2017/01/16 連結納税が採用しやすく(会員限定)

グループ経営が当たり前になる中、企業グループ全体の法人税額を圧縮するために連結納税の導入を検討したことのある上場企業は少なくないだろう。特に近年はM&Aの活発化により子会社の数が増えたという企業グループは珍しくなく、連結納税を導入する経済的合理性は高まっている。

連結納税 : 100%の持株比率で結ばれた企業グループにおける親会社と子会社の所得金額と欠損金額を損益通算して「連結所得金額」を計算し、連結所得に対する法人税を親法人がまとめて納税する制度。親会社が黒字、子会社が赤字の場合、企業グループ全体の法人税額を減らす効果がある。

ただ、連結納税を導入するにあたってボトルネックとなってきたのが、「自己創設のれん」に対する課税リスクだ。

自己創設のれんとは、企業を買収したり合併したりした際における「被買収企業等の株式の購入金額-当該企業の時価純資産価額(=資産の時価-負債の時価)」であり、“財務諸表には表れない企業の価値”と言える。

法人税法では、連結納税制度を採用する際、あるいは既に連結納税制度を採用している企業が新たに子会社を連結納税の対象に加える際には、原則として子会社の資産を時価評価し、その結果生じた評価益に対して法人税が課されることになっている。課税当局は従来からこの時価評価課税の対象には上述した「自己創設のれん」も含まれるとの見解を示しており、これがM&A等の結果「のれん」を抱える子会社を有する企業が連結納税を採用することを躊躇させてきた。一方、企業や日本公認会計士協会からは「自己創設のれんは時価課税の対象外とすべき」との要望がかねてから挙がっていた。

こうした中、この自己創設のれんに対する課税問題が2017年度税制改正により消滅することが当フォーラムの取材により判明した。

2017年度税制改正大綱には下記の記述が入っている(71ページ⑦参照)。

・・・連結納税の開始又は連結グループヘの加入に伴う資産の時価評価制度について、時価評価の対象となる資産から、帳簿価額が1,000万円未満の資産を除外する。

ここでポイントとなるのが「帳簿価額」という部分だ。現行の連結納税制度では、「評価差額(「資産の時価」と「帳簿価額」の差額)」が1,000万円未満の場合には時価評価の対象外とされているが、今回これが「帳簿価額」とされたことになる。

帳簿価額 : 会計帳簿に記載されている価額のこと。固定資産であれば、取得価額から減価償却累計額や減損損失累計額を控除した額となる。

自己創設のれんは、上記算式のとおり、M&A等の際に被買収企業の時価純資産を超えて支払った対価であり、M&A等の前に“資産”として認識されていたものではない。したがって、「帳簿価額」も存在しない。そもそも「帳簿価額」が存在しない以上、「時価評価」の対象にもなり得ないというわけだ。

企業に連結納税制度の導入を躊躇させてきた「自己創設のれん」に対する課税問題が解決したことで、まだ連結納税を導入していていない企業の経営陣は、一度その導入の是非を検討してみてもよいだろう。

2017/01/13 横領を招きかねないEUCのリスクとは?

一度に多額の金銭を動かせる銀行振込は、横領に利用されることが少なくない。これを防ぐため、銀行振込の担当者を財務部門の一部の従業員に限定するのは当然のこととして、さらに、銀行振込による支払業務フローに「内部統制」を組み込む必要がある。具体的には、振込担当者が、社内承認済みの支払一覧等の元資料から振込用のデータを作成し、上長がこの「振込用データ」と「元資料」の振込件数・振込金総額が一致していることを確認しない限り、振込手続きは行ってはならないといったものだ。

ただ、このような内部統制を構築していても、横領事件は起こり得る。横領犯は内部統制の間隙を突いてくるからだ。6千万円を超える額の横領事件に見舞われた東証一部上場の・・・

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2017/01/13 横領を招きかねないEUCのリスクとは?(会員限定)

一度に多額の金銭を動かせる銀行振込は、横領に利用されることが少なくない。これを防ぐため、銀行振込の担当者を財務部門の一部の従業員に限定するのは当然のこととして、さらに、銀行振込による支払業務フローに「内部統制」を組み込む必要がある。具体的には、振込担当者が、社内承認済みの支払一覧等の元資料から振込用のデータを作成し、上長がこの「振込用データ」と「元資料」の振込件数・振込金総額が一致していることを確認しない限り、振込手続きは行ってはならないといったものだ。

ただ、このような内部統制を構築していても、横領事件は起こり得る。横領犯は内部統制の間隙を突いてくるからだ。6千万円を超える額の横領事件に見舞われた東証一部上場のブロードリーフの事例を分析すると、横領を防げなかった原因の1つに「EUC」の利用がある。EUCとは“End User Computing”の略で、現場で業務を担当する者(=End User)が必要に応じて“直接”システムを開発・運用することをいう。通常は、システムは情報システム部門や外部のベンダーが開発し、現場で業務を担当する者はそのシステムを利用するだけにすぎない。これに対しEUCでは、現場(End User)が主体となって自身が利用するシステムを構築する。それだけに、EUCでは複雑なシステムが作られることはない。エクセルなどの表計算ソフトにマクロを組み込んで計算の一部を自動化したり、アクセスを用いて金額を集計したりといった簡素なレベルのシステムにとどまり、その操作は手作業となることがほとんどだ。

ブロードリーフは先日(2016年12月29日)、横領事件に関する中間調査報告書を公表したが、それによると、同社の支払業務フローは下図のとおりとなっている。まず、業務部の支払業務一次担当者が、各営業所の担当者が入力した当月分の支払依頼を、同社内のWEBシステムからデータベースソフトに取り込んだ上で、データベースソフトから、当月に支払予定と入力された取引先口座を受注ナンバー別に一覧にした「口座チェックリスト」を出力。そして、同じ支払業務一次担当者がこの「口座チェックリスト」を、各営業所から業務部に送付されてきた販売協力店等の請求書と突合し、「口座チェックリスト」に記載された各取引の実在性および支払情報の正確性を確認していた(下図参照)。

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問題はその後だ。ブロードリーフでは、支払業務一次担当者とは異なる業務部の別の担当者(以下、「支払業務二次担当者」という。これが横領の実行者である)が、データベースソフトを利用して受注ナンバー別の「支払情報データ」を支払先別に集計し、それを基に「販売手数料支払明細」と金融機関に対する「銀行電文データ」を作成、金融機関のWEBシステム上にアップロードして「総合振込依頼一覧」を出力するという業務フローになっていた。

支払業務二次担当者は、データベースソフトに横領用の口座の情報や金額を直接入力することで振込データを追加し、横領を行っていた(上図の赤部分。横領は2006年から2013年にかけて実行され、その額は約 6,168 万円にのぼる)。支払業務二次担当者の上長(業務部部長)が、支払業務二次担当者が作成した「販売手数料支払明細」の振込金総額と、振込用のデータである「総合振込依頼一覧」の振込金総額とが一致していることを確認した上で振込みを承認していたものの、これは横領するための情報を追加した資料とそれを基に作成した振込用データを照合しているにすぎない。当然ながら、両者の金額は一致することになる。資料一式は財務部に回され、財務部の課長も振込の端末操作を行う前に、改めて「販売手数料支払明細」の振込金総額と、振込用のデータである「総合振込依頼一覧」の振込金総額とが一致していることを確認しているのだが、当然ながらここでも金額は一致する。つまり、これらの資料に横領金額が掲載されているにもかかわらず、誰も気付かないまま支払いに回っていたということだ。

上述のとおり、ブロードリーフでは、振込情報の作成現場がデータベースソフトを利用して振込データを作成しており、まさに「EUC」が利用されていた。EUCはデータの加工が容易であるというメリットがある反面、「手作業が加わることによるミス」や「データを勝手に加工することによる不正」が生じかねないというデメリットもある。ブロードリーフで起きた不正は、横領用の口座の情報や金額が振込データに直接入力されているという点で、EUCのデメリットが顕在化した事例と言える。

EUCのデメリットを回避するためには、振込の承認時に「データが追加・修正されていないか」という観点からチェックを入れることも考えられる。しかし、EUCを用いた業務は第三者のチェックが難しい(例えばエクセルのマクロ関数を用いた処理は、マクロ関数の内容を熟知した者以外にとっては処理内容がブラックボックスになりがちである)という問題がある。また、チェック後にデータを改ざんされる可能性も残る。となると、不正回避の観点からは、EUCの利用を可能な限り減らすのが望ましいと言えよう。

上場企業でも、見積受注システム、販売管理システム、購買管理システム、金融機関のWEBシステム等の各システム間のインターフェース(システム間のデータ連携)において、データ形式の変換や加工のためにEUC(手作業)を介在させているケースが少なくない。内部統制の構築に責任を持つ取締役としては、可能な限り、EUCを利用せずにシステム間を自動連携させる仕組みを構築することを模索すべきと言えよう。

2017/01/12 機関投資家に注目されない企業の進むべき道

何百億、何千億という巨大なポートフォリオを運用する機関投資家の多くは、時価総額の小さい企業に投資することに躊躇する。なかでも、小さな金額しか投資できない時価総額50億円以下の“超小型株”に投資することは極めて難しい。なぜなら、こうした時価総額の小さい企業に投資したところで、巨大なポートフォリオの中ではほとんどパフォーマンスに影響を与えることがないうえ、流動性のリスクも存在するからだ。このため、機関投資家のポートフォリオマネージャー(ファンドマネージャー)やアナリストが、時価総額の小さい企業(特に超小型株)のリサーチをすることはほとんどない。

流動性のリスク : 株式の売買の出来高(売買数量)が十分になく、買いたいと思った時にその銘柄を売ってくれる売手がいない、あるいは売りたいと思った時にその株を買ってくれる買手がいないという状況を指す。

もっとも、こうした時価総額の小さい企業は投資対象として魅力がないのかというとそうではない。機関投資家は、たとえそこに“宝の山”があると感じていても、上述したような経済的理由から投資をしないにすぎない。また、機関投資家が興味を示さなければ、証券会社のアナリストもこうした企業をカバーすることはない。その結果、こうした企業の株価は実態と乖離して低位に放置されている可能性があり、実は投資先としては非常に魅力的であることが少なくない。

こうした小型株の恩恵を受けられるのは・・・

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2017/01/12 機関投資家に注目されない企業の進むべき道(会員限定)

何百億、何千億という巨大なポートフォリオを運用する機関投資家の多くは、時価総額の小さい企業に投資することに躊躇する。なかでも、小さな金額しか投資できない時価総額50億円以下の“超小型株”に投資することは極めて難しい。なぜなら、こうした時価総額の小さい企業に投資したところで、巨大なポートフォリオの中ではほとんどパフォーマンスに影響を与えることがないうえ、流動性のリスクも存在するからだ。このため、機関投資家のポートフォリオマネージャー(ファンドマネージャー)やアナリストが、時価総額の小さい企業(特に超小型株)のリサーチをすることはほとんどない。

流動性のリスク : 株式の売買の出来高(売買数量)が十分になく、買いたいと思った時にその銘柄を売ってくれる売手がいない、あるいは売りたいと思った時にその株を買ってくれる買手がいないという状況を指す。

もっとも、こうした時価総額の小さい企業は投資対象として魅力がないのかというとそうではない。機関投資家は、たとえそこに“宝の山”があると感じていても、上述したような経済的理由から投資をしないにすぎない。また、機関投資家が興味を示さなければ、証券会社のアナリストもこうした企業をカバーすることはない。その結果、こうした企業の株価は実態と乖離して低位に放置されている可能性があり、実は投資先としては非常に魅力的であることが少なくない。

こうした小型株の恩恵を受けられるのは個人投資家に他ならない。通常、個人投資家の自己資金は少額であるため、投資対象企業の規模も流動性リスクもあまり気にする必要はないからだ。ところが、個人投資家は小型株の魅力に気付いていないことが多い。その理由として、個人投資家の大部分が機関投資家と同じように大型株に注力していることや、小型株は市場に認知されるまでは株価の上昇が期待できないため、短期志向の個人投資家に敬遠されがちということがある。独立系の調査機関等の中にはwebサイトで“超小型株”を紹介しているところもあるが、その数はまだ限られている。今のところ、証券会社もカバーしないような小型株と個人投資家を結びつける機会・場は極めて限られているのが現状だ。

そこで、時価総額の小さい企業にとっては、個人投資家向けIRの強化(説明会の開催やwebサイトの充実など)が極めて重要になってくる。場合によっては、個人投資家がIRの内容を理解できるようになるための教育の場の提供も検討する必要があろう。IRを通じて自社の魅力や、実態と株価の乖離などを伝えることで、10年単位の資産形成を考える優良な個人投資家が集まってくる可能性は十分にある。こうした個人投資家が増えてくれば資金調達も容易となり、企業の成長を後押ししてくれるとともに、それによってさらに資金調達がしやすくなるという好循環が生まれる。いずれは機関投資家の投資対象になってくることも考えられよう。

2017/01/11 決算短信簡素化に海外投資家から異論の声

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

金融庁の金融審議会ディスクロージャー・ワーキング・グループ(以下、ディスクロージャー・ワーキング・グループ)や東証が検討してきた決算短信の簡素化の実施を目前に控える中(2017年3月末日以後に終了する通期決算または四半期決算から適用)、海外投資家の一部から異論の声が上がっている。

開示の改善に向けて様々な議論を行ってきた金融庁の金融審議会ディスクロージャー・ワーキング・グループは昨年(2016年)4月に最終報告書を公表したが、そこでは、本来の課題であった(1)株主総会用の事業報告書に加え、有価証券報告書、決算短信と複数の制度開示の書類を作成しなければならないこと、(2)そのために監査報告も2回必要となっていること、(3)世界でも稀な「期末から株主総会までの日程の短さ」――などは一つも解決されず、折り合わない議論の中で、最も投資家が利用している決算短信が簡素化されることになった。具体的には、「投資者の判断を誤らせるおそれがない場合」には財務諸表本表の添付を必須としないことと、現在は固定フォーマットの利用が求められているサマリー情報の記載を自由化することだ。

ディスクロージャー・ワーキング・グループでは、ある委員から「アナリストレポートが書かれるのは上位数百社。それらの企業は決算短信を簡素化しても十分に情報を出すだろうから、(セルサイド)アナリストは困らないのではないか」という発言があった。これに対し日本の投資家からは、「中小型銘柄をカバーしていれば、時価総額にして1000番~2000番の企業が対象になる。現在でもセルサイド・レポートは全くなく、決算短信が唯一の資料」「議決権行使に間に合う財務諸表は決算短信しかない」「たとえ個人投資家でも等しく企業価値が理解できるような環境を維持しなければ、株価に無用なボラティリティが生じる。必要な開示を義務付けなければ、企業は都合が悪い時には『間に合わなかった』といって開示をしない可能性は否定できない」「たとえ時価総額が最も小さな会社であっても、上場している限り誰かが保有している。そういう企業の情報は通常は少ない。誰もが入手できる決算短信は最も活用されている」と怒りの意見が続出した。

(セルサイド)アナリスト : 証券会社に所属し、株式を売る側の立場にいる。そのレポートは、証券会社の顧客である個人投資家や機関投資家に提供され、投資家はこれを投資先の選定や売買のタイミングの判断に利用する。ちなみに、バイサイド・アナリストとは運用会社に所属するアナリストであり、そのレポートは、自社のファンドマネージャーの運用成績向上のために作成される。
ボラティリティ : 株価の変動率。「ボラティリティが高い」とは、株価が乱高下することを意味する。
(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

一方、ディスクロージャー・ワーキング・グループでは、「制度開示は極力少なくし、企業の個性が出せるような任意開示に力を入れるべきだ」という発言が繰り返しなされた。しかし、制度開示は、決算数値が良くない年も含め継続して行わなければならないことに意義がある。唯一のアナリスト経験者であった委員は繰り返し「このような重要なことは投資家の意見を聞いて決めるべきだ」と主張したが、そのような時間がとられることもなく、また当然ながら海外投資家が知ることもないうちに最終報告書の公表に至ったという経緯がある。

東京証券取引所はディスクロージャー・ワーキング・グループの最終報告書に合わせて決算短信簡素化に必要な制度変更を実施するのに先立ち、昨年10月28日から1か月間パブリックコメントを募集した。この意見募集からは、ディスクロージャー・ワーキング・グループで展開された議論はほぼ見えない。

こうした中、多くの投資家系団体は金融審議会の議論に遡って意見を述べ、そのコメントレターを自団体のホームページに公表している。昨年12月上旬には、ロンドンに本部をもつ・・・

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2017/01/11 決算短信簡素化に海外投資家から異論の声(会員限定)

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

金融庁の金融審議会ディスクロージャー・ワーキング・グループ(以下、ディスクロージャー・ワーキング・グループ)や東証が検討してきた決算短信の簡素化の実施を目前に控える中(2017年3月末日以後に終了する通期決算または四半期決算から適用)、海外投資家の一部から異論の声が上がっている。

開示の改善に向けて様々な議論を行ってきた金融庁の金融審議会ディスクロージャー・ワーキング・グループは昨年(2016年)4月に最終報告書を公表したが、そこでは、本来の課題であった(1)株主総会用の事業報告書に加え、有価証券報告書、決算短信と複数の制度開示の書類を作成しなければならないこと、(2)そのために監査報告も2回必要となっていること、(3)世界でも稀な「期末から株主総会までの日程の短さ」――などは一つも解決されず、折り合わない議論の中で、最も投資家が利用している決算短信が簡素化されることになった。具体的には、「投資者の判断を誤らせるおそれがない場合」には財務諸表本表の添付を必須としないことと、現在は固定フォーマットの利用が求められているサマリー情報の記載を自由化することだ。

ディスクロージャー・ワーキング・グループでは、ある委員から「アナリストレポートが書かれるのは上位数百社。それらの企業は決算短信を簡素化しても十分に情報を出すだろうから、(セルサイド)アナリストは困らないのではないか」という発言があった。これに対し日本の投資家からは、「中小型銘柄をカバーしていれば、時価総額にして1000番~2000番の企業が対象になる。現在でもセルサイド・レポートは全くなく、決算短信が唯一の資料」「議決権行使に間に合う財務諸表は決算短信しかない」「たとえ個人投資家でも等しく企業価値が理解できるような環境を維持しなければ、株価に無用なボラティリティが生じる。必要な開示を義務付けなければ、企業は都合が悪い時には『間に合わなかった』といって開示をしない可能性は否定できない」「たとえ時価総額が最も小さな会社であっても、上場している限り誰かが保有している。そういう企業の情報は通常は少ない。誰もが入手できる決算短信は最も活用されている」と怒りの意見が続出した。

(セルサイド)アナリスト : 証券会社に所属し、株式を売る側の立場にいる。そのレポートは、証券会社の顧客である個人投資家や機関投資家に提供され、投資家はこれを投資先の選定や売買のタイミングの判断に利用する。ちなみに、バイサイド・アナリストとは運用会社に所属するアナリストであり、そのレポートは、自社のファンドマネージャーの運用成績向上のために作成される。
ボラティリティ : 株価の変動率。「ボラティリティが高い」とは、株価が乱高下することを意味する。
(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

一方、ディスクロージャー・ワーキング・グループでは、「制度開示は極力少なくし、企業の個性が出せるような任意開示に力を入れるべきだ」という発言が繰り返しなされた。しかし、制度開示は、決算数値が良くない年も含め継続して行わなければならないことに意義がある。唯一のアナリスト経験者であった委員は繰り返し「このような重要なことは投資家の意見を聞いて決めるべきだ」と主張したが、そのような時間がとられることもなく、また当然ながら海外投資家が知ることもないうちに最終報告書の公表に至ったという経緯がある。

東京証券取引所はディスクロージャー・ワーキング・グループの最終報告書に合わせて決算短信簡素化に必要な制度変更を実施するのに先立ち、昨年10月28日から1か月間パブリックコメントを募集した。この意見募集からは、ディスクロージャー・ワーキング・グループで展開された議論はほぼ見えない。

こうした中、多くの投資家系団体は金融審議会の議論に遡って意見を述べ、そのコメントレターを自団体のホームページに公表している。昨年12月上旬には、ロンドンに本部をもつInternational Corporate governance Network(ICGN)が、東証にコメントを送ったことをホームページにて公表した。その内容を見ると、先に挙げた国内投資家の意見と同様、株主総会前に入手できる唯一の財務諸表を提供する決算短信が重要であること、このような特定のケースの簡素化は適切ではないということが述べられている。

また、日本株に投資する40以上に及ぶ海外の投資家団体の担当者個人のサインが入ったレターも東証に送付されている。これは投資家同士がお互いに声をかけあって署名を集め作成されたもの。このレターも年明け早々、取りまとめ人の一人であったスタンダードライフが、その考え方を広くシェアするために署名を抜いたバージョンをホームページに掲載している。このレターでは、冒頭から株主総会の前に提出される短信の重要さが繰り返し説かれ、株主総会までの時間が短いこと、それによって企業にも負担がかかっていることを懸念しつつも法定開示による完全な財務諸表が決算短信に添付されることの重要性を強く訴えている。

特に具体的かつ詳細な記載のある後者は、レターを受けた東証のみならず上場企業も共有すべきであり、また、この署名の重みについて一度深く考えてみる必要があるのではないだろうか。

2017/01/10 EU離脱の英国における日本企業の意外な動き

英国のEU離脱、トランプ政権の誕生と、保守主義の台頭を象徴する2つの出来事は日本企業の海外投資にも大きな影響を与える可能性がある。トランプ氏関連では、既にメキシコへの投資を躊躇する日本企業も出始めており、今後は米国での雇用確保を意識せざるを得なくなるかもしれない。一方、英国については意外な動きが出ている。

英国がEUを離脱することとなった最大の理由の一つが移民の流入だが、これに対しEU側は、英国がEU単一市場へのアクセス権を維持するためにはヒト・モノ・資本の移動の自由の原則の遵守が必要との方針を示している(つまり、移民の流入制限は認めない)だけに、英国のアクセス権維持を危ぶむ声もある。こうした不確定要素が存在する中、・・・

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2017/01/10 EU離脱の英国における日本企業の意外な動き(会員限定)

英国のEU離脱、トランプ政権の誕生と、保守主義の台頭を象徴する2つの出来事は日本企業の海外投資にも大きな影響を与える可能性がある。トランプ氏関連では、既にメキシコへの投資を躊躇する日本企業も出始めており、今後は米国での雇用確保を意識せざるを得なくなるかもしれない。一方、英国については意外な動きが出ている。

英国がEUを離脱することとなった最大の理由の一つが移民の流入だが、これに対しEU側は、英国がEU単一市場へのアクセス権を維持するためにはヒト・モノ・資本の移動の自由の原則の遵守が必要との方針を示している(つまり、移民の流入制限は認めない)だけに、英国のアクセス権維持を危ぶむ声もある。こうした不確定要素が存在する中、日本企業による英国への投資は減少してもおかしくないところだが、2016年における日本企業による英国企業のM&Aが前年と比べて+250%、金額にして3,350億ドル(約39兆円)と、すさまじい伸びを見せている。トップとなった 米国の6,930億ドルには及ばないものの、3位のオーストラリアの1,590億ドル、 4位のドイツの1,540億ドル、5位の中国の760億ドルを大きく引き離している。

EU離脱の国民投票後に実施された日本企業による英国企業のM&Aというと、7月のソフトバンクによる半導体大手のアーム社の買収(買収金額約3兆3,000 億円。日本企業による海外M&Aでは過去最大規模)が思い浮かぶところだが(2016年8月2日のニュース「創業経営者と雇われ経営者」参照)、このほかにも、11 月には英国やEU諸国で和食ブームが起こる中、日本米や和牛をはじめとするや日本産の農畜産品の販売を拡大したいJA全農と農林中央金庫が、ロンドンの高級レストランなど2,500以上を顧客に持つ食品卸会社SFGホールディングスを100%子会社化している(買収額は非公開)。また、12月には、国内市場の縮小を受け、海外売上比率を伸ばしたい永谷園HDが産業革新機構と共同で、フリーズドライ食品を製造・販売するブルームコ社を、永谷園の海外M&Aとしては過去最高額となる約150億円で買収することを発表している。

日本企業による英国企業のM&Aが急増している背景にあるのが、英国のEU離脱によって同国の不透明感が増すのとともに進行するポンド安だ。M&Aに積極的な日本企業にとって、英国は非常に魅力的な投資先と映っており、離脱交渉の行方がはっきりしない中でポンド安が継続するうちに同国への投資を実施することを検討しているところが少なくない。

英国のメイ首相は、離脱交渉の概要を今年(2017年)の早い時期に公表するとしているが、離脱交渉は最低でも18か月を要するという。こうしているうちにも、自動車、バイオテクノロジー、保険などの分野でM&A案件が進行している。しばらくの間は日本企業によるM&Aがさらに加速することになりそうだ。

2017/01/09 【特集】長文式監査報告書が企業に与える影響(3・会員限定)

4.投資家の評価

では、このような長文式監査報告書を投資家はどう見ているのだろうか。投資家は当初、監査意見が明確さを欠くことになるのではないかとの懸念を抱いていた。具体的には、会計監査人が後から監査をきちんと行ったのかとの追求を受けないよう意図的にあれこれコメントをしておくことができるのではないか、というものだ。しかし、この点についても、上述のとおり記載される内容は事前に監査委員会とディスカッションされるということで、関係者の納得が得られた。

ただ、英国の監査基準には、国際監査基準より厳しい追加要件があり、会計監査人はマテリアリティ(一定の金額以上の間違いがあった場合、投資家の意思決定に影響があるとして監査意見への反映が求められることとなる当該金額)の開示も求められている。この開示が新しい監査報告書で行われるようになってから、投資家と監査人で想定するマテリアリティが異なることが認識されてきた。こうした中、導入2年目以降は会計監査人と投資家がラウンドテーブルなどでどのような開示が望ましいか議論をするようになっている。そこで出た意見は企業の投資家との対話においても有益と考えられる。

英国では長文式監査報告書が導入されてから3年目となるが、「エンゲージメントに活用できる」など引き続き投資家の評価は高い。それ以上に投資家に恩恵をもたらしたのは、実は長文式監査報告書の導入議論において、当局や監査法人が投資家の意見に真摯に耳を傾けたことだという。長文式監査報告書導入の元々の目的であった財務諸表、企業開示の信頼性向上を達成するうえでは、導入議論を通して投資家とのコミュニケーションが高まったことは極めて重要と言えよう。特に財務諸表を信頼して投資すべきというスタンスをとっている投資家はこの新しい監査報告書を支持している。

5.今後の日本で起こることは?

日本の監査基準も基本的に国際監査基準に準拠している。また、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードが導入され、投資家との対話の強化も求められている。英国に続きEUや米国でも長文式監査報告書が導入されていく中で、今後海外の投資家は当然ながら日本に対しても早期対応を求めてくるのではないだろうか。

ただ、日本で長文式監査報告書を導入する場合、企業との関係でいくつか課題がある。

最大の懸念は、会計監査人と監査委員会あるいは監査役との対話の時間を確保できるのかという点だ。これは、日本は期末から株主総会が開催されるまでの期間が先進諸国の中で最も短いためである。また、会社法と金商法それぞれに基づく2つの開示書類(計算書類、有価証券報告書)に対し2度監査が行われているという問題もある。おそらく、日本で長文式監査報告書が導入されるとしても金商法、すなわち有価証券報告書のみを対象とするのが適切ではないかと思われるが、有価証券報告書は株主総会より後に提出されるため、例えば内部統制に関わるような重要な事項が議決権行使より後に長文式監査報告書に記載されても、意味がないと指摘されるかもしれない。

次に企業開示とのバランスの問題がある。監査報告書で指摘される内容は企業開示においても十分に記載される必要があり、監査報告書が企業開示を上回るようなことは起こるべきではない。国際監査基準では、監査人が企業開示を上回る説明を行うことを禁止はしていないが、日本で長文式監査報告書が導入される際には、英国のように、監査報告書で指摘された事項の詳細は本体である有価証券報告書の記載を参照する方式とすることが望ましいのではないだろうか。日本でも、有価証券報告書において求められたフォーマット以上の開示を行うことは妨げられてはいないが、一部の関係者には、有価証券報告書では最低限の開示にとどめ、これを超える開示は他の任意開示書類で行えばよいという考え方がある。このため、日本で長文式監査報告書を導入する際には、有価証券報告書のあり方も見直す必要が出てくる可能性もある。

最後に言語の問題がある。せっかく長文式監査報告書を作成しても、それが日本語であれば海外の投資家は活用できない。英語による長文式監査報告書の作成も検討が必要かもしれない。

以上のような課題はあるが、海外投資家を含む投資家からの信頼を高めるためにも、国際的な監査基準に基づく新たな監査報告書の導入に向けた議論が日本でも一日も早く始まることが望まれる。