2017/03/30 サマリー情報の先行開示に対する投資家の考え方(会員限定)

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

2017年3月期末が近づき、今後決算のとりまとめ作業も本格化することなる。今回の決算において大きなトピックとなるのが決算短信(以下、「短信」)の見直しだ。今回の見直しにより、短信の冒頭のページ(最初の2~3ページ)の「サマリー情報」の記載が自由化(=証券取引所が定める「決算短信・四半期決算短信作成要領等」に記載されている「様式」の使用義務の撤廃)されるとともに、投資判断に影響がなければ財務諸表を添付せずにサマリー情報だけを提出することも可能となった(通期決算への適用は2017年3月期から、四半期決算への適用は2017年6月の第1四半期から実施。改正内容の詳細は2017年2月28日のニュース「決算短信の改正に伴い判断が求められる事項」参照)。その趣旨は、「建設的な対話」を促進する観点から、短信の開示の自由度を高めることとされているが、監査法人やIRサポート会社、関係団体等によるこの改正についての解説を見ると、今回の改正の理由として、“速報性”という言葉が強調され、本来とは異なる意味にとらえられていると思われるケースが目に付く。具体的には、「今回の改正では、短信を早期に提出するために情報量を減らすことが求められた」といったものだ。

例えば日本公認会計士協会は、短信の改正案(証券取引所の上場規則改正案)が昨年(2016年)10月28日にパブリックコメントに付されたことを受け同11月に東証に送付したコメントレターをウェブサイトに掲載しているが、その中では「速報性に着目した記載内容の削減による合理化について」といった見出しを付けたうえで「速報性が重視される決算短信が、実態として金融商品取引法の開示を先取りした内容になっていることから、決算短信の記載内容の削減には賛成」とコメントしている。このコメントからは、「短信自由化」の目的は、「速報性」を確保するための「記載内容の削減」であるかのように見える。しかし、この改正が議論された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(WG)では、元々は金商法・会社法監査の一元化、有価証券報告書と事業報告書の一元化をどのように果たすかをテーマとしていたはずだ。結局、2016年4月に公表されたWGの報告書のとおり「一元化」が見送られる中(2016年4月20日のニュース『株主総会の7月開催は「任意」で決着の背景 開示の簡素化は実現せず』参照)、一元化がかなわないのであれば、せめて短信が「未監査」であることを強調して欲しいという日本公認会計士協会の要望()が、WGのもう一つのテーマであった開示書類の役割分担の議論と相俟って、「短信自由化」という形で具体化していったと考えるのが妥当だろう。

 短信は監査法人による会計監査の対象ではない。また、短信で公表した決算の内容に誤りがあっても、上場企業はそれが発覚した時点で訂正を公表すればよいだけである。それにもかかわらず、上場企業はいったん公表した決算を訂正することを嫌がる(これには、「投資家から信頼を失う」「企業内で責任問題が発生する」といった理由がある)。このため、会計監査の現場では、短信の公表日が、監査法人が上場企業に対して監査の過程で発見した「売上や利益の額が変わるような要訂正事項」の修正を比較的容易に依頼できる事実上の最終日となっており、短信公表後の訂正は企業にとってハードルが高いのみならず、訂正を促す監査法人にとっても企業を説得するのはハードルが高いのが実態である。そこで日本公認会計士協会は、短信が「未監査である」旨を強調することで、監査の終了を待たずに、企業が「決算の内容が定まった」と判断した時点で短信の早期開示を行うよう上場企業を誘導する狙いがあるものと思われる。これにより、監査法人は短信の公表日を気にすることなく、時間をかけてじっくり監査を行うことができる。
(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

こうした分かりづらい議論の流れもあり、短信の見直しの目的が見えにくかったせいか、改正の目的を日本再興戦略におけるガバナンス改革の議論と結び付けようとしているように感じられるものもある。例えばある監査法人では、顧客企業に向けた短信改正への対応についての解説の中で、「…攻めのコーポレートガバナンスの更なる強化が謳われています。その中で投資家に対する企業情報の開示が迅速かつ効果的になされるよう…(中略)これを受けて、昨年4月に金融審議会から決算短信を簡素化する考え方が公表され…」と、短信の簡素化は“攻めのガバナンス”につながる、としている。このほか、あるIR担当者向けの情報サイトには「…財務諸表の開示に先行してサマリー情報だけを開示する”攻めの開示”にも挑戦したいところだ」との記述がある。これらを見ていくと、「短信を早く出すために情報量を削減するには良いこと」というような印象を受けるが、これは果たして、現在でも投資家が望んでいることだろうか。

東証は、短信の見直しを盛り込んだ改正上場規則のパブリックコメントに対して投資家等から寄せられた意見をまとめた「決算短信等に関する投資者等の意見集」を公表しているが、そこには「サマリーの項目削減や自由化は、“都合のよい数字“だけをピックアップする傾向を助長しないか」「実際は投資判断に影響がない場合ではなく、間に合わないから財表をつけないのではないか」という懸念や、「財表の提出準備が整わないのであればサマリーだけ出さないほうが良い」といった考え方が示されている。

サマリー情報の先行開示により一部の情報だけが発表されれば、その企業を十分に評価ができない状態で株価が動き出す。対話を重んじる長期投資家であれば、企業を正確に評価するためには、情報は必ずセット(サマリー情報(短信本体)+添付資料(「経営成績・財政状態に関する分析」や「連結財務諸表」など)で出るべきだと考えるはずだ。その一方で、投資家と積極的に対話をしている企業でさえも、その中期経営計画等で「決算短信の更なる早期開示」を目標に掲げるケースは少なくない。

企業は異なるステークホルダーから様々な要求を受けており、その中には早期開示を求める声もあるだろう。しかし、こうした一部の声を聞いて、「ガバナンス向上のため」とサマリー情報だけを従来よりも早く提出する準備を進めている企業があるとすれば、それは極めて非効率な行動と言える。上述のとおり本来企業が対話をするべき相手である投資家(特に長期投資家)がそれを求めていない以上、無駄な努力となる可能性が高いからだ。

新たな短信を作成する前に、企業は本当に対話をするべき投資家は誰で、また、その投資家はどのように言っているのか、改めて確認すべきである。そして、両者の信頼関係が高まる企業開示のあり方を“正確に”共有することが望まれる。

2017/03/30 【役員会 Good&Bad発言集】プロジェクト中断時の建設仮勘定の扱い

東証一部に上場している製造業のA社では、定例の取締役会で経理担当役員が「監査法人から長期間動きのない建設仮勘定につき減損損失の判定をするよう求められた」と報告したところ、取締役A・B・Cが下記の発言をしました。誰の発言がgood発言でしょうか?

取締役兼甲工場長A:「問題となっている建設仮勘定は、もともとは営業が持ってきた新製品プロジェクト案件に対応して、甲工場で製造ラインを追加しようとした際の機械購入・設置に関する代金です。工場が主導して設置を決めた設備ではないので、営業が廃棄稟議を起案するのが筋ではないでしょうか。」

営業担当取締役B:「営業担当者に本件を問い合わせたところ、この新製品の話は完全に消えたわけではないとのことです。プロジェクト再開時に機械を再度購入し設置するのは無駄な支出になってしまいます。私は、プロジェクトが再開する可能性がまったくないとは言い切れない以上、減損は時期尚早と考えます。」

社外取締役C:「減損損失の計上と現物の廃棄は別物です。また、わが社の職務権限規程では、設備の取得申請をした部署が減損計上の稟議を起案するよう定められていますが、それでは減損計上が先送りされるリスクが高いのであれば、経理部が減損損失計上の稟議を上げ、設備の取得申請をした部署の決裁を不要とするよう職務権限規程を改訂するのも一案です。」

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2017/03/30 【役員会 Good&Bad発言集】プロジェクト中断時の建設仮勘定の扱い(会員限定)

<解説>
建設仮勘定にも減損損失の判定は必要

企業は、所有する固定資産に減損の兆候があれば減損損失の判定をしなければなりません(減損損失の考え方については【役員会 Good&Bad発言集】減損損失計上の是非 をご覧ください)。そして、建設仮勘定は、いまだ建設・製作途上にあるとはいえ、固定資産に分類される資産であり、他の固定資産と同様、減損の兆候があれば減損損失の判定を免れません。

建設仮勘定の場合、建設仮勘定に係る建設について、計画の中止または大幅な延期が決定されたことや当初の計画に比べ著しく滞っていれば、「減損の兆候あり」となります(企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下、「減損会計適用指針」)13項参照)。企業は、所有する建設仮勘定に係る資産が「減損の兆候あり」となった場合に、当該建設仮勘定の帳簿価額が将来のキャッシュ・フロー見込み額の総額を下回れば、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失を認識しなければなりません。

いったん稼働した後に遊休資産となった資産であれば、人員配置や部署の改廃を伴うケースも少なくなく、稼働停止の事実が目立つことから減損損失の判定対象から漏れにくいのですが、建設仮勘定のように未稼働の資産の場合、人員の配置にも至ってないケースが多く未稼働の状態が目立ちにくいため、減損損失の判定対象から漏れやすいので注意が必要です。

減損損失計上の稟議はどこが起案する?

企業は、減損損失の計上が必要になると、職務権限規程などの社内規程に従い、減損損失計上の稟議書を起案して決裁を得る等の社内手続きを踏む必要があります。社内規程上、当該固定資産を管理している部門が減損損失計上の稟議書を起案するよう定められている企業では、減損損失の計上により企業の利益が減少するため、担当者の責任問題に発展しかねないことを恐れ、減損損失の計上をためらう(取締役会等で「計画の中止または大幅な延期が決定」されていればともかく、そのような決定がされていない状況では、さまざまな理屈をつけて「当初の計画に比べ著しく滞っているわけではない」と主張する)場面も見受けられます。また、営業部門などの他部門の要請で当該建設仮勘定の建設に係る支出をした場合、工場などの当該現物を管理している部門は、「営業部門の要請で設置しただけなのに・・・」という思いがあるため、つい減損損失の計上を先送りする理由を探すことになりかねません。

このように現場に計上を任せると先送りされかねない減損損失については、社内規程を見直して、経理部が主導する(経理部が稟議書を起案する)ような仕組みに変更するのも一案と言えます。

評価損計上と廃棄は別物

減損損失の計上は、単なる会計処理に過ぎません。固定資産(建設仮勘定)に減損損失を計上しても、その固定資産を廃棄するかどうかは別問題です。当該固定資産を廃棄しない限り、現物は存在し続けることになります。現物を持ち続けると保管場所が必要になり維持費用もかかるというデメリットがありますが、万が一、状況の変化に伴い当該固定資産が必要になったときに、すぐに利用や転用ができるというメリットがあることは否定できません。このメリットがあるがゆえに、使う見込みがほとんどない固定資産があるにもかかわらず「ひょっとして使うかも・・・」といった根拠なき期待のもと、当該固定資産を廃棄する判断が遅れ、長期間にわたり使用しない固定資産を持ち続けている企業は少なくありません。投資家から資金を預かり事業を営んでいる上場企業としては、固定資産を廃棄するかどうかについて、保管費用・維持費用といった“持ち続けることのコスト”を勘案しながら、合理的に判断するよう心掛けるべきです。

さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

社外取締役C:「減損損失の計上と現物の廃棄は別物です。また、わが社の職務権限規程では、設備の取得申請をした部署が減損計上の稟議を起案するよう定められていますが、それでは減損計上が先送りされるリスクが高いのであれば、経理部が減損損失計上の稟議を上げ、設備の取得申請をした部署の決裁を不要とするよう職務権限規程を改訂するのも一案です。」
コメント:会計や法律など専門的な問題を議論する時は、専門外の取締役から見当外れの発言が飛び出ることが少なくありません。取締役会での議論を建設的なものとするため、専門的な知識を有する役員は、その場で誤解を解いてあげることも役目の一つです。「減損の計上と現物の廃棄は別物である」ことを指摘しつつ、減損計上を先送りしがちな仕組みの改善を提案する社外取締役Cの発言はGOODです。なお、「減損の計上と現物の廃棄は、どのような違いがあるのか」(減損の計上は帳簿上の処理、廃棄は実物に対する処分)について一言でも解説があれば、なおGOODでした。

BAD発言はこちら
取締役兼甲工場長A:「問題となっている建設仮勘定は、もともとは営業が持ってきた新製品プロジェクト案件に対応して、甲工場で製造ラインを追加しようとした際の機械購入・設置に関する代金です。工場が主導して設置を決めた設備ではないので、営業が廃棄稟議を起案するのが筋ではないでしょうか。」
コメント:取締役兼甲工場長Aの発言には、甲工場の責任問題に発展することをおそれて、減損損失の計上に消極的な姿勢が垣間見えます。上場企業であれば廃棄稟議の起案部署は規程に明示されているはずであり、取締役間の交渉で決まるものではありません。また、そもそも今回話題に上がっているのは減損損失の計上であり、廃棄するかどうかは別問題です。それにもかかわらず廃棄稟議に関する発言をしているのは、減損と廃棄を区別できていないことの証左と言え、Aの発言はBADです。
営業担当取締役B:「営業担当者に本件を問い合わせたところ、この新製品の話は完全に消えたわけではないとのことです。プロジェクト再開時に機械を再度購入し設置するのは無駄な支出になってしまいます。私は、プロジェクトが再開する可能性がまったくないとは言い切れない以上、減損は時期尚早と考えます。」
コメント:「プロジェクトが再開する可能性がまったくないとは言い切れない」という持って回った表現から、プロジェクト再開の見通しは限りなく低い様子がうかがえます。減損損失を計上しても、廃棄するかどうかは別問題であり、廃棄しなければプロジェクト再開時に機械を再度購入する必要はありません。営業担当取締役Bの発言も、Aの発言と同様に減損と廃棄を区別できておらず、BAD発言です

2017/03/29 企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容

金融庁は昨日(2017年3月28日)、スチュワードシップ・コードの改訂案を公表した。スチュワードシップ・コードは2014年2月26日に策定されたが、当初より3年を目途に見直されることになっていた。4月27日までコメントを募集したうえで、内容を確定する。

現行のスチュワードシップ・コードは214の機関投資家が受入れを表明しており(2016年12月27日時点の金融庁調査結果)、日本で活動する大半の運用機関が同コードを受入れていると言っても過言ではないが、一方でその実効性を疑問視する声も聞かれる。特に金融グループに属する運用機関の議決権行使については、上場企業が当該運用機関と同じグループに属する銀行・証券会社等を通じ(当該上場企業にとって有利な形で議決権を行使するよう)圧力を掛ける可能性が否定できず、「利益相反」の可能性が指摘されていた。

今回の改訂案の主なポイントは以下の通りだ。・・・

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2017/03/29 企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容(会員限定)

金融庁は昨日(2017年3月28日)、スチュワードシップ・コードの改訂案を公表した。スチュワードシップ・コードは2014年2月26日に策定されたが、当初より3年を目途に見直されることになっていた。4月27日までコメントを募集したうえで、内容を確定する。

現行のスチュワードシップ・コードは214の機関投資家が受入れを表明しており(2016年12月27日時点の金融庁調査結果)、日本で活動する大半の運用機関が同コードを受入れていると言っても過言ではないが、一方でその実効性を疑問視する声も聞かれる。特に金融グループに属する運用機関の議決権行使については、上場企業が当該運用機関と同じグループに属する銀行・証券会社等を通じ(当該上場企業にとって有利な形で議決権を行使するよう)圧力を掛ける可能性が否定できず、「利益相反」の可能性が指摘されていた。

今回の改訂案の主なポイントは以下の通りだ。

① アセットオーナー(主に年金基金)の責任の明確化(スチュワードシップ活動に対する主体的な関与と実効的なモニタリング) 9~10ページ、指針1-3、1-4、1-5
② 運用機関における利益相反管理およびガバナンスの整備(例:第三者委員会等の設置) 11ページ 指針2-2、2-3、2-4
③ 投資先企業のESGへの取組みについて、リスクだけでなく収益機会も把握 12ページ 指針3-3
④ パッシブ運用におけるスチュワードシップ活動の積極化 13ページ 指針4-2
⑤ 選択肢としての集団的エンゲージメントへの言及 13ページ 指針4-4
⑥ 議決権行使結果の個別開示(現状は議案ごとに集計値を開示すればよいが、投資先企業の議案レベルでの開示()を要求) 15ページ 指針5-3

⑦ 議決権行使助言会社の体制整備と助言策定プロセス等の公表 16ページ 指針5-5
⑧ 運用機関の経営陣の構成(金融グループ内部の論理ではなく、能力・経験に基づいた構成とする) 18ページ 指針7-2
⑨ 運用機関による自己評価の実施と結果の公表 18ページ 指針7-4

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。
パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。

 例えば、「A社の取締役B氏の選任議案に反対した」といった情報。現行のスチュワードシップ・コードでは、「当社(運用機関)は、役員選任議案を決議した投資先500社のうち450社の議案に賛成票を投じ、50社の議案に反対票を投じた」というように、「議案の主な種類ごとに整理・集計」して公表すればよいことになっている。

機関投資家が導入に難色を示しているのが⑥の個別開示だ(2017年2月9日のニュース『金融庁有識者会議で「議決権行使結果の個別開示は“時期尚早”」との意見』参照)。これが実現すれば、②の運用機関における利益相反管理およびガバナンスを担保する意義はあるものの、その一方で、開示された行使結果を見た上場企業が銀行・証券会社等の系列の運用機関に圧力をかける可能性は否定し難く、それを危惧した運用機関が形式的な議決権行使に走ることも懸念される。いずれにせよ、個別開示が実現すれば、今後は運用機関との対話が従前以上に積極化し、特に継続的な対話が求められるケースが増えることが予想される(2016年11月16日のニュース『「物言わぬ株主」時代の終わりを告げるスチュワードシップ・コードの改訂』参照))。上場企業としては、対話を通じて得られた意見等を経営陣や取締役会にフィードバックし、経営に生かすことが重要となろう。

また、④パッシブ運用のスチュワードシップ活動では、株主総会の議案に関する対話と議決権行使が中心になることが予想される。上場企業には、株主総会関連資料等を通じた議案についての情報開示を充実化するといった対応が求められよう。

2017/03/29 【2017年2月の課題】働き方改革への対応:解答(会員限定)

1.働き方改革が求められている理由

働き方改革への対応を考える前に、なぜ働き方改革が必要なのかについて整理しておきたいと思います。

国際的に見て日本人は総じて勤勉でロイヤリティが高く、それが日本企業の大いなる強み、そして競争力の源泉ともなっています。その一方で、多くの日本企業では、長時間労働を前提とした業務分担がごく当たり前に行なわれています。遅くまで会社に残って働いていることが勤勉の証とされ、「あいつは毎日遅くまで残って頑張っているな」などとして、残業の多い社員を評価する風潮が長きにわたって支配してきました。しかし、ホワイトカラーの多い非製造業の拡大・発展などにより、労働時間と成果が必ずしも比例しない仕事が増えてきたことに加え、社員の就労ニーズが多様化したことに伴い、さまざまな属性や雇用形態の社員が同じ職場で働くようになりました。仕事と生活との調和(ワーク・ライフ・バランス)を図る社員も多くなってきています。さらに、長時間労働に起因する労働災害の発生やサービス残業の発覚などによって長時間労働への社会的関心が高まっていることとも相俟って、これまでの長時間労働を前提とした働き方を見直す「働き方改革」が推進されているのです。

一口に「働き方改革」、つまり「働き方を改革する」と言っても、さまざまなイメージや考え方、方法がありますが、本稿では、(1)長時間労働の是正、(2)労働生産性の向上、(3)同一労働同一賃金など非正規社員の処遇改善――の3つに整理したうえで、その対応を解説したいと思います。

2. 働き方改革への対応

(1)長時間労働の是正
わが国企業の競争力の源泉である優秀な人材を確保・定着させるためには、長時間労働による働き過ぎを防止してワーク・ライフ・バランスを図るとともに、社員が持てる能力を発揮できるよう「柔軟な働き方」(例えば通常の正社員より勤務時間や勤務日数を減らしたり、特定の勤務地や仕事だけに就業させたりする限定正社員制度や、時間や場所にとらわれずに仕事をするテレワークなど)の選択肢を増やす必要があります。

長時間労働の削減は労働生産性を向上させ、イノベーションを創出します。すなわち、企業が持続的に成長するためにも、長時間労働の是正は不可欠となります。

こうした中、政府が3月28日にまとめた「働き方改革実行計画」には、実質的に無制限の残業を可能とする現行の36協定特別条項付含む)による枠組みを改め、「罰則付き」の時間外労働の上限規制を導入することが盛り込まれています。具体的には、36協定を労使で締結し、労基署に届け出ることで「月45時間以内」かつ「年360時間以内」の時間外労働を可能することを原則としつつ、その特例として、臨時的な特別の事情がある場合には、「年720時間以内」かつ「休日労働を含め月100時間未満」かつ「2ヵ月ないし6ヵ月平均で休日労働を含め月80時間以内」での時間外労働を可能とするものです。この特例の適用は年6回が上限となります。企業は、この新たな規制にも対応することが求められています。
長時間労働を是正していくには、長年にわたって社内に染み付いている意識や風潮を変えていかなければなりませんが、それは一朝一夕にできることではありません。不必要な残業や仕事を削減して長時間労働を撲滅すべく、経営者が強い意志を社内外に示すとともに、強力なリーダーシップを発揮して、働きやすい職場環境の整備、業務改革の推進や上述したような柔軟かつ創造的な働き方の拡大などにより、社員一人ひとりの仕事の付加価値を高めていけるかがカギとなります。

36協定 : 「時間外労働・休日労働に関する労使協定」のこと。労働基準法第36条に基づく協定であるため「三六協定」とも呼ばれる。
特別条項 : 「臨時的に、限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合」に、従来の限度時間を超える一定の時間を延長時間とすることを可能とするもの。

働き方改革の推進にあたっては、取組み状況に応じて、長時間労働の是正や年休取得促進に向けた数値目標(KPI:Key Performance Indicator=重要目標達成指標)を設定し、PDCAサイクルをしっかりと回していくことが有効です。経団連の調査では、すでに過半数の企業が数値目標を設定し、働き方改革に取り組んでいます。例えば残業時間については、部門やビジネスユニットごとに前年度あるいは前年度同期の実績時間から毎年度、一定割合ずつ削減していくとの目標を掲げている企業もあります。また、年休取得の促進として、「社員一人ひとりの前年度の取得日数+○日」を目標としている企業もあります。

PDCAサイクル : Plan→Do→Check→Actionのサイクルを繰り返しながら、目標を実現する手法。サイクル内に、軌道を修正したり、場合によっては目標を変更したりする仕組みを内包しており、状況変化に応じて迅速に対応することが可能となる。

ここで重要なことは、チャレンジングな最終目標値を掲げつつ、併せて“達成しやすい”毎年の目標値も提示するということです。ある企業では、毎年目標をクリアしていくにつれ社員が達成感と面白さを感じるようになり、今では社員が率先してアイデアを出し合い、さらなる目標達成に取り組んでいるそうです。この事例が示すように、経営陣は、上から強制するよりも、こうした流れを社内で起こすような工夫に知恵を絞りたいところです。

図表1 長時間労働の削減や年休の取得促進に向けた取組み(複数回答)
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(2)労働生産性の向上
長時間労働の是正や年休の取得促進だけを進めると、社員の働く時間や日数の減少とともに、自社の売上高や利益も減少することになりかねません。そうならないためには、働き方改革を推進する際には必ず「労働生産性の向上」、とりわけ国際的に低いとされるホワイトカラーの生産性の向上に努める必要があります。

経団連の調査では、回答企業のほとんど(98.3%)がホワイトカラーの労働生産性の向上を「極めて重要な課題」または「重要な課題」と認識しています。生産性向上の取組みを成功させる最大のポイントは、やはり経営トップの関与です。同じく経団連調査によると、「経営トップによる継続的なメッセージの発信」を行っている企業では、労働生産性の向上に向けて実施している施策数(5.4)に対して成果が出ている割合は52.0%に上っている一方、それを行っていない企業では、そもそも実施している施策数(3.1)が少なく、また、成果が出ている割合も37.4%にとどまっています。つまり、経営トップが継続的にメッセージを発信している企業のほうが多くの取組みを実施し、成果も上がっているということです。さらに、経営トップを含む経営陣が労働組合や社員らと率直に議論を交わしながら、皆で自社に適した施策を見つけ、それに取り組めば、労働生産性は一層向上していくでしょう。

図表2 ホワイトカラーの労働生産性の向上の施策(複数回答)
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また、「健康経営」という視点も欠かせません。社員が病欠などによって出勤できなければ当然ながら労働力の損失となりますが、たとえ出勤はしていても健康問題を抱えていれば「労働生産性」は低下します。後者は、社員が出勤しているだけに顕在化しにくく、実態の把握が困難な面があります。こうした状況を見逃さないためには、現場の管理職による部下への目配りはもとより、経営トップ自らが「健康経営」を経営戦略として掲げ、(社員のプライバシーに配慮しつつも)社員の健康面に積極的に関与することが望まれます。具体的には、産業医など専門スタッフとの連携や、健康維持・増進に関する情報提供・セミナーの開催、就労環境の改善、健保組合や協会けんぽといった保険者との連携(コラボヘルス)などを検討するとよいでしょう。

(3)同一労働同一賃金など非正規社員の処遇改善
本格的な労働力人口の減少に備え、企業としては、若年者や女性、高齢者など多様な人材の活躍を促すため、雇用形態にかかわらず均等・均衡な処遇を確保する必要がある中で、「同一労働同一賃金」がクローズアップされています。同一労働同一賃金というと、仕事の内容が同じなら賃金も同じにするという、ヨーロッパ型の仕組みをイメージすることが多いですが、政府が言っている同一労働同一賃金はそれとは異なります。

昨年12月に政府が示した「同一労働同一賃金に関するガイドライン案」では、各企業において「職業経験・能力」「業績・成果」や「勤続年数」によって賃金に格差を設けることを是認したうえで、逆に同じ企業で働く正社員と非正規社員の間でこうして点に違いがなければ基本給や賞与をはじめとする各種手当等の賃金を同一とするものです。これは、多くの日本企業が、ある時点で担っている仕事の内容だけではなく、役割や貢献度、将来的な活躍への期待など、さまざまな要素を総合的に勘案して賃金を決定していることを踏まえた「日本型同一労働同一賃金」といえるものであり、日本企業の実態に適っています。

各企業においては、正社員と非正規社員の間に不合理な差が生じていないかをチェックする必要がありますが、それにとどまらず、今回の同一労働同一賃金の議論を契機として、自社の賃金制度が、担っている仕事の内容や難易度、責任の度合い、会社への貢献度などを基準とした制度となっているか、再点検おきたいところです。同じ仕事であるにもかかわらず、それを就業時間内に終わらせて退社した社員より、残業してやっと終わらせた社員へ賃金が多く支払われるという矛盾した仕組みから脱却することは、限られた原資(人件費)を適正に配分するという経営者の視点のみならず、公正で納得感の高い処遇制度を実現するという社員の視点からも重要であり、経営者から社員への明確なメッセージにもなるでしょう。

3.まとめ

政府の「働き方改革実行計画」を受けて、厚生労働省の労働政策審議会(労政審)において、法改正に向けた具体的な検討が始まります。同一労働同一賃金については、労政審に「同一労働同一賃金部会」が新設され、関連法(労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法)の改正審議が始まり、今年(2017年)秋の臨時国会に改正法案が提出される見込みです。また、罰則付きの時間外労働の上限規制の導入については、今年6月を目途に労政審でとりまとめを行い、今年秋の臨時国会に改正法案が提出される予定です。

もっとも、改正法案が成立したとしても、施行されるまでには一定の期間が設けられる予定であるため、経営者の中には“猶予”があるように感じる方がいるかもしれません。しかし、同一労働同一賃金にしろ、罰則付き時間外労働の上限規制の導入にしろ、法改正の内容を社内の諸制度に落とし込み、企業や職場に浸透させ、しっかりと対応していくには、労使間の真摯な話し合いと社員の理解が必要であり、それには相当の時間を要することが想定されます。改正法の施行を待つことなく、できるだけ十分な検討時間を確保し、労働の現場で無用な混乱が生じないようにすることは経営者の責務といえます。各企業においては、まず自主点検を早めに実施するとともに、労使間の話し合いを通じて、自社の制度や自らの待遇に対する理解と納得感を高めていくことが望まれるでしょう。

2017/03/28 集中日回避、早期発送・開示、議案の説明充実 1~3月総会企業の対応は?

2017年6月株主総会に向け、上場企業各社のテーマとなっているのが、株主の議決権行使を充実させるための取り組みだ。生命保険協会が(2017年)3月21日に公表した平成28年度版の「株式価値向上に向けた取り組みについて」と題する企業と投資家を対象にしたアンケート結果では、株主の議決権行使を充実させるための企業の取り組み、および投資家の期待する取り組みを比較しているが(図表72)、これによると、「集中日の回避」「(招集通知の)早期発送・開示」「議案の説明充実」という投資家が求める3つの項目に対する企業の取り組みにはバラツキがあることが分かる。

<議案の説明充実に向けた取り組み(企業)・期待する取り組み(投資家)>

  投資家の期待 企業の取り組み 期待ギャップ
集中日の回避 58% 58% ±0ポイント
早期発送・開示 60% 89% +29ポイント
議案の説明充実 60% 41% -19ポイント

それぞれ一言でまとめると、集中日の回避は「期待通り」、早期発送・開示は「期待以上」、議案の説明充実は「期待外れ」ということになろう。

では、各項目に対し、2017年1~3月株主総会においてTOPIX500採用銘柄(59社)がどのように取り組んだか、見てみよう。・・・

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2017/03/28 集中日回避、早期発送・開示、議案の説明充実 1~3月総会企業の対応は?(会員限定)

2017年6月株主総会に向け、上場企業各社のテーマとなっているのが、株主の議決権行使を充実させるための取り組みだ。生命保険協会が(2017年)3月21日に公表した平成28年度版の「株式価値向上に向けた取り組みについて」と題する企業と投資家を対象にしたアンケート結果では、株主の議決権行使を充実させるための企業の取り組み、および投資家の期待する取り組みを比較しているが(図表72)、これによると、「集中日の回避」「(招集通知の)早期発送・開示」「議案の説明充実」という投資家が求める3つの項目に対する企業の取り組みにはバラツキがあることが分かる。

<議案の説明充実に向けた取り組み(企業)・期待する取り組み(投資家)>

  投資家の期待 企業の取り組み 期待ギャップ
集中日の回避 58% 58% ±0ポイント
早期発送・開示 60% 89% +29ポイント
議案の説明充実 60% 41% -19ポイント

それぞれ一言でまとめると、集中日の回避は「期待通り」、早期発送・開示は「期待以上」、議案の説明充実は「期待外れ」ということになろう。

では、各項目に対し、2017年1~3月株主総会においてTOPIX500採用銘柄(59社)がどのように取り組んだか、見てみよう。

【集中日の回避】
2017年3月における株主総会の集中日は30日で、(59社のうち)12月決算の55社中、22社が同日に開催する。集中度を過去3期間で比較すると、49%→42%→40%と年々低下しているのが分かる。なお、55社のうち最も開催日が早かったのは花王の21日、休日に開催した事例としては堀場製作所の25日(土)があった。

【早期発送・開示】
59社各社が招集通知を東証ウェブサイトに掲載した日について、過去3期間の推移を確認したところ、発送日に対しては0.4日→3.5日→4.0日前、開催日に対しては21.1日→25.0日→25.6日前と、いずれも改善している。最も早く開示したのは電通で、発送日の13日前、開催日の35日前であった。なお、決算期を変更したばかりの企業、経営統合の直後または経営統合を控えている企業などでは、早期開示が後退した事例も散見された。

【議案の説明充実】
投資家が役員選任議案などを判断する際、経営陣のROEに対する考え方は重要な検討要素となるが、招集通知(参考資料、事業報告を含む)にROEに関する記載があったのは59社中、3割程度の19社にとどまっている。また、長期的な経営方針を反映するであろうESGについては僅か3社、このうち「G(ガバナンス)」の取り組みにおいて核となるコーポレートガバナンス・コードについては7社と、記載事例は著しく少ない状況となっている。

ROE : 自己資本利益率=当期純利益÷自己資本
ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

株主総会を控えた企業の課題は、開催日や招集通知の掲載日などの日程設定から、提供する情報の質的な向上に移りつつあると言えよう。

2017/03/27 取締役会の実効性向上への取組みを巡る企業と投資家の認識のギャップ

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-11③「取締役会による取締役会の実効性に関する分析・評価、結果の概要の開示」をコンプライしている上場企業は、昨年(2016年)12月末時点の東証による調査結果では55.3%にとどまる(2017年1月17日のニュース「CGコードの“フルコンプライ”企業の割合が頭打ちに」参照)。こうした中、6月の株主総会に向け、取締役会評価の実施(コンプライ)または充実を図ろうと努力している上場企業は多い。

これは数字にも表れている。・・・

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2017/03/27 取締役会の実効性向上への取組みを巡る企業と投資家の認識のギャップ(会員限定)

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-11③「取締役会による取締役会の実効性に関する分析・評価、結果の概要の開示」をコンプライしている上場企業は、昨年(2016年)12月末時点の東証による調査結果では55.3%にとどまる(2017年1月17日のニュース「CGコードの“フルコンプライ”企業の割合が頭打ちに」参照)。こうした中、6月の株主総会に向け、取締役会評価の実施(コンプライ)または充実を図ろうと努力している上場企業は多い。

これは数字にも表れている。生命保険協会は(2017年)3月21日、「株式価値向上に向けた取り組みについて」と題する企業と投資家を対象にしたアンケート結果(572社の企業、93社の投資家が回答)を公表したが(生命保険協会ニュースリリースはこちら)、「コーポレートガバナンス・コードを受け、株式価値向上の観点から変更もしくは強化した取り組み」として、60%の企業が「取締役会の実効性の評価」を挙げており、次点の「独立した社外役員」の39.7%を大きく引き離している(図表1参照)。

ただ、こうした企業の努力は、まだ投資家に十分に伝わっているとは言えないようだ。これは、投資家に対する「開示内容の充実を期待する項目」についての質問で、52%の投資家が「取締役会の実効性の評価」を挙げていることからもうかがえる(図表8参照)。

また、取締役会の実効性評価のそもそもの目的である「取締役会の実効性向上」に向けた課題についてのアンケートでも、両者の認識のズレが見られる。企業の47.6%が「上程議案の見直し・絞込みによる重要事項に関する議論の充実」、35.8%が「取締役会議題の事前説明の充実」を挙げる一方、投資家の50.5%は「取締役会全体の経験や専門性のバランス」、43%は「社外役員の拡充」を挙げている(図表6参照)。この結果からは、企業が現在の取締役会を所与として主に“運営面”を課題としているのに対し、投資家は“取締役会自体の構成”を問題視している図式が浮かび上がる。

上記で多くの企業が課題に挙げた「上程議案の見直し・絞り込み」が経営戦略など重要事項の議論を充実させることを目的としているのは周知のとおりだが、この「経営戦略」を巡っても企業と投資家の間に温度差がある。今回のアンケートでは、「取締役会の議題として重点的に取り上げたいテーマ」として66.1%の企業が「経営戦略立案」を挙げており(投資家で経営戦略立案を挙げたのは57% 図表7参照)、実際に上場企業各社のコーポレートガバナンス報告書をチェックしても、取締役会における戦略などの重要なテーマに関する議論の不足を挙げている例が目に付く(2016年9月30日のニュース「取締役会の決議事項を減らす方法」参照)。その一方で、「コーポレート・ガバナンスに関して今後取り組みを強化する事項」として「経営計画・経営戦略」を挙げた企業は21.7%に過ぎない(図表2参照)。これに対し、59.1%の投資家が「(企業の取り組みの)強化を期待する事項」としてこの「経営計画・経営戦略」を挙げている(同)。すなわち、企業は経営戦略を“議論の対象”にすることを目指しているが、投資家は現在の日本企業の経営戦略自体に大きな課題があると考えており、単に議論の対象にするだけではなく、議論を充実させて欲しいと考えていると言える。

上場企業の経営陣としては、こうした投資家との認識のギャップを頭に入れたうえで、(ギャップを解消すべく)取締役会の実効性向上に努めたいところだ。