近年、社員の朝型勤務を奨励する企業は少なくない。正式な勤務時間帯(例えば9時~5時)は変えず、早朝勤務に対する割増賃金率を(夜の残業よりも)高める企業もあれば、始業時間・終業時間ともに早め、勤務時間帯そのものを朝型にシフトする企業も見受けられる。また、「サマータイム」を導入し、夏の間だけ勤務時間を朝型とした企業もある。特に今年(2015年)の夏(7月1日~8月末)は政府が「ゆう活」と銘打ち(ゆう活という名称には「夕方を活かす(家族や友人との時間を楽しむ)」という意味が込められているという)朝型勤務を推奨するキャンペーンを実施し、労使団体や企業などに働きかけを行ったことから、試験的に朝型勤務を導入した企業もあったようだ。
では、企業にとって、朝型勤務を導入するメリットとは何だろうか。よく言われるのが、「始終業時刻を繰り上げたことで労働時間が短縮できた」というものだ。確かに労働時間が短くなれば、残業代が削減され、電気使用量も減るなど、企業にとって目に見えるメリットがある。ただし、「労働時間の短縮」をもって朝型勤務の導入が成功したというのは早計だろう。
企業にとっての朝型勤務の導入メリットは、「人時(にんじ)生産性」が向上したか否かにより検証される必要がある。人時生産性とは「1人が1時間でどれだけの付加価値を生み出したか」を表わす指標であり、「付加価値(円)÷総労働時間」によって算出される。例えばある企業が年間10億円の付加価値を10万時間(=全社員の総労働時間)で生み出したとすれば、人時生産性は1万円/hということになる。
付加価値 : 「売上高(生産高)から「外部から購入した価値(原材料、外注加工費、商品仕入高、水道光熱費など、自社が売上を上げる前の段階で支払う原価)」を差し引いたもの。
政府の「ゆう活」キャンペーンを受け朝型勤務を導入した企業の中には、従業員を早く退勤させるために、業務量そのものを減らしたところもあったという話も聞こえて来る。確かに労働時間(分母)が減れば人時生産性は改善するが、業務量を減らすことで付加価値(分子)も減ってしまったというのでは本末転倒だろう。そもそも1人1人の社員の生み出す付加価値が小さくなれば現在の給与水準を維持できなくなることにもなりかねない。朝型勤務導入の効果があったかどうかは、導入前後で付加価値が変わらない(もしくは増加する)ことを前提条件とする必要がある。
日本企業においてはかねてから労働生産性の低さが課題とされているが(2015年4月24日のニュース「政府の労働時間短縮方針が企業に迫るもの」参照)、朝型勤務には、「頭がクリアな朝の方が仕事の効率が上がる」「早い時間に帰宅することで休養や家族との触れ合いに充てる時間が増え、それによって良質な労働力が再生される」など、労働生産性の改善に貢献しそうな様々なメリットがあると言われている一方で、長距離通勤者に負担を強いることになるなどの問題点も指摘されている。それだけに、朝型勤務を導入にあたっては、データによる効果の検証が欠かせないと言える。もし効果が確認できないのであれば、フレックスタイム制など、同様の効果が期待できる代替案を柔軟に検討してもよいだろう。



