報酬委員会は「社長」or「取締役会」どちらの下に置くべき?
「役員報酬」「経営者報酬」というと(本稿では「経営者報酬」に統一します)、従来は人事的な側面から語られることが多かったのですが、特に2015年6月からコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」)が施行されて以降は、ガバナンスの観点から注目を集めるようになりました。
経営者報酬のあり方にはどの企業にも当てはまる「正解」があるわけではありません。業界及びその中での自社の位置づけ、ビジネスモデル、固有のカルチャー・・・等々、その企業の置かれた状況により正解は異なってきます。そのような中で、自社の経営者報酬制度の妥当性についてきちんと説明責任を果たすための仕組みが「報酬(諮問)委員会」です。CGコードでも任意の仕組みとしての「報酬(諮問)委員会」の設置が提案されています(補充原則4-10①)。
指名委員会等設置会社であれば法定の報酬委員会が存在しますので、本稿では監査役(会)設置会社または監査等委員会設置会社における“任意の”報酬(諮問)委員会の設置にあたって、主にCGコードとの関連から検討すべき点について解説しますが、任意の報酬(諮問)委員会は法的な権限を持たないが故に、ガバナンス上の有効性を説明する上では、その位置づけを明確にしておくことが重要になります。
しばしば見受けられるのが、報酬(諮問)委員会が「社長や代表取締役の諮問機関」とされているケースです。CGコードの補充原則4-10①では、任意の報酬(諮問)委員会は、「取締役会において社外取締役が過半数を占めない場合」に、「取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任の強化のために資するもの」と整理されています。また、当該補充原則における「例えば、取締役会の下に(中略)任意の諮問委員会を設置することなどにより(中略)、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。」という例示や、社長等による“お手盛り”を防止し、役員等の報酬決定プロセスを透明化するという報酬(諮問)委員会の役割に照らして考えれば、社長や代表取締役ではなく、「取締役会」の諮問機関として設置するべきでしょう。
構成メンバーはどうすべき?
CGコードの補充原則4-10①に「例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。」とあるように、同原則は、独立社外取締役の報酬(諮問)委員会への参画を念頭に置いています。これは、外部の視点を入れることで、報酬(諮問)委員会の客観性、透明性を担保するためです。報酬の決定において独立社外取締役を交えた委員会での議論というプロセスを経ることで、投資家への説明責任を果たす上でも、より説得力が増すことになります。かつては、任意の報酬(諮問)委員会のメンバーが経営トップ(会長や社長)と人事担当の取締役など、社内の取締役だけで占められているケースもありましたが、今や投資家がそれを許さなくなってきています。もし報酬(諮問)委員会のメンバーを担う独立社外取締役が足りない(後述するように、CGコードでは、報酬(諮問)委員会のメンバーとして2名以上の独立社外取締役を念頭に置いていると考えられます)というのであれば、報酬(諮問)委員会の設立よりも、独立社外取締役の選任の方が優先課題になります。
報酬(諮問)委員会のメンバーとしては、独立社外取締役と同じく「独立社外役員」である社外監査役も考えられますが、報酬(諮問)委員会に参画することが監査役の職務としてそもそも相応しいのかという問題があります。監査役の第一義的な職責は「業務の適法性」を監査することにあるからです。また、報酬(諮問)委員会を取締役会の諮問機関と位置付けるならば、社内の業務執行の意思決定機関たる取締役会において議決権を有する人物こそ、報酬(諮問)委員会のメンバーとして相応しいと考えられますし、取締役は株主の代理人として実際に株式会社の経営を行い、株主に対して善管注意義務を負っているという点からも、メンバーになることが望ましいと言えるでしょう。実際、社外監査役が報酬(諮問)委員会のメンバーになっているケースは極めて少ないのが現状です。仮に社外監査役を活用するのであれば、議決権を持たないオブザーバーとして参画することはあり得るかもしれません。
また、上述のとおり、CGコード上は独立社外取締役を「主要な構成員」とすることが明示されています。「主要な」の意味するところとしては、①メンバーの数的割合の問題、②委員長を社外取締役にするのかどうかという問題、の2つが考えられます。①、②いずれについても、コード上明示的な言及はありません。この点は企業の判断に委ねられることとなりますが、少なくとも複数名、即ち2名以上の独立社外取締役の参画が念頭に置かれているものと考えられます。
一方、社内のメンバーについてはどうでしょうか。結論から言うと、最低でも1人は必要であると考えられます。詳しくは後述しますが、報酬(諮問)委員会においては業務執行を担う取締役の報酬をどうすべきかということが最も直接的な議論の対象となることを考えれば、業務執行サイドの意見も反映させるのは理にかなっています。例えば経営トップ(社長など)は、社内メンバーの人選としてあり得るでしょう。
「誰の」「どの」報酬を審議の対象とする?
報酬(諮問)委員会に実効性を持たせるためには、報酬(諮問)委員会という会議体、いわば“ハコ”を設置するだけでは不十分で、その中身を充実させる必要があるのは言うまでもありません。
では、報酬(諮問)委員会では具体的に何を審議するのか、つまり「誰の」「どの」報酬を審議の対象とするのでしょうか?
まず「誰の」報酬を審議の対象とするかですが、CGコードの補充原則4-10①には「経営陣幹部」という言葉が出てきます。コードの趣旨を踏まえれば、審議の対象と「経営陣幹部」の範囲が整合していることが自然ですので、審議の対象は「経営陣幹部の報酬」ということになります。
ただ、「経営陣幹部」の定義はCGコード上特にありませんので、「経営陣幹部」の範囲を各社で決める必要が出てきます。経営陣幹部に含まれる者としては、業務執行を担う取締役が真っ先に想起されますが、それだけに留まりません。多くの監査役(会)設置会社または監査等委員会設置会社において存在する執行役員、子会社役員、持株会社等において直接的に事業を担う傘下の事業会社役員、外国人役員、監督を担う役員(監査役や社外取締役)等々――これらの者を「経営陣幹部」に含めるのか否かを決める必要があります。どこまでを「経営陣幹部」と考えるかは会社によって異なります。
次に、「どの」報酬を審議の対象とするかですが、外せないのは、「月々固定的に支給される基本報酬」「年度の業績に応じて現金で支給される業績連動賞与」「ストックオプション等に代表される長期インセンティブ報酬」といった「在任時報酬」です。一方、例えば取締役を退いた後に就任する「相談役」「顧問」といったポジションの報酬や退職慰労金など「退任後報酬」のほか、役員に対する何らかのベネフィット(例えば、社宅や住宅手当、ゴルフ会員権など)についても審議の対象とするかどうかは、議論のあるところでしょう。
「在任時報酬」「退任後報酬」ともに制度のあり方は各社各様ですので、審議すべき事項は会社によって大きく異なっているのが実態です。緻密なフォーミュラ(公式)に基づく業績連動報酬を導入していたとしても、例えば経営努力に拠らない事象(急激な為替変動、地震等の天変地異など)やM&A、企業不祥事などが発生した場合には、その影響を報酬に反映させるべきなのか否かなど、報酬に関する意思決定において何らかの定性的な判断が必要になることもあります。
他社はどこまで開示している?
報酬(諮問)委員会では、文字通り「報酬」というセンシティブな問題が議論されます。では、ここで議論された内容は、投資家をはじめとする外部への説明上、「何を」「どこまで」開示するべきでしょうか。
CGコードでは情報開示の充実が謳われており、開示すべき事項として「取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続」も挙げられています(原則3-1(ⅲ))。報酬(諮問)委員会は、この「手続」そのものに他なりませんので、企業による主体的な開示が望まれていると考えられます。といっても、ここまで述べてきた内容を事細かに開示する必要は必ずしもありません。開示項目として見られる実例は、①委員会そのものの有無、②委員会の位置付け、③構成メンバーの人数及び属性(社内/社外の別、取締役なのか監査役なのか、それとも社外の第三者なのか)、④審議の概要(例えば、報酬の基本方針や報酬水準、業績連動報酬の支給額の算定方法、個人別の支給額)、⑤年間の開催頻度、等です。もっとも、開示すべき内容は必ずしもこれらの項目に留まるわけではありません。また、それぞれの項目をどこまで詳らかに開示するかは、企業の判断に委ねられることになります。
事務局はどの部門が担うべき?
上述のとおり報酬(諮問)委員会のメンバーは基本的に「取締役」が想定される中、委員会を円滑に運営していく上では、委員会回りの実務を直接担当する「事務局」も同時に設置すべきでしょう。
誰が(どの部署が)事務局を担うのかは各社各様ですが、基本的には社内で経営者報酬を管轄する部署がその任にあたることになります。実例として良く見られるのは、秘書室(部)、人事部、経営企画室(部)といったところです。もっとも、経営者報酬は企業のトップシークレットの一つであるが故に、規模がそう大きくない企業の場合、人事担当のトップ(取締役または執行役員)が一人で担当し、細かい実務まで全てその人が握っているという極端なケースもあります。
実務として想定されるのは、委員会のスケジュール管理、審議項目等に関する資料の作成、社内調整等ですが、その中身は会社法などの法律を含む各種規制、開示ルール、会計、税務等多岐に亘ります。そのため、必ずしも事務局の中だけで完結するとは限らず、時には法務部や経理部を巻き込んだ部門横断的な対応も必要となる点は留意が必要です。
また、監査等委員会設置会社の場合、監査等委員会に報酬(諮問)委員会と同等の機能を持たせるか、それとも別個の会議体として報酬(諮問)委員会を設置するか、という論点があります。監査等委員会に報酬(諮問)委員会と同等の機能を持たせれば、同一の委員会で報酬についても審議出来ますので、メンバー参集の手間や事務局の事務負担はある程度軽減できるかもしれません。2015年5月1日に施行された改正会社法では、監査等委員会には監査等委員以外の取締役の報酬についての意見陳述権が与えられている(会社法342条の2 第4項、361条6項)ことを踏まえると、報酬に関する意見形成の場としての監査等委員会の活用には一定の意義がありそうです。
一方で、例えば監査等委員以外の社外取締役がいる場合のその活用方法、業務執行サイドの取締役がメンバーに含まれないことの是非(監査等委員会は3名以上で、そのうち社外取締役が過半数であることが求められますが、実際には社外取締役だけで構成されていることもあります)、などの論点は一度議論しておきたいところです。
任意の報酬(諮問)委員会自体は、CGコードの施行前から実例が存在しました。ただ、その委員会において中身のある議論が行われていたかと言えば必ずしもそうではなく、報告だけの“シャンシャン委員会”だったり、都合の悪い話は報酬(諮問)委員会の議題にかけないケースすらあったようです。経営者報酬がガバナンスの観点から語られるようになった今、役員は、報酬(諮問)委員会という“ハコ”の存在そのものがアピールとなり得た時代はもはや終わったということを肝に銘じておく必要があります。