2015/11/30 早朝勤務を導入する目的(会員限定)

 近年、社員の朝型勤務を奨励する企業は少なくない。正式な勤務時間帯(例えば9時~5時)は変えず、早朝勤務に対する割増賃金率を(夜の残業よりも)高める企業もあれば、始業時間・終業時間ともに早め、勤務時間帯そのものを朝型にシフトする企業も見受けられる。また、「サマータイム」を導入し、夏の間だけ勤務時間を朝型とした企業もある。特に今年(2015年)の夏(7月1日~8月末)は政府が「ゆう活」と銘打ち(ゆう活という名称には「夕方を活かす(家族や友人との時間を楽しむ)」という意味が込められているという)朝型勤務を推奨するキャンペーンを実施し、労使団体や企業などに働きかけを行ったことから、試験的に朝型勤務を導入した企業もあったようだ。

 では、企業にとって、朝型勤務を導入するメリットとは何だろうか。よく言われるのが、「始終業時刻を繰り上げたことで労働時間が短縮できた」というものだ。確かに労働時間が短くなれば、残業代が削減され、電気使用量も減るなど、企業にとって目に見えるメリットがある。ただし、「労働時間の短縮」をもって朝型勤務の導入が成功したというのは早計だろう。

 企業にとっての朝型勤務の導入メリットは、「人時(にんじ)生産性」が向上したか否かにより検証される必要がある。人時生産性とは「1人が1時間でどれだけの付加価値を生み出したか」を表わす指標であり、「付加価値(円)÷総労働時間」によって算出される。例えばある企業が年間10億円の付加価値を10万時間(=全社員の総労働時間)で生み出したとすれば、人時生産性は1万円/hということになる。

付加価値 : 「売上高(生産高)から「外部から購入した価値(原材料、外注加工費、商品仕入高、水道光熱費など、自社が売上を上げる前の段階で支払う原価)」を差し引いたもの。

 政府の「ゆう活」キャンペーンを受け朝型勤務を導入した企業の中には、従業員を早く退勤させるために、業務量そのものを減らしたところもあったという話も聞こえて来る。確かに労働時間(分母)が減れば人時生産性は改善するが、業務量を減らすことで付加価値(分子)も減ってしまったというのでは本末転倒だろう。そもそも1人1人の社員の生み出す付加価値が小さくなれば現在の給与水準を維持できなくなることにもなりかねない。朝型勤務導入の効果があったかどうかは、導入前後で付加価値が変わらない(もしくは増加する)ことを前提条件とする必要がある。

 日本企業においてはかねてから労働生産性の低さが課題とされているが(2015年4月24日のニュース「政府の労働時間短縮方針が企業に迫るもの」参照)、朝型勤務には、「頭がクリアな朝の方が仕事の効率が上がる」「早い時間に帰宅することで休養や家族との触れ合いに充てる時間が増え、それによって良質な労働力が再生される」など、労働生産性の改善に貢献しそうな様々なメリットがあると言われている一方で、長距離通勤者に負担を強いることになるなどの問題点も指摘されている。それだけに、朝型勤務を導入にあたっては、データによる効果の検証が欠かせないと言える。もし効果が確認できないのであれば、フレックスタイム制など、同様の効果が期待できる代替案を柔軟に検討してもよいだろう。

2015/11/27 機関投資家の株主総会出席が当たり前の時代へ

 上場会社の「実質株主」として大きな影響力を持つ機関投資家だが、株主総会の場で自ら議決権行使をすることはできない。会社法上は、株主が代理人を株主総会に出席させたうえで議決権を行使させることが認められているものの(会社法310条1項)、多くの上場会社では、代理人を「株主」に限定する定款規定を置いているからだ。この場合の「株主」とは、機関投資家の株式を名義上保有する信託銀行等ということになる。

 もっとも、多くの株式を保有する機関投資家が投資先企業のすべての株主総会に出席することは元々困難と言える。そこで機関投資家は、書面等による議決権行使を通じて上場会社に自らの“意思”を伝えてきたところだが、最近は株主総会に出席することにより企業との対話を促進させたいと考える機関投資家が増えている。こうした中、コーポレートガバナンス・コードには、「信託銀行等の名義株式を保有する機関投資家等が株主総会で自ら議決権行使を希望する場合に対応するため、上場会社は信託銀行等と協議しつつ検討を行うべきである」との原則が盛り込まれ(補充原則1-2⑤)、さらに今年(2015年)6月30日に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2015」にも「関係団体等においてガイダンスを本年末までに策定することを促す」旨が明記された。

 これを受け、東京証券取引所に上場している会社の株式事務担当者が集まる東京株式懇話会(株懇)が中心となり、名義上の株式を保有していない機関投資家の株主総会での議決権行使について検討を行っていたところだが(2015年10月23日のニュース「場の空気が一変?機関投資家が株主総会で議決権行使も」参照)、 このほど全国株懇連合会は「グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン」を取りまとめ、機関投資家が、代理人を名義上の「株主」に限定するとの定款規定を置いている上場会社の株主総会に出席するための方法をいくつか示している。

 その中で「法的安定性が高い」と評価されているのが、・・・

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2015/11/27 機関投資家の株主総会出席が当たり前の時代へ(会員限定)

 上場会社の「実質株主」として大きな影響力を持つ機関投資家だが、株主総会の場で自ら議決権行使をすることはできない。会社法上は、株主が代理人を株主総会に出席させたうえで議決権を行使させることが認められているものの(会社法310条1項)、多くの上場会社では、代理人を「株主」に限定する定款規定を置いているからだ。この場合の「株主」とは、機関投資家の株式を名義上保有する信託銀行等ということになる。

 もっとも、多くの株式を保有する機関投資家が投資先企業のすべての株主総会に出席することは元々困難と言える。そこで機関投資家は、書面等による議決権行使を通じて上場会社に自らの“意思”を伝えてきたところだが、最近は株主総会に出席することにより企業との対話を促進させたいと考える機関投資家が増えている。こうした中、コーポレートガバナンス・コードには、「信託銀行等の名義株式を保有する機関投資家等が株主総会で自ら議決権行使を希望する場合に対応するため、上場会社は信託銀行等と協議しつつ検討を行うべきである」との原則が盛り込まれ(補充原則1-2⑤)、さらに今年(2015年)6月30日に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2015」にも「関係団体等においてガイダンスを本年末までに策定することを促す」旨が明記された。

 これを受け、東京証券取引所に上場している会社の株式事務担当者が集まる東京株式懇話会(株懇)が中心となり、名義上の株式を保有していない機関投資家の株主総会での議決権行使について検討を行っていたところだが(2015年10月23日のニュース「場の空気が一変?機関投資家が株主総会で議決権行使も」参照)、 このほど全国株懇連合会は「グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン」を取りまとめ、機関投資家が、代理人を名義上の「株主」に限定するとの定款規定を置いている上場会社の株主総会に出席するための方法をいくつか示している。

 その中で「法的安定性が高い」と評価されているのが、機関投資家が株主総会の基準日時点で1単元以上の株式の所有者となり、名義株式に関する「代理権」を得て株主総会に出席する方法だ。この方法であれば、代理人資格を「名義株主であること」に限定する定款規定の下でも代理人になれることは明らか。今後、機関投資家を株主総会に出席させるための最もポピュラーな方法となりそうだ。

 会社によっては、機関投資家がわざわざ名義上の株主にならなくても 株主総会への出席を認めたいというところもあろう。上述のとおり、会社法上は、株主が代理人を株主総会に出席させ、議決権を行使させることが認められているため、あとは代理人を「株主」に限定する定款規定を会社が変更しさえすれば、 これも可能となる。

 また、株主総会を単に傍聴したいという機関投資家もいるだろう。つまり、議決権行使が目的ではなく、実際の株主総会の状況を把握したいというケースだ(あくまで「傍聴」である以上、株主総会の議場での議決権行使や質問等の株主権行使は不可)。これも、会社と機関投資家の調整次第で可能。傍聴を認めるかどうかは会社の裁量に委ねられる。もし傍聴を断るのであれば、機関投資家を納得させる合理的な理由が必要になろう。会社側はどのようなケースであれば傍聴を認めるか、事前に整理しておく必要がありそうだ。

2015/11/26 (新用語・難解用語)Mx

 従来の「Mr(ミスター)」「Ms(ミズ)」「Mrs(ミセス)」「Miss(ミス)」に代わり、性別を問わず使うことができる敬称。「ミクス」と読む。LGBTなど、性別を明確にしたくない人や、自分は男性でも女性でもないと感じている人が利用する。「Mx」という表記は、xに「不明」という意味があることに由来する。今年(2015年)8月には世界的に有名なオックスフォード英語辞典にこの「Mx」が追加された。欧米では実際に役所や大手銀行の手続きで「Mx」が使われ始めており、今後は一般企業にも広がっていくことが予想される。いずれは日本社会・日本企業でも利用の可否が検討される時が来るであろう。

LGBT : レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)を総称する造語。近年、ダイバーシティの文脈の中で、ビジネスシーンにおいても使われる機会が増えている。

 欧米企業では、CSR(企業の社会的責任)や「幅広い顧客ニーズをとらえる」といったビジネス上のニーズから役職員のダイバーシティ(多様性)が推進されており、その一環としてLGBTへの取組みも進んでいる。最近は、・・・

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2015/11/26 (新用語・難解用語)Mx(会員限定)

 従来の「Mr(ミスター)」「Ms(ミス)」「Mrs(ミセス)」「Miss(ミス)」に代わり、性別を問わず使うことができる敬称。「ミクス」と読む。LGBTなど、性別を明確にしたくない人や、自分は男性でも女性でもないと感じている人が利用する。「Mx」という表記は、xに「不明」という意味があることに由来する。今年(2015年)8月には世界的に有名なオックスフォード英語辞典にこの「Mx」が追加された。欧米では実際に役所や大手銀行の手続きで「Mx」が使われ始めており、今後は一般企業にも広がっていくことが予想される。いずれは日本社会・日本企業でも利用の可否が検討される時が来るであろう。

LGBT : レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)を総称する造語。近年、ダイバーシティの文脈の中で、ビジネスシーンにおいても使われる機会が増えている。

 欧米企業では、CSR(企業の社会的責任)や「幅広い顧客ニーズをとらえる」といったビジネス上のニーズから役職員のダイバーシティ(多様性)が推進されており、その一環としてLGBTへの取組みも進んでいる。最近は、LGBTへの取組みが遅れることにより企業イメージが毀損することへの懸念が意識されつつあるほどだ。

 企業のエグゼクティブが参加してLGBT問題に取組む団体「OUTstanding in business」が発表した2015年LGBTエグゼクティブ・トップ100には、ロイズ保険組合、HSBC、IBM、BP、EY、バーバリー、JPモルガンチェースなど、著名企業・団体の経営幹部の名前が並ぶ。ここに掲載されているエグゼクティブは自らLGBTであることを公表しており、このランキングは、彼or彼女らをLGBTの“ロールモデル”として位置付け、LGBTの受入れ促進への取組などを評価し、順位付けしたものである。

 日本企業の経営幹部にとってはまだまだ「違う世界の話」という感覚かもしれないが、日本国内はさておき、海外事業展開の活発化に伴い、今後海外子会社でLGBT問題に直面することは十分あり得るだろう。その一方で、国によっては、法律により同性愛を禁止していたり(例えばシンガポール)、あるいは慣習や宗教的背景によりLGBTに対し厳しい目が向けられたりするケースが少なくない。したがって、企業は単に時流に乗ってLGBTの受入れを促進すればよいということにはならない。その国の法律や慣習等を踏まえ国によって取組み方を変えるなど、柔軟なLGBT対応が求められることになりそうだ。

2015/11/25 【失敗学第18回】マツモトキヨシホールディングスの事例(会員限定)

概要

 マツモトキヨシホールディングスの連結子会社であったイタヤマ・メディコ(山梨県甲府市を中心にドラッグストア事業を展開)が、営業損失発生の事実を隠ぺいするため、商品在庫の金額を約4億円水増ししていた。

経緯

 マツモトキヨシホールディングスが、2015年11月に子会社のイタヤマ・メディコの在庫水増しに関する調査報告書を公表するまでの経緯につき、時系列で示すと、次のとおり。

<2003年>
2月:マツモトキヨシホールディングスの連結子会社であるマツモトキヨシがイタヤマ・メディコと業務提携に関する基本合意を締結。
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3月:イタヤマ・メディコの社長は、金融機関からの融資を継続させるために決算書上の数値をよく見せることを目的として、部下に指示して、商品在庫の棚卸金額を水増しして計上する不正な会計処理を行った。同社ではこれ以降、毎月継続して商品在庫の金額を改ざんすることになる。

<2007年>
9月:マツモトキヨシがイタヤマ・メディコとフランチャイズ契約を締結。

<2012年>
2月:マツモトキヨシホールディングスがイタヤマ・メディコの全株式を取得し、100%連結子会社にした。
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イタヤマ・メディコは、完全子会社化に伴い、金融機関からの借り入れをすべて返済した。これにより、イタヤマ・メディコの社長は、もはや「金融機関からの融資の継続」に気を配る必要がなくなったものの、商品在庫の金額を「水増しした額」から「正しい額」に修正すると多額の損失が発生してしまうことから、在庫金額の改ざんを止めることができなかった。

<2015年>
10月1日:イタヤマ・メディコがマツモトキヨシホールディングスの連結子会社であるマツモトキヨシ甲信越販売に吸収合併される。
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吸収合併の過程で会計帳簿上の在庫金額と実地棚卸後の在庫金額に多額(約4億円)の差異があることが判明した。
10月15日:マツモトキヨシホールディングスが調査委員会を設置(リリースはこちら)。
10月31日:イタヤマ・メディコの元社長(本不正事件の主導者)が自主退職。
11月11日:本不正事件に従属的な立場で関与していた他1名の当事者を降格処分。

内容・原因・改善策

 マツモトキヨシホールディングスが2015年11月に公表した調査委員会の調査報告書によると、本件の問題点の内容とその原因と改善策は次のとおりである。

イタヤマ・メディコでの在庫水増し

内容 イタヤマ・メディコで長年にわたり在庫の水増しが行われていた。
原因 ・イタヤマ・メディコでは棚卸データに関するすべての権限が社長に集中しており、社長は誰にも監視されることなく商品在庫の金額を操作できた。
・イタヤマ・メディコの経理事務担当者は、受け取った在庫金額を会計システムに入力するのが職務とされていた。そのため、経理事務担当者は在庫金額が改竄されている旨の認識を持ちようがなかった。
・イタヤマ・メディコからマツモトキヨシホールディングスに送付される月次レポートには損益のみ記載されており、商品在庫やその他の資産・負債に関しては記載されていなかった。もっとも、四半期決算月の翌月である4月度、7月度、10月度、1月度の取締役会では、損益だけでなく、資産・負債も含めた決算報告がなされており、親会社の取締役会に出席していた取締役・監査役はイタヤマ・メディコの商品在庫額を目にする機会があった。その際、親会社の取締役・監査役はイタヤマ・メディコの商品在庫額が過剰であり減らすべきといった指摘を複数回行ってはいたものの、在庫額の不正を疑うことはなかった。
・子会社化の際の財務DD(デュー・デリジェンス)では在庫金額が水増しされた後の資料を前提にして調査が行われており、実地棚卸は実施しておらず、不正な会計操作を発見できなかった。
・マツモトキヨシホールディングスでは、金融商品取引法で求められる内部統制評価の対象会社として、決算・財務報告プロセスについては売上高が上位95%に入る子会社を、また業務プロセスについては売上高が上位66.7%に入る子会社をそれぞれ選定しているが、イタヤマ・メディコは売上高が相対的に僅少であることから、いずれのプロセスにおいても内部統制の評価対象会社に選定されなかった。そのため、イタヤマ・メディコの在庫計上プロセスに対して内部統制評価を行う機会はなかった。
改善策 ・DD時の改善策の実施
(1) 可能な限りDD時に棚卸資産、固定資産の実地棚卸を要請・実施し、差異が発覚した場合は、速やかに買収条件等に反映できるようにする。
(2) 入札形式などの事案において、DDの範囲に制限がある場合は、最終契約締結後、速やかに実地棚卸を実施し、事後的に買収価額の調整等を行なう。
(3) 買収後に会計不正などが発覚する場合に備えて、株式の売り手に対して事後的に損害賠償や補填などを請求できるよう、株式の売り手による保証を得るようにする。
(4)  買収対象企業の状況に応じて、法務・財務・税務以外のDD(例:ITなど)を行うことも検討する。
(5)  DD時に精査すべき項目を取りまとめておき、その項目についてはDDを担う第三者機関へ必ず調査するよう依頼するとともに、DD結果について当社関連部署で精査し、買収の担当部署が精査結果を取りまとめ、DDの適正性を判断し、買収条件への反映を検討する。
PMIの改善策の実施
買収先の実態を早期に把握できるよう、買収後速やかに基幹システムおよび会計システムを統合するとともに、親会社が経理業務を受託するようにする。
・子会社幹部のコンプライアンス意識の確立
・内部通報制度の周知徹底
<この失敗から学ぶべきこと>

 在庫水増しの不正は、在庫を有する業態であれば、業種を問わず発生するリスクがあります。特に業績が傾きだした企業では、在庫水増しの不正リスクが高まります。在庫を水増しすれば、その分だけ営業利益が向上し、業績の低下を隠ぺいできるからです。営業利益の低迷に悩む企業にとっては“魅力的”な不正手法の代表格と言えるでしょう。在庫水増しの不正は、外部監査を受けていなかったり内部統制が不十分であったりすると発見されにくいことから、余計“魅力的”に映るのかもしれません。在庫金額は、複数の店舗・事業所・工場の在庫を積み上げて会社の在庫として集計する過程で様々なデータ操作が必要になることから、残高証明書という外部証憑で実在性の確認が容易な預金や上場株式と異なり、実在性を確認しづらいものなのです。
 在庫水増しの不正は、循環取引、実地棚卸時の数量の水増し、価格マスターの改ざん、売価還元法による還元率の操作など数量面の不正と価格面の不正、その組み合わせなどバリエーションが豊富な点が特徴です(ケーススタディ「在庫の増減が目に付く」の「在庫の過大計上による粉飾、上場会社の実例を紹介」を参照)。したがって、取締役はさまざまなリスクを想定して在庫関連の内部統制を構築すべきです。
 今回のイタヤマ・メディコのケースは、在庫システムと会計システムが自動連携されていないこと、内部牽制が働いていないことを利用した子会社社長の指示による不正(経営者不正)でした。親会社としては、買収後すぐにイタヤマ・メディコの業務フロー・内部統制をグループ会社共通のレベル・内容に構築(業務プロセスの共通化)し、基幹システムと経理システムの統合を図るべきだったと言えるでしょう。

2015/11/25 追徴課税に対する取締役の責任

 大手企業による税金(主に法人税)の申告漏れのニュースをしばしば新聞報道で見かけるが(多くの場合、社会面(スキャンダルとしての扱い)で取り上げられていることも興味深い)、大手企業ともなれば、追徴課税額が天文学的な数字となることが少なくない。十億円単位は当たり前、百億円超えも決して珍しくない。売上増加や経費の圧縮によってこれだけのキャッシュを残す難しさを考えても、追徴課税を受けることによる企業のダメージは大きい。

追徴課税 : 申告漏れや脱税などの理由により、会社が本来納めるべき税金の全部または一部を納めていなかったことが税務調査などにより発覚した場合に、追加で課税を受けること。

 そこで浮上するのが、追徴課税を受けたことに対する経営責任だ。巨額の追徴課税を受けるリスクがあれば、税務申告を所管する取締役は税務申告に先立ち、追徴課税のリスクが現実となる可能性について検討を行うのが通常であり、他の取締役もその判断が適正であるか監督しなければならない。その結果として巨額の追徴課税を受けたとなると、取締役の責任が問われてもおかしくないようにも思える。

 ただ、過去の裁判例を調べると、取締役(監査役のケースもある)の責任が認められたケースは多くない。例えば・・・

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2015/11/25 追徴課税に対する取締役の責任(会員限定)

 大手企業による税金(主に法人税)の申告漏れのニュースをしばしば新聞報道で見かけるが(多くの場合、社会面(スキャンダルとしての扱い)で取り上げられていることも興味深い)、大手企業ともなれば、追徴課税額が天文学的な数字となることが少なくない。十億円単位は当たり前、百億円超えも決して珍しくない。売上増加や経費の圧縮によってこれだけのキャッシュを残す難しさを考えても、追徴課税を受けることによる企業のダメージは大きい。

追徴課税 : 申告漏れや脱税などの理由により、会社が本来納めるべき税金の全部または一部を納めていなかったことが税務調査などにより発覚した場合に、追加で課税を受けること。

 そこで浮上するのが、追徴課税を受けたことに対する経営責任だ。巨額の追徴課税を受けるリスクがあれば、税務申告を所管する取締役は税務申告に先立ち、追徴課税のリスクが現実となる可能性について検討を行うのが通常であり、他の取締役もその判断が適正であるか監督しなければならない。その結果として巨額の追徴課税を受けたとなると、取締役の責任が問われてもおかしくないようにも思える。

 ただ、過去の裁判例を調べると、取締役(監査役のケースもある)の責任が認められたケースは多くない。例えば三菱石油の事例では、いわゆる政商に提供した資金を同社が「必要経費」として税務申告したところ、税務当局から「交際費に当たる」との指摘を受け、約27億6000万円の追徴課税が行われたが、裁判所は「税務申告をするに当たって、税法に従って適正に申告し、追徴課税等を避けて、納税額を最低限にとどめるように取締役が留意すべきことは一般論として当然なこと」としつつも、「税務申告において、所得を算定するに当たって、特定の支出が収入から控除されるべき費用に当たるかどうかについて、税務当局と申告者との間で判断を異にする場合があることは、必ずしも少なくなく、追徴課税がされたということから直ちに取締役に責めに帰すべき事由があるとは断定できない」と判断、追徴税額について取締役の善管注意義務違反、忠実義務違反義務違反を認めなかった(平成11年(ワ)第4098号 損害賠償請求事件(三菱石油株主代表訴訟)、東京地方裁判所民事第8部 平成13年7月26日判決言渡)。

 また、住友金属(当時)が環境プラント工事受注のための地元対策費に費やした34億円の裏金の使途を明らかにしなかったところ、大阪国税局に当該金額を「使途秘匿金」と認定され、約33億円の税負担が発生した事例では、被告14名が会社に対し、「使途秘匿金事件等コンプライアンス検証・提言委員会」の運営費用として2億3,000万円を支払うことで和解している(平成22年3月30日大阪地方裁判所第4民事部)。

使途秘匿金 : 支出先を含む支出の事実が立証できない金銭のこと。使途秘匿金に該当すると、その全額が損金不算入となるだけでなく、通常の法人税に加え、支出額の40%の追加課税が行われ、地方税の負担を合わせると、支出額とほぼ同額の税金が課されることになる。支出目的は明らかにできないまでも、支出額や支出先など「金銭の支出」の事実が立証できる「使途不明金」とは区別される(使途不明金であれば、単にその全額が「損金不算入」となるだけで済む)。

 一方、取締役の責任が認定された事例としては、従業員が架空又は水増しの発注を行って、総額約6,000万円の裏金を作り追徴課税された事件における株主代表訴訟事件で、「従業員による不正行為及び不正行為による危険を管理するシステムを構築しなかった」として取締役の監督義務違反が認定されている(平成11年3月4日東京地裁判決)。また、多額の債務を抱えていたF1エンジン開発を行う自動車部品メーカー「無限」の監査役が、社長から財務状況の改善の要望を受け、架空経費を計上するなど違法な会計処理を行う計画を立案し、経理担当者に指示して実行させたところ、東京地裁は、脱税事件で重加算税延滞税の支払いを余儀なくされたとして、元監査役に6億6千万円の支払いを命じている(東京地裁 2012年1月16日判決)。

重加算税 : 仮装や隠ぺい行為があったと税務署に認定された場合に課される懲罰的な税金
延滞税 : 税金が定められた期限までに納付されない場合に課される「利息」に相当する税金。延滞税はその時の金利水準によって変動するが、増差税額に対して「本来の納付期限~2か月」までは約3%、「2か月経過後」は約9%を乗じた金額となっている。

 このように、取締役の責任が認められた事案は、基本的に「脱税案件」に限定されている。そう考えると、追徴課税を受けたことで取締役が会社への責任を追及されることはあまりないと思われるが、冒頭で触れたとおり、近年は追徴税額が巨額化する傾向にあるとともに、株主の権利意識も高まっているだけに、油断は禁物。税務リスクの判断においても、経営判断の原則をしっかり順守しておきたいところだ。

2015/11/25 【2015年11月の課題】大手機関投資家の投資を呼び込むための手立て

2015年11月の課題

 黒田電気に対し“村上ファンド”(C&Iホールディングス)が社外取締役就任を提案した一件(こちらを参照)を見て、「明日は我が身」と思った中堅上場企業の役員も少なくないのではないでしょうか。黒田電気のケースでは、大手議決権行使助言会社のISSが議案への賛成を推奨したものの、大手機関投資家が反対に回ったため、村上ファンドの提案は否決されました。黒田電気は、中小型株ファンドを通じて機関投資家の投資を受けていましたが、本件は、優良な大手機関投資家から投資を受けることの意義を改めて感じさせました。ただ、大手機関投資家は時価総額が1,000億円程度以下の会社を投資対象外としていることが多く、実際のところ、中堅企業が大手機関投資家から投資を受けるのは容易ではありません。

 大手機関投資家の投資を呼び込むため、役員としてはどのような対策をとるべきでしょうか?

 貴方の考えを述べてください。

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