2016/06/28 川崎汽船株の大量取得、買収防衛策を廃止していなければ違う結果に?

株式会社ベストムーブ 代表取締役 大島 真一

2016年6月21日に関東財務局に提出された大量保有報告書(変更報告書)によって、東証一部に上場する海運大手の川崎汽船株式会社に対するエフィッシモ・キャピタル・マネージメント(以下、エフィッシモ社)の株式保有比率が34.22%に達したことが明らかとなっている。シンガポールに拠点を置く投資ファンドであるエフィッシモ社が川崎汽船の保有者として出現したのは昨年8月であり、それからわずか9か月強の間に時価総額2,000億円超の同社株式を3分の1以上買い集めたことになる。6月11日の新聞記事では「(エフィッシモ社が)何を言ってくるか分からない。とにかく刺激したくない」との川崎汽船幹部のコメントも紹介されている。

エフィッシモ・キャピタル・マネージメント : 村上ファンドの元社員3人により設立された資産運用会社。シンガポールに拠点を置く。M&A、倒産、リストラといった企業のイレギュラーな状況を投資機会とするイベントドブリン戦略をとる。米国の年金基金など、欧米の機関投資家を主な顧客としている。純投資のみならず、投資先企業への提案や助言を行うこともある。

川崎汽船株式はPBRなどの基本的指標が割安であり、また、現預金の額が時価総額を上回るなど株主還元余地もあることがエフィッシモ社による同社への投資の誘因になったとみられる。しかし、ここまでの急速な買い上げのきっかけとなった可能性が高いのは、川崎汽船が2015年度の株主総会で買収防衛策を廃止したということだ。2015年度においては、川崎汽船、日清紡など3月期決算企業のうち19社が買収防衛策を廃止している。当時、川崎汽船は買収防衛策廃止の理由として、「国内外の機関投資家の声を参考に検討した結果、防衛策の必要性が低下した」「最近の株価上昇で時価総額が増加し、以前に比べると買収リスクが低下した」ことなどを挙げていた。

買収防衛策は適時開示事項であり、またそのほとんどが株主総会において決議されるという重要施策であるにもかかわらず、その具体的な内容は意外なほど知られていない、というのが筆者のアドバイザリー業務を通じての実感だが、買収防衛策を一言で説明すれば、・・・

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2016/06/28 川崎汽船株の大量取得、買収防衛策を廃止していなければ違う結果に?(会員限定)

株式会社ベストムーブ 代表取締役 大島 真一

2016年6月21日に関東財務局に提出された大量保有報告書(変更報告書)によって、東証一部に上場する海運大手の川崎汽船株式会社に対するエフィッシモ・キャピタル・マネージメント(以下、エフィッシモ社)の株式保有比率が34.22%に達したことが明らかとなっている。シンガポールに拠点を置く投資ファンドであるエフィッシモ社が川崎汽船の保有者として出現したのは昨年8月であり、それからわずか9か月強の間に時価総額2,000億円超の同社株式を3分の1以上買い集めたことになる。6月11日の新聞記事では「(エフィッシモ社が)何を言ってくるか分からない。とにかく刺激したくない」との川崎汽船幹部のコメントも紹介されている。

エフィッシモ・キャピタル・マネージメント : 村上ファンドの元社員3人により設立された資産運用会社。シンガポールに拠点を置く。M&A、倒産、リストラといった企業のイレギュラーな状況を投資機会とするイベントドブリン戦略をとる。米国の年金基金など、欧米の機関投資家を主な顧客としている。純投資のみならず、投資先企業への提案や助言を行うこともある。

川崎汽船株式はPBRなどの基本的指標が割安であり、また、現預金の額が時価総額を上回るなど株主還元余地もあることがエフィッシモ社による同社への投資の誘因になったとみられる。しかし、ここまでの急速な買い上げのきっかけとなった可能性が高いのは、川崎汽船が2015年度の株主総会で買収防衛策を廃止したということだ。2015年度においては、川崎汽船、日清紡など3月期決算企業のうち19社が買収防衛策を廃止している。当時、川崎汽船は買収防衛策廃止の理由として、「国内外の機関投資家の声を参考に検討した結果、防衛策の必要性が低下した」「最近の株価上昇で時価総額が増加し、以前に比べると買収リスクが低下した」ことなどを挙げていた。

買収防衛策は適時開示事項であり、またそのほとんどが株主総会において決議されるという重要施策であるにもかかわらず、その具体的な内容は意外なほど知られていない、というのが筆者のアドバイザリー業務を通じての実感だが、買収防衛策を一言で説明すれば、「ある一定割合以上の株式を取得する買収者が現われた場合に則るべき手続きの事前開示」ということになろう。これを更に噛み砕くと、ある一定割合以上(発行済株式総数の20%以上とするケースが大半で、川崎汽船が導入していた買収防衛策も同様)を取得した買収者に対し、「そのような買収をした場合には、意向表明書や買付者についての情報を提示してもらいます。その情報を社内に設けた第三者委員会等が一定の期間検討し、もし敵対的買収と認められる客観的な事実が認められれば、株式保有比率を希薄化する対抗措置を取る場合もありますよ」と事前に告げておくプラン、ということになる。

筆者としては、川崎汽船の昨年5月の買収防衛策の廃止と、今回のエフィッシモ社の株式大量取得には深い関係があると考えざるを得ない。もちろん、川崎汽船が投資家にとって魅力的な銘柄であるということが、エフィッシモ社が買収を行った最大の理由であろう。しかし、もし川崎汽船が買収防衛策を廃止していなかった場合、どうなっていただろうか。それでもエフィッシモ社は同社株式の指標を見て買収を行ったかもしれないが、一定割合(20%)を取得する手前の段階で、必ず“足踏み”があったに違いない。少なくとも20%を超える手前の18~19%を取得したタイミングで、それ以上買い上げる場合には「意向表明書」を提出する必要があっただろうし、また川崎汽船にもその内容を精査・検討する時間が与えられたことだろう。その結果として、最大でも19%程度の保有にとどまった可能性は十分にある。

意向表明書 : M&Aのプロセスの初期において、買い手が被買収企業の経営陣や株主に対して出す書類で、買収の目的・金額・スキームやスケジュールなどが記載される。被買収企業側はこの意向表明書を検討し、買収を受け入れるかどうかの判断材料とする。英語名は「Letter of Intent (LOI)」。

「買収防衛策の必要性が低下した」という川崎汽船の判断は当然ながら熟慮の末のものであろうし、その当否を簡単に述べることはできない。しかしながら、いわゆる「買収リスク」が、ライブドアをはじめとする事業会社やスティール・パートナーズなどのアクティビストファンドによる敵対的買収が株式市場を席巻していた2005年から2007年当時と比較して低下しているかというと、決してそのようなことはないことは本件を見ても明らかだ。

近年、買収防衛策は「投資家の利益を損ない」「重要性が低下した」ため、多くの企業で廃止が進んでいるというイメージを持つ向きも多いだろう。確かに2009年以降、買収防衛策の導入社数は右肩下がりで落ちているが、その一方で、導入最盛期の80%の企業がいまだに買収防衛策を継続していることは意外と知られていない。本来、買収防衛策は企業価値ひいては株主共同の利益を守るということがその最大の目的として挙げられており、買収防衛策の第三者委員会等による明確な指針に基づく客観的な判断がない限り対抗措置の発動は難しい点を見逃してはならない。そして、重要性が低下したとは決して言い切れないことは上述のとおりである。

川崎汽船の一件は、他の上場企業にとっても、「買収リスク」に対する考え方やスタンス、買収防衛策の導入や継続、廃止については改めて考え直すきっかけとなろう。今週29日(水)にピークを迎える2016年3月決算企業の株主総会で、買収防衛策の継続議案等に対し株主がどのような判断を下すのか、注目される。

筆者略歴:
大島 真一
過去15年にわたり、外資系投資銀行等で、国内・海外のM&Aアドバイザリー業務に従事。上場企業への買収防衛関連のアドバイザリー実績も多数。
企業価値向上を目指す企業のための財務戦略アドバイザリーファームである株式会社ベストムーブを2013年に設立し、代表に就任。東京大学経済学部卒。
連絡先: info@bestmove.jp

2016/06/27 決算短信・四半期決算短信改正が企業に与える具体的な影響

証券取引所の規則により開示が要請されている決算短信や四半期決算短信は、金融商品取引法による「法定開示書類」である有価証券報告書や四半期報告書の記載内容と重複箇所が多いことなどから、記載内容の見直しが行われることになったのは周知のとおり(2016年4月20日のニュース「株主総会の7月開催は「任意」で決着の背景 開示の簡素化は実現せず」参照)。その実施時期に注目が集まっていたが、・・・

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2016/06/27 決算短信・四半期決算短信改正が企業に与える具体的な影響(会員限定)

証券取引所の規則により開示が要請されている決算短信や四半期決算短信は、金融商品取引法による「法定開示書類」である有価証券報告書や四半期報告書の記載内容と重複箇所が多いことなどから、記載内容の見直しが行われることになったのは周知のとおり(2016年4月20日のニュース「株主総会の7月開催は「任意」で決着の背景 開示の簡素化は実現せず」参照)。その実施時期に注目が集まっていたが、「日本再興戦略2016」(2016年6月2日公表)により、2016年度中に結論を得ることが明らかにされている(57ページ参照)。

具体的な見直しの内容は以下の3点となっている(2016年4月公表 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」7ページ参照)。

(1)監査及び四半期レビューが不要であることの明確化
(2)速報性に着目した記載内容の削減による合理化
(3)要請事項の限定等による自由度の向上

(1)~(3)がそれぞれ企業にどのような影響を与えるのか整理しておこう。

(1)監査及び四半期レビューが不要であることの明確化
従来から決算短信・四半期決算短信は監査法人による監査や四半期レビューの対象外となっているが、実際には監査・四半期レビューを待ってから決算短信・四半期決算短信を開示する企業が多い。監査法人も、「決算発表日後は数字を動かせない」というクライアントの事情に配慮し、決算発表前までに監査・四半期レビューを概ね終了させるという監査慣行があった。したがって、監査法人はこれを機に、会社の決算発表とは関係なく監査を行うべくスケジュールを変更する可能性がある。企業としては、監査法人にスケジュールに変更がないか、確認しておく必要がある。

当該「明確化」により、決算短信による情報開示の意義が速報性にあることが再確認された格好だが、これを受け企業が決算発表を早めたとしても、その後に数値の訂正が起こるようでは、決算への信頼性が失われてしまう。したがって、現実には、決算発表を早める企業はそれほど多くないだろう。

(2)速報性に着目した記載内容の削減による合理化
決算短信の中で、企業に一律に記載を要請する事項として「経営方針」があるが、これは取り立てて「速報性」が求められものではないことから、一律に記載を要請する事項の一覧から削除される。また、経営方針のように一律に記載を要請する事項ではないが、「事業等のリスク」「利益配分に関する基本方針及び当期・次期の配当」「企業集団の状況」等を開示している企業も多い。これまで一律に記載が要請されていた「経営方針」でさえ記載が不要となる以上、速報性が求められないこれらの情報の開示をやめる企業が相次ぎそうだ。

(3)要請事項の限定等による自由度の向上
これは、短信による情報開示の意義が「速報性」にあることを踏まえ、開示内容として一律に記載を要請する事項の削減を図り、多くの項目の記載を企業の任意とするもの。現在の開示項目と見直し後の開示項目の比較表は下記のとおり。見直し後は、表中①から④の開示が取引所からの要請項目となる。サマリー情報は「様式による開示を要請」とされ、「義務」ではなくなっている点、注目される。また、③のとおり、財務諸表は「投資者の投資判断を誤らせるおそれがない場合は決算短信の開示時点での開示は不要(開示可能になった段階で財務諸表を開示することを認める)」とされたことで、今後は決算短信に財務諸表を添付しない企業が出てくることになろう。

項 目 現在の決算短信 見直し後の決算短信
①サマリー情報 様式による開示が義務 様式による開示を要請
②経営成績・財政状態・今後の見通し 分析的な記載を要請 概況の記載を要請
③(連結)財務諸表 連結財務諸表と主な注記の開示を要請(個別財務諸表の開示は不要) 連結財務諸表を開示しなくとも投資判断を誤らせる恐れがない場合には、開示不要
開示可能となった時点で追加的に開示を要請
④会計基準の選択に関する考え方 一律に記載を要請 変更なし
⑤経営方針 一律に記載を要請 記載不要
(有価証券報告書に記載)
⑥継続企業の前提に関する重要事象等 一律に記載を要請 記載不要
(有価証券報告書に記載)

ディスクロージャーワーキング・グループにおいては、四半期決算短信と四半期報告書の開示のタイミングにほとんど差異がない(平均6日、同日提出は300社程度)ことから、「四半期決算短信は不要とすべき」との意見もあったが、結局、四半期決算短信は廃止には至っていない。ただ、「日本再興戦略2016」には、「四半期開示については(略)まずは、株式会社東京証券取引所による決算短信の見直しの内容、その影響や効果の評価・分析と、今後の必要な改善点等の把握を本年中より順次開始する。」とあるため(164ページ参照)、四半期決算短信を含めた四半期開示制度の抜本的な見直しが将来的に行われる可能性は残っていると言えそうだ。

2016/06/27 【特集】日本企業の思惑と逆行?「知的財産紛争処理システム」の行方

上場会社役員ガバナンスフォーラム

1.はじめに

日本企業の生命線とも言える「知的財産」を守るための仕組みである知的財産の紛争を処理するシステム(以下、知的財産紛争処理システム)が揺れている。

知財高裁の設立から10年が経過する中、政府内では、昨年(2015年)から「知財を巡る紛争の仕組みを根本的に見直すべきではないか」という主張が聞かれるようになり、その主張を踏まえ、内閣府に設けられた知的財産戦略本部などでは、この問題について集中的な議論が行われてきた。ただ、仮にそこで展開されてきた主張が実現すれば、日本企業にとって、かえってマイナスになる可能性がある。

知財高裁: 知的財産に関する事件を専門に取り扱う東京高等裁判所の特別支部。ただし、知財高裁独自に所長や裁判官会議、事務局を設置しており、東京高裁からの独立性は高い。正式名称は「知的財産高等裁判所」。知的財産高等裁判所設置法に基づき、2005年4月1日に設立された。

本稿では、現在政府内で進む知的財紛争処理システム見直し議論の問題点と、今後の法改正の行方をレポートする。

「2.一見企業にプラスに働きそうな“推進派”の主張」へ(会員限定)

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2016/06/26 【特集】日本企業の思惑と逆行?「知的財産紛争処理システム」の行方(3・会員限定)

4.知財紛争処理システムの行方

こうした推進派と慎重派の議論の末、今年(2016年)3月には知的財産戦略本部の中に設けられた知財紛争処理システム検討委員会が「知財紛争処理システムの機能強化に向けた方向性について」をとりまとめ、4月には自民党知的財産戦略調査会の「地方創生とイノベーション創出のための知的財産戦略 提言」も公表されている。さらに5月には知的財産戦略本部が「知的財産推進計画2016」を決定している。

結論から言えば、これらの報告書では“推進派”の当初の主張は若干トーンダウンしている。例えば、知財紛争処理システム検討委員会の報告書「知財紛争処理システムの機能強化に向けた方向性について」を見ると、営業秘密の流出が懸念されていた証拠収集手続については、「訴え提起前の手続の拡充(証拠収集手続の拡充)については、拡充により期待される権利者への利益と、営業秘密の保護や制度の濫用等に関する問題やリスクを利益衡量して、その是非を判断することが妥当であり、具体的な対応策について個別に検討することが適当と考えられる」(6ページ下部参照)、「(訴え提起後の証拠収集手続の拡充については)訴訟初期の争点整理段階であることや、営業秘密の保護の点でも課題があると考えられるため、利用者の視点等に照らし、具体的態様を証する証拠提出義務を課すことは当面行わず、具体的態様の明示義務の運用状況を引き続き注視していくことが適当である」(10ページ上部)との文章が入るなど、営業秘密の漏洩対策への配慮が相当に意識された書き振りとなっている。これは、同委員会における産業界メンバーの発言を反映したものと言える。

また同報告書には、第三者の専門家や代理人のみへの書類開示を想定した制度を検討する旨が盛り込まれているが(7ページ下部の(b))、これも、訴訟を通じて開示された証拠が流出することを懸念する産業界が、「裁判所」や「代理人(例えば弁護士、弁理士)」のみ(裁判の当事者は対象外)を証拠開示の対象とするよう提案を行なったことを取り入れたものだ。訴訟制度の基本からすれば、「当事者に開示されない情報」を証拠として採用することは、いわば相手方に反論の機会を与えないことになるため、本来であれば「公平性を失する」ものとして認められない。しかし、揉めている企業同士が競合関係にあるケースが多いことや、情報の性質や機密性の高さ、事案への影響の大きさなどを考慮し、今後、産業界の望む方向で法改正が行われる可能性は十分にある。

このほか、懲罰的(追加的)損害賠償を正面から導入を示唆するような文言はいずれの報告書にも見当たらない。自民党の提言では「特に悪質な侵害に対する方策については法体系全体も視野に入れて多面的な検討を進める」とあるが、これが今後どのような議論に発展するかも注目される。昨年の不正競争防止法の改正では、罰金の増額、報酬の没収などの措置が講じられたところだが(2015年7月24日のニュース「訴訟増加も!営業秘密の不正使用、立証責任が転換」参照)、営業秘密の不正取得・使用があったかどうかの判断以上に、特許侵害における「悪質性」の判断は難しいため、検討は難航することになりそうだ。

今後、これらの報告書を基に、知財紛争処理システムの見直しが本格的に検討され、最短では来年(2017年)の通常国会に法案が提出される見込みとなっている。上述のとおり、営業秘密の漏洩を恐れる企業の関心が高い証拠収集手続の拡充が報告書に明記されなかった点は企業にとってはポジティブだが、報告書では「拡充を行わない」と言い切っているわけではない。これまで述べてきたように、今回の知的財産紛争処理システムを巡る議論の行方は、企業にとっての知財の守り方、知財を巡るリスクに大きな変化をもたらす可能性がある。場合によっては自社の屋台骨を揺るがしかねない問題だけに、知財担当取締役等以外の役員も、この問題には関心を持つ必要がある。当フォーラムでは法改正に向けた議論に進展があり次第、続報していきたい。

2016/06/26 【特集】日本企業の思惑と逆行?「知的財産紛争処理システム」の行方(2・会員限定)

2.一見企業にプラスに働きそうな“推進派”の主張

まず、知的財産の紛争処理システムの見直しに積極的な“推進派”の意見を見てみよう。推進派の意見は下記の4つに集約される。
(1) 訴訟件数が少ないのは、知財が有効に活用できていないからだ。訴訟件数を増やす取り組みをすべきである。
(2) 自社の特許が侵害されているとして訴訟を起こしたにもかかわらず、「そもそもその特許自体が無効であった」という結論が出ることもしばしばある。せっかく特許庁の審査を受け、毎年特許料を支払って維持してきた特許が無効とされ、さらに訴訟にも負けてしまうのでは報われない。訴訟においては、権利者(特許等の知財保有者)が勝ちやすくすべきだ。
(3) 訴訟で勝ったとしても、得られる賠償額は微々たるもの。この事実は「日本では知財が尊重されていない」というメッセージになりかねない。権利侵害が認められれば、従前よりも賠償額を高く認定できるような制度的手当てをすべきだ。
(4) 知財訴訟においては、証拠が集まりにくい傾向が見られる。そこで、通常の訴訟よりも証拠収集手続を拡充すべきだ。

3.“推進派”の主張に潜むリスク

一見するといずれも企業にとってはメリットがあるようにも見えるが、実はそうとは言えない。1つづつ検証してみよう。

(1)訴訟件数が多ければ、知財の活用がなされていることになるのか?
知財立国を目指す日本において、特許などの知的財産が侵害された際にこれを差し止めたり損害賠償を請求できるという仕組み、すなわち訴訟システムが整備されていることは極めて重要である。

とはいえ、企業にとって、「訴訟」はあくまで最後の手段である。訴訟は多くのリスクを伴う。負けるリスクに加え、訴訟には時間的コスト、金銭的コストもかかる。訴訟の対象となっている特許に関わった技術者や研究者を訴訟に引っ張り出せば、その分、研究開発の時間も失われる。つまり、訴訟には「人的コスト」もかかる。

また、“裁判沙汰”という言葉にも象徴されるように、訴訟の少ない日本では、訴訟で争っていること自体が、レピュテーション上マイナスになる。企業が訴訟リスクを徹底的に減らす努力をし、問題が起こった際もできるだけ訴訟に発展するのを避けるようにしているのもこのためだ。

したがって、「訴訟が少ない=知財が活用されていない証拠」という主張は、企業の実態を知らない的外れなものであると言わざるを得ない。

(2)知財訴訟は「権利者」に有利に働くようにすべきなのか?
特許は、出願登録時だけではなく、維持していくにもコストがかかる。その特許が侵害されているとして訴訟を提起したにもかかわらず、「そもそもその特許自体が無効である」と言われるのでは浮かばれない、という主張は確かに一理ある。しかし現実には、質の低い特許を安価で取得したうえで「(その)特許を侵害している」と言いがかりをつけ、訴訟提起をちらつかせて和解金を求めてくるような悪質企業も存在している。

現在、日本で起こった知財訴訟のうち、特許権が無効とされるケースはおよそ3割ある。ここでいう「3割」とは、裁判にまでもつれ込む問題が起こった特許の中の3割であり、出願・登録された特許の3割が無効になるわけではない。この数字は世界的に見ても妥当なものとなっている。特許庁は近年、特許審査の質の向上に取り組んでいるが、その一方で、審査の迅速化も図られている。世界中にある情報をつなぎ合わせれば、新規性や進歩性に疑義のある特許が生まれてしまうのは、半ば仕方のないことでもある。

裁判所が「権利者がお金をかけて登録・維持している」ことを考慮する必要はない。あくまでも「勝つべき者を勝たせる」ことが、“公正中立な法の番人”としての役割と言える。

(3) 賠償額をより高く取れるような制度的手当てを行なうべきか?
重要な知的財産を侵害された企業が訴訟を起こし、人的コスト・時間的コストと高額な弁護士費用をかけて勝ったとしても、被った損害を補填できるだけの賠償額を得られないのであれば、訴訟をする意味はない。

そこで“推進派”は、米国の「三倍賠償」にならい、「追加的損害賠償・懲罰的損害賠償(以下、懲罰的損害賠償)」という、損害以上の賠償額が取れる仕組みを取り入れてはどうか、と提案している。しかし、企業が訴訟を提起される立場に立つこともある以上、このような仕組みの導入は諸刃の剣となる。

三倍賠償 : 米国特許法上の規定で、知的財産権の侵害行為が故意であった場合、裁判官の裁量により、最高で損害の3倍の賠償金を懲罰として科すもの。日本では、損害額を超える賠償金支払いは認められていない。
追加的損害賠償・懲罰的損害賠償 : 侵害行為の悪質性が高く、立証された損害賠償額では不十分であると裁判所が判断した場合などにおいて、追加的賠償を命じることができる制度

それ以前に、そもそも日本の法制上、懲罰的損害賠償を導入することはできない。他者の不法な行為によって損害を受けた者が賠償請求を行なう根拠となっている民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定している。この「これによって生じた損害を賠償」という文言からも明らかなように、民法709条は、損害を回復し、不法行為前の状態に戻すことを目的としており、受けた損害以上の賠償金を請求することは想定していない。例えば特許であれば、侵害していた期間、ライセンスを通常通り受けていた場合に権利者が受け取っていたはずの利益を損害とみなすことになる。

“推進派”はこれまでの判例で認定された賠償額の少なさを踏まえ、より高い賠償額を命じることができる制度の導入によって、賠償額の引き上げを図るべきだと主張している。ところが、少ないと批判されている賠償額は、実は他国と比較して低いわけではない。確かに、懲罰的損害賠償を認めている米国のそれは極めて高額だが、特許の価値は、発明の位置付け、製品を保護し得る件数、市場規模等により大きく変わる。したがって、他国と賠償額の高低を比較する際には、単純に額のみを比べるのではなく、これらの要素を勘案した上で、「不当に」低いかどうかを考える必要がある。実際、企業に話を聞くと、「日本の裁判では概ね違和感のない認定がなされている」との答えが返ってくるケースがほとんどとなっており、実損の3倍以下まで賠償額を認定することを認めるという懲罰的損害賠償に対しては口を揃えて反対している。

(4)証拠の収集を行ないやすくすべきなのか?
日本の民事訴訟では、自分の主張したい事実は自分で立証しなくてはならず、そのための証拠収集も当事者自らの手によってなされるのが原則となっている。個人や民間企業には当然ながら警察のような捜査権限があるわけでないため、証拠収集は困難を極めることになる。それが原因で、訴訟で敗訴した企業も少なくない。

こうした事情を背景に、“推進派”は、当事者に関係するあらゆる情報を吐き出させ、証拠を一気に集めることを可能とする米国式の証拠収集手続である「ディスカバリ制度」の導入、裁判所による文書提出命令の発動要件(権利侵害者が訴訟で文書を引用した場合など。民事訴訟法220条)の引き下げ、第三者(例えば裁判所が認定した弁護士や弁理士)による査察制度、などの新設を主張している。

しかしながら、裁判実務への影響を十分に検証せずにこれらの制度の導入するのはあまりに拙速との声が多く、実際、既に導入されている国においても課題が指摘されていたり、実際は機能していなかったりと問題が生じている。これらの導入によってもっとも懸念されるのが「営業秘密」の流出だ。

昨年の不正競争防止法の改正(2015年7月24日のニュース「 訴訟増加も!営業秘密の不正使用、立証責任が転換」参照)の際にも産業界が繰り返し主張してきたとおり、営業秘密の漏洩は企業の競争力を著しく下げるものであり、そのリスクを避けるためならば、企業は少々の犠牲は厭わないほどだ。例えば、裁判に勝つために極めて有力な情報があったとしても、それが営業秘密の漏洩につながるものであれば証拠として提出しないことを選択するケースも珍しくない。

特許訴訟で企業を食いつぶすビジネスモデルを展開する海外法人(パテント・トロール=特許の化け物)は、こうした企業行動を知ったうえで多額の和解金や賠償金をせしめようと訴訟を提起し、仮にそれらを得られなくても、営業秘密が手に入れば儲けモノと考えている。現在の日本では証拠収集の手続がある程度限定的なため、パテントトロールはそれほど入り込んできていない。しかし、訴訟提起や証拠収集のハードルを下げれば、日本国内にも魔の手を伸ばしてくることは十分に考えられる。海外の制度の導入を検討する際は、メリットだけではなく、デメリットも十分に検討する必要がある。

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2016/06/26 チェックリスト:社外取締役を選任したい(会員限定)

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■チェックリスト:社外取締役を選任したい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
会社法上の「社外取締役」と上場規則上の「独立社外取締役」の違いを理解しているか。 メインバンクから派遣された者や、コンサルタント契約等により多額の金銭を受領している者は、「社外取締役」にはなれても「独立社外取締役」には該当しないないなど、上場規則の方が「経営陣から独立した第三者としての地位」をより厳格に求めている。
独立社外取締役候補の選定にあたり、「一般株主と利益相反が生ずるおそれがない」かどうかを確認したか。 持株会社の「子会社」の取引先の業務執行者を「持株会社の社外取締役」にするケースなどは、「一般株主と利益相反が生ずるおそれ」がある。
議決権行使助言会社最大手のISSの独立性基準を確認したか。 上場規則にはない独立性基準として、「大株主の企業での勤務経験がある場合」「主幹事証券での勤務経験がある場合」「顧問契約などが現在または過去にある場合」などがある。
自社(グループ)としての独立性基準を策定し、証券取引所が求める独立役員届出書やコーポレートガバナンス報告書、自社ホームページ等において開示しているか。 コーポレートガバナンス・コードでは、「取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべき」(原則4-9)としている。策定にあたっては、証券取引所、ISSの独立性基準も踏まえたうえで、ガバナンスに先進的な上場会社の独立性基準を参考にするのもよい。
社外取締役と監査役の役割の違いを理解しているか。 監査役の役割は主に「業務執行の適法性」を監査することであり、取締役を指揮する権限(指揮権)はない。一方、社外取締役は、取締役会での議決権を行使することや、必要があれば議案を取締役会に付すことを通じて、他の取締役を「監督」することが期待されている。ただし、監査等委員会設置会社における「監査等委員である社外取締役」は、取締役の「監督」業務に加え、「取締役の業務執行を監査する権限」があり、「監査役」と「社外取締役」の両方の性質を持っている。
監査等委員会設置会社に移行する際は、「監査等委員である社外取締役」就任予定者が「妥当性」まで判断する責任を負えるのか否かについて検討したか。 「監査等委員である社外取締役」は(社外)監査役出身者が多いが、監査役の場合、例えば会計に関する事項は公認会計士資格を持った監査役が行うというように“分野の分担”がなされているケースが少なくない。しかし、「監査等委員である社外取締役」として議決権者の1人となれば、自身の専門分野外の事項についても議決権を行使しなければならず、また、(監査役よりも)「妥当性監査」により踏み込んだ監査が必要になる。
社外取締役と社内取締役の違いを理解しているか。 社内取締役と同様、社外取締役にも善管注意義務・忠実義務が課されているが、社外取締役は「業務執行」を行うことはできず、あくまで他の取締役の「監督者」としての役割を負う。ただし最近は、単に監督者としての役割だけではなく、従来の会社内部の既成概念にとらわれない斬新な発想を提案するといった積極的な役割も期待されるようになっている。
社外取締役候補探しにあたっては、「肩書き」のみならず、その人物を社外取締役に選任することによる“取締役会の空気”への影響も考慮しているか。 例えば、取締役会における社長の影響力が大きすぎる場合には、社長よりも年齢が上で、自社より規模の大きい同業他社の出身者など、社長が一目置かざるを得ないような人物、企業価値を向上させるためには、業界に精通し、しかも「競争相手」として自社を外部から分析してきたライバル企業の元経営者などが効果的。ただし、同業他社の出身者は、競業避止義務を負わされている場合がある。
社外取締役候補探しにあたっては、「ダイバーシティ」を考慮しているか。 取締役会メンバーが50代後半の日本人男性ばかりで発想も似通っており、議論が偏りがちというケースでは、例えば中堅世代のベンチャー企業経営者、日本語が堪能な外国人経営者、上場会社の女性経営幹部などを社外取締役に招聘することが考えられる。
社外取締役候補者探しにあたっては、自社の直面する経営課題の解決に貢献できる資質を持っているか否かを検討したか。 例えば、グローバル化が経営課題である場合には外資企業の経営トップ、グループ再編を構想していれば企業組織論の研究者、不祥事からの信頼回復が急務ならば消費者問題に詳しい弁護士など、個々の企業が置かれた状況にマッチした人材を選任することが考えられる。
社外取締役候補者探しにあたっては、自社にどれくらい時間を割けるのか確認したか。 社外取締役は取締役会の事前準備に最低でも数日、長い人だと半月程度割いている。多忙のあまり取締役会への出席がままならない場合、任務懈怠に問われる可能性もある。また、議決権行使助言会社最大手のISSは、「前会計年度における取締役会の出席率が75%未満の社外取締役」の選任議案には原則として反対を推奨するとしている。
取締役会開催にITの活用を検討したか。 会社法上、テレビ会議や電話会議のシステムを使って取締役会に参加することは認められており、このような形での参加も「出席」にカウントされる。
経営トップの人的ネットワーク以外で社外取締役候補者を探してくることを検討したか。 経営トップなどの知り合いを社外取締役に選任することは上場規則上の独立性基準に抵触しないとはいえ、投資家に「独立性」について説明するのが難しくなる可能性がある。
社外取締役の合理的な任期を検討したか。 社外取締役の任期を「2年」とし、内規で改選期を「2期あるいは3期」、つまり4~6年の任期としている会社が多い。それを超える任期となると「独立性」が薄れてくると考えられ、株主総会において反対票が投じられる可能性も高まる。
継続的に社外取締役候補の人選を行っているか。 独立社外取締役を2名以上選任したとしても、いずれ改選の時期は来るうえ、将来的には投資家サイドから「取締役会の過半数を独立社外取締役にすべき」といった声が高まり、独立社外取締役の増員を求められる可能性もある。
社外取締役の任期途中での解任は困難であることを理解しているか。 たとえ選任した社外取締役が思い描いていたような人材でなかったとしても、任期途中に解任するには、株主総会の決議を行う必要があるうえ、任期途中での解任に正当な理由がないとなれば、社外取締役は会社に対し、任期をまっとうした場合に支払われるはずだった役員報酬の支払いを求め、損害賠償請求することも可能。法令の違反等があったなどの事情がない限り、一度選任された社外取締役を任期途中で解任することは困難。
社外取締役の報酬額は適切か。 多過ぎれば社外取締役の「独立性」に疑いが生じる一方、少なすぎれば、そもそもなり手がなかなか見つからない可能性がある。企業規模によっても異なるが、おおむね500~1,000万円程度が相場。
社外取締役の報酬内容を検討したか。 社外取締役への報酬は全額「固定報酬」が基本。賞与や利益連動型報酬については、社外取締役が短期の業績を気にするあまりガバナンス上適切な判断ができなくなる恐れがあるため、また、退職慰労金については、社外取締役が長期間その座に居座る誘因となり得るため、ともに適切でないと考えられている。一方、ストックオプションをはじめとする株式報酬は、株主と利害を一致させるため有用とも言われるが、株式報酬にはダウンサイドのリスク(損失のリスク)がないことから「株主と利害を一致させる」とは言えないとの意見や、公平な第三者の立場から経営陣を牽制する役割を害するとの意見もある。
責任限定契約や役員賠償責任保険(=D&O保険)を用意しているか。 責任限定契約を締結した場合でも、会社からもらった年収の2年分とストックオプションの行使により得た利益の分は「最低責任限度額」として責任を負うことになるため、D&O保険にも加入するのが通常。
社外取締役が職務を遂行するうえで必要なバックアップ体制は整っているか。 取締役会事務局によるバックアップ体制、施設見学など会社を知る機会の提供、監査役と情報交換する機会の提供、経営トップと1対1で話す機会の提供などが必要となる。特に取締役会事務局による事前(取締役会前)の情報提供は必須。
取締役会議長は、取締役会でできるだけ社外取締役に発言させるよう努めているか。 実質的な議論が経営会議や常務会などで行われ、取締役会が意思決定のみの場となっている場合には、経営会議などの資料及び議事録を取締役会の前に社外取締役に送付する、あるいは、希望があれば経営会議などに陪席(ばいせき)してもらうことなどにより、取締役会の前に、経営会議などの議論を社外取締役がチェックできるようにしておくことが求められる。
社外取締役を含めた取締役会メンバー全員で、取締役会の運営方法について意思統一を図っているか。 取締役会は経営の重要事項を討議する場であって、瑣末(さまつ)な論点は持ち出ださないことなどを、就任時点など早い段階で確認しておく必要がある。

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2016/06/26 【ガバナンスのあり方】社外取締役を選任したい(会員限定)

 

独立社外取締役の選任問題は今後も続く

周知のとおり、2015年5月1日から施行された改正会社法では「1人以上」の社外取締役の選任が義務付けられ、社外取締役を置かない場合には、「置くことが相当でない理由」を事業報告および株主総会参考書類に記載するとともに(会社法施行規則74条の2第2項、124条2項 *1)、株主総会での説明が求められています(会社法327条の2)。この改正会社法の施行に先立ち、東証は2014年2月に有価証券上場規程を改正(2014年2月10日施行)、上場会社に対し「独立取締役(=独立社外取締役。詳細は後述)」を少なくとも1名以上確保する“努力義務”を課しています(有価証券上場規程445条の4 *2)。

*1 株主総会参考書類への記載が必要になるのは、現在社外取締役を置いていないか、あるいは当該株主総会終結時に社外取締役を置いていない状態となる見込みであるにもかかわらず、社外取締役候補者の取締役選任議案を提出しない場合である。
*2 独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役)の1名以上の確保が“義務”とされている(上場規程第436条の2)。

また、コーポレートガバナンス・コード(2015年6月1日~)では、独立社外取締役(詳細は下図参照)を2名以上置くべきとし(原則4-8)、これを遵守(コンプライ)しない場合にはその理由を説明(エクスプレイン)することを求めています(東証一部、二部上場企業のみ)。同様に、議決権行使助言会社最大手のISSの議決権行使助言基準でも、「複数の独立社外取締役」の選任が求められています。

会社法の改正以来、多くの上場会社が社外取締役を選任している中で、自社が社外取締役を置くことが相当でない理由を説得的に説明することは難しいため、今や「社外取締役が1人もいない」という上場会社はほとんどなくなりました。しかし、一部の上場会社では社外取締役が「独立社外取締役」でないほか、コーポレートガバナンス・コードやISSの議決権行使助言基準が求める「2名以上の独立社外取締役」を設置していないところは依然として少なくありません。

上場会社の大部分を占める監査役会設置会社においては2名以上の「社外監査役」の設置が義務付けられていますが、改正会社法により新設された新たな機関設計である「監査等委員会設置会社」に移行すれば、現在の社外監査役を「社外取締役」にスライドさせることが可能であるため、2名以上の社外取締役の確保に苦慮する監査役会設置会社の中には、監査等委員会設置会社に移行するところが続出しています(監査等委員会設置会社への移行についてはケーススタディ「監査等委員会設置会社に移行したい」参照)。

ただ、独立社外取締役を2名以上選任したとしても、いずれ改選の時期は来ますし、また、将来的には投資家サイドから「取締役会の過半数を独立社外取締役にすべき」といった声が高まり、独立社外取締役の増員を求められる可能性もあります。

したがって、(独立)社外取締役の選任問題は今後も上場会社にとって課題であり続けるでしょう。

「社外取締役」と「独立社外取締役」の違いは?

下図に示したとおり、会社法上の「社外取締役」(会社法2条15号)と上場規則上の「独立社外取締役」(独立役員(上場管理等に関するガイドラインⅢ5.(3)の2)の届け出をした社外取締役)の範囲はおおむね重なっています。

<会社法上の「社外取締役」と上場規則上の「独立社外取締役」の違い>
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かつては「親会社の役職員」を社外取締役に据える上場会社も多く見られましたが、下表に示したとおり、現在は会社法上の社外取締役の資格要件も厳しくなり、現在は「親会社等の取締役・執行役・使用人」は社外取締役になることはできません。会社法改正より、会社法上の「社外取締役」が上場規則上の「独立社外取締役」に近づいたと言えるでしょう。

<新旧会社法における社外取締役の要件>

旧会社法における社外取締役の要件 改正会社法により追加された社外取締役の要件
・当該会社またはその子会社の業務執行取締役、執行役、支配人、その他の使用人(従業員一般を指す。この表において同じ)でないこと
・過去に当該会社またはその子会社の業務執行取締役、執行役、支配人、その他の使用人でないこと
・「親会社」の取締役、執行役、支配人、その他の使用人ではないこと
・「子会社」「兄弟会社」の業務執行取締役、執行役、支配人、その他の使用人ではないこと
・自社の取締役、執行役、支配人、重要な使用人(部長や執行役員等)の近親者ではないこと
・社外取締役に就任する前の10年間のうちに、自社または子会社の業務執行取締役、執行役、支配人その他の使用人であったことがないこと

会社法上の「社外取締役」と上場規則上の「独立社外取締役」の大きな違いは、メインバンクをはじめとする取引先から派遣された者や、コンサルタント契約等により多額の金銭()を受領している者などは、会社法上の「社外取締役」にはなれても、上場規則上の「独立社外取締役」にはなれないという点です。

 上場規則上、金額は示されていませんが、「1,000万円」という独自基準を設けている会社が多くなっています。

会社法に比べ上場規則の方が、「経営陣から独立した第三者としての地位」をより厳格に求めていると言えるでしょう。これは、「債権者保護」を目的とする会社法と、「投資家保護」を目的とする上場規則の差から来る違いと考えられます。特にメインバンクは「債権者」の代表であり、債権者保護を目的とする会社法がその社外取締役就任を否定しにくいというのも理解できるところです。

また、上場規則では、「一般株主と利益相反が生ずるおそれがないとはいえない場合」にも、独立役員の要件を満たさないとしている点(上図の右枠の一番下)は要注意です。このケースに該当しかねないのが、持株会社の「子会社」の取引先の業務執行者を、持株会社の社外取締役にするケースです。上図(右枠の一番上)のとおり、上場規則では「(自社の)主要な取引先の業務執行者」は独立社外取締役に該当しないとしていますので、「子会社の取引先」の業務執行者であれば、一見すると上場規則上の独立性基準には抵触しないように見えます。しかし、通常は持株会社グループの収益を稼いでいるのは事業子会社なので、その事業子会社が持株会社グループの中で重要な位置を占めており、しかも当該事業子会社の「主要な取引先」の業務執行者が持株会社の社外取締役に就任するとなれば、当該社外取締役については、持株会社の経営からの独立性が危ぶまれるところです。上場規則では、こうした場合には「形式」ではなく「実質」で独立性を判断しなければならない、としているわけです。

このように、上場規則上の独立性基準は、会社法上の社外性要件よりも厳しくなっていますが、コーポレートガバナンス・コードが上場会社に求めているのは、2名以上の「独立社外取締役」の選任である以上、上場会社は会社法の「社外性」のみならず、上場規則上の独立性基準も充たす人物を2名以上選任する必要があります(または、2名以上の独立社外取締役を選任しなかった理由をエクスプレインする必要があります)。

ただし、上場規則が定める独立性基準を充たす独立社外取締役を設置しても、株主が納得しないケースもあります。議決権行使助言会社最大手のISSは、上場規則にはない独立性基準として、「大株主の企業での勤務経験がある場合」や「主幹事証券での勤務経験がある場合」、「顧問契約などが現在または過去にある場合」などを挙げています(2016「日本向け議決権行使助言基準」6ページ参照)。

コーポレートガバナンス・コードでは、「取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである」(原則4-9)としています。この原則をコンプライするためには、証券取引所のみならずISSの独立性基準も踏まえたうえで、自社(グループ)としての独立性基準を策定し、証券取引所が提出を求める独立役員届出書やコーポレートガバナンス報告書、自社ウェブサイト等において開示する必要があります。その際には、ガバナンスに先進的な上場会社が独自に定めている独立性基準を参考にするのもよいでしょう。

社外取締役と「監査役」「社内取締役」の役割の違いは?

監査役(会)設置会社では、監査役が取締役の業務執行を「監査」することとされており、また監査役の過半数は社外監査役であることが求められています(会社法335条3項)。一見すると、監査役の職務は第三者の視点を取り入れることが期待される社外取締役の役割と重なるように見えますが、両者の最大の違いは、監査役が取締役の業務執行を「監査」するのに対し、社外取締役は他の取締役を「監督」するという点にあります。

監査役(会)設置会社 : 会計業務以外の「業務活動」の監査(業務監査)権限を有する監査役を設置する会社

さらに詳しく説明しましょう。監査役は主に「業務執行の適法性」を中心に監査しつつ、一部「業務執行の妥当性」にまで踏み込んで監査を行うこととはされているものの、監査役の業務はあくまで「監査」であり、取締役への指揮権がないという点で、「業務執行の妥当性」を担保するための必要十分な牽制が効かないと考えられています。一方、社外取締役は文字通り「取締役」であり、その業務執行が妥当か否かを取締役会での議決権行使という形で判断する能力を持っているとされています。したがって、社外取締役には、議決権を行使すること、また、必要があれば議案を取締役会に付すことを通じて、他の取締役を「監督」することが期待されています。

妥当性 : 取締役の職務執行が経営方針等に準拠して合理的であるか否かを検討する監査。取締役の職務執行が法令や定款に準拠して実施されているか否かを検討する適法性監査とは区別される。

ただし、改正会社法により新たに認められた機関設計である「監査等委員会設置会社」では、「監査等委員である社外取締役」という、監査役と社外取締役の“中間”に位置するようなポジションが設けられています。実際、「監査等委員である社外取締役」には、取締役の「監督」業務に加え、監査役(会)設置会社における監査役の業務である「取締役の業務執行を監査する権限」が付与されています。もちろん、「取締役」である以上、取締役会での議決権が付与されているという点では「監査役」とも異なります。「監査等委員である社外取締役」は、文字通り「監査役」と「社外取締役」の両方の性質を持っていると言えるでしょう(なお、監査等委員会設置会社では、監査の職務を担うのは監査等委員である取締役であり、監査等委員とは別に監査役を設置することはできません)。

監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する際には、現在の社外監査役を「監査等委員である社外取締役」にスライドさせることが可能となっているため(詳細はケーススタディ「監査等委員会設置会社に移行したい」の「社外監査役を社外取締役に」参照)、「監査等委員である社外取締役」は(社外)監査役出身者が多くなっています。監査役の場合、例えば会計に関する事項は公認会計士資格を持った監査役が担当するというように“分野の分担”がなされているケースが少なくありませんが、「監査等委員である社外取締役」として議決権者の1人となれば、自身の専門分野でない事項についても「会社の中長期的な発展に資するか」という視点から十分な情報をもって検討し、議決権を行使しなければなりません。また、監査等委員は取締役であるという点で、業務執行が妥当か否かを判断できると考えられるため、(監査役よりも)「妥当性監査」により踏み込んだ形で監査を行うべきです。したがって、監査等委員会設置会社に移行する際は、就任予定者が「妥当性」まで判断する責任を負えるのか否かについても検討が必要になります。(2016年5月25日のニュース「監査役と監査等委員の違い」参照)。

最後に「社外取締役」と「社内取締役」の違いですが、当然社外取締役にも、内部から登用された社内取締役と同様に、善管注意義務忠実義務が課されています。つまり、社外取締役であっても、その職務を行うにあたって法令・定款、株主総会決議を遵守し、会社のために忠実に職務を行わなければならないということです。もっとも、元々社外取締役は「社内出身の取締役を牽制する」という意図で導入されるようになった経緯から、「業務執行」を行うことはできません。社外取締役に期待されているのは、あくまで「監督者」としての役割ということになります。ただし最近は、単に監督者としての役割だけではなく、従来の会社内部の既成概念にとらわれない斬新な発想を提案するといった積極的な役割も期待されるようになっています。

善管注意義務 : 取締役が会社との委任関係に基づいて負うことになる「善良な管理者の注意」をもって職務を遂行する義務のこと(会社法330条、民法644条)。
忠実義務 : 会社法が取締役に対して求める「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行なう義務」のこと(会社法355条)。忠実義務と善管注意義務の関係を説明する学説は諸説あるが、忠実義務とは「善管注意義務を明確化したもの」と考えればよい。

社外取締役はどうやって探す?

ここまで社外取締役の独立性や役割について解説してきましたが、改正会社法や上場規則、さらには機関投資家が求める独立性要件をすべて満たし、かつ「社外取締役」という重責を担える人材はどうやって見つければよいのでしょうか。

独立性さえあれば誰でも社外取締役になれるのであれば話は簡単です。しかし、上場会社の社外取締役となるには、最低限、上場会社の経営や上場会社の取締役会について熟知していることが求められます。こうした知見を有した人物の中から、上述した独立性基準を満たす者を探していくのは簡単なことではありません。

社外取締役に必要な知見を有しているという意味では、上場会社の経営トップ経験者(会長、社長)やそれに準じる会社役員(副社長、専務など)が望まれるケースが多く、また、それより多少ポジションは落ちても、グローバル組織や研究開発部門などを率いた経験を買われて社外取締役に招聘されるケースも見受けられます。

上場会社の経営経験者以外では、経営学や技術分野に詳しい大学教授、企業法務を専門とする弁護士、財務会計を専門とする公認会計士、経営コンサルタントなどが招聘されることも少なくありません。ただし、弁護士などの士業やコンサルタントの場合、現在や過去において顧問契約など取引関係があったり、多額の報酬を受け取っていたりすると、上述した上場規則やISSの独立性基準に抵触することがあるので注意が必要です。

また、肩書きや専門分野だけでなく、その人物を社外取締役に選任することによる取締役会の“空気”への影響も見極める必要があります。例えば、取締役会にはワンマン社長とイエスマンしかおらず、実質的に社長の独断で議論の行方が決まっているような場合には、ワンマン社長が一目置かざるを得ないような人物を社外取締役として招聘することが、取締役会の実効性を高めるうえで非常に効果的です。一例として、社長よりも年齢が上で、自社より規模の大きい同業他社の出身者が挙げられます。

海外では、ライバル企業の元経営者を社外取締役に起用するケースが珍しくありません。業界に精通し、しかも「競争相手」として自社を外部から分析してきたライバル企業出身者の意見は、間違いなく自社の企業価値向上に資するはずです。ただし、同業他社の出身者は、元所属先から技術等の流出を防ぐことを目的とした競業避止義務
を負わされている場合があることには注意が必要です。同業他社出身者が難しければ、関連業界出身者まで候補者を広げてもよいでしょう。

競業避止義務 : 自己または第三者のために競業関係にある会社に就職したり、競業関係にある事業を行なったりすることはできないとするもの。取締役の場合、会社法365条により競業避止義務が課されている。

また、取締役会メンバーが50代後半の日本人男性ばかりで発想も似通っており、議論が偏りがちという場合には、例えば中堅世代のベンチャー企業経営者、日本語が堪能な外国人経営者、上場会社の女性経営幹部などを社外取締役に招聘し、取締役会メンバーに多様性(ダイバーシティ)を持たせるのもよいでしょう。ただし、上場会社、特に大企業の取締役を委任するに足るだけの人物は現実には限られているため、人選は慎重に行うべきです。

さらに、現在自社が直面する経営課題の解決に貢献できる資質を持っているかどうかという“実益”の有無も重要なチェックポイントになります。例えば、グローバル化が経営課題である場合には外資企業の経営トップ、グループ再編を構想していれば企業組織論の研究者、不祥事からの信頼回復が急務ならば消費者問題に詳しい弁護士など、個々の会社が置かれた状況にマッチした人材を選任することが考えられます。

このほか、社外取締役の選任に際しては、取締役会への出席をはじめとして、自社にどれだけ時間を割いてもらえるのかを確認しておく必要があります。せっかく著名な人物を社外取締役に選任しても、多忙のあまり取締役会への出席がままならないのでは取締役としての職責を十分に果たしているとは言えず、場合によっては任務懈怠に問われる可能性もあります。また、議決権行使助言会社最大手のISSは、「前会計年度における取締役会の出席率が75%未満の社外取締役」の選任議案には原則として反対を推奨するとしています(指名委員会等設置会社の監査委員である社外取締役の監査委員会の出席率が 75%未満の場合、監査等委員会設置会社の監査等委員である社外取締役の監査等委員会の出席率が 75%未満の場合にも反対を推奨)。特に兼職の数が多い場合(例えば3社以上の社外取締役を兼任している場合)には注意が必要です。

なお、所用等により取締役会の場に来られない場合には、ITの活用も検討したいところです。会社法上、テレビ会議や電話会議のシステムを使って取締役会に参加することが認められており(会社法施行規則101条3項1号)、このような形での参加も「出席」にカウントされることになります。

では、このように様々な要件を満たす社外取締役はどこから見つけてくればよいのでしょうか。まず考えられるのが、経営トップなどの人的ネットワークに頼ることですが、この場合、「独立性」についての説明が難しくなる可能性があるので要注意です。「経営トップの知り合い」というだけでは、証券取引所の定める独立性基準に抵触しないとはいえ、そもそも社外取締役制度は、「会社の利害から独立した者」をボードメンバーに加えることを目的としています。社長と人的関係の人物が果たして社外取締役として期待される役割を担えるのか、投資家に疑問を持たれる恐れもあります。

各社の話を聞くと、経済団体や業界団体などの会合を通じてできたネットワークや専門家同士の個人的つながりの中で紹介を受けるケース、前任の社外取締役の紹介を受けるケースのほか、各種士業団体(日弁連や日本公認会計士協会等)が作成する役員候補の推薦名簿の中から紹介を受けるケースのほか、意外にエグゼクティブ・サーチ会社を利用するというケースも少なくありません。エグゼクティブ・サーチ会社を利用することについては、社外とはいえ取締役の人選を外部に委ねることに抵抗感を抱く会社もあるかも知れませんが、一方でメリットもあります。具体的には、複数の候補者を比較できることと、仮に自社の求める人材でなかった場合には、エグゼクティブ・サーチ会社を通して容易に断ることができるという点です。知人からひとたび紹介を受けるとなかなか断りにくいことを考えると、この点は非常に便利だと言えます。

社外取締役の任期はどれくらいが適当?

ただ、どのような形で選任したとしても、その能力や人物は実際に取締役会で議論を重ねてみないと分からないというのが現実です。では、選任した社外取締役が思い描いていたような人材ではなかったことが判明した場合、早々に辞任させることはできるのでしょうか。

社外取締役の任期は、社内取締役と同じく原則2年以内であり、定款または株主総会決議により「1年」としている上場会社も少なくありません(会社法332条1項)。つまり、理論上は、定款に定めるか株主総会で決議すれば「1年・1期」をもって退任させることが可能です。また、任期途中であっても、取締役自身が取締役会で辞任を申し出た場合には、辞任することができます。ただし、社外取締役は株主総会で選任されている以上、任期途中に解任するには、株主総会の決議を経る必要があります。任期途中で解任され、そのことに正当な理由がないとなれば、社外取締役は会社に対し、任期をまっとうした場合に支払われるはずだった役員報酬の支払いを求め、損害賠償請求することもできます(会社法339条2項)。したがって、単に業績が上がらないといった理由ではなく、実際に法令の違反等があったなどの事情がない限り、一度選任された社外取締役を任期途中で解任することは難しいと考えられています。

実際のところ、社外取締役の任期を「2年」とし、内規により改選期を「2期あるいは3期」、つまり4~6年の任期としているケースが多くなっています。逆に、それを超える任期となると「独立性」が薄れてくると考えられ、株主総会において反対票が投じられる可能性も高まります。社外取締役自身、就任の際には、「会社がどれくらいの任期を考えているのか」「なぜその任期としているのか(任期の合理性)」について説明を受けておくべきです。一方、会社は次の改選をにらみ、継続的に社外取締役候補の人選を行う必要があります。

社外取締役の報酬相場は?

社外取締役を選任する際には、会社と社外取締役候補者の間で合意しておかなければならないことがいくつかあります。

まずは報酬です。社外取締役の報酬は、多過ぎれば社外取締役の「独立性」に疑いが生じることになります。会社からの独立性を期待されて社外取締役に就任しているにもかかわらず、あまりに高額な報酬を受け取っているとなると、「独立した判断が出来ないのでは?」と思われても仕方ないでしょう。

逆に少なすぎる場合はどうでしょうか。冒頭で述べたとおり、社外取締役は会社法上社内取締役と何ら変わらない責任を負うわけですから(もっとも、後述するように「責任を限定する」ことは可能です)、報酬があまりにも少なければ、そもそもなり手がなかなか見つからないでしょう。このため、社外取締役の報酬は(企業規模によっても異なりますが)おおむね500~1,000万円程度が相場となっているようです。

社外取締役への報酬は全額「固定報酬」が基本です。賞与や利益連動型報酬については、社外取締役が短期の業績を気にするあまりガバナンス上適切な判断ができなくなる恐れがあるため、また、退職慰労金については、年功的性格の報酬であり、社外取締役が長期間その座に居座る誘因となり得るため、ともに適切でないとされています。一方、ストックオプションをはじめとする株式報酬が付与されるケースはあります。これは、ストックオプションのような株式報酬は、株主と利害を一致させるために有用な面もあると考えられるからです。ただ、株式報酬にはダウンサイドのリスク(損失のリスク)がないことから「株主と利害を一致させる」とは言えないとの意見や、公平な第三者の立場から経営陣を牽制する役割を害するとの意見もあります。

また、報酬以外では、責任限定契約役員賠償責任保険(=D&O保険)の有無も重要です。社外取締役に就任する際には、責任限定契約を締結するケースがほとんどです。ただし、責任を限定すると言っても、「最低責任限度額」として、会社からもらった年収の2年分とストックオプションの行使により得た利益の分は最低限責任を負うことになりますので、通常は責任限定契約のみならず、D&O保険にも加入することになります。

責任限定契約 : 役員等の会社に対する損害賠償責任を限定する契約。
役員賠償責任保険(=D&O保険) : 会社役員が、業務遂行上の行為に起因して株主代表訴訟や第三者(例えば取引先、株主)訴訟などにより損害賠償請求を受けた場合に、法律上の損害賠償金と争訟費用(弁護士費用を含む)について保険金を支払うもの。

取締役会事務局によるバックアップ体制は必須

このほか、社外取締役を選任する際には、職務遂行上必要な会社としてのバックアップ体制についても話し合っておく必要があります。具体的には下記のようなものが考えられます。

〇事務局による社外取締役のバックアップ体制はあるか(取締役会の何日前に資料をもらえるのか、スタッフによる事前説明は受けられるかなど)
〇施設見学など、会社を知る機会は十分か
〇監査役と情報交換する機会はあるか
〇経営トップと1対1で話す機会はあるか

社外取締役を機能させるために特に重要なのが「バックアップ体制」です。

上場会社における取締役会は一般的には月1~2回となっており、社外取締役は基本的には“非常勤取締役”として、取締役会に出席することが主要業務となります。このため、社内の情報に触れる機会が社内の人間と比べ著しく少ないのが実情です。ただでさえ社内事情に疎い社外取締役が、情報不足のまま取締役会に臨めば、議論に十分参加できないまま決議に至ってしまう可能性が高いでしょう。

こうした事態を防ぐためには、取締役会事務局による事前の情報提供が欠かせません。理想としては、取締役会の1週間前に資料のドラフトを送付したうえで、事務局による社外取締役への事前説明をはじめ、両者がコミュニケーションをとる機会を設けるのが望ましいでしょう。また、資料を早期発送するためには関係部署との連携も必須となるため、資料作成の締切日や社内リソースを勘案した日程調整を行うことが重要です。

取締役会活性化のために

一方、社外取締役自身も、十分な事前準備に取り組む必要があります。一般に、社外取締役は取締役会の事前準備に最低でも数日、長い人だと半月程度割いているようです。

もっとも、月1~2回の取締役会という短い時間の中で社外取締役ができることは限られています。そこで、取締役議長はできるだけ社外取締役に発言させるよう努めることも必要です。既に経営会議や常務会などで議論を尽くしている場合には、改めて社外取締役の意見を聞くことを二度手間と感じるかも知れませんが、社内の事情や利害から離れた「株主目線」の意見を聞くことは上場会社が社外取締役を選任する意義でもあり、ガバナンス上極めて重要なことです。仮に実質的な議論は経営会議や常務会などで行われ、取締役会が意思決定のみの場となっている場合には、取締役会の前に、経営会議などの議論を社外取締役がチェックできるようにしておくことが求められます。例えば、経営会議などの資料及び議事録を取締役会の前に社外取締役に送付する、希望があれば会議に陪席(ばいせき)してもらうといったことが考えられます。経営会議などにおける議論のプロセスを精査してもらうことで、社外取締役が取締役会において新たな問題提起をする場面が出てくることもあります。

また、社外取締役としても、取締役会での議論を活性化するような発言を心掛けるべきです。例えば、社外取締役が単なる知的好奇心から細々とした質問ばかりして、取締役会の議論が一向に進まないといった声が上場会社側から聞かれることがあります。こうした質問を取締役会で減らすためには、上述した事務局による事前説明が有用であるほか、社外取締役を含めた取締役会メンバー全員に対し、取締役会の運営方法(取締役会は経営の重要事項を討議する場であって、瑣末(さまつ)な論点は持ち出さないなど)について、就任時点など早い段階で意識統一を図っておくべきでしょう。

社外取締役としても、取締役会では、自らの専門分野に偏ることなく、全社的な観点、株主利益の視点を持つことが重要です。特に、上場会社の取締役会で議論した経験がない専門家にはその意識が必要でしょう。単に専門的な知見を述べるだけでは、顧問契約と変わらないことになってしまいます。専門家であると同時に、「ボードメンバーの1人」であることを常に肝に銘じておきたいところです。

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2016/06/25 【ガバナンスのあり方】社外取締役を選任したい

独立社外取締役の選任問題は今後も続く

周知のとおり、2015年5月1日から施行された改正会社法では「1人以上」の社外取締役の選任が義務付けられ、社外取締役を置かない場合には、「置くことが相当でない理由」を事業報告および株主総会参考書類に記載するとともに(会社法施行規則74条の2第2項、124条2項 *1)、株主総会での説明が求められています(会社法327条の2)。この改正会社法の施行に先立ち、東証は2014年2月に有価証券上場規程を改正(2014年2月10日施行)、上場会社に対し「独立取締役(=独立社外取締役。詳細は後述)」を少なくとも1名以上確保する“努力義務”を課しています(有価証券上場規程445条の4 *2)。

*1 株主総会参考書類への記載が必要になるのは、現在社外取締役を置いていないか、あるいは当該株主総会終結時に社外取締役を置いていない状態となる見込みであるにもかかわらず、社外取締役候補者の取締役選任議案を提出しない場合である。
*2 独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役)の1名以上の確保が“義務”とされている(上場規程第436条の2)。

また、コーポレートガバナンス・コード(2015年6月1日~)では、独立社外取締役(詳細は下図参照)を2名以上置くべきとし(原則4-8)、これを遵守(コンプライ)しない場合にはその理由を説明(エクスプレイン)することを求めています(東証一部、二部上場企業のみ)。同様に、議決権行使助言会社最大手のISSの議決権行使助言基準でも、「複数の独立社外取締役」の選任が求められています。

会社法の改正以来、多くの上場会社が社外取締役を選任している中で、自社が社外取締役を置くことが相当でない理由を説得的に説明することは難しいため、今や「社外取締役が1人もいない」という上場会社はほとんどなくなりました。しかし、一部の上場会社では社外取締役が「独立社外取締役」でないほか、コーポレートガバナンス・コードやISSの議決権行使助言基準が求める「2名以上の独立社外取締役」を設置していないところは依然として少なくありません。

上場会社の大部分を占める監査役会設置会社においては2名以上の「社外監査役」の設置が義務付けられていますが、改正会社法により新設された新たな機関設計である「監査等委員会設置会社」に移行すれば、現在の社外監査役を「社外取締役」にスライドさせることが可能であるため、2名以上の社外取締役の確保に苦慮する監査役会設置会社の中には、監査等委員会設置会社に移行するところが続出しています(監査等委員会設置会社への移行についてはケーススタディ「監査等委員会設置会社に移行したい」参照)。

ただ、独立社外取締役を2名以上選任したとしても、いずれ改選の時期は来ますし、また、将来的には投資家サイドから「取締役会の過半数を独立社外取締役にすべき」といった声が高まり、独立社外取締役の増員を求められる可能性もあります。

したがって、(独立)社外取締役の選任問題は今後も上場会社にとって課題であり続けるでしょう。

「社外取締役」と「独立社外取締役」の違いは?

下図に示したとおり、会社法上の「社外取締役」(会社法2条15号)と上場規則上の「独立社外取締役」(独立役員(上場管理等に関するガイドラインⅢ5.(3)の2)の届け出をした社外取締役)の範囲はおおむね重なっています。・・・

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社外取締役と「監査役」「社内取締役」の役割の違いは?

監査役(会)設置会社では、監査役が取締役の業務執行を「監査」することとされており、また監査役の過半数は社外監査役であることが求められています(会社法335条3項)。一見すると、監査役の職務は第三者の視点を取り入れることが期待される社外取締役の役割と重なるように見えますが、両者の最大の違いは、監査役が取締役の業務執行を「監査」するのに対し、社外取締役は他の取締役を「監督」するという点にあります。

監査役(会)設置会社 : 会計業務以外の「業務活動」の監査(業務監査)権限を有する監査役を設置する会社

さらに詳しく説明しましょう。監査役は主に・・・

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社外取締役はどうやって探す?

ここまで社外取締役の独立性や役割について解説してきましたが、改正会社法や上場規則、さらには機関投資家が求める独立性要件をすべて満たし、かつ「社外取締役」という重責を担える人材はどうやって見つければよいのでしょうか。

独立性さえあれば誰でも社外取締役になれるのであれば話は簡単です。しかし、上場会社の社外取締役となるには、最低限、・・・

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社外取締役の任期はどれくらいが適当?

ただ、どのような形で選任したとしても、その能力や人物は実際に取締役会で議論を重ねてみないと分からないというのが現実です。では、選任した社外取締役が思い描いていたような人材ではなかったことが判明した場合、早々に辞任させることはできるのでしょうか。

社外取締役の任期は、・・・

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社外取締役の報酬相場は?

社外取締役を選任する際には、会社と社外取締役候補者の間で合意しておかなければならないことがいくつかあります。

まずは・・・

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取締役会事務局によるバックアップ体制は必須

このほか、社外取締役を選任する際には、職務遂行上必要な会社としてのバックアップ体制についても話し合っておく必要があります。具体的には下記のようなものが考えられます。・・・

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取締役会活性化のために

一方、社外取締役自身も、十分な事前準備に取り組む必要があります。一般に、社外取締役は取締役会の事前準備に最低でも数日、長い人だと半月程度割いているようです。

もっとも、月1~2回の取締役会という短い時間の中で社外取締役ができることは限られています。そこで、取締役議長はできるだけ・・・

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