2016/09/14 「空売りファンド」のターゲットにならないために(会員限定)

米国の「空売りファンド」、グラウカス・リサーチ・グループ(以下、グラウカス)が伊藤忠商事(以下、伊藤忠)に対して仕掛けた「空売り」は失敗に終わったように見えるが、「空売りのポジションを取った後に不正会計の存在を主張するレポートを公表する」という日本企業にとっては馴染みのない手法によりキャピタルゲインを得ようとするグラウカスの手法に違和感・危機感を持った役員も多いのではないだろうか。

まずは本件の詳細な経緯を振り返ってみよう。

グラウカスは2016年7月27日、伊藤忠の株式を「強い売り」推奨とするレポートを公表した。これが“空売り騒動”の発端である。レポートでは、目標株価を2016年7月26日の終値1,262円の半値に相当する631円としたうえ、伊藤忠の“不正会計”も指摘した。これを受け、伊藤忠の株価は早くもレポート公表日の7月27日には年初来安値である1,136円まで落ち込んだ。ここまではグラウカスの目論見通りだったと言える。

グラウカスの目論見 : グラウカスは空売り(株式を証券会社から借りてきて売却)をしており、将来株式を買い戻して返す必要があるため、株価が下がれば下がるほど、グラウカスの利益は増えることになる。

しかし、それからひと月以上が経過し、伊藤忠の株価はレポート公表日前日の終値近辺の水準で推移している。この間におけるグラウカスと伊藤忠双方の主張をまとめると以下のとおりとなっている。グラウカスは3つの会計処理を問題視している(レポートは、こちらをクリックし、メールアドレスを入力後、3つのチェックボックスにチェックを入れ「continue」ボタンを押すことで閲覧可能になる)。

グラウカスの主張 具体的な内容
コロンビアで石炭事業を営むDrummond International, LLC(以下、ドラモンド JV)の株式の不適切な区分変更により 2015年3月期は利益が1,531億円過大であった IAS第28号では、被投資企業の議決権の 20%以上を保有していれば「重要な影響力」を有していると推定され、その投資は原則的に関連会社投資として扱わなければならない。
しかし、伊藤忠は2015年3月期において、ドラモンド JV に対する持分を「関連会社投資」から「一般投資」に区分変更した。グラウカスとしては、公表された情報を基に、「伊藤忠はドラモンド JV に対して重要な影響力を有している」(すなわち、区分変更せずに関連会社投資のままとするのが妥当)と分析している。
この区分変更は、損失認識を回避する手段であったのではないか。また、区分変更に伴う再評価でも減損損失を認識していないのはなぜか。グラウカスの計算によれば、伊藤忠は2015年3月期に少なくとも 1,531 億円の減損損失を計上するべきだった。
中国の国有企業 CITIC Ltd (以下、CITIC)への投資に持分法を適用すべきではない 伊藤忠は2015年1月20日、6,000億円を投じて香港証券取引所に上場している中国の国有企業CITICの株式 10%を取得する契約を締結した。CITICは中国政府が運営し、議決権の過半数を保有する企業である。そのため、グラウカスは「伊藤忠が CITICの戦略、 運営、方針決定に何らかの重要な影響力を及ぼし得る可能性は極めて低い」と考えている。伊藤忠は CITICへの投資を(持分法を適用することで)連結会計に取り込むべきではない。
中国の食品・流通大手の頂新に対する非支配株主持分の投資の区分変更により2015年3月期に計上した600億円の特別利益は不適切であった 伊藤忠は2010年以来、頂新の18.7%の持分を有していた。伊藤忠は、頂新株式を保有していたアサヒビールとのJV(ジョイントベンチャー)を解体後、保有実態にほとんど変化がなかったにもかかわらず、持分法投資から一般投資へ区分変更を行い、それにより非現金利益として600億円の特別利益を計上した。

IAS第28号 : 国際会計基準審議会(IASB)が定めた「関連会社及び共同支配企業に対する投資」についての会計基準。伊藤忠はIFRS採用企業のため、日本基準ではなくIASが適用される。
損失認識を回避 : 関連会社投資であれば、持分法が適用されるのが原則であり、投資先で利益が計上されればその利益に対する持分相当分を利益として計上し、投資先で損失が計上されればその損失に対する持分相当分を損失として計上しなければならない。一方、一般投資であれば、公正価値で測定されるため、持分法のように利益・損失の持分相当額が計上されるわけではない。
区分変更に伴う再評価 : 持分の投資区分を持分法適用関連会社から一般投資に変更する際には、持分を再評価し、投資額と再評価額が異なっていれば損益を認識しなければならない。
重要な影響力を及ぼし得る可能性 : グラウカスはレポートで「中国共産党が保有し、支配し、指導する企業に対して、伊藤忠が「重要な影響力」を有すると信じる人が果たしているだろうか?その答えは明らかに「ノー」であろうと、弊社は考える」と述べている。

このレポートに対して、伊藤忠はすぐに反論を開始した。

リリース日 タイトル 伊藤忠の反論の内容
2016年7月27日 当社の会計処理に関する一部報道について 当社は適切な会計処理を実施しており、当社の会計処理に関するグラウカスの調査レポートの見解は当社の見解とは全く異なるものである。当社の単体および連結財務諸表は有限責任監査法人トーマツによる監査を受けており、いずれも適正であるとの監査意見を取得している。
2016年7月27日 当社の会計処理に関する一部報道について(その2) <ドラモンド JVへの投資の投資区分の変更について>
2014年度にドラモンド JVが潜在的議決権を有する優先株式を発行した際に、ジョイントベンチャー契約の見直しが行われた。それに伴い、伊藤忠は同社の予算および設備投資等の重要な決議事項に対する承認権を有さないこととなり、営業および財務方針に重要な影響力を行使できなくなったため、同社の持分の区分を持分法投資から一般投資に変更した。
<CITICに関する連結処理>
伊藤忠は、2014年度にCITICを中心とする企業集団およびCPグループと共同で設立した事業会社(当社持株比率50%)を通じてCITICの議決権株式を20%保有していることから、持分法を適用している。
<頂新に関する会計処理>
伊藤忠は、2014年度に頂新の保有持分の一部売却を行うとともに、株主間協定書を改定した。これに伴い、伊藤忠の頂新に対する経営関与度合いが低下したため、頂新の持分の区分を持分法投資から一般投資に変更した。

これに対して、グラウカスは7月28日に「弊社はレポートの中で、伊藤忠の財務諸表と開示情報の44ページに及ぶ詳細な分析を示し、コーポ―レートガバナンスや会計方針を巡る複数の問題点を指摘している。同日、伊藤忠が発表した形式的な1 ページの通知はあまりに短く通り一遍のものであり、弊社のレポートが挙げた問題点に対する意味ある対応とはなっていない」とのコメントを公表した。

伊藤忠は、さらに8月1日に次のリリースを行った。

リリース日 タイトル 伊藤忠の反論の内容
2016年8月1日 当社の会計処理に関する一部報道について(その3) グラウカスは調査レポートで「(グラウカスは)伊藤忠に空売りポジションを保有しており、同社の株価が下落すれば相当の利益が実現する立場にあります」と表明している。すなわち、グラウカスは、空売りポジションを保有した後に、一方的に当社の企業価値が毀損しているとの独自の見解を表明し、株価の下落を実現させた後に、買い戻して「相当の利益が実現する」ことを目的としている。グラウカスは、「本レポート及びここに含まれる内容は全て Glaucus Research Group California, LLC の見解を表すものであり、事実の提示ではありません」とレポートに記載しているとおり、あくまでもグラウカスの独自見解に基づいて当社(伊藤忠)株式の売却を推奨しているものに過ぎない。投資家には、グラウカスの免責文言に十分に留意のうえ、また、グラウカスの投資手法を見極めたうえで、慎重な投資判断を行っていただくようお願いする。

伊藤忠の反論が功を奏し、同社の株価水準は日を追うごとに回復、2016年9月以降はレポート公表日前日の終値近辺の水準で推移している。グラウカスは問題追及のための第三者委員会の設置を求めているが、伊藤忠は設置不要と判断、グラウカスが仕掛けた議論は膠着状態に陥っている。

株価水準だけを見るとグラウカスの当初の目論見は失敗したかに見える。しかし、グラウカスの日本における知名度が大幅に高まったのは間違いない。今回の騒動は、空売りポジションを保有した後に「独自の見解」として会計不正を訴える同社の投資手法は倫理的に許されるのかといった議論も引き起こしたが、明確な規制がない以上、再び同様のことが発生しないとは限らない。

上場会社としては、グラウカスなどの空売りファンドから「次」のターゲットに選ばれないようにするには、会計処理の透明性の確保し、「減損の必要性がないこと」や「持分の区分変更」のように疑義を持たれそうな事項については、法定された開示事項以上に積極的なディスクロージャーを行い、投資家の不安を払しょくするように努める必要がある。

2016/09/13 配偶者控除廃止で給与体系の見直しも

所得税上の「配偶者控除」廃止の機運が高まっている。配偶者控除とは、文字通り「配偶者」のいる人の税負担を軽減する制度であり、配偶者(ここでは妻とする)の年間所得が38万円(給与収入ベースでは103万円。38万円とは、103万円から給与所得控除65万円を差し引いた額)以下であれば、夫の所得税の計算上、38万円が所得から控除されることになる。ここ数年、「女性活躍推進の障害」などとヤリ玉に挙げられてきた配偶者控除だが、毎年の税制改正(例年12月に内容が決定)に大きな影響力を持つ自民党税制調査会の会長(宮沢洋一 参議院議員・元経済産業大臣)も、配偶者控除を見直す方針を明らかにしており、いよいよ廃止が現実味を帯びてきたと言える。ちなみに、マスコミ等では配偶者控除にのみ言及していることが多いが、「配偶者特別控除」も廃止される方向だ。

税制改正の方向性を決める政府税制委調査会では以下の3つの案が出ているが、採用される可能性が高いのは・・・

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2016/09/13 配偶者控除廃止で給与体系の見直しも(会員限定)

所得税上の「配偶者控除」廃止の機運が高まっている。配偶者控除とは、文字通り「配偶者」のいる人の税負担を軽減する制度であり、配偶者(ここでは妻とする)の年間所得が38万円(給与収入ベースでは103万円。38万円とは、103万円から給与所得控除65万円を差し引いた額)以下であれば、夫の所得税の計算上、38万円が所得から控除されることになる。ここ数年、「女性活躍推進の障害」などとヤリ玉に挙げられてきた配偶者控除だが、毎年の税制改正(例年12月に内容が決定)に大きな影響力を持つ自民党税制調査会の会長(宮沢洋一 参議院議員・元経済産業大臣)も、配偶者控除を見直す方針を明らかにしており、いよいよ廃止が現実味を帯びてきたと言える。ちなみに、マスコミ等では配偶者控除にのみ言及していることが多いが、「配偶者特別控除」も廃止される方向だ。

配偶者特別控除 : 配偶者に年間38万円を超える所得(給与収入ベースでは103万円)があるため配偶者控除の適用が受けられない場合でも、激変緩和のため、配偶者の収入所得金額に応じて認められる所得控除のこと。所得が「38万円超40万円未満」であれば、配偶者控除と同じく38万円の控除が受けられる。配偶者特別控除額は所得の上昇とともに段階的に減少し、所得76万円以上でゼロとなる。

税制改正の方向性を決める政府税制委調査会では以下の3つの案が出ているが、採用される可能性が高いのはC案だ。

A案 単純に配偶者控除を廃止
B案 配偶者控除に代えて、配偶者の所得の計算において控除しきれなかった基礎控除を納税者本人に移転するための仕組み(いわゆる移転的基礎控除)の導入
C案 配偶者控除に代えて、諸控除のあり方を全体として改革する中で、夫婦世帯に対し配偶者の収入にかかわらず適用される新たな控除の創設

基礎控除 : 所得税の計算上、所得金額から差し引くことができる控除の一つ。「基礎」という名称のとおり、他の所得控除のように一定の要件に該当する場合に控除するというものではなく、一律に適用される。基礎控除の金額は38万円。

配偶者控除(および配偶者特別控除)の廃止というと、あくまで「従業員個人の所得税の話」と考える経営陣もいるかもしれないが、そうではない。現在、大部分の上場企業が「配偶者手当」を支給しているが、その支給基準として“税法基準”を採用しているケースが非常に多いからだ。

人事院がとりまとめた「民間給与の実態(平成27職種別民間給与実態調査の結果)」によると、配偶者手当(配偶者への家族手当)を支給する企業は、従業員数500人以上の企業で87.8%に上っており、そのうち88.8%の企業が「配偶者の収入による制限」を設けている。そして、「配偶者の収入による制限」を設けている企業の73.8%が収入制限の額を「103万円」に設定している(「3 手当の支給状況」の「表12 家族手当の支給状況 ア 家族手当の支給状況及び配偶者の収入による制限の状況」参照)。つまり、多くの企業が、所得税における配偶者控除と同じボーダーラインにより、配偶者手当を支給するか否かを決めているということだ。

こうした企業にあっては、配偶者控除の廃止に伴い、配偶者手当のあり方を再考する必要に迫られる可能性がある。「女性の活躍推進」という観点からすると、配偶者控除同様、配偶者手当を廃止するということも考えられるが、配偶者手当の廃止は賃金の引下げを意味する。女性の活躍推進と並び政府が推し進める「賃上げ」に反するだけでなく、そもそも労働組合の理解を得るのは容易ではないだろう。「女性活躍推進」という理屈だけで強引に配偶者手当廃止を実行すれば、従業員のモチベーション低下を招く恐れもある。

そのような事態を避けるためにも、配偶者手当に代わる新たな手当ての創設や、場合によっては給与体系の見直しにまで踏み込む必要が出て来る可能性もある。配偶者手当に関する方針を示すということは、自社の女性活躍に対する方針の一端を示すことに等しく、ダイバーシティに関心の高い投資家からの注目も集まりやすいだけに、慎重な検討が必要になろう。

2016/09/12 ヘッジファンドの投資戦略

経営陣にとって、自社の株価動向は気になるものだ。株価が大きく変動している場合には、その理由を把握するために証券会社に照会することもあろう。その場合、しばしば「外国人やヘッジファンドが買っている(売っている)」という回答が返ってくる。

ただ、このような回答は実質的に「理由は分かりません」と言っているに等しい。買手や売手の中に外国人やヘッジファンドがいるのは当然であり、そのこと自体は重要ではないからだ。重要なのは、「どのような戦略」のファンドが「何を目的に」売買をしているのかという点である。

ヘッジファンドの投資手法の1つに、2016年7月21日の新用語・難解用語辞典に掲載した(M&A、リストラなど個別企業の重要な「イベント」を投資機会ととらえる)イベントドリブン戦略があるが、これ以外にもヘッジファンドの典型的な投資手法として、「ロング・ショート」「グローバル・マクロ」「マネージド・フューチャーズ」などの戦略がある。それぞれについて簡潔に説明しよう。

ヘッジファンドの伝統的な投資手法と言えるのが・・・

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2016/09/12 ヘッジファンドの投資戦略(会員限定)

経営陣にとって、自社の株価動向は気になるものだ。株価が大きく変動している場合には、その理由を把握するために証券会社に照会することもあろう。その場合、しばしば「外国人やヘッジファンドが買っている(売っている)」という回答が返ってくる。

ただ、このような回答は実質的に「理由は分かりません」と言っているに等しい。買手や売手の中に外国人やヘッジファンドがいるのは当然であり、そのこと自体は重要ではないからだ。重要なのは、「どのような戦略」のファンドが「何を目的に」売買をしているのかという点である。

ヘッジファンドの投資手法の1つに、2016年7月21日の新用語・難解用語辞典に掲載した(M&A、リストラなど個別企業の重要な「イベント」を投資機会ととらえる)イベントドリブン戦略があるが、これ以外にもヘッジファンドの典型的な投資手法として、「ロング・ショート」「グローバル・マクロ」「マネージド・フューチャーズ」などの戦略がある。それぞれについて簡潔に説明しよう。

ヘッジファンドの伝統的な投資手法と言えるのが「ロング・ショート戦略」だ。ロングとは「株式の買い持ち」、ショートとは「信用取引などを利用した株式の空売り」のことを指す。買い持ち(ロング)と、空売り(ショート)を組み合わせることで、市場変動による影響を軽減しつつ、売りと買いの両面から投資収益の獲得を目指す戦略である。割安な銘柄を買い、割高な銘柄を売ることで、双方で収益機会があるだけでなく、市場全体の動向にも左右されにくくなり、安定的な運用が期待できる。なお、ロング・ショート戦略の中でも、ロングとショートを同程度保有し、マーケットの中でニュートラル(中立)な立場に身を置こうとする手法を、特に「マーケット・ニュートラル戦略」という場合がある。もっとも、これらの戦略の中でも実際の投資手法はまちまちであり、(1)定量的な分析により割高な銘柄群をパッケージで空売り(ショート)する一方、割安な銘柄群をパッケージで買い持ち(ロング)する手法や、(2)伝統的なファンダメンタルズ分析に基づき、個別にロングとショートそれぞれの対象銘柄を選定し、売買ポジションを管理する手法、(3)類似する企業で値動きも似ているところ(ペアー)を見つけ出し、両社の株価形成の歪みを投資機会とするペアーズなどの方法がある。

信用取引 : 株式自体や株式購入の資金を証券会社より借り入れて株の売買を行う投資手法のこと。現金や株式を担保として証券会社に預けることで、その担保の数倍の取引が可能となる。
ファンダメンタルズ : 売上高や利益などの業績や、資産・負債などの財務状況等、株式の本質的価値を決める指標

「グローバル・マクロ戦略」は、あのジョージ・ソロスが率いることで有名なクオンタム・ファンドも採用する手法である。具体的には、世界中の国や地域の経済状況や政治見通しなどを重視し、マクロ経済指数および金利、為替などの状況変化を狙って、世界中のあらゆる資産に投資機会を見出す戦略をとる。そのため、投資対象は、株式や債券などの伝統的な金融資産だけでなく、コモディティなど多岐にわたり、決まった型があるわけではない。また、個別企業に対しても、何らかのテーマに基づき物色の手を伸ばすことがある。

コモディティ : 原油・ガス、貴金属(金・銀・プラチナ)、軽金属(銅・アルミ)、穀物(小麦・大豆・とうもろこしなど)など商品先物取引所で取引されている商品のこと。

「マネージド・フューチャーズ戦略」は、「フューチャーズ(将来)」という名称のとおり、全世界の上場金融先物や商品先物、通貨先物に投資を行う戦略である。そして、多くのマネージド・フューチャーズ戦略では、高度なリスク管理を行いつつ、定量モデルを用いて、コンピューターによるアルゴリズム取引が中心となっている。これは市場全体には影響が大きい戦略であるが、個別企業は原則として投資対象にしていない。

金融先物 : 価格や数値が変動する各種金融商品や金利等について、ある価格で将来の売買取引を約定するもの。デリバティブ(金融派生商品)の一つ。
アルゴリズム取引 : コンピューターが、株価が割安と判断したタイミングで自動的に買い注文を出したり、自らの取引によって株価が乱高下しないように売買注文を分散したりするなど、株価や出来高などに応じて、自動的に株式売買注文のタイミングや数量を決めて注文を繰り返す取引のこと。

自社の株価の日々の値動きについて、どのような戦略のファンドが何を目的に売買をしているのかという情報が得られることはなく、企業がすべき特段の対応もあるわけではないが、株主名簿などにより株主構成の変化が確認された場合や株主との対話を行う際には、ヘッジファンドの特徴を事前に把握しておくことが重要になろう。

2016/09/09 ストック・オプションか?リストリクテッド・ストックか?

会社法上の解釈の明確化()と税務上の取扱いの整備により実現したリストリクテッド・ストックストック(譲渡制限付株式報酬)だが、報酬債権を「株式」の対価と位置付けるリストリクテッド・ストックと、「オプション」の対価と位置付けるストック・オプションには本質的には“似た者同士”と言える。

リストリクテッド・ストックストック(譲渡制限付株式報酬) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬

 「会社法上の解釈の明確化」とは、株式の発行は金銭等の「払込み」を前提とするという会社法の規定(199条①二~四)をクリアするため、「役員に付与した金銭報酬債権を現物出資財産として払い込んだ上で、役員に対して株式を発行するスキーム」を経済産業省が考案し、法務省の了承を得たことを指す(2015年12月2日のニュース「日本で株式報酬を支給できない理由」参照)。

「税務上の取扱いの整備」とは、(1)「平成28年度税制改正で、法人税法上、リストリクテッド・ストックを損金算入が認められる「事前確定届出給与」の1つと位置付け、損金算入の対象にするとともに、(2)役員等への所得税については、譲渡制限期間中は株式の処分ができないことを踏まえ、株式の交付日ではなく、譲渡制限解除日において、株式の譲渡制限が解除された時点における株式の時価を課税対象とすることが明確化されたことを指す。

事前確定届出給与 : ‘いつ、いくら(確定額)を支給する」旨を“事前に”確定した上で税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの。ただし、リストリクテッド・ストックについては特例的に届出は不要とされている。

では、インセンティブ型の役員報酬として、リストリクテッド・ストックとストック・オプションのどちらを採用すべきだろうか?・・・

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2016/09/09 ストック・オプションか?リストリクテッド・ストックか?(会員限定)

会社法上の解釈の明確化()と税務上の取扱いの整備により実現したリストリクテッド・ストックストック(譲渡制限付株式報酬)だが、報酬債権を「株式」の対価と位置付けるリストリクテッド・ストックと、「オプション」の対価と位置付けるストック・オプションには本質的には“似た者同士”と言える。

リストリクテッド・ストックストック(譲渡制限付株式報酬) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬

 「会社法上の解釈の明確化」とは、株式の発行は金銭等の「払込み」を前提とするという会社法の規定(199条①二~四)をクリアするため、「役員に付与した金銭報酬債権を現物出資財産として払い込んだ上で、役員に対して株式を発行するスキーム」を経済産業省が考案し、法務省の了承を得たことを指す(2015年12月2日のニュース「日本で株式報酬を支給できない理由」参照)。

「税務上の取扱いの整備」とは、(1)「平成28年度税制改正で、法人税法上、リストリクテッド・ストックを損金算入が認められる「事前確定届出給与」の1つと位置付け、損金算入の対象にするとともに、(2)役員等への所得税については、譲渡制限期間中は株式の処分ができないことを踏まえ、株式の交付日ではなく、譲渡制限解除日において、株式の譲渡制限が解除された時点における株式の時価を課税対象とすることが明確化されたことを指す。

事前確定届出給与 : ‘いつ、いくら(確定額)を支給する」旨を“事前に”確定した上で税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの。ただし、リストリクテッド・ストックについては特例的に届出は不要とされている。

では、インセンティブ型の役員報酬として、リストリクテッド・ストックとストック・オプションのどちらを採用すべきだろうか?

結論から言うと、今後はリストリクテッド・ストックを採用する企業が大幅に増えることが予想される。6月の株主総会で導入した企業は少数にとどまったリストリクテッド・ストックだが、そのように予想する理由は2つある。

1つは、既に2016年8月29日のニュース「社外取に付与も リストリクテッド・ストックの導入事例」でお伝えしたとおり、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正(2016年8月19日付)により、リストリクテッド・ストックの付与に伴う開示が不要になったことがある(従来は、第三者割当の一種として、割当予定先である役員等の一人ひとりの金銭債権(報酬)額や役員個人の住所(市区町村まで)など付与内容の詳細を「第三者割当の場合の特記事項」に記載しなければならなかった)。

もう1つが、ストック・オプションの課税関係が見直される可能性が出てきたということだ。この点はまだ新聞等でも一切報じられていないが、上場会社役員ガバナンスフォーラムの取材によると、上述のとおりストック・オプションとリストリクテッド・ストックはその性質が類似していることから、平成29年度税制改正(例年、12月中旬に内容が決定)で両者の課税関係を統一しようという動きがあることが判明している。

では、両者の課税関係を統一した場合、どのような影響があるのだろうか。

法人税法上、役員報酬を損金算入するためには、役員報酬が「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」のいずれかに該当する必要があるが(法人税法34条)、ストック・オプションはこの法人税法34条の適用対象外となっている(現在は、ストック・オプションは、ストック・オプションを付与された者(役職員等)において所得税が課税された場合(=税制適格ストック・オプションに該当しなかった場合)のみ、企業は損金算入ができることになっている)。これに対し、リストリクテッド・ストックは「事前確定届出給与」に該当すれば損金算入が可能であることは上述の通りだ。

定期同額給与 : 役員給与の支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、かつ、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
事前確定届出給与 : いつ、いくら(確定額)を支給する」旨を“事前に”確定した上で税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの。ただし、リストリクテッド・ストックについては特例的に届出は不要とされている。
利益連動給与 : その事業年度の利益に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの
税制適格ストック・オプション : 税法が求める要件を満たすことで、権利行使によって株式を取得した時点で生じている含み益(権利行使時の株式の時価-株式の取得価格)への課税が、実際に株式を売却する時点まで繰り延べられる(=株式を購入しただけで課税されるという状況を避けられる)ストック・オプションのこと。具体的な要件としては、無償発行、権利行使期間が「株主総会での発行決議の2年後~10年後までの最大8年間」、行使価格が発行時の時価以上、権利行使金額が「年間1,200万円まで」などがある。

両者の課税関係を統一するということは、ストック・オプションも「事前確定届出給与」に該当しない限り損金算入を認めない、ということになる可能性がある。すなわち、たとえストック・オプションを付与された者に所得税が課税されたとしても、現在のように無条件に損金算入が認められなくなるということだ。損金算入のためには、リストリクテッド・ストックと同様、「いつ」「いくら」支給するのかといったことを“事前に”確定するなど事前確定届出給与の要件を満たす必要がある。そうなれば、ストック・オプションは現在よりも使い勝手が悪くなる恐れがある。結果として、リストリクテッド・ストックの採用に動く企業が増加する可能性があろう。

一方、所得税の課税関係については、リストリクテッド・ストックがストック・オプションに合わせることになりそうだ。すなわち、ストック・オプション同様、リストリクテッド・ストックにも「税制適格要件」を設けることが検討されるものとみられる。そうなれば、税制適格要件を満たすリストリクテッド・ストックであれば、役職員等は所得税の課税を回避できることになる。ただし、役職員等において所得税の課税が行われないとなると、上述した現在のストック・オプションの取扱いと同様、企業側でも損金算入ができなくなるだろう。

なお、平成29年度税制改正で議論されるのは無償ストック・オプションであり、有償ストック・オプションが議論の俎上に上ることはない。ただ、有償ストック・オプションについては会計上の取扱いが変わり、今後は損益計上が求められる方向であることから(2016年8月30日のニュース「有償ストック・オプション、駆け込み導入が相次ぐ可能性も」参照)、新たに導入する企業は減少していくことが予想される。

2016/09/08 (新用語・難解用語)信頼の原則

変化の早い時代、取締役は事業の転換や新規事業のための大型投資、M&Aなど重要な経営判断を迫られることが多い。それとともに、取締役の「リスク」も高まっている。

周知のとおり、取締役は会社との委任関係に基づいて「善良な管理者の注意」をもって職務を遂行する義務(善管注意義務)を負っており(会社法330条、民法644条)、それを怠って会社に損害が生じた場合には、これを賠償する責任を負うことになる(会社法423条1項 )。

 なお、会社法では、取締役に対し「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行なう義務」(忠実義務)を求めているが(会社法355条)、忠実義務とは「善管注意義務を明確化したもの」と考えればよい。

取締役が善管注意義務違反に問われるケースとしては、主に・・・

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2016/09/08 (新用語・難解用語)信頼の原則(会員限定)

変化の早い時代、取締役は事業の転換や新規事業のための大型投資、M&Aなど重要な経営判断を迫られることが多い。それとともに、取締役の「リスク」も高まっている。

周知のとおり、取締役は会社との委任関係に基づいて「善良な管理者の注意」をもって職務を遂行する義務(善管注意義務)を負っており(会社法330条、民法644条)、それを怠って会社に損害が生じた場合には、これを賠償する責任を負うことになる(会社法423条1項 )。

 なお、会社法では、取締役に対し「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行なう義務」(忠実義務)を求めているが(会社法355条)、忠実義務とは「善管注意義務を明確化したもの」と考えればよい。

取締役が善管注意義務違反に問われるケースとしては、主に(1)取締役自身の業務執行に関する判断に誤りがあった場合、(2)他の取締役・使用人の業務執行に対する監視・監督等を怠った場合--の2つ(要するに、「自分の判断ミス」か「他者の監視・監督漏れ」)がある。

この善管注意義務違反を回避するための考え方として知られているのが「経営判断の原則」だ。経営判断の原則とは、「会社が損害を受けたとしても、取締役の意思決定の過程と内容に著しく不合理な点がない限り、取締役の善管注意義務違反を問わない」という考え方であり、経営判断の原則に従っていたかどうかは、具体的には、(ⅰ)事前に十分な調査・研究および情報収集を行なったか(=専門家の意見を聞いたり、広範囲に情報を集めて市場の状況を確認したりしたか)、(ⅱ)経営判断に際して、取締役会等で十分な検討を行なったか、(ⅲ)通常の経営者としての合理的な判断を行なったか――の3点から判定されることになる。これら3つに従っていたと認定されれば、仮に取締役の経営判断によって会社に損害が生じたとしても、取締役は損害賠償責任を免れることができる。

もっとも、経営判断の原則は上記(1)の「自分の判断ミス」の有無を判断する際に有用な考え方であり、(2)の「他者の監視・監督漏れ」の有無の判断には適していない。

この(2)の有無を判断するのに有用なのが、「信頼の原則」だ。「信頼の原則」とは、「リスク管理等に関する体制」が十分に整備されている場合には、他の取締役・使用人の業務活動に問題のあることを知っている(または知ることが可能)などの“特段の事情”があり、これを看過した場合でない限り、善管注意義務違反は認められないとするもの。信頼の原則は、ヤクルト本社事件の判決(東京地判平成16年12月16日、東京高判平成20年5月21日)や、大和銀行事件の判決(大阪地判平成12年9月20日)で示されたものであり、判例として確立している。

ヤクルト本社事件 : 資金運用業務の担当取締役の指示の下で投機性の高いデリバティブ取引を行い、会社に約533億2046万円の損失を被らせたことで、株主が取締役らに損害賠償を求めた事件
大和銀行事件 : 大和証券ニューヨーク支店の従業員が11年間にわたり不正な取引及び証券保管業務を行い、同社に約11億ドルの損害を与えたうえ、これを米国当局に対し隠蔽したことなどから刑事訴追を受け、罰金3億4000万ドルを支払うとともに米国からの撤退を余儀なくされたことで、株主が取締役らに対し損害賠償を求めた事件

なお、信頼の原則は上記(1)に対しても適用が可能。この場合、「情報収集・調査・検討等に関する体制」が十分に整備されている場合には、当該業務を担当する取締役・使用人が行った情報収集・調査・分析等の結果に依拠して意思決定を行うことに当然に躊躇を覚えるような不備・不足があるなどの特段の事情がない限り、当該結果に依拠して意思決定を行えば、善管注意義務違反に問われることはないとされている(【失敗学第26回】HOYAの事例 参照)。こちらも、過去の裁判例(東京地判平成14年4月25日(長銀初島事件)、東京地判平成16年12月16日、東京高判平成20年5月21日(ヤクルト本社事件)など)で示された確立した考え方となっている。

2016/09/07 株主還元と成長投資は両立するか?

総還元性向100%という従前の方針を撤回し、年間投資5割増という積極的な投資計画を打ち出した金属加工機械大手のアマダホールディングス(アマダHD)の株価が昨日(2016年9月6日)5%超下落した。同社は引き続き配当性向50%程度という日本企業にしては高い株主還元の水準を維持する方針を明らかにしたにもかかわらず、株式市場の反応は総じてネガティブなものとなった。

総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。
配当性向 : ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。

これは、市場は成長のための投資よりも株主還元の方を評価するということだろうか?

まず注目したいのは、・・・

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