2016/03/03 (新用語・難解用語)スチュワードシップ・ディスクロージャー・フレームワーク(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードは“車の両輪”と言われるが、企業がコーポレートガバナンス・コードの遵守状況をコーポレートガバナンス報告書に記載することを求められるのに対し、運用会社側はスチュワードシップ・コードの受入れを表明するだけで、具体的なスチュワードシップ活動については簡単な受入表明文しか開示していないケースが多い。運用会社のエンゲージメント(対話)相手の企業としては、運用会社の活動方針が分らなければその対応方法も見えにくいだけに、不満もあろう。

日本が両コードの導入に際し手本とした英国に目を向けると、運用会社の活動には大きな差があり、実体を伴ったエンゲージメントを行っていないところも多いと言われている。これは、運用会社を選択する基準の中にスチュワードシップ活動への評価を入れているアセットオーナーにとっては大問題である。そこで、運用会社のスチュワードシップ活動や活動方針の透明性を高めるため、これらを項目別にランク付けし、比較可能性の高い形で示したのが2013年10月に全英年金基金連合会(NAPF=National Association of Pension Funds)が公表した「スチュワードシップ・ディスクロージャー・フレームワーク」だ。

アセットオーナー : 年金基金をはじめとする、資産(アセット)を保有する者のこと。

スチュワードシップ・ディスクロージャー・フレームワークは運用会社に対し、スチュワードシップ・コードの7つの原則を具体的な活動内容に分けたうえでランク付けし、どのレベルの活動を行っているかを開示するよう求めている。これによって、アセットオーナーや企業は運用会社ごとに活動内容を一覧できるだけでなく、運用会社によるアプローチの違いを一目で理解できるようになった。そもそも英国の主要運用会社が公表しているスチュワードシップ・コードの受入方針文の内容は詳細であり、それを読むだけで運用哲学からエンゲージメントの考え方まで理解できる会社も多いが、各運用会社がそれぞれ独自のフォーマットでアピールポイントを打ち出した受入方針文よりも、スチュワードシップ・ディスクロージャー・フレームワークの方が必要事項が整理されており、運用会社ごとの差が分かりやすいというメリットがある。

同フレームワークはFRC(イギリスの財務報告評議会(Financial Reporting Council=FRC)。日本の企業会計基準委員会に相当)のウェブサイトからリンクが張られており、それなりに公式な基準となっているが、その活用はあくまで任意。英国では、スチュワードシップ・コードを受入れている運用会会社の約3分の1が同フレームワークに沿った自己評価を公表している。評価の段階はそれぞれの項目でAからDまであり、NAPFはAをベストプラクティスとしているが、運用会社の中には堂々とCやDという評価を付けているところもある。これは、その運用会社が「パフォーマンスを上げるためにはAの行動ではなくCやDの行動の方が優れている」と考えているからだ。このように、どういう行動をとるかは運用会社の考え方によって異なる。例えば、経営者との対話を重視する運用会社では、株主総会で意見表明し、議決権行使によって反対票を投じるよりも、同意できない理由を経営者明確に伝え話し合いを行うことで出来るだけ反対をしないという方針をとることもある。また、エンゲージメントの状況を運用会社のウェブサイトなどで開示することは透明性の面で評価は高いが、エンゲージメントの進捗を妨げる場合にはあえて「開示しない」、または「自社の顧客にのみに開示する」ことを選択する選択する場合もある。

同フレームワークの活動は任意であるにもかかわらずこれを用いた開示を行っている運用会社は、基本的には自らの活動内容に自信のある会社だと言える。英国では、実体の伴ったスチュワードシップ活動をしている運用会社とそうでないところを分類しようとする動きがあるが、その際には、同フレームワークを活用して開示を行っているかどうかが評価ポイントの1つとなるだろう。

日本はスチュワードシップ・コードが制定されてからまだ時間が経っておらず、その活動自体の評価は時期尚早と言える。しかしながら、上述のとおり、エンゲージに臨む企業としては、運用会社の活動方針が分らなければ対応方法も見えて来ない。各運用会社が開示している活動方針の内容を分析したコーポレートガバナンスの専門家からは、「運用哲学とスチュワードシップ活動の関連性が明確でなく、活動方針自体の説明が具体的でない」「利益相反の開示が不十分」などの声も聞こえて来る(2015年4月6日「企業に選別される機関投資家」参照)。

企業はエンゲージメントに臨む際に、運用会社に対し、活動方針や活動内容の開示を求めてもよいだろう。

2016/03/02 パフォーマンス・シェアの性格を持つ株式報酬も損金算入される方向

欧米企業では一般的となっている株式報酬が日本で普及してこなかった理由の1つとして、会社法と税法の問題があったことは2015年12月2日のニュース「日本で株式報酬を支給できない理由」でお伝えしたとおりだ。

そこで経済産業省は、金銭報酬債権の現物出資を活用した株式報酬、すなわち、(1)会社が役員に金銭報酬債権を付与、(2)役員が当該金銭報酬債権を「現物出資財産」として会社に払い込み、その対価として会社が役員に株式を発行する――というスキームを考案し、これが会社法上の問題点をクリアすることを法務省との間で確認。さらに税制についても、①役員に対しては、「株式の譲渡制限が解除された時」において、「株式の譲渡制限が解除された時点における株式の時価」に対して給与課税、②会社に対しては、「株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度」において、「役員に株式を交付した時点における時価」相当額が損金算入――とすることで財務省と合意していた(2015年12月11日のニュース「ついに日本でも株式報酬の支給が可能に!」参照)。

もっとも、上述した株式報酬の課税関係は、あくまで・・・

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2016/03/02 パフォーマンス・シェアの性格を持つ株式報酬も損金算入される方向(会員限定)

欧米企業では一般的となっている株式報酬が日本で普及してこなかった理由の1つとして、会社法と税法の問題があったことは2015年12月2日のニュース「日本で株式報酬を支給できない理由」でお伝えしたとおりだ。

そこで経済産業省は、金銭報酬債権の現物出資を活用した株式報酬、すなわち、(1)会社が役員に金銭報酬債権を付与、(2)役員が当該金銭報酬債権を「現物出資財産」として会社に払い込み、その対価として会社が役員に株式を発行する――というスキームを考案し、これが会社法上の問題点をクリアすることを法務省との間で確認。さらに税制についても、①役員に対しては、「株式の譲渡制限が解除された時」において、「株式の譲渡制限が解除された時点における株式の時価」に対して給与課税、②会社に対しては、「株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度」において、「役員に株式を交付した時点における時価」相当額が損金算入――とすることで財務省と合意していた(2015年12月11日のニュース「ついに日本でも株式報酬の支給が可能に!」参照)。

もっとも、上述した株式報酬の課税関係は、あくまでリストリクテッド・ストックを前提にした話であり、同じ株式報酬でもパフォーマンス・シェアは対象外となる。これは、財務省は、リストリクテッド・ストックを損金算入する理屈として、リストリクテッド・ストックを「事前確定届出給与」と位置付けているため。「中長期的な業績目標の達成度合い」に応じて付与する株式数が変動するパフォーマンス・シェアは、「“事前確定”届出給与」には該当しえないというわけだ(2015年12月22日のニュース「パフォーマンス・シェア、日本では普及しない恐れ」参照)。

リストリクテッド・ストック : Restricted Stock=一定期間の譲渡制限が付された株式報酬
パフォーマンス・シェア : Performance Share=中長期的な“業績目標の達成度合い”に応じて交付される株式報酬
事前確定届出給与 : いつ、いくら(確定額)を支給する」旨を“事前に”確定した上で税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの

ただ、リストリクテッド・ストックを使っても、実質的にパフォーマンス・シェアと同様の効果を持つ役員報酬の設計は可能。欧米企業では、譲渡制限期間中における業績達成度合いなどの条件を課し、その条件が満たされない場合には付与した株式の一部が没収されるといった内容のリストリクテッド・ストックが多く見られる。例えば「株式付与から3年後の譲渡制限解除時において一定の業績を達成できていなかったら、付与した株式報酬の50%を没収する」といったものだ。そして、こうした将来に関する条件を含むリストリクテッド・ストックであっても、付与株式数自体が変動するわけではない(あくまで、「譲渡制限の解除ができなくなる」という位置付け)ため、当該条件が株式付与時に“確定”している限り、税務上も「事前確定届出給与」として取り扱われる方向であることが当フォーラムの取材で確認されている。

このような税務上の損金算入の要件が明確化は、パフォーマンス・シェアの性格を持ったリストリクテッド・ストックの普及を後押しすることになりそうだ。

2016/03/01 望ましいROEの水準は「業種別」に設定するべきか?

議決権行使助言最大手のISSが「過去5期平均もしくは直前期にROE(自己資本利益率)が5%未満の場合、経営トップ(会長や社長)の選任議案に反対推奨する」という助言方針を示しているのは周知のとおりだが、この方針に対して、企業からは「業種を問わず一律5%とするのはおかしい」といった声がよく聞かれる。

確かに、機関投資家サイドでは、大和証券投資信託委託が33業種それぞれにROEの目標値を設定した上で、議決権行使の判断に活用しているといった例が存在するが、企業側の論理として、「業種によって望ましいROEは異なるはず」という主張は正しいのだろうか。・・・

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2016/03/01 望ましいROEの水準は「業種別」に設定するべきか?(会員限定)

議決権行使助言最大手のISSが「過去5期平均もしくは直前期にROE(自己資本利益率)が5%未満の場合、経営トップ(会長や社長)の選任議案に反対推奨する」という助言方針を示しているのは周知のとおりだが、この方針に対して、企業からは「業種を問わず一律5%とするのはおかしい」といった声がよく聞かれる。

確かに、機関投資家サイドでは、大和証券投資信託委託が33業種それぞれにROEの目標値を設定した上で、議決権行使の判断に活用しているといった例が存在するが、企業側の論理として、「業種によって望ましいROEは異なるはず」という主張は正しいのだろうか。

「業種によって」とは「事業特性によって」と同じ意味と考えてよいだろう。さらに噛み砕けば、「事業資産を活用した事業利益の獲得プロセスの違いによって」と言い換えることもできる。したがって、少なくとも資産効率、すなわち「企業が投資した資金に対してどれだけ効率的に利益を上げているか」を表す指標であるROIC(Return On Invested Capital=投下資産利益率)は業種によって異なるという理屈は成立するはずだ。以下でもう少し詳しく説明しよう。

企業が事業を手掛ける目的は、特有の事業資産を投下して利益を獲得することにある。業種によって、特殊な事業資産を使った付加価値の高い製品で利鞘を稼ぐ(精密機器メーカーなど)企業もあれば、汎用的な事業資産を高回転させることで売上拡大を目指す(大規模リテールなど)企業もあるが、このようなビジネスモデルの違いはあるにせよ、最終的にはROICの高低が事業の評価に結びつくという点は共通している。

ここで重要なのは、いかに低ROICであっても手掛ける価値のある事業は存在するということである。事業資産の投資金額と比べて単年度の収益が少なくても、長期的・継続的に安定したキャッシュフローが保証されるなら、事業として成立する可能性がある(例えば規制業種など)。一方で、高ROIC事業の典型として技術革新に伴う新しいビジネス(例えばIT系など)が挙げられるが、未成熟な市場は需給が安定せず、収益が大きくブレかねない。業種に応じたリスクの大小によって、最適なROICの水準が異なることは許容されよう。

もっとも、経営者は「業種別のROIC」のみ意識して企業を経営すればよいかというとそうではない。高ROICであっても単年度で収益がブレる可能性が高ければ、突発的な資金ショートでデフォルト(債務不履行)に陥るリスクは否定できない。このリスクを回避するためには、いざという時の手元流動性が豊富に必要ということになる。一方で、低ROIC企業でもデフォルトリスクが低ければ、「いざという時のために」と現金を溜め込むのは無駄と言わざるを得ない。

「危険な経営」も「無駄な経営」も、企業を率いる経営者としてはNGである。高ROIC企業の経営者は、デフォルトリスクを回避するために自己資本を調達して手元現金を蓄えておく必要があるし、逆に低ROIC企業の経営者は無駄を排除するため、他人資本(借入など)によって流動性を確保しておけば十分だろう。すなわち、経営者には、事業特有のリスクに応じた財務戦略が求められるということだ。

このような財務戦略を実行するとROEはどうなるだろうか。ROEは「当期純利益÷自己資本」により計算されるため、高ROIC企業が自己資本を充実させれば(分母が大きくなって)ROEを押し下げることになり、低ROIC企業が他人資本を増やし自己資本を薄く(例えば自社株買い)すればROEは上がることになる。

このように、ROICの高低は業種によって傾向はあっても、財務戦略まで考えると、ROEについては、業種による最適値を決めるのは難しい。業種ではなく、あくまで「企業」として目指すべき水準が存在するのみと考えるべきだろう。その水準がISSの求める5%か、伊藤レポートが主張する8%かは議論のあるところだが、少なくとも企業としてある一定水準のROEを目指すことは、コーポレートファイナンスの観点からも肯定されることになる。

2016/02/29 2016年2月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
 東京証券取引所は2月24日に、企業価値向上表彰の上位企業49社の個別企業名や売上高利益率(ROS)、総資産回転率、財務レバレッジ等を初めて公表しました。一橋大学大学院商学研究科の円谷准教授の分析によると、49社の財務レバレッジは平均で1.77であり、全上場企業の平均の2.02よりも逆に低い値となっていることがわかりました。これは企業価値向上表彰の上位企業は自己資本が厚く、財務レバレッジを高めることで高ROEを達成しているとは言えないということを意味しています。以上より、問題文は誤りです。

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2016/02/29 東証が企業価値向上表彰上位企業名を“初”公表、高ROSがROEに反映(会員限定)

2016/02/29 2016年1月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
 東京証券取引所は2月24日に、企業価値向上表彰の上位企業49社の個別企業名や売上高利益率(ROS)、総資産回転率、財務レバレッジ等を初めて公表しました。一橋大学大学院商学研究科の円谷准教授の分析によると、49社の財務レバレッジは平均で1.77であり、全上場企業の平均の2.02よりも逆に低い値となっていることがわかりました。これは企業価値向上表彰の上位企業は自己資本が厚く、財務レバレッジを高めることで高ROEを達成しているとは言えないということを意味しています。以上より、問題文は誤りです。

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2016/02/29 東証が企業価値向上表彰上位企業名を“初”公表、高ROSがROEに反映(会員限定)

2016/02/29 2016年2月度チェックテスト第9問解答画面(不正解)

不正解です。
 ROEは当期純利益を自己資本で除して算定します。保有上場株式(政策保有株式)の含み益が増加すれば、分母の自己資本は増えますが、分子の当期純利益には政策保有株式の含み益の増加は反映されません。そのため、含み益が増えれば増えるほどROEは低下してしまいます(以上より、問題文は正しいです)。含み益が増えれば増えるほどROEは上昇すると考えてしまいがちなので、注意が必要です。

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2016/02/23 他社株の含み益アップでROEが“下がる”ことの経営的な意味(会員限定)

2016/02/29 2016年1月度チェックテスト第9問解答画面(正解)

正解です。
 ROEは当期純利益を自己資本で除して算定します。保有上場株式(政策保有株式)の含み益が増加すれば、分母の自己資本は増えますが、分子の当期純利益には政策保有株式の含み益の増加は反映されません。そのため、含み益が増えれば増えるほどROEは低下してしまいます(以上より、問題文は正しいです)。含み益が増えれば増えるほどROEは上昇すると考えてしまいがちなので、注意が必要です。

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2016/02/23 他社株の含み益アップでROEが“下がる”ことの経営的な意味(会員限定)

2016/02/29 2016年2月度チェックテスト第8問解答画面(不正解)

不正解です。
 デット・ガバナンスとは“債権者によるコーポレートガバナンス”のことです。高度経済成長期、日本におけるコーポレートガバナンスの担い手として大きな役割を担っていたのはメインバンクに代表される債権者でした。債権者は経営の規律が不十分な企業に対して資金供給を絞ることでガバナンスの担い手としての役割を果たしていたのです。それから数十年が経ち、いまでは日銀が銀行にマイナス金利を課す時代になりました。貸付金の長期金利はますます下落する見込みです。銀行が企業に対して「頼むから借りてくれ」と言わざるを得ないとしたら、デット・ガバナンスによる規律付けに多くは期待できないでしょう。以上より、問題文は正しいです。

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2016/02/17 マイナス金利とコーポレートガバナンス改革(会員限定)