監査と名の付く主なものには「監査役監査」「内部監査」「会計監査」の3つがあるが(これらは総称して「三様監査」と呼ばれる)、会計監査はともかく、「監査役監査」と「内部監査」の違いを理解していない取締役が非常に多い。よくある誤解のパターンは、概ね以下の3つに集約される。
①監査役も自分の部下だと思っているパターン
②本来は内部監査の職務範囲なのに、これを監査役に依頼しているパターン
③内部監査の監査対象には社長も含まれると考えているパターン
確かに監査役監査と内部監査はよく似ていると言われるが、あくまで両者は全くの別もの。会計監査も含め、それぞれを違いを整理すれば下表のとおりとなる。
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監査役監査 |
内部監査 |
会計監査 |
| 依頼人 |
株主 |
取締役 |
株主(監査役) |
| 監査対象 |
取締役 |
従業員 |
取締役(財務諸表) |
監査役監査と内部監査の最大の違いは、監査役監査が「株主の依頼により、取締役を監査する」ものであるのに対し、内部監査は「取締役(経営陣)の依頼により、従業員を監査する」ものであるという点にある。
ちなみに、会計監査は「会計の専門的知識が必要になる」という理由で監査役監査から分化したものであるため、「株主(厳密には監査役が起案し、株主が決定)の依頼により、(取締役の業務執行の結果を表した)財務諸表を監査する」ことが目的となる。この点は監査役および会計監査人の選任が株主総会の決議事項であることにも表れている(一方、内部監査人は「社内」で選定される)。
このように、監査役監査と内部監査では「依頼人」と「監査対象」が全く異なっているだけに、当然ながら監査の視点や指示体系も違えば、報酬の決められ方も違ってくる。
監査役は「株主」より依頼されて「取締役の業務執行」について監査するため、その視点は「適法性(法令や定款を遵守しているか)」と「妥当性(非効率な業務を行っていないか、会社に不合理な損失を与えていないか)」が主となる。
監査役監査の依頼者は株主である以上、本来なら監査役は監査に関する指示も株主から受けるべきだが、株主全員の意見を聞き監査を行うのは困難であるため、実務上は監査役が独自に監査方針を決定し、監査を実施している。そして、依頼者である株主には結果のみを報告することとなる。冒頭で述べたように、「監査役=部下」と思っている取締役が少なくないが、監査の実効性を担保するため、監査役は被監査対象である取締役(経営陣)からは独立した存在とされており、取締役の指示を受ける立場にはない。
同様に、監査役の報酬も決定権は株主にある。会社法上は監査役が自ら報酬額を設定して(株主承認の上)請求することになっているが、実際には取締役との事前交渉により監査役の報酬が決められているケースが多い。よくあるのが次の2パターンだ。
①報酬レンジを内規等で予め決めているパターン(大企業や、代々社内の人材が監査役に就任する会社に多い)
②同規模の他社との比較で決めるパターン(中堅以下の企業、社外の人材が監査役に就任する会社に多い)
また、「一番下の取締役と同程度」という暗黙の了解も存在しているようだが、他社と比較して高額or低額いずれの場合も株主からの批判の対象になりがちなため(低額の場合、「監査役を軽視している」と言われかねない)、一般的には他社との比較が最も重視されていると言えるだろう。なお、例えば「従業員の評価基準」を用いて監査役の評価を行うというやり方は監査役の独立性を侵害しかねないので要注意だ。現在そのような形で監査役の報酬を決めている会社は、すぐにやめるべきだろう。
一方、内部監査は「取締役(経営陣)」より依頼され「従業員の業務執行」について監査するものであるため、その視点は内部統制制度の一機能としての「モニタリング」、すなわち「決められた内部統制のルールに準拠できているか否か」という点が主となる。
内部監査の依頼者は経営陣(社長直下となっている場合が多い)なので、その指示は原則として経営陣から受け、結果の報告も経営陣に対して行うことになる。また、内部監査の実効性を担保するため、内部監査を担う部門(内部監査室等)は被監査部門から独立した存在とする必要がある。
したがって、内部監査部門の給与は原則として「内部監査部門内」での人事評価に基づき決められることが望ましく、例えば経理部長からの評価を受ける等、特定の部門から評価を受けるような体制は独立性を担保する上で好ましくない。
以上のとおり、監査役監査と内部監査は全く異なるものだが、内部監査が有効に機能しているか否かは監査役監査において「内部統制システムの構築・運用状況」を監査する上での重要な確認事項となるなど、両者は深く関わっている。また、内部監査で問題が発見された場合、それが監査役監査の範疇である「取締役の業務執行の適切性」の問題に直結することも多い。経営者不正は滅多に起こるものではないが、内部監査の依頼者は「経営陣」であるだけに、万が一内部監査において経営者不正が発見された場合には、これが監査役に伝達されない可能性もある。監査役はこの点も念頭に置いて監査計画を立案・実施する必要があるとともに、監査役と内部監査部門(さらに会計監査人も加わった三者)は定期的にコミュニケーションをとり、それぞれの監査で発見された問題点を共有することが、(それぞれが)より良い監査を実現することにつながるとともに、会社法が意図するガバナンスが有効に機能することになる(上述のとおり、内部監査の実施状況の確認は監査役の職務範囲であるため、監査役にとっては、内部監査部門とのコミュニケーションがとれなければ、そもそも監査にならないとも言える)。
このような役割分担や役割の違いを踏まえたコミュニケーションも、まずは取締役が監査役監査と内部監査の違いを認識していることが大前提となるということを、取締役諸氏は肝に銘じておきたい。