2017/01/09 【特集】長文式監査報告書が企業に与える影響(2・会員限定)

1.長文式監査報告書とは?

国際監査基準では近年、最終的な監査意見だけでなく、会計監査人が監査の過程でリスク等として認識し、また重要だと考えた事項についての説明を監査報告書上に記載することが求められるようになった。この新しい基準を適用した監査報告書が「長文式監査報告書」(「長文型監査報告書」や「長文化した監査報告書」とも言われる)である。

「長文式監査報告書」とは文字通り“長文化した”監査報告書であるが、国際監査基準を定める国際監査・保証基準審議会(IAASB)に先行して監査報告書の改革に取り組んだ英国では「Extended Auditor’s Report」と呼ばれ、「長文化」というよりも「拡充された」といったニュアンスを持つ。実際、海外企業の長文式監査報告書の現物を見ると、数ページ程度にとどまるものも少なくない。とはいえ、英国では監査基準やフォーマットの変更ではなく、コーポレートガバナンス・コードの議論の延長線上で、財務諸表、企業開示の信頼性向上が元々の目的とされており、その実現に向けた取組みは企業に大きな影響を与えることになる。

長文式監査報告書は最初に導入された英国以外でも、EU、オーストラリアで来年(2017年)の導入が予定されている。また、米国やカナダでは長文式監査報告書を求める国際監査基準を自国の監査基準に反映するべく準備中であり、中国でも導入に向けた検討が始まった。一方、日本では現在(2016年12月末)のところ導入計画はもちろん、公式な検討状況についても公表されていないが、遅かれ早かれ日本の監査基準もこの新しい監査基準に合わせていく必要がある。

2.長文式監査報告書導入の背景

では、そもそもなぜ監査報告書を拡充しようという議論が出てきたのだろうか。

上述のとおり、監査報告書の拡充議論はIAASBより先に英国において、コーポレートガバナンス・コードの議論の延長線上で、「財務諸表の信頼性向上へ向けた取組み」の一環として始まった(2011年~)。金融危機の直後だったこともあり、議論に参加した英国の投資家は、監査報告書に対し不満を抱いていた。例えば、「会計監査人は監査の過程でもっと様々な情報を得ているはずなのに、現在の監査報告書にはたった一言、監査意見が記載されるだけ。これでは監査がブラックボックスになってしまう」といった指摘が聞かれた。こうした中、英国では投資家や企業、監査法人などの関係者がラウンドテーブルを開催し、数年間検討を重ね、新たな監査報告書の要件をまとめていった。

監査報告書の拡充議論におけるもう一つの重要な視点が「コーポレートガバナンス」の向上だ。英国では、監査におけるブラックボックスの解消と同時に、この新しい監査報告書がコーポレートガバナンスの向上につながるような仕組み作りを目指した。長文式監査報告書に記載される事項、すなわち「監査人が監査の過程でリスクを認識し、重要だと考えた箇所」については、会計監査人が監査報告書を作成する前に企業の監査委員会とディスカッションすることになっている。長文式監査報告書に記載される事項として代表的なものに、のれんや資産の減損、内部統制に関するリスクなどがあるが、英国では、監査委員会が認識していない事項が突然監査報告書に記載され、企業が投資家から追求を受けるということではなく、むしろ事前に両者が良く話し合うことによって企業がリスクを認識し、投資家に対する説明力を向上させることが求められている。当時のIAASBの委員の一人によると、英国では元々監査委員会レポートを充実させる案もあったという。結局、国際監査基準の方も見直しが行われたことで、他国と合わせていく必要が生じたために現在の(監査報告書に記載する)方式となった。もっとも英国では、会計監査人と監査委員会の議論は監査報告書での開示を前提としたため、結果的には監査委員会のレポートも充実することになった。

3.企業への影響

英国では2013年に上場企業を監査する会計監査人に対し長文式監査報告書の作成・開示が義務付けられて以来、既に3年目を迎えるが、果たして長文式監査報告書の導入は企業にどのような影響を与えたのだろうか。

会計監査人に「この新しい監査報告書は新たな負担になったか」と問うと、「英国の会計監査人は従来から監査委員会とのディスカッションは行ってきた。新しい監査報告書ではそれを開示するだけであり、新たな負担ではない」という。このような回答の背景には、英国では従来から会計監査人に対し、①監査委員会とのディスカッションのほか、②企業のリスクを理解するため、財務諸表だけを単独で見るのではなく、年次報告書の非財務部分に記載された事業やリスクとの整合性をチェックすることなども求めてきたということがあると思われる。

一方、企業側は当初、監査報告書に重要な事項が開示されること自体よりも、それを説明するために必要になるであろう会社の状況について、企業が開示していないことまで監査報告書に書かれてしまうのではないかということに懸念を抱いていた。そこで英国では、記載内容は原則、監査報告書が添付される年次報告書上の記載を参照することになった。上述のとおり、会計監査人は監査委員会と事前に議論することも求められているため、重要なリスクとして議論の対象とされた事項については、必然的に企業側も厚めに開示を行うようになっている。

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2017/01/09 【特集】長文式監査報告書が企業に与える影響

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

はじめに

最近「長文式監査報告書」という言葉を耳にしたことはないだろうか。
監査報告書というと、一般的には事業の継続可能性について監査意見が記載され、会計監査人がサインしただけのシンプルなものが思い浮かぶが、今そのあり方が国際的に見直されている。

本稿では、長文式監査報告書の導入経緯、導入国における投資家の意見、そして企業への影響等について紹介したい。

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2017/01/06 IFRS適用会社を買収でも、親会社は日本基準のままでOKに

国際会計基準(IFRS)を適用している日本企業は年々増加傾向にあり、非上場企業も含め125社にのぼっている(2016年10月末現在。金融庁調べ)。最近は上場(IPO)の際に既にIFRSを適用している企業もある。これは、将来的にIFRSが強制的に適用されるか、あるいは、強制はされないまでも日本の会計基準がIFRSに近付いていく(これをコンバージェンス(収れん)という)のは間違いないため、最初からIFRSを導入しておいた方が後々楽だということに加え、IFRSではのれんの規則的な償却が不要(2016年7月26日のニュース「のれんを償却すれば赤字に転落する企業も」参照)であることが主な要因とみられる。IPOを目指す企業に管理体制の整備などをアドバイスするIPOコンサルタントの中には、クライアント企業にIFRSの導入を進める者も少なくない。

新規に上場する企業の中には最新の技術や斬新なビジネスモデルを持っているところも多く(だからこそ上場できるとも言える)、既存の上場企業にとって買収候補となることもあるが、買収した企業がIFRSを採用している場合には会計上の問題が生じることになる。日本の会計ルールでは、・・・

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2017/01/06 IFRS適用会社を買収でも、親会社は日本基準のままでOKに(会員限定)

国際会計基準(IFRS)を適用している日本企業は年々増加傾向にあり、非上場企業も含め125社にのぼっている(2016年10月末現在。金融庁調べ)。最近は上場(IPO)の際に既にIFRSを適用している企業もある。これは、将来的にIFRSが強制的に適用されるか、あるいは、強制はされないまでも日本の会計基準がIFRSに近付いていく(これをコンバージェンス(収れん)という)のは間違いないため、最初からIFRSを導入しておいた方が後々楽だということに加え、IFRSではのれんの規則的な償却が不要(2016年7月26日のニュース「のれんを償却すれば赤字に転落する企業も」参照)であることが主な要因とみられる。IPOを目指す企業に管理体制の整備などをアドバイスするIPOコンサルタントの中には、クライアント企業にIFRSの導入を進める者も少なくない。

新規に上場する企業の中には最新の技術や斬新なビジネスモデルを持っているところも多く(だからこそ上場できるとも言える)、既存の上場企業にとって買収候補となることもあるが、買収した企業がIFRSを採用している場合には会計上の問題が生じることになる。日本の会計ルールでは、親会社と子会社の会計基準は統一しなければならないのが原則とされているからだ。例外として、「在外子会社」については、そもそも日本の会計基準を適用するのは無理があることから、IFRSまたは米国会計基準を適用することが認められている(企業会計基準員会 実務対応報告18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」)。逆に言うと、「国内子会社」については、親会社と会計基準の統一が求められることになる。

こうした中、企業会計基準委員会は昨年末に実務対応報告第18号の改正案を公表している(2016年12月22日付)。改正案は、親会社が日本基準、国内子会社または国内関連会社がIFRSまたはJMIS(修正国際基準。詳細は2014年7月29日のニュース『「修正国際基準」と命名された日本版IFRS、採用のメリットは?』参照)を採用しているケースも、上記実務対応報告第18号の「例外」に含めるというもの。企業会計基準委員会は本改正案を2月22日まで意見募集し、3月中にも決定する予定だ。適用は2017年4月1日以後開始する連結会計年度(3月決算であれば、2018年3月期)の期首からとされているが、2017年3月期からの早期適用も認める。

今回の改正は、企業からの要望により実現したものとなっている。これまでは、連結手続きの際に、国内子会社等がIFRSを適用して作成した財務諸表を日本基準を適用したものに直さなければならず、企業の事務負担が大きかった。今後は国内子会社等の財務諸表をほぼそのまま利用することが可能になる。上場企業によるM&Aが活発化する中、IFRSを適用する企業を子会社や関連会社にするということは十分あり得るだけに、今回の改正は企業にとっては朗報と言えよう。

2016/12/31 2016年12月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
グラスルイスは、2017年版ポリシーで、取締役および監査役の合計数に占める独立役員の割合が「3分の1」に達しない場合、取締役会長もしくは経営トップの選任議案に反対推奨するとしています。問題文の「取締役の合計数」は誤りで、正しくは「取締役および監査役」です(問題文は誤りです)。

こちらの記事で再確認!
2016/12/27 海外有力機関投資家、2017年度に「独立社外取締役比率3分の1」を要求も(会員限定)

2016/12/31 2016年12月度チェックテスト

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【問題1】

役員が不祥事の責任を取って過去の報酬を返上することを、一般的に「クローバック」という。


正しい
間違い
【問題2】

MBO後の再上場時における上場審査に際して、経営者・株主がMBO時と同一であったり、MBOから再上場までの期間が長かったりすれば、上場審査で不利になりやすい。


正しい
間違い
【問題3】

モザイク情報もフェア・ディスクロ・ルールの対象となる見込みである。


正しい
間違い
【問題4】

英国では、取締役の報酬を決定する報酬委員会に「従業員代表」や「消費者代表」を加える内容のコーポレート・ガバナンス改革案が示されている。


正しい
間違い
【問題5】

これまでは損金不算入とされてきた「役員の在任時に支給する信託型株式報酬」を損金に算入できるようにする税制改正が行われる見通しである。


正しい
間違い
【問題6】

証券取引所の規則では、コーポレートガバナンス・コードのうち“解釈の余地なく”実施していると判断できるコード以外のコードについては、コーポレート・ガバナンス報告書上エクスプレインにしなければならないとされている。


正しい
間違い
【問題7】

事業者に内部通報制度の整備義務を課す方向で法改正の検討が行われる可能性がある。


正しい
間違い
【問題8】

独立社外取締役が投資家とコミュニケーションをしている企業はまだない。


正しい
間違い
【問題9】

独占禁止法が改正され、カルテルや入札談合といった独占禁止法違反の行為に確約手続制度が導入されることになった。


正しい
間違い
【問題10】

グラスルイスは、2017年版ポリシーにおいて、取締役の合計数に占める独立役員の割合が「3分の1」に達しない場合、経営トップの選任議案に反対推奨するとしている。


正しい
間違い

2016/12/31 2016年12月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
グラスルイスは、2017年版ポリシーで、取締役および監査役の合計数に占める独立役員の割合が「3分の1」に達しない場合、取締役会長もしくは経営トップの選任議案に反対推奨するとしています。問題文の「取締役の合計数」は誤りで、正しくは「取締役および監査役」です(問題文は誤りです)。

こちらの記事で再確認!
2016/12/27 海外有力機関投資家、2017年度に「独立社外取締役比率3分の1」を要求も(会員限定)

2016/12/31 2016年12月度チェックテスト第9問解答画面(正解)

正解です。
独占禁止法の改正により確約手続制度が導入されることになりました(施行日未定)。もっとも、カルテルや入札談合には確約手続制度は適用されない見込みです(問題文は「カルテルや入札談合に確約手続制度が導入される」という点が誤りです)。

こちらの記事で再確認!
2016/12/26 独禁法改正で導入の確約手続制度、カルテルや入札談合への適用は?(会員限定)

2016/12/31 2016年12月度チェックテスト第9問解答画面(不正解)

不正解です。
独占禁止法の改正により確約手続制度が導入されることになりました(施行日未定)。もっとも、カルテルや入札談合には確約手続制度は適用されない見込みです(問題文は「カルテルや入札談合に確約手続制度が導入される」という点が誤りです)。

こちらの記事で再確認!
2016/12/26 独禁法改正で導入の確約手続制度、カルテルや入札談合への適用は?(会員限定)

2016/12/31 2016年12月度チェックテスト第8問解答画面(不正解)

不正解です。
投資家と接点のある役員と言えば、通常は常勤の取締役ですが、最近では投資家が独立社外取締役家と独立社外取締役とのコミュニケーションを既に始めている企業もあります(以上より、問題文は誤りです)。今後は、投資家から独立社外取締役とのミーティングを依頼するケースも増えてくることでしょう。

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2016/12/22 独立社外取締役との対話の内容(会員限定)