年度末が近付く中、中期経営計画(中計)が最終年度を迎えている企業では、目標数値の達成状況が気になると同時に、来年度以降の新たな中計の作成作業が大詰めを迎えている頃だろう。新たな中計は、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードという2つのコードが出揃って以降初めて公表されるものとなるため、例年以上に投資家の注目度も高いとみられる。では、“2つのコード時代”に求められる中計とはどのようなものだろうか。中計の作成が最終段階に入った企業を想定して考えてみよう。
最初に確認しておきたいのが中計の位置付けだ。これまでは従業員を鼓舞する意味も含む“努力目標”に近いものも散見されたが、これに対し投資家からは「バラ色の内容の計画」といった批判的な声も聞こえる。
コーポレートガバナンス・コード補充原則4-1②が中計に対しても経営陣のコミットメントを要求していることが示すとおり、2つのコード時代に求められるのはより“現実的”な内容だ。
補充原則4-1②
取締役会・経営陣幹部は、中期経営計画も株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行うべきである。仮に、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に説明を行うとともに、その分析を次期以降の計画に反映させるべきである。
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経営計画において最も注目されるのが目標数値(KPI)だが、現行の中計における目標数値が未達の場合には、補充原則4-1②を踏まえ、企業はその原因を説明することが求められる。近年は環境の変化が激しく、作成当時とは外部環境が大きく変わっている場合まで「未達の原因は企業の努力不足にある」とは言い難いが、投資家からは「外部要因に責任転嫁する傾向がある」との厳しい指摘も聞かれる。したがって、企業としては、目標が未達の場合には、過度に外部環境のせいにしない説明を用意しておくべきだろう。
また、「責任転嫁」との批判を回避するため、新たな中計では、作成時点における外部環境に対する見通しを前提条件として明確に示しておきたい。投資家からは外部環境が変化した場合の業績への影響の開示を求める声もしばしば聞かれるため、為替レートや原油価格等の代表的な指標については、前提条件と併せて感応度を開示することも検討するべきだろう。
感応度 : 為替レート等の変動に対して売上高や利益がどの程度影響を受けるかを示すもの。
2つのコードを受けて、目標数値自体も変化することになりそうだ。現状では売上や営業利益の目標数値を挙げるのが一般的だが、コーポレートガバナンス・コード原則1-3が「資本政策の動向が株主の利益に重要な影響を与え得ることを踏まえ、資本政策の基本的な方針について説明を行うべきである」として、企業に資本政策の説明を求めていることもあり、自己資本利益率(ROE)に代表される投下資本の収益性を表す指標を掲げるケースが増えることが予想される。
これまでの中計に対して、投資家からは「P/L偏重」との指摘がある一方、一部の企業が実践しているキャッシュフロー重視の経営計画を評価する声も聞かれる。B/S、P/L、キャッシュフロー計算書は連動しているため(*1)、ROEのようにB/S、P/Lにまたがる(*2)目標数値を示せば、投資家はキャッシュフローについてもおおよその検討をつけることができる(逆にキャッシュフローの予測を用いてROEを予測することも可能)が、P/Lの数値だけではそうはいかない。
*1 P/Lで算定した当期純利益は、B/Sの純資産に含まれる。また、キャッシュフロー計算書は、P/Lの当期純利益をベースにして、これに減価償却費や引当金繰入額のような非現金支出費用を加算するなどにより、B/Sの現預金の増減内容を示す。
*2 ROEの分母の自己資本はB/Sの数字、分子の当期純利益はP/Lの数字である。
具体的な指標は事業特性や企業の成長ステージによって異なるが、中計が対象とする期間中の企業活動を投資家がイメージできるような目標数値(例えば、製造数量、店舗数、成約率、従業員数、登録会員数、ダウンロード数、広告出稿数、クレーム数、返品数など)の設定を検討する必要がある。中計をはじめとする経営計画は投資家との対話のツールであり、短期志向に陥りがちな対話をより中長期にシフトさせることができれば、中計を作成する第一目標は達成したと言えよう。