2016/03/28 取締役会評価、実際のところどこまでやればよい?

昨年(2015年)12月には、6か月間の提出猶予を受けた3月決算会社による(コーポレートガバナンス・コードに対応した)コーポレートガバナンス報告書の開示が集中したが、本来、同報告書は「定時株主総会後遅滞なく」提出しなければならないため、今からおよそ3か月後には再び提出が相次ぐことになる。各社とも提出に向けた準備を進めていることだろう。

なかでも、12月にコーポレートガバナンス報告書を開示した1,858社の6割強が「エクスプレイン」を選択し(東証「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2015年12月末時点)」参照)、またコンプライした企業でも中身が伴っていない例は少なくなかった「取締役会の実効性評価(補充原則4-11③)」については、各社でも検討と試行錯誤が繰り返されているようだ。

もっとも、金融庁と東証が共同で開催している「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が先月(2016年2月)18日に公表した意見書「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方」を見ると、取締役会の実効性評価の実施方法として、「企業の置かれた状況に応じ、様々な取組みが考えられるが、取締役会メンバー一人一人による率直な評価がまずもって重要となると考えられる」と記載されている(7ページの4(1)参照)。ここだけを読むと、「たとえ精緻な取り組みでなくても、とりあえず取締役各人に自己評価を求めれば当面はそれでOK」と、一種の“助け舟”を出しているようにも受け取れる。

一方で、その後では、適確に評価を実施するためには「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、取締役会が果たすべき役割・責務を明確化することがまずもって求められる」としている(7ページの4(2)参照)。これは、「本来は各社に特有の攻めのガバナンス像を明確化した上で、その実現に向けて取締役会が実効性を備えているかを測るべき」「攻めのガバナンスを欠いた実効性評価は無意味」である旨、釘を刺したものと言えよう。

以上を踏まえると、取締役会の実効性評価の“現在地”は、・・・

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2016/03/28 取締役会評価、実際のところどこまでやればよい?(会員限定)

昨年(2015年)12月には、6か月間の提出猶予を受けた3月決算会社による(コーポレートガバナンス・コードに対応した)コーポレートガバナンス報告書の開示が集中したが、本来、同報告書は「定時株主総会後遅滞なく」提出しなければならないため、今からおよそ3か月後には再び提出が相次ぐことになる。各社とも提出に向けた準備を進めていることだろう。

なかでも、12月にコーポレートガバナンス報告書を開示した1,858社の6割強が「エクスプレイン」を選択し(東証「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2015年12月末時点)」参照)、またコンプライした企業でも中身が伴っていない例は少なくなかった「取締役会の実効性評価(補充原則4-11③)」については、各社でも検討と試行錯誤が繰り返されているようだ。

もっとも、金融庁と東証が共同で開催している「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が先月(2016年2月)18日に公表した意見書「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方」を見ると、取締役会の実効性評価の実施方法として、「企業の置かれた状況に応じ、様々な取組みが考えられるが、取締役会メンバー一人一人による率直な評価がまずもって重要となると考えられる」と記載されている(7ページの4(1)参照)。ここだけを読むと、「たとえ精緻な取り組みでなくても、とりあえず取締役各人に自己評価を求めれば当面はそれでOK」と、一種の“助け舟”を出しているようにも受け取れる。

一方で、その後では、適確に評価を実施するためには「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、取締役会が果たすべき役割・責務を明確化することがまずもって求められる」としている(7ページの4(2)参照)。これは、「本来は各社に特有の攻めのガバナンス像を明確化した上で、その実現に向けて取締役会が実効性を備えているかを測るべき」「攻めのガバナンスを欠いた実効性評価は無意味」である旨、釘を刺したものと言えよう。

以上を踏まえると、取締役会の実効性評価の“現在地”は、①まずは定例のプラクティスとして開始することが重要であり、差し当たっては取締役に自己評価のアンケートを実施し、これを取りまとめて報告する程度でも十分に意義が認められるものの、②「何を基準に評価するのか」が不明確では「形だけの評価」と言われかねない、といったところだろう。そこで、実効性評価のスタートを契機に、自社の企業価値向上につながる「攻めのガバナンス」とは何なのかを取締役会等で議論し、それを毎年の評価に反映させていくことが求められる。

このほか、本意見書では実効性評価の「取組みの例」として以下のようなものが紹介されている(7ページの4(1)参照)。が盛り込まれている。それぞれについて見てみよう。

各取締役に、各自の取締役会への貢献について自己評価を求める。

確かに欧米企業では、各取締役が取締役会の実効性向上に貢献した度合いを評価し、次期の選任に反映するという開示が散見される。しかし「個人評価」まで踏み込んだプラクティスは、日本企業にとっては未だハードルが高いと言えそうだ。補充原則4-11③が「取締役会全体の実効性」を評価することを求めていることからすると、各メンバーが「取締役会全体」について自己評価するという手法でも問題ないものと考えられる。

評価の独立性・客観性をより高める観点から外部の眼も入れた評価を行う。

まず確認しておきたいのは、補充原則4-11③はコンサルタント等の外部専門家を使うことを要求していないという点だ。もっとも、企業独自の評価手法が「お手盛り」「現状追認」に終始したものとなっては、投資家の信頼を得ることができないばかりか、企業自身にとっても意味のない「形だけの」評価になってしまう。プロセスの客観性を担保するために、外部専門家のサポートを得ることは有効だろう。ただし、評価そのもの(判断基準および判定)を外部者に依存することは、上述した「自社の企業価値向上につながる攻めのガバナンス」を評価に反映するということを踏まえると、必ずしも適切な取組みとは言えないだろう。

評価機関との利益相反関係の有無を明らかにする。

評価機関が取締役会の評価以外のコンサルティング業務(たとえば経営戦略の立案のサポートなど)を受託することなどが、「利益相反関係」に該当する。評価機関がそのコンサルティング業務の契約を維持したいがために、取締役会の評価を甘くする可能性があるからだ。まさに、エンロン事件におけるエンロン社と監査法人アーサー・アンダーセンとの関係がそうであった()。また、そのようなコンサルティング業務の同時提供がない場合であっても、評価機関が翌年以降の評価業務を受託したいがために、評価を甘くする可能性もある。こういった側面からも、やはり評価自体を外部業者に任せることには慎重になるべきだろう。

 米国エンロン社は2001年に不正経理が明るみになり倒産。監査人であるアーサー・アンダーセンも関与を疑われ、解散に追い込まれた。アーサー・アンダーセンが、エンロン社に対して監査業務とコンサルティング業務を同時に提供していた点が問題視され、監査業務とコンサルティング業務の同時提供はサーベンス・オックスリー法により禁止されることになった。エンロン社事件やサーベンス・オックスリー法は日本にも影響を与え、監査法人が同一クライアントに対して監査業務とコンサルティング業務を同時に提供することを禁止する内容の公認会計士法改正が行われるきっかけになった。

2016/03/25 「ダイバーシティ」の議論に欠けている観点

(2016年)4月1日より、企業に対して管理職や役員に占める女性の割合などの公表を求める女性活躍推進法(正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)が施行される。この法律に象徴されるように、日本企業でもダイバーシティ(多様性)への意識は着実に高まっているが、残念ながら、日本企業の取締役や執行役、執行役員の構成を見る限り、グローバルな基準での「ダイバーシティ経営」が実現しているとは言い難いのが実状だ。

ダイバーシティ経営とは、ジェンダー(性)、国籍、年齢、経歴等、様々なバックラウンドの人々によって経営を担うことであるが、日本企業の経営陣の大部分は新卒採用で、30年ほど同じ会社で働き、年齢は近く、男性で、日本人である。ダイバーシティに乏しい経営陣では、コンセンサスを得るのは容易であるが、意見が均質的になり、経営判断を誤る可能性がある。最終顧客の半分が女性の消費関連企業や大多数が女性の化粧品メーカーが男性だけの経営陣で正しい経営判断ができるか、海外展開している企業を日本人だけで経営するのはおかしいのでは、といった話は最近よく聞かれるところだ。高度成長期であればともかく、グローバルベースで競争が激化し、経営環境の変化のスピードが早くなっている現在、経営陣が均質的であることのリスクは高い。様々な立場、バックグラウンドの人の意見を踏まえてこそ、正しい経営判断が導き出されると言えよう。

日本企業はダイバーシティを社内取締役とバックグラウンド等の異なる「社外取締役」を選任することで実現しようとしている節があるが、それだけでは不十分だろう。社内取締役や執行役、執行役員についても改革が必要である。

冒頭で述べたとおり、現在政府主導で女性役員の増加も求められているほか、ダイバーシティの議論の中では「外国人」や「経歴の異なる人」はしばしば挙がるが、今のところ俎上に載せられることが少ないのが・・・

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2016/03/25 「ダイバーシティ」の議論に欠けている観点(会員限定)

(2016年)4月1日より、企業に対して管理職や役員に占める女性の割合などの公表を求める女性活躍推進法(正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)が施行される。この法律に象徴されるように、日本企業でもダイバーシティ(多様性)への意識は着実に高まっているが、残念ながら、日本企業の取締役や執行役、執行役員の構成を見る限り、グローバルな基準での「ダイバーシティ経営」が実現しているとは言い難いのが実状だ。

ダイバーシティ経営とは、ジェンダー(性)、国籍、年齢、経歴等、様々なバックラウンドの人々によって経営を担うことであるが、日本企業の経営陣の大部分は新卒採用で、30年ほど同じ会社で働き、年齢は近く、男性で、日本人である。ダイバーシティに乏しい経営陣では、コンセンサスを得るのは容易であるが、意見が均質的になり、経営判断を誤る可能性がある。最終顧客の半分が女性の消費関連企業や大多数が女性の化粧品メーカーが男性だけの経営陣で正しい経営判断ができるか、海外展開している企業を日本人だけで経営するのはおかしいのでは、といった話は最近よく聞かれるところだ。高度成長期であればともかく、グローバルベースで競争が激化し、経営環境の変化のスピードが早くなっている現在、経営陣が均質的であることのリスクは高い。様々な立場、バックグラウンドの人の意見を踏まえてこそ、正しい経営判断が導き出されると言えよう。

日本企業はダイバーシティを社内取締役とバックグラウンド等の異なる「社外取締役」を選任することで実現しようとしている節があるが、それだけでは不十分だろう。社内取締役や執行役、執行役員についても改革が必要である。

冒頭で述べたとおり、現在政府主導で女性役員の増加も求められているほか、ダイバーシティの議論の中では「外国人」や「経歴の異なる人」はしばしば挙がるが、今のところ俎上に載せられることが少ないのが「年齢によるダイバーシティ」だ。日本のように急速に経済発展を遂げ、社会・文化・価値観が急激に変化して来た国では、ジェネレーション・ギャップ(世代間格差)が大きくなりがちである。日本企業の経営陣の大部分を構成している60歳前後の世代が、自社の顧客となり得る若い世代の感覚を持ち合わせているとは考えにくい。また、年齢が近い相手に対しては意外に思い切ったことを言えないものだ。年齢が離れていると「意見が違うのも仕方ない」あるいは「年齢が違うのだから、自分の年齢ならではのことを言わないと意味がない」という前提で話せるので、遠慮なく大胆な意見が言えるという面がある。異なる世代間での議論は、経営判断の場面でも極めて有意義だろう。

経営陣において「年齢によるダイバーシティ」を実現するためには、若手の抜擢が必要になる。社内に適任者がいない場合は、社外からの採用も検討すべきだ(社外取締役としてではなく、あくまで社内取締役や執行役員として)。自社の組織のしがらみに疎く、しかも世代が異なる人材は、取締役会等に新風をもたらすだろう。経営陣が同質的な人たちにより形成された村社会となっている場合には、社外取締役の他に外部から社内取締役や執行役員を採用することは抵抗があるかもしれないが、この心理的な壁を乗り越えた先にこそ、ダイバーシティの実現があるはずだ。

2016/03/24 (新用語・難解用語)経営レバレッジ

固定費をテコにした利益の増大効果のこと。営業レバレッジ(Operating Leverage)ともいう。

企業の「コスト構造」とは、総原価における変動費と固定費の割合を指すが、固定費の割合が大きい企業では、売上高の変動に伴い利益が大幅に変動しやすい。例えば、売上高が100、変動費が40(変動費率40%)、固定費が50の企業の利益は10(利益率10%)だが、翌期に売上高が25%伸びて125となった場合、変動費率(40%)と固定費額が変わらないとすると利益は25(125-(125×40%)-50)となり、利益成長率は150%(10→25)にも及ぶ。

変動費率 : 売上高に占める変動費の比率
利益率 : 売上高に占める利益の比率

このように、売上高が増加しても変動費率が少なくとも同率を維持し、かつ固定費も同額を維持できれば、常に「売上高成長率<利益成長率」という関係が成立するため、売上高の増加に比べ利益が大きく増加する。これが「経営レバレッジが効いている」状態である。

冒頭で「固定費をテコに」と述べたとおり、経営レバレッジの恩恵を受けるためには、総原価に占める固定費の割合が大きいことが必要になる。これは、総原価のすべてが変動費で構成されている企業を考えてみれば分かる。このような企業では変動費率は常に一定であるため、「利益率」も常に一定となる。すなわち、どんなに売上高が増加してもそれとともに変動費も増加することから、「売上高成長率<利益成長率」となることはない(常に「売上高成長率=利益成長率」となる)。経営の現場ではしばしば「固定費を変動費にしたい」という話が聞かれるが、固定費を持たなければ、経営レバレッジも享受できないのである。

経営レバレッジを享受しにくい業種としては、・・・

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2016/03/24 (新用語・難解用語)経営レバレッジ(会員限定)

固定費をテコにした利益の増大効果のこと。営業レバレッジ(Operating Leverage)ともいう。

企業の「コスト構造」とは、総原価における変動費と固定費の割合を指すが、固定費の割合が大きい企業では、売上高の変動に伴い利益が大幅に変動しやすい。例えば、売上高が100、変動費が40(変動費率40%)、固定費が50の企業の利益は10(利益率10%)だが、翌期に売上高が25%伸びて125となった場合、変動費率(40%)と固定費額が変わらないとすると利益は25(125-(125×40%)-50)となり、利益成長率は150%(10→25)にも及ぶ。

変動費率 : 売上高に占める変動費の比率
利益率 : 売上高に占める利益の比率

このように、売上高が増加しても変動費率が少なくとも同率を維持し、かつ固定費も同額を維持できれば、常に「売上高成長率<利益成長率」という関係が成立するため、売上高の増加に比べ利益が大きく増加する。これが「経営レバレッジが効いている」状態である。

冒頭で「固定費をテコに」と述べたとおり、経営レバレッジの恩恵を受けるためには、総原価に占める固定費の割合が大きいことが必要になる。これは、総原価のすべてが変動費で構成されている企業を考えてみれば分かる。このような企業では変動費率は常に一定であるため、「利益率」も常に一定となる。すなわち、どんなに売上高が増加してもそれとともに変動費も増加することから、「売上高成長率<利益成長率」となることはない(常に「売上高成長率=利益成長率」となる)。経営の現場ではしばしば「固定費を変動費にしたい」という話が聞かれるが、固定費を持たなければ、経営レバレッジも享受できないのである。

経営レバレッジを享受しにくい業種としては、アルバイト等を多く雇用(アルバイトへの賃金は「変動費」である)している飲食業等のサービス業が挙げられる。一方、大規模な機械設備を用いるメーカーなどは、経営レバレッジを享受しやすい。ただし、経営レバレッジが大きいということは、売上高の増加が大幅な利益増加をもたらす反面、売上高が減少した場合には利益も大幅に減少することになる。つまり、固定費率の大きい企業は「ハイリスク・ハイリターン」、変動費率の大きい企業は「ローリスク・ローリターン」と言える。

もっとも、変動費も固定費も「コスト」であることには変わりがない。利益が「売上高-コスト」により算定される以上、経営レバレッジを享受するために固定費額を増やすという経営判断は正しくない。経営陣としては、経営レバレッジを享受するために変動費と固定費の割合は考慮しつつ、コスト削減に努めるべきであることは言うまでもない。

2016/03/23 パリ協定きっかけに高まる「気候変動リスク」に関する情報開示ニーズ

Sustainalytics(サステイナリティクス)
リサーチプロダクト部門 セクターマネージャー
藤田裕美

昨年(2015年)末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)が、2020年以降の温暖化対策の国際的枠組みとして「パリ協定」を採択したのは周知のとおり。協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。このパリ協定はESG投資を行う機関投資家に影響を与えるとともに、機関投資家を通して投資対象である企業にも影響を与えることになるだろう。本協定をきっかけに、機関投資家は、クリーンエネルギーおよびその関連技術に従事する業種に今まで以上に注目するものとみられる。

パリ協定に盛り込まれた各国の温室効果ガスの削減目標では、いずれも・・・

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2016/03/23 パリ協定きっかけに高まる「気候変動リスク」に関する情報開示ニーズ(会員限定)

Sustainalytics(サステイナリティクス)
リサーチプロダクト部門 セクターマネージャー
藤田裕美

昨年(2015年)末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)が、2020年以降の温暖化対策の国際的枠組みとして「パリ協定」を採択したのは周知のとおり。協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。このパリ協定はESG投資を行う機関投資家に影響を与えるとともに、機関投資家を通して投資対象である企業にも影響を与えることになるだろう。本協定をきっかけに、機関投資家は、クリーンエネルギーおよびその関連技術に従事する業種に今まで以上に注目するものとみられる。

パリ協定に盛り込まれた各国の温室効果ガスの削減目標では、いずれも「再生可能エネルギー促進」「製造業や建物のエネルギー効率性向上」「運輸セクターからの排出削減」の三点が特に重視されている(地球温暖化問題に対する国際的な枠組みを設定した条約UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change=国連気候変動枠組条約)のレポート参照)。ただでさえ、近年は政府の補助(例:フィード・イン・タリフ(Feed-in Tariff=固定価格買取り)制度)や再生可能発電のコスト競争力向上によりクリーンエネルギーおよびその関連技術に従事する企業に対する機関投資家の注目が高まっている中、化石燃料に関わる業種は、長期的な構造変化を余儀なくされる恐れがある。既に2014 – 2015年にかけて、ノルウェー年金基金やCalPERS(カルパース=カリフォルニア州職員退職年金基金)/CalSTRS(カルスターズ=米カリフォルニア州教職員退職年金基金)、保険会社のアクサ(AXA)、アリアンツ(Allianz)など大型アセットオーナーが続々と「石炭関連企業を投資対象から外す」ことを発表している。米国のシェールガスや再生可能エネルギーの増加に加え、より厳しくなる環境規制の影響を受けて、CO2排出量が最も多い石炭がまず対象になった格好だが、パリ協定の第4条は、「2℃以内」の目標実現のためには2050 – 2100年の間に「化石燃料の使用をなくすことが必要」であるとしている。 石油やガスといった石炭以外の化石燃料までもが機関投資家の投資対象外とされていくことは短期的には考えにくいものの、本協定を含めた気候変動を取り巻くトレンドを踏まえると、長期的には石油・ガス関連業界に対する機関投資家の目は益々厳しくなるだろう。

フィード・イン・タリフ(Feed-in Tariff=固定価格買取り)制度 : 太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの(電力会社による)買取価格(タリフ)を法律により定める制度。固定価格買取制度とも呼ばれる。買取価格の固定により、再生可能エネルギーの普及拡大と価格低減が期待できる。

また、パリ協定をきっかけに投資ポートフォリオのCO2排出量(Carbon footprint)を正確に把握するニーズがさらに高まり、企業に対する機関投資家からの問い合わせや情報開示の需要が増すことになりそうだ。アセットオーナーおよび運用会社をはじめ、金融業界では「気候変動=システミックリスク」との理解の下、投資ポートフォリオにおける関連リスクを管理することの重要性が認識されているためである。実際、モントリオール炭素公約(Montreal Carbon Pledge)や、ポートフォリオ脱炭素化連合Portfolio Decarbonization Coalitionのような イニシアティブへ賛同する機関投資家が増加している。また、各国の中央銀行や金融・経済監督管庁がメンバーとなっているFinancial Stability Board (FSB) が、パリ協定を受け、気候変動リスクに関する情報開示を企業に促すことを目的としたタスクフォースの設置を発表したことも注目される。企業においては、今後ますますCO2を含む温室効果ガス排出およびその削減状況に関する投資家向けの情報開示を充実していくことが求められることになろう。経営陣は、こうした情報開示に対する需要の高まりを念頭に置いてIRやCSR対策を検討しておきたいところだ。

システミックリスク : 特定の金融機関や市場の機能不全が、他の金融機関や市場、さらには金融システム全体にまで波及し金融危機になってしまうリスクのこと。Systemicには「体系の」「システムの」といった意味がある。
モントリオール炭素公約 : 投資家にポートフォリオにおける排出量の測定と情報開示を求める公約で、2014年9月25日にモントリオールで開催された国連PRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則)主催の責任投資会議「PRI in Person」によって立ち上げられ、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)によって支援されている。既に120の投資家(合計運用資産約10兆ドル)が署名。
Portfolio Decarbonization Coalition : ポートフォリオにおける温室効果ガス排出量の削減を目指す機関投資家のネットワーク。投資家に対し、排出量の多い企業からの投資を引きあげ、代わりに排出の少ない企業への投資を促す。既に25の投資家(合計運用資産約6千億ドル)が参加している。

2016/03/22 コーポレートガバナンス・コード対応、外国人投資家の注目点は?

昨年(2015年)12月にコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)を開示した上場会社は1,858社に及んだが、その中で、「エクスプレイン」を選択した企業の割合が6割強と最も高かったのが、取締役会に対し取締役会全体の実効性の分析・評価の実施とその結果の概要の開示を求める補充原則4-11③()の「取締役会の実効性評価」だ(各コードへの対応状況の詳細な分析はセミナー「CG報告書12月提出企業のコーポレートガバナンス・コード対応」参照)。各社は今年の株主総会に向け、取締役会評価の準備を進めていることだろう。

 補充原則4-11③ 取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

一方、日本の株式市場で大きな存在を持つ外国人投資家は、取締役会評価以外のコードへの対応にも注目している。外国人投資家が特に問題視しているのが、・・・

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2016/03/22 コーポレートガバナンス・コード対応、外国人投資家の注目点は?(会員限定)

昨年(2015年)12月にコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)を開示した上場会社は1,858社に及んだが、その中で、「エクスプレイン」を選択した企業の割合が6割強と最も高かったのが、取締役会に対し取締役会全体の実効性の分析・評価の実施とその結果の概要の開示を求める補充原則4-11③()の「取締役会の実効性評価」だ(各コードへの対応状況の詳細な分析はセミナー「CG報告書12月提出企業のコーポレートガバナンス・コード対応」参照)。各社は今年の株主総会に向け、取締役会評価の準備を進めていることだろう。

 補充原則4-11③ 取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

一方、日本の株式市場で大きな存在を持つ外国人投資家は、取締役会評価以外のコードへの対応にも注目している。外国人投資家が特に問題視しているのが、「コーポレートガバナンス・コードに関する基本方針(【原則3-1.情報開示の充実】(ⅱ)*1)を開示している企業が全体の30%程度にとどまっている点だ(なお、企業によって「コーポレートガバナンスに関する基本方針」「コーポレートガバナンスへの基本的な考え方」など呼び方は微妙に異なっている)。外国人投資家は、この基本方針を開示していない企業ほど、個別のコードに関する開示も形式的になりがちな傾向が見られるとしている。

また、取締役の意思決定に重要な影響を与える報酬制度に関する開示(【原則3-1.情報開示の充実)】(ⅲ)」(*1)、補充原則4-2①(*2))や、取締役、特に社内取締役の選任理由(【原則3-1】(ⅳ)(ⅴ)(*1)、補充原則4-3①(*3))及びその役割等(補充原則4-1①(*4))の説明が不十分との批判も聞かれる。

*1 【原則3-1.情報開示の充実】 上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、(本コードの各原則において開示を求めている事項のほか、)以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行うべきである。
(ⅰ)会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
(ⅱ)本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針
(ⅲ)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続
(ⅳ)取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
(ⅴ)取締役会が上記(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明
*2 補充原則4-2① 経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。
*3 補充原則4-3① 取締役会は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである。
*4 補充原則4-1① 取締役会は、取締役会自身として何を判断・決定し、何を経営陣に委ねるのかに関連して、経営陣に対する委任の範囲を明確に定め、その概要を開示すべきである。

このほか、コーポレートガバナンス・コードが目的の1つとしている投資家との対話促進の観点から、英語対応が不十分である点も課題に挙げられている。

このように、外国人投資家は日本企業のコーポレートガバナンス・コード対応に必ずしも満足しているわけではないものの、コーポレートガバナンス・コードの制定により、日本でもコーポレートガバナンスに関する議論が深まり、実際、多くの企業がその取組みを強化している点は評価している。特に、【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】()等により資本効率等に関する目標や経営戦略・計画の提示・説明が求められるなど、日本でもようやく「資本コスト」に関する議論が行われるようになったことについては、海外投資家から評判が良い。

 【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】 経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

日本企業のコーポレートガバナンスを強化するための枠組みはおおむね整った。あとはその中身(具体的には、取締役会の実効性向上や投資家等との建設的な対話に向けた情報開示の質の向上を指摘する外国人投資家が多い)をブラッシュアップしていくことより、コーポレートガバナンスの強化を実際に企業価値向上へとつなげていくことができるかどうか、経営陣の腕の見せ所だろう。