概要
証券取引等監視委員会が、モルフォ(マザーズ上場)の役職員(退職者を含む10名)につき社員持株会を通じたインサイダー取引があったとして、内閣総理大臣および金融庁長官に対して課徴金納付命令を発出するよう勧告を行った。
経緯
モルフォが、2017年3月に特別調査委員会(常勤社外監査役1名および社外弁護士2名で構成)の調査報告書を公表するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。
<2015年>
6月15日:モルフォ社長がモルフォとデンソーとの間で開催された会合にはじめて出席する。
7月29日:モルフォとデンソーとの間で秘密保持契約が締結される。
8月24日から26日まで:役員Aがモルフォ株式の買付けを行う(合計400株)。本特別調査委員会が認定する「重要事実に係る決定をした時点」より前に行われた買付けであるが、証券取引等監視委員会は2015年6月15日または7月29日を「重要事実に係る決定をした時点」と認定している模様。
9月11日:モルフォの社員がデンソーから資本業務提携の提案を受ける。
9月17日から10月30日まで:元社員C(重要事実を知っていたかどうかは不明)がモルフォ株式の買付けを行う(合計3,206株)。
9月18日:モルフォ社内で、社長と管理担当取締役間の個別協議で資本業務提携に係る業務執行の決定が行われ、社長と事業担当取締役間の個別協議で業務提携に関する業務執行の決定が行われた(本特別調査委員会が認定する「重要事実に係る決定をした時点」)。
9月29日:社員Bが重要事実を知ったうえで、モルフォ株式の買付けを行う(合計400株)。
10月5日:社員Dが重要事実を知ったうえで、モルフォの従業員持株会への拠出金を増額(39口:39,000円)。
10月6日:元社員G(重要事実を知っていたかどうかは不明)が、モルフォの従業員持株会への拠出金を増額(99口:99,000円)。
10月1日から10月8日まで:社員E,F,H,I,Jが、それぞれモルフォの従業員持株会への拠出金を増額(最大で79口79,000円、最小で20口20,000円)。証券取引等監視委員会はこれらの者にも重要事実が伝達済みであったと認定しているが、本特別調査委員会は週報や議事録の共有による伝達可能性は低いと判断。
12月11日(金):モルフォがデンソーとDeep Learningによる画像認識技術の車載機器への適用に関する基礎的研究等の共同研究開発を目的とする業務提携を行う旨の重要事実が公表される(終値:4,115円)。
12月14日(月)から12月17日:モルフォの株価は上昇し続け、12月17日には7,110円をつける。
<2016年>
1月7日:モルフォがデンソーに対して第三者割当を行い、614百万円の資金を調達(総発行株式数に占めるデンソー所有株式数の比率は4.97%)。
<2017年>
2月24日:証券取引等監視委員会が、モルフォ役職員にインサイダー取引があったとして内閣総理大臣および金融庁長官に対して課徴金納付命令を発出するよう勧告を行う。
3月17日:モルフォが、特別調査委員会の調査報告書を公表。モルフォでは、重要事実管理および株式売買管理の運用に不備があったとして2名の取締役に対して、また、過度な情報共有の体制に対する責任として3名の取締役に対して、役員報酬の10%減額処分(過度な情報共有の体制に対する責任のみが問われた取締役1名は厳重注意の処分のみ)を行った。
内容・原因・改善策
モルフォが2017年3月17日に公表した特別調査委員会の調査報告書によると、本件の問題点の主な内容とその原因、再発防止策は次のとおりである。
過度な情報共有が引き起こしたインサイダー取引
| 内容 |
・モルフォでは、デンソーとの案件が共同研究開発を含む資本業務提携に発展しうることが認識されたにもかかわらず、漫然と定例会議の週報に同案件の進捗状況を記載し続けた。
・モルフォでは、週報を派遣社員を除く全社員がアクセス可能な共有フォルダに格納し、技術・営業の部署の役職員に対して当該議事録の内容をEメールで一斉配信した。また、デンソーとの交渉に関する議事録(2015年8月26日付)も、週報と同様に派遣社員を除く全社員がアクセス可能な共有フォルダに格納し、役職員の一部に対して当該議事録本文をメールで送信していた。
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| 原因 |
・モルフォでは、役職員間での情報共有の有用性が強調される一方で、インサイダー取引防止の視点に立った重要事実の管理の重要性についてほとんど意識が向けられてこなかった。
・行き過ぎた情報共有が、証券取引等監視委員会から従業員間で本件重要事実の伝達がなされたとの疑いをかけられる事態に発展した。
・モルフォのインサイダー取引防止規程によると、統括情報管理責任者(管理担当取締役)は「重要事実該当、非該当の判定」等の業務に従事し、情報管理担当者等に情報管理に関し必要な指示を行う立場にあった。本件重要事実について、管理担当取締役は、デンソー社との案件に関与する役職員に対してEメールにより抽象的に情報管理に留意する旨を呼びかけたことはあったものの、統括情報管理責任者として同案件を明確にインサイダー取引規制にいう重要事実として管理する旨の判定をしたり、当該判定を受けて具体的にいかなる情報管理を行うべきかについて情報管理担当者等に指示したりすることはなかった。
・モルフォのインサイダー取引防止規程によると、「重要事実またはこれに該当する可能性のある情報を知った当社役職員は、当該役職員が所属する情報管理担当者及び統括情報管理責任者にこれを報告しなければならない」とされていたが、本件重要事実を知った社員から情報管理担当者に対し適時に報告されることはなかった。
・モルフォでは、役職員が「いつ」「何株」の取引を行ったのかを完全には把握できていなかった。また役職員の持株数を株主名簿で照合することも行われていなかった。
・モルフォの持株会の役員や事務局が、「モルフォにいかなる重要事実があるのか」を把握ないし照会できる体制になっていなかった(もし持株会が「会社内にいかなる重要事実があるのか」を把握できる体制になっていれば、持株会への入会または拠出金の増額の申請があった際に、重要事実を知ることができる可能性のある者による入会または拠出金の増額を不許可とすることができた)。
・モルフォでは、マザーズ上場時(2011年7月)にインサイダー取引防止に関する社内セミナーを実施したが、それ以降本インサイダー取引が行われるまでに1回も開催していなかった。また、モルフォでは、入社時のオリエンテーションにおいてインサイダー取引防止規程に関する説明を行っていたものの、説明にあてた時間はごく短時間であり、受講した役職員の記憶にはほとんど残っていなかった。
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| 対応策 |
・社内における情報管理の重要性に対する意識改革
・社内における情報共有の範囲・方法の制限
・適切な重要事実の管理体制の整備と運用
・売買審査体制の整備および運用
・インサイダー取引規制に関する教育、社内規程の改定および社内規程の内容周知の徹底
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<この失敗から学ぶべきこと>
モルフォの役職員は、モルフォがデンソーとの資本業務提携を行うという重要事実が公表される前に、その情報を知ったうえでモルフォの株を市場で買い付けたり、持株会への拠出額を増やしたりしたとして、インサイダー取引の嫌疑をかけられることになりました。持株会を通じたインサイダー取引の摘発(課徴金納付命令の勧告)は初めてです。
一定の計画に従い毎月行う定時定額の買付け(各従業員の1回あたりの拠出額が100万円未満)であれば、インサイダー取引規制の適用除外であるため、未公表の重要事実を知っていても、インサイダー取引規制違反に問われることはありません(金融商品取引法166条6項12号、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令59条1項4号)。しかし、持株会による買付けは「一定の計画に従い」「個別の投資判断に基づかずに」「継続的に行われる」必要があり、これらの要件を欠く場合には、適用除外の対象から外れます(すなわちインサイダー取引規制の適用対象となります)。モルフォの役職員のように、モルフォがデンソーと業務提携を行う旨の未公表の重要事実を知った後に持株会への拠出金額を増額したり、未公表の重要事実を知った後に持株会に入会して買い付ける行為は、インサイダー取引規制の適用除外とならないことになります。
本特別調査委員会の調査報告書では、社員Bの買付け、社員Dの持株会への拠出金増額はインサイダー取引に該当すると認定しつつも、社員Aはインサイダー取引に該当しないと認定しています(元社員Cや元社員Gは「不明」としています)。また、社員E,F,H,I,Jについては、重要事実が伝達されたと認めるに足りる証拠はなく、持株会の入会または拠出金変更は毎年4月10月にしか認めていなかったことから、2015年10月に持株会の入会または拠出金変更を行った点につき不自然な点は認められないとしています。勧告対象となった役職員のうち一部は、審判手続等で証券取引等監視委員会の認定を争う意向を示しています。モルフォでは、インサイダー取引を行ったことを認めた役職員については、取締役会あるいは懲戒委員会にて厳正に処分するとともに、審判手続等で証券取引等監視委員会の認定を争う意向である役職員についてはその結果をもって処分の判断を決定するとしています。
モルフォでは、インサイダー取引防止に関する社内セミナーをマザーズ上場時(2011年7月)に開催したきり、本インサイダー取引が行われるまでに1回も開催していませんでした。また、モルフォにおける入社時オリエンテーションでのインサイダー取引防止規程に関する説明はごく短時間であり、「役職員の記憶にはほとんど残っていなかった」(本特別調査委員会の調査報告書より抜粋)とのことです。インサイダー取引を防ぐには、しつこいくらいの社内セミナーの開催と役職員の意識改革が必須と言えます。