既報のとおり、経済産業省は2024年9月17日に「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」を立ち上げ、コーポレートガバナンスの在り方や会社法の改正について検討してきたが(2024年10月23日のニュース『社外取締役が過半数を占める会社では指名権限が「取締役会」に帰属へ』参照)、昨年(2024年)12月9日に開催された第4回会合で、「会社法の改正に関する報告書(案)」を公表している。同報告書の確定版は今後の会社法改正に関する議論の重要な土台になるものと考えられる。
同報告書案は42ページに及ぶものとなっているが、会合に提出された事務局説明資料が各論点についてコンパクトにまとめている(46ページ参照)。当フォーラムでは下表のとおり、各論点を「早期に見直し(短期)」「引き続き検討(中期)」「更なる検討(長期)」に分けて整理した。
| 見直しの時期 | 企業経営改革関連 | エンゲージメント |
| 早期に見直し |
1 従業員や子会社役職員に対する株式の無償交付 2 自社株式を対価とする外国会社の買収 3 社債権者集会のバーチャル化による機動的な開催 4 経営者(取締役・執行役)による責任限定契約の締結 |
1 企業が実質株主の情報を取得可能とする 2 バーチャルオンリー株主総会を会社法制に位置付け 3 書面決議の要件緩和(非上場会社で総会決議を省略するための要件を緩和する) |
| 引き続き検討 | 5 指名委員会等設置会社の指名(・報酬)の最終決定権限を取締役会に帰属させる(過半数を社外取締役が占める場合) | 4 会社法上の開示(事業報告等)と金商法上の開示(有報)の重複解消 |
| 更なる検討 | 6 現行法上の3つの機関設計制度(監査役会設置会社、監査委員会等設置会社、指名委員会等設置会社)が適切な選択肢を提供しているか、特にモニタリングモデルを志向する企業にふさわしい機関設計の在り方について検討 |
5 株主総会の効率化・合理化に向けた制度の在り方(当日における審議の重要性が低いと考えられる場合) 6 取締役会によるモニタリング機能が十分に果たされている企業について、株主提案権の要件を限定 |
実質株主 : 議決権行使を指図しているが株主名簿には記載されない者
バーチャルオンリー株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。
企業経営改革関連の各論点は、企業が価値創造ストーリーを実行するための選択肢を拡大することを狙いとしている。「早期に見直し」の4つの論点、①取締役と執行役に認められている株式の無償交付を従業員などに対象を拡大する、②国内企業の子会社化に利用できる株式交付を外国企業の子会社化にも可能とする、③迅速かつ機動的な社債権者集会の開催を可能とすることで社債の活用を促進する、④適切なリスクテイクを促すため業務執行取締役や執行役に責任限定契約を解禁する、については法改正がほぼ見えていると言えよう。
一方、「引き続き検討」の⑤指名委員会等設置会社における指名・報酬の決定権限見直しについては法改正の実現可能性が高いと見られていたが、議論が後退した形となっている。対象となる指名委員会等設置会社の社数が少ないこと、指名委員会等設置会社に誘導するような議論になりかねないこと、などが懸念された模様だ。今後は「更なる検討」の⑥3つの機関設計制度の再検討と併せて議論が深められることになろう。
「エンゲージメント」の各論点は、株主や投資家との対話が実質化・効率化することを狙ったもの。「早期に見直し」の3つの論点は、①企業から実質株主に対する保有状況の質問について回答を義務付ける(違反時は議決権を停止)、②経済産業大臣および法務大臣の確認なしでバーチャルオンリー株主総会の開催を可能とする、③非上場会社の株主総会における書面決議の利用要件を緩和する(全員→9割の同意など)、となっている。「引き続き検討」としては④事業報告と有報の一体開示が挙げられているが、今後、株主総会開催日の後ろ倒しに関する議論と併せて検討されるものと見られる。
「更なる検討」の論点としては、⑤実質的に意思決定の場となっていない株主総会の実態を踏まえた規律の見直し(決議手続の省略など)に加え、⑥株主提案権に関する一部要件の廃止が取り沙汰されている。会社法は「総議決権の1%以上または議決権300個以上を6か月以上保有する株主」に株主提案権を認めているが、株価が低位の場合、「議決権300個以上」は著しく低いハードルとなる。そのため、「取締役会によるモニタリング機能が十分に果たされて」いる場合には、「議決権300個以上」との要件を廃止することが検討されている。濫用的な株主提案の防止につながる措置として実現が期待されるところだ。
