2025/02/21 【失敗学第128回】SCREENホールディングスの事例(会員限定)

概要

SCREENホールディングス(東証プライム市場)の国内子会社SCREENセミコンダクターソリューションズ(以下、SPE)や米国子会社SCREENセミコンダクターソリューションズ(以下、SEUS)で収益認識に係る履行義務の充足時点が操作され、これによりSCREENホールディングスの連結損益計算書において売上が早期に計上されていた(2024年3月期の連結損益計算書では5,967百万円の売上高の過大計上となっていた)。

経緯

SCREENホールディングスが2025年1月14日に公表した「特別調査委員会の調査報告書」等によると、一連の経緯は次のとおり。

1987年
米国カリフォルニア州に半導体製造装置の販売支援および保守サービスを行うSEUSが設立される。SEUSは、現在はSCREENホールディングスが100%所有する北米持株会社SCREENノースアメリカホールディングスの完全子会社である。

2006年
SCREENホールディングスの国内完全子会社としてSPEが京都府京都市に設立される。SPEは、半導体製造装置事業の管理統轄会社として、半導体製造装置の開発、製造及び販売を主たる事業としている。SPEが顧客と契約を締結して、顧客の仕様に応じた装置の設計から製造・出荷までを担い、半導体製造装置事業の販売・サービス系各子会社が、顧客に対して営業・据付・保守などのサービスを提供するという体制をとっている。SEUSは、SPEとの業務委託契約に基づき、SPEに対して売上を計上し、SPEは、顧客との契約に基づいて、顧客に対して売上を計上している。

2024年
9月25日:SCREENホールディングスの監査人のKPMGは、会計監査にあたり、2024年3月期にSPEにおいて半導体製造装置を販売した際に据付不要と記載されたサイドレターがあったため据付を待たずに売上計上を行っていた案件につき、事後に無償で据付をサポートしていたことに気付き、履行義務の充足(収益認識に関する会計基準39項)に疑義が生じたとして、SCREENホールディングスに伝達した。
11月14日:SCREENホールディングスが社内調査を行ったところ、意図的に収益認識に係る履行義務の充足時点(売上の計上時期)を操作した可能性を示唆する形跡が認められたことから、特別調査委員会を設置した。

2025年
1月14日:SCREENホールディングスは特別調査委員会の調査報告書を公表した。

内容・原因・再発防止策

SCREENホールディングスが2025年1月14日に公表した「特別調査委員会の調査報告書」によると、本件不正の内容、原因および再発防止策は次のとおりとされている。

収益認識に係る履行義務の充足時点の操作
内容 SPEでは、半導体製造装置の販売においては、基本設計から装置製造、納入、据付およびその後の調整をすべて行うことを前提に、顧客と契約しており、原則として装置の据付が完了した時点で、顧客は当該装置に対する実質的な支配を獲得することになる。そのため、SPEの半導体製造装置の販売においては、当該装置の据付完了時点において履行義務が充足されると判断し、据付完了時に顧客との間で作成される報告書(据付完了報告書)を証憑として、当該据付完了時点で収益を認識している(据付完了基準)。
他方で、SPEでは、かかる収益認識基準の例外として、装置代金が全額支払われていることまたは出荷日若しくはインコタームズ 条件日等を起算とする支払条件に合意していること及び装置の受渡条件(たとえばEXW (エクスワークス)の場合には出荷されていること)が満たされていることを条件に、装置の据付を行わないことを顧客とSL(サイドレター)において合意し、当該SLを証憑として、当該SLによる合意日またはインコタームズ条件日(合意日時点で納入されていない場合)に顧客への支配が移転したとして収益認識を行う処理(以下、「SL処理」)を用いることがあった。 SPEおよびSEUSの一部の従業員は、据付作業を不要とするSLを顧客から受領し、それに基づき、SPEに当該期中の収益として計上する一方で、SLに付随する形で、Warranty CommitmentやTerms of agreementといった名称の文書やメールなどの方法(以下、サイドSLの略称として「SSL」)でやりとりし、顧客との間で、事後的に無償で据付作業を行う旨の合意をしていた(つまり、売上のエビデンスとして利用するSLには据付作業不要と記載し、それを対顧客との関係では「裏念書」とも言えるSSLで上書きしていた)。
経理部や監査にはSL(表の合意文書)を提出し、顧客には表の合意文書とは別にSSL(裏の合意文書)も差し入れることで、据付作業が不要な外観を作り売上高を早期に計上するとともに、顧客には無償で据付作業を行っていた。
SCREENホールディングスにおいて先行して社内調査を実施したところ、SL処理により2024年3月期に収益を認識していた取引23件のすべてにおいて、SSLを用いた合意があり、そのすべてが不適切な行為であった。
原因 <在庫の長期滞留化>
SPEの米国駐在員は、在庫が長期化している又は長期化することが見込まれる案件に関して、速やかに売上計上をしなければならないという認識を有しており、本来SL処理が認められるのは顧客が装置を据え付けない場合に限定されているにもかかわらず、顧客が将来的に据付を行う案件でもSL処理が用いられるようになった。
<計画と実績の乖離を回避するための調整弁>
SPEでは、四半期ごとに売上計画と実績値を比較しており、これらが大きく乖離しないように、売上計上時期の調整の一つの手法として、SL処理が利用されていた。
<X事業の黒字化達成へのプレッシャー>
SPEにおけるX事業は2023年3月期まで赤字が続いていた。そのため、SPEの駐在員には、2024年3月期中にX事業の黒字化を達成するため、期を前倒ししてでも売上を計上したいというインセンティブがあった。
<収益認識基準と現場の乖離>
据付完了基準を前提とすると、顧客に装置を納入した後も、専ら顧客側の都合により、しばらく据付作業が実施できない場合には、売上計上できないままの状態で、長期在庫の扱いとなる。また、SL処理は、装置に係る据付作業は不要となった場合に用いられるものであるが、これまでの実績として、SPEが納入済みの装置を据え付けなかった事例はなく、SL処理自体がSPEのビジネスの実態と合致していない。このように、収益認識基準とSPEの現場の取扱いが乖離している中で対応しなければならなかったことが原因の一つである。
<業務プロセスの周知不足>
SPEの経理規定実施細則第37条第7号では、同条各号に定めのない取引の売上の計上基準については、経理財務責任者の指示を仰がなければならない旨が規定されているところ、SL処理は、同条各号に定めのない取引である。したがって、SL処理を行うに当たっては、その都度、経理財務責任者の指示を仰ぐ必要があるが、SPEにおいて、この業務プロセスは明文化されていなかった。その結果、SPEの業務課の担当者が変更した際に、経理財務責任者の指示を仰ぐ点についての引継ぎが十分になされなかったことで、それ以降はそのような指示を仰ぐことなく、SL処理がなされるようになった。
<業務プロセスにおけるチェック機能の不全>
SL処理の業務フローでは、SL処理を行う際には業務課にSL案の内容確認の依頼を行うこととされており、2024年3月期のSL処理(合計23件)は、すべて同課への確認がなされていた。本来、業務課にSL案の内容確認の依頼があった際には、同課において、当該案件が SL処理の条件を満たすかを精査することが求められているところ、上記の業務プロセスの周知不足も相まって、顧客が装置の据付を放棄していない案件、たとえば将来的に据付が行われることは決まっているがその時期が未定であるような案件でも、安易にSL処理が用いられ、事後的な据付作業が行われていた。仮にこのような案件でSL処理を用いるのであれば、SL処理により当該装置にかかる契約は一旦終了となること及び将来的に据付作業が必要になった際には当該据付作業は新たな発注として別契約を締結する必要があることをSLに明記する必要がある。ところが、実際には、顧客が装置の据付を明示的に放棄していない案件でも、据付を放棄した旨が記載されたSLを用いたSL処理が繰り返されていた。
また、SL処理を行う場合、本来はSPEの業務課及び経理財務責任者において収益認識会計基準に照らした精査・検討を行うことが予定されていたが、実際には同課の担当者1名がSLの文言の確認をするのみであり、当該担当者の上長さえSL処理が行われていることを把握していなかった。
このように、SL 処理の業務プロセスにおいて期待されている社内チェック体制が十分に機能していなかった。
<システムによるチェック機能不備>
SPEでは、据付完了基準で売上計上する場合、据付完了報告書のサイン日を据付完了日としてERPシステムに登録することにより売上が計上されるシステムとなっていた。もっとも、SL処理を行った案件のERPシステム上の取扱いについては、明確なルールはなかった。そのため、SL処理の場合は装置の据付を行わないことが前提となっているにもかかわらず、ERPシステムでの売上計上のためには、SLの合意日または合意と同月の任意の日、もしくは装置の出荷日又は装置の出荷日と同月の任意の日のいずれかを「据付完了日」としてERPシステムに登録する運用となっていた。その結果、ERPシステム上では、どの案件がSL処理されたのか、またSL処理をした案件について事後的に据付が行われているかといった点を管理できる状態ではなかった。
このように、SPEのシステムは、そもそもSL処理に関するチェック機能を有していなかった。
<コンプライアンス意識・リスク認識の甘さ>
本件に関与した者は、SL処理の条件として、顧客が装置の据付を放棄する必要があることは十分に理解しながら、SLへの署名を敬遠する顧客に対し、SL処理の条件と明らかに矛盾するSSLを用いた運用を行っており、コンプライアンス意識が不十分であった。また、SLと矛盾するSSLを顧客に交付することの法的リスクについても認識が甘かった。
再発防止策 ・収益認識基準の見直し
まずはSL処理の廃止も含めたSL処理の在り方を見直すことが必要。装置の納入後に顧客が当該装置を転売するといった極めて例外的な場合を除き、顧客が装置の据付を放棄することはなく、ほとんどすべてのSL案件において事後的な据付がなされている。このようなSPEのビジネス実態に照らすと、そもそもSL処理を存続する必要があるのかという点、また仮に存続させるとしても、顧客が将来的な据付を明示的に放棄していない案件においては、SL処理により当該装置にかかる契約は一旦終了となること及び将来的に据付作業が必要になった際には当該据付作業は新たな発注として別契約を締結する必要があることをSLに明記するという点を検討する必要がある。
また、たとえば装置の引渡時と据付時でそれぞれ収益認識できる基準や、顧客の都合で据付時期が未定となった場合に収益認識できる基準など、SPEのビジネスの変化に応じた収益認識基準の導入を検討することも考えられる。
・業務プロセスの周知・徹底
SPEでは、SL処理における業務フローが定められていたが、これが明文化されていなかったことにより、本来は経理財務責任者の指示を仰がなければならないにもかかわらず、この手続きを経ずにSL処理がなされていた。仮にSPEで業務フローが周知・徹底されていたとすれば、本件不適切行為を感知できた可能性はある。
したがって、SPEにおいて収益認識基準に係る業務プロセス全体を改めて点検し、その明確化を図ったうえで、関係者への周知・徹底を図るべきである。
・社内チェック機能の拡充
SL処理に限らず、通常と異なる特殊な案件について、担当者のみの判断で終わらせず、複数人の目によるチェックがなされる業務フローを整えるとともに、業務フローに携わる者全員がその特殊性を十分に認識し、かつ慎重に検討・判断する体制を構築することが望ましい。また、社内システムにおいて、特殊な案件を自動的に検出できる仕組みや随時トラッキングできる仕組みを導入することも有用。
・コンプライアンス教育の実施
<この事例から学ぶべきこと>

収益認識はリスクが高い(不正の発生可能性が高い)ことから経理部や監査(監査法人の会期監査や内部監査室の監査)では相当のリソースを割いて様々なエビデンスを確認するのが通常です。とりわけ半導体装置産業のように1台当たりの販売単価が高額となる業界ではその傾向が強まります。1台売れるだけで利益が大きく動くからです。その結果、売主の営業マンが顧客(買主)と交渉して表の合意文書を売主にとって都合の良い条件(例えば工場渡)で整えつつ、買主には別途念書を差し入れて、買主の要望(据付)に応える(経理部や監査には当該念書の存在を隠しておく)ということが起きがちです。とりわけ期末近辺は起きやすいと言われています。

内部監査室の監査においてはそのようなリスクシナリオを想定しておく必要があります。具体的には、「売れたこと」を裏付ける直接のエビデンス(契約書、覚書、S/I(Shipping Instruction)、受領証、入金確認等)だけでなく、隠された履行義務の存在(実はまだ売れたとは言えない状況にあるリスク)をあぶりだす間接的なエビデンス(据付担当者の作業日報や出張日程等)で整合性を確認し、何らかの裏念書で履行義務が上書きされていないかを確認することも重要となります。

2025/02/20 プライム上場会社の英文適時開示、ボリュームとスピードのどちらを優先すべき?

周知のとおり、2025年4月以降、東証プライム市場上場会社は決算情報および適時開示情報について、日本語による開示と同時に英文開示が義務化される。英文開示の義務化までに残された時間が1か月半を切る中、東証プライム市場上場会社には、自社の現状を踏まえた現実的な対応が求められている。

東証の調査結果によると、英文開示義務化を3か月後に控えた2024年12月末時点のプライム市場上場会社の英文開示実施率は社数ベースで99.0%に上っている。この数字からは、プライム市場上場会社における英文開示義務化に向けた準備は万全のように見える。しかし、各種数字を詳細に確認すると、いくつか課題が浮かび上がってくる。・・・

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2025/02/20 プライム上場会社の英文適時開示、ボリュームとスピードのどちらを優先すべき?(会員限定)

周知のとおり、2025年4月以降、東証プライム市場上場会社は決算情報および適時開示情報について、日本語による開示と同時に英文開示が義務化される。英文開示の義務化までに残された時間が1か月半を切る中、東証プライム市場上場会社には、自社の現状を踏まえた現実的な対応が求められている。

東証の調査結果によると、英文開示義務化を3か月後に控えた2024年12月末時点のプライム市場上場会社の英文開示実施率は社数ベースで99.0%に上っている。この数字からは、プライム市場上場会社における英文開示義務化に向けた準備は万全のように見える。しかし、各種数字を詳細に確認すると、いくつか課題が浮かび上がってくる。そもそも上記の英文開示実施率は、「決算短信」「適時開示資料(決算短信を除く)」「招集通知(通知本文・参考書類)」「招集通知(事業報告・計算書類)」「CG報告書」「有価証券報告書」「IR説明会資料」「その他の英文開示資料」のいずれかの資料について英文開示を行っていると回答した会社の比率となっており、英文開示のメインである「決算短信」「適時開示資料(決算短信を除く)」に限定すると英文開示の実施率は下がる。まず「決算短信」の英文開示の実施率は93.8%(前年末比2.1ポイント増)であり、2024年12月末時点でもなお6%以上のプライム市場上場会社が決算短信の英文開示を実施できていない。しかも、この93.8%という実施率には、決算短信の「すべて」を英文開示している会社だけでなく「一部を抜粋」して英文開示している会社も含まれている。決算短信の「すべて」を英文開示している会社に限ると一気に51.9%まで落ち込む。

「適時開示資料(決算短信を除く)」になると、英文開示実施率は59.2%(同7.1ポイント増)にとどまる。もっとも、プライム市場上場会社に義務付けられる英文開示は「日本語による開示の内容の一部又は概要を開示すれば足りる」(2025年4月1日から施行される東証の有価証券上場規程436条の4第2項)とされており、記載内容が定型的な「決算短信」に限れば概ね英文開示義務化に向けた体制は整っていると言える。課題は、非定形的な開示も少なくない「適時開示資料(決算短信を除く)」の英文開示実施率の向上だろう。

2025年4月1日から施行される東証有価証券上場規程436条の4
第436条の4 プライム市場の上場内国会社は、(中略)会社情報並びに当該上場内国会社が投資判断に及ぼす影響を踏まえて第414条に規定する方法により任意に開示する会社情報の開示を日本語により行う場合には、これと同時に、英語による開示を行わなければならない。ただし、英語による開示を同時に行おうとすることにより、日本語による開示の遅延が生じる場合には、この限りでない。
2項 前項に規定する英語による開示については、日本語による開示の内容の一部又は概要を開示すれば足りるものとする。(後略)

東証の調査では、「時価総額の大きい会社」「海外投資家保有比率の高い会社」ほど英文開示実施率が高く(東証調査資料の19ページおよび20ページ参照)、日英の同時開示(後述)の実施率も高い傾向にあることが分かっている(東証調査資料の26ページおよび27ページ参照)。グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場というプライム市場のコンセプトにマッチしない「小型」で「ドメスティック」な会社ほど英文開示への対応が遅れ気味であり、プライム市場全体の足を引っ張っている状況が伺える。現時点で英文開示ができていないプライム市場上場会社は、プライム市場に残ること自体に無理がある可能性もあり、経営陣は英文開示体制の構築と並行して、そもそもプライム市場に残り続けるべきかどうかという根本的な議論をすべきだろう。

また、日本語での開示と英文開示のタイミングのずれ(英文開示のタイミングの遅れ)も課題として指摘されている。プライム市場上場会社の4社に1社が「決算短信」の日本語での開示と英文開示を同時にできておらず、英文による「決算短信」の開示が日本語による開示の翌日以降となっている会社が15.8%もある。上記有価証券上場規程436条の4第1項には、「英語による開示を同時に行おうとすることにより、日本語による開示の遅延が生じる場合には、この限りでない」とあるものの、これは緊急時の取扱い()にすぎず、あくまで「同時開示」が原則となっている。なぜなら、適時開示は情報の鮮度が“命”であり、開示が遅れれば、海外機関投資家にとって情報の有用性が乏しくなるからだ。そのような有用性の乏しい情報の開示を社内外のリソースを使って続けることは避けたい。むしろ、英文開示体制が十分でないプライム市場上場会社は、「決算短信すべて」「適時開示資料すべて」の英文開示にこだわらず、例えば「決算短信の一部または概要」「適時開示資料の一部または概要」に英文開示の範囲を狭めてでも、日英同時開示を達成できるようにしたいところだ。

東証が英文開示義務化にあたり実施したパブリックコメントの結果には、「例えば、発生事実に係る開示など急遽対応が必要になる場合や、関係者との調整等により開示直前まで日本語による開示内容が定まらない場合であって、英語による同時開示を行おうとすると、日本語による開示の遅延が生じるときは、同時でなくてもよい」という東証による例示がある。

2025/02/19 米国ISSがダイバーシティ基準の適用を停止、日本向け基準への影響は?

議決権行使助言会社最大手のISS(米国)は2025年2月11日、「米国企業の取締役選任議案における多様性の考慮に関する声明」を公表した。ISSは毎年「ベンチマーク・ポリシー調査」や「オープンコメントの募集」など厳格なプロセスを経て議決権行使助言基準(以下、ポリシー)を改定しており、2025年版の米国向けポリシーは1月9日に確定し、既に2月1日から発効している。しかし今回の声明では、例外的に(on an exceptional basis)法規制の改正など投資家や企業に影響を与える事象が生じた場合には、臨時的にポリシーをアップデートすることがあるとしている。

ISSが今回実施した臨時的なポリシーのアップデートとは、・・・

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2025/02/19 米国ISSがダイバーシティ基準の適用を停止、日本向け基準への影響は?

議決権行使助言会社最大手のISS(米国)は2025年2月11日、「米国企業の取締役選任議案における多様性の考慮に関する声明」を公表した。ISSは毎年「ベンチマーク・ポリシー調査」や「オープンコメントの募集」など厳格なプロセスを経て議決権行使助言基準(以下、ポリシー)を改定しており、2025年版の米国向けポリシーは1月9日に確定し、既に2月1日から発効している。しかし今回の声明では、例外的に(on an exceptional basis)法規制の改正など投資家や企業に影響を与える事象が生じた場合には、臨時的にポリシーをアップデートすることがあるとしている。

ISSが今回実施した臨時的なポリシーのアップデートとは、「米国企業の取締役選任の賛否推奨を行う際に一定の多様性を考慮すること(consideration of certain diversity factors)を無期限に中断する(indefinitely halt)」こと、すなわちダイバーシティ基準の停止だ。下表のとおり、ISSの米国向けポリシーでは性別と人種/民族について2種類のダイバーシティ基準が設定されているが、2月25日以降に発行される株主総会招集通知の取締役選任議案に関する助言判断からは適用されない。

ジェンダーの多様性 取締役会に女性がいない場合、指名委員会の委員長の選任議案に原則反対または棄権する。ただし、1年前には女性取締役がおり、今後1年以内にジェンダー多様性が伴なった状態に戻すことに取締役会が責任を持つ場合には例外的に賛成する。
人種・民族の多様性 Russell 3000またはS&P1500の構成銘柄で、取締役会に多様な人種・民族がいない場合、指名委員会の委員長の選任議案に原則反対または棄権する。ただし、1年前には多様な人種・民族の取締役がおり、今後1年以内に人種・民族の多様性が伴なった状態に戻すことに取締役会が責任を持つ場合は例外的に賛成する。


Russell 3000 : 米国企業株のうち、時価総額上位3000銘柄からなる時価総額加重平均型指数
S&P1500 : S&P社が提供する米国の中小企業向けの企業価値指数。この指数は、S&P 500(大型企業向け)とS&P SmallCap 600(中小企業向け)を組み合わせたもので、合計1500社の企業をカバーしており、米国の中小企業市場の動向を追跡するための重要なツールとして使用されている。

今回のポリシー変更は、「米国で先月、DEIに関する大統領令(Presidential Executive Orders on DEI)が発令された」ことなどを背景としている。2月20日にトランプ氏が署名したこの大統領令は、前大統領のバイデン氏が就任初日に発令した「連邦政府が人種的平等を推進する」大統領令を「莫大な公共の浪費(immense public waste)と恥ずべき差別(shameful discrimination)」として撤回するもの。連邦政府は今後いかなる状況においても「DEIまたはDEIA(Diversity, Equity, Inclusion, and Accessibility)」を考慮してはならないとされている。


DEI : Diversity, Equity, Inclusion(多様性、公平性、包摂性)の頭文字をとったもの。このうち包摂性とは、社会や組織が多様なる人々を受け入れ、差別や排除をなくし、全ての人が平等に参加できる状態を指す。
Accessibility : 障がい者などに対するアクセス可能性

トランプ氏の大統領令はあくまで「連邦政府」によるDEIプログラムを停止するものであり、民間セクターに対して反DEIを強制するものではない。しかしISSは、機関投資家および米国企業が「DEIについて様々な視点を持つようになる(will have a range of perspectives on DEI)」との予測の下、少なくとも現状では、ダイバーシティ基準は“逆差別”との批判を受けかねないとして、適用停止との判断に至ったということだろう。

ISSは日本向けポリシーにおいても「女性取締役が一人もいない場合、経営トップである取締役」の選任議案に原則として反対を推奨としているが(12ページ「取締役会の多様性」参照)、当フォーラムの取材によると、現時点では米国同様の変更は予定されていない模様。

また、ISSに次ぐ議決権行使助言会社大手のグラスルイスも現在、「適切な対応」について機関投資家から意見を募集しており、来月初旬には対応方針を公表する方向だが、やはり日本向けポリシー(10%以上の多様な性別の取締役の選任を求める)には特段の影響はないとみられる。米国での動向は引き続き注視する必要はあるが、当面の日本における株主総会では、従来どおりジェンダーダイバーシティを高める取り組みが問われることになろう。

2025/02/18 速報 スチュワードシップ・コードの改訂内容が判明

金融庁が今月末にも取りまとめると見込まれるスチュワードシップ・コード(以下、SSコード)の改訂内容が当フォーラムの取材により明らかとなった。・・・

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2025/02/18 速報 スチュワードシップ・コードの改訂内容が判明(会員限定)

金融庁が今月末にも取りまとめると見込まれるスチュワードシップ・コード(以下、SSコード)の改訂内容が当フォーラムの取材により明らかとなった。今回の改訂のポイントは①実質株主の透明化、②協働エンゲージメントの推進、③SSコードのスリム化、④議決権行使助言会社の体制の4点だが、それぞれ興味深い内容となっている。


実質株主 : 議決権行使を指図しているが株主名簿には記載されない者

まず、SSコードの発行主体が「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」から「金融庁」に変更される。これは、行政文書の作成主体を明らかにするという政府全体の方針に基づくものだが、SSコードは政府の担当部局である金融庁が策定するものであることが明確化され、その実効性確保に向け“重み”が増すことになる。金融庁が責任主体であることを示すため、SSコードの目的等を説明する文章からは「本検討会は」という主語が全て削除される。

また、「おおむね3年毎」としていた改訂のタイミングに関する表現も削除され、今後はコーポレートガバナンス・コードと同様、定期的な見直しではなく、“適切なタイミング”で改訂していくことになる。

以下、内容について見ていこう。実質株主の透明化については、原則4に新たな指針を追加し、機関投資家に対して投資先企業との建設的対話を促すとともに、「投資先企業からの求めに応じて」自らが「どの程度投資先企業の株式を保有しているか」を投資先企業に説明することを求める。さらに、「投資先企業から求めがあった場合の対応方針」をあらかじめ公表することも求める。

SSコードの改訂を受ける形で、法務省は2月10日、実質株主の透明化を含む会社法の改正を法制審議会に諮問した。今後、実質株主とは誰か、それを明らかにする情報インフラをどのように整備するのかを含む検討の舞台は法制審議会に移ることになる。

協働エンゲージメントについては、欧米でもその効果が疑問視されていることが指摘され、投資家サイド、企業サイドの双方から意義を問う声が上がっていたことを受け、協働エンゲージメントに関する指針4-5(今回の改訂で指針番号は繰り下げられる)の「有益な場合もあり得る」との表現を「重要な選択肢である」に変更するにとどまる。

SSコードのスリム化は、文章を短くまとめる、脚注を削除するといったものが中心となる。例えば、現行の指針4-6は文中で「G20/OECD コーポレート・ガバナンス原則」や「コーポレートガバナンス・コード」を引用しているが、こうした引用は削除され、代わりに「…機関投資家は、公表された情報をもとに、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を行うことが可能であること、企業の未公表の重要事実の取扱いについて、株主間の平等が図られるべきことを踏まえ、当該対話において未公表の重要事実を受領することについては、基本的には慎重に考えるべき」旨が簡潔に記載される。

また、現行の指針5-3は、「機関投資家は、議決権の行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すべきである」という一文について、運用機関が懸念していることと、それに対する考え方を脚注で紹介しているが、この脚注は削除され、スッキリと「公表すべきものは公表すべき」と言い切る形となる。

指針7-2には、指針2-4を取り込む形で、運用機関の経営陣に対して、「ガバナンス強化・利益相反管理に関して、それぞれ重要な役割・責務を担っていること」を認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進すべき旨が盛り込まれる。

企業の注目を集めそうなのが、指針8-2の議決権行使助言会社に関する記述だ。現在は、議決権行使助言会社は「…日本に拠点を設置することを含め十分かつ適切な人的・組織的体制を整備すべき」とされている。今回の改訂では、これを「…企業を含む関係者と意思疎通を行うのに十分な人員を備えた拠点を日本に設置することを含め適切な人的・組織的体制を整備すべき」へと変更する。企業側からはかねてより、議決権行使助言会社の日本拠点の体制が企業と対話をするのに十分でないことへの批判の声が上がっており、こうした声を受けて、十分なスタッフを置くよう、明確に求めた格好だ。

SSコードの改訂内容は以上のとおりだが、SSコードの改訂以上に機関投資家のスチュワードシップ活動に影響を与えそうなのが、トランプ政権の誕生を背景とするサステナビリティ分野での風向きの変化だろう。機関投資家はサステナビリティに関する考え方について問われることが増え、ネットゼロへの移行を目的に設立された銀行、保険、アセットオーナー、運用機関等のイニシアティブの連合体であるGFANZ傘下のアライアンスから米国の金融機関が相次いで脱退する事態となっている。こうした中、少なくともサステナビリティ分野での協働エンゲージメントは成立しにくく、また、議決権行使助言会社もサステナビリティに関する助言方針の再考を迫られることになるだろう。

2025/02/17 日本企業の経営者報酬に欠ける「Pay for failure」に対する抑止力

アクティビスト投資家として知られるストラテジックキャピタルは2025年1月30日、モバイルゲーム大手のガンホーオンラインエンターテイメントに対し、経営者報酬に関する重要な株主提案を行っている。昨今、アクティビストの活動が活発化しているが、その中でも本件は、欧米で一般的な「Say on Pay(経営者報酬への株主意見表明)」の日本版とも言える意義深い取り組みとして、注目すべき事例と言えるだろう。

提案の背景には、ガンホーの業績等と経営者報酬の著しいミスマッチがある。同社は2014年をピークに業績が大幅に悪化し、過去10年間で売上高は1,730億円から1,250億円に、利益は1,000億円から300億円へと約70%の激減、株価総額もピーク時から約80%下落している。それにもかかわらず、森下社長の報酬は2023年度に3億4,000万円(2014年度時の1.2億円と比べると183%増)と、任天堂社長の3億6,000万円に次ぐ業界第2位の水準を維持している。特に問題視されているのは、任天堂の報酬制度を模倣しながら、営業利益に対する報酬乗数を0.2%から0.5%に引き上げている点。これは、任天堂の15分の1の売上高、20分の1の利益しかない企業としては著しく不釣り合いな設計と言わざるを得ない、というのがストラテジックキャピタルの主張だ。その是正のためストラテジックキャピタルは、(1)業績連動報酬の構成比の引上げとROEを基準とした評価方法への変更、(2)TSR条件付き譲渡制限付株式報酬の導入、(3)固定報酬を増額する場合の理由開示、を要求している。

Say on Payは欧米諸国で導入されている、上場企業の経営者報酬の支給額、支給方針やその運用状況の妥当性について株主が賛否を表明する「株主投票」の仕組みであり、この投票は多くの場合において拘束力のない“勧告的”なものにとどまる。しかし、・・・


ROE : ROE(Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。

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2025/02/17 日本企業の経営者報酬に欠ける「Pay for failure」に対する抑止力(会員限定)

アクティビスト投資家として知られるストラテジックキャピタルは2025年1月30日、モバイルゲーム大手のガンホーオンラインエンターテイメントに対し、経営者報酬に関する重要な株主提案を行っている。昨今、アクティビストの活動が活発化しているが、その中でも本件は、欧米で一般的な「Say on Pay(経営者報酬への株主意見表明)」の日本版とも言える意義深い取り組みとして、注目すべき事例と言えるだろう。

提案の背景には、ガンホーの業績等と経営者報酬の著しいミスマッチがある。同社は2014年をピークに業績が大幅に悪化し、過去10年間で売上高は1,730億円から1,250億円に、利益は1,000億円から300億円へと約70%の激減、株価総額もピーク時から約80%下落している。それにもかかわらず、森下社長の報酬は2023年度に3億4,000万円(2014年度時の1.2億円と比べると183%増)と、任天堂社長の3億6,000万円に次ぐ業界第2位の水準を維持している。特に問題視されているのは、任天堂の報酬制度を模倣しながら、営業利益に対する報酬乗数を0.2%から0.5%に引き上げている点。これは、任天堂の15分の1の売上高、20分の1の利益しかない企業としては著しく不釣り合いな設計と言わざるを得ない、というのがストラテジックキャピタルの主張だ。その是正のためストラテジックキャピタルは、(1)業績連動報酬の構成比の引上げとROEを基準とした評価方法への変更、(2)TSR条件付き譲渡制限付株式報酬の導入、(3)固定報酬を増額する場合の理由開示、を要求している。


ROE : ROE(Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。

Say on Payは欧米諸国で導入されている、上場企業の経営者報酬の支給額、支給方針やその運用状況の妥当性について株主が賛否を表明する「株主投票」の仕組みであり、この投票は多くの場合において拘束力のない“勧告的”なものにとどまる。しかし、反対票が多ければ報酬委員会は直ちに改善策を講じなければならず、報酬制度の是正に向けてプレッシャーがかかる。このため欧米の経営者報酬は、経営判断として、成長をリードするエグゼクティブの機動的な任免、インセンティブ付けやリテンションに資する柔軟な運用余地を企業側に認めつつも、事後的にはその運用状況の詳細な開示を義務付けるとともに、株主の意見表明を通じて「Pay for failure(誤った運用)」に対する抑止力を効かせるという、“支給額の健全性”に焦点を当てた規制体系になっている。


リテンション : 役職員をつなぎとめること

これに対し日本の現行の会社法では、役員報酬は株主総会で承認を受けた報酬予算の範囲内で取締役会が決定するという、予算額に焦点を当てた“事前承認型”の規制体系を採用している。実際の支給額が適正なのか、また、業績や企業価値創造との関係で適切だったのかについて、株主が意見表明を行う機会は極めて限定的となっている。そのため、企業の報酬実務も制度設計に重点が置かれ、運用結果の妥当性の検証が十分にされていないのが実情だ。

近年、日本企業においても業績連動報酬や株式報酬のウエイトが高まっている。報酬の可変部分が大きくなれば、制度設計以上に実際の運用結果が重要性を増すのは自明である。ガンホーの事例は、経営者報酬のアカウンタビリティ(説明責任)を「事前の制度設計」から「事後の運用結果」へとシフトさせる必要性を示唆していると言える。

ガンホーは2月14日、ストラテジックキャピタルの株主提案にすべて反対する旨の意見を表明している。企業側の視点で様々な反対理由が述べられているが、株主の経営者報酬に対するグローバルな規範がシンプルに「Pay for performance(企業価値向上と報酬支給額との密接なリンケージ)」を目的にしていることからすれば、どうしても旗色が悪いように見える。

経営者報酬は、持続的な企業価値向上を実現するための重要なインセンティブの一つであるだけに、今後は日本企業にも、株主との建設的な対話を通じて、「事前の制度設計」と「事後の運用結果」の両面からより良い報酬体系を構築していくことが一層求められることになるのは間違いない。そのための役員報酬規制体系の変更も、将来的には法で担保していくべきだろう。