2025/01/09 指名委員会等設置会社における指名・報酬の決定権限の見直し議論が後退(会員限定)

既報のとおり、経済産業省は2024年9月17日に「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」を立ち上げ、コーポレートガバナンスの在り方や会社法の改正について検討してきたが(2024年10月23日のニュース『社外取締役が過半数を占める会社では指名権限が「取締役会」に帰属へ』参照)、昨年(2024年)12月9日に開催された第4回会合で、「会社法の改正に関する報告書(案)」を公表している。同報告書の確定版は今後の会社法改正に関する議論の重要な土台になるものと考えられる。

同報告書案は42ページに及ぶものとなっているが、会合に提出された事務局説明資料が各論点についてコンパクトにまとめている(46ページ参照)。当フォーラムでは下表のとおり、各論点を「早期に見直し(短期)」「引き続き検討(中期)」「更なる検討(長期)」に分けて整理した。

見直しの時期 企業経営改革関連 エンゲージメント
早期に見直し 1 従業員や子会社役職員に対する株式の無償交付
2 自社株式を対価とする外国会社の買収
3 社債権者集会のバーチャル化による機動的な開催
4 経営者(取締役・執行役)による責任限定契約の締結
1 企業が実質株主の情報を取得可能とする
2 バーチャルオンリー株主総会を会社法制に位置付け
3 書面決議の要件緩和(非上場会社で総会決議を省略するための要件を緩和する)
引き続き検討 5 指名委員会等設置会社の指名(・報酬)の最終決定権限を取締役会に帰属させる(過半数を社外取締役が占める場合) 4 会社法上の開示(事業報告等)と金商法上の開示(有報)の重複解消
更なる検討 6 現行法上の3つの機関設計制度(監査役会設置会社、監査委員会等設置会社、指名委員会等設置会社)が適切な選択肢を提供しているか、特にモニタリングモデルを志向する企業にふさわしい機関設計の在り方について検討 5 株主総会の効率化・合理化に向けた制度の在り方(当日における審議の重要性が低いと考えられる場合)
6 取締役会によるモニタリング機能が十分に果たされている企業について、株主提案権の要件を限定


実質株主 : 議決権行使を指図しているが株主名簿には記載されない者
バーチャルオンリー株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。

企業経営改革関連の各論点は、企業が価値創造ストーリーを実行するための選択肢を拡大することを狙いとしている。「早期に見直し」の4つの論点、①取締役と執行役に認められている株式の無償交付を従業員などに対象を拡大する、②国内企業の子会社化に利用できる株式交付を外国企業の子会社化にも可能とする、③迅速かつ機動的な社債権者集会の開催を可能とすることで社債の活用を促進する、④適切なリスクテイクを促すため業務執行取締役や執行役に責任限定契約を解禁する、については法改正がほぼ見えていると言えよう。

一方、「引き続き検討」の⑤指名委員会等設置会社における指名・報酬の決定権限見直しについては法改正の実現可能性が高いと見られていたが、議論が後退した形となっている。対象となる指名委員会等設置会社の社数が少ないこと、指名委員会等設置会社に誘導するような議論になりかねないこと、などが懸念された模様だ。今後は「更なる検討」の⑥3つの機関設計制度の再検討と併せて議論が深められることになろう。

「エンゲージメント」の各論点は、株主や投資家との対話が実質化・効率化することを狙ったもの。「早期に見直し」の3つの論点は、①企業から実質株主に対する保有状況の質問について回答を義務付ける(違反時は議決権を停止)、②経済産業大臣および法務大臣の確認なしでバーチャルオンリー株主総会の開催を可能とする、③非上場会社の株主総会における書面決議の利用要件を緩和する(全員→9割の同意など)、となっている。「引き続き検討」としては④事業報告と有報の一体開示が挙げられているが、今後、株主総会開催日の後ろ倒しに関する議論と併せて検討されるものと見られる。

「更なる検討」の論点としては、⑤実質的に意思決定の場となっていない株主総会の実態を踏まえた規律の見直し(決議手続の省略など)に加え、⑥株主提案権に関する一部要件の廃止が取り沙汰されている。会社法は「総議決権の1%以上または議決権300個以上を6か月以上保有する株主」に株主提案権を認めているが、株価が低位の場合、「議決権300個以上」は著しく低いハードルとなる。そのため、「取締役会によるモニタリング機能が十分に果たされて」いる場合には、「議決権300個以上」との要件を廃止することが検討されている。濫用的な株主提案の防止につながる措置として実現が期待されるところだ。

2025/01/08 「いつ買収されてもおかしくない」時代が到来、取締役が平時に把握すべき自社の本源的価値

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

2024年は、全ての上場企業が、競争法や経済安全保障規制上の問題がなければ「いつ買収されてもおかしくない」時代の幕開けとなった。今後、上場企業の取締役は、「平時」から自社の本源的価値を把握しておく必要がある。しかしながら、現状では取締役が平時において買収に備えあらゆるシミュレーションや自社のバリュエーションを行っている事例はほとんどなく、有事、すなわち買収提案を受けた際に慌てるケースが目に付く。

では、自社の「本源的価値」はどのように評価すべきだろうか。・・・

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2025/01/08 「いつ買収されてもおかしくない」時代が到来、取締役が平時に把握すべき自社の本源的価値(会員限定)

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

2024年は、全ての上場企業が、競争法や経済安全保障規制上の問題がなければ「いつ買収されてもおかしくない」時代の幕開けとなった。今後、上場企業の取締役は、「平時」から自社の本源的価値を把握しておく必要がある。しかしながら、現状では取締役が平時において買収に備えあらゆるシミュレーションや自社のバリュエーションを行っている事例はほとんどなく、有事、すなわち買収提案を受けた際に慌てるケースが目に付く。

では、自社の「本源的価値」はどのように評価すべきだろうか。

1980年代に同意なき買収の嵐が吹き荒れた米国では、1990年にUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)ビジネススクールの副学長であったトム・コープランド教授らによる「Valuation: Measuring and Managing the Value of Companies(企業価値評価-バリュエーションの理論と実践)』が出版され、日本でもベストセラーになった。その初版の第1章では、「ゲームが変わる」「経営権市場の発展」「企業価値創造の必要性」とのテーマが取り上げられている。

「ゲームが変わる」では、「15年~20年前なら、経営者は企業価値を十分理解していなくても上手く経営することができ、意思決定のベースとしては大雑把な会計数値だけで十分だったが、今日の事業環境の下では、企業価値を十分に理解し、それを創造する能力が重要になっている」と指摘している。また、「経営権市場の発展」では、「1980年代には、企業の経営権やその資産に対する支配、さらにはそれから価値を創造する機会を売買する市場が活発になり、劇的なテイクオーバー(企業買収)が日常茶飯事となった。大衆紙、ビジネス誌にはそれらに関する論争が溢れたが、経営権市場は今後ともかなり高い水準で推移する」と予想している。さらに、「企業価値創造の必要性」では、「経営者には、製品・サービス市場と経営権市場という2つの市場で競争するための戦略が必要であり、後者(経営権市場)では、キャッシュフロー・ベースの利益に起因する価値を株主のために創造する必要がある」と説いている。いずれも、まるで今の日本企業やその経営者に向けて語られているようだ。

では、「いつ買収されてもおかしくない」時代において、取締役はどのように行動すべきだろか。

コープランド教授らは、「価値を十分に創造している企業は、乗っ取り屋から身を守るために買収防衛策を講じる必要はない」と前置きした上で、そうでない企業は「4つの価値」を把握する必要があると説く。第1に現在の事業計画による「現状維持価値」、第2にオペレーションを改善した事業計画による「内部的潜在価値」、第3に事業ポートフォリオを見直した事業計画による「外部的潜在価値」、第4にバランスシートを見直した事業計画による「最適リストラ価値」である。すなわち、将来の買収に備え、あらゆるシミュレーションの下で自社の価値を把握することが重要だというわけだ。その上で、これらの価値と株価との間にギャップがある場合には市場との見方を統合させるべきだと、コープランド教授らは主張する。

翻って、今の日本企業を見るとどうだろうか。

総じてオペレーションの改善やバランスシートの見直しは進んでいる。しかし、非事業用資産が異常に多く、運転資本のレベルが高く、財務レバレッジが低すぎる「キャッシュリッチ企業」はいまだに多い。これらの企業は、たとえROICが向上しなかったとしても、株主還元だけでROEが向上し、また、非事業用資産の売却だけでROICが向上する。また、EV/EBITDAマルチプルも低い傾向があるため、同意なき買収の候補となる。また、総じて事業ポートフォリオの見直しは進んでいない。別のオーナーの下でより価値が高まり、より速く成長できる可能性のある事業を有する企業は、たとえそれらの事業が現在のオーナーにとって利益をもたらすものであっても、別のオーナーとの潜在的なシナジーが大きいほど魅力的であるため、同意なき買収の買収候補となる。そして、たとえこれらの見直しを実行していても、市場との見方が異なり株価が低迷している企業はいまだに多い。こうした企業が同意なき買収の買収候補となることは論を待たない。


財務レバレッジ : 株主資本(自己資本)を1とした場合、その何倍の総資産を有しているかを示す数値。「総資産/株主資本」によって計算される。財務レバレッジ(=テコ)が大きい会社とは、借入金の大きい会社である。財務レバレッジが高ければ、株主資本よりも大きな取引を行うことができる。ただし、その反面、有利子負債が増加して、金利負担、返済負担が増加し、会社の収益性が下がったり、財務リスクを抱えたりする可能性がある。 (文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
ROE : ROE(Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。 (文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
EV/EBITDAマルチプル : EV(Enterprise Value=企業価値。株式時価総額+純有利子負債)をEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization=利息・税金・減価償却前利益。営業利益+減価償却費+利息費用+税金により算出する。現金支出を伴わない減価償却費の影響を排除し真のキャッシュフローを把握するとともに、利息や税金の影響を排除し純粋な営業活動の収益力を把握する)で割った倍率のこと。企業がキャッシュを生み出す力を基に企業価値を評価するための指標であり、M&A(企業の買収・合併)や企業価値評価の際に広く用いられている。EV/EBITDAが高いほど、企業の収益力が高いと評価される。 (文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

セブン&アイ・ホールディングスは2022年2月、米国のアクティビストであるバリューアクト・キャピタルから経営改善の提案を受けた。セブン&アイ・ホールディングスは2016 年に100 日プラン(中期経営計画)を発表したものの、6年間経過しても「ROIC はWACCを未だ下回っている」(価値を創造していない)ことから、価値を創造するためには、オペレーションの改善として、「日本国外におけるセブン-イレブンの事業運営の見直し」、事業ポートフォリオの見直しとして、「そごう西武の売却を完了し、イトーヨーカ堂を売却またはスピンオフにより切り離す計画を公表し、食品小売事業に特化する迅速なリストラクチャリングの実施」が必要であるとされた。当時、セブン&アイ・ホールディングスの取締役があらゆるシミュレーションを行い、自社の本源的価値を把握し、株価とのギャップを埋めるべく、市場との見方を統合させていたか否かは定かではないが、2024年8月、アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受け、11月にイトーヨーカ堂の売却を開始し、現在、事業運営を抜本的に見直すためMBOの検討しているのは周知のとおりだ。


WACC : 「Weighted Average Cost of Capital=加重平均資本コスト」の略であり、要するに「資本コスト」である。WACCは文字通り負債コスト(金利)と株主資本コスト(配当+キャピタルゲイン)を加重平均して算定される。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
スピンオフ : 企業や組織の一部を分離し、別個の独立した企業や組織とすること。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

同意なき買収は「最も有効なガバナンス」と言われているが(2024年12月12日のニュース「同意なき買収とその対抗策の考え方」参照)、1980年代の米国から学ぶべきことは、「有事」が起きてから動いても遅きに失すること、“合戦”に勝つには「平時」に機を逸しないことだ。40年前の米国から学ぶことは多い。

2025/01/07 【2025年1月の課題】今後予想される議決権行使助言会社のポリシーの改訂内容

2025年1月の課題

議決権行使助言会社のISSおよびグラスルイスの2025年版ポリシーが公表されました。
本年は社外取締役の在任期間など小幅な改訂にとどまりましたが、資本市場の議論や機関投資家の関心事を踏まえると未だ改訂余地は大きそうです。
今後どのような改訂が予想されるか、自社が取り組むべき対応と併せて検討してみてください。

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2024/12/26 2024年12月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
上場会社のMBOでは、当該MBOを実現するために作ったSPC(特別目的会社)が株式を買い集めますが、そのための資金は経営者だけでは用意できないのが通常であり、金融機関やファンドから資金を調達することになります。ローンによる資金調達をした場合、返済原資を確保する必要がありますが、MBOでは、対象となる会社とSPCを合併させ、合併により対象会社の資産やキャッシュフローを利用して借入金の返済を行うのが一般的です。

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2024年12月23日 セブン&アイの“究極の買収防衛策”、「進むも地獄、退くも地獄」に(会員限定)

2024/12/26 2024年12月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
上場会社のMBOでは、当該MBOを実現するために作ったSPC(特別目的会社)が株式を買い集めますが、そのための資金は経営者だけでは用意できないのが通常であり、金融機関やファンドから資金を調達することになります。ローンによる資金調達をした場合、返済原資を確保する必要がありますが、MBOでは、対象となる会社とSPCを合併させ、合併により対象会社の資産やキャッシュフローを利用して借入金の返済を行うのが一般的です。

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2024年12月23日 セブン&アイの“究極の買収防衛策”、「進むも地獄、退くも地獄」に(会員限定)

2024/12/26 2024年12月度チェックテスト第9問解答画面(不正解)

不正解です。
統合報告書等において社外取締役のメッセージなどを開示する企業は少なくありません。当該メッセージから機関投資家が知りたい情報は、個々の社外取締役が重要な経営の意思決定において、企業価値向上の観点からどのような貢献をしているのか、です。機関投資家からは、「会社を礼賛するメッセージからは社外取締役としての課題認識が見えない」(別のグローバル機関投資家)との指摘がなされています。社外取締役へ統合報告書用のメッセージ原稿を依頼する際にはこのような機関投資家の要請を伝えることを失念しないようにしましょう。

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2024年12月16日 社外取締役に関する情報開示への機関投資家の要望(会員限定)

2024/12/26 2024年12月度チェックテスト第9問解答画面(正解)

正解です。
統合報告書等において社外取締役のメッセージなどを開示する企業は少なくありません。当該メッセージから機関投資家が知りたい情報は、個々の社外取締役が重要な経営の意思決定において、企業価値向上の観点からどのような貢献をしているのか、です。機関投資家からは、「会社を礼賛するメッセージからは社外取締役としての課題認識が見えない」(別のグローバル機関投資家)との指摘がなされています。社外取締役へ統合報告書用のメッセージ原稿を依頼する際にはこのような機関投資家の要請を伝えることを失念しないようにしましょう。

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2024年12月16日 社外取締役に関する情報開示への機関投資家の要望(会員限定)

2024/12/26 2024年12月度チェックテスト第8問解答画面(不正解)

不正解です。
会社法上は監査の独立性を担保する観点から、監査役の報酬は株主総会で決議された上限額の範囲内で監査役の協議により定めるものとされています。その際に、監査役は執行側の意思を確認する必要はありません(問題文は誤りです)。

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2024年12月13日 監査役が執行側の意思を一切確認せず報酬額を変更、否決は可能?(会員限定)

2024/12/26 2024年12月度チェックテスト第8問解答画面(正解)

正解です。
会社法上は監査の独立性を担保する観点から、監査役の報酬は株主総会で決議された上限額の範囲内で監査役の協議により定めるものとされています。その際に、監査役は執行側の意思を確認する必要はありません(問題文は誤りです)。

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2024年12月13日 監査役が執行側の意思を一切確認せず報酬額を変更、否決は可能?(会員限定)