会社法の改正議論がいよいよスタートする。金田勝年法務大臣は今月(2017年2月)9日、法務省の法制審議会に会社法制(企業統治等関係)の見直しについて諮問したところだ。諮問では、①株主総会に関する手続の合理化、②役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備、③社債の管理の在り方の見直し――など、企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討すべきとされている。具体的には、・・・
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会社法の改正議論がいよいよスタートする。金田勝年法務大臣は今月(2017年2月)9日、法務省の法制審議会に会社法制(企業統治等関係)の見直しについて諮問したところだ。諮問では、①株主総会に関する手続の合理化、②役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備、③社債の管理の在り方の見直し――など、企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討すべきとされている。具体的には、・・・
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会社法の改正議論がいよいよスタートする。金田勝年法務大臣は今月(2017年2月)9日、法務省の法制審議会に会社法制(企業統治等関係)の見直しについて諮問したところだ。諮問では、①株主総会に関する手続の合理化、②役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備、③社債の管理の在り方の見直し――など、企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討すべきとされている。具体的には、株主総会資料の電子的提供、株主提案権の濫用的な行使の制限、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)などの株式報酬の無償発行のほか、前回の会社法の改正議論に引き続き、社外取締役の選任義務付けも検討されることになる。
リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬
2014年の会社法改正では、最終的に社外取締役の選任義務付けは実施されなかったものの、社外取締役を選任していない上場企業は、株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明するとともに、事業報告及び株主総会参考書類においてその理由の記載が求められることになったのは周知のとおり。そして、改正会社法の附則には、同法施行後2年を経過したところで「社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずる」と規定されていた。今回の諮問内容の1つとして社外取締役の選任義務付けが盛り込まれたのは、この附則があったからだ。
ただ、上述のとおり社外取締役を選任していない場合には「相当でない理由」の開示が求められることや、会社法改正後に導入されたコーポレートガバナンス・コード(2015年6月1日~)が「独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべき」としたことなどを受け、既に多くの上場企業が社外取締役を選任している状況となっており、2014年改正会社法の狙いは既にほぼ達成できたと言える状況となっている。実際、東京証券取引所が平成28年7月27日に公表した東証上場会社における独立社外取締役の選任状況(確報)によると、3,358社(全上場企業の95.8%)が社外取締役を選任しており、1社当たりの平均人数も2.16人となっている。
社外取締役を選任することがマイナスであると考えている企業にまで選任を義務付けることは難しいとの意見もあることも踏まえると、会社法上、社外取締役の選任が義務付けられる可能性は高くないと言えそうだ。
東芝が米原発子会社(ウェスチングハウス社)を通じた原子力事業で巨額損失を計上する見通しとなったことで、海外子会社を含めたコーポレートガバナンスに改めて注目が集まっているが、海外子会社へのガバナンスの欠如には、それが大事として顕在化する前から、小さな兆候が見られることが少なくない。ある日本の上場会社(親会社)のアジア子会社に対し親会社の監査役が実施した監査での出来事を紹介しよう。
監査役監査の対象となったのはアジア地域の製造子会社である。従業員は120名程度で、当該子会社で採用した日本人の経理部長がいるが、この経理部長が“曲者”であった。監査役監査で発見された事項は以下のとおり。・・・
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東芝が米原発子会社(ウェスチングハウス社)を通じた原子力事業で巨額損失を計上する見通しとなったことで、海外子会社を含めたコーポレートガバナンスに改めて注目が集まっているが、海外子会社へのガバナンスの欠如には、それが大事として顕在化する前から、小さな兆候が見られることが少なくない。ある日本の上場会社(親会社)のアジア子会社に対し親会社の監査役が実施した監査での出来事を紹介しよう。
監査役監査の対象となったのはアジア地域の製造子会社である。従業員は120名程度で、当該子会社で採用した日本人の経理部長がいるが、この経理部長が“曲者”であった。監査役監査で発見された事項は以下のとおり。いずれも「不正」ではないが、ガバナンス上、問題となるものである。
■棚卸資産の実地棚卸差異の財務諸表への未反映
期末に棚卸資産の実地棚卸が行われていたことから、監査時にその実地棚卸関連の資料の提出を要請し、内容を確認したところ、わずかではあるが実地棚卸差異が生じていた(日本円換算で約30万円)。
実地棚卸差異 : 棚卸資産の実際の在高を実際に数えた結果把握された、帳簿価額と実際の在高の差異のこと。
監査役が、この差異への対応について経理部長に尋ねたところ、経理部長から「たな卸減耗として処理した」とのコメントを得た。しかし、決算時の仕訳には当該棚卸減耗に関するものは見当たらなかった。そこで、監査役が監査の最終日に「たな卸減耗に関する仕訳は発見できなかった」旨を経理部長に伝えたところ、「重要性が乏しいため、仕訳していない」と、当初とは異なるコメントが出てきた。
公認会計士の実施する会計監査のように、一旦確定した財務諸表を対象とする監査であれば、金額の重要性が小さいということで本件は見逃してもらえることもありうる。しかし、これから決算書を作成するために財務数値を確定させる段階で、重要性が小さいということで処理を行わないということは、経理担当者、ましてや部長職にあるものの行為としては問題である。決算処理の途中で判明した以上、金額の多寡にかかわらず処理すべきである。また、親会社の監査役からの質問に対して虚偽の回答を行っていたことも問題である。
■税効果処理
日本の親会社は、税効果会計の適用上、「法人税等」と「法人税等調整額」は勘定科目を区別し、税効果会計の適用により調整した額は「法人税等調整額」で処理しているが、現地の会計基準ではその区別がなく、「法人税等」一本で処理することになっている。そのため、親会社に連結決算用のデータを提出する際には、「法人税等」で処理されている金額から「税効果会計の適用により調整した額」の分だけ「法人税等調整額」に振替えて報告する必要がある。
法人税等調整額 : 税効果会計適用時に損益計算書において繰延税金資産や繰延税金負債の計上・取り崩しの額を表示する科目。税金費用を調整する性質を有することから、法人税等調整額と言われる。
しかし、この子会社では、「法人税等調整額」の分の振替えを失念していた。前期においても、親会社の経理部からその誤りについて修正仕訳を行うように指示があり、経理部長が「します」と回答していたにもかかわらず、当期においても修正仕訳はされないままであった。
この経理部長は日本企業での経理業務経験がなく、日本の経理実務を熟知していないために放置していたものと考えられるが、正当な理由もなく親会社の指示に従わないことは問題である。
■未承認の配当計上
2016年3月期の貸借対照表に、決算期後の5月の株主総会において株主である親会社により承認されたという配当金が「未払配当金」として計上されていた。
経理部長に確認したところ、「現地の会計処理では、5月に配当が確定した段階で3月に遡って配当金を未払計上することになっており、日本とは会計処理が異なっている」とのコメントを得た。
この点について、後日、子会社の会計監査を担う現地の監査法人のCPAに問い合わせたところ、「配当の会計処理は日本と変わるところはほとんどなく、3月に未払配当として計上するのは、あくまで期末日までに配当金額が株主総会で確定している場合である」とのことであった。そして、今回は例外的に、経営者確認書に「3月末時点で配当額は確定している」旨の記載を追加して監査をクリアしたとのことであった。
経営者確認書 : 監査報告書と引き換えに、経営者が監査法人に提出する確認書。
しかし、実際には配当金額が確定したのは株主が承認(株主総会の決議)した5月の時点であり、期末時点では配当は確定していなかった。この結果、配当相当額が資本(利益剰余金)から負債(未払配当金)に振替えられるという誤った処理となっていた。同時に、経営者が現地の監査法人に提出した経営者確認書にも虚偽の事実が記載されていたことになる。
各事項の金額的重要性は大きくないが、虚偽の回答を行ったことや親会社の指示に従わないなどの点で“質的”重要性はむしろ大きい。まさに親会社のガバナンスが効いていない状況であり、この状況を放置すれば、今後不正等が発生し、大きな損害へと繋がる可能性は決して低くない。このような事態を回避するためには、本事例で紹介したような“小さな兆候”にも目を向ける必要があろう。
役員へのインセンティブ報酬としてリストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)や株式交付信託(信託型株式報酬)の導入を検討する企業は多いが、その際、株式の譲渡制限解除や付与の時期が論点の一つとなることが少なくない。その意思決定に影響を与えているのが税負担だ。
リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬
株式交付信託(信託型株式報酬) : 企業が自社株式の取得資金を信託銀行に拠出し、この資金を原資に取得した自社株式を、業績目標の達成度などを反映したポイントに応じ、取締役等の在任時や退任時に付与するもの
株式交付信託を例にとると、現行税法上、退任時に株式を付与すれば企業は付与時の時価相当額を損金とできるうえ、退職給与は所得税の課税(*)も軽いことから、役員にとってもメリットがある。このため、これまでは退任時に株式を付与する企業が多く見られた。平成29年度税制改正により、「在任時」に株式が付与される株式交付信託も損金算入の対象とされたが(2016年12月14日のニュース「在任時支給の信託型株式報酬が損金に、利益連動型のRSは損金算入不可」参照)、役員の所得税負担まで考えれば、「退任時」を選択しようと考える企業は少なくないだろう。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。
ただ、平成29年度税制改正では・・・
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役員へのインセンティブ報酬としてリストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)や株式交付信託(信託型株式報酬)の導入を検討する企業は多いが、その際、株式の譲渡制限解除や付与の時期が論点の一つとなることが少なくない。その意思決定に影響を与えているのが税負担だ。
リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬
株式交付信託(信託型株式報酬) : 企業が自社株式の取得資金を信託銀行に拠出し、この資金を原資に取得した自社株式を、業績目標の達成度などを反映したポイントに応じ、取締役等の在任時や退任時に付与するもの
株式交付信託を例にとると、現行税法上、退任時に株式を付与すれば企業は付与時の時価相当額を損金とできるうえ、退職給与は所得税の課税(*)も軽いことから、役員にとってもメリットがある。このため、これまでは退任時に株式を付与する企業が多く見られた。平成29年度税制改正により、「在任時」に株式が付与される株式交付信託も損金算入の対象とされたが(2016年12月14日のニュース「在任時支給の信託型株式報酬が損金に、利益連動型のRSは損金算入不可」参照)、役員の所得税負担まで考えれば、「退任時」を選択しようと考える企業は少なくないだろう。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。
ただ、平成29年度税制改正では役員の退職給与の損金算入が一部制限されている点、気になるところだ。
現行法人税法上、役員給与を損金算入するためには、定期同額給与、事前確定届出給与 、利益連動給与のいずれかの要件を満たすことが必要とされているが(法人税法34条1項)、退職給与はこの法人税法34条1項の適用対象外となっており、同業他社等と比べて金額が過大でない限り、損金算入できることとされてきた(法人税法34条2項、法人税法施行令70条2項)。
定期同額給与 : 役員給与の支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、かつ、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
事前確定届出給与 : いつ、いくら(確定額)を支給する」旨を“事前に”確定した上で税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの
利益連動給与 : その事業年度の利益に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの
しかし平成29年度税制改正では、役員の退職給与で利益や株価を基礎として算定されるものは、業績連動給与(平成29年度税制改正により、現行の「利益連動給与」から名称変更)の損金算入要件を満たさない限り、その全額が損金不算入となる(平成29年度税制改正大綱 52ページ②参照)。
逆に言えば、業績や株価に連動しない退職給与であれば、平成29年度税制改正後も引き続き退職給与として損金算入できるということになる。そして、この「業績や株価に連動しない退職給与」には、付与する株式数やポイントがあらかじめ固定されている(=業績や株価に連動して付与株式数が変動しない)タイプのリストリクテッド・ストックや株式交付信託、さらにはリストリクテッド・ストック・ユニットも該当する可能性がある。
リストリクテッド・ストック・ユニット : 最初にユニット(単位)やポイントを付与し、一定の待期期間を経て株式を付与するもの
現時点では確定的な見解は出ていないが、この問題は既に上場企業の間でも話題になりつつあり、今後、税務当局から何らかの回答が示される可能性もある。何か動きがあり次第、続報したい。
取締役会議長の指示に従い、コーポレート・ガバナンス実務、取締役会・各種委員会の運営、ガバナンス・コミュニケーションなどを一元的に担う社内専門職のこと。カンパニー・セクレタリーは、例えば取締役会議長など特定の者に仕えるのではなく、企業のコーポレート・ガバナンス全体に貢献する役割を担っている。取締役にとってのカンパニー・セクレタリーは、取締役就任時のガイダンス や取締役会・委員会内部の情報共有を主導するほか、場合によっては取締役が専門知識を研鑽するためのトレーニングをサポートしてくれる頼もしい存在だ。
ガバナンス・コミュニケーション : 企業と株主の対話のこと
英国や米国ではカンパニー・セクレタリーの同業者団体が組織化されているほど、カンパニー・セクレタリーは職業として確立されたものとなっている。一方、日本ではまだ馴染みが薄く、・・・
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取締役会議長の指示に従い、コーポレート・ガバナンス実務、取締役会・各種委員会の運営、ガバナンス・コミュニケーションなどを一元的に担う社内専門職のこと。カンパニー・セクレタリーは、例えば取締役会議長など特定の者に仕えるのではなく、企業のコーポレート・ガバナンス全体に貢献する役割を担っている。取締役にとってのカンパニー・セクレタリーは、取締役就任時のガイダンス や取締役会・委員会内部の情報共有を主導するほか、場合によっては取締役が専門知識を研鑽するためのトレーニングをサポートしてくれる頼もしい存在だ。
ガバナンス・コミュニケーション : 企業と株主の対話のこと
英国や米国ではカンパニー・セクレタリーの同業者団体が組織化されているほど、カンパニー・セクレタリーは職業として確立されたものとなっている。一方、日本ではまだ馴染みが薄く、カンパニー・セクレタリーの業務を社内の管理系の各部門が少しずつ分担する格好になっている(下表参照)。
| カンパニー・セクレタリーの主要業務 | 英国企業・米国企業等 | 日本企業 (代表的な所管部門) |
||
| 取締役会、委員会の意思決定、企画運営サポート(アドバイザー) | カンパニー・セクレタリーが一元的に対応 (米国: Corporate Secretary) |
経営会議 | ||
| 取締役会、委員会の運営管理・議事録管理(アドミニストレーター) | 法務部、経営企画部 | |||
| 資本政策・株式取引関連(新株発行、配当支払、あらゆる法律要件の遵守) | 財務部 | |||
| コーポレート・ガバナンス問題に関する社外専門家(会計監査人、弁護士、金融機関、税理士等)との情報交換 | 財務部 | 法務部 | 総務部 | |
| コーポレート・ガバナンス問題に関する取締役(社外取締役)、執行役との情報交換 | 秘書室 | |||
| 株主との対話(ガバナンス・コミュニケーションの窓口) | IR部 | |||
(CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)第5回配布資料より抜粋し一部加工)
上の表から分かるように、欧米企業ではカンパニー・セクレタリーが一元的に担っている業務を、日本企業では複数の部署・担当者で細切れに分担している 。その結果、多くの日本企業では、分野ごとの担当者はいても、「全体を視野に入れてガバナンスを“戦略”として立案し、内外に情報発信する責任者」はいないという状態のまま、コーポレート・ガバナンスの向上という課題に取り組んでいるのが現実だ。また、コーポレート・ガバナンスに関する部署・担当者が多岐にわたるため、企業としての意思決定に先立ち複数の部署間の調整に時間がかかってしまうという問題も指摘されている。
こうした問題を解決するためには、日本企業でも、名称はともかく、欧米のようなカンパニー・セクレタリーの機能を持つ部署を設置してそこにコーポレート・ガバナンス関連の業務を集約し、ガバナンス戦略の立案・発信を担わせるようにすべきだ。カンパニー・セクレタリーへの業務の集中化により、担当者の専門性や経験値の向上も期待でき、投資家との対話も充実したものとなるであろう。
企業にとって、オフィスは“アイデンティティ”の一つでもあるが、海外ではその概念が一部で崩れつつある。
近年、東京や大阪などの都市部では、少人数・低価格での入居、柔軟な賃借期間設定などが可能であるとの理由から、・・・
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企業にとって、オフィスは“アイデンティティ”の一つでもあるが、海外ではその概念が一部で崩れつつある。
近年、東京や大阪などの都市部では、少人数・低価格での入居、柔軟な賃借期間設定などが可能であるとの理由から、シェアード・オフィス(shared office)の需要が増加している。日本では、シェアード・オフィスの利用者の多くはベンチャー企業や個人事業主だが、例えばロンドンでは、大手企業がシェアード・オフィスを活用し始めている。また、香港でも、英国大手銀行のHSBCが、約300名ものデジタル部門社員をシェアード・オフィスに入居させている。
こうした動きの背景の一つにあるのが、フィンテック関連のベンチャー企業の増加である。シェアード・オフィスでは、最近は日本企業でも増えているフリーアドレスの打ち合わせ・作業スペースを入居者が共有しているため、入居者同志の交流が促進されやすく、その中から新たな連携やイノベーションが生まれることも少なくない。フィンテックを自社ビジネスに取り込みたい大手金融機関などにとっては、シェアード・オフィスはフィンテック関連ベンチャー企業との“出会い”を提供してくれる場となっているというわけだ。例えばロンドンでは、新規オフィススペースの約1割をシェアード・オフィスが占めるようになっており、“出会い”の確率も高まっている(これには、シェアード・オフィス運営者が、ベンチャー企業よりも退去リスクが低い大手企業に対し積極的に営業をかけていることも影響している)。
フリーアドレス : 社員が特定のデスクを持たず、空いているデスク・座席を自由に使うスタイル
また、シェアード・オフィスへの入居により、自社の社員がフィンテック関連ベンチャー企業やITベンチャー企業の起業家等と交流することが、自社のデジタル戦略に必要な人材の育成の観点から重要と考える大企業もある。場合によっては、同じシェアード・オフィスに入居しているベンチャー企業から人材をヘッドハントするケースもあるという。
HSBCはロンドンではシェアード・オフィスに入居するまでは至っていないが、自社のイノベーションを促進するため、約3,000名のデジタル部門従業員を、金融機関が集積するCanary Wharfにある本社ビルではなく、あえて出版社等のクリエイティブな企業が複数入居するビルに入居させている。
日本企業においても、本社機能をシェアード・オフィスに設けることは困難としても、イノベーションを志向する一部の部門については、ベンチャー企業との接点拡大に向けシェアード・オフィスに移転するということも検討に値しよう。