2015年6月にコーポレートガバナンス・コードが施行されて以来、任意の指名・報酬委員会制度を導入する上場企業が増えている。補充原則4-10①が、取締役会の下に「独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会」を設置することを推奨しているからだ(下記の赤字部分参照)。
補充原則4-10①
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。
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もっとも、任意の指名・報酬委員会を設置してはみたものの、単に「設置しただけ」にとどまり、実質を伴っていないケースが少なくないことが、経済産業省に設置されたCGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)が3月10日に公表した「GS研究会報告書-実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引-」の参考資料である「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」で明らかになっている。
任意の指名・報酬委員会を設置している上場企業は、アンケートに回答した企業874社中313社(36%)にのぼっている(Q45)。連結売上高5,000億円以上の企業(該当企業195社)に限れば、設置率は62%に上る。連結売上高1,000億円以上5,000億円未満の企業(該当企業261社)では38%、連結売上高1,000億円未満(該当企業418社)では22%となっており、任意の指名・報酬委員会の設置率は企業規模に比例していることが分かる(Q45)。
このように広がりを見せている任意の指名・報酬委員会だが、その「実効性」には首をかしげざるを得ない。例えば、任意の指名・報酬委員会制度を導入している企業に向けた「任意の報酬委員会での決定が取締役会をどの程度拘束するか」との質問に対し、「社内規則上、取締役会を拘束することとされている」と回答した企業は6%(18社)、「社内規則はないが、事実上又は慣行上、取締役会を拘束する」と回答した企業は35%(110社)に過ぎない(Q49)。「参考意見として尊重されるが、取締役会を拘束しない」と回答した51%(159社)の企業は、投資家から「形式的に導入しただけで実質が伴っていない」と評価される可能性がある。
また、任意の指名・報酬委員会の実効性のレベルは、そこでの検討時間の多寡もバロメーターとなるが、開催頻度(Q51)は「年1回」が26%(91社)、「年2回」が24%(84社)であり、半数の50%(172社)の企業は1回当たりの平均所要時間(Q52)が「1時間未満」だった。投資家からは「その程度の時間しか費やしていないのか」という驚きに近い声も上がっている。仮に数十分で決められた指名・報酬策に取締役会が拘束されるとなると、むしろガバナンスの低下にもつながりかねない。任意の指名・報酬委員会の開催頻度や所要時間は、今後、上場企業と投資家との対話における論点になりそうだ。
さらに、「任意の指名・報酬委員会で議論した事項を特に取締役会に報告していない企業」は監査等委員会設置会社で22%(10社)、監査役会設置会社で19%(51社)にのぼっている。任意の指名・報酬委員会と取締役会とのコミュニケーションが不足している状況がうかがえる。また、任意の報酬委員会を設置していても14%の企業で社長・CEOの報酬を検討対象としていないこともわかった(Q47)。これでは任意の報酬委員会に社長・CEOへの牽制効果を持たせることは不可能だ。「任意の指名・報酬委員会で議論した事項の取締役会への報告」と「任意の報酬委員会が社長・CEOの報酬を検討対象にすること」はもはや“必須”と言える。
こうした任意の指名・報酬委員会制度の実像はこれまで投資家に必ずしも伝わっていなかっただけに、投資家からの期待ギャップが生じていた可能性は高い。今回のアンケート結果を踏まえ、今後、投資家との対話において、任意の指名・報酬委員会の実像を問われる機会が増えてくるはずだ。上場企業は、それに備えて任意の指名・報酬委員会の開催頻度や累計討議時間数の“実績”を積み上げていく必要がある。