2016/02/09 エンゲージメントを促されるパッシブ運用機関(会員限定)

 機関投資家の運用手法には、大きく分けて「パッシブ運用」と「アクティブ運用」がある。パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンド・マネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。ところが、この常識が今後変わっていく可能性がある。

 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は先月(2016年1月)28日、「平成27年日本版スチュワードシップ・コードへの対応状況について」を公表したが、ここには、パッシブ運用機関に対してもエンゲージメントを促そうというGPIFの姿勢が明確に表れている。具体的には、「パッシブ運用においては、株式市場を長期的に底上げしていくために問題がある企業に対して持続的な企業価値向上を促すためのエンゲージメントが求められる」としたうえで、「現段階においてはエンゲージメント対象企業を絞り込むための選定基準が設定されていない傾向にある」「企業の経営陣と長期的な企業価値向上の観点からエンゲージメントを行う専任者を配置するなどの体制整備が不十分である」など、パッシブ運用機関に対し厳しい指摘が行われている。

GPIF : 厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。

 一方、パッシブ運用においても150~200社程度のエンゲージメント対象企業を選定している事例や、社内にグローバルで25名(日本は4名)のエンゲージメント・議決権行使の専門チームを設けている事例が“ベストプラクティス”的に紹介されている。

 もっとも、パッシブ運用を行う運用機関に対しエンゲージメントを促せば、運用委託フィーの上昇を招く可能性がある。こうした中、現在厚生労働省の社会保障審議会 (年金部会)ではGPIFによる「インハウス運用(自家運用)」が検討されており、メンバーからは「インハウス運用を行う限りは議決権行使も認めるべき」との意見も出ている(ただし、GPIFに自主運用を認める場合には、一社についての保有量に制限を設けることは不可欠であり、企業経営に影響を与えるような株式保有を認めるべきではないとしている。2016年1月12日の議事録 東京大学名誉教授・若杉氏のコメント参照)。ノルウェーの政府年金基金は年間で企業と2,000回のミーティングを行っており、今後GPIFも自ら積極的にエンゲージメントを行うようになるかもしれない。

 GPIFという世界最大のアセット・オーナーが本気になることで、インベストメント・チェーンのマインドセットも大きく変わる可能性がある。本格的なエンゲージメントの時代はすぐそこまで来ていると言えそうだ。

インベストメント・チェーン : 資金の拠出者から、資金を事業活動に使う企業に至るまでの経路および各機能(アセット・オーナー(受益者) 、アセット・マネージャー(運用会社)、企業など)のつながり。

2016/02/08 マイナス金利が示唆する「少ない選択肢」がもたらす経営リスク

 日銀が先月末(2016年1月29日)に国内初となるマイナス金利の導入を発表したが、これとは対照的に、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は昨年12月16日、実に9年半ぶりの利上げを実施し、今年も利上げを見込んでいる。不思議なのは、日銀、FRBともに、目標とする物価上昇率は「2%」と同じ水準であり、実際の物価上昇率が目標値を大きく下回っている点も共通しているということだ。同じ目標を掲げ、ともに実績が目標を下回っているという状況にありながら、日銀とFRBが正反対の金融政策を実施しているのはなぜだろうか?両者の違いからは、企業経営上も重要なヒントが見えて来る。

 日銀が打ち出した「マイナス金利」とは、具体的には金融機関が日銀に保有する当座預金の一部に対してマイナス1%の金利を適用するというものだ。マイナス金利の適用により、金融機関は日銀の当座預金にお金を預けても、利息をもらうどころか、逆にその一部について日銀に手数料を支払うことになる。そこで金融機関は当座預金からお金を引き出し、貸出しに回さざるを得ない。また、マイナス金利の影響により銀行の預金金利も低下するため、消費者も預金するより消費にお金を使うだろう。これが日銀が狙うマイナス金利の効果である。日銀は2013年4月から資金供給量の拡大を目指して金融機関から長期国債やETFを買い入れる(その結果、金融機関が持つ日銀の当座預金の残高が増え、貸出しに回りやすくなる)量的・質的緩和を行ってきたが、足元の景気が不透明な中、物価上昇率2%という目標を達成には追加的な施策が必要と判断したようだ。

ETF : 上場投資信託(=Exchange Traded Fund)。日経平均株価やTOPIXの動きに合わせて動くように設計されている。文字通り投資信託自体が証券取引所に上場しているため、通常の株同様、証券会社を通じて売買できる。

 日銀の政策とは真逆となるFRBの利上げが、回復の兆しを見せていた米国経済に対するデフレ圧力につながるリスクを伴うのは事実だろう。ただし、今回の利上げにより、FRBはリーマン・ショックのような金融危機が生じた場合に利下げや量的緩和に踏み切ることで市場心理を大きく改善する、という選択肢を手に入れた事実も見逃してはならない。一方、日銀にはマイナス金利の適用範囲の拡大や金利のマイナス幅の拡大といった選択肢は残っているものの、仮に金融危機のような事態が起きた場合には、FRBに比べると採り得る選択肢は限定されることになる。要するに、FRBは短期的なリスク・テイクと同時に危機発生時の選択肢を増やし、逆に日銀は短期的なデフレ脱却のために選択肢を減らした形だ。

 これを企業経営に置き換えてみると、“FRB型”の政策の方が好ましいということになる。例えば、・・・

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2016/02/08 マイナス金利が示唆する「少ない選択肢」がもたらす経営リスク(会員限定)

 日銀が先月末(2016年1月29日)に国内初となるマイナス金利の導入を発表したが、これとは対照的に、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は昨年12月16日、実に9年半ぶりの利上げを実施し、今年も利上げを見込んでいる。不思議なのは、日銀、FRBともに、目標とする物価上昇率は「2%」と同じ水準であり、実際の物価上昇率が目標値を大きく下回っている点も共通しているということだ。同じ目標を掲げ、ともに実績が目標を下回っているという状況にありながら、日銀とFRBが正反対の金融政策を実施しているのはなぜだろうか?両者の違いからは、企業経営上も重要なヒントが見えて来る。

 日銀が打ち出した「マイナス金利」とは、具体的には金融機関が日銀に保有する当座預金の一部に対してマイナス1%の金利を適用するというものだ。マイナス金利の適用により、金融機関は日銀の当座預金にお金を預けても、利息をもらうどころか、逆にその一部について日銀に手数料を支払うことになる。そこで金融機関は当座預金からお金を引き出し、貸出しに回さざるを得ない。また、マイナス金利の影響により銀行の預金金利も低下するため、消費者も預金するより消費にお金を使うだろう。これが日銀が狙うマイナス金利の効果である。日銀は2013年4月から資金供給量の拡大を目指して金融機関から長期国債やETFを買い入れる(その結果、金融機関が持つ日銀の当座預金の残高が増え、貸出しに回りやすくなる)量的・質的緩和を行ってきたが、足元の景気が不透明な中、物価上昇率2%という目標を達成には追加的な施策が必要と判断したようだ。

ETF : 上場投資信託(=Exchange Traded Fund)。日経平均株価やTOPIXの動きに合わせて動くように設計されている。文字通り投資信託自体が証券取引所に上場しているため、通常の株同様、証券会社を通じて売買できる。

 日銀の政策とは真逆となるFRBの利上げが、回復の兆しを見せていた米国経済に対するデフレ圧力につながるリスクを伴うのは事実だろう。ただし、今回の利上げにより、FRBはリーマン・ショックのような金融危機が生じた場合に利下げや量的緩和に踏み切ることで市場心理を大きく改善する、という選択肢を手に入れた事実も見逃してはならない。一方、日銀にはマイナス金利の適用範囲の拡大や金利のマイナス幅の拡大といった選択肢は残っているものの、仮に金融危機のような事態が起きた場合には、FRBに比べると採り得る選択肢は限定されることになる。要するに、FRBは短期的なリスク・テイクと同時に危機発生時の選択肢を増やし、逆に日銀は短期的なデフレ脱却のために選択肢を減らした形だ。

 これを企業経営に置き換えてみると、“FRB型”の政策の方が好ましいということになる。例えば、キャッシュリッチ、低ROE、低株価かつコーポレートガバナンス強化も遅れている企業があったとする。アクティビストにとっては格好のターゲットだ。ここで経営陣が、「持合い先」が安定株主として守ってくれるという現状を踏まえ、「アクティビストの脅威は低いので特段の対応は不要」との経営判断を下したとしよう。現状の環境が変わらないという前提に立つと、このような判断も一見妥当に見える。しかし、もし環境が変わったらどうなるだろうか。

 金融機関による持合い解消は90年代以来続いているトレンドだ。事業会社でもコーポレートガバナンス・コードの導入を機に持合いを見直すケースが増えており、また、経営危機に陥った企業や巨額の投資資金が必要になった企業が持合株式を売却することは珍しいことではない。さらには、持合い先がアクティビストの要求を受入れざるを得なくなる、あるいは外資系企業に買収されるといった可能性もゼロではない。その場合には持合い継続は困難だろう。

 経営陣は、そのような環境変化が生じた場合を想定し、自社にどのような選択肢があるのか、あるいは選択肢を広げるためにはどうすればよいのかを考えておく必要がある。例えば、手元資金を活用したROE向上策(例えば自社株買い)の実施、株主・投資家に対するこうした施策のアピール(ケーススタディ「IR活動により適正な株価を形成したい」や「機関投資家に自社の魅力を伝えたい」を参照)、社外取締役の増員をはじめとするコーポ―レートガバナンスの強化(ニュース「独立社外取締役を増やすために」を参照)などが挙げられる。これらの施策を講じることでROEおよび株価が上昇し、コーポレートガバナンスに対する株主・投資家の信頼が高まれば、アクティビストが出現した場合でも様々な選択肢を持って交渉に臨むことができる(ニュース「アクティビストが自社の株式を数%保有!経営陣はどう動くべきか」を参照)。合理的な対抗策を提示しさえすれば、機関投資家を含む一般株主から支持を得ることが可能になるからだ。逆に、上述のような選択肢を広げるための施策を講じていない場合には、対抗策について一般株主から支持を得るのは困難となる。持合い解消により安定株主に頼れないとすれば、アクティビストの要求を受け入れる以外の選択肢がない状態で交渉に臨まざるを得ないといった事態も想定される。

 「1940年体制 ―さらば戦時経済(野口悠紀夫著、東洋経済新報社)」は、戦後日本の経済体制や外交政策について、「現実に選択可能なものは、自民党が掲げたものしかありえなかった」として、与野党の対立を「形式的なものでしかなかった」と指摘している。過去のことについては「仕方がなかった」と言うしかないが、企業経営においては、「選択肢を広げる経営陣の努力が足りなかった」と非難を受けることになりかねない。経営陣は「将来に向けた選択肢を増やすこと」を常に意識して経営にあたる必要がありそうだ。

2016/02/05 シャープ買収に見るM&Aにおける社外取締役の役割

 産業革新機構(機構)の出資を受け入れる方針だったシャープが一転、台湾の鴻海精密工業(鴻海)による買収案を採用する方向となった。外資に対する経営陣の心理的な抵抗感から、機構案による「日の丸連合」が選ばれる可能性が高いと思われた中でのシャープの選択は、他の日本企業の経営陣にとっては意外感があるかもしれない。

 ただ、M&Aが活発な米国に目を向けると、「有利な買収提案を選ばなければならない」という至極当然な原理原則が、「レブロン事件」における司法判断によって確立している。レブロン事件とは、食品会社パントリーブライドのロナルド・ペレルマン社長が、化粧品大手レブロン社に対し、現金による全株式の買収提案を仕掛けた事例。ベレルマン氏は複数の大型買収を手掛けた実業家で、グリーンメーラーとは違って経営の細部まで関わる意思を持っていた。本件においても、当初は友好的なM&A提案として双方が交渉のテーブルに着いたものの話がまとまらず、敵対的買収へと転じた。レブロン社は投資会社をホワイトナイトとする対抗措置を講じたが、裁判所はこれを違法と判断したため、最終的にペレルマン氏による買収が成功した。判決(1986年)では、・・・

グリーンメーラー : “乗っ取り屋”と呼ばれる投資家のこと。短期的な利益を目的に特定企業の株式を市場で買い集め、プレミアムを乗せたり株価を吊り上げたりしたうえで、当該企業に株式の買取りを求める手法を使うため、1980年代の米国では「企業に対する脅迫」として強い批判を浴びた。グリーンメールとは、ドル紙幣を意味する「グリーンバック」と恐喝を意味する「ブラックメール」を組み合わせた造語である
ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。

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2016/02/05 シャープ買収に見るM&Aにおける社外取締役の役割(会員限定)

 産業革新機構(機構)の出資を受け入れる方針だったシャープが一転、台湾の鴻海精密工業(鴻海)による買収案を採用する方向となった。外資に対する経営陣の心理的な抵抗感から、機構案による「日の丸連合」が選ばれる可能性が高いと思われた中でのシャープの選択は、他の日本企業の経営陣にとっては意外感があるかもしれない。

 ただ、M&Aが活発な米国に目を向けると、「有利な買収提案を選ばなければならない」という至極当然な原理原則が、「レブロン事件」における司法判断によって確立している。レブロン事件とは、食品会社パントリーブライドのロナルド・ペレルマン社長が、化粧品大手レブロン社に対し、現金による全株式の買収提案を仕掛けた事例。ベレルマン氏は複数の大型買収を手掛けた実業家で、グリーンメーラーとは違って経営の細部まで関わる意思を持っていた。本件においても、当初は友好的なM&A提案として双方が交渉のテーブルに着いたものの話がまとまらず、敵対的買収へと転じた。レブロン社は投資会社をホワイトナイトとする対抗措置を講じたが、裁判所はこれを違法と判断したため、最終的にペレルマン氏による買収が成功した。判決(1986年)では、会社が「売り」の状態にある場合、ホワイトナイトなど特定者に有利な防衛策は過剰な措置であって、すべての買手を差別せずに交渉を行うことで、売却価格の最大化を図らなければならないとしている(レブロン基準)。

グリーンメーラー : “乗っ取り屋”と呼ばれる投資家のこと。短期的な利益を目的に特定企業の株式を市場で買い集め、プレミアムを乗せたり株価を吊り上げたりしたうえで、当該企業に株式の買取りを求める手法を使うため、1980年代の米国では「企業に対する脅迫」として強い批判を浴びた。グリーンメールとは、ドル紙幣を意味する「グリーンバック」と恐喝を意味する「ブラックメール」を組み合わせた造語である
ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。

 シャープに対する鴻海案と機構案の比較は下表の通りとなっている。(融資枠を含む)機構案の1.4倍の出資額を提示した鴻海案は、投資金額に見合った収益を上げるという事業計画の裏付けなしに提示できる金額ではない。両案を比較する限り、鴻海案の方がシャープの企業価値向上に対して強くコミットしている内容であると言える。

項目 鴻海案 機構案
出資 7000億円 3000億円
融資枠 2000億円
リストラ 従業員は現状維持 事業・資産売却
経営陣 現状維持 社長など退任

 シャープの件に限らず、M&Aの局面はもっともコーポレートガバナンスのあり方が問われる機会である。そして、複数のオファーから「最善」のものを選択する役割を求められるのが社外取締役だ。社外取締役は、経営陣や取引銀行、いわんや政策当局よりも公正・公平なジャッジメントを下せる可能性が高いからである。シャープにおいても、社外取締役が鴻海案を支持し、経営陣に対し経済合理的な選択を促している。本件は、M&Aにおいて社外取締役が果たすべき役割を示した先例として、今後も起こるであろう日本企業のM&Aにおいて重要な意味を持つことになりそうだ。

2016/02/04 (新用語・難解用語)ROS

 売上高利益率(Return On Sales)のことであり、「利益÷売上高×100」により算出される。算式は単純だが、日本企業のROEが低い主な原因はこのROSの低さにあると言われており、機関投資家の注目度も高い経営管理上重要な指標である。

 ROSが高ければ、売上高が相対的に小さくても、相対的に大きな利益が計上されることになる。逆に言うと、売上高が相対的に大きくても、ROSが低ければ、相対的に小さな利益しか計上されない。

 経営陣の中には、売上高の成長だけで満足するが向きも少なくないが、ROSが低下傾向にある場合、売上が伸びていても利益が伸びず、場合によっては(ROSの低下が著しい場合には)、売上が増加しているのに利益が減少してしまうこともある。いわゆる「増収減益」は、ROSの低下が原因である。

 それだけに、機関投資家もROSの動向には注目しており、たとえ売上、利益とも前期より伸びていたとしてもROSが低下していれば、必ずと言っていいほど機関投資家からROSの低下理由の説明を求められることになる。

 ところで、上述のとおりROSは「利益÷売上高×100」によって算出されることになるが、ここでいう「利益」にはどの利益を使うのだろうか?・・・

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2016/02/04 (新用語・難解用語)ROS(会員限定)

 売上高利益率(Return On Sales)のことであり、「利益÷売上高×100」により算出される。算式は単純だが、日本企業のROEが低い主な原因はこのROSの低さにあると言われており、機関投資家の注目度も高い経営管理上重要な指標である。

 ROSが高ければ、売上高が相対的に小さくても、相対的に大きな利益が計上されることになる。逆に言うと、売上高が相対的に大きくても、ROSが低ければ、相対的に小さな利益しか計上されない。

 経営陣の中には、売上高の成長だけで満足するが向きも少なくないが、ROSが低下傾向にある場合、売上が伸びていても利益が伸びず、場合によっては(ROSの低下が著しい場合には)、売上が増加しているのに利益が減少してしまうこともある。いわゆる「増収減益」は、ROSの低下が原因である。

 それだけに、機関投資家もROSの動向には注目しており、たとえ売上、利益とも前期より伸びていたとしてもROSが低下していれば、必ずと言っていいほど機関投資家からROSの低下理由の説明を求められることになる。

 ところで、上述のとおりROSは「利益÷売上高×100」によって算出されることになるが、ここでいう「利益」にはどの利益を使うのだろうか?利益には「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「税引後当期純利益」があるが、ROS計算上の利益には税引前当期純利益以外の利益が使われることになる。「税引後当期純利益÷自己資本」によって計算されるROEは「当期純利益÷売上高(=ROS)」×「売上高÷自己資本」に分解できるが、冒頭で述べたように「日本企業のROEが低い主な原因はROSの低さにある」という場合、ROS計算上の利益には「税引後当期純利益」が使われることが前提となる。

売上総利益 : 売上高から売上原価を差し引いた金額で、「粗利」と呼ばれることが多い。人件費(給与等)などを控除する前の金額である。
営業利益 : 売上総利益から「販売費および一般管理費(販管費)」を差し引いた金額。販管費には、人件費をはじめ、水道光熱費、広告宣伝費などがある。
経常利益 : 営業利益に、財務活動などの本業以外の損益を加えた金額。営業利益はその企業の本業の強さを示し、経常利益は財務活動などを加えた強さを示す。

 では、ROSを高めるためにはどうすればよいのだろうか。まず挙げられるのは、安易な値引きを制限することだろう。売上予算達成のため、決算期末が近付くと値引きに走る営業マンは少なくないが、経営陣は、売上そのものよりもROSが重要であるとの意識を営業マンに植え付ける必要がある。このほか、「利益率の高い商品の販売に注力する」「原価の削減を図る」「不採算部門を縮小する」といった試みも、ROSの向上につながることになる。

2016/02/03 女性業務執行役員増加を求める声とともに浮上する人材育成問題

 英国では「2015年中にFTSE100企業の取締役会に占める女性比率を25%にする」という目標を同年7月に前倒しで達成したことを受け(2015年7月29日のニュース「取締役会の女性比率25%達成の英国、次は賃金格差の公表義務付け」参照)、女性取締役比率の引上げを求める対象をFTSE350構成企業へと拡大、さらに、女性取締役の比率も「2020年までに33%以上」に引き上げることが提案されている。ただ、実はこうした数字が“見せかけ”のものに過ぎないとの指摘は少なくない。取締役会の監督機能が重視される英国では、取締役会における社外・社内取締役の“黄金比”が「7:3」とされるなど、取締役会における社外取締役比率が高い。裏を返せば、英国における女性取締役比率向上の背景には、1人の女性が複数の企業の社外取締役を兼任しているという実態があることがうかがえる。実際、「業務執行役員」の比率は、取締役会に占める女性比率25%を早々と達成したFTSE100企業でさえ、10%以下に留まっている。

FTSE100 : ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位100銘柄による時価総額加重平均型の株価指数。

 こうした中、日本の経団連に相当する英国産業連盟(CBI=Confederation of British Business)は、社外取締役のように兼任ができない業務執行役員の女性比率「25%」を目標にすることを提言している。

 このような方向性に対しては“総論賛成”の声が多いが、経営者側からは・・・

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2016/02/03 女性業務執行役員増加を求める声とともに浮上する人材育成問題(会員限定)

 英国では「2015年中にFTSE100企業の取締役会に占める女性比率を25%にする」という目標を同年7月に前倒しで達成したことを受け(2015年7月29日のニュース「取締役会の女性比率25%達成の英国、次は賃金格差の公表義務付け」参照)、女性取締役比率の引上げを求める対象をFTSE350構成企業へと拡大、さらに、女性取締役の比率も「2020年までに33%以上」に引き上げることが提案されている。ただ、実はこうした数字が“見せかけ”のものに過ぎないとの指摘は少なくない。取締役会の監督機能が重視される英国では、取締役会における社外・社内取締役の“黄金比”が「7:3」とされるなど、取締役会における社外取締役比率が高い。裏を返せば、英国における女性取締役比率向上の背景には、1人の女性が複数の企業の社外取締役を兼任しているという実態があることがうかがえる。実際、「業務執行役員」の比率は、取締役会に占める女性比率25%を早々と達成したFTSE100企業でさえ、10%以下に留まっている。

FTSE100 : ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位100銘柄による時価総額加重平均型の株価指数。

 こうした中、日本の経団連に相当する英国産業連盟(CBI=Confederation of British Business)は、社外取締役のように兼任ができない業務執行役員の女性比率「25%」を目標にすることを提言している。

 このような方向性に対しては“総論賛成”の声が多いが、経営者側からは「そもそも業務執行役員を務める女性人材が不足しており、短期間での目標達成は困難」という現実的な意見が出ている。特に理数系のバックグラウンドが求められる企業では、元々理数系に進む女性が少ないこともあり、上級職への女性登用が進まないという実態があるという。

 「業務執行役員の女性比率25%」という目標は現段階で英国政府の方針となったわけではないが、英国産業連盟発の提言でもあり、政府方針化される可能性もある。1人の女性による複数の企業の社外取締役兼任は、英国に限らず、女性取締役比率が35%超と世界でもっとも高いと言われるノルウェーを含む欧州全体で問題となっており、いずれこの波は、特定の女性に社外取締役のオファーが殺到する傾向にある日本に押し寄せることも十分にあり得る。

 その場合、日本企業でも業務執行役員候補となる女性人材の不足が問題になるだろう。人材の育成には時間がかかる。経営陣は、将来の業務執行役員就任を視野に入れた女性社員のキャリアストーリー(人事異動の方針、トレーニングなど)を描き、これを人事システムに落とし込んでおく必要がありそうだ。

2016/02/02 中国子会社が抱える財務リスク

 生産コストの引下げを狙った日本企業の中国進出はもはやひと昔前の話となり、最近ではむしろ人件費の高騰による競争力低下にあえぐ中国子会社を持つケースが少なくない。

 本業で稼げなくなった中国子会社が、財務面で稼ごうとしてリスクを抱えることになった実例を紹介しよう。

 ある上場会社(親会社)で、中国子会社の月次決算をモニターしていた海外事業部の従業員が、・・・

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