消費者被害の増加や消費者の権利意識の高まりに伴い、BtoCビジネスを取り巻く法規制は年々厳しくなっているが、ここにきて、企業と消費者との契約実務に大きな影響を与えかねない法改正の動きが出てきた。
まずは、選挙権の年齢を18歳に引き下げる公職選挙法の改正(2016年6月1日施行)に伴う動きだ。政府は、「成年」となる年齢も18歳に引き下げる民法改正案を来年の通常国会に提出する方針を示している。そこで法務省は、「民法の成年年齢の引下げの施行方法に関する意見募集」と題し、改正民法の施行日に18歳以上20歳未満の者(人口はおよそ200万人)が一斉に成年に達することによる支障の有無などについて、9月末までパブリックコメントを募集している。
成年年齢の引き下げに伴い生じる事項で企業実務に影響を与えそうなのが、未成年者取消権を行使できる層の減少だ。それまで未成年者取消権で守られていた18歳以上20歳未満の若者が、民法改正により成年として扱われるようになったことで未成年者取消権を行使できなくなれば、消費者被害が増加することが懸念される。そこで内閣府は、消費者委員会の中に「成年年齢の引き下げに関するワーキンググループ」を設置、民法の成年年齢が引き下げられた場合に新たに成年となる者の消費者被害を防止・救済するのための対応策を検討することを決めた。9月20日に第1回の会合を開催し、年内に結論を出す予定となっている。
未成年者取消権 : 未成年者が親(法定代理人)の同意を得ないで締結した契約は取り消すことができるという権利
消費者委員会 : 消費者庁を含む関係省庁の消費者行政全般に対して監視機能を有するため、平成21年(2009年)9月1日に内閣府に設置された独立した第三者機関。各種の消費者問題について、自ら調査・審議を行い、関係省庁の消費者行政全般に対して意見表明(建議等)を行うほか、内閣総理大臣や関係各大臣、または消費者庁長官の諮問に応じて調査・審議を実施する。
成年年齢の引下げへの対応以外では、消費者契約法の改正も見込まれている。消費者契約法は今年(2016年)の6月に改正(以下、2016年改正 *)されたばかりだが、その際に積み残されたままとなっている課題があるため、2019年までに追加で改正が行われる見通しだ。
消費者契約法 : 情報力や交渉力といった点で企業より弱い立場にある消費者を保護するための法律。事業者が消費者に対し契約の締結を勧誘する際に、例えば嘘を言ったり(不実告知)、都合の悪いことを知っていながら隠したり(不利益事実の不告知)といった行為があった場合、消費者は消費者契約法に基づき、事業者との契約を取り消すことができる。
2019年までに追加で改正 : 消費者契約法の2016年改正時の衆議院の付帯決議では、下の表に掲げた課題等を検討のうえ、「本法成立後3年以内に必要な措置を講ずること」と期限を切られている。2016年改正法は2016年5月に成立しているため、追加の改正は2019年5月までに行われる可能性が高いと言える。
* 消費者契約法の改正により、過量な内容の契約(例えば高齢者の判断能力の低下に付け込んで大量の商品を購入させるような契約)を締結した消費者への取消権の付与や消費者の解除権を一切認めない条項を無効にするなどの定めが追加された。施行は来年(2017年)の6月1日。
“積み残し”となっている課題のうち主なものは次のとおり。
| 「勧誘」 要件の在り方(消費者契約法4条1項) |
条文上の「勧誘」に、インターネット広告のように不特定の者に向けた働きかけを含めるかどうか |
| 「不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項) |
・不利益事実の不告知を類型化しておいてはどうか
・故意のみならず、過失または重過失により不告知が行われた場合にも契約の取消しを認めることとしてはどうか
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| 困惑類型の追加(消費者契約法4条3項) |
「執拗な電話勧誘」「威迫による勧誘」を困惑類型に追加すべきかどうか |
| 「平均的な損害の額」の立証責任の在り方(消費者契約法9条1号) |
「平均的な損害の額」の立証に関する規律はどのようにあるべきか |
勧誘 : 現行法は特定の者に向けた働きかけのみを「勧誘」としており、インターネット広告のように不特定の者に向けた働きかけは「勧誘」には該当しないとされている。
不利益事実の不告知 : 都合の悪いことを知っていながら隠すこと。
威迫 : 客観的に人を不安にさせるような言動のこと。畏怖や恐怖を生じさせる強迫(民法96条1項)には至らない行為。
平均的な損害の額 : 消費者契約法9条1号では、「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」があっても、その額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」場合、その超える部分については、同条項は無効になるとされている。
「平均的な損害の額」の立証に関する規律 : 消費者契約法9条1号における「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」の立証責任を負うのは消費者である。しかし、その立証に必要な資料は主として事業者が保有していることから、消費者による「平均的な損害の額」の立証が困難な場合もあることが問題視されている。
(参考)
消費者契約法(抜粋)
第4条1項 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。(以下、略)
第4条2項 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
特に注目されるのは、「勧誘」要件の在り方であろう。インターネット広告が「勧誘」に該当するとなれば、消費者契約法の網がかかる範囲が大幅に広がることになるだけに、2016年改正時には企業側の猛反発により改正が見送られたという経緯がある(2016年改正前の当時の議論の状況は2016年1月25日のニュース『「消費者保護強化」の流れは一段落?』を参照)。2015年における日本国内のBtoCの電子商取引の市場規模は13.8兆円(前年比7.6%増)まで拡大しており(経済産業省調べ)、その中にはインターネット広告を起点とする電子商取引も少なくないものと思われるだけに、これが消費者契約法の対象となれば、企業がコンプライアンス対応に追われ、企業活動が委縮する恐れもある。消費者契約法の再改正に向けた議論は内閣府に設置された消費者契約法専門調査会で行われる。専門調査会ではインターネット広告を扱う事業会社の社員も委員に選任されている。議論は始まったばかりだが、今後動きがあり次第続報したい。
消費者契約法専門調査会 : 内閣総理大臣より消費者委員会に諮問のあった、消費者契約法における契約締結過程及び契約条項の内容に係る規律等の在り方について、委員会の求めに応じて、調査審議するところ。