コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードは“車の両輪”と言われるが、企業がコーポレートガバナンス・コードの遵守状況をコーポレートガバナンス報告書に記載することを求められるのに対し、運用会社側はスチュワードシップ・コードの受入れを表明するだけで、具体的なスチュワードシップ活動については簡単な受入表明文しか開示していないケースが多い。運用会社のエンゲージメント(対話)相手の企業としては、運用会社の活動方針が分らなければその対応方法も見えにくいだけに、不満もあろう。
日本が両コードの導入に際し手本とした英国に目を向けると、運用会社の活動には大きな差があり、実体を伴ったエンゲージメントを行っていないところも多いと言われている。これは、運用会社を選択する基準の中にスチュワードシップ活動への評価を入れているアセットオーナーにとっては大問題である。そこで、運用会社のスチュワードシップ活動や活動方針の透明性を高めるため、これらを項目別にランク付けし、比較可能性の高い形で示したのが2013年10月に全英年金基金連合会(NAPF=National Association of Pension Funds)が公表した「スチュワードシップ・ディスクロージャー・フレームワーク」だ。
アセットオーナー : 年金基金をはじめとする、資産(アセット)を保有する者のこと。
スチュワードシップ・ディスクロージャー・フレームワークは運用会社に対し、スチュワードシップ・コードの7つの原則を具体的な活動内容に分けたうえでランク付けし、どのレベルの活動を行っているかを開示するよう求めている。これによって、アセットオーナーや企業は運用会社ごとに活動内容を一覧できるだけでなく、運用会社によるアプローチの違いを一目で理解できるようになった。そもそも英国の主要運用会社が公表しているスチュワードシップ・コードの受入方針文の内容は詳細であり、それを読むだけで運用哲学からエンゲージメントの考え方まで理解できる会社も多いが、各運用会社がそれぞれ独自のフォーマットでアピールポイントを打ち出した受入方針文よりも、スチュワードシップ・ディスクロージャー・フレームワークの方が必要事項が整理されており、運用会社ごとの差が分かりやすいというメリットがある。
同フレームワークはFRC(イギリスの財務報告評議会(Financial Reporting Council=FRC)。日本の企業会計基準委員会に相当)のウェブサイトからリンクが張られており、それなりに公式な基準となっているが、その活用はあくまで任意。英国では、スチュワードシップ・コードを受入れている運用会会社の約3分の1が同フレームワークに沿った自己評価を公表している。評価の段階はそれぞれの項目でAからDまであり、NAPFはAをベストプラクティスとしているが、運用会社の中には堂々とCやDという評価を付けているところもある。これは、その運用会社が「パフォーマンスを上げるためにはAの行動ではなくCやDの行動の方が優れている」と考えているからだ。このように、どういう行動をとるかは運用会社の考え方によって異なる。例えば、経営者との対話を重視する運用会社では、株主総会で意見表明し、議決権行使によって反対票を投じるよりも、同意できない理由を経営者明確に伝え話し合いを行うことで出来るだけ反対をしないという方針をとることもある。また、エンゲージメントの状況を運用会社のウェブサイトなどで開示することは透明性の面で評価は高いが、エンゲージメントの進捗を妨げる場合にはあえて「開示しない」、または「自社の顧客にのみに開示する」ことを選択する選択する場合もある。
同フレームワークの活動は任意であるにもかかわらずこれを用いた開示を行っている運用会社は、基本的には自らの活動内容に自信のある会社だと言える。英国では、実体の伴ったスチュワードシップ活動をしている運用会社とそうでないところを分類しようとする動きがあるが、その際には、同フレームワークを活用して開示を行っているかどうかが評価ポイントの1つとなるだろう。
日本はスチュワードシップ・コードが制定されてからまだ時間が経っておらず、その活動自体の評価は時期尚早と言える。しかしながら、上述のとおり、エンゲージに臨む企業としては、運用会社の活動方針が分らなければ対応方法も見えて来ない。各運用会社が開示している活動方針の内容を分析したコーポレートガバナンスの専門家からは、「運用哲学とスチュワードシップ活動の関連性が明確でなく、活動方針自体の説明が具体的でない」「利益相反の開示が不十分」などの声も聞こえて来る(2015年4月6日「企業に選別される機関投資家」参照)。
企業はエンゲージメントに臨む際に、運用会社に対し、活動方針や活動内容の開示を求めてもよいだろう。
