2025/01/16 「社外取締役過半数」かつ「女性取締役30%」がミニマム・リクワイヤメントへ(会員限定)

2024年12月3日のニュース「野村アセットが議決権行使基準を厳格化、取締役会の監督機能強化と資本生産性の向上求める」および12月5日のニュース「大和アセット、「取締役」の構成のみでジェンダー多様性を判断 監査役は考慮せず」でもお伝えしたとおり、国内主要機関投資家による議決権行使基準の改定が相次いでいる。こうした中、昨年(2024年)11月28日には、ESG投資やエンゲージメントに積極的な姿勢で知られる「りそなアセットマネジメント」が『信託財産等における「議決権に関する行使基準」の改定内容および今後の方針』を公表している。りそなアセットマネジメントの基準改定は、広く国内機関投資家に影響を及ぼすものと考えられる。

今回の改定項目は以下の4点で、いずれも2024年1月に開催される株主総会より適用される。

1.ジェンダー・ダイバーシティ
従来は「取締役、監査役、指名委員会等設置会社の執行役」に女性が「確認できない」、すなわち女性役員がゼロの場合に代表取締役の選任議案に反対することとしていたが、今回の改定ではこれが「取締役会全体に占める女性取締役の比率が10%に達していない場合」へと変更された。対象が取締役に限定されたことは、監査役設会置会社に影響を与えるだろう。また、「10%」という閾値は段階的に引き上げるとしていることにも備える必要がある(後述)。

2.資本効率(ROE基準)
在任3年以上の代表取締役の選任議案に反対する資本効率の基準として、従来は「3年連続ROEが5%未満」を“一次スクリーニング”の閾値としていたが、今回の改定により、これが「3年連続でROEが8%未満」に引き上げられた。資本市場においてはROEの最低基準に関わるコンセンサスが、議決権行使助言最大手ISSの「5%」から、経済産業省の伊藤レポートの「8%」に移行する流れが加速していると言えよう。なお、“二次スクリーニング”については、従来はネットキャッシュが「総資産の25%以上」または「業種別でROEが3年連続下位25%以下」とされていたが、このうち前者が「3年連続で総資産の25%以上」に改定された。


ROE : ROE(Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。
ネットキャッシュ : 現預金−有利子負債

3.政策保有株式
従来は政策保有株式の保有額が「連結純資産の20%以上」ある企業で「ROEが8%以上」ない場合、代表取締役の選任議案に反対するとしていたが、今回の改定でこれが「3年連続でROEが8%未満」の企業で政策保有株式の保有額が「連結純資産の20%以上」ある場合とされた。すなわち、政策保有株式の保有額が多いからといって必ずしも代表取締役の選任議案に反対するのではなく、まずは「資本効率が低いこと」を問題視することとなった。また、ROE基準に「3年連続」という限定が付いたことから、実際に反対を受けるリスクは従来より低くなったと言えよう。

4.配当政策
従来、剰余金処分案については、「ROE5%未満」かつネットキャッシュが「総資産の25%以上」で、「更なる内部留保の蓄積」となる場合には原則反対とされていた。今回の改定では、ROEの閾値を「8%未満」に引き上げた上で、剰余金処分案ではなく取締役再任議案に反対することとされた。一方、剰余金処分案には原則賛成する(ただし、3期連続最終赤字の場合には個別に妥当性を検討し、財務の安定が優先と判断すれば反対)。株主還元は取締役会の責務であることを明確にしたものと言える。

このほか今回のリリースでは、「今後の方針」と題し、「取締役会の高い独立性と多様性が確保されることが重要」との考えに基づき、今後の検討事項が示されている。具体的には、(1)取締役会における独立社外取締役の過半数化と、(2)ジェンダー・ダイバーシティ基準の引き上げだ。(2)では、対象を監査役を含む「女性役員」ではなく「女性取締役」とすること、閾値を10%から30%に引き上げること、適用対象企業をプライム市場上場企業のみならず全上場企業に拡大すること、が示されている。同様の議決権行使基準は他の機関投資家でも広く検討されているとみられ、「社外取締役過半数」かつ「女性取締役30%」が上場企業の取締役会に対するミニマム・リクワイヤメントとなる時期は遠くないと考えるべきだろう。

2025/01/15 【特集】新春インタビュー 日本企業の機関設計とモニタリングボード化の取り組み【後編】(会員限定・3)

モニタリングボードの役割

➢ 藤島
そもそも取締役会の監督強化自体がモニタリングボードの目的ではなく、取締役会で議論する内容を根幹から変え、取締役会は中長期の経営に集中し、それ以外は執行に任せることで意思決定をスピードアップすることに意味があるのではないか。

◆ 上野
取締役会で大きな方向性を決めたら、あとは執行に委ねるべきだ。四半期に1回くらい報告を受ければよい。取締役会を毎月とか年に10回とか開催するのは多すぎる。米国だと4回くらいだが、まあ5~6回はあってもいいだろう。
取締役会の最大の仕事は、最終的にCEOをクビにすべきかどうかを判断することだ。また、会社の将来を誰に任せるか、何ができたらいくら払うか、すなわち指名・報酬も大きな役割となる。クビにするかしないかは究極の局面であり、最も重要なモニタリングだと思っている。そのモニタリングを監査役会設置会社でできるのか。

➢ 藤島
監査役会設置会社でもモニタリングボードになっていると言うからには、執行側への大幅な権限移譲や、指名・報酬から社長を切り離すことができていなければならない。モニタリングボードを自称する会社でも、代表取締役が任意の指名・報酬員会の委員に名を連ねていることもあり、その時点で説得力に欠ける。

◆ 上野
それでは“なんちゃってモニタリングボード”と言われても仕方がない。執行側の人間がいないと会社のことは分からないと言うが、必要な時だけ経営トップなりを呼べばよいのであって、委員として参加すべきでない。

➢ 藤島
委員ではなく、単に報告者という立場であればよい。

◆ 上野
指名委員会等設置会社の場合、委員会の権限が強過ぎると言われているが、米国では委員会に決定権限はなく、最終的にはボードで決める。

➢ 藤島
社外取締役が過半数のモニタリングボードであれば、決定権限が委員会になくてもよい。取締役会の過半数が社内取締役で社長の部下だと、実質的には社長が決定権限を持つことになるリスクがある。

◆ 上野
社外取締役過半数は当然必要だ。だから、監査役会設置会社でモニタリングボードだと言われても心配になる。モニタリングボードにしたいのであれば、監査役会設置会社にこだわらず、指名委員会等設置会社に移行した方がシンプルなのではないかと思う。

➢ 藤島
ただ、その前にモニタリングボードに移行して何をしたいのかについて議論が必要だろう。マネジメントボードのままで何の問題もないのであれば、モニタリングボード化は考えなくてもよいはずだ。

◆ 上野
モニタリングボードでなくてもよい、マネジメントボードのままで問題ないというのはどういうことなのか聞いてみたい。そんな会社があるのか。

➢ 藤島
例えば公共性の高い内需企業で、法律の規制に守られているような会社であれば、マネジメントボードでもよいケースもあるかもしれない。まあ稀だとは思うが。

◆ 上野
それでは何で上場しているのかが分からない。おそらく相当に少数だろう。
5~10年のストーリーを考えるのがモニタリングボードだ。現在のROEが満足できる水準になくても、投資をすれば5年後このようなROEになって返ってくるというストーリーを説明すれば、投資家は納得する。10年と言われたら待てないかもしれないが、5年くらいなら待ってくれる投資家は多いと思う。

➢ 藤島
日本企業全般の課題は、いかにグローバル経済において成長性を追求するかということだ。それはバックキャスト思考のできる取締役会、ポートフォリオ全体の最適化を考えられる取締役会でないとできない。


バックキャスト思考 : 未来の理想的な状態や目標を設定し、そこから逆算して現在の行動や計画を立てる思考法のこと。

◆ 上野
取締役会が足元ばかりを見ていてはダメだ。それは経営会議でやればよい話で、取締役会は「次」をどうするか、例えば5年後のリスクが高いのであれば、ビジネスの方向性を変えるべきか、現状を維持したままでよいのかを議論する。必要ならプランBも作ってCEOに提示した上で、CEOとしてどうするつもりなのかを問いただす。そのために、取締役は投資家と話すべきだ。投資家は目先ではなく、5年後10年後を見て投資している。5年後はこうなっているだろうから今投資しておこうと考える。取締役会も5~10年スパンでモノを見ていないと投資家と話が嚙み合わない。目先の利益は経営陣が心配すればいい。

➢ 藤島
取締役会は1年単位の現場と5年~10年単位の投資家の双方から話を聞かないといけない。

◆ 上野
5年で結果が出ないこともある。10年くらいはコミットして欲しい。5年では結果が出ない、リスクが高いと後で分かったとしても仕方がない。それをどうダメージコントロールできるかを考えるのが取締役会のリスクマネジメントだ。

(了)

2025/01/15 【特集】新春インタビュー 日本企業の機関設計とモニタリングボード化の取り組み【後編】

新春インタビュー 日本企業の機関設計とモニタリングボード化の取り組み(後編)

監査等委員会設置会社がプライム市場上場会社の半数に迫る一方、指名委員会等設置会社は未だ100社に満たない。監督機能を中心とするモニタリングボードを求めるグローバル投資家の目に、このような状況はどう映っているのだろうか。議決権行使助言会社大手 グラスルイスの上野直子バイスプレジデントに、当フォーラムの客員研究員である藤島裕三氏が話をうかがった。
日本企業の機関設計について聞いた【前編】に続き、【後編】では機関設計との関係に触れつつ、モニタリングボードの在り方や役割を取り上げる。

監査役会設置会社でモニタリングボードは実現可能か(会員限定)

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2025/01/15 【特集】新春インタビュー 日本企業の機関設計とモニタリングボード化の取り組み【後編】(会員限定・2)

監査役会設置会社でモニタリングボードは実現可能か

➢ 藤島
上場会社からは、監査役会設置会社のままでモニタリングボードとして評価されるなら現状を維持したいとの声も聞かれる。

◆ 上野
モニタリングボードとはどのようなものなのか、そこにおける取締役の役割とは何なのかを理解すべきだ。現状は、モニタリングボードという言葉だけが独り歩きしている印象がある。監査役会設置会社のままモニタリングボードを目指すと言っても、日本では法的な縛りがあり、取締役会に執行側の決議事項が多く上がってしまうので、グローバルなモニタリングボードとは全く違うものにならざるを得ない。法律の建て付け上、労力が必要な機関設計を選択しているなと思う。

➢ 藤島
監査役会設置会社がモニタリングボードだと言っても評価されないということか。

◆ 上野
評価される・されないではなく、まずは自社に合った機関設計を選ぶべきだ。その上で、モニタリングボードにするなら監査役会設置会社では難しいと申し上げている。社外取締役が執行の決議に参加しなければならなくなるし、非常に細かい執行に関する事項を決めるとなると、社外取締役にも執行役員等と同じレベルの知識が必要になってくる。モニタリングボード化に取り組むということは社外取締役を過半数にするということだが、ただでさえ社外取締役のなり手がいない中、そのような知識を持った人材を過半数も入れられるのか。監査役会設置会社では決議事項が多く、取締役会の人数も多くなるので、本当にモニタリングボードとして機能するのか疑問を感じる。
むしろ、モニタリングボードではなくマネジメントボードだと言い切ってもらいたい。それを推奨するわけではないが、積極的にマネジメントボードを投資家にアピールして認められれば投資してもらえるのではないか。監査役会設置会社でモニタリングボードというのは苦しい。なぜ、できることに制限がかかる監査役会設置会社のままで無理やりモニタリングボード化したいのかが分からない。指名委員会等設置会社に移行した方がモニタリングボード化はスムーズに進むはずだ。

➢ 藤島
モニタリングボードが一種の流行となっており、投資家からも望ましいと言われているからという受動的な面もあるのだろう。

◆ 上野
それこそが問題だ。繰り返しになるが、本当に現在の機関設計で実現可能なのかということも含めて、モニタリングボードとは何なのかをきちんと考えて欲しい。

モニタリングボードの役割(会員限定)

2025/01/14 【特集】新春インタビュー 日本企業の機関設計とモニタリングボード化の取り組み【前編】

新春インタビュー 日本企業の機関設計とモニタリングボード化の取り組み【前編】

監査等委員会設置会社がプライム市場上場会社の半数に迫る一方、指名委員会等設置会社は未だ100社に満たない。監督機能を中心とするモニタリングボードを求めるグローバル投資家の目に、このような状況はどう映っているのだろうか。議決権行使助言会社大手 グラスルイスの上野直子バイスプレジデントに、当フォーラムの客員研究員である藤島裕三氏が話をうかがった。
【前編】では、日本企業の機関設計について取り上げる。

機関設計変更の要否とタイミング(会員限定)

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2025/01/14 【特集】新春インタビュー 日本企業の機関設計とモニタリングボード化の取り組み【前編】(会員限定・3)

監査等委員会設置会社に対する投資家の評価

➢ 藤島
監査等委員会設置会社に移行した会社からは、業績が順調で不祥事もないので、指名委員会等設置会社に移行する必要はないとの声も聞かれる。

◆ 上野
今は問題ないからといってこのままでよいというわけではなく、「その次」を考えるのが取締役会の役割。執行は今という現状を見て働くということで構わないが、取締役会では5~10年後にビジネスプランを変えなければならない、といった議論をすべきだ。

➢ 藤島
監査等委員会設置会社になれば、一応権限移譲はできる。M&Aを積極的にやるために監査等委員会設置会社に移行するという会社に「指名委員会等設置会社を選択しない理由は何か」と尋ねると、「そこまでの必要性はないから」という答えが返ってくる。監査等委員会設置会社に移行後も、中身を見ると監査役会設置会社のやり方を引きずっている会社もある。

◆ 上野
監査等委員会設置会社は、社外取締役の数を増やすために苦肉の策として作られた制度だとみなしている。機関設計のトランジションプランに過ぎない。現在は指名委員会等設置会社に移行するまでの準備期間だと考えている。

➢ 藤島
多くの投資家は同じ見方で、まずは監査等委員会設置会社でもよいが、引き続き指名委員会等設置会社への移行を検討することが期待されている。しかし現実には、せっかく監査等委員会設置会社に移行したのに、さらに指名委員会等設置会社への移行を考えている会社は少ないのではないか。

◆ 上野
こう言うと反発は多いと思うが、私個人の意見として、プライム銘柄は指名委員会等設置会社しか選択できないようにしてもよいと思う。

➢ 藤島
経済団体などは反発するだろう。

◆ 上野
やはり指名と報酬の権限は社外取締役に渡したくないのだな、と感じる。中規模な会社であれば理解できるが、大規模な会社がなぜ監査等委員会設置会社なのか、疑問に思う。

➢ 藤島
監査等委員会設置会社は日本特有の業務執行取締役を残したままの折衷型モニタリングボードであるのに対し、取締役と執行役の分離という指名委員会等設置会社の発想自体がグローバルだと言える。だから、グローバルな大企業は指名委員会等設置会社を目指すべきということは理解できる。

【後編】に続く

2025/01/14 【特集】新春インタビュー 日本企業の機関設計とモニタリングボード化の取り組み【前編】(会員限定・2)

機関設計変更の要否とタイミング

➢ 藤島(上場会社役員ガバナンスフォーラム)
指名委員会等設置会社への移行が進んでいない。「不祥事があったら移行する」という選択肢を“最後の切り札”として残しているといった話を会社側からは聞くことが少なからずある。

◆ 上野(グラスルイス)
それは誤った考えだ。不祥事を起こした会社が指名委員会等設置会社に移行すると聞くと、「またか」と思う。機関設計は変わっても取締役が変わらなければ、中身は同じではないかという見方もできる。機関設計は、自社にとって何が大切で、どのようなガバナンスが必要なのかを踏まえて決めるべき。不祥事があった時こそ、そこを突き詰めて考えなければならない。単に指名委員会等設置会社に移行すれば済むというわけではない。

➢ 藤島
指名委員会等設置会社に移行することが必ずしも正解ではないということか。

◆ 上野
現在の機関設計が正しいと思っているなら、不祥事があってもその機関設計のままで改革すればよいだけの話だ。不祥事があったから指名委員会等設置会社に移行するというのでは、現在の機関設計だと悪いことが起きるかもしれないと分かっていたということにもなりかねない。
投資家も、不祥事があったからといって機関設計のせいにすることはないし、必ず機関設計を変えて欲しいとも思わないはずだ。投資家はあくまでガバナンス体制全体を見ている。指名委員会等設置会社への移行は、ガバナンスの改善を評価する項目の一つにすぎない。ガバナンス改革の一環だと評価されれば、ポジティブに捉えられるだろう。

➢ 藤島
確かに、ガバナンス改革の一環でなければ、機関設計の変更は単なる看板の書き換えに終わってしまう。

◆ 上野
看板を書き換えるのであれば、社長を外から連れてきて欲しい。社長は会社の顔であり、一番の看板である。本当に会社を変えたいのであれば、機関設計を変えるよりもインパクトがある。あるいは、社長は生え抜きだとしても、トップ3くらいのエグゼクティブを外から連れて来るような形は信頼できる。そもそも会社の機関設計を変えて“禊”を済ませるというのは、日本に機関設計が3種類もあるからこそ出て来る発想。米国には機関設計は1つしかない。米国ならば社長をクビにするか、退任を迫ることになるのが必然だ。

➢ 藤島
では、平時に指名委員会等設置会社に移行するのはどうか。

◆ 上野
それは賛成だ。会社の機関設計を変えるというのは簡単なことでない。変えるのであれば、何か問題が起きてからではなく、むしろ余力のある平時に変えて欲しい。投資家も、不祥事もないのに指名委員会等設置会社に移行したらといって「何か後ろめたいことでもあるのではないか」と勘繰るわけでもなく、グローバルなガバナンスに取り組んでいると素直に評価するだけだ。
嫌々移行しても機能しないので強制はしないが、監査役会設置会社で「モニタリングボード」と言われても、内心あまり信用していない。モニタリングボードにするのなら、指名委員会等設置会社が最も理に適っている。他の機関設計でモニタリングボードと言うから、話がややこしくなるのだと思う。監査役会設置会社がモニタリングボードだと言うなら、仕組みや取り組みを丁寧に開示する必要があるだろう。もっとも、開示することは当たり前なので、開示をもって評価することはない。

監査等委員会設置会社に対する投資家の評価(会員限定)

2025/01/10 公取が「金型等保管費用」をターゲットに

メーカーなどの親事業者が下請事業者に「金型」「木型」「治具」等(以下、金型等)を貸与し、製造終了後も(所有権は親事業者のまま)保管させ続けることは珍しくない。製造が一時的に中止となっても、需要が復活すればすぐに製造再開となる可能性があるからだ。下請事業者としても、型替えのたびに金型等を親事業者に返却したり、製造再開に伴い再度借り受けたりするのは手間となるうえ、製造再開時の再発注も期待できることから、よほどスペースがひっ迫していない限り保管に異議を唱えることはない。もっとも、金型等の保管により下請事業者の工場の一角は確実に占拠されるため、下請事業者に金型等を保管させるには、親事業者が下請事業者に適正な金型等保管費用を支払うことが大前提となる。

ところが、親事業者から金型等保管費用が支払われなくても、下請事業者は親事業者との力関係上、親事業者に対して同費用を請求しづらいのが現実だ。また、下請事業者が請求して来ないのをいいことに、製造再開の見通しがないにもかかわらず下請事業者に無償で金型等の保管を継続させている親事業者も少なくない。そこで下請法では、「不当な経済上の利益の提供要請」を親事業者の禁止行為の一つとし(下請法4条2項3号)、その具体例として「型・治具等の無償保管要請」を挙げている。

下請法4条2項3号の「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」
下請法4条2項 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(中略)に掲げる行為をすることによって、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
(中略)
3号 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
経済上の利益の提供要請の具体例
公正取引委員会のサイトより抜粋)
【型・治具等の無償保管要請】
親事業者は、機械部品の製造を委託している下請事業者に対し、量産終了から一定期間が経過した後も金型、木型等の型を保管させているところ、当該下請事業者からの破棄申請に対して、「自社だけで判断することは困難」などの理由で長期にわたり明確な返答を行わず、保管・メンテナンスに要する費用を考慮せず、無償で金型、木型等の型を保管させた。

この金型等保管費用を巡り、最近、公正取引委員会が「下請法4条2項3号違反」として親事業者に対し立て続けに勧告を行っているので要注意だ。・・・

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2025/01/10 公取が「金型等保管費用」をターゲットに(会員限定)

メーカーなどの親事業者が下請事業者に「金型」「木型」「治具」等(以下、金型等)を貸与し、製造終了後も(所有権は親事業者のまま)保管させ続けることは珍しくない。製造が一時的に中止となっても、需要が復活すればすぐに製造再開となる可能性があるからだ。下請事業者としても、型替えのたびに金型等を親事業者に返却したり、製造再開に伴い再度借り受けたりするのは手間となるうえ、製造再開時の再発注も期待できることから、よほどスペースがひっ迫していない限り保管に異議を唱えることはない。もっとも、金型等の保管により下請事業者の工場の一角は確実に占拠されるため、下請事業者に金型等を保管させるには、親事業者が下請事業者に適正な金型等保管費用を支払うことが大前提となる。

ところが、親事業者から金型等保管費用が支払われなくても、下請事業者は親事業者との力関係上、親事業者に対して同費用を請求しづらいのが現実だ。また、下請事業者が請求して来ないのをいいことに、製造再開の見通しがないにもかかわらず下請事業者に無償で金型等の保管を継続させている親事業者も少なくない。そこで下請法では、「不当な経済上の利益の提供要請」を親事業者の禁止行為の一つとし(下請法4条2項3号)、その具体例として「型・治具等の無償保管要請」を挙げている。

下請法4条2項3号の「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」
下請法4条2項 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(中略)に掲げる行為をすることによって、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
(中略)
3号 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
経済上の利益の提供要請の具体例
公正取引委員会のサイトより抜粋)
【型・治具等の無償保管要請】
親事業者は、機械部品の製造を委託している下請事業者に対し、量産終了から一定期間が経過した後も金型、木型等の型を保管させているところ、当該下請事業者からの破棄申請に対して、「自社だけで判断することは困難」などの理由で長期にわたり明確な返答を行わず、保管・メンテナンスに要する費用を考慮せず、無償で金型、木型等の型を保管させた。

この金型等保管費用を巡り、最近、公正取引委員会が「下請法4条2項3号違反」として親事業者に対し立て続けに勧告を行っているので要注意だ。

まず2024年11月21日には、住友重機械工業の100%子会社である住友重機械ハイマテックスが勧告を受けている(公正取引委員会のこちらを参照)。住友重機械ハイマテックスは下請事業者に対し、次回以降の発注の有無または次回以降の具体的な発注時期の見通しを示すことができないにもかかわらず、貸与していた金型等を無償で保管させていた。公正取引委員会はこの行為が下請法4条2項3号違反に当たると判断し、勧告に踏み切った。住友重機械ハイマテックスは公正取引委員会の指摘を受け入れ、保管費用に相当する額として総額319万6723円を支払っている。

公正取引委員会は勧告で、「今後、自己のために経済上の利益を提供させることにより、下請事業者の利益を不当に害さないこと」を取締役会の決議により確認するとともに、再発防止策の策定やその周知徹底等を求めた。住友重機ハイマテックスは、勧告を受けたその日(2024年11月21日)に社長名義で「公正取引委員会からの勧告について」とのリリースを同社WEBサイトで公表している。

住友重機械ハイマテックスへの勧告から2週間後の12月5日、公正取引委員会は電気興業(東証プライム市場に上場)に対しても下請法4条2項3号違反があったとして、勧告を行った(公正取引委員会のリリースはこちらを参照)。電気興業は住友重機械ハイマテックスの事案と同様、下請事業者に対し、次回以降の発注の有無または次回以降の具体的な発注時期の見通しを示すことができないにもかかわらず、貸与していた金型等を無償で保管させていた。電気興業は保管費用の支払いが済んでいなかったため、公正取引委員会は電気興業に対して「無償で金型等を保管させたことによる費用に相当する額を公正取引委員会の確認を得た上で速やかに支払うこと」を勧告し、あわせて、再発防止策の策定や取締役会決議等の住友重機械ハイマテックスと同様の対応をとるよう求めた。電気興業も勧告を受けたその日に勧告への対応等をリリースで示している。

こうした下請法違反事案が生じると注目されるのが、違反企業のパートナーシップ構築宣言の有無やその内容だ。まず、住友重機械ハイマテックスはパートナーシップ構築宣言すらできていない(パートナーシップ構築宣言ポータルサイトで確認できず)。親会社の住友重機械工業は自社のパートナーシップ構築宣言で下記のとおり「グループでの対応」を強調しているが、子会社には十分に浸透させられていなかったことになる。
「当社グループは、かねてより下請代金の支払条件の改善に取り組んでいます。」
「当社グループは、下請代金支払遅延等防止法の遵守を徹底するために次の取組を行っています。
・同法に関するグループ内向け各種講習会を本社主催で毎年開催しています。
・下請取引を行っている当社事業部、グループ会社に同法の管理責任者を配置しています。」

一方、電気興業はパートナーシップ構築宣言を行っていたが、今回の勧告により、パートナーシップ構築宣言ポータルサイトからパートナーシップ構築宣言の掲載取りやめ処分を受けている。

「型管理などのコスト負担」は、下請企業との望ましい取引慣行(振興基準)の中でも取引適正化の重点5課題の一つとして、「価格決定方法」や「手形などの支払条件」などとともにパートナーシップ構築宣言の対象となっている。したがって、親事業者が「代表権のある者の名前」で下請事業者を含む社会全体に対して宣言し、その宣言内容を確実に履行できていれば、電気興業のような問題は発生しないはずだ。それにもかかわらず、パートナーシップ構築宣言をした事業者において下請法違反が相次いでいる(KADOKAWAの事例については2024年11月27日のニュース「不採算事業の改善策としての発注価格切下げにコンプラリスク」参照)。これは、経営陣が「宣言」をするだけで満足してしまい、実態を伴っているかについては興味を持っていないケースが少なくないことを示している。下請法違反に伴う勧告やパートナーシップ構築宣言の掲載取りやめ処分を受けたことによるレピュテーションへのダメージは小さくない。パートナーシップ構築宣言が形だけに終わらないよう、宣言主体となる経営トップがリーダーシップを発揮し、宣言内容を現場に浸透させる必要がある。


振興基準 : 下請中小企業の振興を図るため、下請事業者及び親事業者のよるべき一般的な基準として下請中小企業振興法第3条第1項の規定に基づき、定められたもの。

2025/01/09 指名委員会等設置会社における指名・報酬の決定権限の見直し議論が後退

既報のとおり、経済産業省は2024年9月17日に「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」を立ち上げ、コーポレートガバナンスの在り方や会社法の改正について検討してきたが(2024年10月23日のニュース『社外取締役が過半数を占める会社では指名権限が「取締役会」に帰属へ』参照)、昨年(2024年)12月9日に開催された第4回会合で、「会社法の改正に関する報告書(案)」を公表している。同報告書の確定版は今後の会社法改正に関する議論の重要な土台になるものと考えられる。

同報告書案は42ページに及ぶものとなっているが、会合に提出された事務局説明資料が各論点についてコンパクトにまとめている(46ページ参照)。当フォーラムでは下表のとおり、各論点を「早期に見直し(短期)」「引き続き検討(中期)」「更なる検討(長期)」に分けて整理した。・・・

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