世間を騒がせる大がかりな企業不祥事は枚挙に暇がないが、マスコミ報道等にまでは至らないものの、従業員による“小さな不正”は多かれ少なかれどの企業でも起きているのではないだろうか。実際にあった不正事例を紹介しよう。
1つ目は「請求書の改竄(かいざん)」である。ある大手メーカーの子会社であるA社の営業担当者は、30万円のパソコン6台(合計180万円)の注文を得意先から受け、仕入れを行い納品した。その後、得意先から「請求書の内容を『1台9万円のパソコンと関連システム機器21万円(合計30万円)のセット×6』に変更するよう」要請され、得意先の言う通りの内容の請求書を発行した。ここでいう「関連システム機器」とは、ケーブル・ルーター・ハブ・DVDドライブ等であり、実際には仕入れも販売もしていないものであった。
本事例は、内部監査において、売上取引を検証(注文書と請求書の比較等)するために無作為に抽出した取引の中から偶然発見されたものだが、「事実と異なる請求書の発行」という取引の改竄であり、コンプライアンス上問題がある。請求書を発行した営業部からは、「入金額に変更はなく、また遅滞なく入金されているのだから、結果として問題はない」という反論を受けたが、ありえない価格や存在しないものを販売しているという点で、“架空売上”であることには変わりない。
また、税法上、10万円未満の「少額減価償却資産」は取得時に全額費用処理される。本来は「30万円」の固定資産として計上し、4年間にわたって減価償却すべきだったパソコンが、取得時に一括で費用処理されることになり、その結果、得意先の費用が過大に計上され、税負担を軽減させることになる。A社の行為はこれに加担するものであることに他ならない。
A社の業務フローでは、ある取引があった場合、担当者が当該取引を端末から入力し、その結果を上長が承認することでシステム上は確定することになっていたが、本不正は営業部の担当者と上司が一体となって行われていた。上長により承認された請求書とそれに対する入金があれば、経理部も発見することはできない。本不正事例を踏まえ、A社は売上に関する請求書は経理部門が内容の確認を行うというプロセスを導入した。コンプライアンス違反を防止するために、経理部の業務が従来より増えてしまったというわけだ。
2つ目は「工事部門の余剰在庫」に関する不正である。電気工事を請け負うB社では、あらかじめ材料を購入し、工事現場に持って行くことが少なからずあるが、工事の過程で仕損じが発生した場合に迅速に対応できるよう、“多め”に材料を購入している。このため、材料は余るのが通常だが、本件ではこの余剰材料の取扱いに問題があった。
会計処理上、このような材料は全て購入時に費用として処理され、工事原価に含められる。したがって、余剰材料は会計帳簿には出て来ない(いわゆる「簿外」の状態)。社内ルールでは、余剰材料は社内の倉庫に保管することになっているが、簿外ということもあり、実際には購入者が空いているスペースに放置し、その入出庫や残数管理も行われていなかった。
こうした中、余剰材料を持ち帰らず、工事現場において現金で業者に売り、代金を着服するという不正が発生した。この不正は、工事担当者ごとに余剰在庫を調査し、極端に余剰在庫が少ない者数名にその理由を聴取したことにより発見された。
不正の発生を受け、B社は工事部門における余剰材料について「換金性に応じた管理」を導入するとともに、コンプライアンス違反の防止をテーマとした従業員教育を実施した。
3つ目の事例は、「少額減価償却資産の横領」だ。最初の事例でも触れたとおり、税法上、10万円未満の「少額減価償却資産」は取得時にその全額が費用処理される。それゆえ、C社においては少額減価償却資産は固定資産台帳に記録されず、また「全社レベル」での管理の対象外となっていた(取得部門が独自に管理)。こうした中、C社の消耗器具備品費の元帳を見ると、タブレットやデジカメの購買が年度内にそれぞれ4~5回見られた。そこで、これらの取引につき購買申請書から決裁書までをチェックしたところ、全て取得した部門の課長が購買を申請し、自分で決裁していたのである。
当該課長に問い合わせると、「現場を視察した際の記録に必要であり、購入した」との回答を得た。そこで、「誰が何処の現場で使用しているか」と聞くと、「全て自分が保有しており、自宅にある」とのことだった。また、管理台帳は作成されていなかった。
当該課長の上司である部長に事情を聞くと、「他の業務が忙しく、10万円未満の購買の決裁については、全てこの課長に任せていた」とのことだった。他にも購買物がないか調査すると、マウス、メモリ、ディスプレイ等の情報システム関連機器が当該課長により申請・決裁されていた。これらは社内にあり、未開封の状態のものも多数あった。
本事例を受け、C社は決裁権限の厳格な運用を徹底するとともに、従業員に対しコンプライアンス教育を行うことになった。
いかがだろうか。こうした“小さな不正”を許す企業文化は、大規模な不正の土壌となり得る。経営陣は早期発見・再発防止に努める必要があろう。