このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
2015/12/29 【失敗学第19回】黒田電気の事例(会員限定)
概要
“村上ファンド”(C&Iホールディングス。以下、C&I)から社外取締役就任を提案された黒田電気は、2015年8月開催の臨時株主総会に先立ち、 “村上ファンド”からの提案に反対する旨の「自生会 従業員一同」名義の声明文を自社のウェブサイトで公表した。後日、当該声明文が虚偽であった(実際は従業員一同の意思を表明するものではなかった)ことが判明した。
自生会 : 黒田電気の国内拠点に所属する役員および従業員の懇親活動を行う組織。構成員は約350名。
経緯
黒田電気(指名委員会等設置会社制度を採用)が2015年11月に社外調査委員会の調査報告書を公表するまでの経緯につき、時系列で示すと、次のとおり。
<2014年>
12月22日:C&Iが黒田電気の株式の5.33%を取得し、関東財務局長に大量保有報告制度に基づく大量保有報告書を提出。
大量保有報告制度 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。
特例報告制度 : 事前に届け出た「月2回の基準日」において、「大量保有報告書(変更報告書)」の提出義務を判断し、当該基準日から5営業日以内に報告書を提出すればよいとする制度。
<2015年>
1月~7月:C&Iが黒田電気の株式を買い進め、7月10日時点で発行済株式の16%を保有するに至った。
4月:C&Iの代表取締役村上絢氏が黒田電気の創業者の子である黒田電気元代表取締役社長E氏に接触(E氏が経営する代官山のレストランに食事客として来訪)。
5月1日:E氏がC&Iを訪問。
5月7日:C&Iの代表取締役村上絢氏が黒田電気に電話をかけ、株主名簿の交付を求める。
5月15日:黒田電気のH執行役は、本社に来社した村上絢氏に株主名簿を交付する。
6月2日:村上絢氏の父親である村上世彰氏からの要求で、黒田電気の会長と村上世彰氏の面談が行われる(黒田電気側:会長およびH執行役他1名、C&I側:村上世彰氏および村上絢氏他1名)。面談では、2012年12月に黒田電気が発行した新株予約権付社債(以下、CB)の発行の適否が議論される。また、C&I側から、今後、社外取締役の選任提案を行うことが示唆される。
6月3日:村上世彰氏と村上絢氏がE氏のレストランに食事客として来訪し、E氏にC&Iの主張を支持する立場で文章を寄稿するよう依頼。E氏の作成した書面は7月10日付でC&Iのウェブサイトに掲載・公表される。
6月5日:村上世彰氏からの要求で、黒田電気の社長と村上世彰氏の面談が行われ、株主への利益還元のあり方、CBの発行の適否が議論される。また、C&I側から、業界(電子部品・半導体商社業界)の再編を実施したい旨の要望が出され、その実施に“有用”な社外取締役の候補者の提案が行われる。
6月10日:黒田電気のI経営企画本部長が村上絢氏と面談し、村上絢氏よりC&Iの事業内容および資本政策等について説明を受ける。
6月12日:黒田電気がC&Iに事業再編の提案を断る旨のFAXを送信する。その後、黒田電気とC&Iの間でやり取りが幾度か行われる。
6月26日:黒田電気が定時株主総会を開催。C&Iは、定時株主総会の場では何ら株主提案を行うことはなかったものの、定時株主総会終了後に黒田電気のH執行役等に臨時株主総会招集請求書を手渡す。C&Iは議案として村上世彰氏等の取締役選任を提案。
6月29日:黒田電気はC&Iより臨時株主総会招集請求があったことをリリース(こちらを参照)。
7月10日:黒田電気の取締役会は、C&Iの提案する議案に会社として反対することおよび臨時株主総会の開催日を8月28日にすることを決定(リリースはこちら)。なお、臨時株主総会の開催日を8月28日としてしまうと、招集請求を受けた日から8週間以内に臨時株主総会を開催しなければならないとする会社法の規定(会社法305条)に違反してしまうことが発覚し、開催日を8月28日から8月21日に変更する。
8月3日:黒田電気のB社長、H執行役およびI経営企画本部長が議決権行使助言会社と電話会議を行う。
8月4日:黒田電気がIR支援のアドバイザリー会社に助言を求めたところ、今後の対応策として次の5点が考えられるとの助言を得た。
①社外取締役からのアプローチ
②有識者コメント
③従業員からの反対声明
④主要取引先からの声明
⑤大手機関投資家からの声明
8月4日:黒田電気H執行役がJ法務・知的財産課長に従業員一同による声明文の文案の作成を指示。
8月5日:黒田電気のウェブサイトに株主提案議案に反対する趣旨の「自生会 従業員一同」名義の声明文が公表される。
8月6日:議決権行使助言会社(ISS)がC&Iの株主提案議案に賛成する旨のレポートを公表(それについての黒田電気のリリースはこちら)。
8月7日:別の議決権行使助言会社(グラスルイス)がC&Iの株主提案議案に反対する旨のレポートを公表(それについての黒田電気のリリースはこちら)。
8月7日:黒田電気がISSのレポートに反論(リリースは上記(8月6日)を参照)。黒田電気では社長等が分担して国内外の機関投資家を訪問し、会社としての立場を説明し、それに対する理解を促す等の反対票獲得に向けた活動を実施。
8月10日:黒田電気が海外の機関投資家株主向けにISSのレポートへの反論文(英文版)を公表。
8月21日:黒田電気で臨時株主総会が開催され、C&Iの株主提案議案は反対票が6割を超え否決される。
8月29日:C&Iは黒田電気の各取締役に「黒田電気経営幹部の関与する不正について」と対する書面を送付し、8月5日付の「声明文」に不正があったとして調査を求める。
9月3日:H執行役およびI経営企画本部長は、8月5日に公表した声明文が自生会としての総意であることを示すために、「私ども黒田電気自生会は、本年8月5日付で「声明文」を公表し、8月21日に開催予定(当時)の臨時株主総会での取締役選任議案への反対を表明いたしました」との書面を作成し、自生会の幹部である5名の署名を得たうえで公表した。
9月3日:C&Iは9月3日に公表された自生会幹部作成の書面が事実と相違していると指摘し、日本取引所自主規制法人に調査依頼を行う。
9月4日:新聞各紙が「黒田電気の従業員による株主提案への反対声明は捏造」と報道。
9月4日:I経営企画本部長は日本取引所自主規制法人からの電話問い合わせを受け、「声明文のねつ造は事実無根」と回答。電話の後、日本取引所自主規制法人から回答内容を確認するメールがI経営企画本部長宛に送付されるが、それに対しても「声明文の公表に先立ち、従業員の意見を事前に集約していた」と虚偽の回答をした。
9月10日:黒田電気の監査委員会は、外部の専門家に調査を依頼するのが適切であると判断し、社外調査委員会の設置を決定。社外調査委員会は9月10日から11月27日まで調査を実施。
11月27日:社外調査委員会が調査報告書を黒田電気監査委員会に提出し、黒田電気は調査報告書を公表した(こちらを参照)。
内容・原因・改善策
黒田電気が2015年11月27日に公表した社外調査委員会の調査報告書および12月18日に公表した「「従業員声明文問題に関する調査報告書」を受けた再発防止策について」によると、本件の問題点の内容とその原因、改善策は次のとおりである。
虚偽の声明文の公表
| 内容 | 黒田電気は、C&Iが行った株主提案への対抗策として、経営者だけでなく従業員もC&Iの株主提案に反対している旨を「自生会 従業員一同」名義の声明文の形で公表した。しかし公表された声明文は、実際のところ従業員の意思を確認したものではなかった。 |
| 原因 | ・黒田電気のH執行役がJ法務・知的財産課長に対して従業員一同による声明文の文案の作成を指示した。その意図は、従業員全員が株主提案に反対している旨を示すことで議決権行使助言会社の意見を黒田電気にとって有利なものに導くためであったと推測される。 ・J課長は「黒田電気には労働組合がないことから、親睦会である自生会の名義とするのが説明しやすい」と考え、「従業員一同」に加え「自生会」も名義人とする声明文の文案を作成した。 ・社外調査委員会の調査報告書によると、A会長およびB社長が事前にH執行役に指示し、またはH執行役からその旨の報告を受けていた事実をうかがわせる証拠は存在するが、それに反する証拠もあり、これらを総合すると、そのような事実を認めることはできないとしている。 ・法務・知的財産課に所属する課員は、事前に自生会の確認を取っておいた方が良いのでは考え、H執行役およびJ法務・知的財産課長に口頭で進言したものの、進言は受け入られなかった(なおH執行役やJ法務・知的財産課長は社外調査委員会の調査に対して「そのような進言を受けたことは記憶にない」と回答している)。 ・H執行役は「本件声明文の内容は、D自生会会長を含む全ての自生会会員・全従業員の意思と合致するものと推定でき、そのように考えて了承を得ずに公表したことに問題はなく、捏造とはいえない」と考えていた。 |
| 改善策 | (1)「ディスクロージャー規程」の制定 適時開示に留まらず、株主、投資家、取引先をはじめ、広く社外に会社情報を開示する場合における社内部門の役割分担、担当者の手順、社内承認ルート・手続きなどを定めた「ディスクロージャー規程」を社内規程として制定し、運用を開始。 (2)開示担当者のトレーニング 開示に関わる担当者に対し、研修会などにより上記規程内容を熟知させ、必要に応じて、東京証券取引所が開催する適時開示に関するセミナーに参加させる。 (3)コンプライアンス行動規範の徹底周知 黒田電気グループの企業行動の基本としている「黒田電気グループコンプライアンス行動規範」には株主・投資家に対する正確な情報を迅速に開示することが定められており、経営トップ自らのメッセージ発信などにより、改めて同行動規範遵守の徹底を呼びかける。 |
<この失敗から学ぶべきこと>
黒田電気が関東財務局に提出した大量保有報告書および変更報告書によると、C&Iの黒田電気株式の保有目的は、C&Iが黒田電気の株式を取得し始めた当初(2014年12月)は「純投資」でしたが、2015年6月に「投資及び状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為を行うこと」に変更されました。その間、じわじわと株を買い進められた黒田電気側としては、C&Iが何とも気疎い存在に見えたことでしょう。
それだけに焦ってしまったのでしょうか。黒田電気は虚偽の声明文を公表してしまうという過ちを犯してしまいました。これが議決権行使助言会社のレポートや株主の投票結果にどのような影響を与えたのかは、今となっては知るすべもありませんが、黒田電気側にとって有利な影響を与えたことは容易に推測できます。また、この過ちで、2015年8月の臨時株主総会でいったんは“敗北”したC&Iに反撃の材料を与えてしまったのも事実です。実際にC&Iは「今後、黒田電気は、当然のことながら、株主に対して説明責任を果たしていただくとともに、このような不祥事が再発しないように、株主を代表する社外取締役を選任し、黒田電気のコンプライアンス意識およびコーポレートガバナンスの向上を速やかに行う必要がある」として、改めて「数名の社外取締役を追加選任することを強く申し入れる」としています(こちらを参照)。
“物言う投資ファンド”から株式を買い進められた上場会社としては、虚偽の声明文などに頼ることなく、正々堂々と従業員に対して株主提案についての意思を尋ねるべきです。また、普段から従業員満足度の向上に努めていれば、“有事”の際に従業員からの協力を得やすくなります。さらに、従業員満足度の向上は生産性の向上をもたらします。生産性の向上により利益が増えれば、“物言う投資ファンド”が手出ししにくい高株価企業にもなれるでしょう。
経営陣は、“物言う投資ファンド”に対して付け焼刃の策で対応するのではなく、平時における備えに注力すべきです。今のところ“物言う投資ファンド”とは無縁の会社の経営陣も、その状況に甘んじるのではなく、「いずれは我が身」といった危機感を持ち続けることが求められています。
2015/12/28 【2015年12月の課題】報酬委員会設置時の留意点
2015年12月の課題
東証一部に上場する中堅メーカーのA社は、コーポレートガバナンス・コードで会社業績と役員報酬の連動性が求められていることを受け、役員報酬体系を見直すとともに、報酬の透明性を高めるため、報酬委員会の設置を検討することになりました。ただ、報酬委員会のメンバーをどうするのか等、設置にあたっての詳細はノーアイデアの状態です。自社に適した報酬委員会を設置するにはどのような点に留意すればよいのでしょうか。また、投資家が納得する報酬委員会とはどのようなものでしょうか。
貴方の考えを述べてください。
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
2015/12/28 【2015年11月の課題】大手機関投資家の投資を呼び込むための手立て:解答(会員限定)
機関投資家の投資銘柄
まず、機関投資家はどのような銘柄を保有しているかという点から解説しましょう。
機関投資家がどのような銘柄に投資を行っているかは、機関投資家(運用会社)のホームページに掲載されているファンド情報を見るとある程度分かりますが、投資の全体像を把握することは困難です。機関投資家が時折開示する大量保有報告書を見ると、中堅企業の名前が少なからず並んでいることから、機関投資家は中堅企業を中心に投資しているように思われるかも知れませんが、実態は異なります。
大量保有報告書 : 上場株式等を5%を超えて保有した場合に、金融商品取引法に基づき、財務(支)局に提出が求められる書類。
まず外国人投資家の保有銘柄を分析すると、その大半は彼らがベンチマークとしているMSCIジャパンインデックスの構成銘柄となっています。一方、国内機関投資家はTOPIX中心、特に時価総額上位500銘柄に集中して保有しているのが実態です。つまり、機関投資家は上場している全ての銘柄ではなく、自分たちの運用評価の対象となるベンチマークの構成銘柄を中心に調査を行い、当該調査に基づき投資を行っているのです。
ベンチマーク : 運用成績を評価する基準となる指数のこと。ファンドマネージャーは最低限この指数(ベンチマーク)の騰落率を上回る運用成績を残すことを目標にする。
TOPIX : 東証一部上場の全銘柄の動きを反映した株価指数のこと。
外国人投資家がベンチマークとしているMSCIジャパンインデックスは、日本を代表する大型株約300銘柄で構成されています。つまり、中堅あるいは小型と言われる企業で外国人投資家が多いというのは、例外的なケースなのです。
また、上述のとおり国内機関投資家が保有する銘柄の大半は時価総額上位500位程度までとなっているのが実態ですが、これには3つの大きな理由があります。第1に、ベンチマークとなる指数とのかい離リスクを考えた場合、どうしても時価総額上位銘柄を中心に保有せざるを得ないということです。第2に、銘柄を調査するアナリストのリソースの問題です。通常、リストのカバレッジは20〜30銘柄です。アナリストは担当業種に属する企業の詳細な業績予想を作り常にそれをアップデートするため、これ以上の銘柄をカバーするのは、調査の質を落とさない限り不可能です。スチュワードシップ・コードに基づく企業とのエンゲージメント(対話)が増加すれば、カバレッジは益々少なくなるでしょう。大手運用会社であっても日本株のアナリストが20名を超えることは稀であり、調査対象は300〜500銘柄程度とならざるを得ないのです。第3の理由は流動性です。ファンドで銘柄を保有するにあたっては、ある程度の保有ウェイトが必要です。なぜなら、あまりに保有ウェイトが小さいと、たとえその銘柄の株価が大幅に上昇したとしてもファンドのパフォーマンスに与える影響も小さいため、そもそも保有する意味がないからです。したがって、ファンドである程度のウェイトを持とうとすると、どうしても一定規模以上の投資が必要となり、結果として投資先企業の時価総額がある程度以上あることが前提になるのです。
まずは中小型株ファンドからの投資を受けることが第一歩
とはいえ、機関投資家にとっても、成長企業への投資は魅力的です。実際、機関投資家の間では、高成長が期待できる中堅企業をいかに発見するかということが常に課題となっています。しかしながら、自分達に対する運用評価のことを考えると大型株への投資を優先せざるを得ず、また、リソースの問題からなかなか中堅企業までリサーチできないというジレンマがあります。
このような状況にある機関投資家にアピールし、投資を促すのは簡単なことではありませんが、そのきっかけとなるのが「中小型株ファンド」です。中小型株ファンドは大規模なファンドに比べてアナリストのカバレッジも厳密に定められていませんので、アナリストは幅広い企業を対象に、“銘柄発掘型”のリサーチを行っているのが一般的です。したがって、中堅企業としては、最終的には運用会社のコアである大規模なファンドに保有されることを目標としつつも、まずは中小型株ファンドに保有されることを目指すのがよいでしょう。
中小型株のファンドマネージャーやアナリストは、大型株のそれらに比べて特定の業界・事業を深く理解しているわけではありませんが、幅広い企業に取材を行っているため、多くの「ケーススタディー」を積み重ねています。また、周囲と積極的に意見交換したり、様々なアドバイスをしたりするタイプの人が多いのも特徴です。したがって、そのようなファンドのマネージャーが投資を開始する意味は非常に大きいと言えます。彼らの動きは必ず大規模ファンドの運用者にも伝わるからです。
このように、中小型株ファンドによる投資が、運用会社のコアとなる大規模ファンドのファンドマネージャーやアナリストが当該銘柄に興味を持つきっかけとなるのです。もちろん、中小型株ファンドが投資を行っていても大規模ファンドによる保有に至らない銘柄は多数あります。しかし、中小型株のファンドのマネージャーが見向きもしない銘柄を大規模ファンドが保有することもないのです。
大規模ファンドによる保有比率を上げるには?
中小型株ファンドからの投資は、機関投資家による投資の第一歩ではありますが、中小型株ファンドは規模も小さいことが多く、有事における影響力も大きくありません。
やはりイザという時には、機関投資家のメインである大規模ファンドに株式を保有されていることが有効に働きます。大規模ファンドが中堅企業に投資するということは、大型株を保有する場合と異なり、必ず積極的な意味を持っています。したがって、一度何か有事が起こると、機関投資家も真剣に対応します。仮に企業価値を大幅に毀損する可能性のある株主提案がなされた場合などは、単純に株主提案に反対するだけでなく、企業の対応にもアドバイスを行うのが一般的です。つまり、有事の際には、他の投資家や議決権行使助言会社の考え方を知り尽くしている機関投資家の存在が大いに頼りになる可能性が高いのです。
大規模ファンドからの投資を促すためには、長期にわたる安定的な成長への確信と経営者への信頼を持ってもらう必要があります。大規模ファンドが長期にわたって保有できる中堅企業は、安定性が高く、かつ長期的に見て高成長が期待できるところです。また、長期で保有する以上、経営陣への信頼が投資の大前提となっています。自社の成長に自信のある企業は、社長のリーダーシップを前面に出しながら、その成長ストーリーを積極的に開示していくべきでしょう。
高成長が見込めない企業は何をするべきか?
では、高成長が見込めない企業はどうすればよいのでしょうか。
高成長企業として注目されるほどではありませんが、安定的な業績を上げている株価が割安な日本企業は多数あります。このような企業は、安定株主に守られているところも多いのですが、一般論としてはアクティビストから最も狙われやすいと言えます。このような企業は投資家との対話の機会も少ないことから、アクティビストが突然登場すると戸惑うことが多いでしょう。
こうした場合に頼りになるのは、資本市場の論理を理解したうえでアクティビストと対話のできる人材です。日本ではまだ珍しいものの、欧米では資本市場出身者を社外取締役に迎えるのは一般的となっています。特に英国などでは、筆頭社外取締役が社外のステークホルダー、特に投資家とのミーティングを行うことから、「資本市場を理解している社外取締役」の存在は重要視されています。日本ではまだ社外取締役と投資家とのミーティングは稀ですが、既に幾つかの企業では実例も出てきています。また、欧米ではガバナンス関係のミーティングは経営陣よりも社外取締役と行った方が客観性が高いと考えられており、今後は日本でも、ガバナンスがテーマとなる投資家とのミーティングには社外取締役が臨む事例が増える可能性があります。
筆頭社外取締役 : 英国のコーポレートガバナンス・コードではSID(シニア・インディペンデント・ディレクター)と言われ、取締役会議長(英国では社外取締役が就任する)の評価のほか、取締役会を自己評価する役目も担う。このSIDの日本版とも言えるのが、日本のコーポレートガバナンス・コードに盛り込まれた「筆頭独立社外取締役」である(補充原則4-8②)。
投資家出身の社外取締役は投資家の論理を理解しているため、このような人材を社外取締役に抱えることは、優良な機関投資家の投資を受けるのと同等、場合によってはそれ以上の効果を持ちます。機関投資家と言えども、スチュワードシップ・コードの受入れにより、たとえ経営陣の意見と異なる株主提案であっても、それが企業価値にプラスであると考えられる場合には、賛成に回ることも十分考えられます。したがって、企業は単に保有構造により守りを固めることのみならず、投資家の意見を理解したうえで、投資家が拠り所とする「企業価値」をベースとした対話に対応できる体制(資本市場出身の社外取締役の選任など)を整えておくことが重要と言えるでしょう。
2015/12/25 英語の社内公用語化の是非
TOEICの受験者数が増加を続けている。楽天やユニクロが「英語の社内公用語化」を打ち出した2010年を境に受験者数が急増、TOEICスコアを昇進の条件にする企業も増えており、企業の英語ニーズが受験者数を押し上げる大きな要因になっているとみられる。
出典:一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会
今年6月にはホンダが英語の社内公用語化を打ち出すなど、今後もグローバル企業を中心に英語重視の流れは加速していくことが予想されるが、「公用語化はやり過ぎでは」との意見も少なくない。
既にグローバル化した欧米企業を見てみると、たとえドイツやフランスなどから発祥した企業であっても、社内の共通言語はドイツ語やフランス語ではなく英語となっている。これは、ドイツ系だろうがフランス系だろうが、「英語は必ず必要」だということを意味している。欧米のグローバル企業では、「英語能力」が問われることすらない。もちろん、TOEICのスコアも関係ない。そこでは、英語で完全なコミュニケーションできることは当然の前提になっているためだ。日本企業が日本人を採用する際に日本語能力テストを求めることがないのと同じである。
実はこうしたグローバル企業で問われるのは・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
2015/12/25 英語の社内公用語化の是非(会員限定)
TOEICの受験者数が増加を続けている。楽天やユニクロが「英語の社内公用語化」を打ち出した2010年を境に受験者数が急増、TOEICスコアを昇進の条件にする企業も増えており、企業の英語ニーズが受験者数を押し上げる大きな要因になっているとみられる。
出典:一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会
今年6月にはホンダが英語の社内公用語化を打ち出すなど、今後もグローバル企業を中心に英語重視の流れは加速していくことが予想されるが、「公用語化はやり過ぎでは」との意見も少なくない。
既にグローバル化した欧米企業を見てみると、たとえドイツやフランスなどから発祥した企業であっても、社内の共通言語はドイツ語やフランス語ではなく英語となっている。これは、ドイツ系だろうがフランス系だろうが、「英語は必ず必要」だということを意味している。欧米のグローバル企業では、「英語能力」が問われることすらない。もちろん、TOEICのスコアも関係ない。そこでは、英語で完全なコミュニケーションできることは当然の前提になっているためだ。日本企業が日本人を採用する際に日本語能力テストを求めることがないのと同じである。
実はこうしたグローバル企業で問われるのは「英語以外」の言語である。英語はできて当たり前だが、その他の言語は、ローカルマーケットに参入する際に役立つ。この点からすると、日本のGDPはいまだ世界3位であり、グローバル企業において日本語ができるということは極めて大きな強みになる。これは、シンガポールやインドなど英語がほとんど母国語になっている国の出身者でも、日本語ができなければ日本の労働市場に参入することが難しいことからも分かる。英語の社内公用語化によって日本語を軽視したり、ましてや全否定することなどは、グローバル企業の基準ではないということは知っておきたい。
そもそも、「社内公用語化」を掲げたとしても、ビジネスレベルの英語力を持つ社員を育成するにはかなりのコストと時間がかかる。社員に「TOEIC700点以上」を課す企業は多いが、現実問題として、TOEIC700点では本格的なビジネス英語への対応は困難だ。日本語の軽視によって、ビジネスレベルで通用する英語力もなく、日本語のコミュニケーション力も低いというどちらも中途半端な社員を生まないようにするためには、英語と日本語の使用頻度のバランスがとれていることが必要だろう。
また、真の英語力を持つ人材へのニーズが益々高まっていくと見込まれる企業は、社員の英語力の向上を待っていては追いつかない。海外の大学を卒業した日本人、日本語ができる外国人を採用するなど、採用戦略から見直す必要があろう。
2015/12/24 (新用語・難解用語)インクルージョン(Inclusion)
価値観や社会的・文化的背景、嗜好の違いから生じる差別や(明示的か暗黙的化を問わず)排斥行為をなくし、多様な人材が組織に参加することを目指す取組みのこと。インクルージョン(Inclusion)は「包含」「包括」「算入」といった意味を持つ。
「多様な人材が組織に参加する」というと、「ダイバーシティ」を思い浮かべる向きもあろう。しかし、ダイバーシティは、女性や外国人、LGBTなど多様な人材を積極的に活用し、これを競争優位の源泉にしようという考え方であり、どちらかというと「多様性のある環境の確保」に主眼が置かれているのに対し、インクルージョンはダイバーシティを一歩進め、多様な人材が実際に組織に参加し、価値を発揮できるようにするための「マネジメント」に主眼を置いている。たとえダイバーシティを確保しても、インクルージョンが伴わなければ、ダイバーシティは「絵に描いた餅」となる。その意味で、インクルージョンはダイバーシティの“実践編”といえ、それゆえ「ダイバーシティ・マネジメント」と呼ばれることもある。
LGBT : レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)を総称する造語。
女性管理職や女性取締役の比率について目標値を設定している企業は少なくないが、このような数字先行型のダイバーシティが推進される場合、・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
2015/12/24 (新用語・難解用語)インクルージョン(Inclusion)(会員限定)
価値観や社会的・文化的背景、嗜好の違いから生じる差別や(明示的か暗黙的化を問わず)排斥行為をなくし、多様な人材が組織に参加することを目指す取組みのこと。インクルージョン(Inclusion)は「包含」「包括」「算入」といった意味を持つ。
「多様な人材が組織に参加する」というと、「ダイバーシティ」を思い浮かべる向きもあろう。しかし、ダイバーシティは、女性や外国人、LGBTなど多様な人材を積極的に活用し、これを競争優位の源泉にしようという考え方であり、どちらかというと「多様性のある環境の確保」に主眼が置かれているのに対し、インクルージョンはダイバーシティを一歩進め、多様な人材が実際に組織に参加し、価値を発揮できるようにするための「マネジメント」に主眼を置いている。たとえダイバーシティを確保しても、インクルージョンが伴わなければ、ダイバーシティは「絵に描いた餅」となる。その意味で、インクルージョンはダイバーシティの“実践編”といえ、それゆえ「ダイバーシティ・マネジメント」と呼ばれることもある。
LGBT : レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)を総称する造語。
女性管理職や女性取締役の比率について目標値を設定している企業は少なくないが、このような数字先行型のダイバーシティが推進される場合、インクルージョンが疎かになりやすい。実際、男性社員が「自分の方が能力が高いのに、数値目標があるから昇進したのではないか」といった不平・不満を抱くケースは少なからず見られ、女性管理職・幹部の意見を真剣に聞かないなどの排斥行為に走りがちだ。このような状況では、いくらダイバーシティを図っても、本人がその能力・特性を発揮することができず、その結果、企業もダイバーシティの効果を十分に享受することができない。場合によっては、企業にダイバーシティもたらす貴重な人材の退社につながる恐れもあろう。ダイバーシティ先進国の英国でも同じ職務における男女間の賃金格差が問題になるなど(2015年7月29日のニュース「取締役会の女性比率25%達成の英国、次は賃金格差の公表義務付け」参照)、インクリュージョンが実現しているとは言い難い状況にある。
では、このような事態を避けるため、経営陣は何をすればよいだろうか。
まず重要なのは、経路依存症とも言えるような画一的・固定的な行動パターンを要求しないということだろう。社内に存在する画一的・固定的な行動パターンは、「人と違うこと」を排斥する行為につながりやすい。多様な人材に対し、その人らしい仕事の仕方、発想、組織との関わり方を許容する度量を、経営陣が自ら示すべきだ。
もっとも、組織のビジョン、目指す方向性とズレた多様性まで許容せよということではない。多様性と言っても、組織のビジョンや目指す方向性と一致していることが大前提となる。これを実現するためには、経営陣がビジョンや方向性を常に語り、組織に浸透させる必要がある。全役職員がビジョンや方向性を共有することで、インクルージョンを生む組織の一体感も生まれることになろう。
2015/12/22 パフォーマンス・シェア、日本では普及しない恐れ
2015年12月11日のニュース「ついに日本でも株式報酬の支給が可能に!」でもお伝えしたとおり、金銭報酬債権の現物出資スキームを使って支給する株式報酬の課税関係は、①役員については、「株式の譲渡制限が解除された時」において、「株式の譲渡制限が解除された時点における株式の時価」に対して給与課税、②会社については、「株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度」において、「役員に株式を交付した時点における時価」相当額が損金算入――とされることになった。ただし、これはあくまでリストリクテッド・ストックに限定した話であり、同じ株式報酬でもパフォーマンス・シェアは対象外であることが当フォーラムの取材で分かった。
リストリクテッド・ストック(Restricted Stock) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬
パフォーマンス・シェア(Performance Share) : 中長期的な“業績目標の達成度合い”に応じて交付される株式報酬
パフォーマンス・シェアの中にも譲渡制限を付けるものがあるが(経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書・別紙3「法的論点に関する解釈指針」の14ページ2(2)エ参照)、あくまでパフォーマンス・シェアである以上、上記税務上の取扱いは適用されない。パフォーマンス・シェアを得た役員への給与課税がどのようなものになるのかは明らかでないが、少なくとも会社はパフォーマンス・シェアを損金算入できないことも確認されている。
会社がパフォーマンス・シェアを損金算入できない根拠となるのが、平成28年度税制改正大綱に盛り込まれた・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
2015/12/22 パフォーマンス・シェア、日本では普及しない恐れ(会員限定)
2015年12月11日のニュース「ついに日本でも株式報酬の支給が可能に!」でもお伝えしたとおり、金銭報酬債権の現物出資スキームを使って支給する株式報酬の課税関係は、①役員については、「株式の譲渡制限が解除された時」において、「株式の譲渡制限が解除された時点における株式の時価」に対して給与課税、②会社については、「株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度」において、「役員に株式を交付した時点における時価」相当額が損金算入――とされることになった。ただし、これはあくまでリストリクテッド・ストックに限定した話であり、同じ株式報酬でもパフォーマンス・シェアは対象外であることが当フォーラムの取材で分かった。
リストリクテッド・ストック(Restricted Stock) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬
パフォーマンス・シェア(Performance Share) : 中長期的な“業績目標の達成度合い”に応じて交付される株式報酬
パフォーマンス・シェアの中にも譲渡制限を付けるものがあるが(経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書・別紙3「法的論点に関する解釈指針」の14ページ2(2)エ参照)、あくまでパフォーマンス・シェアである以上、上記税務上の取扱いは適用されない。パフォーマンス・シェアを得た役員への給与課税がどのようなものになるのかは明らかでないが、少なくとも会社はパフォーマンス・シェアを損金算入できないことも確認されている。
会社がパフォーマンス・シェアを損金算入できない根拠となるのが、平成28年度税制改正大綱に盛り込まれた「役員から受ける将来の役務の提供の対価として交付する一定の譲渡制限付株式による給与についての事前確定の届出を不要とする」との一文だ(平成28年度税制改正大綱74ページ(3)参照)。
ここでいう「一定の譲渡制限付株式による給与」とはリストリクテッド・ストックのことを指す。法人税法上、役員報酬を損金算入するためには、役員報酬が「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」のいずれかに該当する必要があるが、上記一文は要するに、「リストリクテッド・ストックは事前確定届出給与として取り扱う」ということを示している(ただし、企業の事務負担を考慮し、実際の届出は不要とされる)。事前確定届出給与とは文字通り給与額が“事前に”確定している必要がある。この点、パフォーマンス・シェアは「中長期的な業績目標の達成度合い」に応じて変動するため、事前に確定させることができない。すなわち、パフォーマンス・シェアは事前確定届出給与には該当しえないということだ。
定期同額給与 : 役員給与の支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、かつ、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
事前確定届出給与 : いつ、いくら(確定額)を支給する」旨を“事前に”確定した上で税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの
利益連動給与 : その事業年度の利益に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの
役員への(給与)課税関係が明確でないうえ、損金算入もできないとなると、パフォーマンス・シェアを導入する企業は限られるだろう。日本の株式報酬はリストリクテッド・ストックが中心となりそうだ。

