2016/06/24 「同一の監査人による監査期間」の開示が制度化された場合の企業への影響

投資家は“見えないもの”に対して不信感を抱く傾向がある。会計監査も例外ではない。上場企業が提供する財務情報の正確性を担保し、資本市場を支える重要な機能を果たす会計監査に関する情報は、本来投資家にとって有用性が高いはずだが、監査法人が投資家に伝える情報は「財務諸表が適正かどうか」という意見だけであり、その伝達手段も定型的な文面の監査報告書のみに限られる。また、監査人には厳格な守秘義務が課されているため、投資家が監査人から投資に有用な情報を聞き出すのは不可能となっている。投資家からは「会計監査は“ブラックボックス”」との声も聞かれるが、それも分からないではない。

こうした中、世間を騒がせる会計不正が起きるたびに、投資家は企業と監査人との間に癒着が生じていないかを気にすることになる。確かに、監査が信頼されるには監査人の独立性が保たれていなければならない。そこで公認会計士法では、監査人の独立性を保つための策として、監査報告書にサインする公認会計士が監査クライアントに関与する期間について制限を課している。監査に関与した期間が長いほど監査クライアントとの慣れ合いが生じるリスクが高まるからだ。具体的には、監査報告書にサインする公認会計士が7会計期間業務を行った後は、2会計期間の監査禁止期間(インターバル)を置くことを求めている(さらに、大規模監査法人については、筆頭業務執行社員が5会計期間業務を行った後はインターバルを5会計期間置かなければならないことになっている)。もっとも、このインターバル制度はあくまで監査報告書にサインする公認会計士に適用されるものであり、「監査法人」自体には適用されない。したがって、監査禁止期間中は“同一監査法人の別の公認会計士”がサインすることになる。

筆頭業務執行社員 : 監査クライアントに対する監査の責任者(社員=パートナー)を指す。監査報告書の一番上にサインをすることになる。

このように、インターバル制度は「監査法人内」で公認会計士をローテーションさせる制度であり、監査法人自体のローテーションまでを求めるものではない。監査法人のローテーションが日本で法制化されないのは、・・・

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2016/06/24 「同一の監査人による監査期間」の開示が制度化された場合の企業への影響(会員限定)

投資家は“見えないもの”に対して不信感を抱く傾向がある。会計監査も例外ではない。上場企業が提供する財務情報の正確性を担保し、資本市場を支える重要な機能を果たす会計監査に関する情報は、本来投資家にとって有用性が高いはずだが、監査法人が投資家に伝える情報は「財務諸表が適正かどうか」という意見だけであり、その伝達手段も定型的な文面の監査報告書のみに限られる。また、監査人には厳格な守秘義務が課されているため、投資家が監査人から投資に有用な情報を聞き出すのは不可能となっている。投資家からは「会計監査は“ブラックボックス”」との声も聞かれるが、それも分からないではない。

こうした中、世間を騒がせる会計不正が起きるたびに、投資家は企業と監査人との間に癒着が生じていないかを気にすることになる。確かに、監査が信頼されるには監査人の独立性が保たれていなければならない。そこで公認会計士法では、監査人の独立性を保つための策として、監査報告書にサインする公認会計士が監査クライアントに関与する期間について制限を課している。監査に関与した期間が長いほど監査クライアントとの慣れ合いが生じるリスクが高まるからだ。具体的には、監査報告書にサインする公認会計士が7会計期間業務を行った後は、2会計期間の監査禁止期間(インターバル)を置くことを求めている(さらに、大規模監査法人については、筆頭業務執行社員が5会計期間業務を行った後はインターバルを5会計期間置かなければならないことになっている)。もっとも、このインターバル制度はあくまで監査報告書にサインする公認会計士に適用されるものであり、「監査法人」自体には適用されない。したがって、監査禁止期間中は“同一監査法人の別の公認会計士”がサインすることになる。

筆頭業務執行社員 : 監査クライアントに対する監査の責任者(社員=パートナー)を指す。監査報告書の一番上にサインをすることになる。

このように、インターバル制度は「監査法人内」で公認会計士をローテーションさせる制度であり、監査法人自体のローテーション()までを求めるものではない。監査法人のローテーションが日本で法制化されないのは、企業にとって「ローテーションをしないこと」のメリットが大きいからだ。監査法人が交代すれば、企業は業務内容や会計処理をイチから説明し直さなければならず、膨大な手間がかかるため、できれば避けたいというのが企業側の本音。また、企業のビジネスモデルや組織体制、内部統制を細部まで知り尽くした監査法人が継続して会計監査を担うことで効率の良い会計監査が期待でき、監査報酬も抑えられるというメリットもある。このメリットを優先させた結果、現状では企業が監査人を固定化するのが一般的となっている。

 監査人を定期的かつ強制的に別の監査法人に変更すること。EUでは、本年6月から上場企業等に対して、監査法人を一定期間(最長10年)で交代させる義務を課す規則が適用されており、上場企業に対する同一の監査法人による監査期間は最長10年(公開入札や共同監査を実施する場合は、より長い監査期間でも認められる)で、交代してから再就任するまでは4年間のインターバルが必要とされている。

一方、投資家の意見はこれとは異なる。「“ブラックボックス”である会計監査への不信感を減らすためには、監査法人のローテーション制度こそが望ましい」というのが投資家の言い分だ。

この企業と投資家の間に生じた溝を埋めるために、金融庁の「会計監査の在り方に関する懇談会」は、上場企業に対し、有価証券報告書で「当該監査人がその企業の監査に従事してきた期間」を開示させる案を示しており(詳細はこちらの9ページを参照)、その案は「日本再興戦略2016」でも進めるべき取り組みの一つに掲げられている。これにより、「監査人の選解任に係る株主の判断が適切に行われるよう(中略)会計監査に関する株主等への情報提供を充実」(「日本再興戦略2016」の100ページ)させようというわけだ。同一の監査人が長期間監査をしている上場企業に対し説明責任を果たさせることで、株主の監視を通じて監査人のローテーションを促す案と言えるだろう。実施時期は明記されていないが、「日本再興戦略2016」の工程表によると、2016年度から2018年度にかけて実施される見込みとなっている(108ページ参照)。

その結果監査人の交代が進むにしても、交代理由には「ガバナンスを強化する」といった理屈付けが欠かせないことから、本開示をきっかけとして監査人を交代する企業では、「大監査法人から別の大監査法人に交代」あるいは「中小の監査法人から大監査法人に交代」するケースが多数を占めるものと思われる。後釜の監査人になるのが中小の監査法人では、交代理由が説得力を欠いてしまうのは否定できないからだ。

もちろん「同一の監査人による監査を受けてきた期間」の開示が制度化されたとしても、それはあくまで「開示」の話であり、EU域内に上場している企業のように監査法人のローテーション自体を求めるものではないため、監査法人を交代する法的義務は一切ない。しかし、この開示制度の実施をきっかけに、「同一の監査人により監査を受けてきた期間の長さ」が「なれ合い監査の可能性」に比例しているという見方をする投資家が出てくる可能性があることには留意しておく必要がある。「同一の監査人による監査を受けてきた期間」が数十年にわたる上場企業では、機関投資家との対話や株主総会で「なぜ監査人を交替しないのか」といった質問を受ける可能性に備え、会計監査人の選任権限を有する監査役や経理担当取締役を中心に、どのように回答・対応すべきか、今のうちから役員間での議論を深めておくことは必須と言えよう。

2016/06/23 (新用語・難解用語)(非価格制限行為の)セーフ・ハーバー基準

メーカーと当該メーカーの商品を取り扱う流通業者との“縦の関係”において、メーカーが流通業者(卸売業者や小売業者)に対し、販売価格、取扱い商品、販売地域、取引先などを制限する行為を「垂直的制限行為」というが、垂直的統合には「非価格制限行為」と「再販売価格維持行為」がある。このうち「非価格制限行為」が独占禁止法違反に該当するか否かの判断基準となるのが「セーフ・ハーバー基準」だ。一言で言えば、“一定のシェア”がない事業者はたとえ非価格制限行為をしたとしても大きな影響はないということで、独占禁止法違反に問わないというもの。セーフ・ハーバー(Safe Harbor)とは、直訳すれば「安全な港」を意味する。

非価格制限行為 : 例えば有力メーカーが小売店に他メーカーの競合争商品の取扱いを禁じたり、販売地域を制限したりする行為。要するに、直接的に価格を拘束しない行為を指す。
再販売価格維持行為 : メーカーが小売店等の販売価格を拘束する行為

セーフ・ハーバー基準は、・・・

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2016/06/23 (新用語・難解用語)(非価格制限行為の)セーフ・ハーバー基準(会員限定)

メーカーと当該メーカーの商品を取り扱う流通業者との“縦の関係”において、メーカーが流通業者(卸売業者や小売業者)に対し、販売価格、取扱い商品、販売地域、取引先などを制限する行為を「垂直的制限行為」というが、垂直的統合には「非価格制限行為」と「再販売価格維持行為」がある。このうち「非価格制限行為」が独占禁止法違反に該当するか否かの判断基準となるのが「セーフ・ハーバー基準」だ。一言で言えば、“一定のシェア”がない事業者はたとえ非価格制限行為をしたとしても大きな影響はないということで、独占禁止法違反に問わないというもの。セーフ・ハーバー(Safe Harbor)とは、直訳すれば「安全な港」を意味する。

非価格制限行為 : 例えば有力メーカーが小売店に他メーカーの競合争商品の取扱いを禁じたり、販売地域を制限したりする行為。要するに、直接的に価格を拘束しない行為を指す。
再販売価格維持行為 : メーカーが小売店等の販売価格を拘束する行為

セーフ・ハーバー基準は、流通・取引慣行においてどのような行為が独占禁止法違反に該当するのかを具体的に示す公正取引委員会の「流通・取引慣行ガイドライン」に定められているが、先月(2016年5月)27日付で同基準が改正されている。

流通・取引慣行ガイドラインでは、再販売価格の拘束など価格を制限する行為(再販売価格維持行為)を原則として違法している。セーフ・ハーバー基準が設けられているのは、「非価格制限行為」の方だ。同基準はこれまで、「市場シェア10%以上又は上位3位以内」とされていたが(逆に言うと、「市場シェア10%未満、かつ上位4位以下」である事業者であれば、非価格制限行為を行ったとしても、独占禁止法違反とはならなかった)、今回の改正で、“市場シェア基準”が従来の10%から「20%」に引き上げられるとともに、“順位基準”は廃止されている。すなわち、今後は「市場シェアが20%以下」であれば、たとえ非価格制限行為を行ったとしても独占禁止法違反に問われることはない。EUではセーフ・ハーバー基準が「シェア30%」とされており、かねてから「日本の基準は厳しすぎる」との批判が企業側から聞かれたが、今回の改正はこうした声を反映したものと言える。

ちなみに、先週水曜日(2016年6月15日)、アウトドア用品を製造・販売するコールマンジャパンが「小売業者の販売価格(=再販売価格)の自由な決定」を拘束したことにより独占禁止法に違反し、排除措置命令を受けているが()、同社が行った行為は「再販売価格維持行為 」に該当する。上述のとおり、再販売価格維持行為はセーフ・ハーバー基準とは関係なく独占禁止法違反となるので注意したい。

排除措置命令 : 独占禁止法違反行為をした企業等に、速やかにその行為をやめさせ、市場における競争を回復させるために必要な措置を命じること。

 同社は小売業者に対し、(1)コールマンジャパンが定める下限価格以上で販売する、(2)割引販売は、一定の場合のみ認める――という販売ルールを策定し、小売業者に守らせていたという。

2016/06/22 攻めの経営に欠かせない幹部人材とは?

取締役会の役割やあり方が語られる際には「(独立)社外取締役」の数に焦点が当たることが多いが、スポットライトを浴びる機会こそ少ないものの、近年、取締役会においてその重要性が間違いなく高まっているのが、・・・

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2016/06/22 攻めの経営に欠かせない幹部人材とは?(会員限定)

取締役会の役割やあり方が語られる際には「(独立)社外取締役」の数に焦点が当たることが多いが、スポットライトを浴びる機会こそ少ないものの、近年、取締役会においてその重要性が間違いなく高まっているのが、CIO(シー・アイ・オー=Chief Information Officer)だ。

「最高情報責任者」と訳されるCIOは、文字通り情報や情報技術を担当する幹部役員であるが、一般的には、これまで多数の有名企業を襲った顧客情報の流出やサイバー攻撃対策等において力を発揮する“守り”のイメージが強い。

しかし、マーケティングや新商品の開発、新規ビジネスの展開などにおいて、ビッグデータ等の情報を有効に活用できるか否かがカギとなる中、取締役会におけるCIOの役割にも大きな変化が生じている。実際、欧米企業では近年CIOの重要性が強く認識されており、英国の電気通信大手BTが公表した調査結果(2015年)でも、「CIOが取締役会において中心的な役割を果たすようになった」と回答した企業が72%にも上っている(2014年は59%)。

ただ、ほとんどの企業が情報活用の重要性を認識しているにもかかわらず、その成果に満足しているというところは少数にとどまっている。これは、社内や取締役会に「データアナリティクス」を十分に理解する人材がおらず、ビッグデータを活用しきれていないことが大きな要因だと考えられる。

データアナリティクス: ビッグデータの価値を引き出すため、ビックデータとその分析手法であるアナリティクスを組み合わせて活用すること。アナリティクスが適切でなければ、ビッグデータを有効に活用することはできない。

こうした中、CIOに対する期待は高まる一方となっている。CIOは、顧客情報流出等の防止や流出が起きた際のトラブルシューティングといった役割のみならず、データを“ビジネスを刷新する材料”ととらえ、新たなビジネス機会の創出に貢献するという、従来よりも幅広くクリエイティブな役割(経営における“攻め”の役割)を果たす必要がある。

一方、CFOをはじめとするCIO以外の役員の意識改革も欠かせない。IT分野は多くの企業で伝統的に「コストセンター」ととらえられてきたが、近年、その実態は新規事業、ひいては収益を生み出す「プロフィットセンター」へと変貌し、また、データアナリティクスは正確で迅速な経営戦略の決定を可能にしている。「ITはコストセンター」という古い認識を持つ経営陣は今すぐその認識を改める必要があろう。

2016/06/21 独立社外取締役ゼロの会社はどうエクスプレインしたか

東証が先週金曜日(2016年6月21日)に公表した「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況<速報>」によると、東証一部上場会社のうち独立社外取締役を選任している会社は96.2%にも達している。これは「2016年6月16日までに提出された独立役員届出書のデータ」を加味したもの。独立役員届出書は株主総会の2週間前までに提出しなければならないため、今6月総会における独立社外取締役の選任も反映した数値が「96.2%」ということになる。

独立社外取締役を選任している東証一部上場会社の比率は、一昨年(2014年)は61.4%にとどまっていたものの、独立社外取締役の選任を求めるコーポレートガバナンス・コードが導入された昨年(2015年)には87.0%になり、同コード導入2年目には100%に迫ることになったわけだが、これはあくまで独立社外取締役を“1名”以上選任している東証一部上場会社の比率に過ぎない。コーポレートガバナンス・コードの原則4-8が求める「少なくとも2名以上」の独立社外取締役を選任している上場会社となると、一気に77.9%まで20%近く減少する。つまり、東証一部上場会社のうち5社に1社以上の会社が、原則4-8をコンプライできない理由をコーポレート・ガバナンス報告書で開示しなければならないことになる。さらに東証二部上場会社では、独立社外取締役を“1名”以上選任している会社は89.3%、2名以上選任している会社となると53.5%にまで落ち込む。

独立社外取締役の選任を求めるコーポレートガバナンス・コード : コーポレートガバナンス・コードでは、本則市場(一部・二部)の上場会社に、「独立社外取締役の役割・責務」(原則4-7)や「少なくとも2名以上の独立社外取締役の選任」(原則4-8)について、コンプライ(順守)すること、あるいは(コンプライできない場合は)エクスプレイン(説明)すること、のいずれかの対応を求めている。

ちなみに、コーポレートガバナンス・コードのうち「基本原則」のみが適用されている新興市場の状況を見ると、マザーズでは、独立社外取締役を“1名”以上選任している会社は79.4%、2名以上選任している会社は26.8%、JASDAQでは、“1名”以上選任している会社が67.6%、2名以上選任している会社は21.9%となっている。本則市場(一部・二部)へのステップアップ市場と位置付けられているマザーズの方がJASDAQよりも選任率が高いとはいえ、やはりコーポレートガバナンス・コードの原則4-8の適用を受けないということで、独立社外取締役選任のインセンティブが低い面は否定しがたいと言えそうだ。

新興市場はさておき、東証一部・二部上場会社では、コーポレートガバナンス・コードを順守できなければ「エクスプレイン」が求められることになる。3月決算会社では例えば下表の会社が独立社外取締役を選任していない状況となっており、それぞれエクスプレインを行っている。・・・

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2016/06/21 独立社外取締役ゼロの会社はどうエクスプレインしたか(会員限定)

東証が先週金曜日(2016年6月21日)に公表した「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況<速報>」によると、東証一部上場会社のうち独立社外取締役を選任している会社は96.2%にも達している。これは「2016年6月16日までに提出された独立役員届出書のデータ」を加味したもの。独立役員届出書は株主総会の2週間前までに提出しなければならないため、今6月総会における独立社外取締役の選任も反映した数値が「96.2%」ということになる。

独立社外取締役を選任している東証一部上場会社の比率は、一昨年(2014年)は61.4%にとどまっていたものの、独立社外取締役の選任を求めるコーポレートガバナンス・コードが導入された昨年(2015年)には87.0%になり、同コード導入2年目には100%に迫ることになったわけだが、これはあくまで独立社外取締役を“1名”以上選任している東証一部上場会社の比率に過ぎない。コーポレートガバナンス・コードの原則4-8が求める「少なくとも2名以上」の独立社外取締役を選任している上場会社となると、一気に77.9%まで20%近く減少する。つまり、東証一部上場会社のうち5社に1社以上の会社が、原則4-8をコンプライできない理由をコーポレート・ガバナンス報告書で開示しなければならないことになる。さらに東証二部上場会社では、独立社外取締役を“1名”以上選任している会社は89.3%、2名以上選任している会社となると53.5%にまで落ち込む。

独立社外取締役の選任を求めるコーポレートガバナンス・コード : コーポレートガバナンス・コードでは、本則市場(一部・二部)の上場会社に、「独立社外取締役の役割・責務」(原則4-7)や「少なくとも2名以上の独立社外取締役の選任」(原則4-8)について、コンプライ(順守)すること、あるいは(コンプライできない場合は)エクスプレイン(説明)すること、のいずれかの対応を求めている。

ちなみに、コーポレートガバナンス・コードのうち「基本原則」のみが適用されている新興市場の状況を見ると、マザーズでは、独立社外取締役を“1名”以上選任している会社は79.4%、2名以上選任している会社は26.8%、JASDAQでは、“1名”以上選任している会社が67.6%、2名以上選任している会社は21.9%となっている。本則市場(一部・二部)へのステップアップ市場と位置付けられているマザーズの方がJASDAQよりも選任率が高いとはいえ、やはりコーポレートガバナンス・コードの原則4-8の適用を受けないということで、独立社外取締役選任のインセンティブが低い面は否定しがたいと言えそうだ。

新興市場はさておき、東証一部・二部上場会社では、コーポレートガバナンス・コードを順守できなければ「エクスプレイン」が求められることになる。3月決算会社では例えば下表の会社が独立社外取締役を選任していない状況となっており、それぞれエクスプレインを行っている。

独立社外取締役を選任していない状況 : 現時点(2016年6月21日)で社外取締役がいない(定時株主総会で社外取締役の選任予定がない場合も含む)か、社外取締役を選任済みであっても独立役員届出書に独立役員としての届け出を行っていない状況を指している。

類型 会社名 エクスプレインの内容
社外取締役
は選任して
いるものの
独立役員
ではない
JALUX 当社は、社外取締役3名、社外監査役2名が在籍しており、このうち社外監査役2名を独立役員としての届出を行っております。3名の社外取締役は、独立社外取締役としての届出は行っておりませんが、社外からの客観的な視点に基づき、豊富な経験と幅広い見識を活かし経営全般に対する監督、チェック機能により、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与する役割を十分に果たしているものと考えております。また、独立役員としての社外監査役2名により、社外からの客観的な視点に基づき、独立の機関として取締役の職務執行の監査が行われております。今後につきましては、当社独自の独立社外取締役に係る独立性判断基準の策定を行い、当該基準に基づき次期株主総会に向けて独立社外取締役を選任することを検討してまいります。また、今後、独立社外取締役を選任した場合には、独立した客観的な立場に基づく情報交換、認識共有を図れる機会を設けることを検討するとともに、経営陣との連絡・調整や監査役会との連携に係る体制整備に努めてまいります。
ブイ・テクノロジー 当社は、社外取締役1名、社外監査役2名が在籍しております。社外取締役は1名ではありますが、当社の持続的成長と企業価値の向上に貢献するイノベーションの創造に対し、適切な助言・指導を行うと共に社外監査役を含む監査役との連携の確保に努めており、責務を十分に果たしております。独立社外取締役の増員は、経営の監視及び監督機能を増強する観点から検討すべきであるため、現時点においては監査役会(社内2名、社外2名)の監視・監督機能以上の効果は期待できないと判断しております。しかし、今後当社を取り巻く環境が変化することで、社外取締役を増員する必要が発生する可能性もあり、必要に応じて候補者の選任を検討してまいります。
都築電気 当社は、社外取締役1名、社外監査役2名が在籍しています。現在独立役員として登録されている社外取締役はいませんが、当社の事業特性や規模などにおいて、それぞれ独自の外的視点から各取締役や監査役、執行役員に対して積極的に指導・助言等を行っています。今後、当社をとりまく環境の変化や企業価値向上に対して独立社外取締役の選定を検討してまいります。
社外取締役
自体を選任
していない
大幸薬品 社外役員については、現在、社外監査役2名(うち1名が独立役員)を選任しており、社外取締役は選任しておりません。当社の取締役会は取締役5名で構成され、重要な業務執行に係る意思決定が必要な場合には、機動的に会議を招集し、実質的な議論を行える体制となっております。
加えて、当社の事業規模を考慮すると、現在の5名体制は適切と考えており、また社外監査役2名を含む監査役3名による監査により、企業価値向上の観点からの助言や独立した立場からの経営監視等社外取締役に期待される役割は十分発揮される体制となっております。
一方で、事業規模等を考慮した社外取締役の設置を念頭に置きつつ、監査等委員会設置会社への移行も含め、その選任等について、取締役会において機動的に議論してまいります。
英和 当社は、監査役会設置会社として、取締役による的確な意思決定と迅速な業務執行を行うとともに、独立役員である2名の社外監査役を含む3名の監査役による客観的で公正な監視を可能とする経営体制を構築し、コーポレート・ガバナンスの充実が図れるよう、その実効性を高める体制としており、社外取締役は選任いたしておりません。各監査役は、担うべき法的な役割を果たした上で、各々経営管理、会計・税務に関する専門的な知識や経験等を活かしながら、経営陣から一定の距離をおいた立場で、客観的かつ公正な視点及び一般株主の利益保護の観点から取締役会への助言を行っております。取締役会としては、これら監査役による監査結果及び助言に対し高くかつ十分に尊重して企業経営にあたっております。
また、当社は国内取引が大勢を占める一般的な計測機器販売商社で、社内取締役を能カ・経験面で補完して更に当社の業績向上と発展に資する有能な社外取締役候補者を選定することは大変困難であり、適切な社外取締役候補者が見つかっていない現時点においては、拙速に社外取締役候補者を選ぶよりも、現時点の体制の方が、企業価値の向上に資すると思料され、よって社外取締役を置くことは相当でないと判断しております。
なお、当社は、容易に適切な社外取締役候補者が見つからないことをも考慮し、これに代替・類似する措置として、近年社外大手商社より企業経営並びに海外取引経験豊富な人材を常勤取締役として2名招き入れ、内部統制体制の強化・維持と業容拡大により、一般株主を始めとするステークホルダー各位の期待に応える持続的な成長と中長期的な企業価値向上に鋭意努力いたしております。
また、今後につきましては、当社の業務を理解し、当社の企業価値向上に資する社外取締役候補者の招聘に努力するとともに、監査等委員会設置会社への移行も視野に入れながら、ガバナンスの向上を検討していきたいと考えております。

上記5社のうち、JALUXは独立社外取締役の選任に前向きな姿勢を示しており、ブイ・テクノロジーや都築電気は選任に含みを残した書き振りとなっている。大幸薬品は、監査等委員会設置会社への移行を視野に入れているものとみられる。いずれも、今後、独立社外取締役の選任について(実際に選任するかどうかはともかく)検討されることになると予想される。

もっとも、既に独立社外取締役を選任している会社であっても、当然ながら改選もあるうえ、将来的には投資家からさらなる独立社外取締役の増員(例えば取締役会の過半数)を求められる可能性もある。独立社外取締役候補者探しは引き続き各社にとって大きな課題となりそうだ。

2016/06/20 些末な金融実務の知識不足が招いた巨額横領事件

粉飾決算や商品性能の虚偽表示などインパクトのある企業不祥事が世間を騒がせる一方で、企業にとって最も“身近”で発生率も高い不正と言えるのが横領だ。今月初めにも、北越紀州製紙の子会社である北越トレイディングの元総務部長が15年間で約25億円を着服し、ギャンブルや複数の愛人との遊興費などに費消していたとして逮捕された(北越紀州製紙のリリースはこちら)。北越トレイディングでは着服額を「長期未収入金」に振り替えるとともに貸倒引当金等を計上、過去の財務諸表の修正を余儀なくされている(社内調査の報告書はこちら)。

逮捕された元総務部長の着服手口は、・・・

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2016/06/20 些末な金融実務の知識不足が招いた巨額横領事件(会員限定)

粉飾決算や商品性能の虚偽表示などインパクトのある企業不祥事が世間を騒がせる一方で、企業にとって最も“身近”で発生率も高い不正と言えるのが横領だ。今月初めにも、北越紀州製紙の子会社である北越トレイディングの元総務部長が15年間で約25億円を着服し、ギャンブルや複数の愛人との遊興費などに費消していたとして逮捕された(北越紀州製紙のリリースはこちら)。北越トレイディングでは着服額を「長期未収入金」に振り替えるとともに貸倒引当金等を計上、過去の財務諸表の修正を余儀なくされている(社内調査の報告書はこちら)。

逮捕された元総務部長の着服手口は、自社が振り出した小切手を「振出口座がある銀行支店」に持ち込み、その窓口で現金化するというもの。確かに小切手は持参人払い(小切手を振出口座のある銀行窓口に持参した者に現金を支払うこと)が原則とされているが、銀行窓口での換金を認めれば、小切手の不正拾得者さえ現金を手にできてしまうことになる。そこで、通常は小切手の表面に二重の平行線(横線)を引き「銀行渡り」「BANK」といった文字や「振出口座のある銀行名」を記載することにより、「持参人払い」という小切手の機能を無効にしているのが通常だ。小切手に横線が引かれていれば、何者かがその小切手を振出口座のある銀行支店の窓口に持ち込んだとしてもその場で現金を得ることはできず、代わりに、持参者が指定する銀行口座に後日入金されることになる。つまり、小切手に横線を引くことで、小切手が持参人払いではなくなり、銀行口座を介した取引となる(記録が残る)わけだ。もともと銀行口座を開設する際には厳重な本人確認が行われているうえ、さらにこの仕組みがあれば、不正拾得者等が匿名で小切手を現金に換えることはほぼ不可能となる(線引き小切手の詳細な説明はこちらを参照)。そこで企業でも、金融機関から小切手帳の交付を受けたらすぐにブランクの小切手に横線を引くという実務が「小切手を振り出す際の内部統制」として広く行われている(ケーススタディ「手形・小切手の管理を適正に行いたい」の「小切手帳に関する内部統制の14のポイント」を参照)。

ブランク : 小切手に金額等の記載がない状態

ここで注目したいのは、北越トレイディングの小切手にも“横線”が引かれていたということだ。それにもかかわらず、なぜ同社の元総務部長は自社振出小切手を銀行窓口で現金化できたのだろうか。

理由は「小切手裏面への銀行届出印の押印」にある。実は、小切手の裏面に「当該小切手振出人の住所・氏名」を記入し、さらに「振出人の銀行届出印」を押印することで、小切手表面の横線が無効になり、小切手の振出口座のある銀行支店の窓口での現金化が可能となるのである。元総務部長は、小切手裏面に自ら押印する、あるいは他の者に押印させるという手口を使って銀行窓口で現金を受け取り、着服していた。

小切手に関する内部統制としては、小切手に横線を引く以外にも、「小切手を作成する(チェックライター等で金額を記入する)者」と「小切手に銀行届出印を押印する権限を有する者」(押印権限者)を別人物にすることで、両者間に牽制を利かせるという実務も広く行われている。しかし、「小切手に銀行届出印を押印する権限を有する者」が小切手の裏面に振出人の銀行届出印を押印することの意味(窓口での現金化を可能としてしまう)を知らなければ、内部牽制機能は期待できない。

チェックライター : 手形や小切手に金額を打刻するための機器

実際、小切手裏面に押印することに小切手の横線を無効にする意味があるということを知らない経理・財務担当者は少なくない。押印権限者ですら知らないケースが見受けられる(北越トレイディングのケースでも、元総務部長が、銀行届出印を管理する副社長や子会社担当者の知識不足に乗じて、小切手裏面への押印を依頼していた(押印権限者の知識不足の問題))。会社経営に携わる役員からすれば、些末な金融実務の話に見えるかもしれない。しかし、このリスクに備えた内部統制を構築できていなかった(経営陣の知識不足の問題)北越トレイディングでは、小切手裏面への押印が会社に巨額の損失をもたらし、レピュテーションを揺るがす業務上横領事件につながったというのは紛れもない事実である。

こうした事態を防ぐためには、財務・総務担当取締役は、外部への支払いに小切手を用いる際に「合理的な理由(例えば総務や営業所の小口現金の補充等)」の有無を確認することなく小切手裏面に銀行届出印を押す実務が行われていないかどうか、特に管理面で手薄となりがちな子会社を中心にチェックするとともに、社内ルールの構築に努める必要がある。