2025/01/30 【役員会 Good&Bad発言集】カスタマーハラスメント防止に向けた取組み(2)

2025年4月から東京都で全国初のカスタマー・ハラスメント防止条例(以下、カスハラ防止条例)が施行される旨の報道を目にした上場会社B社(事業所は神奈川県のみ。子会社C社の本社は神奈川県だが、東京都に事務所を設けている)の社外取締役が、取締役会において自社におけるカスハラ対策の現況を尋ねたところ、次の4人が下記の発言を行いました。誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「カスハラは消費者向けビジネスの店舗で生じるようなハラスメントであって、当社のようなB2B企業には関係がないのではないでしょうか。ちなみに子会社のC社はB2C企業ですが、本社所在地は神奈川県なので、C社が東京都のカスハラ防止条例の適用を受けることはありません。」

取締役B:「B2B企業であってもカスハラはあり得ますよ。当社のように東京で事業をしていない企業であっても、東京都に住所を有する顧客から問い合わせを受けた際にカスハラを受ければ、東京都のカスハラ防止条例が適用されます。それに当社の場合、東京都にある自宅から通勤している従業員もたくさんいますから、従業員という切り口でも東京都のカスハラ防止条例が適用されますよ。」

取締役C:「当社は東京都に事業所を有するわけではないので、東京都のカスハラ防止条例は適用されません。もっとも、事業者によるカスハラ対策はもはや必須なので、東京都の条例の適用の有無にかかわらず、カスハラ防止へ取組んでいく必要があります。また、子会社のC社は本社所在地が神奈川県ですが、東京都にも事業所がありますので、東京都の事業所においては東京都のカスハラ防止条例が適用されます。」

取締役D:「東京都のカスハラ防止条例は東京都に住所がある顧客からのカスハラにのみ適用されるので、カスハラ防止条例が適用される顧客かどうか顧客名簿等を整え顧客の住所を判別できるようにしておく必要があります。もっとも、C社での顧客との接点はインターネットや電話であり、フェイストゥフェイスで顧客と対応することはないので、東京都のカスハラ防止条例が適用される場面はないのが実情です。」

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2025/01/30 【役員会 Good&Bad発言集】カスタマーハラスメント防止に向けた取組み(2)(会員限定)

<解説>
東京都カスハラ防止条例における「事業者」とは?

2025年4月から東京都で全国初のカスタマー・ハラスメント防止条例(以下、カスハラ防止条例)が施行されます。この条例は、カスタマー・ハラスメントの防止に関し、基本理念を定め、東京都、顧客等、就業者及び事業者の責務を明らかにするとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に関する施策の基本的な事項を定めることにより、顧客等の豊かな消費生活、就業者の安全及び健康の確保並びに事業者の安定した事業活動を促進し、もって公正かつ持続可能な社会の実現に寄与することを目的とするものです(同条例の第1条を参照)。

東京都のカスハラ防止条例の第9条には「事業者の責務」が定められています。

東京都のカスハラ防止条例の第9条「事業者の責務」の定め
(事業者の責務)
第九条 事業者は、基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力するよう努めなければならない。
2 事業者は、その事業に関して就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない。
3 事業者は、その事業に関して就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

それでは、上記の責務を負う「事業者」はカスハラ防止条例ではどのように定義されているのでしょうか。答えは第2条に記載されています。

東京都のカスハラ防止条例の第2条「事業者」の定義
(定義)
第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 事業者 都の区域内(以下「都内」という。)で事業(非営利目的の活動を含む。)を行う法人その他の団体(国の機関を含む。)又は事業を行う場合における個人をいう。
二 就業者 都内で業務に従事する者(事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者を含む。)をいう。
三 顧客等 顧客(就業者から商品又はサービスの提供を受ける者をいう。)又は就業者の業務に密接に関係する者をいう。
四 著しい迷惑行為 暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう。
五 カスタマー・ハラスメント 顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう。

東京都のカスハラ防止条例第2条第1号を読むと、事業者は「都の区域内(以下「都内」という。)で事業(非営利目的の活動を含む。)を行う①法人②その他の団体(③国の機関を含む。)又は④事業を行う場合における個人をいう」と定義されています。ここでいう「事業」とは、「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」を意味し、営利の目的をもってなされるかどうかを問いません。また、「都内」とは、法人登記や開業届等により、事務所・事業所が都の区域内であることが確認できること、それ以外の場合において、都内で事業を行っている実態があることを意味するとされています。法人登記がないような事務所であっても事業者に該当します。なお、条例は「属地主義()」(地方自治法2条2項)により、東京都の条例が他の道府県に適用されることはないのが原則です。

 条例は制定した自治体の区域内においてのみ、その効力を有するというもの

東京都のカスハラ防止条例第2条第1号には就業者の定義が記載されています。難しいのは「事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者」の解釈です。属地主義を徹底すると、普段は都内で業務に従事する者が、一時的に都外で業務を行う際に顧客等から著しい迷惑行為を受ける事例には適用されないようにも思えるからです。この点、東京都がカスハラ防止条例に関連して定めたガイドラインによると、そういった者を一律に条例の適用外とすることは適切ではないという考えに基づき、事業者の事業に関連し、都の区域外に所在する事務所・事業所およびそれに準ずる場所で業務を行う者は、従事する業務と事業者の事業との間に合理的関連性が認められる場合、「就業者」に含めるとしています。合理的関連性があるか否かは、事業者と就業者が置かれた具体的状況に即して判断されることとなります。

具体例を見てみましょう。都が定めたガイドラインでは「都内企業で勤務する会社員が都外でテレワークを行う場合」や「都内事業所に所属する鉄道運転士が都外の区域を走る列車に乗車する場合」は、その者は事業者の事業に関連した業務に従事する者であることが明らかであり、「就業者」になり得るとされています(ガイドライン5ページ)。また、「都外のコールセンターで勤務する会社員であっても、都内の事業者への問合せに電話で対応する場合」は、その者は事業者の事業の円滑な実施に不可欠な業務に従事する者であり、「就業者」になり得るとされています(ガイドライン5ページ)。

なお、上記で「テレワーク」「コールセンター」とあるとおり、インターネット上で業務を行う者や「顧客からの電話問い合わせ対応」のような電話で業務を行う者も東京都のカスハラ防止条例の適用範囲となります。このようにフェイストゥフェイスの顧客対応以外の顧客対応にも東京都のカスハラ防止条例が適用されるのは、第4条で「あらゆる場において」と記載されていることからも分かります。

東京都のカスハラ防止条例の第4条の定め
(カスタマー・ハラスメントの禁止)
第四条 何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役C:「当社は東京都に事業所を有するわけではないので、東京都のカスハラ防止条例は適用されません。もっとも、事業者によるカスハラ対策はもはや必須なので、東京都の条例の適用の有無にかかわらず、カスハラ防止へ取組んでいく必要があります。また、子会社のC社は本社所在地が神奈川県ですが、東京都にも事業所がありますので、東京都の事業所においては東京都のカスハラ防止条例が適用されます。」
コメント:取締役Cの発言は、条例の属地主義を理解したうえで、カスハラ防止への取り組みの重要性を指摘できているGOOD発言です。

BAD発言はこちら

取締役A:「カスハラは消費者向けビジネスの店舗で生じるようなハラスメントであって、当社のようなB2B企業には関係がないのではないでしょうか。ちなみに子会社のC社はB2C企業ですが、本社所在地は神奈川県なので、C社が東京都のカスハラ防止条例の適用を受けることはありません。」
コメント:B2B企業であっても事業を営む以上「顧客等」はいます。「(カスハラ防止条例は)B2B企業には関係がない」とする取締役Aの発言は、「(一般)消費者」と「顧客等」の概念が混乱したBAD発言と言わざるを得ません。また、本社所在地が東京都以外の道府県にある法人であっても、事業所が東京都にあれば、当該事業所では東京都のカスハラ防止条例が適用されます。その点においても取締役Aの発言には誤りがあります。

取締役B:「B2B企業であってもカスハラはあり得ますよ。当社のように東京で事業をしていない企業であっても、東京都に住所を有する顧客から問い合わせを受けた際にカスハラを受ければ、東京都のカスハラ防止条例が適用されます。それに当社の場合、東京都にある自宅から通勤している従業員もたくさんいますから、従業員という切り口でも東京都のカスハラ防止条例が適用されますよ。」
コメント:東京都で事業をしていなければ東京都のカスハラ防止条例は適用されません。たとえ従業員が東京都に住んでいても、事業をする場所が東京都以外の道府県であれば、やはり同様に東京都のカスハラ防止条例は適用されません。取締役Bの発言は東京都のカスハラ防止条例に対する理解を欠いたBAD発言です。

取締役D:「東京都のカスハラ防止条例は東京都に住所がある顧客からのカスハラにのみ適用されるので、カスハラ防止条例が適用される顧客かどうか顧客名簿等を整え顧客の住所を判別できるようにしておく必要があります。もっとも、C社での顧客との接点はインターネットや電話であり、フェイストゥフェイスで顧客と対応することはないので、東京都のカスハラ防止条例が適用される場面はないのが実情です。」
コメント:東京都のカスハラ防止条例の適用にあたり顧客の住所がどこかは問われません。また、東京都のカスハラ防止条例はインターネットや電話といったフェイストゥフェイス以外による顧客等との接点にあたっても適用されます。取締役Dの発言は東京都のカスハラ防止条例に対する理解を欠いたBAD発言です。