<解説>
2013年1月に施行された「改正労働契約法」の内容
有期労働契約は、パート労働、派遣労働をはじめ、いわゆる正社員以外の労働形態に多くみられる労働契約です。有期労働契約で働く人は全国で1200万人以上おり、そのうちの約3割が、通算5年を超えて有期労働契約を反復更新していると言われています。リーマンショック以降は、経営の悪化から雇止めをする企業が増え、雇止めを不服とする労働者と企業の間で労働紛争が急増しました。
雇止め : 有期労働契約の期間満了時に更新せず、契約を終了させること。
そこで政府は「安心して働き続けることができる社会」の実現を目指して労働契約法を改正し(2012年8月10日公布)、次の3つのルールを設けました。
| (1)無期労働契約への転換 |
有期労働契約の期間が同一の使用者との間で反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換される。 |
| (2)「雇止め法理」の法定化 |
「雇止め法理」とは、労働者保護の観点から雇止めを無効とする最高裁判例で確立したルールであり、具体的には、①過去に反復更新されてきた有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と実質的に同視できる、②労働者が、有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある――のいずれかの場合において、使用者が雇止めをすることが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、雇止めを認めないというもの(①は最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決(東芝柳町工場事件)、②は最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決(日立メディコ事件)に基づいている)。この場合、有期労働契約は、従前と同一の労働条件で更新されることになる。
労働契約法の改正では、最高裁判例で確立した「雇止め法理」を、そのままの内容で法律に規定した。 |
| (3)不合理な労働条件の禁止 |
有期労働契約者と無期労働契約者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止 |
上記のルールのうち、(2)は2012年8月10日に改正労働契約法の公布と同時に施行され、(1)と(3)は2013年4月1日に施行されています。
無期労働契約への転換時期は?「3年契約」に要注意
上述のとおり、同一の使用者との間で有期労働契約が通算で「5年」を超えて反復更新された場合は、労働者の申込みにより、有期労働契約は無期労働契約に転換します(労働契約法第18条)。通算契約期間のカウントの対象になるのは、2013年4月1日以後に開始する有期労働契約からとなります。契約期間が「1年」の場合と「3年」の場合それぞれの通算契約期間のカウント方法は以下のとおりです。
【契約期間が1年の場合】
例えば2013年4月1日付で1年の有期労働契約を締結し、以後1年毎に同契約を更新し続けた場合、労働者は「6年目」すなわち2018年4月1日に開始する更新契約期間の初日から期間末日までの間に、無期転換の申し込みをすることができます。
労働者が無期転換の申し込みをすると、使用者が当該申込みを承諾したものとみなされ、その時点で無期労働契約が成立します。ただし、無期契約に転換されるのは、申込み時に存在していた有期労働契約が終了する日の翌日、すなわち2019年4月1日からとなります。
図1 契約期間が1年の場合の無期限労働契約への転換時期

(厚生労働省「労働契約法改正のポイント」を参考)
【契約期間が3年の場合】
では、労働基準法第14条第1項で認められている通常の契約期間の上限である「3年」毎の有期労働契約の場合はどうでしょうか。
2013年4月1日付で3年の有期労働契約を締結した場合、2016年4月が最初の更新期となり、ここで再び3年の有期契約を結ぶと通算で5年を超えることが確定するので、労働者は当該更新直後の2016年4月1日から無期転換の申し込みができることになります。
図2 契約期間が3年の場合の無期限労働契約への転換時期

(厚生労働省「労働契約法改正のポイント」を参考)
「クーリング」の活用で、有期労働契約の再契約も
ただし、1年契約であろうが3年契約であろうが、有期労働契約とその次の有期労働契約の間に「契約のない空白期間」が6か月以上ある場合には、その空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含めないことになっています。これを「クーリング」といいます。また、通算対象の契約期間が「1年未満」の場合は、その1/2以上の空白期間があれば、それ以前の有期労働契約は通算契約期間に含めないこととされています。
クーリング : 「冷却(cooling)期間」というニュアンスで使われている。
一方、無期労働契約への転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期契約への「転換申込権」を放棄させることはできないので要注意です。
有期労働契約から無期労働契約に転換された労働契約の職務・勤務地・賃金・労働時間などの労働条件は、別段の定め(労働協約・就業規則・個々の労働契約)がない限り、「直前の有期労働契約」と同一となります。逆に言うと、別段の定めをすることによって、労働条件を変更することは可能です。
企業の選択肢は?
以上を踏まえると、労働契約法の5年ルールへの企業の対応としては、次のような5つのパターンが考えられます。
①無期労働契約への移行を容認し、正社員化を推進する(処遇は正社員と同様とする)。
② 〃 正社員と非正規社員の中間の処遇制度を新設する。
③ 〃 処遇は転換前と同様とする(処遇の変更なし)。
④通算契約期間にクーリングを設けることで、同じ者と有期労働契約を再契約する。
⑤有期労働契約者数を減らしていく(更新の厳格化・抑制を含む)。
経営的に見れば、有期労働契約の無期契約化は固定費の増加につながるため、容易に決断できることではありません。一方で、労働力不足の時代が到来したといわれる昨今、人材の確保は企業の存続・成長のために不可欠です。5年ルールへの対応は“2018年問題”といった一時的なものではなく、長期的な労働力の確保という視点から考える必要があります。たとえ固定費の増加につながったとしても、企業の成長に必要な良質な労働力を確保できるのであれば、正社員化を推進するという選択肢も十分あり得ます。5年ルールへの対応を単なるコストの問題と捉えるべきではありません。
また、目線を変えれば、有期労働契約者の側にも家庭や年齢など様々な事情があります。「ブラック企業」といったネガティブな評価を受けないようにするためにも、働く側のニーズを汲みとって、企業と有期労働契約者の間でwin-winの関係を築くことが重要です。
さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役B:「いやいや、有期契約は必ずしも1年契約とは限らないのでは? また、今後2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて労働者不足がいっそう深刻になると言われていますし、早めに方針を決定して公表するなど先手を打っておけば、現在の有期嘱託社員の引き止めにもなるし、新たな労働力確保にもつながると思います。」
(コメント:有期労働契約が1年契約とは限らないことに着目している点、自社の有期労働契約の実態について理解していることがうかがえます。また、労働市場の先行きを、社外に目を向け広い視点から捉えている点や、労働力の確保という経営上の重要課題にも目配りができている点もGOODです。)
取締役A:「有期の嘱託社員は1年毎の契約更新なので、無期契約への転換が問題になるのは2018年4月のはずです。それまで猶予があるのだから、今慌てて方針を決定しなくてもよいのではないでしょうか。それに、人事担当取締役が言うように、無期労働契約はあくまで労働者の申込みがあって成立するものであり、通算期間が5年を超えただけで自動的に成立するものではありません。会社が前もって方針を決めておく必要はないと思います。」
(コメント:3年の有期労働契約を締結している場合には、2016年4月から無期契約への転換の申し込みが生じ得るため、会社としての対応を決める必要があります。労働契約法の改正内容についてはある程度知識があるようですが、自社の実態を正確に把握できておらず、思い込みによって誤った判断をしてしまっているBAD発言です。)
取締役C:「当社の対応としては、無期の正社員と同一条件での雇用に切り換えるか、通算5年を超えないように契約を終了させるしかないですね。前者はコストアップ要因になるし、後者は雇止めの問題がありそうです。」
(コメント:具体的な対応策とその課題分析に意識が向いている点はGOODですが、労働契約法は、無期労働契約への転換に際して必ずしも正社員との同一処遇を求めておらず、また、対応策も二者択一ではなくバラエティがありますので、決めうちは早計です。)