2017/03/24 “障害者雇用率改善ビジネス”への対応

「社会の公器」とも言われる上場企業にとって、障害者の雇用は重要な社会的な役割の一つである。法律(障害者の雇用の促進等に関する法律)でも、従業員を50人以上抱える事業主は、雇用する労働者に占める身体障害者・知的障害者の割合を一定率(法定雇用率)以上にすることが義務付けられている(精神障害者の雇用義務はないが、雇用した場合は身体障害者・知的障害者を雇用したものとみなされる)。法定雇用率は2013年に改正されており、民間企業では2%とされている。この率は今後上昇する見通しだ(法定雇用率の引き上げについてはこちらを参照)。

法定雇用率を達成できない企業は、ハローワークから障害者の雇入れ計画の作成を命じられることになる。常用労働者100人超の企業が法定雇用率を達成できないと、不足人数一人につき月額5万円の障害者雇用納付金が徴収される。その後も改善が認められないとなれば、企業名の公表もありうる。企業としては、障害者の雇入れが不十分であるとして企業名が公表されることだけは何としても避けたいというのが本音であろう。とはいえ、法定雇用率の達成は簡単ではない。障害者の受入れ態勢は、ハード面とソフト面の双方から構築しなければならないからだ。厚生労働省の調査によると、障害者の法定雇用率を達成できた企業の割合は48.8%(「平成28年障害者雇用状況の集計結果」より)と半数未満の状況であり、ハードルの高さがうかがえる。

こうした中、最近は“障害者雇用率改善ビジネス”も登場している。具体的には、・・・

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2017/03/24 “障害者雇用率改善ビジネス”への対応(会員限定)

「社会の公器」とも言われる上場企業にとって、障害者の雇用は重要な社会的な役割の一つである。法律(障害者の雇用の促進等に関する法律)でも、従業員を50人以上抱える事業主は、雇用する労働者に占める身体障害者・知的障害者の割合を一定率(法定雇用率)以上にすることが義務付けられている(精神障害者の雇用義務はないが、雇用した場合は身体障害者・知的障害者を雇用したものとみなされる)。法定雇用率は2013年に改正されており、民間企業では2%とされている。この率は今後上昇する見通しだ(法定雇用率の引き上げについてはこちらを参照)。

法定雇用率を達成できない企業は、ハローワークから障害者の雇入れ計画の作成を命じられることになる。常用労働者100人超の企業が法定雇用率を達成できないと、不足人数一人につき月額5万円の障害者雇用納付金が徴収される。その後も改善が認められないとなれば、企業名の公表もありうる。企業としては、障害者の雇入れが不十分であるとして企業名が公表されることだけは何としても避けたいというのが本音であろう。とはいえ、法定雇用率の達成は簡単ではない。障害者の受入れ態勢は、ハード面とソフト面の双方から構築しなければならないからだ。厚生労働省の調査によると、法定の障害者雇用率を達成できた企業の割合は48.8%(「平成28年障害者雇用状況の集計結果」より)と半数未満の状況であり、ハードルの高さがうかがえる。

こうした中、最近は“障害者雇用率改善ビジネス”も登場している。具体的には、「農園」で障害者を雇用するというもの。まず企業が、コンサルティング会社が整備した農園内にプランターや養液栽培設備等の設備投資を行う。企業は設備投資後に障害者を“直接”雇用して、当該農園で農作業に従事させるが、障害者の募集や面接等の採用業務についてはコンサルティング会社から支援を受けることができる。また、コンサルティング会社が農園に常駐スタッフを配置し障害者の農作業をサポートしてくれるため、農業に詳しい者が社内にいなくても成り立つ仕組みとなっている。収穫した農作物は、福利厚生の一環として、社員に配布することが多いようだ(外販する場合には、コンサルティング会社から販路紹介等の支援を受けることも可能)。この障害者雇用率の改善を目的としたビジネスの“肝”となるのが、「企業が障害者を直接雇用する」という点である。すなわち、企業は障害者の採用や労働に深く関与することなく、障害者雇用率を上昇させることができる。これは「障害者の雇用の促進等に関する法律」にも何ら反するものではない。

このビジネスモデルは、障害者だけでなく、障害者雇用率を上げたい企業、農園の運営をサポートするコンサルティング会社、農地を貸し出す地主等の全員がメリットを共有するものと言える。また、新入社員研修で農園を使ったり、収穫物を社員食堂で使ったりすれば、一般従業員にもメリットは還元され、株主総会で“お土産”として配布すれば、還元先は株主にまで広がる。

実際にこの障害者雇用率改善ビジネスを利用している上場企業の人事担当者は、「初期投資はかかるものの、法定雇用率の達成が容易になる」と喜ぶ一方で、「金で解決しているようで後ろめたい思いがあるのも事実」と複雑な胸の内を語る。後ろめたさを持つのは、農業を事業としていない企業が障害者雇用率を上げたいがために農業に乗り出す(しかも外販して収益に貢献するわけでもなく、すべてお膳立てされた仕組みに乗るだけ)という“不自然さ”を感じているからだと言える。また、本社から遠く離れた農園で雇用する従業員に、どのようにして会社への帰属意識や一体感を感じてもらえるのかも課題となる。

では、「法定雇用率達成のために農園を開園しませんか」との提案を受けた場合、上場企業としてはどのように対応すべきだろうか。「後ろめたさ」を感じている企業があることが示唆するように、まずは本業での障害者雇用の実現を模索するのが健全と言えよう。そのうえで農園を開園するという経営判断を下す場合には、障害者の雇用の促進等に関する法律の理念である「共生社会の実現」に向けて一体感を醸成するための取組みとしてどのようなものがあるのかもセットで考える必要がありそうだ。

2017/03/23 管理職の働き方改革

政府が進める「働き方改革」では残業時間に焦点が当たっているが、その影に隠れがちなのが、残業代が支払われない管理職の働き方だ。

出産・育児のために管理職を目指すことを断念した女性や、親の介護のために自ら管理職を離れた人は少なくない。その中には、管理職として活躍するのに十分な資質を持った優秀な人材も含まれる。投資家が企業の女性管理職比率に注目し、また高齢化社会の進展とともに介護を迫られる従業員の増加が予想される中、日本企業にとって、管理職の「フレキシブル・ワーキング(柔軟な働き方)」の実現は喫緊の経営課題になりつつあると言えよう。

欧米企業では、管理職層においてもフレキシブル・ワーキングが浸透している。例えば・・・

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2017/03/23 管理職の働き方改革(会員限定)

政府が進める「働き方改革」では残業時間に焦点が当たっているが、その影に隠れがちなのが、残業代が支払われない管理職の働き方だ。

出産・育児のために管理職を目指すことを断念した女性や、親の介護のために自ら管理職を離れた人は少なくない。その中には、管理職として活躍するのに十分な資質を持った優秀な人材も含まれる。投資家が企業の女性管理職比率に注目し、また高齢化社会の進展とともに介護を迫られる従業員の増加が予想される中、日本企業にとって、管理職の「フレキシブル・ワーキング(柔軟な働き方)」の実現は喫緊の経営課題になりつつあると言えよう。

欧米企業では、管理職層においてもフレキシブル・ワーキングが浸透している。例えば英国のロイズ銀行では、人事部長職を2人の女性がシェアするというジョブ・シェアリング(1人分のフルタイムの職務を複数人で担う働き方であり、ワーク・シェアリングの一形態)が実施されている。具体的には、各人が週に3日ずつ出勤することで(水曜日は2人とも出勤)、管理職の仕事と育児を両立させているという。また、同じく英国のUBSアセットマネジメントでは、部長級の社員が週に2日半のみ出勤し、残りの2日半はNGOで地球温暖化防止に取り組むことで、仕事と自身のライフワークをともに実現している。

日本企業ではいきなりここまでは難しいかもしれないが、だからこそ、働き方改革を主導する政府には、率先して管理職のフレキシブル・ワーキングを導入することを期待したい。英国の文化・メディア・スポーツ省では、課長職をシェアしていた職員二人を同時に部長職に昇進させ、フレキシブル・ワーキングがキャリア形成において不利にならないことを自ら示している。

柔軟な働き方を認める企業には多様な価値観を持った人材が集まりやすく、その結果、日本企業の課題ともなっているダイバーシティ(人材の多様性)も進むことになろう。また、自己実現とキャリア形成を両立できるとなれば、働く側にとっては大きな魅力になるとともに、長く(管理職就任後まで)会社にとどまろうとするに違いない。管理職のフレキシブル・ワーキングを前面に打ち出している日本企業は今のところほとんど見当たらないだけに、いち早くこれを導入すれば、優秀な人材獲得に向け強いアピールになろう。

2017/03/22 役員による株式取得期間と保有期間を巡るプラクティスの現状

役員の自社株保有率に対する投資家の関心が高まっているが、日本においては未だ役員の自社株保有に関するプラクティスが確立していないのが現状だ。どれくらいの株数を保有すべきかという問題と並び、自社株保有を巡る「期間」も企業が頭を悩ませる問題となっている(前者の問題については、2016年11月21日のニュース「役員による自社株保有、どれくらいの株数が妥当?」参照)。

ここでいう「期間」には2つの論点がある。1つは「一定の水準を取得するまでの期間/期限」、すなわち、どれくらいの期間をかけて基準となる持株数を達成するべきかという点だ。ウイリス・タワーズワトソン 経営者報酬部門 コンサルタントの小川直人氏によると、現状、日本においては以下の3つのパターンに分かれるという。・・・

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2017/03/22 役員による株式取得期間と保有期間を巡るプラクティスの現状(会員限定)

役員の自社株保有率に対する投資家の関心が高まっているが、日本においては未だ役員の自社株保有に関するプラクティスが確立していないのが現状だ。どれくらいの株数を保有すべきかという問題と並び、自社株保有を巡る「期間」も企業が頭を悩ませる問題となっている(前者の問題については、2016年11月21日のニュース「役員による自社株保有、どれくらいの株数が妥当?」参照)。

ここでいう「期間」には2つの論点がある。1つは「一定の水準を取得するまでの期間/期限」、すなわち、どれくらいの期間をかけて基準となる持株数を達成するべきかという点だ。ウイリス・タワーズワトソン 経営者報酬部門 コンサルタントの小川直人氏によると、現状、日本においては以下の3つのパターンに分かれるという。

(1)一定のポジション(例えば、取締役、常務・専務・副社長・社長などの各役位)就任時までに取得
(2)一定のポジション就任からX年(1年~5年程度)で取得
(3)特に期限を設けていない

ただ、相当数の上場企業の統計をとっても決まった方向性は出ておらず、「議論が成熟していない」(小川氏)ため、現状では、有価証券報告書における役員ごとの持株数の開示や、自社が導入している株式報酬制度を踏まえて、機関投資家が自社役員の株式保有についてどのような意向を示してくるか、が議論の出発点になると考えられる。

もう一つの論点が「保有期間」、すなわち、どれくらいの期間、株式を保有し続ける必要があるのかという点だ。保有期間の問題は「いつ売却するか」という問題と密接に関係しているが、日本では役員の持株売却に関する議論も熟していないため(2016年11月9日のニュース「役員持株会を活用した株式報酬の留意点とリスク」参照)、こちらについても明確なプラクティスは今のところ存在しない(小川氏)。実際、各上場企業の開示資料を確認しても、「在任期間中は売却できない」という記述が散見される程度となっており、具体的な保有期間に言及する企業はほぼ皆無と言ってもよいだろう。

もっとも、この「在任期間中は売却できない」という制限についても今後問題が生じる可能性がある。インセンティブ報酬の一つである「株式購入資金」のように株式を取得する前に(所得税等の)課税関係が終了している場合は問題は生じないが、例えばリストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)は譲渡制限が解除された際に、税制非適格ストック・オプション(税制適格ストック・オプションには年間に行使できる額に上限があり、また、株式報酬型ストック・オプションは税制適格になり得ないことなどから、役員に付与されているストック・オプションは税制非適格であることが多い)は権利を行使した際に、(まだ株式を売却していない状態で)それぞれ譲渡制限解除時、権利行使時の株式の時価に基づいて所得税が課税されることになる。この場合における所得税の税負担は付与水準によっては役員にとっても相当なものとなるため、今後、リストリクテッド・ストックやストック・オプションのような中長期のインセンティブ報酬のボリュームが増えてきた際には、譲渡制限解除、権利行使時点で保有株式の一定割合を「知る前契約・知る前計画」を用いて売却したいというニーズが高まるとともに、「在任期間中は売却できない」という制限を見直さざるを得なくなる可能性があろう。役員による株式売却が日本でも一般的になった暁には、「保有期間」の議論も高まることになりそうだ。

株式購入資金 : 現金報酬の手取り分から役員持株会等を通じて株式を取得させる方式をとるインセンティブ報酬
税制適格ストック・オプション : 税法が求める要件を満たすことで、権利行使によって株式を取得した時点で生じている含み益(権利行使時の株式の時価-株式の取得価格)への課税が、実際に株式を売却する時点まで繰り延べられる(=株式を購入しただけで課税されるという状況を避けられる)ストック・オプションのこと。具体的な要件としては、無償発行、権利行使期間が「株主総会での発行決議の2年後~10年後までの最大8年間」、行使価格が発行時の時価以上、権利行使金額が「年間1,200万円まで」などがある。

<取材にご協力いただいたウイリス・タワーズワトソン 小川直人氏の連絡先>
ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 小川 直人
03-3581-6786
naoto.ogawa@willistowerswatson.com

2017/03/21 FDルール 「株価に影響を及ぼす決算情報」の選定が困難な場合の対応は?

上場会社による情報開示がすべての投資家に対し公平に行われることを目的とする「フェア・ディスクロージャー・ルール」は平成30年にも導入される予定となっているが、その対象となる「重要情報」の範囲が明らかになった。

(2017年)3月3日に国会に提出された金融商品取引法の一部改正案では、重要情報とは「上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの」とされているのみであり(2017年3月9日のニュース「フェア・ディスクロ・ルール成立までに上場会社がやるべきこと」参照)、企業からは、実務上どの程度の範囲までが対象となるのか不明確との指摘や、実務上の指針を求める声などが聞かれるところだ。

この点について、・・・

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2017/03/21 FDルール 「株価に影響を及ぼす決算情報」の選定が困難な場合の対応は?(会員限定)

上場会社による情報開示がすべての投資家に対し公平に行われることを目的とする「フェア・ディスクロージャー・ルール」は平成30年にも導入される予定となっているが、その対象となる「重要情報」の範囲が明らかになった。

(2017年)3月3日に国会に提出された金融商品取引法の一部改正案では、重要情報とは「上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの」とされているのみであり(2017年3月9日のニュース「フェア・ディスクロ・ルール成立までに上場会社がやるべきこと」参照)、企業からは、実務上どの程度の範囲までが対象となるのか不明確との指摘や、実務上の指針を求める声などが聞かれるところだ。

この点について、金融審議会の市場ワーキング・グループに設置された「フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース」が昨年(2016年)12月にまとめた報告書では、「インサイダー取引規制の対象となる情報の範囲と基本的に一致させつつ、それ以外の情報のうち、発行者又は金融商品に関係する未公表の確定的な情報であって、公表されれば発行者の有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性があるものを含めることが考えられる」とされている(2016年11月28日のニュース「フェア・ディスクロ・ルールとインサイダー規制、対象情報の違いは?」に関連記事)。ここでも、「重要な影響を及ぼす」など実際にルールを運用していくうえでは曖昧な表現となっているが、金融庁によると、現行のインサイダー取引規制の対象となる情報のほか、決算情報であれば、現行インサイダー取引規制上の軽微基準に該当するものであっても、株価に重要な影響を及ぼすものについては、フェア・ディスクロージャー・ルールの対象となるとのことだ。これは、期末時点の決算見込み等は、たとえ軽微基準に該当する情報であっても株価に影響を及ぼすものがあるため。また、もともとドイツ証券のアナリストが上場企業の公表前の四半期の業績に関する情報を一部の顧客に対し提供するなどして金融庁から行政処分を受けたことが今回のルール策定の背景となっているということもある。一方、決算情報以外の情報であれば軽微基準に該当する限りフェア・ディスクロージャー・ルールの対象外となる。対象範囲を広げると上場企業が投資家等に何も話せなくなり、せっかくスチュワードシップ・コードが導入されたにも関わらず、両者の対話が後退してしまっては本末転倒になるからだ。

軽微基準 : 当該情報がインサイダー取引規制における「重要事実」に該当するかどうかを判定する基準であり、たとえば決算情報のうち売上高の予想値の場合、上下10%未満の変動率であれば、「重要事実」に該当しないことになる。

もっとも、どの決算情報が「株価に重要な影響を及ぼす」のかを判断するのは困難なこともあろう。この場合には、公表前の確定的な決算の数字はすべてフェア・ディスクロージャー・ルールの対象として管理することも認められる。また、グローバル企業においては、既に導入されている欧米のフェア・ディスクロージャー・ルールを念頭に、何が株価に重要な影響を及ぼす情報かについて独自の基準を設けているところもあろう。このような企業は、海外のフェア・ディスクロージャールール向けに使っている基準をそのまま日本のフェア・ディスクロージャー・ルール上の管理基準としてもよいとのことだ。

2017/03/17 アンケート結果から浮かび上がる指名報酬委員会の実像と課題

2015年6月にコーポレートガバナンス・コードが施行されて以来、任意の指名・報酬委員会制度を導入する上場企業が増えている。補充原則4-10①が、取締役会の下に「独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会」を設置することを推奨しているからだ(下記の赤字部分参照)。

補充原則4-10①
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。

もっとも、任意の指名・報酬委員会を設置してはみたものの、単に「設置しただけ」にとどまり、実質を伴っていないケースが少なくないことが、・・・

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2017/03/17 アンケート結果から浮かび上がる指名報酬委員会の実像と課題(会員限定)

2015年6月にコーポレートガバナンス・コードが施行されて以来、任意の指名・報酬委員会制度を導入する上場企業が増えている。補充原則4-10①が、取締役会の下に「独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会」を設置することを推奨しているからだ(下記の赤字部分参照)。

補充原則4-10①
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。

もっとも、任意の指名・報酬委員会を設置してはみたものの、単に「設置しただけ」にとどまり、実質を伴っていないケースが少なくないことが、経済産業省に設置されたCGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)が3月10日に公表した「GS研究会報告書-実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引-」の参考資料である「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」で明らかになっている。

任意の指名・報酬委員会を設置している上場企業は、アンケートに回答した企業874社中313社(36%)にのぼっている(Q45)。連結売上高5,000億円以上の企業(該当企業195社)に限れば、設置率は62%に上る。連結売上高1,000億円以上5,000億円未満の企業(該当企業261社)では38%、連結売上高1,000億円未満(該当企業418社)では22%となっており、任意の指名・報酬委員会の設置率は企業規模に比例していることが分かる(Q45)。

このように広がりを見せている任意の指名・報酬委員会だが、その「実効性」には首をかしげざるを得ない。例えば、任意の指名・報酬委員会制度を導入している企業に向けた「任意の報酬委員会での決定が取締役会をどの程度拘束するか」との質問に対し、「社内規則上、取締役会を拘束することとされている」と回答した企業は6%(18社)、「社内規則はないが、事実上又は慣行上、取締役会を拘束する」と回答した企業は35%(110社)に過ぎない(Q49)。「参考意見として尊重されるが、取締役会を拘束しない」と回答した51%(159社)の企業は、投資家から「形式的に導入しただけで実質が伴っていない」と評価される可能性がある。

また、任意の指名・報酬委員会の実効性のレベルは、そこでの検討時間の多寡もバロメーターとなるが、開催頻度(Q51)は「年1回」が26%(91社)、「年2回」が24%(84社)であり、半数の50%(172社)の企業は1回当たりの平均所要時間(Q52)が「1時間未満」だった。投資家からは「その程度の時間しか費やしていないのか」という驚きに近い声も上がっている。仮に数十分で決められた指名・報酬策に取締役会が拘束されるとなると、むしろガバナンスの低下にもつながりかねない。任意の指名・報酬委員会の開催頻度や所要時間は、今後、上場企業と投資家との対話における論点になりそうだ。

さらに、「任意の指名・報酬委員会で議論した事項を特に取締役会に報告していない企業」は監査等委員会設置会社で22%(10社)、監査役会設置会社で19%(51社)にのぼっている。任意の指名・報酬委員会と取締役会とのコミュニケーションが不足している状況がうかがえる。また、任意の報酬委員会を設置していても14%の企業で社長・CEOの報酬を検討対象としていないこともわかった(Q47)。これでは任意の報酬委員会に社長・CEOへの牽制効果を持たせることは不可能だ。「任意の指名・報酬委員会で議論した事項の取締役会への報告」と「任意の報酬委員会が社長・CEOの報酬を検討対象にすること」はもはや“必須”と言える。

こうした任意の指名・報酬委員会制度の実像はこれまで投資家に必ずしも伝わっていなかっただけに、投資家からの期待ギャップが生じていた可能性は高い。今回のアンケート結果を踏まえ、今後、投資家との対話において、任意の指名・報酬委員会の実像を問われる機会が増えてくるはずだ。上場企業は、それに備えて任意の指名・報酬委員会の開催頻度や累計討議時間数の“実績”を積み上げていく必要がある。