求めるコーポレートガバナンス・コード(基本原則2の「考え方」、原則2-3、補充原則2-3①参照)の導入をはじめとした政策的な後押し、さらにはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資を提唱した国連のPRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則)に署名(2015年9月16日付)し、ESG指数の導入を決めたことが大きい。今後は、GPIFが採用する日本株ESG指数の公表(2017年夏を予定)や、日本版スチュワードシップ・コード改訂案に盛り込まれた議決権行使結果の個別開示(2017年3月29日のニュース「企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容」参照)により、日本でサステナブル投資がさらに進む可能性は高い。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) : 厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
PRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則) : 機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するもの。これに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。

こうした状況の中で企業に求められているのが情報開示だ。一般に、日本企業はESG、特に「S(Social=社会)」の情報開示が海外企業と比較して少ないと言われており、GPIFのESG指数も日本企業に広くESG情報の開示を促すことを意図している。情報開示がなければ、投資家は「取り組んでいない」とみなさざるをえない。日本企業からは「やっていて当たり前だから開示していない」という声がしばしば聞かれるが、情報開示が少ないということは投資家が企業価値を評価をする際のディスカウント要因となり、結果として日本企業の企業価値が過小評価されることにもなりかねない。日本企業は(ESGへの)「取組みの有無」だけでなく「情報開示の有無」にも目を向けるべきだろう。

ESG情報の開示に当たっては、今夏に公表予定のGPIFのESG指数の概要や指数構築のメソドロジーが参考になるほか、業種別に設定されている米国のSASB(サステナブル会計基準審議会)の開示基準(2016年10月11日のニュース「米国で“SASB”の開示義務化も 日本への影響は?」参照)、ESG評価機関が公表している評価レポート(2016年8月5日のニュース『自社の「ESG格付け」を知ってますか?』参照)なども役に立つ。企業は自社に対し重視されているESGのテーマを知り、開示に活かしていくことが求められる。

2017/05/10 (新用語・難解用語)意見不表明

東芝の第3四半期の決算発表に際し、監査法人が「意見不表明」としたとのニュースが盛んに報じられたが、これを「監査法人が“否定的な結論”を表明した」と捉えている向きが少なくない。結論から言えば、これは間違いである。3月決算の上場会社が今まさに監査法人の監査を受けている最中、上場企業の役員としては、「意見不表明」の意味するところくらいは正確に理解しておきたい。・・・

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2017/05/10 (新用語・難解用語)意見不表明(会員限定)

東芝の2017年3月期第3四半期の決算発表に際し、監査法人が「意見不表明」としたとのニュースが盛んに報じられたが、これを「監査法人が“否定的な結論”を表明した」と捉えている向きが少なくない。結論から言えば、これは間違いである。3月決算の上場会社が今まさに監査法人の監査を受けている最中、上場企業の役員としては、「意見不表明」の意味するところくらいは正確に理解しておきたい。

監査法人は、監査を行った後、「重要な監査手続が実施できず、結果として十分な監査証拠が入手できない場合で、その影響が財務諸表に対する意見表明ができないほどに重要である」場合(下表の最下段)に該当しない限り、下表に掲げる3種類の「監査意見」(無限定適正意見、限定付適正意見、不適正意見)のいずれかを表明する。

意見の種類 除外事項 除外事項の
重要性の
程度
内容
意見に関する
除外事項(*1)
監査範囲の
制約(*2)
無限定適正意見 財務諸表は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従っている。
限定付適正意見 財務諸表全体に対する重要性が
それほどではない
一部に不適切な事項はあるが、財務諸表全体に対してはそれほど重要性がない。
重要な監査手続を実施できなかったことにより、無限定適正意見を表明することはできないが、その影響が財務諸表全体に対する意見表明ができないほどではない。
不適正意見 重要 不適切な事項が発見され、それが財務諸表全体に重要な影響を与えている。
意見不表明 重要 重要な監査手続が実施できず、結果として十分な監査証拠が入手できない場合で、その影響が財務諸表に対する意見表明ができないほどに重要である。

*1 監査意見から除外される事項をいう。経営者が採用した会計方針の選択や適用方法、財務諸表の表示方法に関して不適切な事項がある場合、「除外事項あり」ということになる。
*2 監査手続が実施できないことを「監査範囲の制約がある」という。監査範囲の制約がある例としては、ある監査項目について監査証拠が入手できず未監査である場合、震災等により会計帳簿が閲覧できない場合、海外子会社の現地が戦争状態にあり監査できない場合などのほか、被監査会社が帳簿を閲覧させることを拒否した場合(被監査会社による監査への非協力)がある。

四半期レビューについても、上記の監査意見と同様の基準で「結論」が表明される。ここで「意見」ではなく「結論」としたのは、四半期決算に対して監査法人が行うのは「監査」ではなく「レビュー」であるからだ。監査とレビューは、下表のとおり目的を異にしており、監査よりもレビューの方が監査人の保証水準が低い(下表の青字の違い)。それに加えて、監査人が表明するのは、監査では「意見」、レビューでは「結論」という点も異なる(下表の赤字の違い)。

監査の目的 四半期レビューの目的
財務諸表の監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある(企業会計審議会「監査基準」第一1)。 四半期レビューの目的は、経営者の作成した四半期財務諸表について、一般に公正妥当と認められる四半期財務諸表の作成基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示していないと信じさせる事項がすべての重要な点において認められなかったかどうかに関し、監査人が自ら入手した証拠に基づいて判断した結果を結論として表明することにある(企業会計審議会「四半期レビュー基準」第一)。

したがって、東芝の第3四半期報告書に関し新聞等に記載されていた「意見不表明」という用語は間違いであり、正確には「結論不表明」である。後で詳しく述べるが、東芝の場合、結論不表明となったのは「重要な四半期レビュー手続を実施できなかったことにより、無限定の結論の表明ができない場合において、その影響が四半期財務諸表全体に対する結論の表明ができないほどに重要」(下表の一番下)であったためである。

結論の種類 除外事項 除外事項の
重要性の
程度
内容
結論に関する
除外事項
レビュー範囲の
制約
無限定の結論 四半期財務諸表について一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って適正に表示していないと信じさせる事項がすべての重要な点において認められなかった場合。
限定付の結論 四半期財務諸表
全体に対する
重要性がそれほど
ではない
重要な点において適正に表示していないと信じさせる事項が認められ、その影響が無限定の結論を表明することができない程度に重要ではあるものの、四半期財務諸表全体に対して否定的結論を表明するほどではない。
無限定の結論を表明できない場合において、その影響が四半期財務諸表全体に対する結論の表明ができないほどではない。
否定的な結論 重要 重要な点について適正に表示していないと信じさせる事項が認められる場合において、その影響が四半期財務諸表全体として虚偽の表示に当たるとするほどに重要である。
結論不表明 重要 重要なレビュー手続が実施できず、結果として十分な証拠が入手できない場合で、その影響が四半期財務諸表に対する結論の表明ができないほどに重要である。

東芝の第3四半期のレビュー報告書の「監査人の責任」「結論の不表明の根拠」からの抜粋は以下のとおりだ(下線は筆者)。

監査人の責任
 当監査法人の責任は、当監査法人が、我が国において一般に公正妥当と認められる四半期レビューの基準に準拠して実施した四半期レビューに基づいて、独立の立場から四半期連結財務諸表に対する結論を表明することにある。
 しかしながら、「結論の不表明の根拠」に記載した事項により、当監査法人は、結論の表明の基礎となる証拠を入手することができなかった。

結論の不表明の根拠
 注記21.重要な後発事象の通り、米国ウエスチングハウスエレクトリックカンパニー社(以下、「WEC」という)による、CB&Iストーン・アンド・ウェブスター社の買収に伴う取得価格配分手続の過程に関連して、一部経営者による不適切なプレッシャーの存在を示唆する情報がもたらされた。株式会社東芝の監査委員会は、外部弁護士事務所等を起用して、一部経営者による不適切なプレッシャーの有無及び会計への影響等に係る調査を実施した。当監査法人は当該調査の評価を継続中であり、本四半期レビュー報告書日現在終了していないが、株式会社東芝は第3四半期連結財務諸表を作成し、提出することとした。
 継続中の評価の対象事項には、注記19.企業結合に記載されている、2016年度第3四半期末における四半期連結貸借対照表計上額495,859百万円の前提となる取得日現在の公正価値635,763百万円の工事損失引当金について、当該損失を認識すべき時期がいつであったかを判断するための調査に対する当監査法人の評価も含まれている。また、その他にも当監査法人の評価が終了していない調査事項があり、これらの影響についても、確定できていない。
 四半期レビュー報告書日現在、当該評価手続が継続中であり、当監査法人は、株式会社東芝の監査委員会による最終的な調査結果を評価できておらず、その結果、当監査法人は、上記の四半期連結財務諸表に修正が必要となるか否かについて判断することができなかった。

下線部分のとおり、監査法人は、(重要なレビュー範囲の制約があり)重要な調査が終了していないため、四半期連結財務諸表に対する結論の表明を控えたということである。つまり、重要なレビュー手続の進行中に東芝が四半期報告書を提出したため、監査法人は結論を表明できなかったにすぎない。多くの人が誤解しているように、「監査法人が否定的な結論を表明した」わけではない点、留意したい。

なお、今回の監査法人の対応をもって「東芝は上場廃止になるのでは?」といった声も聞かれたが、結論が不表明だからといって直ちに上場が廃止されるわけではない。下記の上場廃止基準のとおり、上場廃止となるのは「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」である点、押さえておきたいところだ。

虚偽記載
または
不適正意見等
a.有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき
または
b.監査報告書又は四半期レビュー報告書に「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨等が記載された場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき

2017/05/09 総会集中率の3割切り、招集通知早期Web開示の9割越えが目前に

例年、3月決算の上場企業の定時株主総会は「6月最終営業日の前営業日」(その日が月曜日である場合には、その前週の金曜日)に集中する傾向がある(この日は「集中日」とも言われる)。今年は6月の最終営業日が30日(金)であるため、その前営業日である6月29日(木)が集中日になる。近年、投資家から株主総会開催日の分散を求める声が高まる中、上場企業各社にとって他社の動向は気になるところだろう。・・・

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2017/05/09 総会集中率の3割切り、招集通知早期Web開示の9割越えが目前に(会員限定)

例年、3月決算の上場企業の定時株主総会は「6月最終営業日の前営業日」(その日が月曜日である場合には、その前週の金曜日)に集中する傾向がある(この日は「集中日」とも言われる)。今年は6月の最終営業日が30日(金)であるため、その前営業日である6月29日(木)が集中日になる。近年、投資家から株主総会開催日の分散を求める声が高まる中、上場企業各社にとって他社の動向は気になるところだろう。

東京証券取引所の調べによると、2017年5月1日現在(以下、同じ)における2017年3月決算上場企業の定時株主総会集中日開催率(集中率)は31.0%(380社)となっている。定時株主総会の集中日開催には複数銘柄を有する一般株主の出席機会を奪うなどデメリットが多いことから(デメリットの具体的内容については2014年4月11日のニュース『「集中日」に株主総会を開催するデメリット』を参照)、集中日に定時株主総会を開催する3月決算上場企業は年々減少傾向にあり、3割切りも目前の状況となっている。集中日をずらして投資家との対話に取り組む企業が増えていると評価できよう。ちなみに、定時株主総会を7月以降に開催する企業は現時点における回答企業(1,237社)の中にはなかった(3月期決算上場企業各社の定時株主総会の開催予定日はこちらを参照)。7月以降に定時株主総会を開催するには事前に定款変更(定時株主総会の基準日を後ろにずらす変更。詳細は2017年1月31日のニュース「株主総会の7月開催を検討する会社が増加傾向も、残されたボトルネック」参照)を行う必要があるため、来年(2018年)の株主総会に向け、今年の定時株主総会で定款変更議案を提出する会社がどの程度あるのか、注目されるところだ。

投資家との対話に前向きな上場企業が増えたことは、招集通知の「早期発送」(会社法上は株主総会の2週間前が発送期限)や「早期Web開示」(招集通知の発送日よりも前に自社等のWebサイトにて招集通知を電子的に公表すること)といった施策に取り組む上場企業数の増加からも見て取れる。東京証券取引所の調査によると、3月決算企業のうち、今年の株主総会で招集通知を定時株主総会の3週間(中15営業日)以上前に発送する予定の上場企業は前期の24.0%から26.6%に増え、5月1日現在で招集通知の早期Web開示を行う予定の上場企業も前期の78.2%から85.2%に増えている。招集通知の早期発送や早期Web開示はコーポレートガバナンス・コードが実施を求めている(2017年4月13日のニュース「株主総会に向けたスケジュールで再確認しておくべきことは?」参照)だけに、上場企業には積極的に取り組むインセンティブがあり、これが実施率の増加につながっていると言える。

このほか、海外投資家が多い上場企業では英文招集通知の公表が望ましいとされているが、5月1日時点でWeb上に英文招集通知を公表する予定の東証上場の3月決算企業は34.5%であった。これは前期の32.4%を上回っており、手間とコストをかけてでも招集通知の英訳に取り組む企業が着実に増えていることが分かる。

なお、上記で紹介した各施策の実施率は、東京証券取引所が実施したアンケートへの回答企業数が前期の6割程度に過ぎない段階で集計した暫定値に過ぎない。今後、アンケートへの回答企業数の増加に伴い、各施策の実施率も変動する。この期に及んで株主総会の開催日を変更することは困難であるが、招集通知の早期Web開示は比較的容易に取り組みやすいだけに、最終的な実施率はさらに向上して9割台に到達する可能性もある。招集通知の早期Web開示を実施していない上場企業の役員は、早期Web開示の未実施企業が1割程度に過ぎない“少数派”であることを意識して、今年こそ実施できるよう総会開催のスケジュールを見直したいところだ。

2017/05/08 グラスルイス基準と代表取締役会長

2017年2月10日のニュース「『会長』の社外役員兼職は何社までOK?」でお伝えしたとおり、議決権行使助言の準大手グラスルイスは取締役・監査役の兼職数について、①業務執行者による兼務は2社まで、②非業務執行者による兼務は5社までとする新基準を今年(2017年)1月から適用している(「業務執行者」の解釈は上記ニュースの最終段落参照)。同基準に抵触する社外役員候補者は相当数に上るものとみられる。特に懸念されるのが代表権のある会長による兼職だが、上場企業の株主総会担当者に話を聞くと、・・・

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2017/05/08 グラスルイス基準と代表取締役会長(会員限定)

2017年2月10日のニュース「『会長』の社外役員兼職は何社までOK?」でお伝えしたとおり、議決権行使助言の準大手グラスルイスは取締役・監査役の兼職数について、①業務執行者による兼務は2社まで、②非業務執行者による兼務は5社までとする新基準を今年(2017年)1月から適用している(「業務執行者」の解釈は上記ニュースの最終段落参照)。同基準に抵触する社外役員候補者は相当数に上るものとみられる。特に懸念されるのが代表権のある会長による兼職だが、上場企業の株主総会担当者に話を聞くと、最大手ISSと比べグラスルイスの影響度は限定的と捉えており、さほど警戒していないようである。

上記基準による実際の影響度を推測するため、今年1~3月に株主総会を開催したTOPIX500採用銘柄(59社)を調査したところ、①の「業務執行者による兼務は2社まで」という基準に抵触した候補者は4人、②の「非業務執行者による兼務は5社まで」という基準に抵触した候補者は3人確認された。①と②を合計した7人の平均賛成率は95.1%となっており、反対される要素が全くない役員候補者が通常得る賛成率98~99%と比べると、確かに3~4%のインパクトはあったと言えそうではある。もっとも、7人中4人までが銀行出身者であり、反対票が投じられたのは独立性が懸念されたためとも解釈できる。以上のことから、グラスルイス基準に抵触する兼任数の社外役員候補がいたとしても、“株主総会対策”という観点からはそれほど気にしなくてよいと言えよう。

その一方で、グラスルイス基準は、会長に代表権を付すことを再考する端緒となるかもしれない。グラスルイス基準はあくまでも「多忙さによる監督機能の不全」を懸念したものではあるが、そもそも会長に代表権を付していなければこのような懸念も生じにくいと言えるからだ。

今年3月に公表された経済産業省の「CGS研究会報告書」でも、「現社長・CEO に権限を集中させることの是非を踏まえて、取締役会長の権限・肩書(代表権の付与等)を検討すべきである」と指摘されているように(40ページ「5.2. 取締役会長の在り方」参照)、会長に代表権を付することでガバナンス上の問題が生じることを懸念する投資家は少なくない。なかには、現社長・CEOに万一のことがあった場合のコンティンジェンシー・プランとして、前社長・CEOである会長がいつでも代わりを務められるよう代表権を付与しているという企業もある。しかし、会長の多くは前社長・CEOであるため、取締役会に残るだけでも現社長・CEOは果敢な意思決定(例えば前会長・CEO時代の経営戦略の否定)がやりにくくなる可能性がある中、代表権まで付されたのでは“院政”を招く恐れは高まる。東芝事件など度重なる企業不祥事により、資本市場では“院政”に対する警戒心が強まっていることもまた事実だ。

コンティンジェンシー・プラン : 緊急時対応計画(Contingency Plan)と訳され、天災や国際紛争、経済環境の急激な変化など、不測宇の事態を想定してあらかじめ立てておく対処法のことをいう。BCP(Business Continuity Plan)との違いは、BCPが「事業継続」を目的としているのに対し、コンティンジェンシー・プランは被害を最小限に抑えることを目的としているという点にある。

自社の会長に代表権が付与されていることでグラスルイス基準(上記①の「業務執行者による兼務は2社まで」という基準)に抵触するという場合には、株主総会で大した反対率につながらないことからといって看過することなく、会長の代表権を外すことを検討する契機としてみてはいかがだろうか。

2017/04/30 【2017年3月の課題】譲渡制限付株式報酬の導入:解答(会員限定)

ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 伊藤 竜広
03-3581-6530
tatsuhiro.ito@willistowerswatson.com

何故そのような役員報酬制度としたのか?

最初から結論めいた話ですが、役員報酬改革にあたっては、結局「何故そのような役員報酬制度としたのか」という改革の目的や意義を明確にしておくことが重要です。さもなければ、機関投資家との対話や株主総会で役員報酬改革に関する質問を受けた際に、たちまち答えに窮してしまいます。

これは、業績連動性の高いハイリスク・ハイリターン型の制度設計であっても、あるいは上場市場における標準的な報酬額を目指した相対的にメリハリの大きくない制度設計であっても同様です。コーポレートガバナンス・コード(4-2、4-2①)は「中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させた経営陣の報酬」「中長期的な業績と連動する経営陣の報酬」を求めていますが、同コードのコンプライ・オア・エクスプレインの趣旨に従えば、どのような制度設計を目指すのかは、あくまで個別企業の判断の問題です。各社が現行の制度設計、経営環境・経営状況等を踏まえ、そしてできれば報酬委員会の議論を経て判断すべき問題です。最終的な判断に至るまでのプロセスこそが、そのまま機関投資家等に対する説明材料となります。例えばメリハリの大きくない制度設計であっても、その制度が自社の成長に寄与する最適なものであることや、他社と差別化された自社独自の考え方などが説明できれば特段問題無いと考えられます。全ての企業がすべからく業績連動性の高いハイリスク・ハイリターンの報酬体系にすべきというわけではありません。

もっとも、これまで開示されている各社の株主総会議案を見る限り、報酬額の増加を伴う制度改定が多いようです。大手の議決権行使助言会社の2017年版助言基準を見ても、増加の具体的な理由(例:業績連動性の強化、取締役の増員、等)がある場合における報酬枠の拡大には、これまで同様、肯定的なスタンスとなっています。また、会社法の解釈明確化による報酬としての現物株式の交付の実質的解禁(2016年9月9日のニュース「ストック・オプションか?リストリクテッド・ストックか」参照)、また、平成28年度および平成29年度税制改正における役員給与税制の整備による株式報酬の課税関係の明確化(平成28年度税制改正については2015年12月11日のニュース「ついに日本でも株式報酬の支給が可能に!」、平成29年度税制改正については【特集】2017年度税制改正を踏まえたインセンティブ報酬設計のポイントの「2.損金算入要件の変化」参照)、開示規制の緩和(2016年11月24日のニュース「リストリクテッド・ストックを退職金として支給したら?」の冒頭参照)など、政府がインセンティブ報酬の支給を後押しする中、こうした傾向は今後も続いていくものと思われます。

直近の先行事例は?

3月に株主総会を開催した上場企業(12月決算企業)は絶対数こそ多くないものの、6月総会企業に次ぐ数であることから、その動向は先行事例として参考になるところが少なくありません。

平成28年度税制改正を受け譲渡制限付株式報酬が解禁(平成28年4月1日以後の交付決議分~)となって以降、初めての3月総会シーズンが終わりましたが、3月総会企業のうち時価総額2000位までの197社の株主総会招集通知をチェックしたところ、何らかの役員報酬関連議案()を上程した企業は66社ありました。

 取締役(監査等委員会設置会社における監査等委員である取締役を除く)の報酬枠改定議案、監査役(監査等委員会設置会社における監査等委員を含む)の報酬枠改定議案、賞与の確定金額支給決議議案、退職慰労金支給議案(退職慰労金制度廃止に伴う打切り支給、弔慰金、功労金の支給を含む)、ストックオプション関連議案、株式交付信託報酬関連議案、譲渡制限付株式報酬関連議案等を指す。

そのうち、取締役の報酬枠改定議案(監査等委員会設置会社における「監査等委員である取締役」の報酬枠改定議案を除く)を含んだものは24社ありました。注目される株式報酬関連の議案については、ストックオプション(株式報酬型ストックオプションを含む)関連議案が12社(このうち、業績条件が付されていると判断される議案は2社)、譲渡制限付株式関連の議案が6社(すべて事前(譲渡制限対象期間の開始時)に発行するタイプのもの。このうち、業績条件が付されていると判断される議案は3社)、株式交付信託関連の議案が8社(このうち、業績条件が付されていると判断される議案は6社)となっています。これら3種類の株式報酬関連議案はそれぞれ別の企業によるものであり、重複が見受けられないことから、単純計算で66社中26社(約40%)は、何らかの株式報酬関連議案を上程したということになります。株式関連報酬への関心の高さを示す結果と言えるでしょう。

株式報酬関連議案を上程した企業の中には、3月総会で株式報酬を新規導入するケースもあれば、上記3種類の株式報酬のいずれか、あるいは同じくインセンティブ報酬の一つである株式購入資金から別の株式報酬を導入するケース(ビークルの代替え)もあります。新規導入の場合は、従来の役員報酬にアドオン(追加)する形での導入が多く、既存の金銭による報酬枠とは別に報酬枠を設定しているケースが目に付きます。一方、ビークルの代替えの場合、既存の報酬枠を増額するケースが多いようです。

株式購入資金 : 現金報酬の手取り分から役員持株会等を通じて株式を取得させる方式をとるインセンティブ報酬
ビークル : 「乗り物」から派生し、「媒体」「媒介物」「器」といった意味を持つ。

譲渡制限付株式報酬を導入する理由は?

譲渡制限付株式報酬の導入を検討する際に必ず整理しておく必要があるのは、「何のために譲渡制限付株式報酬を導入するのか」ということです。この点は投資家との対話や株主総会でも質問を受ける可能性があります。

その際にまず説明したいのが、ストックオプションや株式交付信託など同種のビークルと比べると、貰い手である役員が直接かつ即座に株式を保有でき、しかも保有した株式数が有価証券報告書上の役員の持株数にも直ちに反映されるという点です。実はこれだけでも十分な説明材料となり得ます。

A社のように、それまで株式報酬制度が無かった企業に求められるのは、「株主との利害共有」です。役員に一定程度の株式を持たせることの重要性が株主に認識されつつある中で、即座に株式を保有できる譲渡制限付株式報酬の導入は大きなアピールになります。

また、ストックオプションや株式交付信託など別の株式報酬ビークルを採用していた企業にとっても、これを譲渡制限付株式報酬に代えることにより、即座に“株式そのもの”を取得できるようになるという点は、やはりアピールポイントになるでしょう。株主の目にも、譲渡制限付株式報酬には、ストックオプションにおける新株予約権や株式交付信託における擬似ポイントのような“株式になるまでの介在物”がないため、分かり易いと映っているようです。また、譲渡制限付株式報酬はグローバルにおいては一般的なスキームですので、海外の株主・機関投資家にも受け入れられ易いと言えます。実際、例えばストックオプションについて、「そもそも貰い手が権利行使をしないと株式にならない」「事務手続きが煩雑」といった点をもって「分かりにくい」と評する投資家も存在します。

業績条件を付すのか付さないのか?

また、業績条件の有無とその理由についても質問を受ける可能性があります。

ただ、A社のように初めて株式報酬を導入する場合には、業績条件を付さないということも十分に考えられます。すなわち、業績に拠らず譲渡制限の解除を認めることで、株式の売却によって受け取る報酬額はあくまで株価変動によるマーケットの評価に委ね、役員は将来の株価上昇を通じて企業価値向上を目指すということですが、これはこれで問題無いと思われます。むしろ、例えば株式報酬のボリュームが大きくない場合において、さらに業績条件を付して株式の付与数が変動する仕組みとすると、業績低迷時にはあまり多くの株式を役員に持たせられないこととなり、投資家に説明した「株主との利害共有」という導入の目的と矛盾してしまう可能性もあります。逆に言うと、株式報酬のボリュームを一定程度大きくするのであれば、報酬獲得というリターンとそれを得るために負うべきリスクのバランス上、業績条件を付すこととした方が投資家には説明し易いかもしれません。

ただし、平成29年度税制改正により、業績に応じて譲渡制限解除割合が決まる譲渡制限付株式については損金算入が認められなくなったという点は注意が必要です。一方、業績に応じて事後的に株式を発行するタイプの株式報酬(いわゆるパフォーマンスシェア)については、業績連動給与の要件を満たすことで損金算入が可能となりますが、例えば業務執行役員ごとに客観的な算定方法の内容を開示する必要があるなど(個人名の開示は不要。法人税基本通達9-2-19)、詳細な開示が求められることになります。また、業績連動給与の要件を満たすためには、基本的には業績要件を付すしかありません。損金算入可能となる金額にもよりますが、役員報酬の設計においてはこうした税務上のメリット・デメリットも検討する必要があります。

業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。

以上、投資家との対話や株主総会で質問を受けそうな役員報酬改革の論点について述べてきましたが、最も重要なことは、「経営戦略を反映した業績連動の仕組みが実現できるのか否か」に尽きると考えられます。最初の話に戻りますが、企業は「何故そのような役員報酬制度としたのか」を常に念頭に置く必要があると言えるでしょう。