2016/09/07 株主還元と成長投資は両立するか?(会員限定)

総還元性向100%という従前の方針を撤回し、年間投資5割増という積極的な投資計画を打ち出した金属加工機械大手のアマダホールディングス(アマダHD)の株価が昨日(2016年9月6日)5%超下落した。同社は引き続き配当性向50%程度という日本企業にしては高い株主還元の水準を維持する方針を明らかにしたにもかかわらず、株式市場の反応は総じてネガティブなものとなった。

総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。
配当性向 : ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。

これは、市場は成長のための投資よりも株主還元の方を評価するということだろうか?

まず注目したいのは、同社は専ら「フロー(期間の損益状況)」をベースに株主還元を考えているという点だ。総還元性向にしても配当性向にしても、「毎期稼いだ利益のうち何%を株主に還元するか」というフロー・ベースの指標であることには変わりない。同社の2016年3月期の当期純利益274億円に対し総還元性向の実績は82%、すなわち株主還元は225億円(自己株式の取得100億円を含む)ということになる。

このように同社は稼いだ利益の大半を株主に還元している状態であり、この点だけに注目すると、同社はこれまで株主還元を優先し、将来の成長に必要な投資を抑制してきたように見える。しかし、同社のストック(特定時点での財産状況)、すなわち貸借対照表(B/S)を分析すると、違うものが見えてくる。

2016年3月期末時点の同社のB/Sには、手元の金融資産として、現預金794億円と有価証券および投資有価証券933億円の合計1,727億円が計上されている。さらに、賃貸用資産(主にショッピング・モール)として101億円が計上されているが、こちらは処分したところで、製造業を営む同社の事業に差し支えないだろう。

有価証券および投資有価証券 : ここでは時価のある有価証券(流動資産)と投資有価証券(固定資産)に限定している。金額は連結貸借対照表の金融商品関係の注記より引用。

同社の売上は直近実績で3,040億円、2020年度の目標でも4,000億円だから、運転資金は多く見積もっても売上の2か月分に相当する667億円(=4,000億円×2/12)あれば十分とみられる。また、同社は今後5年間で設備およびM&A投資合計で1,000億円を見込んでいるが、この規模であれば、1,700億円を超える手元の金融資産(現預金、(投資)有価証券)だけでも十分まかなえてしまう。

運転資金 : 商品仕入れや人件費・経費の支払いなどに必要な資金のこと。在庫の回転に時間がかかればかかるほど、また買掛金の決済時期より売掛金の決済時期の方が遅ければ遅いほど運転資金が必要になる。また、一般的には入金よりも支払いが先行することから、事業拡大期には運転資金の必要額が増える。「在庫回転期間」「売掛金と買掛金の決済時期のずれ」「現金支払い」「売掛金の入金遅れのリスク」を考慮すると、売上の2か月分に相当する運転資金があれば安心と言える。

このように見ていくと、同社が期間中に稼ぐ当期純利益を全て還元に充当すること、すなわち「総還元性向100%」を維持することと、同社の成長投資重視の事業計画は十分に両立可能であることが分かる。すなわち、「株主還元か成長投資か」という“二者択一”の議論は不毛だということだ。特にアマダHDのように金融資産や不動産を多く抱える企業では、株主還元額は、「(事業に直接貢献しない)金融資産や不動産等のストックと今後稼ぐ利益(より正確にはキャッシュフロー)の合計値」から「将来に向けた成長のための投資金額」を差し引いて算出するのが基本。株主還元の方針は、「フロー」だけでなく「ストック」も合わせて考える必要があるということだ。

2016/09/06 指名(諮問)委員会の盲点

これまで日本企業では、現社長が自分に対し従順な者を次期社長にし、自らは会長となり、“院政”を敷くというケースが少なからず見られた。こうした中、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社で設置が相次いでいるのが「任意の指名委員会」だ。監査役会設置会社や監査等委員会設置会社における指名(諮問)委員会は、指名委員会等設置会社における指名委員会と違って法律(会社法)により設置が要求される委員会ではなく、あくまで企業が任意に設置するものに過ぎない。当然ながら、任意の指名委員会の権限も法定されているわけではないため、各社の任意の指名委員会を見ると、取締役会に単なる助言をするだけの権限しか持たないところから、取締役会が社長の選任および解任について指名委員会の決定と異なる意思決定をする場合は外部にその理由を開示する旨の社内規定を設けているところまで様々だ。

いずれにせよ投資家からすれば、任意の指名委員会の設置は、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社における社長の選任が従来よりも透明性の高いものとなることが期待される歓迎すべきコーポレートガバナンス向上策と言える。

ただ、実際に任意の指名委員会がそのような機能を果たせているとは言い切れないのが現状だろう。

任意の指名委員会を実効性のあるものとするうえで最も重要なのは、・・・

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2016/09/06 指名(諮問)委員会の盲点(会員限定)

これまで日本企業では、現社長が自分に対し従順な者を次期社長にし、自らは会長となり、“院政”を敷くというケースが少なからず見られた。こうした中、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社で設置が相次いでいるのが「任意の指名委員会」だ。監査役会設置会社や監査等委員会設置会社における指名(諮問)委員会は、指名委員会等設置会社における指名委員会と違って法律(会社法)により設置が要求される委員会ではなく、あくまで企業が任意に設置するものに過ぎない。当然ながら、任意の指名委員会の権限も法定されているわけではないため、各社の任意の指名委員会を見ると、取締役会に単なる助言をするだけの権限しか持たないところから、取締役会が社長の選任および解任について指名委員会の決定と異なる意思決定をする場合は外部にその理由を開示する旨の社内規定を設けているところまで様々だ。

いずれにせよ投資家からすれば、任意の指名委員会の設置は、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社における社長の選任が従来よりも透明性の高いものとなることが期待される歓迎すべきコーポレートガバナンス向上策と言える。

ただ、実際に任意の指名委員会がそのような機能を果たせているとは言い切れないのが現状だろう。

任意の指名委員会を実効性のあるものとするうえで最も重要なのは、指名委員会の委員長が「誰」になるのかということだ。指名委員会等設置会社では、指名委員会の過半数は社外取締役でなければならないとされているが(会社法400条3項)、「委員長」は社外取締役に限られていない。さすがに、最近は指名委員会の委員長に「現社長」がなることはほとんどないだろうが、社内取締役であり「前社長」でもある会長が委員長になっているケースは見受けられる。会社法上の機関である指名委員会等設置会社でもこのような状況であることから、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社が、任意の機関である指名(諮問)委員会の委員長を社外取締役としているケースは少ないだろう。しかし、これはコーポレートガバナンス上、大きな問題を引き起こすことになる。

前社長である会長は、全ての実権が現社長に移ることを良しとしない場合がある。また、会長からすると、会長が進めてきた経営方針を現社長が転換することを面白くないと感じることもあろう。このような場合、遅かれ早かれ、会長と社長の関係が悪化することが予想される。そうなると、任意の指名委員会の委員長である会長は、「できるだけ現社長を短期で退任させ、自分が影響力を発揮できる者を後任の社長にしたい」という誘惑にかられやすい。そこまではしないにしても、会長が指名権を握ることでその影響力が高まり、“院政”につながる可能性もある。

こうした問題を避けるためには、任意の指名委員会の委員長には社外取締役が就くのが最も効果的だ。あるいは、より根本的な解決を目指すのであれば、任意の指名委員会に諮問をする取締役会の議長を社外取締役に担ってもらうべきだろう。

2016/09/05 ダイバーシティ1.0と2.0の違い

この数年間、政府は企業における「ダイバーシティ」を実現するための政策を次々と打ち出してきた。その結果、上場企業の経営陣にもダイバーシティの必要性はかなり浸透しつつあるものの、ダイバーシティがもたらす経営上のメリットを心の底から実感する段階には未だ至っていないのが実情だろう。

政府がこれまでに打ち出した主な“ダイバーシティ政策”をおさらいすると――
2015年10月には「女性活躍推進法」が施行され、2016年4月以降、301人以上の労働者を雇用する企業は、①自社の女性の活躍状況の把握・課題分析、②行動計画の策定・届出、③情報公表などを行う必要が生じている(労働者が300人以下の企業は努力義務)。また、開示府令の改正により、2015年3月期の有価証券報告書からは女性役員の人数や比率の開示が求められ(開示府令の改正はこちらを参照)、2016年2月には厚生労働省が女性の活躍推進企業のデータベースの稼働を開始している。

さらに、コーポレートガバナンス・コードでも、ダイバーシティの代わりに「多様性」という言葉を使い、下記の事項について上場企業にコンプライorエクスプレインを求めている。

【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。

【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、財務・会計に関する適切な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。

【補充原則 4-11①】
取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。

男性を中心とする均質的な組織の中からは企業価値の向上につながるイノベーションや斬新な経営戦略・商品が生まれにくく、長期的には企業そのものを衰退させかねないという政府の危機感は理解できるが、政府が企業に“要請”する形でダイバーシティの実現を図ろうとしたことで、多くの日本企業にとって、「ダイバーシティ」は政府からの要請に受身的・形式的に対応するだけのミッションになってしまっている感があるのは否定できない。

そのような問題意識の下、・・・

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2016/09/05 ダイバーシティ1.0と2.0の違い(会員限定)

この数年間、政府は企業における「ダイバーシティ」を実現するための政策を次々と打ち出してきた。その結果、上場企業の経営陣にもダイバーシティの必要性はかなり浸透しつつあるものの、ダイバーシティがもたらす経営上のメリットを心の底から実感する段階には未だ至っていないのが実情だろう。

政府がこれまでに打ち出した主な“ダイバーシティ政策”をおさらいすると――
2015年10月には「女性活躍推進法」が施行され、2016年4月以降、301人以上の労働者を雇用する企業は、①自社の女性の活躍状況の把握・課題分析、②行動計画の策定・届出、③情報公表などを行う必要が生じている(労働者が300人以下の企業は努力義務)。また、開示府令の改正により、2015年3月期の有価証券報告書からは女性役員の人数や比率の開示が求められ(開示府令の改正はこちらを参照)、2016年2月には厚生労働省が女性の活躍推進企業のデータベースの稼働を開始している。

さらに、コーポレートガバナンス・コードでも、ダイバーシティの代わりに「多様性」という言葉を使い、下記の事項について上場企業にコンプライorエクスプレインを求めている。

【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。

【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、財務・会計に関する適切な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。

【補充原則 4-11①】
取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。

男性を中心とする均質的な組織の中からは企業価値の向上につながるイノベーションや斬新な経営戦略・商品が生まれにくく、長期的には企業そのものを衰退させかねないという政府の危機感は理解できるが、政府が企業に“要請”する形でダイバーシティの実現を図ろうとしたことで、多くの日本企業にとって、「ダイバーシティ」は政府からの要請に受身的・形式的に対応するだけのミッションになってしまっている感があるのは否定できない。

そのような問題意識の下、このほど経済産業省が設置したのが、「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」(以下、ダイバーシティ2.0検討会)だ(座長は北川哲雄 青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 教授)。

8月19日に開催された第1回のダイバーシティ2.0検討会では、ダイバーシティの形式を整えるだけの受身型のダイバーシティを“ダイバーシティ1.0”と位置付けたうえで、ダイバーシティ1.0には企業価値向上に直結しないという「限界」があるとし、それを乗り越えるための方策として“ダイバーシティ2.0”の検討を開始している。

ダイバーシティ2.0とダイバーシティ1.0の最大の違いは、受身型のダイバーシティ1.0に対し、ダイバーシティ2.0では、ダイバーシティを「経営戦略」の一部ととらえるということだ。すなわち、ダイバーシティは「ガバナンスの強化」や「イノベーションの創出」といった経営課題を解決するための方策として、経営戦略の中に組み込まれることになる。

このようして立てた経営戦略(Plan)は、経営者の強力なリーダーシップの下で実行(Do)された後、定期的にその効果(ダイバーシティの効果)を測定・検証(Check)され、Checkの結果、改善が必要であれば改善を施す(Action)というPDCAサイクルによって運用されることになる。

PDCAサイクル : Plan→Do→Check→Actionのサイクルを繰り返しながら、目標を実現する手法。サイクル内に、軌道を修正したり、場合によっては目標を変更したりする仕組みを内包しており、状況変化に応じて迅速に対応することが可能となる。

また、第1回の検討会では、企業内でPDCAサイクルを回すだけでなく、投資家をはじめとする「企業外」のステークホルダーに対してもダイバーシティ経営への取組みと成果に関する情報を開示・発信してこれを対話のテーマとし、対話の結果を経営にフィードバックすることで、更なるリスクマネーの獲得や、優秀な人材の獲得・引き留めにつなげるというように、「ステークホルダーを巻込んだダイバーシティ経営」が提案されている。

経済産業省はダイバーシティ2.0検討会を今後月に1回のペースで開催し、2017年2月頃に“ダイバーシティ2.0”に関する報告書や行動指針を公表する予定。今後開催される検討会では、これまでのダイバーシティへの評価のほか、多様性の中身、ダイバーシティ2.0を実現するための改革(企業ミッション、人材戦略、組織改革、業務改革等)が及ぶ範囲、ダイバーシティ2.0を実現する上でのボトルネックやそれを乗り越えるための方策などが検討されるという。ここで検討された内容が、ダイバーシティをいかに企業価値向上につなげるかという経営陣の悩みを解決するものとなることが期待されるところだ。

2016/09/02 開示内容と実効性のギャップ

コーポレートガバナンス・コードの原則3-1<情報開示の充実>の(V)では、取締役会に「経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明」を求めている。各社の社外取締役の選任議案を見ると、候補者の経験や知識が記載されているケースが多いが、同当該原則への対応としては、このような開示内容で問題ないだろう。

ただ、機関投資家がそれで満足するとは限らない。

機関投資家は独立性の高い社外取締役の設置・増員を要求する一方で、その「実効性」にも高い関心を持っているからだ。企業としては、機関投資家が対話の際にコーポレートガバナンス・コードの要求を超える問い掛けをしてくる可能性を想定しておく必要がある。

実際、機関投資家から・・・

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2016/09/02 開示内容と実効性のギャップ(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードの原則3-1<情報開示の充実>の(V)では、取締役会に「経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明」を求めている。各社の社外取締役の選任議案を見ると、候補者の経験や知識が記載されているケースが多いが、同当該原則への対応としては、このような開示内容で問題ないだろう。

ただ、機関投資家がそれで満足するとは限らない。

機関投資家は独立性の高い社外取締役の設置・増員を要求する一方で、その「実効性」にも高い関心を持っているからだ。企業としては、機関投資家が対話の際にコーポレートガバナンス・コードの要求を超える問い掛けをしてくる可能性を想定しておく必要がある。

実際、機関投資家から「貴社の中長期的な企業価値向上に向けた課題を踏まえ、その候補者が最適である理由」の説明を求められた場合に、答えられる企業がどれほどあるだろうか。例えば、資本政策に課題のある企業とコンプライアンスに課題のある企業では社外取締役に求められる資質は異なり、それぞれに最適な社外取締役の人選も変わってくるはずだ。また、このような人選は、「取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス」を求めるコーポレートガバナンス・コード補充原則4-11①をコンプライすることにもつながる。

補充原則4-11①
取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。

各社のコーポレートガバナンス報告書を見ると、あくまでコーポレートガバナンス・コードの要求の範囲内での開示にとどまっているケースが少なくないが、3月決算企業をはじめ大部分の上場企業が2回目のコーポレートガバナンス報告書の提出を終え、現在、ボールは機関投資家側にある状態と言える。今後は機関投資家からその内容について対話を求められるケースが増えてくることが予想されるが、機関投資家が高い関心を持つ社外取締役の実効性は対話のテーマとなる可能性が高いので、企業としてはしっかり準備しておきたいところだ。

2016/09/01 (新用語・難解用語)UK Modern Slavery Act 2015

イギリスで2015年3月に成立し、同年10月に施行された法律で、現代奴隷法(Slaveryは「奴隷制」「奴隷状態」を意味する)と訳される(以下、MSA2015)。MSA2015は、児童を違法な労働へ従事させたり、不当に安い賃金で移民労働者を働かせたりといったModern Slavery(現代奴隷)の問題を根絶することを目的としている。MSA2015によると、イギリスにおいてビジネス活動を行う企業のうち、年間売上高が3600万ポンド(1ポンド130円換算で約47億円)を超える企業は、自社および自社のサプライチェーンにおいて、「奴隷労働」と「人身取引」を防止するための具体的な取り組みを、年次声明として公表しなければならない。本社等が日本にある企業であっても、イギリスにおける事業の年間売上高が3600万ポンドを超えれば、MSA2015に基づく年次声明の公表が必要となる(例えば、三菱商事のMSA2015に基づく声明はこちら)。

今後、MSA2015と同様の仕組みがEUにも・・・

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2016/09/01 (新用語・難解用語)UK Modern Slavery Act 2015(会員限定)

イギリスで2015年3月に成立し、同年10月に施行された法律で、現代奴隷法(Slaveryは「奴隷制」「奴隷状態」を意味する)と訳される(以下、MSA2015)。MSA2015は、児童を違法な労働へ従事させたり、不当に安い賃金で移民労働者を働かせたりといったModern Slavery(現代奴隷)の問題を根絶することを目的としている。MSA2015によると、イギリスにおいてビジネス活動を行う企業のうち、年間売上高が3600万ポンド(1ポンド130円換算で約47億円)を超える企業は、自社および自社のサプライチェーンにおいて、「奴隷労働」と「人身取引」を防止するための具体的な取り組みを、年次声明として公表しなければならない。本社等が日本にある企業であっても、イギリスにおける事業の年間売上高が3600万ポンドを超えれば、MSA2015に基づく年次声明の公表が必要となる(例えば、三菱商事のMSA2015に基づく声明はこちら)。

今後、MSA2015と同様の仕組みがEUにも広がる可能性があり、そうなるとModern Slaveryに関する年次声明の公表を迫られる日本企業は確実に増加する。また、現時点ではMSA2015の対象とならない企業であっても、機関投資家との対話でModern Slaveryについての取り組み方針を尋ねられる可能性もある。いくらROEが高くても、海外の下請工場で違法な労働が行われていることが判明すれば、「搾取により稼ぐ企業」との烙印を押され、企業イメージが大きく損なわれてしまう。実際に、海外NGOがユニクロの中国下請け企業に潜入調査をして、労働実態を公表した事例は記憶に新しい。

Modern Slaveryを、「遠い海外の話」と決めつけるのは危険だ。オーストラリアの人権団体“The Walk Free Foundation”の調査によると、日本にも29万人のModern Slavery がいるとされている(同団体の調査結果は、こちらの「Explore」をクリックし、世界地図から日本を選択)。この調査結果の真偽はともかくとして、海外展開をしていない日本企業でもModern Slaveryの問題が浮上する可能性はありうると言えよう。実際のところ、低賃金で長時間のサービス残業を余儀なくされる“ブラック企業”の従業員はModern Slaveryそのものとも言える。海外NGOが、2020年の東京オリンピックに向けて注目度が高まる日本企業をターゲットとして、潜入調査をしてくる可能性もある。上場企業においては、海外展開の有無にかかわらず、Modern Slaveryの根絶に向けて、人権方針の策定、社内やサプライチェーンを対象にした研修や啓蒙活動、サプライヤー(下請け先)への調査、M&A時に人権デュー・ディリジェンスを行う等の取り組みが必要になってくるだろう。

2016/08/31 2016年8月度チェックテスト

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結果がマイ研修レポートへ反映される期限は9月10日です。

【問題1】

自社がESG格付けをされていること自体を知らされていない上場企業もありうる。


正しい
間違い
【問題2】

時価総額が上位の企業ほど、社外取締役が報酬(諮問)委員会の委員長(議長)に就任する傾向がある。


正しい
間違い
【問題3】

親会社が、契約書や約款の法的問題点を調査検討の上、そのひな形を子会社に提供し、子会社が作成した契約書や約款をチェックし、契約条項や約款を解釈して法的意見を述べる業務は、たとえ反復かつ継続的に行われたとしても、解釈や法的意見をあくまで一般的なものに留める限り、弁護士法第72条(非弁行為の禁止)に違反しない。


正しい
間違い
【問題4】

上場株式の取得にあたりTOB手続によることが求められているのは、取得しようとする株式が発行済み株式の2分の1を超える場合に限られる。


正しい
間違い
【問題5】

オフィスのレイアウト変更に伴い、パーテーションを複数枚取得した場合であっても、パーテーション1枚当たりの金額が10万円以下であれば、事業の用に供した年度に全額を費用(損金)処理できる。


正しい
間違い
【問題6】

投資家にとっては必ずしも「ROEが高い=企業価値が高い」ということにはならない。


正しい
間違い
【問題7】

買収により子会社化するケースでは、被買収企業の過去の不祥事をD&O保険でカバーすることは不可能である。


正しい
間違い
【問題8】

上場企業でリストリクテッド・ストックを「社外取締役」に付与した実例はない。


正しい
間違い
【問題9】

入札談合が発覚すると、関与した者は刑事罰に処せられるが、その者を雇用していた法人が罰せられることはない。


正しい
間違い
【問題10】

有償ストックオプションを発行しても、費用を計上しない上場企業が多い。


正しい
間違い