「成長戦略」の1つとして制定されたコーポレートガバナンス・コード
今年(2016年)6月の定時株主総会は、多くの3月決算の上場企業にとって、コーポレートガバナンス・コードへの対応方針を示した後初めての定時株主総会となります。
コーポレートガバナンス・コードへの対応で機関投資家が関心を持っているのは、形式的に各原則を「コンプライ」しているかどうかではなく、「実効性のある対応ができているか」ということであり、企業はこの点について説明を行うことが求められています。
特に重要なのは以下の3点です。
1.成長戦略との関係
「ガバナンス」というとリスク管理的な意味合いで捉えられがちですが、コーポレートガバナンス・コードは政府の「成長戦略」の1つとして作られたものであるということを企業は改めて認識する必要があります。機関投資家に対しても、自社のガバナンス体制が自社の成長戦略の中でどのように位置付けられているのか、自社の成長にどのように貢献するのかを整理して説明することが重要です。成長戦略と現在の自社のステージを踏まえ、投資家から「なぜ現在のガバナンス体制を選択しているのか」と質問された場合、明確に答えられるか再考してみてください。例えば、取締役会が示した成長戦略を実現するために経営幹部による適切なリスクテイクを支える体制となっていることなどを具体的に説明できるようにしておきたいところです。
2.(独立)社外取締役の位置付け
コーポレートガバナンス・コードで複数の選任が求められている独立社外取締役については、複数選任の事実だけでなく、各独立社外取締役がどのような役割を担うことで企業の成長につながるのかということを明確に説明できるようにしておく必要があります。まずは複数選任することを優先せざるを得なかった企業も多いと思いますが、このような場合であっても、各社外取締役にどのような役割を担ってもらえば成長と結び付くのかを再度検討・整理し、それをいかにして機関投資家に説明するのかを考えてください。
機関投資家、特にグローバル機関投資家は、コーポレートガバナンス・コードの要諦は「経営陣の指名・報酬の決定機能」にあると考えており、取締役会の過半数を独立社外取締役が占めたうえで指名・報酬を決定することが望ましいと思っています。しかし、現状ではそのような体制となっている日本の上場企業はごく少数です。たとえ体制面でグローバル機関投資家が望むような姿にはなっていなくても、少なくとも「問題のないガバナンス体制」を構築するためにどのような工夫を行っているかの説明は欲しいところです。例えば、コーポレートガバナンス・コード「補充原則4-10①」でも勧められている任意の諮問委員会の設置を検討している旨の説明などが考えられます。
補充原則4-10①
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。
|
3.取締役会評価
コーポレートガバナンス・コードで開示が求められている項目であり、内容を「毎年」更新しなければならないのが取締役会評価です。コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11③では、取締役会評価では「“結果”の概要」を開示するよう求めていますが、だからと言って、単に「取締役会評価を行った結果、取締役会の実効性は十分に確保されていた」というような結果だけの説明ではなく(実際、コーポレートガバナンス・コードの実施後最初に提出された各社のコーポレートガバナンス報告書には、このような開示例が多く見られました)、評価によって見つかった取締役会の課題やそれに対する改善の方向性も示したいところです。機関投資家は「問題がない」という回答を求めているのではなく、企業がどのような課題を認識し、それをいかに解決しようとしているのかが知りたいのです。
補充原則4-11③
取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。
|
「無条件に賛成」とはいかなくなった監査等委員会設置会社への移行
東芝の不祥事やセブン&アイにおける経営者の交代などは、今総会に対する機関投資家の関心をかつてなく高めることになりました。最近のトピックスに関係して機関投資家が特に関心を持ちそうなテーマは以下のとおりです。
1.監査等委員会設置会社への移行
従来、監査等委員会設置会社への移行は「ガバナンスの改善」との見方が多く、機関投資家もほぼ無条件に近い形でこれを認めてきました。しかしながら、オプトホールディングが、監査等委員会設置会社に移行するための定款変更議案に対し大株主である米国運用会社RMBキャピタルの反対を受けたように(結果は可決。2016年4月19日のニュース「機関投資家に反対される監査等委員会設置会社移行の定款変更議案」参照)、今後は無条件で賛成が得られるとは限りません。
機関投資家が監査等委員会設置会社への移行に疑念を抱きつつあるのは、社外取締役の役割を積極的に認めていない企業が、新たな社外取締役の採用を避けるために社外監査役を横滑りさせている事例が散見されるからです(昨年(2015年)6月の株主総会の終了までに監査等委員会設置会社に移行した企業のうち、独立役員の人数が増加したケースは約3割にとどまっています)。このような姿勢は“形式的”には「複数の社外取締役会の選任」という要件を満たしているように見えても、“実質的”にはガバナンスの後退であり、社外取締役の活用を求めるコーポレートガバナンス・コードの精神に反しているとの見方があります。企業にそのような姿勢が見えた場合には反対票を投じる機関投資家は今後も出てくると予想されます。
したがって、監査等委員会設置会社への移行について機関投資家に説明する場合には、「制度上認められている」といったものではなく、株主の賛同が得られるように、その目的と積極的な意義を明確に説明することが必要です。上述のとおり、機関投資家にとって、コーポレートガバナンス・コードの要諦は「経営陣の指名・報酬の決定機能」にあります。会社法上、監査等委員会設置会社における監査等委員会には、監査等委員でない取締役の人事・報酬について株主総会での「意見陳述権」が認められている(会社法361条6項)ことを踏まえ、「社外取締役が過半数の監査等委員会で、監査等委員でない取締役の人事・報酬を評価している」旨をアピールするのもよいでしょう。また、コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-10①は、「独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである」としていますので、監査等委員会設置会社への移行にあたっては、指名委員会等設置会社と同様の指名(諮問)委員会、報酬(諮問)委員会を任意で設置することも検討したいところです。
また、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行した場合、常勤監査役がいなくなることで、監査機能がむしろ弱くなってしまうのではないかという懸念が機関投資家から示されることも考えられます。その場合、内部統制・内部監査機能の強化についてコメントを準備することも有効でしょう。
なお、議決権行使助言会社ISSは基本的には監査等委員会設置会社への移行に賛成する方針ですが、「経営権」に絡む株主提案(例えば委任状争奪戦の状態にある場合)として議案が提出された場合には、株主提案の内容を踏まえて個別判断する可能性もありますので、注意が必要です。
委任状争奪戦 : 株主総会において、会社提案の議案を否決したり、株主提案の議案を可決させたりするために、株主が会社の経営陣と委任状(議決権)を奪い合うこと。ファンド等の株主が、会社提案の否決または株主提案への賛成を求める委任状を他の株主に送付する形で行われる。別名「プロキシー(=委任状)ファイト」。
2.指名委員会の位置付け
指名委員会の設置は欧米企業では常識になっているため、機関投資家にも受け入れられ易いガバナンス体制だと言えます。しかしながら、形式的には優れたガバナンス体制を有しているとされてきた東芝では指名委員会が機能せず、歴代社長経験者が次期社長を決めるという密室人事が不祥事を招く大きな要因となりました。一方、セブン&アイのケースは、「コーポレートガバナンスが機能した事例」として資本市場から高い評価を受けています(2016年5月10日のニュース「セブン&アイで実証されたコーポレートガバナンスの「形」による効能」参照)。
東芝事件に象徴されるように、「日本企業の指名委員会は形骸化している」と考えている機関投資家は多く、本当に実効性がある体制となっているかどうか、開示資料の端々(社外取締役の経歴など)から読み取ろうとしています。企業としては、従来のような「社会的地位」や「独立性」の説明にとどまらず、「指名委員会の活動にどれくらい時間を割くことができるのか」「会社が委員に対して具体的に求めていること」など、実効性の有無を判断する材料を提供したいところです。また、指名委員会も取締役会評価の対象とし、評価結果も踏まえて説明すると、より説得力が高まるでしょう。
形式的なコードへの対応は早期に
コーポレートガバナンス・コードにおける株主総会に関する原則の中には、コストさえかければ容易に対応できるものがあります。具体的には補充原則1-2②「招集通知の早期発送・WEB開示」、補充原則1-2④「招集通知の英文対応」などです。
また、補充原則1-2③「開催日の適切な設定」、補充原則1-2⑤「機関投資家の総会出席」についても全国株懇連合会のガイドラインに、定款変更により議決権の代理行使を認める方法などが提示されています(12ページの「ルートD」参照)。このような取組みは、コーポレートガバナンスの改善に向け積極的な姿勢を投資家に示すことになります。これらの原則への対応は根本的な取組みが必要になる他の原則に比べれば容易であり、早期に対応した方が投資家にもアピールすることになると考えられます。