2017/03/13 杜撰な子会社の経理の実例(会員限定)

上場企業(=親会社)グループの一員である子会社は、親会社の社名を冠し、一定のブランドも備えている。しかし、その管理体制は驚くほど脆弱であることが少なくない。ある上場企業の内部監査室がこれまで子会社の経理部門へのグループ内部監査で把握した問題を紹介しよう。

(1)貸倒引当金の取崩し漏れ
貸借対照表に貸倒引当金が計上されていたが、その対象債権が計上されていなかった。

そこで詳しく調査すると、当該債権は一昨年に破産更生債権として処理した売掛金に関するものであったが、昨年には破産手続が完了しており、当該破産更生債権も貸借対照表から外されていた。つまり、対象債権は既になくなっているにもかかわらず、貸倒引当金が取り崩されていなかったのである。

(2)支払利息の未計上
1年分の利息を前払いする契約で銀行からの借入れを行っていたため、支払利息を前払費用として資産計上し、これを月次で取り崩して費用に振り替えていたが、内部監査時に、借入金残高が減っているにもかかわらず、支払利息に関する前払費用が減っていないという異常に気付いた。

そこでその理由を確かめたところ、担当者の処理の失念により取崩し漏れが発生し、そのまま決算でも修正されなかったという事実が発覚した。

(3)節税メリットを受けるための意識的な誤処理
業務の拡大により増床した際に、新たにLAN設備の構築を行った。総額で百万円程度の工事であったが、3年間の均等償却処理が行われていた。本来、LAN設備の税法上の償却期間は、その内容にもよるが、10年~18年となっている。そこで詳細を調査すると、工事業者からの見積書に記載されている工事を「材料」と「作業」に分割するなどの手法により、元々は1本の工事を、1工事あたり20万円未満の工事6本に分割していたことが分かった。

法人税法上、取得価額が20万円未満の減価償却資産(法人税法上「一括償却資産」と呼ばれる)は3年間で均等に償却することができる。すなわち、3年間の均等償却を受けるために、百万円の工事を6本に分割して計上するという誤った処理を意識的に行っていたのである。

(4)自社開発ソフトウェアの資産計上
かつて自社用(販売用ではない)のソフトウェアの開発コストをその支出年度において費用処理していたところ、これが税務調査で問題視されて以来、開発コストは一旦「建設仮勘定」に計上してきた。この建設仮勘定は、開発完了時に「ソフトウェア」に振り替え、減価償却費を計上していくことになるが、その計上根拠が明確ではなかった。具体的には、システム開発部門から経理部門に、開発項目・開発内容・開発期間・作業実績等が作業実績報告書により報告されてはいるものの、この報告書には作業完了の有無と金額が記載されておらず、客観的に作業完了を把握できる資料もなかった。

それにもかかわらず、経理部門は前年度に計上された建設仮勘定を機械的に当年度にソフトウェアに振替えていた。つまり、開発の完了・未完了を無視してソフトウェアに計上していたのである。

(5)営業とのコミュニケーション不足
売掛金の滞留残高一覧を確認していると、8か月間も入金が遅延している案件があった。内容を確認したところ、中国の会社に販売した製品について数量に関するトラブルがあったため、入金が遅延しているとのことであった。詳細を調査するために本件に関するメールをチェックすると、売上から7か月が経過した時点で、「数量不足により代金を支払わない」旨が記載されたメールがやり取りされていた。

なぜこのようなメールのやり取りが売上から7か月も経ってから行われたのかを確かめると、最大の理由は「営業部門とのコミュニケーション不足」であった。具体的には、子会社が商品を200個発送したところ、先方は「20個は不良品であり、180個のインボイスでなければ代金を支払わない」と言ってきたが、本件に主体的に関わっていた営業部門が経理部門に途中経過を報告していなかったのである。一方の経理部門も、入金が遅延しているにもかかわらず、その理由を営業部門に問い合わせていなかった。

 
どれも杜撰としか言いようがない事例だが、いずれも大手上場企業の複数の子会社で実際にあった話である。しかも、子会社は監査法人の監査を年に一度(2~3日程度)受けていたにもかかわらず、内部監査が入るまで発覚しなかった。

同様の問題が自社の子会社でも見つからないとは限らない。グループ内の内部監査を所管する取締役や監査役は、一度同様の視点から子会社をチェックしてみてはいかがだろうか。

2017/03/10 粉飾決算で上場廃止、元役員の責任は?(会員限定)

近年発生した粉飾決算の中でも、その程度や社会的影響度という点で強烈な印象を残したのが、エフオーアイ(半導体製造装置の製造販売会社)事件だろう。新規上場会社ということで、粉飾額そのものはオリンパスや東芝(ともに1千億円超)などには及ばないものの、決算が大幅な赤字となって銀行融資を受けられなくなることを回避するために始まった同社の粉飾決算は2004年3月期から2009年3月期にまで続き、2009年3月期の粉飾額は、決算書類に記載された売上高の実に97.3%に相当する115億3,639万5,000円に及んだ。その手法は、売上高を実際よりも水増しして計上するという単純なものだっただけに、「なぜこんな無茶な粉飾決算を証券会社や監査法人、証券取引所が見抜けなかったのか?」といった批判が株主や市場関係者から巻き起こるとともに、新興上場市場そのものへの信頼も揺るがすこととなった。

粉飾決算に関する内部告発があった影響などによる2度の上場申請取下げを経て2009年11月20日に東証マザーズ市場への上場を果たしたエフオーアイだが、それから7か月後の2010年5月12日には証券取引等監視委員会の強制捜査が入り、その1月後の6月15日には上場廃止となっている。これに対し、上場時あるいは上場後に同社の株式を購入した者(原告)約200人が、エフオーアイの役員らを被告とし約1億7,000万円の損害賠償を求めていたが、当フォーラムはこのほどその判決文(2016年12月20日 東京地裁判決)を入手した。

裁判所は、エフオーアイの有価証券届出書等において、2005年3月期から2009年3月期までの売上高について虚偽記載があったことは、金融商品取引法21条(虚偽記載のある届出書の提出会社の役員等の賠償責任)などにいう「重要な事項」についての虚偽記載(下記条文の赤字部分参照)に当たることは明らかであるとした。そして、粉飾決算を主導または容認してきた取締役が有価証券届出書の虚偽記載を知っていた(下記条文の青字部分参照)ことは明らかであるとし、金商法21条の責任を免れないとしている。

有価証券届出書 : 新規上場申請時や1億円以上の公募実施する時などに財務局に提出する書類。有価証券報告書(上場会社が上場後に毎年財務局に提出する書類)に証券情報(募集・売出の株数や価額などの詳細が記された情報)が追加された様式となっている。

一方、監査役については、粉飾決算を認識していなかったものと認められるとしている(すなわち、「虚偽記載を知っていた」(下記条文の青字部分参照)には該当せず)。そこで裁判では、「相当な注意を用いたにもかかわらず有価証券届出書の虚偽記載を知ることができなかった」か否かが焦点となった(下記条文の紫字部分参照)。

金融商品取引法21条(虚偽記載のある届出書の提出会社の役員等の賠償責任)
有価証券届出書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、次に掲げる者は、当該有価証券を募集又は売出しに応じて取得した者に対し、記載が虚偽であり又は欠けていることにより生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の申込みの際記載が虚偽であり、又は欠けていることを知つていたときは、この限りでない。
一  当該有価証券届出書を提出した会社のその提出の時における役員(取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又はこれらに準ずる者をいう。第百六十三条から第百六十七条までを除き、以下同じ。)又は当該会社の発起人(その提出が会社の成立前にされたときに限る。)
二  当該売出しに係る有価証券の所有者(その者が当該有価証券を所有している者からその売出しをすることを内容とする契約によりこれを取得した場合には、当該契約の相手方)
三  当該有価証券届出書に係る第百九十三条の二第一項に規定する監査証明において、当該監査証明に係る書類について記載が虚偽であり又は欠けているものを虚偽でなく又は欠けていないものとして証明した公認会計士又は監査法人
四  当該募集に係る有価証券の発行者又は第二号に掲げる者のいずれかと元引受契約を締結した金融商品取引業者又は登録金融機関
2  前項の場合において、次の各号に掲げる者は、当該各号に掲げる事項を証明したときは、同項に規定する賠償の責めに任じない。
一  前項第一号又は第二号に掲げる者 記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかつたこと。
二  前項第三号に掲げる者 同号の証明をしたことについて故意又は過失がなかつたこと。
三  前項第四号に掲げる者 記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、第百九十三条の二第一項に規定する財務計算に関する書類に係る部分以外の部分については、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかつたこと。

裁判所は、取締役らの違法行為は、本来監査役の業務監査によって是正されるべきものであるとしたうえで、「監査役は、エフオーアイの売上が急増したにもかかわらず売掛金の回収が進まない状況において、架空の売上が計上されている可能性について疑問を抱き、売上の実現性について独自の調査を行うなどの対応をとることは十分に可能であった」旨指摘。この点について、エフオーアイの監査役が定期的に監査役会を開催し、業務監査に関する事項を協議し、また、期末決算監査に関する会計監査人とのミーティングを行うなど、一応の監査を行っていたことは認めつつも、「会計監査人の報告を受ける以外にかかる観点から何らかの調査を行ったことをうかがわせる証拠はなかった」としている。

業務監査 : 取締役が法令・定款を遵守して職務を執行しているかどうかについて、監査役が監査すること

また、エフオーアイに証券取引等監視委員会の強制捜査が入る前には、2回にわたり東証や会計監査人に匿名の投書があったが(1回目の投書(2008年2月14日)には「注文書偽造による巨額粉飾企業の告発」、2回目の投書(上場承認(同年10月16日)後の同年10月27日頃)には「10月16日付で東証マザーズに上場承認された株式会社エフオーアイの巨額粉飾の実態についての告発」との題名が付されていた)、裁判所は、「監査役会において、上場申請取下げ(※上述のとおり、エフオーアイは2回上場申請を取り下げている)の理由について他の役員または主幹事証券会社に問い合わせするなどして調査すれば、第一投書(※1回目の上場申請取下げ(2008年4月18日)直前の同年2月14日)の存在を認識することは十分に可能であったというべき」と指摘。そして、監査役の権限を行使して調査すれば粉飾決算が行われていた事実が判明していた可能性がないとは言えないとした。結論として、監査役は「相当な注意」を用いて監査を行っていたとは認められないとし、金商法21条による損害賠償責任を免れることはできないとの判断を下している。

なお、本裁判では、上場申請時の主幹事証券会社と東証および日本取引所自主規制法人も責任を問われたが、結論は明暗が分かれている。主幹事証券会社に対しては、取引先への照会もないなど匿名投書を受領したことを踏まえた審査としては不十分であったとし、金商法21条等の責任を認定した一方、日本取引所自主規制法人については、売上の実在性についての監査手法や預金通帳の確認を行うなどしており、投資者に対して負う注意義務に違反する行為があったということはできないとして責任を問わず、東証については、そもそも上場審査を行っているのは自主規制法人であり、その過程で過失があったとしても不法行為責任を負うことはないとされている。

日本取引所自主規制法人 : 東証、大証の「品質管理」を行う法人(両証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループの子会社)。新規上場の適格性を判断する「上場審査」や、開示情報に虚偽があった場合などにおいて改善報告書の提出を求めたり、特設注意市場銘柄への指定を行ったりする「上場管理」、インサイダー取引防止のための「売買審査」などを担う。

2017/03/10 【WEBセミナー】企業価値向上につながる組織再編税制の改正について(会員限定)

概略

【セミナー開催日】2017年3月3日(金)

我が国におけるコーポレートガバナンス改革が進展する中、今や「企業価値の向上」は経営陣のミッションとして明確に位置付けられています。実際、各社の経営陣における企業価値への意識は高まっていますが、日本企業がグローバルを含む厳しい競争環境や変化の中に置かれる中、営業努力等のみによって投資家が期待する企業価値の向上を実現することは容易ではありません。時には既存事業の切り離しや企業グループの再構築など、機動的な事業再編、組織再編を行っていくことも、企業価値を向上させるうえでは極めて有効です。こうした中、平成29年度税制改正では、いわゆるスピンオフ(特定事業を切り出して独立会社とする手法)やスクイーズアウト(少数株主から株式を取得することによる100%子会社化の手法)を容易にするべく、既存の組織再編税制が大幅に見直されています。
そこで本セミナーでは、これらの税制改正の要望に関与された経済産業省経済産業政策局 産業組織課の安藤元太様をお招きし、海外の事例なども挙げていただきつつ、現時点で明らかになっている税制改正の内容を分かりやすく解説していただきます。今般の組織再編税制の改正内容は、取締役や監査役が今後事業・組織再編戦略を検討するうえでの前提として是非押さえておきたいところです。

【講師】経済産業省
    経済産業政策局 産業組織課 課長補佐
    安藤 元太 様

セミナー資料 企業価値向上につながる組織再編税制の改正について.pdf(2.64MB)
セミナー動画

動画(1)1.税制改正の背景

動画(2)2.現行の組織再編税制の概要

動画(3)3.スピンオフに関する税制改正案の内容

動画(4)4.スクイーズアウトに関する税制改正案の内容

動画(5)5.質疑応答

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2017/03/09 フェア・ディスクロ・ルール成立までに上場会社がやるべきこと

金融庁は、上場会社による情報開示がすべての投資家に対し公平に行われることを目的とするフェア・ディスクロージャー・ルールについて検討してきたが(2016年12月8日のニュース「フェア・ディスクロ・ルール、行政処分の前に情報公表を“促す”案に」参照)、政府はこのほど、同ルールの導入に必要な法改正を盛り込んだ金融商品取引法の一部を改正する法律案(以下、金商法改正案)を衆議院に提出した(2017年3月3日付)。金商法改正案は、上場会社が未公表の決算情報など重要な情報を証券アナリストなどに提供した場合、速やかに他の投資家にも公平に情報提供することを求めており、2018年中の施行が予定されている。今回の改正の背景には、上場会社が証券会社のアナリストに未公表の業績に関する情報を提供し、その証券会社が当該情報を顧客に提供して株式の売買の勧誘を行っていた事例が複数発覚(例えばドイツ証券の事例はこちら)したことがあるが、欧米やアジアの主要市場は既にフェア・ディスクロージャー・ルールを導入済みであり、日本でもようやく不公平な情報提供に規制の網がかかることになる。

金商法改正案の肝となるのが、・・・

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2017/03/09 フェア・ディスクロ・ルール成立までに上場会社がやるべきこと(会員限定)

金融庁は、上場会社による情報開示がすべての投資家に対し公平に行われることを目的とするフェア・ディスクロージャー・ルールについて検討してきたが(2016年12月8日のニュース「フェア・ディスクロ・ルール、行政処分の前に情報公表を“促す”案に」参照)、政府はこのほど、同ルールの導入に必要な法改正を盛り込んだ金融商品取引法の一部を改正する法律案(以下、金商法改正案)を衆議院に提出した(2017年3月3日付)。金商法改正案は、上場会社が未公表の決算情報など重要な情報を証券アナリストなどに提供した場合、速やかに他の投資家にも公平に情報提供することを求めており、2018年中の施行が予定されている。今回の改正の背景には、上場会社が証券会社のアナリストに未公表の業績に関する情報を提供し、その証券会社が当該情報を顧客に提供して株式の売買の勧誘を行っていた事例が複数発覚(例えばドイツ証券の事例はこちら)したことがあるが、欧米やアジアの主要市場は既にフェア・ディスクロージャー・ルールを導入済みであり、日本でもようやく不公平な情報提供に規制の網がかかることになる。

金商法改正案の肝となるのが、今回新設される27条の36だ。

金商法27条の36(第1項本文の要旨)
上場会社又はこれらの役員、使用人その他の従業者(役員等)が、その業務に関して、証券会社(証券アナリスト)や信用格付業者などに、当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの(重要情報)の伝達を行う場合には、当該上場会社等は、当該伝達と同時に、当該重要情報を公表しなければならない。
金商法27条の36(第2項本文の要旨)
第1項本文の規定は、役員等が、その業務に関して、証券会社(証券アナリスト)や信用格付業者などに重要情報の伝達を行った時において伝達した情報が重要情報に該当することを知らなかった場合又は重要情報の伝達と同時にこれを公表することが困難な場合として内閣府令で定める場合には、適用しない。この場合においては、当該上場会社等は、取引関係者に当該伝達が行われたことを知った後、速やかに、当該重要情報を公表しなければならない。

金商法改正案27条の36第1項では、役員等が証券アナリストなどに重要情報を伝達する時には、同時にその情報を公表しなければならないと定められている。この定めは、(1)伝達した情報が重要情報に該当することを知らなかった場合(意図的でない伝達)、または(2)重要情報の伝達と同時にこれを公表することが困難な場合として内閣府令(法案成立後に公表)で定める場合には適用されないが、上場会社等は証券会社等に当該重要情報の伝達が行われたことを知った後は、速やかに当該重要情報を公表しなければならない(金商法改正案27条の36第2項)。重要情報の公表手段として想定されているのはインターネットであり、具体的には、法定開示(EDINET)、金融商品取引所(東証)の規則に基づく適時開示(TDnet)のほか、自社のウェブサイトが該当する。金融庁は、フェア・ディスクロージャー・ルールの実効性担保のため、公表されるべき重要情報が公表されていないと認められる場合には、上場会社に対し当該重要情報の公表を指示・命令することができる(この点についても、2016年12月8日のニュース「フェア・ディスクロ・ルール、行政処分の前に情報公表を“促す”案に」参照)。

上場会社が頭を悩ませることになりそうなのが、「重要情報」の定義だ。改正金商法上は、「当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの」(上記条文要旨の赤字部分)とあいまいな言い回しにとどまっており、IR実務上は何が“重要情報”に該当するのかの線引きが重要となってくる。2016年12月22日に公表された「フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース報告」によると、本ルールの対象となる“重要情報”には「インサイダー取引規制の対象となる情報の範囲と基本的に一致させつつ、それ以外の情報のうち、発行者または金融商品に関係する未公表の確定的な情報であって、公表されれば発行者の有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性があるもの」を含めるとされているが(5ページ参照)、それでもなお規制の輪郭ははっきりしない。例えば決算情報の場合、インサイダー情報の軽微情報(公表済の数値から売上高が10%未満かつ経常利益・純利益が30%未満の変動)であっても“重要情報”となりうるが、フェア・ディスクロージャー・ルールにおいては、どの程度であれば「重要な影響を及ぼす蓋然性があるもの」かどうかは、結局のところ上場会社各社に判断が委ねられている。

そこで上場会社としては、改正金商法が施行されるまでに、“重要情報”の線引きをしておくことが必須となる。具体的には、社内のディスクロージャー規程の見直し(自社の情報の中で「株価に重要な影響を及ぼす蓋然性があるもの」とは何かの特定)が必要となる。日本IR協議会が上場会社に対して実施したアンケート調査結果(有効回答数312社)によると、フェア・ディスクロージャー・ルールの導入により「自社の情報開示に影響あり」と回答した上場会社は51.9%と、回答社数の半数を超えている。一部の上場会社からは「重要情報とそれ以外の情報の線引きが難しく、ルールを運用する上での負担が大きい」との声も上がっており、12.5%(有効回答数312社のうち39社)の上場会社が「情報開示に消極的・保守的になる」と回答している。

今後、フェア・ディスクロージャー・ルールへの対応状況が、投資家との対話において俎上に載せられることも予想される。現行金商法にはフェア・ディスクロージャー・ルールは存在しないとはいえ、改正法案が国会で審議され、その成立が確実視されている以上、重要情報をアナリストにだけ伝達するという姿勢は今のうちから改める必要がある。また、経営陣、特にIR担当取締役は、自社のディスクロージャー規程がフェア・ディスクロージャー・ルールにも対応できるものなのかを早急に点検し、対応できないのであれば、金商法改正案の成立前には自社の規程をフェア・ディスクロージャー・ルールに耐えうるものへとアップデートするように努めたいところだ。

2017/03/08 有価証券報告書に移行の「経営方針」には何を書く?

2017年2月28日 のニュース「決算短信の改正に伴い判断が求められる事項」でもお伝えしたとおり、これまで決算短信の記載内容の一つであった「経営方針」は、今後は決算短信ではなく有価証券報告書において開示が求められることになった(2017年3月31日以後に終了する事業年度(3月決算会社であれば2017年3月期)の有価証券報告書から適用)。具体的には、有価証券報告書の【対処すべき課題】の記載内容に「経営方針」が追加され、項目名も【対処すべき課題】から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】に変更されている。

有価証券報告書の記載上の注意事項と言える「開示府令」で求められる【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】の記載内容は以下のとおりだ(網掛け部分が改正部分)。・・・

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2017/03/08 有価証券報告書に移行の「経営方針」には何を書く? (会員限定)

2017年2月28日 のニュース「決算短信の改正に伴い判断が求められる事項」でもお伝えしたとおり、これまで決算短信の記載内容の一つであった「経営方針」は、今後は決算短信ではなく有価証券報告書において開示が求められることになった(2017年3月31日以後に終了する事業年度(3月決算会社であれば2017年3月期)の有価証券報告書から適用)。具体的には、有価証券報告書の【対処すべき課題】の記載内容に「経営方針」が追加され、項目名も【対処すべき課題】から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】に変更されている。

有価証券報告書の記載上の注意事項と言える「開示府令」で求められる【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】の記載内容は以下のとおりだ(網掛け部分が改正部分)。

26810

(注)将来に関する事項を記載する場合には、連結会計年度末日現在において判断したものである旨を記載する。

このように開示府令では【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】の記載ルールが定められたものの、具体的に何を記載するかは、各社の実情に応じて経営陣が判断する必要がある。今回追加された記載項目ごとに、検討すべき事項を整理しておこう。

経営方針・経営戦略等
開示府令では「経営方針・経営戦略等」の定義が示されておらず、どのようなものが「経営方針・経営戦略等」に該当するか明確でないが、例えば、事業戦略のほか、財務戦略、人事戦略、知財戦略、環境戦略、短期戦略、中長期戦略など、会社によって様々な戦略がありうる。経営陣は、投資家の投資判断上重要な事項を記載するという視点に立ち、どのような戦略をどの程度記載するかを判断する必要がある。

なお、記載内容を検討するにあたって、「経営方針・経営戦略」という名称にとらわれる必要はない。例えば「中長期経営計画」など、経営方針・経営戦略に相当するものはここに記載することになる。

経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
ここでは、具体的な目標数値を記載するのか、あるいは定性的な情報を記載するかの判断が必要になる。具体的な目標数値を記載するとなると、経営陣としては、実績値と目標数値が大きくかい離した場合に金融商品取引法上の虚偽記載に問われないか心配になるかもしれないが、たとえ実績値と目標値が大きくかい離する結果になったとしても、有価証券報告書提出日現在における判断が合理的であれば問題はない。

客観的な指標等が複数存在する場合(例えば、ROE、ROA、EVA())であっても、必ずしも当該指標等の全てを記載する必要はない。「投資家の投資判断に有用か」という視点からどの指標を記載するべきか、経営陣が判断すればよい。

 Economic Value Added(経済的付加価値)の略で、次の算式により計算される。

EVA = NOPAT(税引後営業利益)- 投下資本 × 資本コスト率

この算式は、事業活動により生み出された利益(NOPAT)が資本コスト(投下資本に資本コスト率を乗じて計算)を上回る額が「企業価値の創造額(=EVA)」であることを表している。

NOPAT : Net Operating Profit After Taxの略で、事業活動により生み出された税引後の利益(税引後営業利益)のこと。

経営環境
ここでは、自社が経営方針・経営戦略や対処すべき課題を決定した背景となる「自社を巡る業界や市場の動向、経済の状況等」を記載する。経営環境には「外部経営環境」と「内部経営環境」があるが、いずれを記載するのか(あるいは両方記載するのか)、また、それぞれのうち何を記載するかは経営者の判断になる。ただし、経営方針・経営戦略や対処すべき課題は、過去数年の会社を取り巻く経営環境を踏まえて決定されるものと考えられるため、過去数年間の経営環境の動きを踏まえた記載が必要になろう。

これまで決算短信に上記3項目(「経営方針・経営戦略等の内容」「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」「経営環境」)を記載していた会社は、基本的にはそれと同様の内容を有価証券報告書に記載すればよいが、「経営環境」については決算短信の作成要領で明示的に記載が求められていたものではないため、記載漏れがないよう注意したい。

2017/03/07 会社法改正、株主総会関係の見直しの方向性

このほどスタートした会社法の改正議論(2017年2月24日のニュース「会社法改正で社外取締役の選任は義務付けられるか?」参照)において目玉の一つとなるのが、株主総会関係の見直しだ。具体的には、株主総会資料の新たな電子提供制度の導入と株主提案権の濫用的な行使の制限である。それぞれどのような方向に改正議論が進もうとしているのか見てみよう。・・・

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2017/03/07 会社法改正、株主総会関係の見直しの方向性(会員限定)

このほどスタートした会社法の改正議論(2017年2月24日のニュース「会社法改正で社外取締役の選任は義務付けられるか?」参照)において目玉の一つとなるのが、株主総会関係の見直しだ。具体的には、株主総会資料の新たな電子提供制度の導入と株主提案権の濫用的な行使の制限である。それぞれどのような方向に改正議論が進もうとしているのか見てみよう。

株主総会資料の新たな電子提供制度の導入
現行の会社法では、招集通知および関連書類の電子提供に関して2つの制度が設けられている。1つは、招集通知、議決権行使書面、株主総会参考書類、事業報告、計算書類・連結計算書類、会計監査報告・監査報告については、「株主から事前に個別承諾を得ること」を要件に、電磁的な方法により株主に提供することができるというものだが、「個別承諾」という要件がネックとなり、上場会社の利用は広がっていない。2つ目は、定款の定めに基づき、株主参考書類の一部についてWeb開示を行うことにより株主に提供したものと“みなす”制度。こちらは上場会社の約45%に利用されている。しかし、電子提供できる書類が関連書類の一部に限られるなど、利便性は高くない(2016年4月25日のニュース「招集通知等の電子化、3つの書類除き実施へ 次期会社法改正時が濃厚」参照)。

今回の会社法改正で検討される株主総会資料の新たな電子提供制度は、米国やカナダの「Notice&Access制度」を参考に設計される。具体的には、①株主総会の招集に際して株主に対して提供しなければならない情報を全てインターネット上のウェブサイトに掲載する、②株主に対し、当該情報を掲載したウェブサイトのURL等を書面により通知する(この通知を「アクセス通知」という)、③ ①及び②の措置をとった場合には、株主に対する株主総会資料(①で掲載した情報)が適法に提供されたこととする。

Notice&Access制度 : 委任状説明書等(上場会社等の株主総会に提出される議案内容を説明する書類)をウェブサイトに開示し、その旨を株主総会開催日前に株主に通知することにより、委任状説明書等を電子的に交付することについて、個々の株主の同意を得ることを不要とする制度。

新たな電子提供制度が実現すれば、会社にとってはコストや事務負担の軽減につながるのは間違いない。ただし、なかにはインターネットを利用していない株主もいるため、すべての株主総会情報を対象とした「書面請求権」を認める方向で検討が進められることになりそうだ。書面請求権とは、株主が会社に対し、ウェブサイトに掲載された株主総会情報を記載した書面を、会社の費用で株主に交付することを請求することができる権利のこと。書面請求権に関する議論では、書面の発送期限等が検討課題となろう。

株主提案権の濫用的な行使の制限
平成24年6月27日に開催された野村ホールディングスの定時株主総会では“野菜ホールディングス”への商号変更など100個もの株主提案が提出され大きな話題を呼んだが、このように、一部の会社では1人の株主が不当とも言える目的で膨大な数の議案を提案するなど、株主提案権を濫用的に行使している事例が見受けられる。

そこで今回の会社法改正では、株主提案権の濫用的な行使を制限するか否かが検討される。現行会社法上、公開会社である取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き保有する株主に限って、株主提案を行使することができるとされている(会社法303条、305条)。ただし、昨今の投資単位の引き下げなどにより、最低1,500万円の投資で株主提案が可能となる銘柄も想定され、株主提案権を行使することができる株主の範囲が広くなりすぎているとの懸念が浮上している。このため、今回の会社法改正では、現状「300個以上」とされている持株要件の引上げの可否が検討されることになりそうだ。

公開会社 : 株式の譲渡制限を設けていない会社