2025/01/23 厚労省が「カスハラ」「就活セクハラ」「自爆営業」対策を強化、3月末までに行うべきことは?(会員限定)

既報のとおり、東京都で全国初となる「カスタマーハラスメント防止条例」(以下、東京都カスハラ防止条例)が制定され、2025年4月から施行されるが(2024年10月16日のニュース「カスハラへの対応ミスで被害者の矛先が会社に向かう恐れ」参照)、カスタマーハラスメントが社会問題化する中、ようやく国(厚生労働省)も対策に乗り出す。

厚労省に設置された労働政策審議会は2024年12月26日に公表した建議により、厚生労働大臣に対し女性活躍推進関連の提案を行っているが(2025年1月17日のニュース「女性管理職比率の開示義務化が既定路線に 適用対象拡大により子会社での開示が必要になるケースも増加へ」参照)、同建議の中で各種ハラスメント対策の強化も求めている。

建議では、「職場におけるハラスメント防止対策の強化」の中で、個別のハラスメントとして真っ先にカスハラを取り上げており、カスハラは「労働者の就業環境を害するものであり、労働者を保護する必要がある」ため、カスハラ対策を事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当であるとしている。そして、事業主が講ずべき雇用管理上の措置の具体的な内容を指針で明確化するよう厚生労働大臣に要請している。

もっとも、国がカスハラを取り上げるのはこれが初めてではない。2019年6月5日には労働施策総合推進法が下記のとおり改正され、職場におけるパワハラ防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務とされている。

労働施策総合推進法30条の2(雇用管理上の措置等)
1項 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2項 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

この法改正を踏まえ、2020年1月には「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号。以下、パワハラ防止指針)が策定された。

指針におけるカスハラの扱い
事業主は、取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、例えば、⑴及び⑵の取組を行うことが望ましい。また、⑶のような取組を行うことも、その雇用する労働者が被害を受けることを防止する上で有効と考えられる。
⑴ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(中略)
⑵ 被害者への配慮のための取組
(中略)
⑶ 他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組
(後略)

このように、2020年1月に公表された国のパワハラ防止指針では「カスタマーハラスメント」という用語すら出てこないものの、カスハラへの取組みも射程に入れて作られている。ただし、事業主によるカスハラに関する取組みの必要性は「望ましい」「有効」といった表現(上表の赤字)にとどまっていた。今回の建議は、このパワハラ防止指針における「望ましい」「有効」というトーンをより強めて「義務」に昇格させた「カスタマーハラスメント防止指針(仮称)」の創設を求めるものであり、実現すれば今年4月からカスハラ防止条例が施行される東京都に限定されず、全国の事業主にもカスハラ対策が義務付けられることになる。

さらに建議では、セクハラと同様(下記の男女雇用機会均等法11条の3項参照)、カスハラについても、事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない旨を法律で規定することが適当であるとされている。つまり、他社から、「自社の労働者」による他社の労働者に対するカスハラの事実確認や再発防止といった他社の雇用管理上の措置の実施に必要な協力を求められた場合、事業主はこれに応じるよう努力義務が課されることになる。

男女雇用機会均等法11条の規定
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
11条
1項 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
(中略)
3項 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第一項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。
(後略)

また建議では、就活等におけるセクハラ対策の強化や、いわゆる自爆営業をパワハラ防止指針に明記することも要請している(「自爆営業」については2024年6月12日のニュース「自爆営業の根絶に向け、ノルマの廃止も選択肢に」を参照)。建議では、就職活動中やインターンシップの学生・転職希望者等の求職者と事業主との関係は「雇用関係そのものではない」ものの、「就職活動中の学生等に対するセクシュアルハラスメントの防止は職場における雇用管理の延長上にある」と整理し、事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当であるとしている。上場会社としては、自社(子会社も含む)のセクハラ対策やパワハラ対策が就活等におけるセクハラや自爆営業も射程に入れているか、確認する必要がある。


自爆営業 : 営業マンが売れ残り商品をやむなく自腹で購入するといった従業員による不必要な商品・サービスの購入のこと。

このほか、就活等におけるハラスメントの一類型として「圧迫面接」などの面接官によるパワハラやOB・OG訪問時のパワハラも想定されるが、労働政策審議会の雇用環境・均等分科会における議論で「就活パワーハラスメントはどこまでが相当な行為であるかという点についての社会的な共通認識が必ずしも十分に形成されていない」という指摘があったことから、建議ではパワハラ防止指針等において記載の明確化等を図りつつ、周知を強化することを通じて防止に向けた取組みを推進するとともに、社会的認識の深化を促していくべきとしている。上場会社は、就活ハラスメント対策がセクハラ対策だけにとどまらないよう留意したいところだ。

国によるカスハラ対策の議論はこれからとなるが、都内で事業を行う法人(都内に本社がなくても、都内に支店等の事務所・事業所がある場合を含む()。「等」は任意団体や個人も含む。以下、都内事業者)には国の議論の決着を悠長に待っている時間はない。冒頭で述べたとおり東京都カスハラ防止条例の施行まで3か月を切っているからだ。

* 事業者の事業に関連し、都の区域外に所在する事務所・事業所及びそれに準ずる場所で業務を行う者は、従事する業務と事業者の事業との間に合理的関連性が認められる場合、「就業者」に含める。合理的関連性があるか否かは、事業者と就業者が置かれた具体的状況に即して判断されることとなる。例えば、都内企業で勤務する会社員が都外でテレワークを行う場合や、都内事業所に所属する鉄道運転士が都外の区域を走る列車に乗車する場合は、その者は事業者の事業に関連した業務に従事する者であることが明らかであり、「就業者」になり得る。また、都外のコールセンターで勤務する会社員であっても、都内の事業者への問合せに電話で対応する場合は、その者は事業者の事業の円滑な実施に不可欠な業務に従事する者であり、「就業者」になり得る(以上、東京都の「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」(以下、東京都のガイドライン)の5ページ目より引用)。

東京都カスハラ条例では、カスハラを「①顧客等から就業者に対し、②その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、③就業環境を害するものをいう。」と規定している(東京都カスハラ条例2条5号)。すなわち、①から③までの要素を全て満たすものが東京都カスハラ条例上のカスハラに該当することになるが、これら3つの要素をすべて満たさない場合であっても、「著しい迷惑行為」があった場合には、刑法等に基づき処罰される可能性や、民法に基づき損害賠償を請求しうる可能性がある点、留意したい。

都内事業者はカスハラ防止に主体的かつ積極的に取り組む必要がある(東京都カスハラ条例9条1項)。具体的には、事業者は顧客等からのカスハラを防止するための措置として、東京都のガイドラインに基づき、必要な体制の整備、カスハラを受けた就業者への配慮、カスハラ防止のための手引きの作成などの措置を講ずるよう努める必要がある(東京都カスハラ条例14条1項)。そのうえで、都内事業者は、就業者がカスハラを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れなど必要かつ適切な措置を講ずるよう努める必要がある(東京都カスハラ条例9条2項)。また、都内事業者はその事業に関して就業者が顧客等としてカスハラを行わないように、必要な措置を講じるよう努めなければならない(東京都カスハラ条例9条3項)。いずれも努力規定であり、実施していない事業主が何らかの罰則を受けるわけではないものの、上場会社の社会的責任を考えれば実施して当然の取組みと言えるだろう。

なお、東京都カスハラ条例5条では、適用上の注意として「この条例の適用に当たっては、顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」と規定している。顧客等による正当なクレームまで安易に「カスハラ」として切り捨てることがないよう注意したい。東京都のガイドラインでも「本来、正当なクレームは業務の改善や新たな商品又はサービスの開発につながるものであり、不当に制限されてはならない。」と警鐘を鳴らしている(11ページ参照)。

顧客との接点となる現場では「カスハラかどうか」のグレーゾーンで判断に困ることも想定される。都内事業者に該当する上場会社は、東京都のガイドラインを参考にしつつ「カスハラかどうか」の線引きを含む社内ルールを早急に作成するとともに社内研修などで十分に周知させたうえで4月を迎えるようにしたい。

2025/01/22 公益通報者保護制度が今通常国会で改正へ 「従事者」未指定の事業者には行政命令も

昨年(2024年)、兵庫県庁の元県民局長が内部告発を行った文書の記載内容の真偽を調べる兵庫県議会の「文書問題調査特別委員会」(百条委員会)や警察内の不正を告発した鹿児島県警の元生活安全部長が国家公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで逮捕されるといった報道をきっかけに改めて公益通報者保護制度が注目を集めている。公益通報には、事業者内部への通報(1号通報)、行政機関への通報(2号通報)、報道機関等への通報(3号通報)の3種類があり、それぞれに異なる要件が設けられている(公益通報制度の詳細はこちらを参照)。このうち1号通報がいわゆる内部公益通報(あるいは単に「内部通報」)と言われるもの。企業不祥事が発覚するたびに調査委員会などから「内部通報制度が機能しなかった」と指摘されることは、もはや“お馴染み”の光景になっている。消費者庁は、公益通報制度に関する各種ガイドラインを策定し、事業者や行政機関に対して自主的な取り組みを促しているものの、実際は公益通報者保護制度が十分に機能せず、重大な不祥事が続々と発覚しているのが現状だ。

こうした公益通報者保護制度の課題と対応について検討するため、消費者庁は、有識者により構成される「公益通報者保護制度検討会」(以下、「検討会」)を設置し、制度の改正に向けて議論を行っていることは、【役員会 Good&Bad発言集】公益通報者の探索や2024年8月26日のニュース「公益通報で懸念される営業秘密の漏洩」でお伝えしたとおり。検討会は2024年9月2日に「中間論点整理」を公表し、・・・

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2025/01/22 公益通報者保護制度が今通常国会で改正へ 「従事者」未指定の事業者には行政命令も (会員限定)

昨年(2024年)、兵庫県庁の元県民局長が内部告発を行った文書の記載内容の真偽を調べる兵庫県議会の「文書問題調査特別委員会」(百条委員会)や警察内の不正を告発した鹿児島県警の元生活安全部長が国家公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで逮捕されるといった報道をきっかけに改めて公益通報者保護制度が注目を集めている。公益通報には、事業者内部への通報(1号通報)、行政機関への通報(2号通報)、報道機関等への通報(3号通報)の3種類があり、それぞれに異なる要件が設けられている(公益通報制度の詳細はこちらを参照)。このうち1号通報がいわゆる内部公益通報(あるいは単に「内部通報」)と言われるもの。企業不祥事が発覚するたびに調査委員会などから「内部通報制度が機能しなかった」と指摘されることは、もはや“お馴染み”の光景になっている。消費者庁は、公益通報制度に関する各種ガイドラインを策定し、事業者や行政機関に対して自主的な取り組みを促しているものの、実際は公益通報者保護制度が十分に機能せず、重大な不祥事が続々と発覚しているのが現状だ。

こうした公益通報者保護制度の課題と対応について検討するため、消費者庁は、有識者により構成される「公益通報者保護制度検討会」(以下、「検討会」)を設置し、制度の改正に向けて議論を行っていることは、【役員会 Good&Bad発言集】公益通報者の探索や2024年8月26日のニュース「公益通報で懸念される営業秘密の漏洩」でお伝えしたとおり。検討会は2024年9月2日に「中間論点整理」を公表し、その後の議論を踏まえて2024年12月27日には最終的な報告書を取りまとめ、公表している。

報告書は、検討会における第1回から第9回までの議論を踏まえ、公益通報者保護制度の実効性を向上し、国民生活の安心と安全を確保するための制度の見直しの方向性を検討会の提言として取りまとめたもの。本報告書の主要な論点と結論等を当フォーラムが整理したのが下表だ(「論点」の列に記載したページは検討会の報告書のページを示している)。

公益通報者保護法の改正の要否が検討された主な項目
論点 結論(太字)と理由等 備考
公益通報者保護制度の従事者を指定する義務(詳細は消費者庁のパンフレットを参照)を履行していない違反事業者にどのように対応すべきか(8ページ 従事者指定義務の履行徹底に向けて、消費者庁の行政措置権限を強化すべき。具体的には、現行法の報告徴収、指導・助言、勧告、勧告に従わない場合の事業者名の公表に加え、立入検査権や勧告に従わない場合の命令権を規定し、事業者に対し、是正すべき旨の命令を行っても違反が是正されない場合には、刑事罰(間接罰)を科すこととすべき。
・従事者の守秘義務違反には刑事罰を規定している一方、事業者の従事者指定義務違反には、刑事罰を規定しておらず、事業者の義務の履行に対するディスインセンティブになっているため
・2024年4月に消費者庁が公表した「民間事業者の内部通報対応‐実態調査結果概要」(以下、実態調査結果)によると、従事者指定義務の履行は徹底されておらず、義務を履行する意識が低い事業者が一定程度存在することが明らかになったため
実態調査結果によると、非上場会社の義務対象事業者の1割に従事者指定義務不履行があることが分かった。そして、その約半数が指定義務を履行しない理由として「上司などに情報が共有されており、特段不都合もないため」と回答している。このように、従事者指定義務を履行する意識が低い事業者が一定程度存在することが、行政罰や刑事罰導入の理由の一つとされている。
事業者による労働者等への内部通報制度の周知をどのようにして強化すべきか(8ページ 事業者が整備した公益通報への対応体制について、現状、法定指針で事業者に求めている労働者及び派遣労働者に対する周知が徹底されるよう、体制整備義務の例示として、法律で周知義務を明示すべき
内部通報制度の実効性向上には、内部通報制度が利用者に認知され、信頼されることが必要不可欠であるが、実態調査結果によると、従業員数300人超の事業者に勤める就労者のうち、内部通報制度を理解している割合や内部通報窓口を認知している割合は全体の半数に届いていないことが分かったため
周知事項の具体的な内容としては、法定指針で必要な措置として既に定めがある①部門横断的な内部通報窓口の設置(連絡先や連絡方法等を含む)、②調査における利益相反の排除措置、③是正措置等の通知に関する措置、④不利益な取扱いの防止に関する措置、⑤範囲外共有の防止に関する措置等が考えられる。報告書は、事業者が何を周知すべきかが明らかになるよう、法定指針で具体的に規定するよう求めている。
中小規模事業者の自浄機能の発揮・向上に向けて、体制整備義務の対象となる事業者の範囲を、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者にも拡大すべきではないか(10ページ 法改正提案は見送り(義務対象事業者が常時使用する労働者数の段階的な引き下げや中小規模事業者が対応可能な措置について、引き続き検討すべき)
中小規模事業者における公益通報の件数は少ない(概ね企業規模に比例するため)ことから、公益通報対応のノウハウを蓄積することは難しく、実効的な体制整備を求めることは現実的ではないとの意見や、内部通報窓口の導入支援を行う民間サービス等も少なく、義務対象事業者であっても義務を履行していない事業者がいる中で、中小規模事業者の対応のハードルは高いため
EUでは、労働者数50人以上の事業者に内部通報のための経路と手続きの策定を求めている。
公益通報者を探索する行為を法律上禁止するべき(11ページ 法律上、正当な理由がなく、労働者等に公益通報者である旨を明らかにすることを要求する行為等、公益通報者を特定することを目的とする行為を禁止する規定を設けるべき
公益通報がなされた後、事業者内で公益通報者の探索行為が行われることは、公益通報者自身が脅威に感じることはもちろん、公益通報を行うことを検討している他の労働者を萎縮させるなどの悪影響があり、公益通報を躊躇する要因になる。
公益通報者を探索する行為に対して罰則を設けるべきではないか(11ページ 法改正提案は見送り(今後、必要に応じて、慎重に検討すべき)
不利益な取扱いを伴わない探索行為自体が、罰則に値する反社会性の高い行為とまでは言えず、従事者以外の職場の上司などが公益通報を受け付け、公益通報者を特定する情報を漏らした場合には、罰則対象となっていないこととの均衡を保つことができないことなどが理由
上記の論点「公益通報者を探索する行為を法律上禁止するべき」により、公益通報者を探索する行為は禁止とされても、探索行為を行った者を罰する規定がないことになる。もっとも、探索行為の多くは不利益な取扱いの前段階の行為であり、不利益な取扱いをすれば罰則が適用されることになる(下記の論点「公益通報を理由とする不利益な取扱いに対し、罰則を設けるべきではないか」を参照)。
公益通報を妨害する行為を法律上禁止するべきではないか(13ページ 法において、事業者が、正当な理由なく、労働者等に公益通報をしないことを約束させるなどの公益通報を妨害する行為を禁止するとともに、これに反する契約締結等の法律行為を無効とすべき
公益通報を妨害する行為は公益通報者保護法の趣旨に大きく反する行為であるため。「正当な理由」としては、例えば、事業者において、法令違反の事実の有無に関する調査や是正に向けた適切な対応を行っている場合に、労働者等に対して、当該法令違反の事実を事業者外部に口外しないように求めることなどが考えられる。
「公益通報を妨害する行為」の例として、事業者が、誓約書や契約によって、労働者に公益通報をしないことを約束させたり、公益通報をした場合には不利益な取扱いを行うことを示唆したりすることなどが想定されている。このような行為は、現行法でも、民法90条により、公序良俗に反して無効となると考えられるが、労働者にとっては必ずしも明らかではなく、公益通報を躊躇するおそれがあるため。
公益通報を妨害する行為に対して罰則を規定すべきではないか(13ページ 法改正提案は見送り(今後の立法事実を踏まえて、必要に応じて検討すべき)
現状、こうした行為について立法事実の蓄積が十分にないため
公益通報のために必要な資料収集・持出し行為は免責されるよう規定を設けるべきではないか(14ページ 法改正提案は見送り(今後の立法事実を踏まえ、他の犯罪の構成要件との関係を整理し、免責のための具体的な要件や事業者の免責の必要性について、引き続き、検討すべき)
所有権や占有侵害が私人の自己判断で行われることは事業者における情報管理や企業秩序に対して悪影響を及ぼす可能性(企業情報の漏えいリスク)があるため、他の犯罪の構成要件との関係を整理した上で、免責のための具体的な要件を検討する必要があるため
他の犯罪として、報告書は「窃盗罪、横領罪、背任罪、不正アクセス禁止法違反、建造物侵入罪、個人情報保護法違反など」を挙げている。
通報者は通報行為について民事免責の規定があるものの、刑事免責の規定がない。刑事免責の規定を設けるべきではないか(16ページ 法改正提案は見送り(現状、公益通報の刑事免責の具体的要件を検討するために必要な立法事実の蓄積が十分でないことから、今後の立法事実を踏まえ、必要に応じて、刑法の秘密漏示罪、名誉毀損罪、信用毀損罪の他、特別法の守秘義務違反時の罰則等の保護法益との関係を整理できるか検討すべき) 検討会では、刑事免責の規定がないと、公益通報をしたことについて、あらゆる責任が免除されるのか予測可能性に欠けるとの指摘があったが、法改正提案は見送りとなった。
濫用的通報に対し、罰則を設けるべきではないか(17ページ 法改正提案は見送り(もっとも、公益通報者保護制度の健全な運営を確保する観点から、事業者の適切な内部通報対応を阻害したり、風評被害などの損害を生じさせたりするおそれがある濫用的通報の抑止は必要なので、消費者庁は、濫用的通報の実態を調査し、その結果を踏まえて、対応を検討すべき) 濫用的通報の例として、①「通報内容が虚偽であると知りながら行う通報」、②「既に是正され、解決した事案であることを知りながら、専ら自己の利益を実現するために行う通報」、③「軽微な事実を殊更誇張して繰り返し行う通報」、④「窓口担当者に対して威圧的な態度で行う通報」等がある。
公益通報を理由とする不利益な取扱いに対し、罰則を設けるべきではないか(18ページ 公益通報を理由として不利益な取扱いをした事業者および個人に対して刑事罰を規定すべき
公益通報者保護制度に対する社会一般の信頼の確保と、公益通報をした個人の職業人生や生活の安定を保護法益として守る必要があるため

なお、刑事罰は行政命令を挟む間接罰ではなく、直罰方式が相当。
公益通報を理由とする不利益な取扱いは、法の趣旨を損なう加害行為であり、仮にそのような行為が放置されれば、事業者内やさらには社会全体において、不正を覚知した者が公益通報をすることに萎縮が生じる。このような悪質性の高さや社会的な影響の大きさを踏まえると、強い抑止力が求められるため、直罰方式が妥当

また、法人に対する刑事罰は法人重課を採用すべき
法人に対する刑事罰については、自然人と比較した事業者の資力格差、不正発覚の遅れによって事業者が得る利益や社会的被害の大きさ、行為の悪質性・社会的な影響等を踏まえ、法人重課を採用すべき

刑事罰導入に伴い、公益通報者保護制度の運用の厳格化が期待される。
労働者が公益通報を理由に解雇無効や懲戒無効を主張する場合、労働者は事業者の動機を立証するために様々な間接事実を立証しなければならず、立証負担が重いと言われている。民事訴訟における立証負担の重さは、労働者等が公益通報を躊躇する要因の一つにもなっている。そこで、「公益通報を理由とすること」の立証を事業者にさせるよう、立証責任を転換すべきではないか(24ページ <労働者が解雇無効や懲戒無効を主張する場合>
公益通報をした日から1年以内の解雇及び懲戒に限定して、「公益通報を理由とすること」の立証責任を転換すべき
我が国においては、労働訴訟実務上、労働者が解雇無効(労働契約法16条)や懲戒無効(同法15条)を主張する場合には、解雇・懲戒事由について、事実上、事業者に重い立証負担がある。このことや情報の偏在、公益性を踏まえれば、解雇や懲戒について、「公益通報を理由とすること」の立証責任を事業者に転換すべきである。

<労働者が不利益な配置転換や嫌がらせ等、解雇・懲戒以外の不利益な取扱いを受けたことを主張する場合>
法改正提案は見送り(今後、引き続き検討すべき)
不利益な配置転換や嫌がらせ等、解雇・懲戒以外の不利益な取扱いについては、立法事実を踏まえ、どのような場合に公益通報を理由とすることの立証責任の転換という例外的な措置を許容することができるか、より踏み込んだ検討が必要であるから(我が国の労働関係法規における取扱いや雇用慣行、事業者の公益通報対応の実務、労働訴訟実務の変化も注視しつつ、立証責任の配分の在り方について、今後、引き続き検討すべき)

労働者が解雇無効や懲戒無効を主張する場合と、不利益な配置転換や嫌がらせ等、解雇・懲戒以外の不利益な取扱いを受けたことを主張する場合とで立証責任の転換の有無が異なる提案となった。
保護される通報者の範囲にフリーランスを含めるべきではないか(30ページ 公益通報の主体に事業者と業務委託関係にあるフリーランス(法人成りしているフリーランスの場合はその役員である個人)及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスを追加し、フリーランスが公益通報者保護法3条1項各号に定める保護要件を満たす公益通報をしたことを理由として、事業者が当該フリーランスに対して、業務委託契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額その他の不利益な取扱いを行うことを禁止すべき 下請事業者など、自然人以外の法人の取引先を公益通報の主体や保護対象とすることについては、今後、必要に応じて検討すべきとされた。
下請事業者(法人)も、元請事業者との関係で弱い立場に置かれているため、保護される通報者の範囲に含めるべきではないか(31ページ 法改正提案は見送り(今後、必要に応じて、検討すべき)
法人である下請事業者は自然人とは異なるため
下請事業者でも法人ではなく自然人であればフリーランスとして扱われる。また、法人成りしているフリーランスであってもその役員である個人については、上記の「保護される通報者の範囲にフリーランスを含めるべきではないか」の論点を参照。
フリーランスが公益通報をしたことを理由として取引関係上の不利益な取扱いを受けた場合、業務委託事業者に刑事罰を規定すべきではないか(30ページ 法改正提案は見送り(今後の立法事実を踏まえ、必要に応じて、検討すべき)
フリーランスと業務委託事業者との関係は取引関係に過ぎず、雇用関係ではないため
雇用関係と取引関係の違いに着目
2020年の公益通報者保護改正で、退職後1年以内の元労働者が、保護される通報主体に追加されたが、退職後1年以内の者と1年超の者を区別する合理的な理由はなく、退職後の期間制限を撤廃すべきではないか(32ページ 法改正提案は見送り(今後、必要に応じて、検討すべき)
退職後1年を超える元労働者等による通報の実施状況や通報をしたことを理由として受けた不利益な取扱いの実態が明らかではないため


間接罰 : 違法行為に対して、第一段階として行政が指導や命令を行い、その指導・命令に違反する行為があった場合に、それを理由として第二段階に適用する罰則をいう。
立法事実 : 法律を作る(立法)際に、当該法律が作られることとなった基盤となる社会的事実のこと。立法事実は法律の必要性を裏付けるものとなる。
直罰 : 違法行為に対して、即時に適用される罰則
法人重課 : 事業者による組織的な犯罪の抑止の観点から、法人の業務に関し、代表者その他の従業者が違法行為を行った場合、その行為者を罰するだけでなく、法人に対しても刑罰を科すことを両罰規定と言い 、行為者よりも高額の罰金に処すことを法人重課と言う。

今回、公益通報者保護法関連で刑事罰の導入方針が決まったのが下記の2点だ。
・公益通報者保護制度の従事者を指定する義務の未履行
・公益通報を理由とする不利益な取扱い

一方、「公益通報者を探索する行為」「公益通報を妨害する行為」「濫用的通報」などへの刑事罰導入は見送りとなった。

報告書は「おわりに」において、「本報告書で提言された個別論点のうち、検討会で一定の具体的方向性が得られた事項については、法改正も含めた対応を早急に検討するよう、政府に要請する」(報告書の35ページを参照)としており、当該事項は2025年1月24日に招集される通常国会で議論される見通し。上場会社としては、子会社も含めて公益通報者保護制度の従事者を指定する義務を履行できているか、労働者等への内部通報制度の周知ができているか、公益通報を理由として不利益な取扱いが行われることがないよう社内研修を行っているか、早急に点検する必要がある。

2025/01/21 欧州でもESGファンドが閉鎖ラッシュ・・・2025年、日本におけるESGの行方

日本時間の本日、トランプ氏が米国の大統領に就任した。トランプ氏がESG(環境・社会・ガバナンス)投資に対しても批判的な立場を取っていることは周知のとおりであり、今や米国ではESGという言葉を使うことすら憚られる状況にある。こうした中、昨年(2024年)11月25日には米小売大手のウォルマート社が「公平性」に関する従業員への研修を打ち切ることや、サプライヤーの多様性を高めるための取り組みを見直すとの方針を打ち出している。

そして、意外なことに欧州でもESGファンドが“閉鎖ラッシュ”となっている。こちらはグリーンウォッシュ防止に関する規制の影響などが背景にあり、米国とは様相が異なる。しかしながら、米国のみならず欧州でも、ESGに着目した運用であれば「先進的」で「プレミアム」なものという印象は薄れ、むしろ運用を歪めるのではないかとの批判に晒されているのが現状だ。


グリーンウォッシュ : 環境に配慮していることやエコを想起される「グリーン」と、上辺だけを飾ることを意味する「ホワイトウォッシュ」を掛け合わせた造語。一見、環境に配慮しているように見せかけておきながら実態は異なり、環境意識の高い消費者や投資家に誤解を与えることを指す。

では日本ではどうか。日本の資本市場では昨年、・・・

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2025/01/21 欧州でもESGファンドが閉鎖ラッシュ・・・2025年、日本におけるESGの行方(会員限定)

日本時間の本日、トランプ氏が米国の大統領に就任した。トランプ氏がESG(環境・社会・ガバナンス)投資に対しても批判的な立場を取っていることは周知のとおりであり、今や米国ではESGという言葉を使うことすら憚られる状況にある。こうした中、昨年(2024年)11月25日には米小売大手のウォルマート社が「公平性」に関する従業員への研修を打ち切ることや、サプライヤーの多様性を高めるための取り組みを見直すとの方針を打ち出している。

そして、意外なことに欧州でもESGファンドが“閉鎖ラッシュ”となっている。こちらはグリーンウォッシュ防止に関する規制の影響などが背景にあり、米国とは様相が異なる。しかしながら、米国のみならず欧州でも、ESGに着目した運用であれば「先進的」で「プレミアム」なものという印象は薄れ、むしろ運用を歪めるのではないかとの批判に晒されているのが現状だ。


グリーンウォッシュ : 環境に配慮していることやエコを想起される「グリーン」と、上辺だけを飾ることを意味する「ホワイトウォッシュ」を掛け合わせた造語。一見、環境に配慮しているように見せかけておきながら実態は異なり、環境意識の高い消費者や投資家に誤解を与えることを指す。

では日本ではどうか。日本の資本市場では昨年、政策保有株式の売却(とそれに伴う安定株主の減少)などを背景に、アクティビストの動きが活発になった。経営への介入や株価変動による“鞘取り”を目指すアクティビストは、自社株買いなど短期的な株主還元や株価対策を志向し、中長期的な企業価値を高めるESGへの取組みは重視しない。

一方で、昨年はNISAの拡充によりパッシブ投資家の受託するマネーが膨れ上がった。パッシブ投資家(以下、アセットマネジメント会社)が抱える膨大な投資先に対する投資判断や議決権行使の判断に大きな影響を与えるのが、①アセットオーナー(年金基金や保険会社)がアセットマネジメント会社にどのような指示を与えるのか、②アセットマネジメント会社が活用するESGデータ提供機関・評価機関のデータや評価、③議決権行使助言会社による助言の3点だ。


パッシブ投資家 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法をとる投資家のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。

このうちアセットオーナーの問題について、政府は2024年8月に「アセットオーナー・プリンシプル」を公表し、アセットオーナーに対して「ステークホルダーへの説明責任を果たすため、運用状況についての情報提供(見える化)を行い、ステークホルダーとの対話に役立てる」こと(原則4)や、「自ら又は運用委託先の行動を通じてスチュワードシップ活動を実施するなど、投資先企業の持続的成長に資するよう必要な工夫」をすること(原則5)を求めた(2024年9月3日のニュース『アセットオーナー・プリンシプルが公表 「資金の出し手」に改革迫る』参照)。

アセットオーナー・プリンシプルの制定は、ESG評価・データ提供機関や議決権行使助言会社にも影響を及ぼしている。アセットオーナー・プリンシプルの受入れを表明した代表的なアセットオーナーである年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、国家公務員共済組合連合会(KKR)、地方公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団が一堂に会した経団連・GPIF第1回アセットオーナーラウンドテーブル (2024年10月3日開催)では、宮園GPIF理事長が「GPIFは250兆円近い運用資産の4分の1を国内株式に投資している。これは、被保険者である国民がGPIFを通じて、市場の時価総額7%にも相当する日本企業の大株主になっているともいえる。その声なき期待を担っていることを忘れてはならない」と表明したが、企業側からは「運用委託先が、議決権行使助言会社等による形式的な基準のみに依拠して議決権を行使していないか、モニタリングを強化してほしい」という議決権行使助言会社等にとっては厳しい意見が出された。

議決権行使助言会社やESG評価・データ提供機関に対する企業の不満は根強い。2024年には、一部の評価・データ提供機関がシステム変更、評価に関するメソドロジーの変更などを同時期に行ったことにより、企業の間では大きな混乱が広がった。また、高評価を得るためには高額なコンサルティングを受ける必要があり、評価会社とコンサルティング会社との間で利益相反が生じていると指摘する声も聞かれる。政府は2022年12月に「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」を策定したが、策定3年目となる2025年には見直しのタイミングを迎える。英国では財務大臣がESG評価機関を規制する法案を2025年に提出することを表明しており、EUでも2024年11月19日にESG評価機関を規制する規則案がEU理事会で可決し、発効から18カ月後の2026年夏には発効する。日本でもESG評価・データ提供機関を規制する動きが進む可能性は十分にありそうだ。

もっとも、日本ではESG投資が頭ごなしに否定されているわけではない。厚生労働省に設置された社会保障審議会・資金運用部会は2024年12月24日の会合に同部会における「議論の整理」を提出し、GPIFに対し「スチュワードシップ活動とESGを考慮した投資については、その効果が発現するまでに長期間を要することも踏まえつつ、被保険者の利益のために長期的な収益を確保する観点から、引き続き取り組むべきである」としたうえで、ESG投資、さらにはESG投資より一歩踏み込んだインパクト投資にも、『「専ら被保険者の利益のため」という目的を離れて他の政策目的や施策実現のために年金積立金の運用を行うこと(他事考慮)はできない』という法(厚生年金保険法や国民年金法等)の制約を受けずに、取り組むことができることを示した。


インパクト投資 : 社会問題・環境問題を解決することを目的として投資すること。

日本でESG投資が引き続き受け入れられるためには、ESGが企業価値の向上につながるものであることを企業、投資家双方が示すことが求められそうだ。

2025/01/20 監査等委員会の実効性評価

監査等委員会設置会社に移行する上場会社が増加し続けている。当フォーラムが2024年12月末現在の東証プライム市場上場会社を確認したところ、全体の半数に迫っており、監査役会設置会社との差は100社を切っている。2025年6月の株主総会シーズンを終えた時点で、監査等委員会設置会社が最多の機関設計となっている可能性は十分にあろう。

機関設計 社数 割合
監査役会設置会社 829 50.5%
監査等委員会設置会社 730 44.5%
指名委員会等設置会社 81 4.9%
東証プライム市場上場会社 1,640 100.0%

基本的に監査役会設置会社はマネジメント・ボード、監査等委員会設置会社はモニタリング・ボードを志向する組織体制であり、それぞれにおける取締役会の在り方は大きく異なる。したがって、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行の前後では、取締役会の実効性評価の内容も変更されるのが自然だろう。


マネジメント・ボード : 業務執行におけるコンセンサスを形成する場としての取締役会のこと。
モニタリング・ボード : 経営陣の監督を主たる役割・任務とする取締役会のこと。

会社法上、監査役会設置会社では「重要な財産の処分及び譲受け」「多額の借財」が取締役会の専決事項とされているが、監査等委員会設置会社では「経営の基本方針」などを除いて業務執行取締役に権限委譲できる。したがって、移行前後で取締役会の討議事項に大差がないようでは、監査等委員会設置会社に移行した意味も薄れてしまう。

監査等委員会設置会社に移行した会社における取締役会の実効性評価の内容を見てみよう。・・・

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2025/01/20 監査等委員会の実効性評価(会員限定)

監査等委員会設置会社に移行する上場会社が増加し続けている。当フォーラムが2024年12月末現在の東証プライム市場上場会社を確認したところ、全体の半数に迫っており、監査役会設置会社との差は100社を切っている。2025年6月の株主総会シーズンを終えた時点で、監査等委員会設置会社が最多の機関設計となっている可能性は十分にあろう。

機関設計 社数 割合
監査役会設置会社 829 50.5%
監査等委員会設置会社 730 44.5%
指名委員会等設置会社 81 4.9%
東証プライム市場上場会社 1,640 100.0%

基本的に監査役会設置会社はマネジメント・ボード、監査等委員会設置会社はモニタリング・ボードを志向する組織体制であり、それぞれにおける取締役会の在り方は大きく異なる。したがって、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行の前後では、取締役会の実効性評価の内容も変更されるのが自然だろう。


マネジメント・ボード : 業務執行におけるコンセンサスを形成する場としての取締役会のこと。
モニタリング・ボード : 経営陣の監督を主たる役割・任務とする取締役会のこと。

会社法上、監査役会設置会社では「重要な財産の処分及び譲受け」「多額の借財」が取締役会の専決事項とされているが、監査等委員会設置会社では「経営の基本方針」などを除いて業務執行取締役に権限委譲できる。したがって、移行前後で取締役会の討議事項に大差がないようでは、監査等委員会設置会社に移行した意味も薄れてしまう。

監査等委員会設置会社に移行した会社における取締役会の実効性評価の内容を見てみよう。2023年度に移行した日本郵船は、「中長期経営戦略」「サステナビリティに関する事項」について重点的に審議したことを評価する一方、「優先順位が高い事項」にアジェンダを絞り込むことを課題として挙げている。また、2022年度に移行したJR西日本は、「業務執行取締役への意思決定権限の委任」が進んで「中長期的な企業価値向上のための諸課題」が活発に議論されたことを評価しつつ、翌2023年度には、「価値創造の議論」「中長期的な課題」を議論するため、取締役会規則に定める「協議事項」を活用することを課題とした。いずれも監査等委員会設置会社における取締役会の在り方が明確に認識された好事例と言えよう。

社名 評価した点 課題
日本郵船
(2023年度)
新たな脱炭素戦略目標の設定や人材戦略等、中長期経営戦略やサステナビリティに関する事項について重点的に審議する時間を設けて議論を深めた ・アジェンダ設定において、議題と討議時期の選定を慎重に行い年間計画をより明確にし、予め十分な議論の時間を確保することで、優先順位が高い事項に対して効果的に取り組む
西日本旅客鉄道
(2022年度)
取締役会から業務執行取締役への意思決定権限の委任により、迅速・果断な意思決定や業務執行が促進される
サステナビリティに関する機会・リスク、経営上の重点戦略、事業ポートフォリオの方向性等、中長期的な企業価値向上のための諸課題に関する議論が活発になされる
・取締役会による非財務情報を含めた監視・監督機能の強化に向けモニタリング方法を工夫する
・社外取締役と監査等委員取締役とのコミュニケーションを更に充実する
・多様な経験を持つ人材を意識的に経営人財として登用する
西日本旅客鉄道
(2023年度)
・中長期的な企業価値向上や戦略の議論が活発になされ、議論の内容・質が向上している
・監視・監督機能の向上に向けた取り組みや社外取締役と監査等委員会のコミュニケーションの更なる充実を図る取り組みが実施されている
・取締役会規則に定める協議事項等を活用し、長期ビジョン実現に向けた価値創造の議論や環境変化を踏まえた中長期的な課題に関する議論を深める
・モニタリング方法改善に向けた工夫を継続的に実施、社外取締役を中心に実施するオフサイトミーティング等の場も活用し、監視・監督機能を適切に発揮できる環境を整える

監査等委員会設置会社への移行に伴い、取締役会のみならず、監査等委員会についても実効性評価を行う会社も見受けられる。独任制で各人が実査権限を持つ監査役とは異なり、監査等委員会は基本的に「組織」として内部監査部門を活用した監査を実施するため、両者の連携体制を確立することは生命線と言える。JR西日本は、移行初年度(2022年度)の「監査等委員会における実効性評価」で「内部監査部門との連携強化」が進んだことを評価したものの、翌年度は「内部監査部門との課題の共有と連携した対応」を課題に挙げており、監査等委員会設置会社においては監査等委員会の継続的なモニタリングが必要になることが窺える。


独任制 : 自らの権限で自ら監査を行うこと。
実査 : 監査を行う者が実際に現物にあたること。

社名 評価点 課題点
西日本旅客鉄道
(2022年度)
内部監査部門との連携強化、非常勤監査等委員への情報提供の充実など、監査等委員会の実効性が向上している ・監査等委員取締役と業務執行取締役とのコミュニケーションを充実すべき
西日本旅客鉄道
(2023年度)
・監査等委員会の実効性につき、非常勤監査等委員と業務執行取締役とのコミュニケーションが、新たな機会の設定等により改善されている ・監査の質的向上に向けて、内部監査部門との課題の共有と連携した対応を、監査等委員会は図っていくべき

もっとも、上述のJR西日本のような「監査等委員会の実効性評価」は必ずしも求められるわけではない。監査等委員会の実効性評価を単独ではなく、「取締役会の実効性評価」の一部として実施することにも十分意義がある。当フォーラムが確認したところ、2024年の1年間で「監査等委員会の実効性評価」やこれに類するキーワードが盛り込まれたコーポレートガバナンス報告書を提出したプライム市場上場会社は以下の9社にとどまった。監査等委員会を含めた「取締役会の実効性評価」の実施は大いに検討の余地があろう。

キーワード 社名
監査等委員会における実効性評価 西日本旅客鉄道
監査等委員会の実効性評価 セイコーエプソン
アルプスアルパイン
不二製油グループ本社
東和薬品
パイオラックス
松屋
MS-Japan
監査等委員会実効性評価 ビーウィズ

2025/01/17 女性管理職比率の開示義務化が既定路線に 適用対象拡大により子会社での開示が必要になるケースも増加へ

最近は女性役員が増えてきたとはいえ、その多くは女性「社外」役員であり、女性「社内」役員は圧倒的に少ない。経団連の調査によると、プライム市場上場会社とスタンダード市場上場会社の女性役員4350人のうち女性「社内」役員は615人(=取締役537人+監査役78人)に過ぎない。女性「社内」役員増加のためには、女性管理職比率を向上させ、女性社内役員の候補者(母数)を増やす必要がある。

女性管理職比率の向上は男女間の賃金格差の是正にも貢献する。女性活躍推進の主戦場は役員というパイの小さいレイヤー内での女性比率の向上ではなく、人数が圧倒的に多い管理職における女性比率の向上にあると言っても過言ではない。

そこで、女性活躍推進法に基づき作成が求められる一般事業主行動計画()では、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」に関する公表対象項目の一つとして「女性管理職比率」が掲げられている。もっとも、現行ルール上、常時雇用する従業員の数が301人以上の企業であっても、開示が義務化されているのは「男女の賃金の差異」だけであり、「女性管理職比率」は任意開示の選択肢(8項目から1項目を選択して開示すればよい)の一つに過ぎない(下表「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令第19条第1項」の赤字参照)。実際、任意開示であることを理由に「女性管理職比率」を開示していない企業も少なくない。

* 女性活躍推進法に基づき、常時雇用する従業員が101人以上の企業に策定、都道府県労働局への届け出、社内通知および外部公表が義務とされている自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析およびこれを踏まえた行動計画(常時雇用する従業員が100人以下の企業は努力義務)。常時雇用する従業員が301人以上の企業は、「男女の賃金の差異」の把握および開示も義務となっている。


女性活躍推進法 : 女性の職業生活における活躍を迅速かつ重点的に推進すること等を目的とする法律。同法では、企業や地方公共団体が女性活躍推進に関する行動計画を策定し、実施することを義務付けている。

女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令第19条第1項
(法第20条第1項の情報の公表)
第19条
法第20条第1項の規定による情報の公表は、次の各号に掲げる情報の区分ごとに第1号イからチまで及び第二号に定める事項のうち一般事業主が適切と認めるものをそれぞれ一以上公表するとともに、第1号リに定める事項を公表しなければならない。
1 その雇用し、又は雇用しようとする女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績
イ 採用した労働者に占める女性労働者の割合
ロ 男女別の採用における競争倍率
ハ その雇用する労働者及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者に占める女性労働者の割合
ニ 係長級にある者に占める女性労働者の割合
ホ 管理職に占める女性労働者の割合
ヘ 役員に占める女性の割合
ト その雇用する労働者の男女別の職種の転換又はその雇用する労働者の男女別の雇用形態の転換及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者の男女別の雇入れの実績
チ 男女別の再雇用(通常の労働者として雇い入れる場合に限る。)又は中途採用(おおむね三十歳以上の者を通常の労働者として雇い入れる場合に限る。)の実績
リ その雇用する労働者の男女の賃金の差異

女性管理職比率の開示が義務化されれば、既に開示が義務化されている「男女の賃金の差異」と相まって、社外からはベールに包まれていた女性活躍の実態が衆目にさらされ、ライバル企業に劣後する企業の行動変容が期待されるため、開示の義務化を求める声が高まっていた。

こうした声の高まりを受け、・・・

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2025/01/17 女性管理職比率の開示義務化が既定路線に 適用対象拡大により子会社での開示が必要になるケースも増加へ(会員限定)

最近は女性役員が増えてきたとはいえ、その多くは女性「社外」役員であり、女性「社内」役員は圧倒的に少ない。経団連の調査によると、プライム市場上場会社とスタンダード市場上場会社の女性役員4350人のうち女性「社内」役員は615人(=取締役537人+監査役78人)に過ぎない。女性「社内」役員増加のためには、女性管理職比率を向上させ、女性社内役員の候補者(母数)を増やす必要がある。

女性管理職比率の向上は男女間の賃金格差の是正にも貢献する。女性活躍推進の主戦場は役員というパイの小さいレイヤー内での女性比率の向上ではなく、人数が圧倒的に多い管理職における女性比率の向上にあると言っても過言ではない。

そこで、女性活躍推進法に基づき作成が求められる一般事業主行動計画()では、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」に関する公表対象項目の一つとして「女性管理職比率」が掲げられている。もっとも、現行ルール上、常時雇用する従業員の数が301人以上の企業であっても、開示が義務化されているのは「男女の賃金の差異」だけであり、「女性管理職比率」は任意開示の選択肢(8項目から1項目を選択して開示すればよい)の一つに過ぎない(下表「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令第19条第1項」の赤字参照)。実際、任意開示であることを理由に「女性管理職比率」を開示していない企業も少なくない。

* 女性活躍推進法に基づき、常時雇用する従業員が101人以上の企業に策定、都道府県労働局への届け出、社内通知および外部公表が義務とされている自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析およびこれを踏まえた行動計画(常時雇用する従業員が100人以下の企業は努力義務)。常時雇用する従業員が301人以上の企業は、「男女の賃金の差異」の把握および開示も義務となっている。


女性活躍推進法 : 女性の職業生活における活躍を迅速かつ重点的に推進すること等を目的とする法律。同法では、企業や地方公共団体が女性活躍推進に関する行動計画を策定し、実施することを義務付けている。

女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令第19条第1項
(法第20条第1項の情報の公表)
第19条
法第20条第1項の規定による情報の公表は、次の各号に掲げる情報の区分ごとに第1号イからチまで及び第二号に定める事項のうち一般事業主が適切と認めるものをそれぞれ一以上公表するとともに、第1号リに定める事項を公表しなければならない。
1 その雇用し、又は雇用しようとする女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績
イ 採用した労働者に占める女性労働者の割合
ロ 男女別の採用における競争倍率
ハ その雇用する労働者及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者に占める女性労働者の割合
ニ 係長級にある者に占める女性労働者の割合
ホ 管理職に占める女性労働者の割合
ヘ 役員に占める女性の割合
ト その雇用する労働者の男女別の職種の転換又はその雇用する労働者の男女別の雇用形態の転換及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者の男女別の雇入れの実績
チ 男女別の再雇用(通常の労働者として雇い入れる場合に限る。)又は中途採用(おおむね三十歳以上の者を通常の労働者として雇い入れる場合に限る。)の実績
リ その雇用する労働者の男女の賃金の差異

女性管理職比率の開示が義務化されれば、既に開示が義務化されている「男女の賃金の差異」と相まって、社外からはベールに包まれていた女性活躍の実態が衆目にさらされ、ライバル企業に劣後する企業の行動変容が期待されるため、開示の義務化を求める声が高まっていた。

こうした声の高まりを受け、厚生労働省の労働政策審議会が昨年末(2024年12月26日)に公表した建議では、ようやく女性管理職比率の開示義務化の方針が示されている。

建議では、これまで一般事業主行動計画において「男女の賃金の差異」の開示が求められてこなかった「常時雇用する従業員101人から300人の企業」にも「男女の賃金の差異」の開示を求めるとともに、「女性管理職比率」の開示義務化も適当としている。また、「女性管理職比率の情報公表に当たって、女性管理職の状況の的確な把握を可能とする」ことを目的として、「男女それぞれの労働者数を分母とし、男女それぞれの管理職数を分子とする男女別管理職登用比率」を参考値として記載することが望ましい旨を示すことが適当としている。

一般事業主行動計画の策定・開示が必要な企業の要件に「上場していること」は入っていないため、開示義務は非上場会社にも課される。本建議に基づく上記省令の改正により、新たに女性管理職比率の開示が必要となる会社数は相当増えることが予想される。

一般事業主行動計画で女性管理職比率を公表している上場会社は、下記の開示府令(開示府令第3号様式の記載上の注意(9)で準用する第2号様式の記載上の注意(29))に基づき、有価証券報告書(有報)の【従業員の状況】欄で女性管理職比率を公表する必要がある。

開示府令第2号様式の記載上の注意
(29) 従業員の状況
最近事業年度の提出会社及びその連結子会社それぞれにおける管理職に占める女性労働者の割合(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令(平成27年厚生労働省令第162号。e及びfにおいて「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令」という。)第19第1項第1号ホに掲げる事項をいう。以下dにおいて同じ。)を記載すること。ただし、提出会社及びその連結子会社が、最近事業年度における管理職に占める女性労働者の割合について、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号。e及びfにおいて「女性活躍推進法」という。)の規定による公表をしない場合は、記載を省略することができる。

一般事業主行動計画において女性管理職比率の公表が義務化された後は、子会社を含む有報提出会社は開示漏れが起きないよう注意する必要がある。

女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令で求められている最低限の項目の開示だけで済ませようとする上場会社も少なくないのが現状だが、ジェンダー・ダイバーシティに関する議決権行使基準を厳しくする機関投資家が相次ぐ中(2025年1月16日のニュース『「社外取締役過半数」かつ「女性取締役30%」がミニマム・リクワイヤメントへ』参照)、省令の改正を待たず、積極的に「女性管理職比率」「男女別管理職登用比率」等の任意開示や目標設定を進めたいところだ。

2025/01/16 「社外取締役過半数」かつ「女性取締役30%」がミニマム・リクワイヤメントへ

2024年12月3日のニュース「野村アセットが議決権行使基準を厳格化、取締役会の監督機能強化と資本生産性の向上求める」および12月5日のニュース「大和アセット、「取締役」の構成のみでジェンダー多様性を判断 監査役は考慮せず」でもお伝えしたとおり、国内主要機関投資家による議決権行使基準の改定が相次いでいる。こうした中、昨年(2024年)11月28日には、ESG投資やエンゲージメントに積極的な姿勢で知られる「りそなアセットマネジメント」が『信託財産等における「議決権に関する行使基準」の改定内容および今後の方針』を公表している。りそなアセットマネジメントの基準改定は、広く国内機関投資家に影響を及ぼすものと考えられる。

今回の改定項目は以下の4点で、いずれも2024年1月に開催される株主総会より適用される。・・・

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