総還元性向100%という従前の方針を撤回し、年間投資5割増という積極的な投資計画を打ち出した金属加工機械大手のアマダホールディングス(アマダHD)の株価が昨日(2016年9月6日)5%超下落した。同社は引き続き配当性向50%程度という日本企業にしては高い株主還元の水準を維持する方針を明らかにしたにもかかわらず、株式市場の反応は総じてネガティブなものとなった。
総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。
配当性向 : ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。
これは、市場は成長のための投資よりも株主還元の方を評価するということだろうか?
まず注目したいのは、同社は専ら「フロー(期間の損益状況)」をベースに株主還元を考えているという点だ。総還元性向にしても配当性向にしても、「毎期稼いだ利益のうち何%を株主に還元するか」というフロー・ベースの指標であることには変わりない。同社の2016年3月期の当期純利益274億円に対し総還元性向の実績は82%、すなわち株主還元は225億円(自己株式の取得100億円を含む)ということになる。
このように同社は稼いだ利益の大半を株主に還元している状態であり、この点だけに注目すると、同社はこれまで株主還元を優先し、将来の成長に必要な投資を抑制してきたように見える。しかし、同社のストック(特定時点での財産状況)、すなわち貸借対照表(B/S)を分析すると、違うものが見えてくる。
2016年3月期末時点の同社のB/Sには、手元の金融資産として、現預金794億円と有価証券および投資有価証券933億円の合計1,727億円が計上されている。さらに、賃貸用資産(主にショッピング・モール)として101億円が計上されているが、こちらは処分したところで、製造業を営む同社の事業に差し支えないだろう。
有価証券および投資有価証券 : ここでは時価のある有価証券(流動資産)と投資有価証券(固定資産)に限定している。金額は連結貸借対照表の金融商品関係の注記より引用。
同社の売上は直近実績で3,040億円、2020年度の目標でも4,000億円だから、運転資金は多く見積もっても売上の2か月分に相当する667億円(=4,000億円×2/12)あれば十分とみられる。また、同社は今後5年間で設備およびM&A投資合計で1,000億円を見込んでいるが、この規模であれば、1,700億円を超える手元の金融資産(現預金、(投資)有価証券)だけでも十分まかなえてしまう。
運転資金 : 商品仕入れや人件費・経費の支払いなどに必要な資金のこと。在庫の回転に時間がかかればかかるほど、また買掛金の決済時期より売掛金の決済時期の方が遅ければ遅いほど運転資金が必要になる。また、一般的には入金よりも支払いが先行することから、事業拡大期には運転資金の必要額が増える。「在庫回転期間」「売掛金と買掛金の決済時期のずれ」「現金支払い」「売掛金の入金遅れのリスク」を考慮すると、売上の2か月分に相当する運転資金があれば安心と言える。
このように見ていくと、同社が期間中に稼ぐ当期純利益を全て還元に充当すること、すなわち「総還元性向100%」を維持することと、同社の成長投資重視の事業計画は十分に両立可能であることが分かる。すなわち、「株主還元か成長投資か」という“二者択一”の議論は不毛だということだ。特にアマダHDのように金融資産や不動産を多く抱える企業では、株主還元額は、「(事業に直接貢献しない)金融資産や不動産等のストックと今後稼ぐ利益(より正確にはキャッシュフロー)の合計値」から「将来に向けた成長のための投資金額」を差し引いて算出するのが基本。株主還元の方針は、「フロー」だけでなく「ストック」も合わせて考える必要があるということだ。
