2016/03/18 職務発明の対価の所得区分が変更へ

 来月(平成28年4月1日)から施行される改正特許法により、発明について特許を受ける権利が「従業員のもの」から「会社のもの」へと変更されるが(2015年4月10日のニュース「発明は「従業員」から「会社」のものへ、残されたリスク要因は? 」参照)、これに伴い、知的財産を扱う法律事務所等に企業からの質問が相次いでいるのが、従業員に対する所得税の取扱いだ。

 従来の特許法では、特許を受ける権利については例外なく「従業者(発明者)」に帰属し、従業者はこれを会社に譲り渡す見返りとして「対価」を受け取る権利を有するものとされていた。この点を踏まえ国税庁は、「これらの権利の承継に際し一時に支払を受けるものは譲渡所得、これらの権利を承継させた後において支払を受けるものは雑所得」と取り扱ってきた(所得税基本通達 23~35共-1(1)参照)。つまり、特許を受ける権利を会社に譲渡した際に受ける対価は「譲渡所得」、その後に支払いを受けるもの、例えば出願・登録時の報奨や、製品の販売実績等に伴って会社から受け取る報奨は「雑所得」とされてきたわけだ。

 ただ、今回の特許法の改正により、特許を受ける権利を「法人帰属」とした会社()は、もはや従業者から当該権利の譲渡を受けることはなくなるため、上述した国税庁の取扱いのうち、「権利の承継(従業者から見れば譲渡)に際し一時に支払を受けるもの」は存在しなくなる。

 改正特許法では、従来どおり「従業者帰属」を維持するか新たに「法人帰属」とするかは選択できることとされている。この点は会社の経営方針等によって決定すればよい。

 この点については、特許法改正を踏まえて特許庁が取りまとめた「特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)(案)」でも、「従業者等が受けた経済上の利益に対して課せられる所得税の取り扱いについても明確にすることが望ましい」と指摘されている(25頁(六))。

 国税庁の方針は現時点では公表されていないが、・・・

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2016/03/18 職務発明の対価の所得区分が変更へ(会員限定)

 来月(平成28年4月1日)から施行される改正特許法により、発明について特許を受ける権利が「従業員のもの」から「会社のもの」へと変更されるが(2015年4月10日のニュース「発明は「従業員」から「会社」のものへ、残されたリスク要因は? 」参照)、これに伴い、知的財産を扱う法律事務所等に企業からの質問が相次いでいるのが、従業員に対する所得税の取扱いだ。

 従来の特許法では、特許を受ける権利については例外なく「従業者(発明者)」に帰属し、従業者はこれを会社に譲り渡す見返りとして「対価」を受け取る権利を有するものとされていた。この点を踏まえ国税庁は、「これらの権利の承継に際し一時に支払を受けるものは譲渡所得、これらの権利を承継させた後において支払を受けるものは雑所得」と取り扱ってきた(所得税基本通達 23~35共-1(1)参照)。つまり、特許を受ける権利を会社に譲渡した際に受ける対価は「譲渡所得」、その後に支払いを受けるもの、例えば出願・登録時の報奨や、製品の販売実績等に伴って会社から受け取る報奨は「雑所得」とされてきたわけだ。

 ただ、今回の特許法の改正により、特許を受ける権利を「法人帰属」とした会社()は、もはや従業者から当該権利の譲渡を受けることはなくなるため、上述した国税庁の取扱いのうち、「権利の承継(従業者から見れば譲渡)に際し一時に支払を受けるもの」は存在しなくなる。

 改正特許法では、従来どおり「従業者帰属」を維持するか新たに「法人帰属」とするかは選択できることとされている。この点は会社の経営方針等によって決定すればよい。

 この点については、特許法改正を踏まえて特許庁が取りまとめた「特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)(案)」でも、「従業者等が受けた経済上の利益に対して課せられる所得税の取り扱いについても明確にすることが望ましい」と指摘されている(25頁(六))。

 国税庁の方針は現時点では公表されていないが、当フォーラムの取材によると、今後はすべて「雑所得」と取り扱われることが分かった。「昇給」という形で経済上の利益を付与した場合は給与所得になるのではないかとの見方もあるが、実務の混乱を避けるため、雑所得に統一される。今回の特許法改正では、発明報奨に関する自主性・多様性を尊重するとの考え方に基づき、留学やストックオプションなどの経済上の利益の付与をもって報奨とすることも認められているが、これらに関する経済的利益もすべて「雑所得」となる。

2016/03/17 (新用語・難解用語)昇格減給

 この時期、従業員の昇降格を予定している会社は多いが、まれに、昇格したためにかえって賃金が下がってしまうということが起こりうる。この現象が「昇格減給」と呼ばれるものだ。一般社員が管理監督職に昇格したことにより残業代が支払われなくなり、従来より給料が減ってしまうというのが典型例である。ある意味で“制度設計上の不具合”とも言えるが、そもそもこのようなことは法的に許されるのだろうか。

 基本的に会社は「合理的な理由」に基づいて社員を昇格させたり降格させたりすることができる。これが人事権(会社が有する「経営権」に属する権限の一つ)の行使であり、就業規則等に記載されていなくても(明文化しておく方が望ましいが)認められている。また、昇降格とはつまり「職務の内容や責任の程度が変わる」ことであるため、それに連動して給料が増えたり減ったりするのは当然であり、それが労働契約(適正に制定された就業規則を含む)に則ったものであるならば裁判所も是認しているところだ。ちなみに、労働基準法第91条()で「減給は10%を超えてはならない」旨を定めているが、これは制裁としての「減給」について制限を設けたものであり、昇降格に伴う減給とは関係がない。

 労働基準法第91条を抜粋すると次のとおり。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

 結論として、「昇格減給」は適法ということになる。ただし、・・・

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2016/03/17 (新用語・難解用語)昇格減給(会員限定)

 この時期、従業員の昇降格を予定している会社は多いが、まれに、昇格したためにかえって賃金が下がってしまうということが起こりうる。この現象が「昇格減給」と呼ばれるものだ。一般社員が管理監督職に昇格したことにより残業代が支払われなくなり、従来より給料が減ってしまうというのが典型例である。ある意味で“制度設計上の不具合”とも言えるが、そもそもこのようなことは法的に許されるのだろうか。

 基本的に会社は「合理的な理由」に基づいて社員を昇格させたり降格させたりすることができる。これが人事権(会社が有する「経営権」に属する権限の一つ)の行使であり、就業規則等に記載されていなくても(明文化しておく方が望ましいが)認められている。また、昇降格とはつまり「職務の内容や責任の程度が変わる」ことであるため、それに連動して給料が増えたり減ったりするのは当然であり、それが労働契約(適正に制定された就業規則を含む)に則ったものであるならば裁判所も是認しているところだ。ちなみに、労働基準法第91条()で「減給は10%を超えてはならない」旨を定めているが、これは制裁としての「減給」について制限を設けたものであり、昇降格に伴う減給とは関係がない。

 労働基準法第91条を抜粋すると次のとおり。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

 結論として、「昇格減給」は適法ということになる。ただし、労働基準法(41条2号)に言う「管理監督者」に該当しなければ原則として残業代を支払わなければならない点には注意する必要がある。「管理監督者」に該当するには、経営者と一体的な立場にあり、賃金面でもその地位に相応しい待遇がなされていることが要件されているが、残業代がなくなったことで“逆転現象”が起きてしまう程の賃金で「管理監督者」に相応しい待遇と呼べるのかは疑問がある。昇格した社員が本当に「管理監督者」と言えるのか、確認しておきたい。

 また、たとえ法的には問題がないとしても、月々の収入が減少は社員の生活に直接影響するため、運用面での配慮は必要だろう。昇格に伴う基本給や役職手当の昇給額が昇格前の残業代を上回るように制度設計しなおせればベストだが、それが難しければ、当分の間「調整手当」を支給する等の方策を検討するべきだろう。

2016/03/16 D&O保険の補償額引上げ相次ぐ 「任意の委員会」の定義への疑問も

2016年2月26日のニュース「株主代表訴訟補償特約保険料の会社負担、給与課税不要に」でお伝えしたとおり、D&O保険のうち株主代表訴訟をカバーする「株主代表訴訟補償特約」の保険料を会社が負担した場合でも給与課税が行われないことになった。役員に保険料を負担させる必要がなくなったことを受け、補償額の引上げを検討する企業が相次いでいる。また、これまで日本企業に対し損害保険会社が用意する補償限度額は10億円程度だったが、ある国内損保はこれを欧米企業並みの100億円に増額するという。もちろん、損保が補償限度額をいくらに設定するかは企業側の業績や規模にもよることになるが、30~50億円程度に補償額を設定する企業は今後相当数出て来るものとみられる。

損保各社は既に国税庁が示した給与課税の免除要件をクリアするための対応に動いている。現状のD&O保険は、会社法上の問題(2015年7月13日のニュース「D&O保険料の会社負担は可能か?」参照)をクリアするため、「普通保険約款」と「株主代表訴訟補償特約」に分かれており、普通保険約款等には「株主代表訴訟敗訴時担保部分を免責する」旨の条項が設けられているが、会社法上の問題がなくなったことで今後はこのような区分も不要となる。そこで、国税庁が先月(2016年2月)24日に公表した「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(情報)」という文書では、「普通保険約款等を変更するまでの暫定的な取扱い」として、「普通保険約款等において設けられている株主代表訴訟敗訴時担保部分を免責する旨の条項を適用除外とし、普通保険約款等の保険料と株主代表訴訟敗訴時担保部分の保険料が一体と見なされる旨の特約を追加で付帯」することを求めている。損保各社はこの特約の開発を進めており、遅くとも今月内にはリリースする模様。

また、国税庁の文書では、給与課税を行わない条件として、(1)取締役会の承認、(2)社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意又は社外取締役全員の同意の取得――の2つの要件をともに満たすことを求めているが、このうち企業のみならず損保からも疑問が指摘されていたのが(2)の「任意の委員会」の定義だ。・・・

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2016/03/16 D&O保険の補償額引上げ相次ぐ 「任意の委員会」の定義への疑問も(会員限定)

2016年2月26日のニュース「株主代表訴訟補償特約保険料の会社負担、給与課税不要に」でお伝えしたとおり、D&O保険のうち株主代表訴訟をカバーする「株主代表訴訟補償特約」の保険料を会社が負担した場合でも給与課税が行われないことになった。役員に保険料を負担させる必要がなくなったことを受け、補償額の引上げを検討する企業が相次いでいる。また、これまで日本企業に対し損害保険会社が用意する補償限度額は10億円程度だったが、ある国内損保はこれを欧米企業並みの100億円に増額するという。もちろん、損保が補償限度額をいくらに設定するかは企業側の業績や規模にもよることになるが、30~50億円程度に補償額を設定する企業は今後相当数出て来るものとみられる。

損保各社は既に国税庁が示した給与課税の免除要件をクリアするための対応に動いている。現状のD&O保険は、会社法上の問題(2015年7月13日のニュース「D&O保険料の会社負担は可能か?」参照)をクリアするため、「普通保険約款」と「株主代表訴訟補償特約」に分かれており、普通保険約款等には「株主代表訴訟敗訴時担保部分を免責する」旨の条項が設けられているが、会社法上の問題がなくなったことで今後はこのような区分も不要となる。そこで、国税庁が先月(2016年2月)24日に公表した「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(情報)」という文書では、「普通保険約款等を変更するまでの暫定的な取扱い」として、「普通保険約款等において設けられている株主代表訴訟敗訴時担保部分を免責する旨の条項を適用除外とし、普通保険約款等の保険料と株主代表訴訟敗訴時担保部分の保険料が一体と見なされる旨の特約を追加で付帯」することを求めている。損保各社はこの特約の開発を進めており、遅くとも今月内にはリリースする模様。

また、国税庁の文書では、給与課税を行わない条件として、(1)取締役会の承認、(2)社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意又は社外取締役全員の同意の取得――の2つの要件をともに満たすことを求めているが、このうち企業のみならず損保からも疑問が指摘されていたのが(2)の「任意の委員会」の定義だ。役員が加入する保険の保険料の負担について同意する委員会というと、通常は「報酬委員会」が想定される。ただ、報酬委員会は指名委員会等設置会社においては会社法上設置が必須の委員会であり、「任意」で設けられるものではない。にもかかわらず、あえて「任意」という限定を付けているのは、国税庁が「報酬委員会」以外の委員会を想定しているからではないかとの見方もある。例えば、「株主代表訴訟敗訴時担保部分に係る保険料の取扱い検討委員会」といったものだ。

しかし、当フォーラムの取材によると、「任意の委員会」とは基本的に報酬(諮問)委員会を想定していることが確認されている。「任意の」と付けたのは、コーポレートガバナンス・コード原則4-10①が役員の報酬について「任意の諮問委員」の設置を勧めていることを受け、会社法上報酬委員会の設置が義務付けられていない監査役会設置会社や監査等委員会設置会社が報酬(諮問)委員会を設置するが増えていることを踏まえたもの。一方、指名委員会等設置会社は数が少ないため、ここでは言及されなかったに過ぎない。すなわち、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれも、報酬(諮問)委員会を活用して上記(2)の「同意」をとればよい。ただし、社外取締役全員の同意を得られるのであれば、現状では報酬(諮問)委員会のない監査役会設置会社、監査等委員会設置会社が、税務上の取扱いのためだけに委員会を設置する必要はない。

なお、上記税務上の取扱いに例外はなく、あくまで(1)(2)を両方とも満たせない限り、給与課税の免除は受けられないとのこと。したがって、社外取締役がいない上場会社のグループ会社などは(2)を満たしようがないため、会社が株主代表訴訟敗訴時担保部分に係る保険料を負担した場合には引き続き給与課税を受けることになる。子会社の役員もD&O保険のカバー対象とするのであれば、社外取締役の設置も検討の余地があろう。

2016/03/15 中期経営計画に対する投資家の見方

年度末が近付く中、中期経営計画(中計)が最終年度を迎えている企業では、目標数値の達成状況が気になると同時に、来年度以降の新たな中計の作成作業が大詰めを迎えている頃だろう。新たな中計は、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードという2つのコードが出揃って以降初めて公表されるものとなるため、例年以上に投資家の注目度も高いとみられる。では、“2つのコード時代”に求められる中計とはどのようなものだろうか。中計の作成が最終段階に入った企業を想定して考えてみよう。

最初に確認しておきたいのが中計の位置付けだ。これまでは従業員を鼓舞する意味も含む“努力目標”に近いものも散見されたが、これに対し投資家からは「バラ色の内容の計画」といった批判的な声も聞こえる。

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-1②が中計に対しても経営陣のコミットメントを要求していることが示すとおり、2つのコード時代に求められるのは・・・

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2016/03/15 中期経営計画に対する投資家の見方(会員限定)

年度末が近付く中、中期経営計画(中計)が最終年度を迎えている企業では、目標数値の達成状況が気になると同時に、来年度以降の新たな中計の作成作業が大詰めを迎えている頃だろう。新たな中計は、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードという2つのコードが出揃って以降初めて公表されるものとなるため、例年以上に投資家の注目度も高いとみられる。では、“2つのコード時代”に求められる中計とはどのようなものだろうか。中計の作成が最終段階に入った企業を想定して考えてみよう。

最初に確認しておきたいのが中計の位置付けだ。これまでは従業員を鼓舞する意味も含む“努力目標”に近いものも散見されたが、これに対し投資家からは「バラ色の内容の計画」といった批判的な声も聞こえる。

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-1②が中計に対しても経営陣のコミットメントを要求していることが示すとおり、2つのコード時代に求められるのはより“現実的”な内容だ。

補充原則4-1②
取締役会・経営陣幹部は、中期経営計画も株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行うべきである。仮に、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に説明を行うとともに、その分析を次期以降の計画に反映させるべきである。

経営計画において最も注目されるのが目標数値(KPI)だが、現行の中計における目標数値が未達の場合には、補充原則4-1②を踏まえ、企業はその原因を説明することが求められる。近年は環境の変化が激しく、作成当時とは外部環境が大きく変わっている場合まで「未達の原因は企業の努力不足にある」とは言い難いが、投資家からは「外部要因に責任転嫁する傾向がある」との厳しい指摘も聞かれる。したがって、企業としては、目標が未達の場合には、過度に外部環境のせいにしない説明を用意しておくべきだろう。

また、「責任転嫁」との批判を回避するため、新たな中計では、作成時点における外部環境に対する見通しを前提条件として明確に示しておきたい。投資家からは外部環境が変化した場合の業績への影響の開示を求める声もしばしば聞かれるため、為替レートや原油価格等の代表的な指標については、前提条件と併せて感応度を開示することも検討するべきだろう。

感応度 : 為替レート等の変動に対して売上高や利益がどの程度影響を受けるかを示すもの。

2つのコードを受けて、目標数値自体も変化することになりそうだ。現状では売上や営業利益の目標数値を挙げるのが一般的だが、コーポレートガバナンス・コード原則1-3が「資本政策の動向が株主の利益に重要な影響を与え得ることを踏まえ、資本政策の基本的な方針について説明を行うべきである」として、企業に資本政策の説明を求めていることもあり、自己資本利益率(ROE)に代表される投下資本の収益性を表す指標を掲げるケースが増えることが予想される。

これまでの中計に対して、投資家からは「P/L偏重」との指摘がある一方、一部の企業が実践しているキャッシュフロー重視の経営計画を評価する声も聞かれる。B/S、P/L、キャッシュフロー計算書は連動しているため(*1)、ROEのようにB/S、P/Lにまたがる(*2)目標数値を示せば、投資家はキャッシュフローについてもおおよその検討をつけることができる(逆にキャッシュフローの予測を用いてROEを予測することも可能)が、P/Lの数値だけではそうはいかない。

*1 P/Lで算定した当期純利益は、B/Sの純資産に含まれる。また、キャッシュフロー計算書は、P/Lの当期純利益をベースにして、これに減価償却費や引当金繰入額のような非現金支出費用を加算するなどにより、B/Sの現預金の増減内容を示す。
*2 ROEの分母の自己資本はB/Sの数字、分子の当期純利益はP/Lの数字である。

具体的な指標は事業特性や企業の成長ステージによって異なるが、中計が対象とする期間中の企業活動を投資家がイメージできるような目標数値(例えば、製造数量、店舗数、成約率、従業員数、登録会員数、ダウンロード数、広告出稿数、クレーム数、返品数など)の設定を検討する必要がある。中計をはじめとする経営計画は投資家との対話のツールであり、短期志向に陥りがちな対話をより中長期にシフトさせることができれば、中計を作成する第一目標は達成したと言えよう。

2016/03/15 【ガバナンスのあり方】監査等委員会設置会社に移行したい(会員限定)

 

上場会社の機関設計の選択肢は3つ

2014年の通常国会で成立した改正会社法(2015年5月1日から適用開始)で、新たに「監査等委員会設置会社」という機関設計が認められたのは周知のとおりです。

改正前の会社法では「監査役会設置会社」と「委員会設置会社(会社法改正により「指名委員会等設置会社」に名称変更)の2つが認められていましたので、会社法改正の結果、株式会社の選択肢は1つ増え、現在は(1)監査役会設置会社、(2)指名委員会等設置会社、そして(3)監査等委員会設置会社の3つの機関設計のいずれかを選ぶことが可能となっているわけです。

監査役会設置会社 : 監査役会を置いた会社。会社法の大会社(資本金5億円以上、負債200億円以上)である公開会社(会社の承認なく株式を自由に譲渡できる会社)は、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社を除いて、監査役会を設置しなければならない。上場会社の多くはこれに該当。
委員会設置会社 : 取締役会の中に、社外取締役が過半数を占める「指名委員会(取締役の選任・解任に関する議案の内容を決定)」「監査委員会(取締役および執行役(監査役設置会社の業務執取締役に該当)の職務を監視し、場合によっては解任・不再任に関する議案の内容を決定したり、執行役等の行為を差止め)」「報酬委員会(取締役および執行役の個人別の報酬内容、または報酬内容の決定に関する方針を決める)」を置く株式会社のこと。

この3つの機関設計のうち最も多くの上場会社に選択されているのが、「取締役会+監査役会+会計監査人」で構成される監査役会設置会社です。監査役会設置会社では、取締役会が「重要な業務執行の決定」と「代表取締役や業務執行取締役(業務執行者)の選定・解任」を行い、取締役の職務執行を監督します。そして、“半数以上(「過半数」ではありません。会社法335条3項参照)”の社外監査役によって構成する「監査役会」が、取締役の職務執行が法令・定款を遵守して行われているか(業務監査)や、計算書類およびその附属明細書が法令や会計基準に則っているかをチェック(会計監査)することになっています(下記のイメージ図参照)。

<監査役会設置会社のイメージ図>
governance16406_1

こうした中、近年は、取締役会の内部に“社内の利害関係”や“しがらみ”とは距離のある者を入れることによりコーポレートガバナンスを確保すべきという考え方がグローバルスタンダードになっています。これを受け、2015年5月1日から施行された改正会社法では、一定の要件を満たす監査役会設置会社が社外取締役を選任していない場合には、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を株主総会で説明することを求めています。これは、事実上の「選任義務付け」と評価することができます。なぜなら、多くの企業が社外取締役を選任している現状において、社外取締役を置かないことについて投資家を説得できるだけの十分な説明をすることは困難だからです。

一定の要件を満たす監査役会設置会社 : 事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって、金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社(会社法327条の2)。資本金5億円以上の上場会社は必ず該当する。

もっとも、企業価値向上に向けた上場会社の行動指針とも言えるコーポレートガバナンス・コード(2015年6月1日から適用開始)では独立社外取締役(独立社外取締役と社外取締役の違いは2014年12月26日のニュース『「社外取締役」と「独立社外取締役」の違い、明確に説明できますか?』参照)の2名以上の選任を求め、さらに、議決権行使助言会社最大手の ISS(Institutional Shareholder Services Inc.)は議決権行使助言基準(2016年2月総会から適用)において「取締役会に複数名の社外取締役がいない場合」には、経営トップ(社長、会長など)の選任議案への反対を推奨するとしています。したがって、結局のところ、上場会社は「複数」の社外取締役を確保していく必要がありますが、会社によっては、複数の社外取締役の確保はハードルが高いかも知れません。こうした会社にとって、「監査等委員会設置会社」への移行は、ガバナンスのあり方を変える選択肢の1つとなり得ます。次では監査等委員会設置会社の特徴や狙いを解説しつつ、その理由を説明します。

普及しなかった委員会設置会社

監査等委員会設置会社を理解するうえでポイントとなるのが「モニタリングモデル」です。モニタリングモデルとは、米国で生まれ欧州に広がったコーポレートガバナンスの形態であり、「業務執行」とその「監督」を分離し、社外取締役が一定比率を占める取締役会に「監督」を担わせる仕組みです。

もっとも、日本でも10年以上前からモニタリングモデルを採用することは可能でした。それが、冒頭でも述べた委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)です。この“日本版モニタリングモデル”では、「執行役」が会社の業務執行を担います。そして取締役会がそれを監督(モニタリング)することにより、コーポレートガバナンスの強化のみならず事業活動の迅速化を図り、企業価値の向上に結び付けようというのがモニタリングモデルの発想です。そこには、「業務執行」「監督」それぞれの専門家による“分業”を徹底させることが会社のパフォーマンスの向上につながるとの考え方があり、具体的な経営の決定権限は執行役に完全に委ねられています。

執行役 : 取締会決議により選任・解任され(登記も必要)、取締役会決議によって委任された事項について会社業務を実行する役職。執行役が2人以上いる場合は会社を代表する代表執行役を選ぶ。取締役と同様、会社に対して善管注意義務および忠実義務を負い、株主代表訴訟の対象にもなる。「執行役員」も会社業務の実行に対して権限と責任を持つが、会社法上に定義はなく、あくまで重要な使用人に過ぎない点、執行役とは異なる。

一方、日本の上場会社の大部分が該当する監査役会設置会社では、「取締役執行役員」という役職名の役員が多数存在することからも分かるように、業務執行と監督が明確に分かれていません。これは、日本企業には「経営の専門家」を外部から招へいする慣行が基本的にないことに加え、自社が属する業界や社内事情に精通した者が業務執行を行いつつ、同時に取締役会の一員として重要な業務執行を決定し、業務執行者を監督する方が企業価値の向上につながるとの考え方があるからです。

しかし、日本の資本市場において海外投資家の存在感が増すにつれ、日本企業に対しても欧米企業のようなモニタリングモデルのガバナンス体制を求める圧力が強まりました。

このモニタリングモデルを明確に打ち出そうとしたのが、上述した「委員会設置会社」です。2003年の商法改正で創設された「委員会等設置会社」(その後、名称は「委員会等設置会社」→「委員会設置会社」→「指名委員会等設置会社」と変化しましたが、基本的な内容に変更はありません。以下「指名委員会等設置会社」と言います)では、取締役3人以上により構成されその過半数を社外取締役が占める3つの「委員会」が取締役会の中に設置されます。具体的には、(1)株主総会に提出する「取締役の選任・解任議案」の内容を決定する「指名委員会」、(2)監査役会設置会社における監査役会に相当し、取締役および執行役の職務執行が適正かどうかを監査するとともに、取締役や執行役の行為を差し止める権限も持つ「監査委員会」、(3)個々の取締役および執行役の報酬の内容を決める「報酬委員会」です(下記のイメージ図参照)。

<指名委員会等設置会社のイメージ図>
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ところが、大手メーカーなどで監査役会設置会社から指名委員会等設置会社に移行した企業は存在するものの、全ての株式市場の合計でも60社程度に過ぎず、当初期待されたほど移行は進まなかったというのが実情です。

これは、社外の者(社外取締役)が過半数を占める委員会に役員の人事や報酬の決定を委ねることへの強い抵抗感が企業側にあったからです。

社外監査役を社外取締役に

しかし、しがらみにとらわれない社外取締役が社内出身の役員を牽制するとともに、企業の持続的成長に必要なイノベーションをもたらす大胆な意思決定を導き出すことへの投資家の期待は高まる一方であり、今後もこの流れが止まることはないでしょう。

このように、指名委員会等設置会社が普及しない一方で、投資家が社外取締役を基軸とするコーポレートガバナンスの実現を求める中、2015年5月1日から適用が開始となった改正会社法により創設されたのが「監査等委員会設置会社」です。

監査等委員会設置会社とは、一言で言えば「指名委員会等設置会社」と「監査役会設置会社」の中間に位置付けられる会社です。

監査等委員会設置会社では、企業が指名委員会等設置会社への移行を敬遠する理由となってきた「指名委員会」と「報酬委員会」の設置が義務付けられていません。監査役会設置会社と同じく、取締役会に「株主総会に提出する取締役の選任・解任に関する議案の内容を決定する権限」「(株主総会が決定した報酬枠の範囲内で)個々の取締役の報酬を決定する権限」を認めつつ、指名委員会等設置会社の「監査委員会」に相当する「監査等委員会」を取締役会の中に置き、業務執行と監督の分離を実現しようとしています。この仕組みからは、指名委員会等設置会社が普及しなかった反省を踏まえ、日本企業が受け入れやすい制度にしようとした当局の意図が透けて見えます。ただし、「監査等委員」3名以上で組織される監査等委員会では、監査等委員は全員「非業務執行取締役」でなければならず、また、その過半数は「社外取締役」である必要があります(下記のイメージ図参照)。

<監査等委員会設置会社のイメージ図>
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監査等委員会を構成する3名以上の非業務執行取締役のうち過半数が「社外取締役」ということは、監査等委員会に移行するためには、少なくとも2名の社外取締役が必要ということになります。

もっとも、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する際には、現在の社外監査役を「監査等委員である社外取締役」にスライドさせることが可能です。そもそも、上述のとおりコーポレートガバナンス・コードやISSの議決権行使助言基準でも複数の独立社外取締役の選任が求められているため、監査役会設置会社としては、これらに対応するうえで、新たに外部から社外取締役を探してくるよりは、監査等委員会設置会社に移行し、現在の社外監査役を「監査等委員である社外取締役」に選任してしまった方が容易かも知れません。実際、2名以上の社外取締役の確保に苦慮する監査役会設置会社の中には、監査等委員会設置会社への移行を選択肢に入れるところが少なくありません。

「社外性」の判定では、東証や議決権行使助言会社も考慮する必要

実は、会社法上、「監査等委員である社外取締役」にスライドさせることができるのは「監査役」とされており、必ずしも「社外監査役」に限られるわけではありません。

ただし、2015年5月1日から施行された改正会社法により「社外性」の要件が厳格化され、例えば、社外取締役に就任する前の10年間のうちに、自社または子会社の業務執行取締役、執行役、支配人その他の使用人であった場合には、「社外性」は認められません。日本企業では、定年間近の従業員や業務執行取締役を退任した者が社内監査役に就任するケースが多いことから、社内監査役を「監査等委員である社外取締役」に就任させようとしても、社外性要件を満たせる人は多くないのが現状です。したがって、監査等委員会設置会社への移行にあたっては、現在の「社外監査役」を、社外性要件に抵触しないかどうかを確認したうえで「監査等委員である社外取締役」にスライドさせるのが通常でしょう。

ここでいう「社外性要件」は、会社法上の社外性要件のみならず、東証の有価証券上場規程に規定される独立性や(2014年12月26日のニュース『「社外取締役」と「独立社外取締役」の違い、明確に説明できますか?』参照)、議決権行使助言会社大手のISSやグラス・ルイスが毎年公表する議決権行使助言方針に規定される独立性基準も考慮する必要があります。

なお、監査等委員会設置会社には監査役を置くことが認められません。したがって、監査役会設置会社が監査等委員会設置会社に移行する際には、社外監査役は「監査等委員である社外取締役」にならない限り通常は会社を去ることにならざるを得ませんし、社内監査役は上述のとおり「社外性」要件を満たせない可能性が高いため「監査等委員である社外取締役」になることは基本的にできないということには留意が必要です。このように、監査等委員会設置会社への移行にあたっては、監査役の処遇、さらには、従来であれば社内監査役に就任することが多かった業務執行取締役を退任した者の処遇をどうするかという問題が生じます。この点については次で解説します。

監査役のポストがなくなる

「監査等委員会設置会社」への移行に際して問題となるのが、日本企業の慣行との関係です。

従来、日本企業では、取締役等を退任した者が監査役に就任するケースが多く見られました。しかし、上述のとおり、会社法上、監査等委員会設置会社ではそもそも監査役を置くことが認められず、また、業務執行取締役であった者は「監査等委員である社外取締役」にも就任できません。業務執行取締役を退任した者が業務を執行しない「社内取締役」として監査等委員に就任することは可能ですが、監査役会設置会社では監査役の「半数以上」が社外監査役であることを必要としているのに対し(例えば監査役が4人であれば社外監査役は2人でよいため、2人分は“社内向け”のポストがある)、監査等委員会設置会社では監査等委員の「過半数」が社外取締役であることが必要です(例えば監査等委員が4人であれば、最低3人の社外取締役になるため、“社内向け”のポストは1人分しかない)。つまり、監査等委員会設置会社に移行すれば、取締役等を退任した者が就くポストが減ることになります。

また、監査等委員会設置会社への移行により取締役の人数がいたずらに増加してしまうことを避けるため、一部の社外監査役には「監査等委員である社外取締役」への就任を依頼しないということもあるでしょう(逆に、社外取締役に就任することにより責任が重くなることを理由に、就任を望まない社外監査役が出て来る可能性もあります)。コーポレートガバナンス・コードでは社外取締役は最低2名いれば足りるとされていますので、例えば監査役5人体制(社外監査役3人、常勤監査役2人)の監査役会設置会社が監査等委員会設置会社に移行する場合には、「社外取締役2名、社内取締役1名」の監査等委員会とすることも考えられます。

さらに、上述のとおり、社内監査役だった者も社外性要件の問題から「監査等委員である社外取締役」に就任するのは困難なうえ、社外性要件を問われない「(業務を執行しない)社内取締役」として監査等委員に就任するにしても、監査等委員の過半数は社外取締役とする必要があるためそもそも“社内向け”のポストが減少しており、現実には就任が難しいケースもあるでしょう。

このように、監査等委員会設置会社への移行にあたっては、取締役を退任する者や社内監査役などの処遇についても検討する必要があります。例えば顧問契約や雇用契約を締結し、「監査等委員のスタッフ」や「内部監査室の監査担当」として、これまでの知見を活かすことも考えられます。

監査等委員会設置会社への移行手続き

では、実際に監査等委員会設置会社に移行する場合、どのような手続が必要になるのでしょうか。

まず定款の変更です。会社法上、機関の設計という会社の基本的な構造は定款で定めることになっていますが、監査等委員会設置会社への移行はまさに機関の変更に当たりますので、定款変更が必要になります。定款の変更は重要性が高いことから、株主総会の特別決議が求められます。会社としては、監査等委員会設置会社に移行することについて、総議決権の3分の2以上の賛成を得なくてはなりません。

特別決議 : 株主総会に出席した株主の有している議決権の合計が全議決権の過半数に達しており、かつ、その出席株主の議決権の3分の2が賛成票であることを決議成立の要件とするもの。

多くの会社にとって、監査等委員会設置会社に移行する本音の理由は「社外取締役の確保」だと思います。しかし、それだけでは株主への説明としては不十分です。建前上は、「モニタリングモデルの1つである監査等委員会設置会社に移行することによりガバナンス改革に取り組む」といった姿勢を投資家に示すことはできるはずですが、監査等委員会設置会社への移行をもって投資家に「当社はモニタリングモデルに移行した」と断言できる会社は多くないでしょう。逆に、監査等委員会設置会社では「取締役の選任・解任」という取締役を牽制する最大の権限が社外取締役に委ねられないことについて、投資家から否定的な評価を受ける可能性も否定できません。

コーポレートガバナンス・コードの原則3-1では、役員の指名・報酬について「決定・指名に当たっての方針と手続」を開示すべきとしています。監査等委員会設置会社では、監査等委員会に、監査等委員でない取締役の人事・報酬について株主総会での「意見陳述権」が認められていますので(会社法361条6項)、「社外取締役が過半数の監査等委員会で、監査等委員でない取締役の人事・報酬を評価している」旨をアピールすれば、投資家に対しても一定の説得力があるでしょう。とはいえ、グローバルでは「独立取締役が過半数の取締役会」が常識である以上、「物足りない」との印象を投資家に与える可能性もあります。コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-10①が、「独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである」としているように、監査等委員会設置会社への移行にあたっては、指名委員会等設置会社と同様の指名(諮問)委員会・報酬(諮問)委員会を任意で設置することも検討したいところです。

また、監査等委員会設置会社への移行にあたっては、当然ながら監査等委員の選任が必要になります。監査等委員は取締役でもありますが、他の取締役の職務執行を監査・監督するために「独立性」が求められることから、「監査等委員」としての選任であることが分かるよう、監査等委員以外の取締役とは区別して、株主総会で選任の可否を株主に問うことになります。さらに、監査等委員である取締役選任議案を株主総会に提出するにあたっては、監査等委員会の同意も必要になります。

なお、監査等委員の任期は2年とされており、指名委員会等設置会社の取締役のように、定款や株主総会決議によって短縮することはできません(ちなみに、監査等委員以外の取締役の任期は1年です)。また、監査役会設置会社が監査等委員会設置会社に移行する場合、監査役の任期は引き継がれません。これは、監査等委員は取締役であり、監査役とはポジションが異なるからです。例えば、監査役会設置会社での任期があと3年残っている監査役が監査等委員会設置会社への移行に伴い「監査等委員である取締役」に就任する場合、監査役としての残り3年間の任期は引き継がれず、任期はあくまで2年間(=監査等委員である取締役としての任期)となります。

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2016/03/15 【ガバナンスのあり方】監査等委員会設置会社に移行したい

 

上場会社の機関設計の選択肢は3つ

2014年の通常国会で成立した改正会社法(2015年5月1日から適用開始)で、新たに「監査等委員会設置会社」という機関設計が認められたのは周知のとおりです。

改正前の会社法では「監査役会設置会社」と「委員会設置会社(会社法改正により「指名委員会等設置会社」に名称変更)の2つが認められていましたので、会社法改正の結果、株式会社の選択肢は1つ増え、現在は(1)監査役会設置会社、(2)指名委員会等設置会社、そして(3)監査等委員会設置会社の3つの機関設計のいずれかを選ぶことが可能となっているわけです。

監査役会設置会社 : 監査役会を置いた会社。会社法の大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)である公開会社(会社の承認なく株式を自由に譲渡できる会社)は、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社を除いて、監査役会を設置しなければならない。上場会社の多くはこれに該当。
委員会設置会社 : 取締役会の中に、社外取締役が過半数を占める「指名委員会(取締役の選任・解任に関する議案の内容を決定)」「監査委員会(取締役および執行役(監査役設置会社の業務執取締役に該当)の職務を監視し、場合によっては解任・不再任に関する議案の内容を決定したり、執行役等の行為を差止め)」「報酬委員会(取締役および執行役の個人別の報酬内容、または報酬内容の決定に関する方針を決める)」を置く株式会社のこと。

この3つの機関設計のうち最も多くの上場会社に選択されているのが、「取締役会+監査役会+会計監査人」で構成される監査役会設置会社です。監査役会設置会社では、取締役会が「重要な業務執行の決定」と「代表取締役や業務執行取締役(業務執行者)の選定・解任」を行い、取締役の職務執行を監督します。そして、“半数以上(「過半数」ではありません。会社法335条3項参照)”の社外監査役によって構成する「監査役会」が、取締役の職務執行が法令・定款を遵守して行われているか(業務監査)や、計算書類およびその附属明細書が法令や会計基準に則っているかをチェック(会計監査)することになっています(下記のイメージ図参照)。

<監査役会設置会社のイメージ図>
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こうした中、近年は、取締役会の内部に“社内の利害関係”や“しがらみ”とは距離のある者を入れることによりコーポレートガバナンスを確保すべきという考え方がグローバルスタンダードになっています。これを受け、2015年5月1日から施行された改正会社法では、一定の要件を満たす監査役会設置会社が社外取締役を選任していない場合には、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を株主総会で説明することを求めています。これは、事実上の「選任義務付け」と評価することができます。なぜなら、多くの企業が社外取締役を選任している現状において、社外取締役を置かないことについて投資家を説得できるだけの十分な説明をすることは困難だからです。

一定の要件を満たす監査役会設置会社 : 事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって、金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社(会社法327条の2)。資本金5億円以上の上場会社は必ず該当する。

もっとも、企業価値向上に向けた上場会社の行動指針とも言えるコーポレートガバナンス・コード(2015年6月1日から適用開始)では独立社外取締役(独立社外取締役と社外取締役の違いは2014年12月26日のニュース『「社外取締役」と「独立社外取締役」の違い、明確に説明できますか?』参照)の2名以上の選任を求め、さらに、議決権行使助言会社最大手の ISS(Institutional Shareholder Services Inc.)は議決権行使助言基準(2016年2月総会から適用)において「取締役会に複数名の社外取締役がいない場合」には、経営トップ(社長、会長など)の選任議案への反対を推奨するとしています。したがって、結局のところ、上場会社は「複数」の社外取締役を確保していく必要がありますが、会社によっては、複数の社外取締役の確保はハードルが高いかも知れません。こうした会社にとって、「監査等委員会設置会社」への移行は、ガバナンスのあり方を変える選択肢の1つとなり得ます。次では監査等委員会設置会社の特徴や狙いを解説しつつ、その理由を説明します。

普及しなかった委員会設置会社

監査等委員会設置会社を理解するうえでポイントとなるのが「モニタリングモデル」です。モニタリングモデルとは、米国で生まれ欧州に広がったコーポレートガバナンスの形態であり、「業務執行」とその「監督」を分離し、社外取締役が一定比率を占める取締役会に「監督」を担わせる仕組みです。

もっとも、日本でも10年以上前からモニタリングモデルを採用することは可能でした。それが、冒頭でも述べた委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)です。この“日本版モニタリングモデル”では、「執行役」が会社の業務執行を担います。そして取締役会がそれを監督(モニタリング)することにより、コーポレートガバナンスの強化のみならず事業活動の迅速化を図り、企業価値の向上に結び付けようというのがモニタリングモデルの発想です。そこには、「業務執行」「監督」それぞれの専門家による“分業”を徹底させることが会社のパフォーマンスの向上につながるとの考え方があり、具体的な経営の決定権限は執行役に完全に委ねられています。

執行役 : 取締会決議により選任・解任され(登記も必要)、取締役会決議によって委任された事項について会社業務を実行する役職。執行役が2人以上いる場合は会社を代表する代表執行役を選ぶ。取締役と同様、会社に対して善管注意義務および忠実義務を負い、株主代表訴訟の対象にもなる。「執行役員」も会社業務の実行に対して権限と責任を持つが、会社法上に定義はなく、あくまで重要な使用人に過ぎない点、執行役とは異なる。

一方、日本の上場会社の大部分が該当する監査役会設置会社では、「取締役執行役員」という役職名の役員が多数存在することからも分かるように、・・・

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社外監査役を社外取締役に

しかし、しがらみにとらわれない社外取締役が社内出身の役員を牽制するとともに、企業の持続的成長に必要なイノベーションをもたらす大胆な意思決定を導き出すことへの投資家の期待は高まる一方であり、今後もこの流れが止まることはないでしょう。

このように、指名委員会等設置会社が普及しない一方で、投資家が社外取締役を基軸とするコーポレートガバナンスの実現を求める中、2015年5月1日から適用が開始となった改正会社法により創設されたのが「監査等委員会設置会社」です。

監査等委員会設置会社とは、一言で言えば・・・

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「社外性」の判定では、東証や議決権行使助言会社も考慮する必要

実は、会社法上、「監査等委員である社外取締役」にスライドさせることができるのは・・・

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監査役のポストがなくなる

「監査等委員会設置会社」への移行に際して問題となるのが、日本企業の慣行との関係です。

従来、日本企業では、取締役等を退任した者が監査役に就任するケースが多く見られました。しかし、・・・

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監査等委員会設置会社への移行手続き

では、実際に監査等委員会設置会社に移行する場合、どのような手続が必要になるのでしょうか。

まず・・・

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