業績不振の子会社に対し、親会社が増資を行うケースは少なくない。増資に伴い、親会社は子会社の新株を取得することになるが、1株当たりの価格が適正でない場合、・・・
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業績不振の子会社に対し、親会社が増資を行うケースは少なくない。増資に伴い、親会社は子会社の新株を取得することになるが、1株当たりの価格が適正でない場合、「有利発行」の問題が生じる。有利発行とは、例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行することをいう。この「有利発行」を親会社の立場から見ると、本来であれば新株発行の対価として子会社に払い込むべき金銭を払わなかったということで、「新株の本来の時価-実際に払い込んだ金額」の利益を既存株主から(*)受けたことになる。
一時期、海外子会社(特にタイの子会社)に増資を行った上場企業がこの有利発行で億~十億円単位の課税を受けるケースが相次ぐ中(2014年10月6日のニュース「海外子会社への増資に潜む巨額リスク」参照)、そのうちの一社がこの課税処分を不服とし、国を相手取り訴訟を起こしていたが、2017年2月27日、当該上場企業側の敗訴が最高裁で確定していたことが分かった。
法人税上「有利発行」とされるのは、「株式の発行価額決定日の時価」と発行価額との差額がおおむね10%以上ある場合だが(法人税法基本通達2-3-7)、今回の最高裁の判断により、この「株式の発行価額決定日の時価」は、少なくとも「財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法」に基づき評価していれば問題ないこととなった。今後、国内外の子会社(100%子会社以外の子会社)の増資を図る際には、この最高裁判決が基準となろう。
ただ、この最高裁判決の詳細を理解している専門家(税理士、公認会計士、弁護士等)は今のところほとんどいないのが現状だ。(経理・財務・税務等の担当取締役以外の)経営陣が「財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法」の詳細を理解する必要はないが、子会社への増資の際には、今回の最高裁判決を踏まえて新株の発行価格を決めているかどうか、確認しておくべきだろう。
株主総会における議決権の行使は、株主の「権利」である。「権利」だけに、株主はそれを行使しない(議決権の不行使)こともできる。株主が議決権を行使しないという状況を会社の立場から見ると、少なくとも会社提案の議案に反対されることはないというメリットはあるものの、議決権を行使しない株主が増えると特別決議における定足数(*)を満たさなくなるおそれが高まり、定款変更や合併決議ができなくなりかねないというデメリットもある。経営陣にとってはまさに“痛し痒し”と言える。
株主が議決権を行使しない理由は様々だ。まず、「そもそも議決権行使に興味がない」というものである。短期的な売り買いや配当にしか興味を持たないデイトレーダーやヘッジファンドが議決権を行使しない理由がこれだ。また、「議決権行使には興味がないわけではないが、面倒くさい」という個人投資家も少なくない。一方、機関投資家は「あえて行使しない」という選択をすることがありうる。特に議決権不行使が目立つのが、・・・
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株主総会における議決権の行使は、株主の「権利」である。「権利」だけに、株主はそれを行使しない(議決権の不行使)こともできる。株主が議決権を行使しないという状況を会社の立場から見ると、少なくとも会社提案の議案に反対されることはないというメリットはあるものの、議決権を行使しない株主が増えると特別決議における定足数(*)を満たさなくなるおそれが高まり、定款変更や合併決議ができなくなりかねないというデメリットもある。経営陣にとってはまさに“痛し痒し”と言える。
株主が議決権を行使しない理由は様々だ。まず、「そもそも議決権行使に興味がない」というものである。短期的な売り買いや配当にしか興味を持たないデイトレーダーやヘッジファンドが議決権を行使しない理由がこれだ。また、「議決権行使には興味がないわけではないが、面倒くさい」という個人投資家も少なくない。一方、機関投資家は「あえて行使しない」という選択をすることがありうる。特に議決権不行使が目立つのが、中東の投資家だ。
機関投資家が議決権を行使するには、議案の是非を判断する担当者を置く必要があるが、中東の投資家が日本企業の株式を投資対象とする場合、言語の壁もあり、担当者を置くまでには至らないケースが多いようだ。とくに政府系のソブリン・ウェルス・ファンドはその傾向が強い。ある上場企業の株主総会担当者は、「最近、議決権不行使の率が上昇したので理由を調べたところ、オイルマネーがバックにある株主が増えていた」と嘆く。この傾向は中東だけでなく、アジアの機関投資家にも見受けられる。一方、欧米の機関投資家の場合、スチュワードシップ・コードや株主責任の考え方が根付いていることから、議決権不行使率は中東やアジアの機関投資家よりも低い。
ソブリン・ウェルス・ファンド : Sovereign Wealth Fund : 国家の金融資産を運用する政府系のファンド。「Sovereign」とは、主権者、元首、君主、国王といった意味である。
上場企業は株主を選べないだけに、議決権不行使率が上がった企業は定足数確保のための対策に取り組まなければならない。議決権不行使率を下げるために取り組みやすく、かつ有効な策としてはまず「議決権電子行使プラットフォームへの参加」と「英文IRの充実」が思い浮かぶところだが(「議決権電子行使プラットフォームへの参加」と「英文IRの充実」の詳細はケーススタディ「定時株主総会を開催する」の「議決権行使を活発化してもらうための施策」参照)、これに加え、「投資家との対話」も効果的だ。従来、議決権を行使してこなかった海外の政府系ファンドに事前の説明を行ったところ、議決権を行使する方向へ変わったという楽天の事例も報告されている(企業報告ラボが3月1日に公表した「プログレス・レポート2015-2016」参照)。「投資家との対話」は企業価値創造というマクロな観点から上場企業に推奨されることが多いが、株主総会の運営という極めて実務的かつミクロなテーマにも有効な策であることが分かる好例と言える。中東やアジア系の株主比率が上昇してきた上場企業は是非参考にしたいところだ。
議決権電子行使プラットフォーム : 株主総会実務に関わるすべて関係者をシステム・ネットワークでつなぐもの。これを活用すれば、機関投資家の議決権を管理している管理信託銀行等の裏にいる機関投資家(実質株主)に対する株主総会の議案情報の伝達のほか、機関投資家の議決権行使や議決権行使結果の集計が簡単にできるようになるため、機関投資家はより長い議案検討期間を確保できる一方、会社は議決権行使結果のタイムリーな確認が可能になる。
本セミナーはすでに開催済みですが、会員の方向けにWEBセミナーを配信中です。
「WEBセミナー:平成29年度税制改正を踏まえた役員報酬の選択」
「WEBセミナー:企業価値向上につながる組織再編税制の改正について」
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上場会社役員ガバナンスフォーラムでは、2017年3月3日(金)の14時30分~17時40分に下記の会員限定(*)セミナーを開催します。
* 本セミナーは当フォーラム会員のうち対象者を下記の条件に該当する方に限定したセミナーです。
・会費の支払いを「年払い」としている会員
・会費の支払いを「月払い」としている会員のうち、2017年2月15日以前より会員になっている方
対象となる方は、本セミナーに無料で参加いただけます。
セミナーのパンフレットはこちら
| 時 間 | テーマ | 講 師 |
| 第一部 14:30 ~ 16:00 |
平成29年度税制改正を踏まえた役員報酬の選択 | ウイリス・タワーズワトソン 経営者報酬部門 コンサルタント 小川 直人 様 (おがわ なおと) |
| 第二部 16:10 ~ 17:40 |
企業価値向上につながる組織再編税制の改正について | 経済産業省 経済産業政策局 産業組織課 課長補佐 安藤 元太 様 (あんどう げんた) |
■第一部の詳細
| セミナー の内容 |
役員報酬に占めるインセンティブ報酬の割合が高く、その金額も大きい欧米企業では、どのようなインセンティブ報酬を導入するかを検討するうえで、法人税法上の「損金性」は非常に重要な要素となっています。一方、日本企業では「損金性」の優先順位は決して高くなく、損金算入の条件となる詳細な開示等を避けるため、あえて「損金不算入」となる役員報酬を選択している事例も少なくないのが現状です。こうした中、平成29年度税制改正では役員報酬税制の大幅な改正が行われ、どのようなタイプのインセンティブ報酬を選択するかによって損金性に差が出ることになりました。今後は、ROEにも影響を与える損金性の問題を無視することは、株主利益の尊重という観点からも難しくなります。 そこで本セミナーでは、役員報酬に関する世界トップレベルの知見を有することで知られるウイリス・タワーズワトソンの経営者報酬部門でコンサルタントを務める小川直人様をお招きし、インセンティブ報酬としてどのような選択肢があるのかを整理していただいたうえで、それぞれについて平成29年度税制改正を踏まえた損金性、損金算入の要件、難易度などを解説していただきます。役員報酬改革に取り組む企業がどのタイプの役員報酬を選択するかを検討するうえで必須のセミナーになるはずです。 |
| 講師の ご紹介 |
小川 直人(おがわ なおと)様 ウイリス・タワーズワトソン 経営者報酬部門 コンサルタント 国内大手上場企業に対する経営者報酬コンサルティング、経営者報酬データベースの編集・分析、ストックオプションの導入概況調査、オプション算定モデル等を用いたストックオプションの評価単価算定、に関与する。 グローバル長期インセンティブに関する経験が豊富。キャッシュプラン、エクイティプランの各種ビークルについて、設計・導入支援から事務局への運用サポートまで幅広く従事。 ウイリス・タワーズワトソン入社以前は、大手会計事務所にて国際移転価格に係る税務コンサルティングに従事。 東京大学教養学部卒(地域文化研究学科フランス地域専攻)、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員、CFA協会認定証券アナリスト |
■第二部の詳細
| セミナー の内容 |
我が国におけるコーポレートガバナンス改革が進展する中、今や「企業価値の向上」は経営陣のミッションとして明確に位置付けられています。実際、各社の経営陣における企業価値への意識は高まっていますが、日本企業がグローバルを含む厳しい競争環境や変化の中に置かれる中、営業努力等のみによって投資家が期待する企業価値の向上を実現することは容易ではありません。時には既存事業の切り離しや企業グループの再構築など、機動的な事業再編、組織再編を行っていくことも、企業価値を向上させるうえでは極めて有効です。こうした中、平成29年度税制改正では、いわゆるスピンオフ(特定事業を切り出して独立会社とする手法)やスクイーズアウト(少数株主から株式を取得することによる100%子会社化の手法)を容易にするべく、既存の組織再編税制が大幅に見直されています。 そこで本セミナーでは、これらの税制改正の要望に関与された経済産業省経済産業政策局 産業組織課の安藤元太様をお招きし、海外の事例なども挙げていただきつつ、現時点で明らかになっている税制改正の内容を分かりやすく解説していただきます。今般の組織再編税制の改正内容は、取締役や監査役が今後事業・組織再編戦略を検討するうえでの前提として是非押さえておきたいところです。 |
| 講師の ご紹介 |
安藤 元太(あんどう げんた)様 経済産業省経済産業政策局 産業組織課 課長補佐 コーポレートガバナンス改革や組織再編・役員報酬に係る税制の整備に関わる。 2004年経済産業省入省。経済産業政策局産業構造課、製造産業局日用品室、大臣官房総務課を経て、米・コロンビア大学留学。2012年から資源エネルギー庁で電力システム改革を担当し、電力・ガス取引監視等委員会における電力市場の監視行政の立ち上げを経て、2016年から現職。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了 |
本セミナーは当フォーラム会員限定(*)セミナーです。
* 本セミナーは当フォーラム会員のうち対象者を下記の条件に該当する方に限定したセミナーです。
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ご不明な点等がございましたら、ご遠慮なく jimukyoku@govforum.jp までお問い合わせください。
第二部 経済産業省
経済産業政策局 産業組織課 課長補佐
安藤 元太 様
従業員持株会を設けるなどして、社員による株式保有を促している上場会社は少なくない。こうした社員株主が自社の株主総会に出席することもあるが、仮に社員株主が株主総会の質疑の際に積極的に発言したとしたら、一般株主はどのように感じるだろうか。社員株主が“無難”な質問をし、その結果として一般株主の質問時間が減れば、一般株主からは不満の声が上がるかもしれない。また、社員株主による質問数や時間の程度によっては、違法性が出てくる可能性がある。
まさにこの点が論点になった裁判の・・・
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従業員持株会を設けるなどして、社員による株式保有を促している上場会社は少なくない。こうした社員株主が自社の株主総会に出席することもあるが、仮に社員株主が株主総会の質疑の際に積極的に発言したとしたら、一般株主はどのように感じるだろうか。社員株主が“無難”な質問をし、その結果として一般株主の質問時間が減れば、一般株主からは不満の声が上がるかもしれない。また、社員株主による質問数や時間の程度によっては、違法性が出てくる可能性がある。
まさにこの点が論点になった裁判の判決が、昨年(2016年)12月15日に東京地裁であった。被告となったのは、フジテレビジョンの持ち株会社であるフジ・メディア・ホールディングス(東証一部)だ(原告は一般株主)。
3月決算である同社の2014年株主総会は1,405人の株主が出席して開催された。株主総会にかかった時間は2時間44分で、質疑応答にはその半分近い実質1時間16分19秒が費やされている。質問した株主は16人いたが、そのうち8人は社員株主だった。8人の一般株主の質疑応答に費やされた時間は52分47秒あったが、本裁判で原告となった一般株主は、質疑応答の際に挙手したものの、議長(フジ・メディア・ホールディングスの代表取締役)から指名されず、質問できなかったという。
株主総会の冒頭、議長は株主総会の審議方法について、質疑を打ち切った後は株主からの発言は受け付けず採決を行う旨を提案し、この提案は出席株主の議決権総数の過半数の賛成を得て承認されている。議長はこの審議方法に基づき、16人目の質問に対する回答をもって質疑を打ち切り、採決を行った。採決の結果は、会社提案の議案はいずれも原案どおり可決される一方、株主提案の議案はいずれも否決されるというものだった。これに対し原告である一般株主は、一般株主に十分な質問をさせなかったことは一般株主の質問権または株主権の侵害に当たるとし、各株主総会決議の取消しを求め裁判を起こした。
本裁判で焦点となったのは、社員株主8人による質問の是非だ。原告である一般株主は、「8人の社員株主による質問は、フジ・メディア・ホールディングスの総務部長の指示であらかじめ用意された“ヤラセ質問”である」旨主張。これに対しフジ・メディア・ホールディングス側は、総務部長が社員株主に株主総会での質問を依頼した事実を認めたうえで、これは「より多くの株主が発言しやすい雰囲気を醸成するためだった」旨反論した。
本裁判の法的な論点は、8人の社員株主に質問をさせたことが、株主総会決議の取消し請求を認める会社法831条1項1号(* 一部簡素化している)に該当するのか否かという点にある。
結論から言うと、裁判所は、一般株主の質問権または株主権を不当に制限したものとまでは断ずることはできないとし、株主総会決議の取消しを求める原告の主張を斥けている。その理由として、以下の点を挙げている。
| ・一般株主の質疑応答にも約53分が使われており、短すぎるとは言えない ・一般株主の質問内容は、時間の経過とともに、決議事項等との関連性があるとは言えない事項に関するものが続いた ・質疑打切り直前に質問を求めて挙手している一般株主数は出席株主数に比べて多くなかった ・被告が主張するように、社員株主による質問が一般株主による質問の誘因となっていたことを否定することはできない |
ただし、裁判所は、株主総会を統括する立場にある総務部長が社員に総会への出席および質問を依頼すること自体、株主総会の運営の在り方として「疑義がないとはいえない」との苦言も呈している。社員株主も株主である以上、株主総会に出席し質問をする権利はあるが、本裁判を踏まえると、それは社員の判断に任せるべきであり、会社から「要請」することは慎むべきだろう。
公認会計士 大杉 泉
(株式会社イグニス 取締役監査等委員長
日本公認会計士協会 組織内会計士協議会 委員)
「横領」という“古典的”ともいえる不正は、意外なことに、いまだに上場会社で発生する不正の半数超を占めている。横領の犯人は基本的に従業員(個人)であり、返済能力が十分であるとは言えないうえ、既に横領した金銭を使い込んでしまっているのが通常であるため、被害額全額の回収は困難な場合が多く(年月や回数を重ねてから発覚する事例も多く、その場合、被害額も大きくなる)また、「内部統制がきちんと構築されていない会社」というレッテルが貼られ、企業価値の毀損に繋がりかねない。会社としては何としても防ぎたいところであるが、いまだにその数が減らない最大の理由は、横領を未然に防ぐために「やるべきこと」ができていないということにある。
特に子会社や関係会社ではその傾向が強い。子会社や関連会社等での不正が目立つのには、会計監査の手法にも一因がある。監査法人は金額的・質的な重要度で監査資源を傾斜投入するため、一般的に規模の小さい子会社や関係会社には継続的・直接的なモニタリングが入りにくいのが実情だ。また、会社側の事情として、親会社では万全の内部統制を敷いているものの、子会社等では人手不足や業務の重要性を理由に、経理業務を一人で行っていたり、監査の目が行き届いていなかったりすることが多い。
こうした中、横領を防止するうえで重要な役割を果たすのが監査役等(監査等委員会設置会社における監査等委員、指名委員会等設置会社における監査委員を含む、以下同じ)である。内部統制の構築・運用責任は一義的には取締役にあるが、監査役等はその監視をすることが求められる(会社法第362条等、同381条1項等)。特に会計監査によるチェックが行き届かない子会社や関係会社に対しては、監査役等が目を光らせる必要がある。
一般に、不正は、「不正を起こしたい動機がある」「不正を実行できる機会がある」「不正を起こしたことを正当化できる素地がある」という3つの要素のうち2つ以上が揃うと起こると言われている(これを「不正のトライアングル理論」という)。横領事件では、犯人がプライベートで金銭問題を抱えている等、不正を起こす強い動機があるケースが多いため、会社側が出来る対応としては、いかに「機会」を減らし、「正当化」を防ぐかということになる。
監査役等としては、会社の内部統制が特に以下の点において問題ないか、また、内部監査部門が以下の視点をもって監査業務にあたっているかを中心に確認することが望ましい。・・・
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公認会計士 大杉 泉
(株式会社イグニス 取締役監査等委員長
日本公認会計士協会 組織内会計士協議会 委員)
「横領」という“古典的”ともいえる不正は、意外なことに、いまだに上場会社で発生する不正の半数超を占めている。横領の犯人は基本的に従業員(個人)であり、返済能力が十分であるとは言えないうえ、既に横領した金銭を使い込んでしまっているのが通常であるため、被害額全額の回収は困難な場合が多く(年月や回数を重ねてから発覚する事例も多く、その場合、被害額も大きくなる)また、「内部統制がきちんと構築されていない会社」というレッテルが貼られ、企業価値の毀損に繋がりかねない。会社としては何としても防ぎたいところであるが、いまだにその数が減らない最大の理由は、横領を未然に防ぐために「やるべきこと」ができていないということにある。
特に子会社や関係会社ではその傾向が強い。子会社や関連会社等での不正が目立つのには、会計監査の手法にも一因がある。監査法人は金額的・質的な重要度で監査資源を傾斜投入するため、一般的に規模の小さい子会社や関係会社には継続的・直接的なモニタリングが入りにくいのが実情だ。また、会社側の事情として、親会社では万全の内部統制を敷いているものの、子会社等では人手不足や業務の重要性を理由に、経理業務を一人で行っていたり、監査の目が行き届いていなかったりすることが多い。
こうした中、横領を防止するうえで重要な役割を果たすのが監査役等(監査等委員会設置会社における監査等委員、指名委員会等設置会社における監査委員を含む、以下同じ)である。内部統制の構築・運用責任は一義的には取締役にあるが、監査役等はその監視をすることが求められる(会社法第362条等、同381条1項等)。特に会計監査によるチェックが行き届かない子会社や関係会社に対しては、監査役等が目を光らせる必要がある。
一般に、不正は、「不正を起こしたい動機がある」「不正を実行できる機会がある」「不正を起こしたことを正当化できる素地がある」という3つの要素のうち2つ以上が揃うと起こると言われている(これを「不正のトライアングル理論」という)。横領事件では、犯人がプライベートで金銭問題を抱えている等、不正を起こす強い動機があるケースが多いため、会社側が出来る対応としては、いかに「機会」を減らし、「正当化」を防ぐかということになる。
監査役等としては、会社の内部統制が特に以下の点において問題ないか、また、内部監査部門が以下の視点をもって監査業務にあたっているかを中心に確認することが望ましい。
・出納担当者と伝票起票者は別の者となっているか
出納担当者と伝票起票者が同一人物であると、伝票を偽造して出納を行う可能性があるため、最低限両者は別の者とする。また、営業担当者が請求書を偽造する可能性もあるため、必ず上長の承認印を求めるなど、請求書が複数の目を通るようにする。
・出納担当者は一人で預金引き出しができない仕組みとなっているか
例えば通帳と銀行印、カードとパスワードなどを一人で管理していると、誰にも気づかれずに預金を下ろすことが可能となる。そこで、必ず担当者を分け、複数の同意がなければ預金を下ろせない仕組みとする。
・不要不急の多額の小口現金を手許に置いていないか。また実査を毎日実施しているか
「念のため」という名目で数百万の現金を金庫に入れているケースが散見されるが、内部者のみならず外からの盗難という観点からも非常に危険である。出納は極力銀行振込とし、やむを得ない場合のみ小口現金での出納とするべきである。また、金庫内の現金は毎日数え、出納表と照合するようにする(これも出納担当者と別の者が行うことが望ましい)。
・関連証憑との照合の仕組みがあるか
出納担当者、伝票起票者とは別の者が関連証憑と帳簿の照合を行い、疑念のある出金が行われていないかをチェックする。
・長年同じ人物が同じ業務を担当していないか
定期的な異動があると、引継ぎの祭に不正が発見されることも多い。逆に、長年同じ者が同じ業務を行っていると他者の目が入りづらく、また外部との癒着等も形成されやすい。
監査役等は、上記の統制が構築・運用されているかを定期的に(もしくは抜き打ちで)確認することが有用である。また、あまり会社の規模感等にとらわれず、頻度を決めて確認を行うことが望ましい。
さらに、監査役等は「不正の正当化」を許さない風土、すなわち会社が「不正を許さない」土壌になっているかについてもモニタリングするべきである。経営陣が定期的にそのようなメッセージを発しているか、コンプライアンスを最優先する姿勢を見せているかを評価し、必要があれば適宜問題点を指摘する。
現在不正をしている者、もしくはこれから不正をしようとしている者にとっては、監査役等の厳しい姿勢が大きな抑止力となるであろう。
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