粉飾決算が発覚して株価が下落した場合、取締役等は株主から株価下落分の損害賠償を請求されるリスクがある。こうした中、粉飾決算を行った会社の法人株主が同社の代表取締役(複数)らに対して株価下落分の損害賠償を求めたものの、代表取締役のうちの1人の賠償責任が否定された最近の裁判例があるので紹介しよう。
この裁判は、札幌証券取引所「アンビシャス」市場に上場していたインネクスト社が粉飾決算を行っていることを知らずに同社の株式を取得した法人が、粉飾決算による株価下落分の損害賠償を求め、同社の代表取締役(複数)・財務担当取締役らのほか、粉飾決算当時同社を持分法適用関連会社としていた石山ゲートウェイ社(元親会社)及びその代表取締役、粉飾に関わったとされる取引先及びその代表取締役を提訴したもの。粉飾の規模は売上高で3億460万円(5億2,746万9,000円→8億3,206万9,000円)、売上総利益で1億2,314万円(1億3,870万1,000円→2億6,184万1,000円)、営業利益で1億2,314万円(▲6,412万5,000円→5,901万5,000円)で、経常利益で1億2,314万円(▲8,407万3,000円→3,906万7,000円)であった。粉飾決算の発覚により株価は下落、法人株主は株式の取得額5千万円と売却額230万円の差額4千770万円の損額賠償を求めていた。
持分法適用関連会社 : 議決権保有割合が「20%以上50%以下」の非連結子会社・関連会社を指す。連結子会社は親会社と財務諸表自体を「合算」することになるが(「完全連結」と言われる)、持分法適用関連会社は、損益に親会社の議決権保有割合を乗じた金額を、親会社の貸借対照表にある「投資有価証券」という勘定項目に加減算するだけである(「一行連結」と言われる)。なお、議決権保有割合が「20%以上50%以下」の範囲にあっても、重要性の乏しい会社は持分法適用会社としないこともできる。
裁判所は、粉飾に関わったインネクスト社の代表取締役CEOと財務担当取締役ら、そして同社の経営に強い影響力を持っていた石山ゲートウェイ社及びその代表取締役の賠償責任を認定する一方で、同社の代表取締役CTO(最高技術責任者)、取引先及びその代表取締役の賠償責任を否定する判断を下している(東京地裁平成27年8月28日判決)。
ここで気になるのは、インネクスト社の「代表取締役」という地位にありながら、CTOの賠償責任が否定された点だ(ちなみに、取引先及びその代表取締役については、インネクスト社による粉飾の意図を認識していなかったことなどが、賠償責任を認めない理由とされている)。
「代表権」を持っている取締役であれば、たとえ担当業務外のところで粉飾が起きたとしても、代表取締役として通常有すべき知見をもって粉飾を認識・是正することが期待されるため、「粉飾を知らなかった」と主張しても善管義務違反に問われることが考えられるところだ。 本裁判でも、インネクスト社のCEOは「CTOも数字を作らなければならないことはわかっており、本件粉飾については共通認識であった」と証言している。また、インネクスト社の粉飾は「売上の前倒し」と「外注費の先送り」という手法で行われたが、CTOは代表取締役の1人として同社の役員会に出席し、少なくとも取引形態の変更により売上が前倒しで計上されることになった旨の報告を聞いている。
これに対し裁判所は、(1)粉飾が行われたのはCTOが担当していた「液晶検査装置」の事業ではなく、CEOが担当していた「液晶製造装置」の案件の中であり、CTOは売上前倒しのための取引形態の変更や、外注費を先送りするために下請け2社に協力を求める件には関与していなかったこと、(2)役員会で、取引形態の変更による売上の前倒し計上が「粉飾」のための虚偽であるとの説明がされた証拠がないこと――などから、CTOが虚偽記載について知っていたとまでは認めることはできないとの判断を下している。
もっとも、CTOも「代表取締役」である以上、役員会での報告について積極的にその根拠を確認することが期待されるところであり、この点は原告である法人株主も、「売上げの前倒しについて何ら意義を述べなかった」「仮に本件虚偽記載を知らなかったとしても、相当な注意を用いたとはいえない」などと主張していた。
しかし裁判所は、「粉飾のための取引形態変更等に関する書類を調査したとしてもこれが粉飾であるとの判断を行うことは困難であると考えられるから、相当な注意を用いたとしても本件虚偽記載を知ることができなかったというのが相当」とし、法人株主の主張を退けている。