機関投資家の運用手法には、大きく分けて「パッシブ運用」と「アクティブ運用」がある。パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンド・マネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。ところが、この常識が今後変わっていく可能性がある。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は先月(2016年1月)28日、「平成27年日本版スチュワードシップ・コードへの対応状況について」を公表したが、ここには、パッシブ運用機関に対してもエンゲージメントを促そうというGPIFの姿勢が明確に表れている。具体的には、「パッシブ運用においては、株式市場を長期的に底上げしていくために問題がある企業に対して持続的な企業価値向上を促すためのエンゲージメントが求められる」としたうえで、「現段階においてはエンゲージメント対象企業を絞り込むための選定基準が設定されていない傾向にある」「企業の経営陣と長期的な企業価値向上の観点からエンゲージメントを行う専任者を配置するなどの体制整備が不十分である」など、パッシブ運用機関に対し厳しい指摘が行われている。
GPIF : 厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
一方、パッシブ運用においても150~200社程度のエンゲージメント対象企業を選定している事例や、社内にグローバルで25名(日本は4名)のエンゲージメント・議決権行使の専門チームを設けている事例が“ベストプラクティス”的に紹介されている。
もっとも、パッシブ運用を行う運用機関に対しエンゲージメントを促せば、運用委託フィーの上昇を招く可能性がある。こうした中、現在厚生労働省の社会保障審議会 (年金部会)ではGPIFによる「インハウス運用(自家運用)」が検討されており、メンバーからは「インハウス運用を行う限りは議決権行使も認めるべき」との意見も出ている(ただし、GPIFに自主運用を認める場合には、一社についての保有量に制限を設けることは不可欠であり、企業経営に影響を与えるような株式保有を認めるべきではないとしている。2016年1月12日の議事録 東京大学名誉教授・若杉氏のコメント参照)。ノルウェーの政府年金基金は年間で企業と2,000回のミーティングを行っており、今後GPIFも自ら積極的にエンゲージメントを行うようになるかもしれない。
GPIFという世界最大のアセット・オーナーが本気になることで、インベストメント・チェーンのマインドセットも大きく変わる可能性がある。本格的なエンゲージメントの時代はすぐそこまで来ていると言えそうだ。
インベストメント・チェーン : 資金の拠出者から、資金を事業活動に使う企業に至るまでの経路および各機能(アセット・オーナー(受益者) 、アセット・マネージャー(運用会社)、企業など)のつながり。
