(2016年)6月の株主総会では、監査等委員会設置会社への移行を諮る上場会社が相次ぐことになりそうだ。この結果、監査等委員会設置会社の数は6月末までにおよそ600社に到達することが見込まれている。
監査等委員会設置会社への移行に伴い、通常は社外監査役が「監査等委員」である社外取締役に就任することになるが、「監査役」と「監査等委員」の職務範囲や権限等の違いを正確に説明できる経営陣は意外と多くない。
まずは両者の違いを整理した下表を見ていただきたい。
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監査役(監査役会) |
監査等委員(監査等委員会) |
| 身分 |
監査役 |
監査等委員である取締役
(非業務執行) |
| 取締役会での議決権 |
なし |
あり |
| 職務範囲 |
取締役の業務執行の監査 |
取締役の業務執行の監査および監督 |
| 権限 |
独任制 |
合議制 |
| 監査手法 |
基本的に独自で監査(内部統制システム
を活用する場合もある)
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原則として内部統制システムを
活用した監査
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独任制 : 自らの権限で自ら監査を行うこと。
内部統制システム : 取締役の職務の執行が法令や定款に適合することを確保するための体制および株式会社や企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制を指す。会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)であれば、取締役会は内部統制システムの整備について必ず決議をしなければならない(会社法362条4項6号)。
上の表の「職務範囲」にあるように、監査等委員には取締役の業務執行の監査のみならず、「監督」業務が付与されている。これは、委員会設置会社における監査委員が行う「監督」業務と同様、取締役の業務執行状況を評価し、それを株主総会で意見として発出することで実質的な人事権を行使するというものであると考えられている。つまり、監査等委員は当該取締役が取締役として相応しいか否かを評価し、意見を表明するという業務を担うということである。
また、取締役会での議決権が付与されている点も大きな違いと言える。取締役会における監査役の業務は、取締役会が適切に運営されているか否かを監査するとともに、必要に応じ意見を表明することだが、監査等委員はそれに加え、「一議決権者」として自身の意見を議決権という形で表明しなければならない。上の表でも示したとおり監査役は独任制ではあるものの、実務上は例えば会計に関する事項は公認会計士資格を持った監査役が行うというように“分野の分担”がなされているケースが多いが、一議決権者となれば、自身の専門分野でない事項についてもそれぞれが「企業の中長期的な発展に資するか」という視点から十分な情報をもって検討し、投票を行わなければならない。
一方、監査等委員の監査の手法は「内部統制システムを活用して行う」のが原則とされており、監査の水準という点では、監査役よりも監査等委員の方が落ちるようにも見えるが、そうではない。内部統制システムを活用するのはあくまで“原則”であり、必ずこれに依らなければならないということではない。場合によっては監査等委員自身が実査を行い、適切な監査証拠を収集する必要があろう。
実査 : 監査を行う者が実際に現物にあたること。
このほか、上の表では触れていないが、監査等委員は(監査役よりも)「妥当性監査」により踏み込んだ形で監査を行うべきであるとされている。これは、監査等委員は取締役であるという点で、業務執行が妥当か否かを判断できると考えられるためだ。したがって、監査等委員会設置会社に移行する際は、就任予定者が「妥当性」まで判断する責任を負えるのか否かについても検討が必要であろう。
妥当性監査 : 取締役の職務執行が経営方針等に準拠して合理的であるか否かを検討する監査。取締役の職務執行が法令や定款に準拠して実施されているか否かを検討する適法性監査とは区別される。