2016/02/15 グラス・ルイス初の“日本語版”議決権行使助言方針、ISSとの違いは?

一橋大学大学院商学研究科 准教授・日本IR協議会 客員研究員
円谷 昭一

 議決権行使助言会社大手の米グラス・ルイス(GL)が2016年版の議決権行使助言方針の日本語要約版を公表した(完全版は英語のみ)。3月決算企業の株主総会のほとんどが開催される2016年6月にはこの方針に従った助言が行われる。これまで英語のみでの公表であったが、要約版とはいえ、今年から初めて日本語版が公表されている。公表された方針の特徴と企業側の取るべき対策について私見を述べたい。

 議決権行使助言サービスの市場は米ISS(Institutional Shareholder Services)とGLの複占市場である。一般的には、ISSと比べてGLの助言方針の方が厳しいと言われることが多いが、両者の2016年版の方針を見る限り、GLが特段厳しい内容のようには見えない。ただし、重視する点や判断基準は両社で差があり、企業としては両社の方針を両睨みで考慮する必要がある。

 両社でまず異なるのがROE基準である。ISSは2015年版の助言方針から「過去5年平均のROEが5%を下回っており、かつ直近年度も5%を下回っている場合には経営トップの選任議案に反対を推奨する」としている。GLはこのような「収益性基準」は採用していない(現時点では、採用する予定もないという)。

 一方で、ISSは採用していないがGLは採用(または公表)している基準もある。たとえば・・・

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2016/02/15 グラス・ルイス初の“日本語版”議決権行使助言方針、ISSとの違いは?(会員限定)

一橋大学大学院商学研究科 准教授・日本IR協議会 客員研究員
円谷 昭一

 議決権行使助言会社大手の米グラス・ルイス(GL)が2016年版の議決権行使助言方針の日本語要約版を公表した(完全版は英語のみ)。3月決算企業の株主総会のほとんどが開催される2016年6月にはこの方針に従った助言が行われる。これまで英語のみでの公表であったが、要約版とはいえ、今年から初めて日本語版が公表されている。公表された方針の特徴と企業側の取るべき対策について私見を述べたい。

 議決権行使助言サービスの市場は米ISS(Institutional Shareholder Services)とGLの複占市場である。一般的には、ISSと比べてGLの助言方針の方が厳しいと言われることが多いが、両者の2016年版の方針を見る限り、GLが特段厳しい内容のようには見えない。ただし、重視する点や判断基準は両社で差があり、企業としては両社の方針を両睨みで考慮する必要がある。

 両社でまず異なるのがROE基準である。ISSは2015年版の助言方針から「過去5年平均のROEが5%を下回っており、かつ直近年度も5%を下回っている場合には経営トップの選任議案に反対を推奨する」としている。GLはこのような「収益性基準」は採用していない(現時点では、採用する予定もないという)。

 一方で、ISSは採用していないがGLは採用(または公表)している基準もある。たとえばGLは、社外役員の独立性の基準として、社外役員が当該企業に対して専門的サービス(コンサルティング等)を提供した場合における(当該サービスの)対価の上限金額を設定している。具体的には、当該社外役員が個人で500万円以上を就任先企業から受け取っている場合、または当該社外役員が所属する事務所などが1,200万円以上を就任先企業から受け取っている場合には「独立性がない」と見なされ、その候補者は(選任について)反対助言の対象となる。ISSもこのような数値基準を社内に持っているというが、具体的な金額は非公表である。

 この上限金額は2016年版において変更されている。2015年版までは上記の金額は個人では200万円、所属事務所では400万円であった。企業側にとっては独立性基準の〝緩和″に見えるが、そうとも言い切れない。GLには、厳しい金額制約をかけることによって企業が「社外役員としての適性」よりも「形式的な独立要件の確保」に過度に傾注することを避ける狙いがある。なお、2016年版における変更点はこの上限金額のみである。

 その他の相違点としては、クーリングオフピリオドが挙げられる。GLの方針では、社外役員が以前に当該企業に勤務していた場合、雇用関係が終了してから5年が経過すれば「独立性がある」と見なされる。一方で、ISSは現在のところクーリングオフピリオドを定めておらず、過去に勤務経験があった場合には「独立性がない」と判断される。ここで留意したいのは、GLは「関係性が終了した時期の明確な開示がない場合、クーリングオフピリオドは適用されない」としている点である。株主総会招集通知では通常、候補者の略歴において役職の就任時期は記載されるが退任時期は記載されていない。しかし、クーリングオフピリオドを過ぎている社外役員候補者については、略歴に退任時期を明示することで「独立性がある」と判断されることになる。企業は自社の株主総会招集通知を確認し、退任時期が記載されていない場合には追記するとよいであろう。

クーリングオフピリオド : ここでは、「企業からの独立性に問題なし」と判断されるのに必要な「当該企業との雇用関係終了からの経過期間」を指す。

 退任時期の記載のほかにも、招集通知を作成する上でのいくつかの留意点がある。上述したように、ISS、GLともに専門的サービスの金額について(公表しているかどうかの違いはあるものの)定量的な判断基準を持っている。したがって、「取引額は僅少である」といったあいまいな記述ではなく、具体的な金額を記載するとよいだろう。また、独立役員届出書の中では独立性について詳しい記載がある一方、招集通知ではそれが要約されて記載されている場合がある。ISS、GLともに双方の書類を見て判断しているであろうが、念のため招集通知にも独立役員届出書の記載と同等の内容を記載した方がよいであろう。とりわけ、招集通知は英訳しているが独立役員届出書は英訳していないという場合、海外投資家にとっては簡潔な記載内容しかない招集通知から議案を判断せざるをえなくなる。その場合には、候補者の独立性について企業側と投資家側とで認識の齟齬が生まれる可能性も否定できないので注意する必要がある。

2016/02/12 重加算税受ける事例増加、営業マンの交際費支出多い企業は要注意

 バブル期のように派手な接待交際費を認める企業は減ったとはいえ、ある程度の接待交際費支出は欠かせない業種もあろう。ただ、近年は交際費支出を巡り「重加算税」を課されるケースが増えているので要注意だ。重加算税を課される項目のトップにあるのは・・・

重加算税 : 仮装や隠ぺい行為があったと税務署に認定された場合に課される懲罰的な税金

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2016/02/12 重加算税受ける事例増加、営業マンの交際費支出多い企業は要注意(会員限定)

 バブル期のように派手な接待交際費を認める企業は減ったとはいえ、ある程度の接待交際費支出は欠かせない業種もあろう。ただ、近年は交際費支出を巡り「重加算税」を課されるケースが増えているので要注意だ。重加算税を課される項目のトップにあるのは決算期末前後に発生する「期ズレ」だが(2015年5月20日のニュース「上場企業の税務調査でしばしば重加算税対象となる項目は?」参照)、交際費はその次に位置している模様。

重加算税 : 仮装や隠ぺい行為があったと税務署に認定された場合に課される懲罰的な税金
期ズレ : 「本来であれば今期に計上しなければならない売上や費用」が翌期に計上されたり、逆に「翌期に計上すべき売上や費用」が今期に計上されたりすること

 なかでも最も多いパターンが、“5千円基準”を悪用したものだ。税法上、「1人当たり5千円以下の飲食費」は全額損金算入とするといういわゆる5千円基準が設けられているが、その適用を受けるために、1人当たりの単価が5千円以下となるよう、参加者の数を水増しするケースが多発しているという。

 もっとも、交際費を使う営業マンなどにはそもそも税法の知識がなく、「税金をごまかそう」という意識はないことが多い。営業マンが気にするのは税法ではなく、社内ルールの方だ。

 5千円基準が創設されたのは平成18年度税制改正に遡るが、これを受け、「交際費の上限は原則として1人当たり5千円以内とする」といった社内ルールを設けた会社が少なくない。営業マンはこの社内ルールを守るために、人数の水増しに手を染めることが多いものと思われる。もちろん、「税金をごまかすつもりはなかった」という言い訳は税務署(国税局)には通用せず、「仮装・隠ぺい」行為として重加算税を課されることになる。

 少額の交際費を巡る不正だけに、重加算税を受けたとしても追徴税額はさほど大きな金額にはならないかもしれないが、企業が失うものは当該追徴税額相当のキャッシュにとどまらない。近年、国税局の調査部では、大法人を調査結果によってランク付けし、ランクが高い法人(=不正がない優良な法人)の調査間隔を長くとることにしているが、重加算税を受ければランク落ちは必須。税務調査が入れば通常はある程度の追徴税額が発生することを考えると、複数事業年度で見た企業の税負担増加額は馬鹿にならない金額になる恐れがある。また、仮に重加算税を課されたことがマスコミ等に漏れ、「〇×社が所得隠し」などと報じられれば、企業イメージへの悪影響は避けられない。

 営業マン等には、交際費を巡る税金の基本ルールは研修しておくべきだろう。

2016/02/12 【役員会 Good&Bad発言集】急成長中の企業における配当政策・目標ROE

 近年急成長が続いているA社の取締役会では、中期計画において投資家向けにどのような目標を設定すべきかを議論した。

 どの取締役の発言がGoodでしょうか。

取締役A:「我が社では配当などの株主還元が低水準にとどまっています。成長への投資も重要ですが、今後は市場平均以上の水準の配当性向を目標に掲げるべきではないでしょうか。」

取締役B:「いや、現在の我が社には成長機会が多いので、投資資金を十分用意しておくべきです。配当性向にコミットすると、それが新たな投資をするうえでの制約になりかねません。だからと言って、低い配当性向を約束しても意味がないのではないでしょうか。いずれにせよ、何かを株主にコミットすることはあまりしたくないですね。」

取締役C:「配当性向を約束するのは難しいとしても、ROEの目標は必要でしょう。ROEの目標は投資家からも常に聞かれるテーマです。」

取締役B:「ただ、特定時点のROEにコミットできますかね?投資回収のタイミングは読みづらく、タイミングが1年違うだけで結果は大きく異なります。ROEにコミットした結果、例えば短期的に償却費が膨らむのを懸念して投資を躊躇するようなことは避けたいところです。」

取締役D:「確かに当社が配当性向やROEにコミットするのは難しいと思いますが、投資を決定する時の判断基準や株主還元の考え方は示しておくべきではないでしょうか?」

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2016/02/12 【役員会 Good&Bad発言集】急成長中の企業における配当政策・目標ROE(会員限定)

<解説>
余剰資金は必ず配当すべき? ROEを引き下げる投資を投資家はどう見る?

 配当政策や目標ROEを設定するにあたっては、「同業他社」や「市場平均」が気になるところでしょう。しかし、ROEや配当性向の適正水準は企業のステージによって大きく異なるため、必ずしも同業他社や市場平均などを意識して設定することが求められているわけではありません。特に急成長中の企業では、売上・利益の水準が毎年大きく変化します。こうした企業が中期計画においてどのような配当政策や目標ROEを設定するかは、成熟した安定企業のそれに比べて難しいものがあります。

 とはいえ、成長企業だからといって資本政策を考えなくてよいわけではありません。資金調達ニーズが旺盛な成長企業は「株主の期待に応える手段は成長のみ」と考えがちであり、株主還元の方針を明確に持っていないケースも見受けられます。高いリターンが期待できる投資機会がある場合には必ずしも株主還元をする必要はありませんが、将来的には株主還元を行う必要があること、また、余剰資金がある場合には株主に還元すべきであることを理解したうえで、企業は株主と対話を行う必要があります。

 もっとも、余剰資金が発生したからと言って、必ず株主還元を行わなければいけないというわけではありません。成長企業であっても、「投資のタイミング」は重要です。時には投資を待った方がよい局面もあり、これに伴い余剰資金が発生することもあるでしょう。しかし、そのような場合にまで無理をして株主還元を行う必要はありません。株主に対しては、来るべき投資の局面に備え、事前に、中期的な視点をもって成長率とそれに必要な投資の考え方を語ることが重要です。

 また、ROEを過剰に意識するあまり、短期的に償却費が膨らむことを懸念し、投資を躊躇するケースも見られますが、これは間違いです。償却費の増加によって短期的な利益が抑えられる局面では、中期的なキャッシュフロー・ストーリーを明確に示しておけばよいのです。仮に短期的に利益が圧縮され、負債の増加によってバランスシートが悪化したとしても、明確なキャッシュフロー・ストーリーを示すことができれば、長期投資家はネガティブな判断をしません。また、投資にあたってのハードル・レートや期待されるROIをどのように考えているのかも明確に示しておきたいところです。

キャッシュフロー・ストーリー : 投資(キャッシュアウトフロー)が新たなキャッシュインフローをもたらし、投資資金を回収することで余剰資金を産み出すまでのプロセス。
ハードル・レート : 投資するかどうかの判断基準となる、最低限求められる収益率のこと。投資対象となっている案件の収益率がハードル・レートより低ければその案件への投資は行わないという判断となる。
ROI : 投資収益率(Return On Investment)。「当期純利益÷{(期首総資本+期末総資本)÷2}×100」により計算される。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役D:「確かに当社が配当性向やROEにコミットするのは難しいと思いますが、投資を決定する時の判断基準や株主還元の考え方は示しておくべきではないでしょうか?」
コメント:成長企業を取り巻く環境は時々刻々と変化します。そのような企業が配当性向やROEにコミットすること、ましてや中期計画において“一時点”の数値にコミットすることは適切ではありません。「コミットできないこと」にコミットすることは、むしろ不誠実と捉えられる恐れもあります。ただし、「コミットがないこと」と「考え方が明確でないこと」は全く別物です。取締役D氏の発言のように、投資の判断基準や株主還元の考え方を示すことは重要です。

BAD発言はこちら
取締役A:「我が社では配当などの株主還元が低水準にとどまっています。成長への投資も重要ですが、今後は市場平均以上の水準の配当性向を目標に掲げるべきではないでしょうか。」
コメント:配当性向やROEの目標を掲げることで、従業員が株主の目を意識するようになるという点はGOODです。ただし、ROEや配当性向の適正水準は企業のステージによって大きく異なります。必ずしも市場平均を意識する必要はありません。
取締役B:「いや、現在の我が社には成長機会が多いので、投資資金を十分用意しておくべきです。配当性向にコミットすると、それが新たな投資をするうえでの制約になりかねません。だからと言って、低い配当性向を約束しても意味がないのではないでしょうか。いずれにせよ、何かを株主にコミットすることはあまりしたくないですね。」「ただ、特定時点のROEにコミットできますかね?投資回収のタイミングは読みづらく、タイミングが1年違うだけで結果は大きく異なります。ROEにコミットした結果、例えば短期的に償却費が膨らむのを懸念して投資を躊躇するようなことは避けたいところです。」
コメント:取締役B氏の発言は、真剣に企業価値向上を考えているという観点ではGOODです。しかしながら、株主にコミットしたくないという理由で目標を示さないのは問題です。目標の示し方は必ずしも定量的な数値である必要はありません。中期的な大きな考え方を示せば十分なのです。
取締役C:「配当性向を約束するのは難しいとしても、ROEの目標は必要でしょう。ROEの目標は投資家からも常に聞かれるテーマです。」
コメント:成長企業のROEは安定しませんので、単年度のROE目標を掲げるのは困難です。したがって、「投資家から質問される」という理由で、“とりあえずの目標”を設定するのは間違いです。投資家に対しては、投資回収に関する考え方を明確に示し、将来キャッシュフローを最大化させるための戦略を示していくことが重要です。

2016/02/10 実際にあった従業員不正の事例

 世間を騒がせる大がかりな企業不祥事は枚挙に暇がないが、マスコミ報道等にまでは至らないものの、従業員による“小さな不正”は多かれ少なかれどの企業でも起きているのではないだろうか。実際にあった不正事例を紹介しよう。

 1つ目は「請求書の改竄(かいざん)」である。ある大手メーカーの子会社であるA社の営業担当者は、30万円のパソコン6台(合計180万円)の注文を得意先から受け、仕入れを行い納品した。その後、得意先から・・・

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2016/02/10 実際にあった従業員不正の事例(会員限定)

 世間を騒がせる大がかりな企業不祥事は枚挙に暇がないが、マスコミ報道等にまでは至らないものの、従業員による“小さな不正”は多かれ少なかれどの企業でも起きているのではないだろうか。実際にあった不正事例を紹介しよう。

 1つ目は「請求書の改竄(かいざん)」である。ある大手メーカーの子会社であるA社の営業担当者は、30万円のパソコン6台(合計180万円)の注文を得意先から受け、仕入れを行い納品した。その後、得意先から「請求書の内容を『1台9万円のパソコンと関連システム機器21万円(合計30万円)のセット×6』に変更するよう」要請され、得意先の言う通りの内容の請求書を発行した。ここでいう「関連システム機器」とは、ケーブル・ルーター・ハブ・DVDドライブ等であり、実際には仕入れも販売もしていないものであった。

 本事例は、内部監査において、売上取引を検証(注文書と請求書の比較等)するために無作為に抽出した取引の中から偶然発見されたものだが、「事実と異なる請求書の発行」という取引の改竄であり、コンプライアンス上問題がある。請求書を発行した営業部からは、「入金額に変更はなく、また遅滞なく入金されているのだから、結果として問題はない」という反論を受けたが、ありえない価格や存在しないものを販売しているという点で、“架空売上”であることには変わりない。

 また、税法上、10万円未満の「少額減価償却資産」は取得時に全額費用処理される。本来は「30万円」の固定資産として計上し、4年間にわたって減価償却すべきだったパソコンが、取得時に一括で費用処理されることになり、その結果、得意先の費用が過大に計上され、税負担を軽減させることになる。A社の行為はこれに加担するものであることに他ならない。

 A社の業務フローでは、ある取引があった場合、担当者が当該取引を端末から入力し、その結果を上長が承認することでシステム上は確定することになっていたが、本不正は営業部の担当者と上司が一体となって行われていた。上長により承認された請求書とそれに対する入金があれば、経理部も発見することはできない。本不正事例を踏まえ、A社は売上に関する請求書は経理部門が内容の確認を行うというプロセスを導入した。コンプライアンス違反を防止するために、経理部の業務が従来より増えてしまったというわけだ。

 2つ目は「工事部門の余剰在庫」に関する不正である。電気工事を請け負うB社では、あらかじめ材料を購入し、工事現場に持って行くことが少なからずあるが、工事の過程で仕損じが発生した場合に迅速に対応できるよう、“多め”に材料を購入している。このため、材料は余るのが通常だが、本件ではこの余剰材料の取扱いに問題があった。

 会計処理上、このような材料は全て購入時に費用として処理され、工事原価に含められる。したがって、余剰材料は会計帳簿には出て来ない(いわゆる「簿外」の状態)。社内ルールでは、余剰材料は社内の倉庫に保管することになっているが、簿外ということもあり、実際には購入者が空いているスペースに放置し、その入出庫や残数管理も行われていなかった。

 こうした中、余剰材料を持ち帰らず、工事現場において現金で業者に売り、代金を着服するという不正が発生した。この不正は、工事担当者ごとに余剰在庫を調査し、極端に余剰在庫が少ない者数名にその理由を聴取したことにより発見された。

 不正の発生を受け、B社は工事部門における余剰材料について「換金性に応じた管理」を導入するとともに、コンプライアンス違反の防止をテーマとした従業員教育を実施した。

 3つ目の事例は、「少額減価償却資産の横領」だ。最初の事例でも触れたとおり、税法上、10万円未満の「少額減価償却資産」は取得時にその全額が費用処理される。それゆえ、C社においては少額減価償却資産は固定資産台帳に記録されず、また「全社レベル」での管理の対象外となっていた(取得部門が独自に管理)。こうした中、C社の消耗器具備品費の元帳を見ると、タブレットやデジカメの購買が年度内にそれぞれ4~5回見られた。そこで、これらの取引につき購買申請書から決裁書までをチェックしたところ、全て取得した部門の課長が購買を申請し、自分で決裁していたのである。

 当該課長に問い合わせると、「現場を視察した際の記録に必要であり、購入した」との回答を得た。そこで、「誰が何処の現場で使用しているか」と聞くと、「全て自分が保有しており、自宅にある」とのことだった。また、管理台帳は作成されていなかった。

 当該課長の上司である部長に事情を聞くと、「他の業務が忙しく、10万円未満の購買の決裁については、全てこの課長に任せていた」とのことだった。他にも購買物がないか調査すると、マウス、メモリ、ディスプレイ等の情報システム関連機器が当該課長により申請・決裁されていた。これらは社内にあり、未開封の状態のものも多数あった。

 本事例を受け、C社は決裁権限の厳格な運用を徹底するとともに、従業員に対しコンプライアンス教育を行うことになった。

 いかがだろうか。こうした“小さな不正”を許す企業文化は、大規模な不正の土壌となり得る。経営陣は早期発見・再発防止に努める必要があろう。

2016/02/09 法人会員様向け(限定3社) 世界的ESGコンサルティング会社による勉強会を緊急開催
「ESG情報のリサーチ・評価手法と投資家による利用方法」

本勉強会は開催済みのため、参加募集はしておりません。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESGを提唱した国連のPRI(責任投資原則)に署名したことで、日本の運用機関もESG投資に目を向けざるを得なくなっており、日本企業が投資家からESGへの対応状況によって選別される時代がすぐそこまで来ています。
そこで当フォーラムでは、運用機関を顧客とする世界的なESGコンサルティング会社であるSustainalytics(サステイナリティクス)の藤田裕美様がシンガポールのオフィスから来日されるこの機会に、ESGに関する小規模な勉強会を開催いたします。

<勉強会の概要>

  • 【開催日】2015年2月24日(水) 14:30~16:00
  • 【講師】(サステイナリティクス)
        リサーチプロダクト部門 セクターマネージャー
        藤田裕美 様(藤田様がご執筆した記事はこちら
  • 【開催場所】東京都豊島区(高田馬場駅より5分。詳細な場所はお申込み後にご案内いたします)
  • 【費用】無料

勉強会では、同社がいかにして企業のESG情報をリサーチ・評価しているのかや、その情報を機関投資家がどのように利用しているのかをご教示いただきます。小規模な勉強会ですので、藤田様に直接ご質問できる機会も多いことと思います。
会場の都合上、法人会員様限定で3社(1社2名まで)の募集(先着順)とさせていただきます。
なお、ご参加できなかった会員様には当日の資料をご提供しますので、希望される方は事務局jimukyoku@govforum.jp まで「資料希望」の旨、お知らせください。

お申し込みはこちら

2016/02/09 エンゲージメントを促されるパッシブ運用機関

 機関投資家の運用手法には、大きく分けて「パッシブ運用」と「アクティブ運用」がある。パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。ところが、この常識が今後変わっていく可能性がある。

 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は先月(2016年1月)28日、「平成27年日本版スチュワードシップ・コードへの対応状況について」を公表したが、ここには、パッシブ運用機関に対してもエンゲージメントを促そうというGPIFの姿勢が明確に表れている。具体的には、・・・

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